ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

233 / 267
226『秋水くんは理系の子』

 1対1。

 タイマンであれば退くことなしの真っ向勝負で殴り合いをするものの、流石に複数体のコボルトを相手にするならば、素直にヒット&アウェイを選択した。

 手斧を投げる。

 バールで殴る。

 離れる。

 バールを投げる。

 剣鉈で斬る。

 離れる。

 近づいて攻撃して離れて。

 駆け寄って一撃入れて離脱して。

 コボルトは2体。

 点在するスライムを無視すれば、ツーマンセルできやがったコボルトに攻撃と離脱を繰り返す。

 走り回るので運動量が半端じゃない。

 その中で、それぞれのコボルトとスライム、それから投擲した武器の位置を把握して、コボルトの体勢を確認しつつ次の行動パターンを予測して、さらにスライムを避けて走るルートを考えながら、追加で自分自身が次に行う攻撃を組み立てる。

 頭も常時フル回転。

 肉体的にも疲れる。

 頭脳的にも疲れる。

 最高である。

 

「たまんねぇなぁ!」

 

 猛獣のような笑みと共に、剣鉈を構えて突っ込み、そのままコボルトの首にドスッとぶっ刺す。

 その光景は、ガラの悪いヤクザがドスを構えて特攻する光景のまんまであった。作業服なのがまたシュールでよく似合っていた。

 コボルトの首に突き立てた剣鉈は、その刀身の根元近くまで深々と突き刺さる。

 ビンゴだ。

 にぃ、と秋水は口端をつり上げながら、突き刺した剣鉈から手を離し、体を捻るようにしながら脚を上げる。

 そして、ゴッ、と靴底をコボルトの腹に叩き込む。

 以前にコンビニで買った格闘技の雑誌で紹介されていた蹴り方を参考にしてみたが、写真だけだったので動きとして当たっているかどうか分からない。体の捻りを加えた分、ただのヤクザキックより威力が乗った気がするし、気のせいなのかもしれない。

 そのちょっとお洒落なヤクザキックを腹に叩き込まれたコボルトが、後方へと弾き飛ばされる。

 良い勢いだ。やはり威力が上がっている。

 ぶはり、とコボルトの口から色とりどりな光の粒子、魔素が吐き出された。

 死亡演出だ。

 

「よしっ!」

 

 放送自主規制で差し替えられた吐血のような、そんな魔素の吐き出しをしたコボルトを確認して、秋水は両手でガッツポーズをする。

 いや、ガッツポーズではない。

 両手を握り締めて拳を作り、腰に溜めた。

 コボルト1体、殺戮完了。

 残り1体。

 つまり、1対1。

 タイマンだ。

 つま先を下ろしながらも右足の踵を上げる。

 そしてその右足を内転させながら重心を移動させ、踵を下ろすようにして力を抜いて急速ターン。

 残ったコボルトに狙いを定める。

 邪魔なスライムは秋水のわりと近くにいるが、残ったコボルトの近くにはいない。

 なんと好都合。

 力を抜いた右足の踵が地面につく。

 一気に蹴り出して、コボルトに向かって突進する。

 

「さてはお待ちかね殴り合おうぜテメェ!」

 

 力強く握り締めれば、手の平に指先が食い込む感触。

 ライディンググローブのときには、クッションのおかげであまり感じなかった拳を作る感触だ。

 手には軍手。

 プロテクターなし、クッション性最低、防御力ほぼ皆無。

 10双で200円くらいという激安品の軍手である。

 ダンジョンアタックには、全く適していない装備と言ってもいい。

 その軍手をはめて、秋水は拳を握る。

 

「ブースト!」

 

 6割の出力で全身強化をした上に、右腕に残り4割の出力で部分強化を施す。

 身体強化の魔法、重ね掛け。

 コボルトは秋水を迎え撃つように、両手で握った棍棒を振り上げている。

 

「真っ向勝負に付き合ってくれて嬉しいねぇ!」

 

 右の拳を後方へと振り絞り、コボルトの目の前まで駆け寄った秋水が左足で踏み込む。

 棍棒が振り下ろされた。

 頭部、顔面狙い。

 秋水は構うことなく、左足で踏み込んだ勢いを殺すことなく腰、骨盤を回して捻る。

 踏み込みまでは押さえていた体の軸を、左足へと流す。

 体の軸、重心が踏み込んだ前足に移動する、その流れに乗せるようにして、秋水は引き絞っていた右の拳を解き放つ。

 同じく頭部、顔面狙い。

 

「づんっ!!」

 

『ガォゥッ!!』

 

 振り下ろされた棍棒が、秋水の被ったヘルメットのツバの部分を捉えた。

 振り下ろした拳が、コボルトの顔面を捉えた。

 互いに体を前に出した一撃に、合わせるようにしてカウンター気味に攻撃を叩き込む。

 バイク用のヘルメットではなく、ただのヘルメット。

 格段に防御力の劣るそれで受けると覚悟していた秋水は、首の筋肉に力を入れて構えたものの、まさかのヘルメットのツバ部分で棍棒を受けてしまった。

 ダメージそのものは随分と減少したものの、ツバが砕ける音と共に、ヘルメットが後方に押し出される感覚。

 これはこれで痛い。

 一方で、コボルトはモロに秋水の拳を顔面で受け止めることになる。

 ただの軍手。

 その拳。

 しかし、コボルトの顔面を捉えた右ストレートは、その顔面を砕き、めり込む。

 まさに鉄拳の一撃。

 文字通り数cmめり込んだ右の拳を引き抜く。

 重心を後ろに引いて、体の軸を中心に戻す。

 部分強化を解除。流れるように左腕に魔力を引っ張り寄せる。

 

「ブースト!」

 

 続いて左腕に部分強化を施して、身体強化を重ね掛け。

 踏み込みなし。

 重心を再び前にズラしつつ、腰から肩まで捻るようにして、今度は左手を握った拳を発射する。

 

『ヴッ!』

 

 顔を砕かれたコボルトの、その顔面に再び鉄拳が振り落とされた。

 その追撃で、さらにコボルトの顔面が陥没する。

 普通の哺乳類ならば脳に物理的なダメージが入っているであろう状態でなお、コボルトは棍棒を横へと構えていた。

 見上げた根性。

 しかし、遅い。

 

「ブースト!!」

 

 右の拳を後方に引き絞り、左腕の部分強化を解除しながら左の拳を引き抜き、流れるように右腕に魔力を集めて部分強化を施す。

 そして、体を捻るようにして左の拳を引き抜いた、その捻りに合わせて右の拳を打ち込んだ。

 ワン・ツー・パンチ。

 左のジャブから右のストレート。

 叩き込んだ右の拳は、手首の近くまでコボルトの顔面に突き刺さった。

 

「……ジャブとストレートの違いが分からねぇな」

 

 拳をめり込ませた姿勢のまま、秋水はぽつりと零した。

 コボルトの棍棒は、襲い掛かってこない。

 顔面に秋水の拳が突き刺さった瞬間、コボルトはビクリと大きく震え、動きが止まった。

 感覚的に分かる。

 

 トドメを刺した。

 

 コボルト殺しの回数を積み重ねると、なんとなく、どれだけダメージを積み重ねたらコボルトが死ぬか、というのが分かるようになる。

 感覚でも、直感でも、殺した、というのが分かった。

 ずぼり、と秋水はゆっくりと右の拳をコボルトの顔面から引き抜く。

 

「うっしゃ、身体強化切ってから……回収」

 

 引き抜いた右手を開き、ベアクローのようにコボルトの顔面をガシリと鷲掴みにすれば、そのタイミングで陥没したコボルトの顔面から、ぶわり、と大量の魔素が噴き出した。

 死亡演出のタイミングばっちりだ。

 右腕に施していた部分強化を解除して、それ用に使っていた魔力をぐるぐると回転させながら掃除機のようなイメージの色をつけて、魔素回収の魔法を発動させる。

 

「ふいぃ……おっと、こっちも」

 

 魔素を吸い上げる。

 魔力が満たされる不思議だが心地の良い感覚に秋水は溜息をつくが、慌てて左手を上げ、そちらの手の平でも魔素回収の魔法を発動させる。

 左手は、剣鉈でドスリと殺ってトドメを刺したコボルトの方へ向けられている。

 両手で魔素の回収。

 

「あー、極楽ぅ、はジジくせぇな」

 

 再び安堵の吐息を漏らしてから、秋水は自分にツッコミを入れる。

 コボルト2体、討伐完了。

 今回もまた、なかなかにスリリングであった。

 作業着と軍手とただのヘルメット、なんて装備でも優位に戦えていて逆に驚きである。

 まあ、バイク装備とは防御力が格段に下がっているので、棍棒の一撃もらえば大ダメージなのだが。

 魔素を両手で吸い取りながら、ちらり、と秋水は目だけで上を見た。

 ヘルメットのツバが見える。

 砕けていた。

 

「見晴らしが良くなったと考えるか」

 

 強がりを口にしながら、秋水は苦笑いを浮かべた。

 防具は消耗品である。

 壊れるのは仕方がない。

 むしろ、防具は壊れるのが仕事とも言える。

 防具が無事で本人が壊れるのなら本末転倒。防具が先に壊れ、それによってダメージを吸収するのが役目だ。

 だから、まあ、致し方なし、と考えよう。

 

 

 

 そう、防具は壊れるのが、普通。

 

 

 

「……ふむ」

 

 秋水は視線を戻し、鼻を鳴らした。

 本日は防御力を落として作業着スタイルでダンジョンアタック。

 当初の目的は、戦闘に集中することにより、バールや剣鉈などの武器への魔力供給やその循環を無意識にでも行えるようになるための訓練、であった。

 いや、現段階でも、その目的は継続中だ。

 ドスでドスリと、ではなく、剣鉈でドスリと突き刺したときも、剣鉈には魔力を送り込み、そして吸い込み、擬似的な魔力循環を行いながら思いきり勢いつけてぶっ刺し殺した。ザマァねぇ。

 息をするように、呼吸をするように、意識せずとも武器への魔力循環を行う。

 最初にコボルトを殴り殺してから、すでに30を超える戦闘回数をこなしている。ダンジョンの地下3階、地味に2周目だ。

 武器への魔力循環から意識を逸らしつつ、ひたすら殺し合いを積み重ねれば、なんとなくだが武器への魔力循環もサマになってきた、ような気がしなくもない。

 流石に体内の魔力循環のように、無意識でもスムーズに行える、というレベルからは程遠く、魔力の流れはどことなくぎこちないように思える。

 まあ、魔力の流れというのは可視化されているものではないので、どのようにぎこちないのかは上手く説明できないし、気のせいじゃないかと言われたら否定もできない。

 ただ、なんとなく違和感がある。

 体内の魔力循環と、武器の魔力循環が、なんとなく、違う。

 体感的な話なので、説明できないが。

 しかし、武器の魔力循環を無意識で行う、という訓練は、そこそこ順調だ。

 順調なのだ。

 

「問題は、こっちだな」

 

 力なく脱力しているコボルトの顔面をがしりと鷲掴みしている右手を見る。

 正確には、軍手を見る。

 

 

 

 多少汚れたが、破れもなければホツレすらない、現役で使用可能な軍手である。

 

 

 

 防具は壊れるのが普通だ。

 軍手を防具に含めるかどうかという話は、一旦横に置かせてもらう。

 最初の戦闘から、タイマン勝負は全て拳で行った。

 正真正銘の殴り合いである。なんて野蛮な。

 棍棒で殴られても殴る。

 組み付かれても殴る。

 退こうとしても殴る。

 日比野や覚王山から教えてもらったボクササイズのトレーニング動画と、ミッチから教えてもらったボクシングの試合の動画を参考にしながら、見様見真似で覚えたパンチで殴って殴ってひたすら殴る。

 骨という概念があるとは思えないコボルトの顔面を割り、頭蓋骨を砕き、頸椎をへし折り、肋骨を陥没させ、腹を爆発させ、秋水の拳は立派な凶器と成り果てた。

 ダンジョンの地下3階で、コボルトを殴り殺しながらボス部屋の前まで行き、引き返してコボルトがリポップするまで地下2階に上がって角ウサギだって相手をした。

 角ウサギ相手には、タイマンになったら拳で勝負、などと生ぬるいことはしなかった。

 最初から最後まで、全てを拳で殴り殺した。

 というか、角ウサギの角突きタックルに対してカウンターでその鉄拳を叩き込み、角ウサギは全て拳で爆散させた。

 そしてコボルトがリポップしてから地下3階に戻り、ここまで戦闘を積み重ねている。

 コボルトには1対1の状況になってから。

 角ウサギには徹頭徹尾。

 全身の身体強化を掛け。

 さらに一撃を叩き込むときは部分強化を重ね掛け。

 殴って、殴って、殴り続けた。

 軍手は、破れてもいない。

 

「絶対おかしいだろ、これ」

 

 秋水の着ている作業服は、すでにボロボロだ。

 破れているし、擦れている。

 激戦の跡、なんて言えば聞こえは良いかもしれないが、言葉通りで文字通りのボロを纏った状態である。

 ヘルメットだって、わりと破損している。

 コボルトの棍棒を何回か受けており、凹んでいるし割れている。

 全身ズタボロだ。

 ポーションがなければ、今頃秋水自身も痣だらけの血だらけなのは間違いない。

 

 

 

 なのに、軍手は、綺麗だ。

 

 

 

「こいつは……身体強化の対象に含まれちまってる、て考えてもいいな」

 

 少し考えてから、秋水は今の今までずっと引き伸ばし続けていた結論を、ぽつり、と言葉にして漏らした。

 口にしてから、だがしかし、と反射的に反論が出そうになる。

 それを押し黙らせる。

 事実、激安品の軍手は、ダメージらしいダメージを負っていない。

 通常の軍手であれば、あり得ない耐久性である。

 コボルトの顔面を陥没させて、角ウサギの顔面を爆散させて。

 作用・反作用で同じ力を押し返されている以上、普通に考えたら軍手だってとうに弾け飛んでいる、ハズである。

 が、無事。

 軍手は破れてもいない。

 何故だろう。

 その疑問に対して、秋水が考えつく理由は1つしかなかった。

 

 

 

 軍手が、身体強化の魔法により、強化されている。

 

 

 

 昨日はしっかり計測していないが、現在の身体強化はフルで200%を超えているはずだ。

 6割の出力で発動させた全身の身体強化の恩恵にあやかれば、強化倍率は120%以上。

 部分強化で身体強化を重ね掛けすれば、強化倍率は360%以上。

 軍手の強度だか耐久性だかが5倍近く強化されれば、この異様な丈夫さについて説明はつく。

 説明 “は” つく。

 

「…………じゃあ、なんで強化できたんだ?」

 

 コボルトが透明になって、消滅する。

 魔素の回収を終わらせた秋水は、そこから流れるように頭を抱えてしまった。

 軍手が身体強化の魔法に巻き込まれて強化された。

 これは、一先ず事実として受け止めよう。

 そうでなければ説明できないのだから、軍手が強化できた、という前提とする。

 その前提であれば、次に湧いてくる疑問は当然決まってくるのだ。

 

 何故、軍手は身体強化の魔法の、強化対象となったのか。

 

 困ったことに、皆目見当が付かない。

 何故できたのか。

 いつからできたのか。

 理由はなんだ。

 分からない。

 反射的に出そうになって押し殺していた反論が、今度は疑問符に形を変えて溢れ出てくる。

 抱えていた頭をばっと上げ、秋水はダッシュで部屋の入口まで走った。

 入口外にはいつものリュックサック。

 秋水はその外ポケットに入れていたスマホを取り出して、メモ帳を起動する。

 

「軍手が特別相性が良いだけなのか? ライディンググローブのときは強化されてたのか? 素肌との密着度合いの関係か? じゃあ靴下も強化されているのか? 作業服やヘルメットとの違いはなんだ? なんで武器の方は上手く強化ができないんだ?」

 

 湧き出てきた疑問をひたすら入力していく。

 何故軍手は強化できるのか。

 理由は不明だ。

 疑問ばかりが先に立つ。

 しかし現実問題、軍手は身体強化の対象に含まれ、しっかり強化されている。

 秋水は頭を掻こうとして、こっ、と左手が壊れかけのヘルメットに当たった。

 

「いや、そもそも魔力はどのタイミングで循環されてたんだ? なにをもって身体強化の強化対象に含まれたんだ? 髪や爪が強化される現象との類似点ってなんだ?」

 

 ヘルメットを外してから、秋水は改めて頭をバリバリ掻いた。短く刈り揃えた髪がチクチクする。

 武器に魔力を流して強化するのは、まるで上手くいっていない。

 しかし、軍手は強化できた。

 魔力を流す、循環させる、そんなことは一切意識などしていないのに、だ。

 しかも、身体強化の魔法を発動させるとき、軍手を強化するつもりなど全くなかった。

 なのに、強化できている。

 ということは、無意識に魔力を循環させていて、無意識に身体強化の魔法で強化していた、ということか。

 だとすれば、武器への魔力循環を無意識で行える訓練というのは、正解なのかもしれない。

 本当だろうか。

 本当にそうなのだろうか。

 軍手は強化された。

 逆に言えば、軍手だけが強化された。

 靴下はどうなのだ。

 パンツはどうなのだ。

 作業服は何故強化されていないのか。

 ヘルメットは何故強化されていないのだ。

 髪や爪などと同じく、強化対象に含まれる条件というのがあるのだろうか。

 手で持った武器も強化対象にすることは可能なのだろうか。

 素肌との接触率が鍵となれば、軍手やらライディンググローブ越しで握られた武器は、強化不可能ということにならないだろうか。

 しかし、魔力は送り込むことができる。

 いや、送り込む、という認識をしている段階で、すでに間違っているのだろうか。

 

「わっかんねぇなー。謎が謎を呼んでやがる」

 

 どれ1つとして分からない。

 浮かび上がってくる疑問をスマホのメモ帳に一通り入力してから、秋水は天を仰ぐように上を見上げる。光る天井の岩が眩しい。

 なんと言うか、もやっとする。

 必死扱いて武器を魔法で強化しようとしていたら、しれっと防具の方が先に魔法で強化されていた。

 しかも無意識。

 さらに軍手限定。

 もやっとする。

 ひたすらに、もやっとする。

 

「……納得できねぇ」

 

 そう、納得ができない。

 だから、もやっとする。

 武器より先に軍手が強化できた。

 理由は不明。

 どういう原理かも不明。

 武器の強化に応用できるかも不明。

 そもそも軍手以外の強化に応用できるかも不明。

 もやもやする。

 身体強化の魔法は、自分自身の身体能力を強化する魔法だ。

 自分の中にある魔力を操り、イメージによる色を落として、発動させる。

 それは、体を流れる魔力の感覚として、認識できる。

 魔力の流れる感覚だ。

 魔力というものを認識して、いや、それよりも前から、魔力については不思議と感じることができた。

 どれくらいの量があるか。

 何処を流れているか。

 どういう状態なのか。

 感覚的に分かるのだ。

 目を閉じながらも、自分の腕が今どの方向を向いているのか、どんな姿勢になっているのか、それが分かるのと同じような感覚だ。

 その感覚を頼りに、身体強化の魔法や魔素回収の魔法を秋水は使い熟すことができるのである。

 

 だが、自分の体の外となると、話が違う。

 

 武器に魔力を流すと、流した分の魔力は、その感覚が無くなるのだ。

 体の外に出た魔力というのは、秋水の感覚からは切り離されるみたいなのである。

 故に、感覚を頼りに魔法にする、ということができない。

 武器を強化する魔法、というのが成立させられない最大の要因は、自分の感覚の外にある魔力の操作に問題がある、と秋水は考えていた。

 だからこそ、無意識で武器に魔力を循環させられる必要があると思い至ったのである。

 感覚に頼らなくても、意識することなく自分の体の延長線かのように武器に魔力を循環させられたら、魔法によって武器も強化できるかもしれない。

 そう考えた。

 よって、今日は無意識で武器に魔力を循環させる訓練の日、とした。

 したのだ。

 

 それがまさか、意識せずとも魔力を循環させてたらしく、それどころかいつの間にやら魔法で強化されるという成功事例が、ぱっと出てきたのである。

 

「あー、もやもやするぅ……」

 

 秋水は顎に手を当てて唸った。

 爪や髪とは違い、軍手は完全に自分の体とは全く関係のない代物だ。

 それが強化できた。

 無意識に。

 秋水が目指した武器を強化させる魔法の、完成形がなんの脈絡もなく唐突に目の前にお出しされた。

 納得できない。

 もやもやする。

 

 

 

 理屈や原理が分からなすぎて、滅茶苦茶ワクワクする。

 

 

 

「こいつぁ、推論と考察と実験が山積みだなぁ」

 

 唸りながらも、秋水は終始、笑顔であった。

 道の探求ほど、面白いものはないのだ。

 

 

 





 不思議な現象が起きたとき、それってどういう理屈なんだろうとか、どうやって発生したんだろうとか、条件はどういうのだろうとか、そういったものが気になってワクワクしたりしませんか?
 しない?
 子どものときでも?
 興味なかった?
 そっかぁ……(´゚ω゚`)ショボッ

 次回は筋トレだ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。