ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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205『ミカちゃんさんへの陰口(残当)』

 外国人達に囲まれ、なんらかの質問攻めに遭っていた祈織を発見し、どうにかこうにか外国人達を質屋から追い払うことに成功した。

 秋水の見た目をフル活用したそれを、どうにかこうにか、と一言でまとめるのは少々無理があるだろうか。

 祈織のピンチに思わず秋水は助けに入ったものの、その背中にはイヤな汗が噴き出て止まらない。

 

「た、助かりましたー……」

 

「大変でしたね、お疲れさまです栗形さん」

 

 理解ができない外国語で詰め寄られたことに疲れたのか、カウンターにぐでっと倒れ込んだ祈織を労ってから、秋水はゆっくりと振り返る。

 ガラス窓の向こう、質屋の外には、秋水と同じ中学の学生服を着た生徒が、4人いた。

 4人とも、ガラス窓の向こうから、じぃ、と店の中を覗いて観察していた。

 振り向いた秋水と目が合って、それぞれがそれぞれに、思い思いの反応を返す。

 嫌な場面を、クラスメイトに見られてしまった。

 外国人を質屋から追い払う、どうにかこうにか、という手法を、当然ながら4人はばっちり目撃していた。

 

「あれ、秋水くん、外にいる子たち、もしかして秋水くんのお友達ですか?」

 

「いえ、違います」

 

「あー、これは秋水くん、友達の定義が狭いタイプですね。じゃあ、秋水くんのお知り合いですか?」

 

「……まあ、そうですね」

 

「なんか気になる間。いやでも、外は寒いですから、店内に入ってもらって下さい。子どもが見て喜べる物は……取り扱ってないですけどねぇ」

 

 はは、と祈織が自虐的に乾いた笑いを漏らした。

 はは、と秋水もまた自然と乾いた笑いが漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ、可愛い子だ! こんにちは! お店のお手伝いしてるの? えらいねー!」

 

「秋水くん! 誰ですかこの失礼なガキは!? わ、やめ、やめてくださ――いや抱きつくんじゃないよちょっと!? おっぱい押しつけないでというかホント発育いいな最近の子!? 助けて秋水くん! 女子中学生にまでストライクゾーン広げたら流石に言い訳できないです!!」

 

 そして、クラスのアイドル・兼・ペット枠である渡巻 紗綾音と、この質屋の店長である栗形 祈織のファーストコンタクトは、見事に大失敗。胴体着陸か不時着を見ているような気分であった。

 祈織を小学生と見間違えた紗綾音が、挨拶と共にがばりと祈織に抱きついてしまい、その腕の中で祈織がジタバタと藻掻いているのを遠目に眺めながら、秋水は小さく溜息を吐いた。

 祈織は残念なことに、いや残念と言ったら大変失礼であるが、その身長は140㎝ほどしかない。

 だいたい10歳くらいの女子の平均身長がそれくらいである。

 そして祈織は童顔であり、その身長とマッチして10歳の平均身長から更に見た目が1つか2つ下に見えても不思議ではない。

 なお、声までロリ系の甘い声だ。

 これはもう、間違えても仕方がない、という諦めがつくレベルで祈織はロリ、ではなかった、幼く、でもなく、若く見えてしまうのだ。

 実際、秋水も初対面時は、祈織のことを子どもだと思っていたので、フォローの言葉が出てきやしない。

 

「んー、なんか棟区呼ばれてるけど、知り合いなのか? この店の人の子どもかなんか?」

 

 そんな祈織を子どもだと思って可愛がり倒している紗綾音を、相変わらず子ども好きなんだなー、と笑いつつ、秋水と同じく一歩離れた位置で眺めていた沙夜が、秋水に向けてそんな質問をしてきた。

 いい質問だ。

 違います。

 

「いえ、店長です」

 

「……は?」

 

「栗形 祈織さん。この質屋の店長で、歴とした成人女性です。お酒も嗜まれております」

 

 祈織の方へ手を向けて、軽く紹介をする。

 沙夜は釣られて祈織の方を見て、それから再び秋水を見上げた。

 とても混乱しているような顔をしていらっしゃる。

 

「えっと……」

 

「律歌さんも同じくらいの身長ですよね。成長期が遅れているわけでなければ、おそらく律歌さんも数年後はあのような扱いをうけているかも知れません」

 

「よーし、紗綾音ストーップ! その人は大人ー! 私らより年上のレディーだー!」

 

 そして沙夜は慌てて紗綾音を引き剥がしに掛かった。

 流石は飼い主、頼りになる。

 なんか一瞬、お前が真っ先に止めに入れよ、と沙夜に睨まれた気がするが、きっと気のせいであろう。

 

「え!? 大人!? こんなちっちゃくて可愛いのに!?」

 

「律歌先輩だってちっちゃいだろ! この人は店長さん! ちっちゃくても大人の人なの!」

 

「あー、そっか、お姉ちゃんも同じくらいちっちゃいか」

 

「ちっちゃいのは遺伝なんだから、そういう見かけで判断したらダメだろ」

 

「なるほろ確かに合点承知の助三郎。ごめんなさい、ちっちゃい店長さん! 真新しいランドセル背負ってるくらいの小学生だって勘違いしました!」

 

「私もゴメンなさい。ちっちゃいのに店の手伝いしてて偉いなー、って思っちゃってました」

 

 どうやら誤解が解けた紗綾音が、素直に祈織に対して頭を下げて謝った。

 ついでに沙夜も律儀に頭を下げて謝罪を入れる。

 紗綾音にわちゃわちゃと構われていたのから解放された祈織は、秋水の背中に隠れるように逃げ込んでいる。

 なお、祈織はまだブチ切れていた。

 

「いや、ちっちゃいちっちゃい連呼しないでもらえないかなぁ!?」

 

「「え、でもちっちゃい……」」

 

「秋水くん! やっぱりあのガキ2人は寒空の下に放り出しませんか!?」

 

 この状況に、秋水は愛想笑いだけ零しておいた。随分と乾いた愛想笑いである。

 軽く笑いつつ、秋水は自分のリュックサックの中を軽く探り、目的の紙袋をガサリと取り出した。

 

「まあまあ、あちらの金髪の子の方は悪気がないので、許してやってくれませんか?」

 

「棟区くん!? なんでサヨチだけフォローしたの!? 私は!?」

 

「なるほど、ではあっちの黒髪の方は悪意ありなんですね?」

 

「祈織ちゃん!? 私も小1くらいって勘違いしちゃっただけで悪意ゼロゼロないんだよ!?」

 

「祈織ちゃん言うんじゃないよこの陽キャが!」

 

 とりあえず沙夜をフォローしてすれば、紗綾音が相変わらずきゃんきゃん吠えてくる。

 首を傾げながら「陽キャって、私褒められたのかな?」と不思議そうに沙夜に尋ねている紗綾音を無視しながら、秋水は紙袋を祈織へと差し出した。

 白銀のネックレスを入れてある紙袋だ。

 がさりと差し出された紙袋に、祈織は一瞬だけ目を点にした。

 

「あ、ネッ……例のものですね! ありがとうございます。それでは納品確認しますね」

 

 そしてすぐに思い至ったのか、祈織は秋水から紙袋を受け取る。

 ネックレス、という言葉を言いかけて、何故か祈織は発言をボカした。

 はて、と秋水は首を傾げるが、祈織は気にすることなく受け取った紙袋を、わーい、と嬉しそうに掲げている。

 行動が子どもっぽい、と言ったら怒られるであろうな、と思っていると、ぽん、と秋水の背中が軽く叩かれた。

 

「なに? 棟区の用事って、店長さんにお届け物、っつー用事だったのか?」

 

 さして広くもない質屋の店内を、ぶらり、と見て回ってきた覚王山にである。

 パシリじゃん、と笑う覚王山の例えが否定できず、秋水は肯くことしかできなかった。実際に鎬の使い走りである。

 

「おー、よかったー、真面目なご用事だー……棟区くんがヤクザの抗争みたいなのガチるんだったら、未来つれて逃げるとこだったー」

 

 その覚王山の後ろから、相変わらずのんびりとした声のミッチも声を掛けてきた。

 ヤクザの抗争、というのは、あれか、外国人達を追い返したことか。

 祈織に群がっていた奴らを退かし、質問するなら順番に並んでくれませんかねぇ、と秋水は1人ずつ笑顔で迫っただけである。なお、秋水の笑顔は、妹から「ホラーゲームのバッドエンド画面そのもの」というお褒めの言葉を頂いた出来映えである。

 

「なんで俺まで逃げるんだよ……」

 

「やー、さっきの棟区くん、ちょっと怖かったねー。笑顔がねー。圧がねー」

 

「聞いてくれよ……」

 

「まあ、そのように接客しましたから」

 

 しれっと、悪びれることなく秋水は肯く。

 まあ、ミッチの指摘通り、自身の見てくれが怖いのも、笑顔が不気味なのも、圧力がある対応だったのも、秋水は全部分かっていて対応した。

 分かっていて、わざと圧をかけ、追い払った。

 今のところ、質屋の周りを嗅ぎ回っている連中は、比較的聞き分けの良い人たちばかりである。騒ぎになるのを嫌っているのか、それとも荒事が純粋に苦手なのか、追い払ったときに抵抗したり張り合ってきたりでトラブルになったことは、今のところない。

 ただ、こんな場当たり的な対処が、いつまで続けられるだろうか。

 後手に回っている感は否めない。

 外国人達を追い払ったことを思い出しながら、秋水は軽く溜息を吐いた。

 

「んで、あの紙袋、なんだ?」

 

 その秋水に対し、覚王山がそんなことを尋ねる。

 祈織に渡した紙袋を覚王山が指さしているのを見て、ああ、と秋水は軽く声を上げた。

 ネックレスですよ。

 別に隠す必要もないであろう事実を、秋水はそのまま口にしようとする。

 する、その前に、祈織が待ったを掛けた。

 

「企業秘密です!」

 

 秋水が喋るよりも一歩早く、祈織が胸を張って覚王山に返す。

 秘密だったのか、と秋水は少し驚いて祈織を見た。

 祈織と目が合った。

 遅れて秋水は、ああ、と再び軽く声を上げた。

 

 白銀のアンクレットから未知の物質、新元素を発見されてゴタゴタしている現状、それを秋水が納品しているというのは伏せた方が良い事実である。

 

 それを秋水が運んでいるとバレれば、秋水の身辺を嗅ぎ回られるであろうことは、想像に難くない。

 故に、白銀のアンクレットを秋水が納品しているということは、伏せている。

 そしてそれは、白銀のネックレスに対しても、同じ注意が必要なんだろう。

 今はまだ確定していないが、ネックレスの方もダンジョンでのドロップアイテムだ。未知の物質を含んでいる可能性は高い。

 もしもネックレスの方も調べ、未知の物質が検出されたとしたら、同じくそれを納品しているルートを探られる。

 危ねぇ。

 どうやら、クラスメイト相手だから気を抜いて、注意を怠っていたみたいだ。

 この場で白銀のネックレスを見せてしまえば、後々に面倒事になる可能性が高い。

 祈織に助けられた。

 目が合った祈織に対し、秋水は軽く頭を下げる。

 何も考えていなかった。

 この質屋に納品しているという事実自体、他の誰にも教えるべきではなかったかもしれない。

 紗綾音達4人を連れて来たこと自体がミスだった。

 反省せねば、と秋水が軽く唸ると、その秋水の後ろから、ぬ、と紗綾音が顔を覗かせてきた。

 

「えー、気になるー」

 

「わっ、出たな陽キャ」

 

 秋水の背後にまとわりつくように顔を出し、祈織の持った紙袋をマジマジ見ながら興味津々の紗綾音に対し、実に嫌そうな顔を祈織が向ける。

 どうやら、紗綾音はすっかり祈織に嫌われたらしい。ざまぁ。

 そんな祈織に対しても、にかっと紗綾音はスマイルを向ける。心臓が強い。

 

「はーい、さっきからお店の中にいるのに出てきた扱いされましたポジトロン無限軌道、略して陽キャの紗綾音ちゃんでーす」

 

「秋水くん、通訳できますか?」

 

「たぶん、ポジトロンは陽電子で、無限軌道はキャタピラなので、陽電子キャタピラを省略して陽キャと言ってるんだと思われます」

 

「……あの子、頭大丈夫なんですか?」

 

「あ、病気なんです」

 

「違うよ!?」

 

 秋水の塩対応には若干涙目であった。

 

「で棟区くん、あの紙袋、なんだったのかな?」

 

「えーっと……」

 

「秋水くんの個人情報と、ウチの経営に関わることなんで教えませーん」

 

 そしてめげることなく紗綾音は紙袋のことを秋水に尋ねるも、秋水が言葉を選び終わるよりも前に、祈織が割り込んでくる。

 やはり、庇われている。

 つーん、と紗綾音から顔を背けつつ、はっきりと返答拒否の姿勢を示す祈織は、なんだかんだで大人であった。

 

「むーん……」

 

 答える気のなさそうな祈織に、紗綾音は少し不満そうである。

 それから、ちらり、と改めて秋水を見上げた。

 なんだか、凄くものを言いたげな目である。

 そんな目を向けられても。

 その目から逃げるように、秋水はすいーっと視線を逸らして天井を見上げる。

 ぶー、と紗綾音が不満そうに鳴いた。チワワから子豚にランクアップしたようだ。ダウンだろうか。

 そんな紗綾音の頭を、ぽん、と叩いたのは、親友の沙夜だった。

 

「……おい棟区、紗綾音が不安になる前に確認するけど、ヤバい薬とか非合法なものじゃないよな?」

 

「その場合、平然と受け取っちゃってる私も密輸ルートの同罪で捕まっちゃうんだよなぁ!?」

 

 唇を尖らせる紗綾音の気持ちを代弁して沙夜が尋ねるが、秋水より先に祈織がツッコミを入れる。

 ああ、そうか。

 天井を見上げながら、秋水は少しだけ納得する。

 そう言えば、紗綾音は秋水が妙な言い回しをしてしまったせいで、色々と誤解をして不安になっていたばかりである。

 しかし、そう簡単に教えるわけにもいかないし、と秋水は軽く唸った。

 うーん、と対応を苦慮する秋水を、祈織が確認するように一度見上げる。

 そして紗綾音へと体を向け、真っ直ぐに紗綾音の目を見た。

 

「あとね、ポジトロン無限軌道ちゃん」

 

「え、祈織ちゃんなに言ってるの? 頭大丈夫?」

 

「秋水くん! やっぱりこのガキは外に放り出しましょう!?」

 

 真面目な顔で紗綾音に呼びかけるも、わりと真面目に頭を心配してきた紗綾音に祈織は即座に涙目になって秋水へと泣きついた。

 ビックリするほど相性が悪い。

 いや、遠慮なく目の前で悪口が言えるのは、むしろ相性が良いのだろうか。

 若干心が折れかけるも、こほん、と祈織はわざとらしく咳払いをして気を取り直す。

 

「あのね、人のことを色々知りたいって気持ちは分かるけど、人が秘密にしていることを無理に暴いちゃいけません」

 

 ぴしりと人差し指を立てながら、子どもを叱るように祈織は注意する。

 実際、子どもを叱っているのだが。

 

「秘密はね、触れられたくないから秘密なんだよ。それを暴くなら、ちゃんと責任取れる覚悟を持ちなさい。軽い気持ちで、人が秘密にしていることを突いちゃダメ」

 

「わー、祈織ちゃんが大人なこと言ってる」

 

「祈織ちゃん言うなこの陽キャが」

 

 め、と注意する祈織を、紗綾音は感心したように声を上げる。ちゃんと祈織の話を理解しているのだろうか。

 紗綾音の祈織ちゃん呼びが子ども扱いみたいで気に入らないのか、いー、と歯を見せて祈織は紗綾音を威嚇する。

 その反応が可愛かったのか、ツボった紗綾音がわーいと抱きつこうとするものの、祈織はそれを手で押し退けて拒否する。

 楽しそうである。

 これは、やはり相性が良いのではないだろうか。

 

「秋水くん、本当に大丈夫ですかこの子? なんか、人の個人情報すっぱ抜いた挙げ句に、SNSで勝手に情報拡散しそうなタイプに見えますよ」

 

 抱きつこうとする紗綾音に抵抗しながら、祈織はそんなことを聞いてくる。

 ぴたりと紗綾音の動きが止まった。

 そして何故か、若干遠い目をする。

 

「ミカちゃんか……」

 

「蜜柑か……」

 

「御器所か……」

 

「ミカちゃんかー……」

 

 紗綾音どころか、沙夜も覚王山もミッチも揃って呟いたのは、この場にいないクラスメイトのことである。

 なんでそんな、思い当たる節、みたいな感じなのだろうか。

 ただちょっと、秋水が補導されたというのを小耳に挟み、即座にクラスのグループトークで情報を一斉送信したぐらいじゃないか。

 正に祈織が危惧している通りのことをヤラかしていた。

 あー、と秋水も思わず納得の声を上げてしまう。

 

「……え、なに? 秋水くんのクラスって、マスゴミみたいな子がいるんですか?」

 

「いえ、私が警察に補導されたという情報を、独自に調べた上で即座にクラス中に情報を拡散して、生徒指導室でとても怒られた方がいらっしゃる程度です」

 

「かなりヤバい子がいますね!? いや待って秋水くん!? 補導!? なんの話!? なにやったんですか秋水くん!?」

 

「おっと、しまった」

 

 尋ねてきた祈織に説明したら、余計なことまで口走ってしまったことを悟った秋水は口に手を当てるも、最早後の祭り。

 仕方がなく、深夜徘徊でお巡りさんに補導された件を祈織にゲロれば、その事実に仰天した祈織が激怒した。

 まさか補導された件で1番怒るのが、鎬でも教師でもなく、祈織だとは。

 それからしばらく、ぷんすかと怒った祈織に説教され、秋水は肩身狭そうに小さくなるのだった。

 

 

 





 鎬さんがあんなんだから、基本的に祈織が大人の役割を担っています。
 だが、ロリっぽいからどうしても舐められる(;´Д`)
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