ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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217『試行錯誤は失敗の方法を発見すること』

『申し訳ありませんでした。寝落ちしていました』

 

 美寧と通話をしたはいいものの、何故か途中から急に美寧の返答がなくなって戸惑いながら通話を切ったのが30分前。

 発芽玄米と雑穀米の混合ごはんが炊きあがる少し前くらいに、美寧からそんなメッセージが届いた。

 

「寝落ちって……」

 

 学年末試験期間の真っ最中に、まさかの徹夜でもしていたのだろうかあの女子高生は。

 美寧からのメッセージを見て、秋水は思わず美寧の生活スタイルを心配してしまう。

 もとより深夜にジムに来るなどという、かなり変則的な生活リズムをしている女子高生である。睡眠障害を抱えている可能性は十分に考えられるだけ、流石にちょっと心配だ。

 もしくは、筋肉痛が酷くて眠れていないとかだろうか。

 ふーむ、と考えてから、秋水は美寧へとメッセージの返事をたぷたぷと入力していく。

 

『筋肉痛を和らげるなら、ぬるめのお湯に食品用の重曹大さじ3杯とクエン酸大さじ1杯を入れて、炭酸泉を自作するといいですよ。血流が促進されて、乳酸の代謝も早まりますし、寝付きも良くなります。二酸化炭素が抜けやすいので、お湯はかき混ぜすぎないように気をつけて下さい』

 

 送信する。

 送信してから、息をするように入浴剤の自作をオススメしてしまったことに気がついた。

 いけない。普通は入浴剤なんて企業の粗利が高すぎて買う気にならんから化学式をもとに自作したろ、という考え方はしないはずだ。

 となると、入浴剤ならば市販のものをオススメするべきだろうか。

 では、硫酸マグネシウムだ。

 

『市販のものでしたら、エプソムソルトが手軽で効果的です。筋肉の収縮と弛緩に関わるマグネシウムが皮膚から微量に吸収され、筋肉の緊張を和らげてくれます。美寧さんは香り付きの方がリラックスして寝付きが良くなるかもしれないので、ラベンダーの香りなどはいかがでしょうか』

 

 送信して、スマホを閉じる。

 美寧が筋肉痛で眠れていない、とは限らないので、完全に余計なお世話に近いアドバイスだったかもしれない。

 まあ、美寧は筋トレ仲間だ。

 同じ筋トレ民として、仲間の睡眠障害は見過ごせない。

 筋トレはトレーニングが2、食事が3、休息が5、である。

 どれだけ筋トレをしたところで、睡眠がダメなら全部ご破算なのがボディメイクの恐ろしいところだ。

 と言うか、せめて試験期間中はちゃんと寝るんだ女子高生。

 秋水は心配しながら、スマホをことりとテーブルに置く。

 炊飯器が炊きあがりを知らせる電子音を演奏したのは、丁度そのタイミングであった。

 

 なお、どこかの家でとある女子高生が「先生バチバチに理系なオススメしてくるわりにラベンダーの香りとかオススメしてきて好きぃ」と悶絶していた。悶絶している娘を目撃してしまった母親は、「きも……」と冷たい目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を食べ終わり、洗いものをして、ダンジョンのセーフエリアでおやすみなさい。

 そして2時間後におはよう。

 相も変わらず、眠気も尾を引かずにすっきり元気に起きられる、このセーフエリアでの睡眠はヤベぇな、と思いながら、秋水はルンルン気分で着替えをした。

 当然、バイク装備。

 いいや、ダンジョンアタック装備だ。

 インナーを着て、穿いて、ライディングジャケットを着て、ライディングパンツを穿いて、ライディングシューズ代わりの安全靴を履いて、ライディンググローブを着ける。

 そして腰には小物ポーチを2つ取り付けた作業ベルトを装着し、そこにバールを4本挿入して、剣鉈の鞘を佩く。

 佩く、と表現すると、まさに剣である。

 小さいことで少しテンションが上がるのを実感しながら、ヘルメットと巨大バールを手に取った。

 おはようからの、行ってきます。

 今日も楽しい、ダンジョンアタックの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンの地下3階へと降りてコボルトと対峙する、よりも前に、秋水は違う部屋へと最初に立ち寄った。

 地下2階。

 角ウサギのエリアだ。

 コボルトとの殴り合いは楽しみだが、今日のダンジョンアタックはちょっとした実験がメインである。

 メイン武器である巨大バールを握る。

 少し緊張する。

 角ウサギは身体強化が20%くらいの出力であっても一撃でぶっ殺せる相手であることを考えると、緊張するのは可笑しな話である。

 

「さて、実験を始めようかね」

 

 その緊張を和らげるように、秋水は軽口を独り言ちる。

 それから体の中にある魔力を意識して、ゆっくりと体の中を循環させていく。

 かき混ぜるように。

 体の隅々まで行き渡る、血液のように。

 魔力の操作も段々と慣れたものであり、魔力というものを認識した当初はかなり集中しないと動かせなかったが、今ではそこまで意識しなくても動かせるようになってきた。

 だがまだまだ。

 目標は、無意識で、呼吸をするかのように魔力を動かせるようになることだ。

 それに、体の中にある魔力の全てを自在に操れているわけではない。わりと多くの魔力が動かせずに停滞しており、動かせるのはせいぜいが6割程度といったところである。

 当初が半分程度の魔力しか操れなかったことを考えると、これでもコントロールできるようになった方だ。

 

「……こんなもんか」

 

 体の全体に、魔力がぐるぐると循環し始める。

 おおよそ5秒といったところか。

 タイムはかなり縮まったが、まだ5秒もかかる、とも表現できる。

 魔力を無意識でも操作できること、全ての魔力を無駄なく自分の意思でコントロールできること、素早く魔力を動かすこと。

 どれもこれも、まだまだ要精進の要訓練。

 先は長そうだが、成長を直に実感できるだけにやり甲斐がかなりある。

 

「よし」

 

 小さく呟き、肯く。

 本日の本番は、ここからと言っても過言ではない。

 ゆっくりと息を吸う。

 ゆっくりと息を吐く。

 素早く息を吸い、腹圧を入れるように腹筋を固める。

 魔力の操作に筋力は関係ない。

 だがイメージだ。

 イメージが大事だ。

 秋水は魔法とかいうファンタジックなエネルギー操作技術に詳しくないが、今まで身体強化という魔法や魔素回収の魔法を使ってきたなんとなくの肌感覚として、魔法で大事なのはイメージなのだというのは分かっている。

 故に腹筋に力を入れる。

 ジャケットの下では8つに割れた腹筋が板チョコバレンタインをこっそり披露していることだろう。

 その腹から魔力を押し出すように、手を通して巨大バールへ。

 循環ではない。

 流す。

 魔力を巨大バールに流す。

 そして流した魔力は、魔素を回収する要領で引っ張り戻す。

 

「…………おん?」

 

 秋水は思わず首を捻った。

 魔力が、巨大バールへ流れない。

 魔力を流すのに、どこか引っ掛かりのようなものを感じる。

 いきなり本日の実験が頓挫だろうか。

 

「おいおい、ラットプルダウンのケーブルには流せただろ。グローブが間に挟まってるからか? いや、ラットプルダウンのときだってトレーニンググローブつけてたし……」

 

 巨大バールを握る手元を見て、秋水はもう一度首を捻る。

 魔力が流れない。

 ジムでラットプルダウンのマシンを使って試したときは、ちゃんとマシンのケーブルに魔力を流せたはずだ。

 手の平や手首の保護という実用性以前に、秋水にとって気合いを入れるアイテムであるトレーニンググローブをしっかり装着して、その状態でラットプルダウンのケーブルに魔力を流すことができたので、ライディンググローブを装着してたって理屈としては行えるはずだ。

 素材の問題だろうか。

 その場合、グローブの素材が問題なのか、巨大バールの素材が問題なのか。

 ライディンググローブとトレーニンググローブで魔力の流れやすさが変わるのだとしたら、一度戻ってトレーニンググローブを持ってくるべきかもしれない。もしくは、ここは素手で試してみるべきだろうか。

 巨大バールの素材は確か、律歌が以前に専門店でオススメしてくれた高炭素鋼とかいう奴だ。炭素の含有量が多くなっていて、硬くて強くて丈夫だとかなんとかかんとか。律歌が流れるように説明を浴びせてくれたはずなのだが、半分以上覚えてなくて若干申し訳ない。

 いや、素材以外に考えられる要因はなんだろうか。

 ふむ、と秋水は体の中に魔力を循環させつつ鼻を鳴らして考える。

 考えなしのトライ&エラーで回数をこなすだけの学習方法は、効率としては下の下もいいところ、とかつて鎬に勉強を見てもらっていた頃、鎬からは口を酸っぱくして教え込まれた。

 

 試行錯誤に取り掛かるときは、最初に『成功』と『失敗』と『ゴミ』の定義をしなさい。

 

 一時期は鎬の口癖のようなものだった。

 成功とは、道筋立てて理解した上で課題をクリアすること。

 失敗とは、成功しなかったが成功するためのデータが取れたこと。

 それ以外は全部ゴミ。

 失敗とゴミの分別ができてこそ、初めて『失敗は成功の母』となるのだ。

 人の時間は限られている。その中で、闇雲にひたすらトライの回数だけ重ね、エラーの分析をしないのは、あまりにも時間効率が悪すぎる。

 しかも、下手な鉄砲数打ちゃ当たるとばかりにトライして、たまたま当たってしまったら、それは悲惨だ。

 成功とは、成功までの道筋を理解した上でクリアして、初めて成功だ。

 まぐれ当たりは理解を阻む、最悪のゴミとも言える。

 トライ&エラーで重要なのは、エラーの分析。

 結果が失敗であれば、失敗した原因を分析して成功に向けてのフィードバックを行うこと。

 そして、ゴミの結果を生み出さないこと。

 ゴミデータを入れても、出てくるのはゴミだけだ。

 英語では、GIGO(Garbage In, Garbage Out)、という略語まで生まれている言葉である。

 

「……いや、待った。そもそも髪や爪が身体強化できてたのは、自分の一部分っつーイメージが無意識にあったからだろ? ラットプルダウンでやったイメージは確か……」

 

 ぶつぶつ呟きつつ、秋水は巨大バールを構え、再び深呼吸をする。

 こうやって、エラーの分析をするのは、楽しい。

 試行錯誤をしている感がある。

 失敗を深掘りして、着実に前に進んでいる感じがする。

 少しだけ口元に笑みを浮かべつつ、秋水は息を短く吸い込む。

 腹圧を入れる。

 巨大バールをしっかり握る。

 これは体の一部である。

 腕の延長線にあるもの、ではない。

 これらはまるっと、自分の体。

 ライディンググローブは、自分の手なのだ。

 この巨大バールは、自分の腕なのだ。

 武器とは、自分の体の一部となって、初めて武器となる。

 全部、自分の体だ。

 そんな思いで、腹から圧力を掛けて押し出すように、巨大バールへ魔力を流して。

 

 ちょろり、と巨大バールに魔力が流れた。

 

 なるほど、この感覚。

 確かにライディンググローブを通り巨大バールへと魔力が流れたのが、感覚として分かる。

 流れた、ではないかもしれない。

 伝わった、という感覚だ。

 伝達。

 そう、魔力が伝達した。

 そんな感覚がする。

 だが、まだ少ない。

 

「こうか?」

 

 流すではなく伝達させる。

 そんな微妙なニュアンスの違い程度にイメージを変え、再度魔力を巨大バールへと伝える。

 

 先程より、多くの魔力が伝達される。

 

 しかし、やはり何か引っ掛かりを感じる。

 ラットプルダウンのケーブルへと魔力を伝達させたときより、伝えられる魔力が少ないような気がする。

 やはり素材が原因なのか。

 それとも周りに魔素があるのが何か影響しているのか。

 イメージの内容に問題があるのか。

 ただの練習不足なのか。

 多少は魔力を流せるようになったものの、改善の余地は山積みだ。

 いいね。

 楽しくなってきたじゃないか。

 巨大バールに魔力を伝達させながら、にぃ、と秋水は静かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粉砕のぉぉ、バァァルストラァァァァイクッ!!」

 

 出会った瞬間のご挨拶とばかりに角突きタックルで突っ込んできた角ウサギの頭を、巨大バールでぶん殴る。

 手慣れたカウンターは、もふもふした可愛らしい角ウサギの頭部を一撃で言葉通りに粉砕した。

 スイカ割りで木刀ではなく、ショットガンを取り出したかのような光景だ。

 身体強化の出力は出し惜しみなしの100%。

 部分強化による重ね掛けを前提にしない、純粋な全力全身強化によって繰り出される巨大バールの一撃は、もはや角ウサギの防御力を遥かに上回る威力を叩き出せるようになっていた。

 逆に言えば、その威力の攻撃を数発は耐えられるコボルトの耐久性は一体どうなってるのか、という感じである。

 相も変わらず馬鹿の1つ覚えのような必殺技、角突きタックルを初手でかましてくれる角ウサギをワンパンノックアウトした秋水は、棒術のようにくるくると巨大バールを回してから構えをとる。

 まあ、構えた時点で相対する角ウサギの頭部は消し飛んで、ただのデカいウサギでしかない首から下だけの存在になっているのだが。

 

「よし、準備運動にもならねぇ」

 

 再び巨大バールをくるりと回し、地面に突き立ててから秋水は溜息をゆっくり吐き出して身体強化をOFFにする。

 分かっていたことではあるが、身体強化によって角ウサギとはもう、だいぶ実力差が付いてしまっている。

 角突きタックルであろうとも、秋水は身の危険を感じるどころか、ヒヤリとする感じすらもない。

 やっていることは一方的な虐殺。

 あまり楽しくない。

 しかし、実力差があまりにもかけ離れているため、実験するには丁度いいとも言える。

 

「角ウサギじゃなくて、これからは角モルモットってか?」

 

 実験動物と言えばマウスかモルモット。

 モルモットの方がウサギに似ているなぁ、と思って適当な軽口を呟いてから、げっ歯目とウサギ目では根本から違うじゃねぇか、と自分で自分にツッコミを入れておく。

 閑話休題、それはともかく。

 頭を消し飛ばして早速魔素を噴出させている角ウサギの残骸から、地面に突き立てた巨大バールへと視線を移す。

 身体強化の魔法は解除した。

 しかし、すぐにまた発動できるように、魔力は体の中を循環し続けている。

 そして、巨大バールにも、魔力は伝達し続けている。

 体を巡る魔力を5としたら、巨大バールへ伝達できている魔力は精々1くらい、もしくはそれに届かないくらいだろう。

 全身の身体強化を全力で行えば、その強化倍率はざっくりと200%である。

 魔力量と強化倍率が一次関数のような関係であるとは決まっていないが、もしも巨大バールに身体強化と同じような強化の魔法が施せるならば、単純計算で40%の強化が見込める。

 

 実に魅力的だ。

 

 銃器や近代テクノロジー的な兵器を入手できない以上、秋水が使える武器というのは、質で言えば現段階がすでに上限である。

 チェーンソーとか、と一瞬考えたこともあるが、重くて振り回しし辛くて、しかも想定されていない使い方をすればキックバックが起こるリスクを考えると、武器としての使用は却下である。

 ならば身体強化によるパワーにものを言わせて巨大な武器を、とも考えたが、広いと言えども洞窟内、巨大バール以上に取り回しの悪い武器はそれだけでデメリットだ。そもそも、庭の入口である縦穴を通せないサイズのものは、搬入が物理的不可能である。

 ならば、秋水が住む刃物の街ならではの日本刀ならどうだろう。お値段おいくら万円というのを知っている以上、流石に手が出ないし、本物の日本刀は警察に届け出が必要だ。ただでさえお巡りさんに警戒されているのに、これ以上自分自身の首を絞めるような真似はしたくない。

 等々考えれば、バールや鉈や斧、それ以上の武器は手に入れられないだろう。

 そしてそうなれば、地下4階、地下5階のモンスターには、その武器が通用しなくなる可能性が高い。

 いや、そもそも、秋水の身体強化に対して、バールなどの耐久性が追いついてこれなくなる。

 以前、少しだけ考えた。

 将来的には、拳が最強の武器で、裸が最強の防具、となってしまう。

 ゲーム的でファンタジックな武器や防具が手に入らないのならば、その現実がそう遠くない未来にやってきてしまう、というのが最近の悩みであった。

 だが。

 だがしかし。

 これで身体強化のように、武器や防具が魔法で強化できるとなったらどうだろう。

 より硬く、よりしなやかに。

 バールが、鉈が、斧が。

 ジャケットが、パンツが、グローブが、シューズが、ヘルメットが。

 魔法で強化できるのならば、秋水の悩みが一発で解消する。

 身体強化で強くなる秋水の肉体に対して、同じように魔法で武器と防具が強化できるなら、耐久性が追いついてこれなくなる、とはならなくなる。

 仮に強化倍率の成長速度と、武器や防具の強化倍率の成長速度に差があったとしても、裸こそ最強、となる未来に到達するまでの延命処置は可能なはずだ。

 そう考えれば、武器と防具を魔法で強化できるというのは、実に魅力的である。

 

 

 

「……できるんだったら、な」

 

 

 

 ぽつり、と秋水は微妙な表情で呟いた。

 愚痴を零すような感じになってしまった。

 

「身体強化」

 

 ふ、と小さく秋水は息を吐き、いつものように宣言する。

 

「100%」

 

 そして、いつものように、体を循環する魔力に、色を落とした。

 魔力に色を落とす。

 それが、秋水が魔法を発動させるときのイメージである。

 身体強化という色を落とした魔力は、その性質を変貌させ、秋水の体に浸透する。

 いつもの感覚。

 いつもの身体強化。

 いつも通り。

 いつもと差異は、ない。

 

 

 

 しかし、巨大バールに伝達し続けている魔力に、色が届かない。

 

 

 

 巨大バールは、巨大バールのままだった。

 硬くなってない。

 しなやかになってない。

 なにも変化はない。

 魔力が流れているだけの、ただの巨大バールである。

 

「上手くいかねぇなー……」

 

 秋水は首を捻る。

 身体強化のように、巨大バールが強化できない。

 自分の体以外に魔力を伝達させるのは、なんとなくできる。

 だが、その魔力を使用して、魔法へと変容させられない。

 

「エラーを吐き出すのは構わねぇけど、成功への取っ掛かりが思いつかねぇ。手掛かりゼロじゃゴミだよな」

 

 ぶん、と巨大バールを振るってから、秋水は首を横に振る。

 失敗は成功の母である。

 しかし今のところ、武器の強化というトライによって吐き出されたエラーは、失敗にすら届いていない。

 

「根本的になにか間違ってるっぽいな、これ」

 

 溜息とともに、身体強化の魔法を解除する。

 秋水の魔法は、基本的に独学だ。

 ただただ手探りでやり方を探しながら、回数をこなして魔法の扱い方を学習しているのである。

 だから、現在の秋水が行なっている魔法が正しいとか効率的だとかは、比較対象がないから分からないのだ。

 もしかしたら、魔力を循環させて色をつける、という秋水が確立してきた魔法の発動方法が、途轍もなく非効率的な可能性もあるし、根本的に間違っている可能性も十分にある。

 そして、ただの直感でしかないのだが、巨大バールを魔法で強化できないのは、そういう根本的な間違いによって躓いてしまっている感があった。

 今のままでは武器や防具を強化する魔法は発動できない。

 勘に近いところで、秋水はそう察していた。

 

「うーん……」

 

 天井を見上げて、秋水は軽く鼻を鳴らす。光る岩が眩しい。

 武器と防具のグレードアップは、これから先のダンジョンアタックには必須条件。

 そして、その武器と防具を強化できる魔法は、現状では唯一の解決策。

 そんな魔法があるのならば、是非とも習得せねばならない。

 あるのならば、だが。

 

「……やっぱり、ファンタジーを勉強する必要があるな」

 

 

 





ファンタジーの世界観って、そんな勉強するようなものでしたっけ(。´・ω・)?
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