ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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193『棟区 秋水、お巡りさんに補導されんだって』

 酷い目に遭った。

 諸々の手続きを済ませ、ようやくダンジョンのセーフエリアへと帰ってきた秋水は、コートも脱がずにそのままどかりと座布団へ腰を下ろした。

 

「はぁぁぁ……」

 

 座ったと同時に口から押し出されたのは、特大の溜息である。

 いやもう、本日は散々なスタートだ。

 筋トレで上がったテンションは全て消し飛び、むしろマイナスを叩き出している。

 ちらりと時計を確認した。

 時刻は5時過ぎ。

 一応は、まだ未明である。

 不本意ながら顔見知りに近い感じのお巡りさんに、ちょっとキミぃ、という感じで呼び止められたのは午前4時より前のことだったはずだ。

 確か、3時30分とか40分とかくらいだっただろうか。

 1時間以上は無駄にしてしまった。

 テンション下がる。

 秋水はもう一度デカい溜息とともに、がくり、と肩を落とした。

 

「……いや、悪いのは俺なんだけどさ」

 

 ぽりぽり頭を掻きながら、秋水はもそもそとリュックを下ろし、着ていたコートを脱ぎ始める。

 そうなのだ。

 散々な目に遭ったのだが、では誰が悪いかと問われたら、自分が悪い、と言わざるを得ない。

 

 午前4時前は、未成年が出歩いてはいけない時間だ。

 

 そんなド深夜にぷらぷら歩いていた秋水は、普通にお巡りさんに見つかった。

 そして、補導されたのだ。

 誰が悪い?

 俺が悪い。

 以上だ。

 その事実に秋水のテンションがもう一段階下がった。

 

「いやー、悪いことはバレるもんだな」

 

 はぁ、と三度目は軽い溜息をつきながら、秋水は立ち上がって普通に着替え始める。

 気を取り直そう。

 やっちまったもんは仕方がない。

 とりあえずは、あれだ。

 シャワーも浴びずに不貞寝しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、つまり、こんな時間にジムに行こう、と……?」

 

 午前4時よりも前、つまり補導対象の時間にぷらぷら歩いていたのが見つかった秋水の、その外出理由を尋ね終わったお巡りさんは、なんとも呆れたように表情を引き攣らせていた。

 気が合うのかもしれない、秋水の表情も同じく引き攣っている。

 ついでに青褪めてもいる。

 ジムからの帰り道、何度か職務質問をしてくれた嫌な意味で顔なじみに近いお巡りさんに見つかってしまった秋水は、ばっちり補導を喰らっていた。

 場所はお巡りさんの根城、交番だ。

 悲しいことに、秋水は交番までドナドナされてしまったのである。

 なんてこった。

 いつもの職務質問とは違う。

 ガチの「ちょっと署までおいで頂こうか」案件である。交番のことを署と呼んで良いかどうかは知らないが。というか、職務質問の枕詞に、いつもの、とつけたくないのだが。

 そして本人確認を省略され、がっつりと事情聴取と所持品のチェックを受けたのである。

 事務用の無骨なテーブルを挟んで向かいにいるお巡りさんの手には、秋水がジムの行き来で使用しているリュックサック。

 そしてテーブルの上には、トレーニンググローブやタオルなど数点が並べられていた。

 夜明け前のこんな時間に、なんで外出していたの、という質問に対して、ジムで筋トレをしに行ってました、という秋水の返答に説得力を持たせてくれるラインナップである。

 良かった、これでリュックサックの中にバールとか、まして剣鉈や片手斧が入っていたら言い訳の「い」の字も並べる隙は無かったであろう。

 

「申し訳ありません」

 

「早寝早起きは良いことだけど、流石にこの時間のジムに行くのは褒められないなぁ」

 

 引き攣った表情のまま並べる隙のあった言い訳を述べる秋水に、うーん、とお巡りさんは腕を組んで唸ってしまった。

 嘘である。

 ごめん。

 一応弁明すれば、秋水は意図して嘘をついたわけではない。

 勘違いだ。

 

 このお巡りさん、秋水がジムに “行くために” 外出したと思っているのである。

 

 そんな勘違いをされているのを察しながら、秋水はそれに全力で乗っかっていたのである。

 故に、秋水の表情は引き攣っていた。

 

「一応よしみでぶっちゃけると、もう30分出発を待ってくれてたら、職務質問程度ですんでいたんだからね」

 

「……申し訳ありません」

 

 職務質問は本来、程度、ですまない社会的ダメージなんだけど。

 頭に浮かんだ言葉を飲み込みながら、秋水は頭を下げて素直に謝った。

 出発を30分遅らせたら、そちらの方が補導対象なんだけど、というツッコミも墓穴を掘る発言になるので、そっと胸にしまっておく。

 そうである。

 

 秋水は、ジムからの帰り道で、お巡りさんに捕まったのだ。

 

 行き道ではない。

 

 秋水が歩いていた進行方向で気がつかれるかと思ったが、どうやらこのお巡りさん、ジムがどの方面にあるのかはいまいち分かっていなかったみたいだ。

 そして、ポーションを入れていたペットボトルも空だったのだが、ジムで給水するための空ボトルだと思ったようである。

 何か勘違いをされている。

 しかし、秋水はそれを訂正したりはしなかった。

 だって、本来は24時間ジムというのも、深夜は未成年の利用NGなのである。

 それを平然と破り、秋水は深夜のジムで筋トレに励んでいたのだ。

 なお、地味に美寧も同罪である。

 

「で、これ、学校にも連絡しなくちゃならないんだよなぁ……」

 

「そうでしょうね」

 

「でもなー、高校受験目前の子にこういう連絡するの、こっちとしても心が痛むんだよ」

 

「お気持ちはお察しします」

 

「棟区少年は察するんじゃない! 俺の良心に塩塗ってくるな!」

 

 お巡りさんが頭を抱えてしまった。

 気が合うのかもしれない。秋水も頭を抱えたい気分だ。

 今回の補導に関して、学校側に情報共有のために連絡をされるであろうことは、このお巡りさんに呼び止められた時点で察していたのである。

 

 秋水は、何度も職務質問を受けた経験がある。

 何か悪いことをしたわけでない。

 あえて言うなら、秋水の人相が悪かったのである。

 縦にデカくて横に広くて奥行きが分厚い、ガタイ良し人相悪し威圧感良好といったその外見のせいで、怪しい奴扱いされてお巡りさんに呼び止められたのは、悲しいことに1回や2回ではない。

 つまり、警察官と何度も関わっている。

 直接的な非行はなくとも、記録上はそうなのだ。

 そして今回は、ただの怪しい奴への職務質問とはワケが違う。

 補導である。

 条例違反の深夜徘徊で、ばっちりガッツリみっちり補導である。

 

 身体的に目立ち、過去に何度も職務質問を受け、深夜の3時台に単独行動をしていた中学生。

 

 字面だけ見れば、周囲に悪影響待ったなしの非行少年だ。

 諸々を総合して考えれば、学校への連絡は致し方なし、である。

 ましてや高校受験を目前に控え、ピリピリしているであろう中学3年生だ。この情報を学校側と共有しなければ、警察は保護者の面々からフルボッコで殴られることは想像に難くない。

 割と真面目に秋水はお巡りさんの心中をお察しした。

 したら、なんか逆に怒られてしまった。

 お巡りさんも夜勤で気がささくれているのだろうか。

 

「これまた忠告しておくけど、ここで補導されるの、棟区少年の高校受験にゃ絶対マイナスだからね?」

 

「面接での印象はだいたいマイナスですので、ご心配なさらなくても大丈夫です」

 

「大丈夫じゃない上に全然ご心配だよ!?」

 

 はは、と乾いた笑いと共に、場を和ませようとジョークを挟んでみたものの、何故か更に怒られてしまった。

 

「はぁ……本当に頼むから、次は捕まらないように……じゃない、深夜に外出はしないように」

 

「はい、努力します」

 

「努力じゃなくて、やめろと言ってるんだ分かって?」

 

「はい」

 

「本当に分かってるぅ……? いや、まあ、とりあえず保護者に連絡しなきゃなんだけど……」

 

 器用にくるくると右手でボールペンを回しながら、うーん、とお巡りさんは少し考え込んでしまった。

 相変わらず、秋水の顔は引き攣っている。

 そう、連絡する先は学校だけではない。

 未成年の条例違反で補導されている以上、保護者への連絡は必須である。

 保護者への連絡。

 鎬への連絡である。

 月曜日、つまり明日、未知の元素が検出されてしまった白銀のアンクレットの取り扱いについて、政府の方々との話し合いが控えている鎬への連絡だ。

 タイミング、最悪。

 正直なところ、秋水は自分自身の期末試験が明日に控えているだとか、高校受験に影響が出るだとか、そういうのはどうでもいい。

 ただ、鎬に負担を掛け、悪影響を与えてしまうのが、イヤなのだ。

 

 だってほら、これから一生ネタにされ、擦られ続ける可能性があるし。

 

 心配掛けるとか怒られるとか夜中に迷惑掛けるとか、そういうことではなく、話のネタになるような弱みを握られるのが、イヤなのだ。

 連絡されたくないなぁ、と内心で思うも、これは身から出たサビだと諦めるしかない。

 でも、イヤだなぁ。

 なお、午前4時とかいう時間に電話して叩き起こすことについては、特に心配していなかった。

 

「……棟区少年、記憶違いだったら洒落にならないから確認しておくけれど、キミの今の保護者って、叔母さん、だったね?」

 

 考え事で黙っていたお巡りさんが、ようやく口を開いた。

 その言葉はどこか、秋水を気遣うような色が含まれている。

 然程広くない、と言うか狭い交番の中に、ひんやりとした空気が流れたような気がする。

 

「……そうですね」

 

「…………だよな」

 

 そしてまた、お巡りさんは沈黙した。

 彼には、何度か職務質問をされた経験がある。

 最初はモロに反社的な奴だと勘違いされて。

 次は一般市民という善意の協力者からの通報によって。

 そして直近だと、巨大バールという一見すればただの凶器をリュックサックに括り付けて自転車に乗っていたから。

 故に、本人確認は何度もされている。

 だから、秋水が置かれている家庭環境も、ちゃんと把握していた。

 もしくは単純に、地域課の警察官として、あの交通事故に、関わっていたからかもしれない。

 秋水は沈黙した。

 

 いや、待てよ?

 

 このお巡りさんじゃなければ、そもそも補導されなかったんじゃないのか?

 

 そんな予想が脳裏にひょっこりと顔を出してきたので、秋水は沈黙した。

 このお巡りさんは、秋水の家庭環境をよく知っている。

 職務質問によって、秋水のことをよく知っているからだ。

 そして、秋水が中学生であるということも、よく知っている。

 

 身長が190㎝近くある大柄の秋水が、未成年だ、と見ただけで判別できるくらいには、よく知っているのだ。

 

 秋水はその見た目から、大人だと間違われることが多い。

 このお巡りさんもまた、最初の職務質問で秋水の年齢を知ったとき、嘘だろ、と大いに驚いていたものだ。

 で、あるならば、仮に別のお巡りさんが秋水を深夜に見かけたとしても、ぱっと見では大人が歩いているようにしか思われないはずだ。

 秋水のことを、よく知らなければ。

 秋水のことをよく知っているからこそ、中学生がなんて時間に出歩いているんだ、とこのお巡りさんは秋水を呼び止めたのだ。

 

 なるほど、運が悪い。

 

 がっくりである。

 顔見知り、だからこそ捕まって補導されている。

 いや夜中に出歩いている自分が悪いのは分かっているが、とほほ、という気分がどうしても出てきてしまう。

 そして、それに関連して、別のことが思いつく。

 繰り返すが、秋水はその見た目から、大人だと間違われることが多い。

 実際、渡巻 律歌には社会人の大人だと思われていた。

 その誤解は、紗綾音を通して解消した。

 そしてもう1人、錦地 美寧にも社会人の大人だと思われている。

 こちらは現在進行形で誤解されている。

 そのことを芋づる式に思い出して、あ、と大声が出そうになるのを堪えた。

 

 明日から期末試験だという話になったとき、自分は中学生だと明かす絶好のタイミングだったんじゃないのか?

 

 スルーしてしまった。

 最良のタイミングだったのを、最悪のタイミングの時に思い出す。

 これは凹む。

 地味に凹む。

 正直、大人に見られることによる実害はほとんどなく、むしろ生活する分にはメリットが多くあるものだから、年齢を上に見られるという誤解を秋水は軽く考えてしまう節がある。

 つまり、ぶっちゃけ忘れてた。

 言えば良かったなぁ、と秋水は遠い目をして、ふふ、と乾いた笑いを漏らしてしまった。

 そんな秋水を、お巡りさんが凄く心配そうに見つめていた。

 

 

 

「………………悪いが、その、棟区少年、キミの境遇には、その、なんだ、俺にもまあ、思うところは―――いや、キミの境遇をどこまで俺が理解できているのか、正直に言って自信がない」

 

 

 

「え?」

 

「だが、ルールには則らせてもらう。キミは間違いなく、ルールの中に生きているんだ」

 

 そんなお巡りさんが、なんか急に言い出した

 秋水を労るような、もしくはどこか悲しそうな、そんな目線である。

 対する秋水は、急に始まった話に首を傾げていた。

 

「キミは生きている。ルールのある社会に足をつけて、生きているから、生きなきゃいけない」

 

「えっと……」

 

「深夜に出歩くのは危ないことなんだ。危険な目に遭う可能性が高いことなんだ。危ないことはしちゃ駄目だ。悪いことなんだから。だから深夜に出歩くのはいけない、と言われているんだよ」

 

「……はい」

 

「キミの叔母さんには必ず連絡する。それは絶対だ。だからキミはちゃんと、大人の人と話し合いなさい。いいね?」

 

 そう言って、お巡りさんがテーブルに備え付けている固定電話の受話器を手にした。

 秋水は、ぽかん、としていた。

 なにか諭されてしまったが、急すぎて心構えができていなかった。

 どうしよう、ちょっと聞き流してしまったが、もう一度言って下さいとはどこか言えないような雰囲気である。

 このお巡りさんじゃなかったらなぁ、とか、美寧さんに年齢を明かすチャンスを逃したなぁ、とか、そんな余所事を考えている場合ではなかったようだ。

 なんだか居たたまれない気持ちになってしまう。

 秋水が微妙な表情をしているのを前に、お巡りさんがどこかへと電話を掛ける。十中八九、鎬のところにだろう。

 しばらく待つ。

 待って、お巡りさんの視線が秋水の顔へと戻される。

 

「……出ないね」

 

「たぶん、寝ていると思います」

 

「そうだよ。多くの人は寝ている時間だ」

 

 だからこんな時間にジムに行こうとするんじゃありません、とお巡りさんの顔には書いてあった。

 ごめんなさい。

 行きではなく帰りなんです、なんて火にガソリンを注ぎ込むような台詞は、流石に口にしなかった。

 しばらく待つが、やはり鎬は電話に出なかった。

 基本的に、鎬は一度寝てしまうと、泥のように深く寝てしまうタイプなのである。

 スマホの着信音程度で起きることは、たぶん、ない。

 酒を飲んで寝るせいだろうか。

 いや、でもアルコールって覚醒作用があるから、普通は睡眠が浅くなるはずだ。

 どういう生態系をしてるんだろうか、あの叔母は。

 まあ、酒を飲み始めるより前の未成年だったときから、鎬は深く熟睡するタイプだったので、ただの体質なんだろうけれど。

 保護者への連絡が見事に空振りに終わり、はぁ、とお巡りさんは溜息とともに受話器を戻す。

 

「出ないねぇ」

 

「その、申し訳ありません」

 

「いや、この時間じゃしょうがないよ。でも、本当は保護者が来るまで留め置き―――このまま交番で待ちぼうけさせるのがマニュアルなんだよね」

 

 ぽりぽり、とお巡りさんが頭を掻いた。

 まあ、素行不良で交番にドナドナされた未成年を、保護者の迎えなしで返すわけにはいかないのだろう。

 致し方なし。

 

「では、朝まで待ちます」

 

「純粋に可哀想だろ流石に、全く……」

 

 溜息とともに、お巡りさんは帽子を手に取ってすぽりと被った。

 

「今回だけは特別だ。送ってったるよ、パトカーで良ければね」

 

 そして立ち上がり、秋水に対し、にぃ、といたずらっ子のように笑ってみせる。

 それは、良いのだろうか。

 ルールの中で生きている、と発言した張本人が、真っ先にルールに抵触するような真似をしているのではないだろうか。

 いや、こちらとしては助かるけれども。

 不思議そうな顔をしてしまった秋水を見て、お巡りさんは唇に人差し指を当て、しー、とジェスチャーを送る。

 

「あんまりこれは言いふらさないでくれよ。特別処置みたいなやつなんだから」

 

「ありがとうございます」

 

「あー……礼を言われると余計に複雑だわ。まったく、次は捕まんなよ? ジム通いも昼間にしなさい。いいね?」

 

「はい、努力します」

 

「努力じゃなくて、やめろと言ってるんだ分かって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝になり、日が昇る。

 今日は日曜日、学校は休みだ。

 休みだが、明日から始まる期末試験の最終チェックで出勤している教師が、その中学校の職員室にはちらほら居た。

 試験のためだけではなく、部活動の関係や単純に溜まった仕事を片付けるために、日曜日だというのに出勤している教師もいる。

 教師とは、実にブラックな仕事だ。

 休日出勤は当たり前。

 仕事を持ち帰るのも当たり前。

 やらねばならない仕事は山のようにあるというのに、法の関係上、残業代は全く出ない。

 ブラック超えてダークネス。

 それが教師である。

 そんな社畜の檻、ではなく職員室に、朝の早くから1本の電話が入る。

 

 

 

「はい、生活指導の先生ですか? あー、今日は不在で……え、警察……!?」

 

 

 

 電話を取ったその教師の素っ頓狂な声に、ちらほらと居た職員室内の教員達が一瞬でピリッとした雰囲気になる。

 明日からは期末試験である。

 そうじゃなくとも2月である。

 高校受験はすぐそこのシーズンだ。

 そこに警察からのお電話。楽しそうな雰囲気は一切なかった。

 

 

 

「え? 3年の……はい、棟区 秋水くん……はい……はい……深夜3時? 徘徊?」

 

 

 

「3時って、え、3時?」

 

「棟区って、あのデカい子?」

 

「あの子が? 夜中に? こわ……いやでも、あの子、見た目だけでしょ?」

 

「見た目だから事件なんだよ」

 

「他の生徒に影響出そう?」

 

「受験目前だからな。下手な対応したら不安が広がるだろうな」

 

「あちゃー……保護者から問い合わせ来るかもだな……」

 

 

 

「はい、保護者にはもう連絡済み……あー、叔母さんなんですね……はい……はい……はい、では生活指導と担任に伝えます……はい、補導カード……はい、受け取ります……」

 

 

 

 受話器が置かれた。

 一瞬だけ、職員室に沈黙が流れる。

 

「…………はい、深夜3時に3年1組の棟区くん補導。保護者には連絡済み。明日は担任と生活指導で面談です」

 

「聞き間違いじゃなかったかあああああああっ!!」

 

 そして、絶叫を上げる教師が一名。

 親しみを込めてタケちゃんと生徒達から呼ばれる彼は、棟区 秋水の担任教師である。

 

「え、棟区が警察に補導って、嘘だろ!? あいつ外見と正反対なくらい良い子だぞ!?」

 

「警察の人、悪い子じゃないのは分かってるんですが、って3回くらい言ってましたよ。でも残念ながら警察に捕まったのは事実。諦めましょう」

 

「うぼあああ……やっぱりあいつ、メンタルケア必要だったんじゃねぇかなあ……なんでもなさそうにしてるけど、絶対ショックデカかったよなあ……」

 

「あー……彼は、まあ、あの件がありますからね。それが引き金になった可能性もありますよ。とにかく、明日の面談の準備をお願いします。校長と教頭と、それから生活指導の烽へは私から連絡します」

 

「ウチのクラスから補導者かぁ……」

 

 頭を抱えて机に突っ伏してしまった秋水の担任教師を、周りの教師がまあまあと慰める。

 大変なことになってしまった。

 職員室の教師陣、その心の声は1つとなった。

 

 

 

「…………えらいこっちゃぁ」

 

 

 

 その職員室のすぐ外で、私服姿の女の子が1人。

 御器所 蜜柑。

 親しみを込めてミカちゃんと友達から呼ばれる彼女は、棟区 秋水のクラスメイトである。

 大変なことになってしまった。

 蜜柑は職員室の外で、あわあわと顔を青くしていた。

 

 

 





 次回は紗綾音ちゃんサイドのお話です(にっこり)
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