これは、真っ先に買うべきものだった。
棟区 秋水は内心で酷く後悔する。
紗綾音の提案で、秋水は渡巻邸にお呼ばれした。
目的はファンタジー事典。
その中でも、モンスター事典と魔法事典をじっくり読ませてもらった結果、秋水は買うのを後回しにしてきた自分を恥じるしかなかった。
情報は武器だ。
それを疎かにしてしまった。
筋トレの正しいフォームを調べず、なんとなく感覚で行っているようなものである。これでは最初の頃の美寧をとやかく言えない感じだろう。
2冊読んだだけでも、重要そうな情報が幾つかあった。
スマホのメモ帳に覚え書きをするべきか。
いや、そもそも、このファンタジー事典を買うべきだ。
秋水はすっとスマホを取り出して、魔法に関する事典の表紙をカシャリと撮影した。
「え、棟区くん、もう読んだの?」
撮影の音に気がついた紗綾音が顔を上げた。
秋水が現在いるのは渡巻邸、紗綾音の部屋である。
広々とした部屋の床は、綺麗な白っぽい木のフローリングに、水色のラグを中央に敷いている。
ラグと同じくカーテンも淡いブルーなのを見るに、紗綾音は青系統が好きなのかもしれない。そういえば、ニット帽やダッフルコート、手袋に至るまで、紗綾音の身に纏っている防寒着はだいたい青だったような気がする。
壁にはピンナップボードが飾られており、プリクラやらチケットの半券やら走り書きのメモやらが貼られていた。
ベッドはシンプルだが、恐らく安くない品であるのは、秋水の素人目でも分かる。ベッドの横に無造作に置かれたぬいぐるみも、なんとなく聞いたことがある高級ブランドのロゴが見える。
おおよそ値が張りそうな家具が多い中、秋水の目の前にある本棚は、どこか手作りのようなものであった。
本棚だけではない。紗綾音が鞄を置いた机もまた、手作りのような味わいのある家具である。
DIYが趣味だと言っていたことを考えれば、律歌のお手製だろうか。
手作りかも、と見て分かるが、そういう雰囲気でデザインされた既製品と言われたら信じそうな出来映えである。
作りは丁寧で、渋いというか少し大人びたデザインだ。律歌のイメージにはぴったり合うが、机の上にコスメポーチやら鏡やらを置いている紗綾音が使うには、少々ギャップを感じてしまう、というのは失礼だろうか。
その机に鞄を置いて、紗綾音はなにやらゴソゴソとその鞄から出し入れしつつ、沙夜と喋っているところであった。
部屋に入ってから10分は経っていない。
コート類こそ脱いでいるが、2人はテストの出来はどうだったかという話題で盛り上がっていた。
そして秋水は部屋に入ってすぐ、紗綾音から「その本棚に色々あるよ」と言われて以降ずっとファンタジー事典を読んでいるのだった。
「はい。2冊だけですが」
「2冊も!?」
ぎょっとしたような表情をされた。
しかも隣の沙夜も似たような反応である。
何か驚くようなことでもあっただろうか。
秋水はスマホをズボンのポケットに入れながら、紗綾音の部屋の本棚へ魔法に関する事典を戻し、そのまま隣にあった3冊目の事典を取り出す。
ファンタジーの武器。
面白そうだ。
今のところ、角ウサギからはアンクレット、コボルトからはネックレスがドロップするが、将来的には武器になるようなものをドロップするモンスターが出てくるかもしれない。
と言うか、是非とも出てきてほしい。
秋水は武器に関する事典を開く。
立ち読みである。
「……え、サヨチ、私たち、そんなにお喋りしてた?」
「いや、そんなことない……と思うけど……」
驚きの表情を浮かべた2人がなにやら確認し合っているが、秋水はそれを無視してぱらぱらとページをめくり、文字を目で追い、イラストを情報として頭に入れる。
なるほど、これはゲーム的な武器がどうのこうの、という話ではなく、神話の世界の話に出てくる武器を説明している事典だ。
ギリシャ神話から始まって、日本神話に移り、ケルト神話やエジプト神話などに出てくる武器達を、撫でるように紹介している。
これは、買うのは保留してもいいだろうか。
いや、しかしゲームなどに登場するファンタジー要素のある武器というのは、何故か神話の世界から引用されているのが多い印象だ。と言うより、スライムにしたってコボルトにしたって、そういう物語から由来しているモンスターである。
知っていて損はないだろう。なにかの役に立つかもしれない。
やはり買うとするか。
じっくりと最後まで目を通してから、これもまた秋水は表紙をスマホで撮影しておく。
そして、その事典を本棚に戻し、隣の事典を引き出した。
錬金術。
これはダンジョンに関係あるのだろうか。
いや、知識というのはなにがどう作用し合うかが予測できない。
とりあえず読もう。
表紙を確認してから秋水はすぐに事典を開いた。
「速くない!?」
と、そこでチワワがなんか鳴いていた。
どうしたのか。
秋水はつられて顔を上げる。
「え? 本当に読んだの? 斜め読みとかじゃないの?」
「いえ、一応一通り……先程の事典は興味深かったですね。各国の神話の話から武器というジャンルだけを切り取って紹介するのは、なかなかに思いつきませんでした」
「えーと……なにが一番印象に残ったかな?」
「そうですね、村正というのは実在する日本刀なので、ファンタジーの武器という分類に属しているかは疑問を感じました。ただ、三種の神器のように、実物は存在しているが、という代物があることを考えると、確かに付随している物語がファンタジーのジャンルに属していればファンタジーの武器という括りにはなるのかな、と」
「読んだねぇ……」
何故か疑いの眼差しから呆れた眼差しに変わってしまった。
なんなのだろうか。
紗綾音の視線に首を傾げてから、秋水は再び事典の方へと視線を落とす。
「速読だぁ……」
「律歌先輩と同じくらい早いな……」
紗綾音と沙夜がこそこそと喋っているのを聞き流す。
なお、秋水は別にガチの速読ができるわけではない。
ただ単に、文字を読んでいるときに “頭の中で音読をしない” というのができるだけである。
頭の中で文字を言葉として読み上げているより、文字を文字という記号情報として頭の中で処理した方が速く読める。それができるだけなのだ。
速読のレベルでいえば、入門編をクリアしているぐらいでしかない。
2人の視線を感じつつ、秋水は錬金術に関する事典を読み進める。
錬金術と言えば、現実のこの世界にもかつては錬金術師なる者はいた。賢者の石の探求や、不老不死の探求を行う、近代科学の基礎を築いた探求的な学問だ。
実際には卑金属を貴金属に変える賢者の石も、不老不死を実現するためのエリクサーという霊薬も、作り出すことはできなかったが。
しかし、ファンタジーにおける錬金術は、魔法だかなんだか訳の分からない理屈によってガチの錬金術が『ある』という前提になっている。
SF的な物語の方を好む秋水にとって、歴史上の前提が狂うというのは興味を引かれてしまう。
錬金術が現代科学の礎となったのは、不可能を可能にしようとして、膨大なる試行錯誤と、その手法や失敗の副産物を大量に生み出したからだ。
だが、魔法によって本物の錬金術があるとなれば、近代科学の基礎がそもそも生まれない可能性が高くなる。下手をしたら蒸留器どころかフラスコすら存在しないかもしれない。どちらも錬金術師が生み出した、有名所の器具である。
むしろ、ファンタジーにおいての錬金術は、どうやって発生したのだろうか。
現実の錬金術は、中世ヨーロッパの物質における主流思想であったアリストテレスの四元素説、熱く乾いたプラズマ体の火、熱く湿った気体の空気、冷たく湿った液体の水、冷たく乾いた固体の土、という考えを否定することから始まっている。
錬金術師は古代ギリシアのデモクリトスが主張した方の原子論を持ち出して、物質は元素と呼ばれる究極の構成単位から成り立っている、という考えを用いて、その元素という基本単位の組み合わせと再構成で物質を変容させようとしたのだ。
だがしかし、ファンタジーの世界では、ガチで魔法がある。
しかも何故か、アリストテレスの四元素説で属性が説明される。
火の属性、風の属性、水の属性、土の属性。
四元素と同じく重要な、熱いと冷たい、乾いていると湿っている、という四性質はどこいった、というツッコミが頭の中を通り過ぎるが、ファンタジーの世界ではアリストテレスの四元素説は実証つきの主流思想である。
錬金術師がアリストテレスの四元素説を否定したのは、実証がないからだ。
四元素説を用いても、物質は変性できない。
卑金属から貴金属は生み出せない。
だからデモクリトスが主張した方の原子論を持ち出したのだ。
だが、ファンタジーの世界ではどうだろうか。
アリストテレスの四元素説を否定して、錬金術という学問はそもそも生まれるのだろうか。
これは面白い。
面白い思考実験だ。
棟区 秋水、ファンタジーの楽しみ方をどこか間違えている。
しかし、面白いのは確かだが、この知識がダンジョンアタックに役に立つのだろうか。
錬金術の事典に関しては、買うのはちょっと保留にして良いかもしれない。
そう思いながらも、秋水は一応表紙をスマホで撮影しておく。
「……棟区、それ、面白いのか?」
と、そこで沙夜が声を掛けてきた。
秋水は事典から顔を上げ、沙夜の方へと顔を向ける。
「ええ、興味深いですね」
「棟区の興味深いっていうのは、面白いって意味でいいのか?」
「はい、面白いですよ。参考になります」
「参考になるのか……」
へー、と沙夜は声を上げ、本棚の方へと近づいた。
秋水は邪魔にならないように半歩下がると、沙夜が本棚からハードカバーの本を1冊取り出す。
幻想生物事典。
秋水が最初に目を通した、モンスターに関する事典だ。
面白いのか、と小声で呟きながら、沙夜はその事典を開く。
クラスメイトの部屋で、立ち読みが2人。
部屋の主である紗綾音が、呆れたように見ている。
「2人ともー、座って読んでいいんだよー」
立ち読みもなんだしさー、と言いながら紗綾音は座ることを促してきた。
確かに、紗綾音の部屋に通されてから、デカい男が本棚の前でずっと立ちっぱなしで本を読んでいる。
邪魔かつ怖い光景だ。
まあ、自分の場合は立っていようが座っていようが、邪魔で怖いのだけれど。
秋水はそんなことを思ってから、ふと気がつく。
紗綾音にお礼を言っていなかったな、と。
「そういえば紗綾音さん、本日はこれを読ませていただきまして本当にありがとうございます」
「どーいたしましてなんだよ。でもなんか、その挨拶は帰るときの挨拶なんじゃないかな?」
「そうでしょうか」
「そうなんだよ」
紗綾音が苦笑いをする。
読み始めていた事典から、沙夜が顔を上げた。不思議そうな表情である。
「あれ、棟区っていつから紗綾音のこと名前で呼ぶようになったんだ?」
口にしたのは純粋な疑問符だった。
先週の時点で紗綾音を名前呼びに切り替えていたのだが、今になって気がついたらしい。
まあ、理由もなにも、渡巻さん、だと律歌と被るから名前呼びにしているだけなのだが。
秋水は答えようと口を開きかけたが、何故か紗綾音が手の平を向けてきてストップをかけてきた。
「流石のニブニブサヨチも気がついたようだね」
「なんだとこのヤロウ」
「実は先週のさ、お姉ちゃんのデート―――」
ふふん、胸を張るようにして言葉を続けようとしたとき、玄関の方から声がした。
「ただいまー」
無防備に半開きになっているドアから、律歌の声が遠くに聞こえる。
帰宅したようだ。
その声を聞き、沙夜の表情がぱっと変わった。
「律歌先輩だ!」
「自分で聞いといて興味なくすの早くないかな?」
「おかえりなさい律歌先輩!」
学校で試験が終わり、一安心しながら家に帰ってきた律歌を出迎えてくれたのは、妹の親友、竜泉寺 沙夜であった。
とたたた、と早足で階段を駆け下りてくる沙夜は、いつものようにとても明るい表情で、それを見上げた律歌も思わずほっとする。
「こんにちは、沙夜ちゃん」
「はい、こんにちは律歌先輩!」
駆け寄りながらハキハキとした挨拶。
流石は妹の親友。元気だ。
沙夜がいるということは、妹はもう帰ってきているのだろう。今日は寄り道もせずにまっすぐ帰ってきたようだ。同じく試験明けだというのに珍しい。
家で試験のお疲れさま会でもしているのだろうか、と律歌は玄関の靴をちらりと確認したが、どうやら招かれているのは沙夜と、もう1人だけのようだった。交友関係の広い妹にしては、お疲れさま会をやるには少人数だ。
しかし、もう1人の靴、サイズが大きい。
無骨なその靴は、どこか見覚えのある靴であった。
ああ、『働く男』 で売っている作業靴だ。
滑りにくくて丈夫で、足先のガードは入っていないタイプのものである。
そして安い。
見るからに男物だ。
男、かぁ。
また男子を平然と招いちゃってるよ紗綾音。誤解されなきゃいいけど。
律歌はちょっとだけ微妙な表情を浮かべながら、ニット帽とダッフルコートを脱ぐ。
すると、沙夜が手を差し伸べてきた。
「持ちます!」
え、と律歌は思わず声を上げる。
妹の親友に荷物を持たせる。
それはちょっと、どうだろう。
律歌は遠慮しようとしたが、沙夜は慣れた手つきで律歌の手からニット帽とダッフルコートを取り上げるように預かる。
にこにこ顔だ。
凄い嬉しそうだ。
逆に遠慮しづらい。
「あ、ありがとうね」
「いえ! あ、鞄も持ちますね!」
「えっと、鞄は…………お、お願いしようかな」
流石に鞄は、と思って遠慮しようとしたものの、その気配を察した沙夜が、しょげ、としたような表情をするものだから、律歌は苦笑いしながら鞄も沙夜に渡さざるを得なかった。
鞄も受け取った沙夜の表情が、ぱぁ、と明るくなる。
律歌は、何故か沙夜に慕われている。
慕われているというか、好かれている。
最初の頃はそうでもなかったのだが、段々と、そして加速度的に沙夜に懐かれるようになり、むしろ律歌は戸惑っている。
なんか好かれるようなことしたっけなぁ。
身に覚えがなにもないにも拘わらず、沙夜から慕われるのはなんとなく居心地が悪い。
その反面、やはり他者から好かれるのは嬉しいものでもある。
微妙な感情だ。
ぶんぶんと振られている犬のしっぽを沙夜に幻視しながら、律歌は苦笑を浮かべて首を締めていたネクタイを緩める。
この家は暖かい。
空調が24時間体制で効いていて、室温が終日管理されている。
豪華な設備だ。
自分の家は金が掛かっていることを自覚しつつ、律歌はついでに一番上のボタンと、第二ボタンも外した。
寒い外から帰ってきたので、体がじんわりと温まる。
「律歌先輩、テストお疲れさまでした。今回のテストはどうでしたか?」
「うん、いつも通りかな。ミスはないかな、って感じ」
「おー、凄いですね!」
靴を脱いでスリッパを履いて、そして自分の部屋へと続く階段へ向かえば、当然と沙夜が後ろからついて来る。
ワンちゃんみたいで可愛い。
「沙夜ちゃんもテストだったよね。お疲れさま」
「はい! ありがとうございます!」
「沙夜ちゃんの方はどうだった?」
「今回は自信あります!」
自然と今日まであった学年末試験の話をしつつ、階段を上る。
えへん、と自信満々に胸を張る沙夜を見るに、本当に今回は確かな手応えがあったみたいである。
まあ、高校受験も近いし、勉強を頑張ったんだろう。
沙夜の志望校は、律歌の通っている高校だ。彼女の実力ならば、問題なく合格できるだろう。
また2年間、沙夜は後輩になりそうだ。
同時に、妹もまた、同じ志望校である。
4月からは高校生活が一気に楽しくなりそうな予感がする。
ふふ、と律歌は小さく笑った。
「沙夜ちゃんは頑張ったんだね」
「まあ、今回は学年首席の奴に、ちょっとだけ勉強を見てもらったので……」
と、沙夜が少しだけ悔しそうな表情を浮かべた。
学年首席。
妹の口からも聞いたことのないジャンルの人物だ。
誰だろう。
「そうなんだ。良い人に教えてもらったんだね」
「そう……いや、そうなんですけど。確かに凄い分かり易くて、めっちゃ助かったんですけど……」
「……えっと、もしかして、沙夜ちゃんと仲悪かったりする?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど、喋ってみるとかなりの天然で結構なボケ野郎なんで、こいつが学年首席かぁ、と思うところが結構あると言うか……」
少しだけ、ではなく、わりと真面目に悔しそうに沙夜が結構ボロカスに言う。
どうやら仲は悪くなさそうだが、勉強に関しては思うところがある様子だ。
複雑な人間関係みたいである。
そこで階段を上り終わった。
律歌の部屋は、奥にある。
手前は妹の部屋だ。
ドアはきちんと閉められていた。
出迎えに沙夜が来てくれたということは、沙夜がちゃんとドアを閉めてくれたのだろう。妹はよくドアを半開きにしているのだ。
まずは着替えなくちゃ、と律歌は妹の部屋の前を通り過ぎようとした。
過ぎようとして、ふと足を止める。
いや、ちょっと待った。
律歌は気がついた。
律歌が足を止めたことで、同じく沙夜が足を止めたのが音で分かる。
今、自分の後ろには沙夜がいる。
今日、妹が家に招いている友達は、2人。
沙夜と、大きいサイズの作業靴の誰か。
恐らくは、男子。
おい。
「ね、ねぇ、沙夜ちゃん?」
律歌はゆっくり、そしてぎこちなく振り返る。
出した声が若干震えていた。
なんでしょう、と沙夜は小首を傾げる。
「紗綾音って、もしかして、部屋?」
「はい」
「…………………………」
さぁ、と律歌の顔が蒼くなった。
なるほど。
そうですか。
じゃあ、沙夜が今ここに居るということは、妹は男子と部屋で2人きりということか。
おかしい。
妹は男子相手にも無警戒で、色々と勘違いをさせてしまう言動が多い女子としての自覚が薄い子ではあるが、沙夜はそれを諫めたり、妹のガードに入ってくれていたりするのを買って出てくれていた子である。
その沙夜が、妹と男子を部屋に2人きりにさせている。
ということは、その男子が余程沙夜に信用されているか、もしくは妹と2人きりにさせてもおかしくない『そういうご関係』なのか、のどちらか。
なお、可愛い妹に『そういうご関係』な男子がいる場合、律歌は今ここで爆発四散する自信があった。
律歌は沙夜を青い顔で見上げたまま、ゆっくりと右手を真横に伸ばす。
コンコン、とノックをする。
「はー―――」
「おじゃまします!」
そして返事が聞こえた瞬間に、妹の部屋のドアを開け放った。
姉として、妹をどこの馬の骨かも知らない男子と部屋で2人きりにさせるわけにはいかない。
というか許さない。
むしろ、妹が男子へ至近距離に無防備なまま近づいたり、べたべたとボディタッチをしたりして、男子をその気にさせてしまわないかが心配で仕方がない。
妹への信頼?
そんなものはない。これに関しては。
「うわっ、いきなりビックリケットのバッツマン」
「こんにちは」
妹の部屋には、棟区 秋水がいた。
「……はぇ?」
思わず律歌の口から変な声が漏れてしまう。
妹の部屋。
その本棚の前には、律歌よりも50㎝近く背の高い、屈強な大男が本を読んでいた。
ついでに妹も彼の隣で本を読んでいた。
2人揃って、何故か立ちながら、本棚の目の前で本を読んでいた。
いや、というか、秋水である。
棟区 秋水である。
律歌がアルバイトで勤めているコンビニの常連さんで、妹のクラスメイトで、夏頃にはバイクを買う予定である、背が高くて筋肉質で男らしい、特徴的な顔立ちをした男性だ。
最近、何かと縁のある、男性だ。
男性だ。
「ちょっとお姉ちゃん、返事してから入ってって自分でいつも言ってるじゃーん、ビックリしたー。それからアンド、お帰りなさいませなんだよー」
妹が軽い調子で言ってくる。
ごめん、お姉ちゃん、ちょっと返事する余裕がない。
律歌は秋水を見上げ、酸欠の金魚のようにぱくぱくと口を開く。
「おかえりなさい。お邪魔しています」
落ち着いた、低い声。
体に響くような、秋水の独特な声がする。
ぞわ、と背筋に甘い鳥肌がわいた。
「こ、こ……」
なんで家に。
いやそうか、彼は妹のクラスメイトだ。
妹が招いたって不思議じゃない。
だとしてもなんで。
え、妹と2人きりだったのか。
沙夜もそれを許したのか。
それくらい信用されてるということか。
問答無用の納得。
ではなく。
制服姿が素敵ですね。
じゃなくて。
ブレザーが窮屈そうというかネクタイが窮屈そうというか。
違う考えがとっちらかってる。
ぺこりと頭を下げて挨拶してくれた秋水に、律歌は何とか返事をしようと口を開こうとして。
す、と秋水の視線が上にずれる。
あれ、目を逸らされた。
律歌を見下ろして、まっすぐに目を見てくれていたのに、秋水が律歌の頭の上を見るように視線が移動する。
頭。
帽子で髪がくちゃくちゃになってしまっただろうか。
律歌は反射的にぱっと頭に手を当てる。
手を上げて、首元がひんやりとした。
秋水の視線が、気不味そうに左へ逸れる。
「……? ――っ!? ~~っ!?!?」
瞬間、律歌はシャツの首元を右手で隠す。
一瞬で顔が赤くなったのが自分でも分かる。
暑い。
いや熱い。
じゃなくてマズい。
家に帰ったら、ほとんど無意識にリボンを緩め、ボタンも外していた。しかもボタンは2つ外した。
秋水は背が高い。
ついでに律歌は背が低い。
彼との身長差はかなりのものだ。
つまり、自然と秋水は律歌を見下ろす形になる。
無防備に首元を空けてしまっていた律歌を、上から見下ろす形だ。
「こ」
ひっくり返って甲高い声が出てしまう。
恥ずかしい。
見られてないよね。
見えてないよね。
肌着着てるし。
何色だっけ。
肌着緩いタイプだ。
変なの見せちゃってないよね。
ていうか本当に何色だっけ今日の。
顔を真っ赤にしながら、律歌はシャツの襟を右手で無理矢理閉めるようにして首元を隠して、秋水を見上げ、にへら、と笑う。
「……こんにちは、秋水さん」
「はい、こんにちは、律歌さん」
どうにか声を絞り出し、律歌は蚊の鳴くように挨拶を口にする。
後ろで沙夜がとんでもない形相になっていた。
ファンタジー系統の事典、試しに読んでみたら普通に面白かった件。
妹に防御が甘いと口を酸っぱくして言っているお姉ちゃん、あなたも防御が甘い(^_^;)
次回は共感者が少ないであろう、ひねくれ者2人の感性についてのは話。
&、投稿したのがクリスマス・イブなので、イラストが少し。
・生成AIのイラストが「嫌い」という人は閲覧しないよう気を付けてください。
・私は生成AIに関して肯定派ですが、否定派の理屈は十分に納得もしているつもりです。仲よくしてぇ(;´・ω・)
・私の中のイメージなので、完全に自己満足でございます(*'ω'*)
・正月用のも来週投稿しようか考え中
【渡巻 律歌】(わたりまき りつか)
「うさ耳」
【挿絵表示】
【渡巻 紗綾音】(わたりまき さやね)
「着物風」
【挿絵表示】
【錦地 美寧】(にしきじ みねい)
「色仕掛け」
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【栗形 祈織】(くりがた いおり)
「なんでロリっぽいのかなぁ!?」
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