「とぁりゃんせいっ!!」
重心の動きをそのままダイレクトに乗せるように、踏み込みから体のねじりに腕の振りまで流れるように、巨大バールを振り抜いた。
相打ちのカウンターでも狙うつもりだったのか、太い棍棒が、ぢっ、とライディングジャケットを掠る。
腕の長さもさることながら、武器の長さがそもそも違う。
『ガッ!?』
巨大バールの一撃が、コボルトの側頭部に炸裂した。
なんちゃってバール棒術の構えではなく、バットのように端を握った構え。それのフルスイング。
遠心力という力を借りた一発は、コボルトの体を真横に吹き飛ばすには十分な威力であった。
「ははっ! やっぱバールは雑に殴っても強ぇな!」
殴った反動の跳ね返りが巨大バールからあまり伝わってこない。力がしっかり貫通して、文字通りに巨大バールが振り抜けた。
いいね。
最高の手応えだ。
ジェットヘルメットの下で、秋水は口だけをにやりと歪める。
跳ね返らなかった巨大バールから即座に手を離す。
振り抜いた力の向きに逆らうことなく、巨大バールがすっ飛んでいく。
「んでさっ!」
巨大バールがさようならした方向をしっかり頭に入れながら、秋水は殴った勢いそのままにぐるりと振り返る。
コボルトは、もう1体いる。
鋭い眼光でギロりと哀れな獲物を捉え、踏み込んで重心を乗せていた足から、す、と力を抜く。
秋水の体が一瞬だけ沈む。
沈んだその瞬間に、高速ターン。
力尽くで地面を蹴って方向転換するよりも、力を抜いて体を浮かせた方が素早く曲がれる。
ダンジョンでの戦闘、と言うよりもコボルトにヒット&アウェイで走り回るようになってから、自然と身についた走法の1つである。
期せずも、それはナンバ走りと呼ばれる走法の、その曲がり方に酷似していた。
高速ターン後、浮いた体が沈む。
沈むということは、蹴り出す準備動作ができたということ。
「お待たせさんっ!」
地面を蹴る。
空になった手は腰ベルトへ。
すらりと引き抜いたのは、段々と使い方が分かってきた剣鉈だ。
舌舐めずりをしながら、2歩目を踏み込み、蹴る。
狙いを定めたコボルトもまた、棍棒を振り上げて秋水目掛けて走ってくる。
直線上にスライムはいない。
辞典の方にはコボルトは小賢しい的なことが書かれていたが、どうやら真っ向勝負をしてくれるらしい。嬉しいじゃないの。
「すっ」
3歩目が着地する前に、極々短く息を吸い込む。
剣鉈を持ったのは右手。
全身の身体強化で、動かせる魔力の6割を使用している。
右手に残り分の魔力を集める。
「ふっ」
短く、鋭く、息を吐く。
足が地面を捉える。
息を吐くのと連動して、腹筋を固めるように腹圧を入れる。
呼吸のタイミングは筋トレと同じ。
踏み込んで、体が沈む。
剣鉈を、魔力で、満たす。
右手に集めた魔力を剣鉈に流し込み、秋水はさらに地面を蹴った。
魔力の量はこれくらいだろうか。
自分の体の中にある魔力の動きは手に取るように分かるものの、剣鉈に魔力を流すとなると、感覚が全く分からない。
これくらいで、いいだろうか。
魔力は満ちただろうか。
まさに目分量。
自分の右手を経由して出ていく魔力量で、これくらい流し込んだな、というのを調整する。
ちょっと多いだろうか。
まあ、許容範囲だ許容範囲。
4歩目を踏み込む。
剣鉈の魔力は、たぶんOK。
魔力を流し込むのから遅れて、秋水は流し込む分に合わせて剣鉈の魔力を同時に回収し始める。
入れる。
出す。
剣鉈の魔力を、循環させる。
地面を蹴る。
さて本番。
剣鉈に流し込む魔力に、秋水は1滴の色を落とし込む。
イメージという、色。
「武装強化」
落とした色が流れる魔力に乗り、一気に剣鉈の魔力が色づく。
油に火をつけ燃え広がるように、魔力に色をつけ、剣鉈に魔法が広がった。
武装強化の魔法。
命名は適当。シンプル・イズ・適当。
体の強化が身体強化なら、武器の強化は武装強化だろ、くらいのノリである。
効果としては、身体強化とほぼ同じ。
より硬く、より強く、よりしなやかに。
武器を魔法で強化する、それだけの魔法だ。
とても単純な魔法だ。
動体視力やら思考速度やらと効果が多岐に渡る身体強化より、滅茶苦茶シンプルな魔法である。
それ故に。
「斬り裂きジャァァァァック!!」
『グボ!?』
左肩から右脇下にかけ、振り下ろした剣鉈がコボルトを切断した。
正真正銘の袈裟斬り。
豆腐を切るように、とは流石にいかないが、粘土を裂くかのように剣鉈の刃がコボルトの体を滑り通った。
突き刺すか、もしくは力任せに斬って裂くか、今まで剣鉈の攻撃は主にはその2択だった。
しかし、明確に、斬り裂いた。
切断した。
一瞬遅れて、血飛沫かのような煌めく魔素が飛び散る。
切れ味が雲泥の差だ。
そして、無茶な振るい方をしたら毎回悲鳴が上がっていた剣鉈の持ち手である柄の部分も、軋む様子はまるでない。
シンプルな強化の魔法。
それ故に、使い勝手はアホほど高い。
「邪魔!」
斬り抜いた剣鉈の刃をくるりと返しつつ、秋水は肘を横に開くように左腕を振るう。
剣鉈・対・棍棒。
その真っ向勝負で剣鉈を振るった秋水は、武器のリーチとしてはむしろ長いコボルトの棍棒を、当然ながら喰らっている。
左の二の腕。
相打ち覚悟で殴りかかったコボルトの棍棒を、秋水は二の腕に喰らった。
いや、受け止めた。
痛みは、ほとんどない。
ノーダメージと表現しても良い。
ライディングジャケットが、まさに鎧のようであった。
「さらにブースト! おまけに――」
剣鉈に魔力を供給するために集めていた魔力に色をつけ、右腕に部分強化。全身の身体強化と重ね掛けを施す。
返した刃をコボルトの首に目掛けてギラリと光らせ、そして、剣鉈に流し込んでいる魔力にさらに色をつける。
身体強化、武装強化、部分強化の重ね掛け。
続く魔法のキーワードは。
「そういや考えてなかったな、斬っ!!」
振り抜き、コボルトの首を一閃、刎ね飛ばす。
コボルトの頭部が舞った。
剣鉈の、その刃渡りと同程度のコボルトの首を、一刀両断に叩き斬る。
野獣のような笑みをじわりと滲ませつつ、斬り捨てた犬頭を目で追うことなく、即座に巨大バールで殴り飛ばした方のコボルトへと目を向けた。
死亡演出を確認するまでもない。
胸を袈裟斬り首を刎ねれば、まず間違いなく即死のラインで、仮に生きていたとしても戦えまい。
ならば用無し。
自分のお客様は戦える奴だ。殺せる奴だ。
魔素でできているコボルトを斬り裂こうと首を切断しようと、つくはずのない血糊を払うかのように剣鉈をぶんと振るいつつ、秋水は休むことなく地面を蹴る。
向かうは巨大バールで吹き飛ばされ、地面を転がっているコボルト。
起き上がろうとしている。遅い遅い。
そのコボルトに向かう、その前に少し寄り道。
秋水は地面を蹴って、弧を描くように遠回りのコースを走る。
コースの延長線上には、手斧が転がっていた。
投げた武器の位置は、ちゃんと把握しているのだ。
右腕の部分強化と、名称不明の魔法を解除。
維持している魔法は身体強化と武装強化の2つ。
このまま剣鉈でぶっ殺すか。
いいや。
笑みを浮かべたまま、そして走りながら身を屈め、秋水は落ちている手斧を左手でキャッチ。
「アンド、リリース!」
左手で拾い上げた手斧を、体を起こす勢いも重ねながら強引に投げ飛ばす。
ぐるんぐるんと高速回転をキメながら、手斧がブーメランの如く立ち上がりかけていたコボルトへ牙を剥く。
ドスッ、と手斧の刃が、コボルトの股間を捉えた。
「うわ」
『ギャッッッ!!!』
段々と手斧の投擲のコツを掴み、その命中率が高くなってきた秋水は、走りながらの投擲も6割くらいの確率で手斧の刃を命中させることができる。3割は刃以外の部分が当たり、1割くらいで外す感じだろうか。
だから、手斧が命中して叩き刺さるのは珍しくない。
ただ、股間に斧が刺さったのは初めてである。
思わず秋水はタタラを踏むように足を止めてしまった。
ついでにコボルトの絶叫も響いた。
オスだとしたら、なんと言うか、ごめん。
自分でヤったことなのだが、同じ男として凄惨な光景を目の当たりにして、秋水もちょっとだけ、ひゅ、と身と言うかなんと言うかが縮む思いになってしまう。
惨い攻撃になってしまった。
足を止めた秋水は、剣鉈を掴み直して峰の部分を指で摘まみ、謝罪の意を込めて流れるようにコボルトに向けて剣鉈をダーツの要領で発射する。
すこーん、と剣鉈がコボルトの額にめり込んだ。
「気を取り直して!」
再び地面を蹴って、腰ベルトからバールを引き抜く。
引き抜きながら、魔力を供給。
バールに満ちる程度の量。
少なすぎてはダメだ。
多すぎるくらいは大丈夫だと思うが、過剰に供給しまくったらどうなるかはまだ未検証である。
程よい量、というくらいに魔力をバールに流し込む。
目分量甚だしいが、これくらいかな、くらいの手応えになったら、流し込むだけだった魔力を同時に回収し始める。
魔力の循環、よし。
その循環する魔力に、イメージという色を落とせばあら不思議。
「武装強化!」
魔力で強化されたクソ硬バールを振りかぶり、秋水は残ったコボルトに襲い掛かった。
「よしっ、武装強化、ほぼ習得!」
日付変更ギリギリのギリ。
2月7日の午後11時50分頃、ダンジョン地下3階、そのボス部屋の扉の前まで到着した秋水は、両手を掲げて元気にそう宣言した。山の登頂を宣言するノリである。
「いやぁ、コツさえ掴めば簡単じゃねぇか、これ」
秋水は手にした巨大バールをくるりと回しながら苦笑した。
巨大バールには、すでに魔力が満ちている。
いや、実際にはただの感覚なので、満ちている程度に魔力を流し込み終わっている、と表現するのが正しいだろうか。
上手く言い表せないが、魔力を流し込むとき、ちょっと手応えが変わるのだ。
最初はするすると魔力が流し込めるのだが、ある一定量流し込むと、急に手応えが硬くなり、流し込みづらくなる、と言えば良いのだろうか。
自転車のタイヤに空気を入れるような感触に近い。
タイヤの空気がいっぱいになると、空気入れの押し込む感触が変わる。
そんな感じだろうか。
電動の空気入れでも、空気がいっぱいになると音が変わる、それと同じだ。
同じように、バールなどに魔力を流し込むと、途中から流し込む感触が変わる。
たぶん、それが魔力が満ちたというサイン、だと思う。目で見えないし耳で聞こえないし、確証なんてなんにもないが、今のところはそうだと思うことにする。
「武装強化」
そして、魔力満ちる巨大バールに、魔力の供給と回収を同時に行いつつ、循環する魔力に色をつける。
身体強化の武器バージョン、武装強化の魔法である。
すっ、と発動できた。
なんの引っ掛かりもない。
まさに身体強化の魔法の延長線、と言わんばかりに、武装強化の魔法は手慣れた感じですんなりと発動してしまう。
くるり、と巨大バールを1回転。
遠心力に逆らうことなくなんちゃってバール棒術の構えを経由して、回した遠心力の残滓をいなすように力の向きを変えつつ巨大バールを2回転目。
ガンッ、岩壁を殴る。
ボス部屋の扉、その真横スレスレの岩壁だ。
全力ではないにしても、強烈な一撃を物語るかのように鈍く大きな音が響き渡る。
これで岩を粉砕すれば、漫画的な表現技法として破壊力表現できるのだろうが、流石にそこまでの威力はない。と言うかたぶん、ダンジョンの天井やら壁やら床やらを構成する岩、滅茶苦茶硬い。
「だとしたら、ボスウサギの一撃って、だいぶヤバかったんだなオイ……」
壁を殴って跳ね返った巨大バールを再びくるりと回して衝撃を逃しつつ、秋水は苦笑した
岩壁は硬い。
では、その岩壁を削り砕いたボスウサギの角突きタックルはどれだけの威力だったのだ、という話になってしまう。
いや、よく考えたら、普通の角ウサギの角突きタックルも、たまに壁に刺さっていた。
最初にお出しされるモンスターとしては、あまりにも攻撃力極振りバランスブレイカーであった事実を改めて認識して、苦笑したまま秋水は若干顔を青くした。
もしかしなくとも、角ウサギをただのザコとして処理している今でなお、角突きタックルを正面から喰らうのはヤバいのかもしれない。
あの白いもふもふ、やはり舐めてかからない方が良い。
決意を新たにしつつ、カツン、と秋水は巨大バールを突き立てる。
武装強化の魔法。
見た目は変わらない。
攻撃力が劇的に向上したわけでもない。
しかし、巨大バールには確かに強化の魔法が施されていた。
そもそも、武器を振るった手応えが、激変した。
激変である。
見た目は変わらずとも、巨大バールを振るっている秋水からすれば、武装強化の魔法による能力向上は、まさに激変と表現しても良い。
硬いバールが、より硬くなる。
シンプル・イズ・ベスト。
あまりにも単純な効果の魔法。
しかし、効果が単純であるが故に、その成果は劇的だった。
「これで、バールをひん曲げる心配がなくなったぜ」
ふふ、と秋水は普通に笑った。
外で浮かべがちな苦笑でもなく、戦闘中に浮かべがちな獰猛な笑みでもなく、年相応の柔らかい笑みだった。
まあ、特段顔が怖い秋水なので、笑みが柔らかろうとヤクザスマイルになるのはご愛敬である。
「そういや、実際に俺の力程度でバールって曲げられるのか?」
マジマジと巨大バールを見ながら秋水は疑問を呟くが、流石にそんな実験をするつもりはない。もったいないお化けが出てきてしまう。
くるん、くるん、と秋水は巨大バールを手に馴染ませるように再び回した。
見た目は変わらない。
しかし、その強度は明らかに跳ね上がっている。
まあ、強度と言っても、硬さに靱性に延性などという具体的な数値が、果たしてどれくらい上がっているのかは不明である。
身体強化のように強化倍率を調べてみたいのだが、調べる方法がちょっと分からない。身体強化と同じくらいの強化倍率なのだろうか。
それに、耐引っ張り、耐切断、耐摩耗、耐曲げ、耐圧縮、耐腐食、などなど、そこらへんも強化されているか不明だ。
具体的にはなにがどれくらい強化されているか分からない。
しかし、確実に 『強く』 なっている。
今までは、身体強化で力が強くなればなるほどに、武器の耐久性が心許なくなってきていた。
それは、感触として分かっていた。
全身強化に部分強化を重ね掛けして、バールを持って全力でぶん殴れば、キッ、とバールが軋むような手応えがあった。
これ以上力を加えると曲がるかもしれない。
下手をすると折れるかもしれない。
そんな感覚だ。
律歌オススメの硬いバールでそうなのだ、剣鉈や手斧の方はもっと酷かった。
特に剣鉈は、持ち手が木である。鉄ではない。
身体強化を重ね掛けた握力で思いきり握り込むと、みちり、という悲鳴が伝わってくるくらいだ。
だから、秋水は武器に関しては比較的丁寧に扱っていた。扱わざるをえなかった。
恐る恐る使用していた、と表現しても良いかもしれない。
秋水が度々武器のグレードアップについて頭を悩ませていた最大の原因がコレである。
しかし、その問題が今日、解決してしまった。
武装強化の魔法だ。
「なんでこんな単純なこと気がつかなかったのかね、俺は」
笑みを苦笑に再び変えながら、秋水は巨大バールを掲げるようにして大きく伸びをする。
深夜である。
そろそろ夜食の時間だ。
ストレッチのように伸びをしてから、ゆっくりと息を吐く。
ここ数日試行錯誤していた武装強化の魔法は、あまりにも呆気なく習得できてしまった。
呆気なさ過ぎて、拍子抜けしてしまったくらいである。
ああでもないこうでもない、と3日程手探りで悩んでいた時間はなんだったのだろうか。
「いや、順番を間違えてた俺が馬鹿だっただけか……ふっ」
遠い目をして秋水は小さく鼻で笑った。自嘲である。
風呂場でお湯に浸かっていた秋水は、ざぶざぶとお湯をかき混ぜ、その動きでとある事実に気がついた。
気がついた瞬間に叫んだくらい、あまりにも馬鹿馬鹿しい単純ミスに気がついたのである。
お湯をかき混ぜる。
お湯が循環する。
そして入浴剤代わりの重曹が、溶けて混ざる。
これは、魔法の手順と全く同じであった。
体の中の魔力をぐるりぐるりと動かして、循環させる。
そして、イメージという色を垂らせば、循環する魔力に溶け混ざり、魔法となる。
秋水の中で魔法を発動させる手順は、これである。
魔力の循環。
色をつける。
身体強化にしろ魔素回収しにしろ、これによって魔法は発動するのだ。
故に、武装強化の魔法も、これに倣おうとした。
武器に魔力を流し込む。
そして流し込んだ分だけ、魔力を回収する。
これにより、魔力を擬似的に循環させるのだ。
その擬似的に循環させた魔力に色をつければ、武装強化の魔法が出来上がる、はずだった。
しかし、それは失敗の連続だった。
上手くいかない。
強化できない。
だが、軍手や靴下は強化できる。
なんでだろう。
何故だろう。
数日悩んでいた答えは、浴槽のお湯、そのものだった。
「今まで俺、空の浴槽をかき混ぜようとしてたんだよな……」
秋水は大きな溜息を吐いた。
そうである。
魔力を流し込み、流し込む分の魔力を回収する。
それによって擬似的な魔力循環を成立させる。
これは間違っていなかった。
方法は間違っていなかったのだ。
ただ単に、スタート地点を間違えていたのである。
秋水の体の中には、魔力が満ちている。
それをぐるぐる動かして、魔力を循環させているのだ。
浴槽に貯めたお湯をかき混ぜるのと同じである。
すでに満ちている魔力を、循環させていたのだ。
では、武器はどうだ。
バールは、巨大バールは、剣鉈は、手斧はどうだ。
それ以外もそうである。
ヘルメットは、ジャケットは、パンツは、グローブは、安全靴はどうだ。
もちろん、魔力は含まれてなど、いない。
空なのだ。
どれもこれも、秋水の体の外にあるものは全部、魔力が空なのである。
だからこそ、魔力を流し込むという、最初の手順があった。
空だからこそ、魔力を供給する。
それは正しい。
だが、秋水はかなり馬鹿馬鹿しいミスをしていたのだった。
同時に、魔力を回収していたのだ。
風呂の栓を抜いた状態でお湯を入れて、果たして浴槽にお湯は貯まるだろうか。
答え。
貯まるわけがない。
魔力が空の武器に魔力を流し込み、同時にその魔力を回収してしまっては、当たり前だがいつまで経っても武器に魔力が満ちることはない。
つまり秋水は、魔力が空の武器に対して、今まで必死にない魔力に色をつけようとしていたのである。
なんという凡ミス。
これで魔法が完成するわけがない。
そして、その凡ミスに気がつけば、軌道修正は恐ろしいほど簡単だった。
最初に魔力を満たす。
魔力が満ちてから、供給と回収を平行させて魔力を循環させる。
色をつけて、武装強化の魔法、はい完成。
「無駄な時間を過ごしたぁぁ!」
深い嘆きの声と共に、秋水は頭を抱えて蹲ったのだった。
武装強化の魔法、完成(*'ω'*)
……で、なんで軍手や靴下、髪の毛や爪には魔力が満ちていたんだろうね。謎は残ってる。
しれっと防御面での魔法や名称不明な謎の魔法も登場していますが、それはまた追々に(^_^;)