ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

213 / 267
206『「俺なにかやっちゃいました?」という真性タイプ』

 質屋で祈織からたっぷりと説教され、それを紗綾音をはじめとする4人のクラスメイトがニヤニヤしながら眺められるという、とんだ羞恥プレイを味わった後、秋水達はそそくさと質屋を後にした。

 祈織ちゃんとは仲が良いんだねぇ、とからかってくる紗綾音の頭をぐりぐり撫でるが、今日の紗綾音は嫌がるどころか、もっと撫でるのだ、と擦り寄ってくるから相手がしにくい。

 律歌さん、あなたの妹が男に擦り寄ってます、と心の中で紗綾音の姉に報告しながら、秋水は抱きついてくる紗綾音に遠い目をせざるを得なかった。

 そして、それぞれが家へと向かう帰路で手を振って別れ、ようやく1人になれた秋水は、軽く溜息を吐く。

 そう言えば、鎬がどうなったのか、祈織に聞くのを忘れた。

 秋水は再び溜息を吐き、げんなりとする。

 時計を見れば、まだ16時過ぎ。

 学校は学年末試験でテストだけだったというのに、もうこんな時間である。

 疲れた。

 今日はとにかく、疲れる一日であった。

 知らない間に、クラスでは秋水がお巡りさんに補導されたことは周知されており、沙夜に怒られ、何故か紗綾音には泣かれ、その紗綾音は距離感がバグってしまい、担任教師に呼び出され、お小言をありがたく貰って帰ったらテスト勉強に付き合わされ、鎬の質屋へ向かおうとしたら紗綾音達がついてきて、祈織は外国人達に絡まれ、そしてその祈織にも補導の件がバレて説教を喰らう。

 なんと言うか、精神的に疲れた。

 秋水は空を見上げる。

 良い天気だ。

 

「よし、ジム行くか」

 

 精神的に疲れたら、肉体的に追い込んでバランスを取ろう。

 謎の理論を持ち出して、秋水は帰路を急ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方のジムは、実に久しぶりである。

 ダンジョンのセーフエリアに戻り、いそいそとトレーニングウエアに着替え、トレーニングのセットをまとめたリュックを担いでジムに辿り着けば、なかなかに賑わっている。

 ざっと見たところ、20名はいない、と思う。

 この時間の利用は初めてである。

 夕方くらいは混雑時間だと噂では聞いていたが、なかなかの客入りだ。

 男女比では男が多め。

 多め、である。

 つまり、女性の割合がいつもよりも高い。

 いつもとは違う雰囲気だな、という感想を抱いたが、はたと思い返してみれば、このところ深夜にばかりジムを利用していたのを思い出す。

 秋水にとってのいつものジムというのは最早、独りぼっちで貸し切り状態か、美寧と2人の状態か、のどちらかだ。

 ふーむ、感覚が狂ってやがる。

 無料の棚にリュックを入れ、そこからタオルとトレーニンググローブを取り出し、手早くトレーニンググローブを装着する。

 それから、ポーションを入れたペットボトルも取り出して。

 

「……んー」

 

 少し考えた。

 あまり、人前でポーションを服用した筋トレをするのはどうだろうか。

 筋トレというのは、特に重たい重量を扱う高負荷低回転の筋トレは、セット間の休憩というのをだいたい2分ぐらいしっかり取るのが一般的だ。

 具体的には、スクワットをする、2分休む、スクワットをする、2分休む、といった感じだ。

 呼吸を整え、心拍数を落ち着け、疲労を抜いて正しいフォームできっちり追い込むために、セット間休憩とは大事なものなのだ。

 

 だが、ポーションというのは、それを全部キャンセルする。

 

 一口飲めばあら不思議、呼吸は整って、心拍数は落ち着いて、疲労はきっちり抜けている。

 セット間休憩などしている場合ではない。すぐに次のトレーニングを始めねば。そんな気持ちになるチートな回復薬なのだ。

 深夜の時間ならば他者の目がなく、ポーションを用いてセット間休憩なしでひたすら筋トレ大祭りを開催できるのだが、思いきり周りに人がいるこの状況ではどうだろうか。

 なんか水飲む程度でひたすら筋トレしてるヤバい奴がいる、なんて感じに思われるかもしれない。

 秋水は一度取り出したポーションを再びリュックの中に入れる。

 

「でもなぁ……」

 

 そして、もう一度取り出した。

 水分はポーションしか持ってきていない、という事実を思い出したのだ。

 筋トレをする面々というのは、筋トレ中はとにかく水を飲む。

 筋トレというのはとにかく汗をかき、水分が不足すると筋肉の収縮がスムーズに行われなくなってしまう恐れがあり、筋肉への酸素やエネルギーの供給も遅くなるのである。追加で言えば、関節液の生成に水分は不可欠であり、水分不足は関節の潤滑性が失われ、スムーズな動きが阻害されたり、摩擦が増えて痛みに繋がる可能性だってある。

 平たく言って、脱水すると運動のパフォーマンスが低下するのだ。

 それに、筋トレで傷ついた筋繊維を修復や再生をするためには、大量の水分が必要だ。また、筋肉中に蓄えられるエネルギー源であるグリコーゲンの補充にも水分は欠かせない。

 故に、筋トレ民は水を飲むのだ。

 その水分として持ってきているのが、ポーションしかない。

 ジムの中には自販機もあるのだが、ジュース系統ばかりなのである。

 少し悩んだ末、秋水はポーションを飲むことにした。

 

「ま、そんな見られないだろ」

 

 そんなことを小さく独り言ちりつつ、秋水はどのトレーニングから始めようかとジムの中を再び見回した。

 こっそりと、何名かが秋水から視線を逸らした。

 

 

 

 秋水は、ばっちり注目されていた。

 

 

 

 筋トレというのが生活の中に落とし込まれるくらいに慣れてくると、その人の生活スタイルや行動パターンから、だんだんとジムに訪れる曜日や時間というのが固定されていく場合が多い。

 なのでジムでは、喋ったこともなければ名前も知らない顔見知り、という関係が大量発生しているのだ。

 この曜日、この時間に行くと、だいたいこの人がいる、というのが分かるのである。

 そんな喋ったこともなければ名前も知らない顔見知りが増えると、なんとなくジムの雰囲気に馴染んだ感じになるのだ。

 いつもの曜日にいつもの時間、ジムに行けばだいたい同じ面子が揃ってる。それがジムだ。

 今日は平日、その夕方。

 筋肥大を目的としたボディビルの人や、筋力向上を目的としたパワーリフターの人といった、いわゆるガチ勢はあまりおらず、どちらかと言えば運動不足の解消を目的としているライト勢が、この時間は殆どであった。

 トレッドミルでウォーキングしたり、軽くジョギングしたり。

 サイクルマシンでキツめの運動をしたり。

 マシントレーニングにて軽めの重量を黙々と行ったり。

 ストレッチコーナーで柔軟体操しつつ、腕立て伏せやアブローラーなのの自重トレーニングで汗を流したり。

 そんな筋トレライト勢が大半を占める時間である。

 

 そんな中、秋水の登場だった。

 

 2mには届かないだろうな、というのがなんの慰めにもならないデカい身長。

 まさにジムで鍛え上げたと言わんばかりに、ウエアを押し上げる逞しく分厚い岩のような筋肉。

 短く刈り込んだ丸刈り頭は、清潔感を与えるどころか、この世全てに絶望したラスボスヴィランかのような顔立ちと眼力で人の心臓を止めることができそうな目つきのせいで、刑務所から出所してきたばかりの極悪犯罪者のような雰囲気が漂っている。

 そんな悪魔、もといヤクザ、もといゴリマッチョ悪役レスラーみたいな奴が、ジムに登場したかと思えば、迷うことなく棚のところまでのっしのっしと歩いていった。

 移動に淀みがない。

 このジムに慣れているという証拠である。

 トレーニンググローブを手際よく装着する。

 間違いない、筋トレガチ勢だ。

 羊が和気藹々と群れている中に、狼がしれっと乱入してきた状態である。

 これにより、半数程の人が慄いた。

 視線を合わせちゃいけない。

 邪魔しちゃいけない。

 自分が使っている器具を使いたそうな雰囲気を察したら、即座に譲らないと何されるか分かったものではない。

 秋水から放たれる無言の圧力や凄みというものに怯えた半数は、秋水の存在を可能な限り無視して黙々と自分のトレーニングに打ち込むことにした。

 ライト勢ばかりの時間に、筋トレガチ勢は来ないでほしいなぁ、という、無茶を言うんじゃない、といった願いが、その人達の頭に過ぎる。

 

 なお、秋水は自称、筋トレライト勢かつエンジョイ勢である。嘘だろお前。

 

 そして、残りの半数は、秋水のことをバチクソ観察していた。

 見るからに筋トレガチ勢のご登場である。

 しかも、いつもはこの時間にいない、しかしこのジムには慣れているようなガチ勢だ。

 ということは、他の時間に利用している人なのであろう、と簡単に推測できる。

 気になる。

 めちゃくちゃ気になる。

 この時間は、筋トレガチ勢が少ないのだ。

 つまり、ガチ勢がどれくらいの重量で、どんなトレーニングをするのか、生で見る機会が少ないのである。

 そんな中、唐突なるサンプル提供、ではなく、ガチ勢の筋トレを間近で観察できる大チャンス。

 これは観察せねば損というものだ。

 秋水の外見が怖い?

 気にしない気にしない。

 筋トレして体が逞しくなれば、多かれ少なかれ他者には威圧感を与える感じになってしまうものである。

 これで動きや所作が乱雑で粗暴であれば話が別だが、少なくとも秋水は落ち着き払ってゆったりとした動きをしている。

 だから大丈夫だろう、という根拠のない確信があった。

 故に、残りの半数は自身の筋トレをしつつ、ちらちらちらちらと秋水のことを盗み見ていた。

 その視線に気がつくことなく、秋水はウォーミングアップを始めた。

 

「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ……ふっ……ふっ……」

 

 必要以上に音を立てないよう、なるべく静かに、そして丁寧なウォーミングアップである。

 ジャンピングスクワット、マウンテンクライマー、腕立て伏せからバービージャンプ、デクラインプッシュアップ、その場で足踏みする形のダッシュ。

 それを5秒程の休憩、というよりスタートポジションの体勢を変えるだけの時間を挟んでひたすら行う。

 どの種目も、同じ動画を連続再生しているかのように、丁寧に正確なフォームで行われている。

 なるほど、全身の筋肉を温めるウォーミングアップということか。

 

 ……いや、HIITトレーニングじゃないか?

 

 観察していた一同が、ほぼ同じツッコミを心の中で入れていた。

 HIITトレーニング。

 日本語では、高強度インターバルトレーニングという。

 その名の通り、負荷の強い筋トレと休憩を交互に行うのが特徴の、短い時間で集中的に体を追い込むトレーニングである。

 そう、トレーニングなのだ。

 節子、それウォーミングアップやない、普通に筋トレや。

 10秒もない休憩で、4種目を各20秒ずつ、3周する。

 

「はぁ……ふぅ……」

 

 3周すれば、息はきっちり上がっていた。当然だろう。

 ダイナミックな動きで躍動する筋肉。

 ガタイが良ければ体重は重くなる。重い体を動かすには、より大きな力が必要となるのだ。

 息が上がって疲れた様子を見せた秋水は、そばに置いていたペットボトルを手に取って、中の水を1口飲む。

 その間、僅か10秒ちょっと。

 

「……よし」

 

 再びHIITトレーニングを始めやがった。

 化け物か。先程の疲れていた様子はフェイクだったとでもいうのだろうか。

 4種目を再び3周。一息つくようにまた水を飲み、息を整える様子もなく4種目をまたもや3周。

 

「ふぅ。こんなもんか」

 

 どんなものだというのだ。

 水を口にして呟いた秋水の言葉に、観察していた一同の心は足並みが揃っていた。

 とんでもない運動量を、ビックリする程の短時間で追い込みきった。

 ウォーミングアップではない。完全に本番の筋トレだ。

 なるほど、真似できねぇ。

 ガチ勢の筋トレを少しでも自分の筋トレメニューに取り込もうと思っていた面々は、軽く絶望していた。

 

 なお、秋水にとって、これはあくまでもウォーミングアップである。

 

 美寧の前では、美寧を萎縮させないようにラジオ体操をしているが、秋水の本来のウォーミングアップというのは、家からジムまで体全身を使って大股で歩くウォーキングに、軽い柔軟とこのHIITトレーニングなのである。

 秋水を遠目に見ていた面子が、別の意味で秋水に対して恐れ戦いているのに気がつくことなく、秋水はフリーウエイトのコーナーを見やる。

 ジムが繁盛しているわりには、比較的空いている。

 しかも、バーベルのパワーラックが2基ともフリーじゃないか。

 これはラッキーである。

 ウォーミングアップを終えた秋水は、ルンルン気分でパワーラックへと移動する。

 そんな秋水を見送っていた者達は、HIITトレーニングの後にまさか別の筋トレをするのかと恐怖した。

 HIITトレーニングは、日本語では高強度インターバルトレーニング。

 高強度、である。

 強度の高いトレーニングを爆速で終わらせたと思ったら、まさかのバーベルトレーニング。化け物だ。

 驚愕の視線を余所に、秋水は手慣れた動きで淀みなくパワーラックのバーベルラックの高さとセーフティーバーの高さを調整し、パワーラック内にあったトレーニングベンチをひょいと片手で持ち上げ、半分だけ外に出すように後ろへと移動させる。

 いや待ってくれ。

 そのトレーニングベンチ、普通に重たいのだが。

 ベンチプレスをしたりするとき、トレーニングベンチがズレたりガタついたりしないよう、それなりの重さのハズなのだが。

 それを秋水は子犬でも抱き上げるかのように、ひょいと片手で持ち上げた。

 移動のためにトレーニングベンチには車輪がついているのだが、それすら使うことなく移動させた。

 これがガチ勢。

 秋水は、無自覚で周りの筋トレ民に誤解をばら蒔いていた。

 

「よし、この位置で……」

 

 そして秋水は、胸の高さに合わせたバーベルの下をくぐり、首の少し下の背中に担ぐ。

 キングオブエクササイズ、筋トレビッグ3が1つ、スクワットの体勢だ。

 バーベルはシャフトだけ。

 重量は20㎏。

 なんとも平和で、理解の範疇にある光景である。

 秋水は背伸びをするように、バーベルを担いだまま数回踵を上げる。

 カーフレイズ、もしくはヒールアップ。

 ヒラメ筋に刺激を入れる動きをした後、ゆっくりと腰を落としていく。

 足は肩幅。

 つま先は少し外側。

 背中は丸めず一直線。

 足裏全体で床を踏む。

 尻を後ろに突き出すように股関節から膝を曲げる。

 完全に腰を落としきらないが、その寸前までしっかり深くしゃがみ込み、そこからゆっくりと立ち上がる。

 教科書に載るような、理想的なフォームであった。

 動画で簡単にプロのフォームを見れはするが、ガチ勢のフォームを生で間近で見るというのは、やはり格段に勉強になる。

 ちょっと隣のトレッドミルでジョギングするだけですー、ダンベル使ってベンチで筋トレするだけですー、ラットプルダウンやるだけですー、といった感じを装い、秋水の近くへとにじりにじりと筋トレ民が近寄ってきた。

 それを気にすることなく、動きを確かめるように秋水はシャフトだけでスクワットを数回繰り返し。

 

「よいしょ」

 

 バーベルを担いだまま、左足を上げて後ろに伸ばし、半分だけ下げていたトレーニングベンチの上に、左足の甲をぽすりとのせる。

 なんだと。

 観察している筋トレ民に、緊張が走る。

 片脚を後ろにある台に乗せたそのスタートポジションは、筋トレ民ならば誰しもが知るであろうスクワットのバリエーションの1つ、ブルガリアンスクワットであった。

 ぶっちゃけ、片脚で行うスクワットである。

 片方の足を後ろの台に乗せることにより、片脚に掛かる負荷は単純計算で倍になり、しかも両足を開いて行う通常のスクワットとは違い、片脚になることによってバランサーの各筋肉の強さとバランス感覚まで求められる脚トレだ。

 バランスを求められる以上、負荷を掛けるにしてもそれは重心は可能な限り床に近くあるべきだ。

 なので、ブルガリアンスクワットで負荷を掛けるなら、基本的には手で持てるダンベルの方が選択されがちである。

 それを、秋水はバーベルで行う。

 いや馬鹿な。

 バーベルを肩で担ぐ以上、重心は上へと上がってしまう。

 接地面である床から重心が離れれば、それだけバランスが崩れやすくなるはずだ。

 ハズ、なのである。

 

「ふっ……ふっ……ふっ……」

 

 

 

 なんか、普通に綺麗なフォームで、かつ一定のリズムでブルガリアンスクワットをしていた。

 

 

 

 筋トレ民は悟った。

 明らかにヤベぇ奴が来た、と。

 奇しくも、秋水の容姿に怯えてしまった人達と、全く同じ感想であり、ある意味で秋水を除いたジムにいる全員の心が1つになった瞬間である。

 秋水は右足でブルガリアンスクワットを行い、休憩することなく左足でもブルガリアンスクワットを行う。

 まあ、とは言っても、シャフトだけである。

 たった20㎏の重量だ。

 これはまだ現実的な光景だと言える。

 筋トレライト勢が真似できる種目かと言われたら、即時に否定するようなものではあるが。

 

「ふぅ……よし、温まってきたな」

 

 秋水はバーベルをラックに掛け、額の汗を拭った。

 先程まで地獄のHIITトレーニングでひたすら体を追い込んでおきながら、これで体が温まってきたとするならば、最初はどれだけ体が冷えきっていたというのだろうか。体は氷でできていたのかこの男。

 じとーっとした周りの視線に気がつかず、秋水は一度パワーラックから出て、バーベルシャフトの端へ重りとなるプレートを装着していく。

 20㎏のプレートを片手で持ち上げて装着している光景には、もはや誰も驚かなかった。

 秋水は片側にその20㎏のプレートを3枚はめ込み、プレートが落ちないように固定するカラーをきゅっと装着する。

 そして反対側に回り込んで、そちらにも20㎏のプレートを3枚はめ込み、カラーを装着する。

 

「まずは、こんなもんだろ」

 

 手始めに、といった感じで秋水は軽く呟く。

 こんなもの、か。

 140㎏あるんですが。

 ガチ勢はこんな重量でスクワットするのかー、と数名程が遠い目をする。

 まあ、ベンチプレス100㎏で一人前、というような世界では、スクワット140㎏はまだ現実的ではある。

 バーベルの下に再び潜り込み、首の下の背中にそのバーベルを押し当てる。

 上がるのだろうか。

 秋水の実力を知らない人達は、固唾を呑んで見守った。

 

「ふっ」

 

 腹圧を入れて腹筋を固める。

 そして、軽く曲げた膝を、ゆっくりと伸ばす。

 ラックから、バーベルが離れる。

 持ち上がるもんなんだなぁ、と周りの面々は自身のトレーニングを忘れて秋水の筋トレを観察する。

 そこからスクワットを開始するのか、と誰しもが思った。

 140㎏のスクワット。

 そう思った。

 

 なお、秋水のスクワットのメイン重量は220㎏である。

 

「よっと……」

 

 

 

 秋水は、140㎏バーベルを担ぎ上げたまま、左足を後ろのトレーニングベンチへと乗せた。

 

 

 

 普通のスクワットではなく、ブルガリアンスクワットのスタートポジションだった。

 誰かが白目を剥いた。

 ブルガリアンスクワットを、20㎏のバーベルか次いで行うのは、までギリ現実的だとしよう。

 片脚の筋力どうなってるとか、バランス感覚どうなってるとか、そもそもバランス取れる体幹の筋力どうなってるとか、そういうツッコミを横に置いたとしても、ギリ現実的だ。

 だがちょっと、140㎏はどうなのだろう。

 流石にそれは無理だろ。

 いくら何でも筋力的にも、バランス的にも、それはちょっと。

 

 

 

「ふっ……ふっ……」

 

 

 

 秋水は普通に、ブルガリアンスクワットを始めていた。

 片脚で、140㎏のバーベルを担いだ体が上下する。

 観察していた大半の人が白目を剥いた。

 

 筋肥大をするためには、ここまでの重量と戦わなければならないのか……

 

 周りの筋トレ民が勝手に絶望する中、秋水は黙々とブルガリアンスクワットで自分を追い込むのであった。

 

 

 





 実はずっとどこかに1話挟み込みたかった、筋トレ民から見た秋水くんの筋トレ、の話。
 秋水くん、これで筋トレエンジョイ勢を自称しているんですよ、ふざけんな(^_^;)

 次話は、久しぶりに紗綾音の原液、渡巻パパンが出てきます。
 ほらチワワ、ゴー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。