ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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235『(魔素回収の魔法は?)』

「いや中途半端な!?」

 

 ボス部屋に殴り込んだ秋水の第一声は、驚きの声だった。

 地下2階のボスは、角ウサギをそのまま巨大化させたボスウサギであった。

 だから、地下3階のボスも、コボルトをそのまま巨大化させたボスコボルトが出てくるんじゃないかという予想はしていた。

 一方で、コボルトは集団戦法を得意としてとかなんとかの説明を見たとき、ならボス部屋には10体を超える大量のコボルトが配置されているような、質より量の戦いが待っている可能性もあるな、とも予想していたのだ。

 そして、ボス部屋の扉を蹴り開けて待っていたのは、まさかの中間地点。

 

 デカいコボルトが、3体だ。

 

 コボルトをそのまま巨大化させたボスコボルトがいる。

 正解。

 質より量の戦いが待っている。

 正解。

 ボスコボルト複数戦かぁ。

 ちょっと想像していなかった展開に、秋水は思わずにやりと笑みが滲み出てしまう。

 予想は裏切られた。

 面白すぎるだろ。

 ボス部屋は広い。

 地下3階の部屋はどれも地下2階のボス部屋並みの広さがあったが、ここはさらに広い。

 倍ほど広いとまではいかないが、7割増しくらいに広い部屋だ。

 ボスコボルトを見る。

 体長2mくらい。秋水より背が高い。

 ただ、ボスウサギも同じく体長が2m程であったが、奥行きがボスウサギよりもないため、ボスコボルトの方が圧迫感を感じない。

 ボス部屋に足を踏み入れた途端、ボスコボルトが3体一斉に棍棒を構えた。

 秋水も迎え撃つように巨大バールを肩に担ぐように構え、手斧を後ろへと引き絞る。

 体長2m。

 なるほど。

 

「デカくなった分だけ、部屋もデカくなったってことね」

 

 倍ほどデカくないが、7割増しくらいにデカい。

 それは部屋の広さだけではなく、ボスコボルトの体格にも当てはまる言葉であった。

 部屋が広い分だけ、秋水としては戦い易い。

 滲み出ていた笑みを、にぃ、と隠すことなく凶暴な色を携えながら表に出す。

 

「さあ、やるぜやるぜ!」

 

 身体強化の魔法で底上げされた脚力にて、地面を蹴る。

 スライムを無視すれば、1対3。

 ボスコボルトがどれだけ強いかは不明だが、少なくとも、こちらから打って出ねば囲まれる。

 左右と中央に広がって配置されたボスコボルトの、まずは左へ。

 そのボスコボルトが、棍棒を構えた。

 頭上へ大きく振り上げる。

 走り出す様子はない。待ち構えだろうか。こちらの頭を初手で叩き潰す構え方だ。

 ボスコボルトの動きに秋水はそんな予測を立てながら、さらに地面を蹴って。

 

 

 

 棍棒を、ぶん投げてきやがった。

 

 

 

「ぬあっ!?」

 

 変な声が出た。

 棍棒を振り上げたボスコボルトは、駆け寄る秋水に向かって思いきりそのデカい棍棒を投擲してきたのだ。

 そちらさんは唯一の手持ち武器なのに。

 

「るらいっと!」

 

 地面を蹴って体が中にある状態ながら、秋水は咄嗟に左手に握った片手斧を構えて防御態勢。

 虚を突かれこそしたが、正面から投げられているのであれば、迎撃は可能だ。

 秋水は慌てず迫り来る棍棒へ、タイミングを合わせて片手斧を振るって切り払い。

 

「うわ重っ!?」

 

 デカいものはだいたい重い。

 投擲された棍棒は立派な質量兵器となって、切り払おうと横凪ぎに振るった片手斧に食い込んでくる。

 凌げず、片手斧で受け止める形となってしまった。

 重たい。

 それなりの速度で飛んできたから、より一層の破壊力。

 秋水自身は身体強化で十分耐えられる。

 片手斧も武装強化で耐えられている。

 しかし、地面を蹴って跳んでいる最中の秋水の体は、そうもいかない。

 投げられた棍棒を受け止めて、秋水は無理矢理地面に着地させられる。

 

「こんにゃろっ!」

 

 足を止めさせられ、動きを縫い付けられた。

 棍棒を投げつけてきたボスコボルトは、追撃を掛けてこない。

 いや、追撃を考えていない全力投擲だった。

 姿勢を若干崩しても唯一の手持ち武器を投げてきた。

 ならば。

 

「っ!?」

 

 秋水は即座に片手斧を手放して体を沈める。

 何故だか不思議と、視界に入るよりも先に察知していた。

 予想か。

 いや。

 気配だ。

 

 別のボスコボルトが、突進を仕掛けてきている気配がする。

 

 1体が足止めして、もう1体が本命さん。

 棍棒に食い込んだ棍棒が宙を舞う。

 それを避けるように身を屈め、巨大バールを構えて。

 

「本当にきやがったなコンチクショウっ!」

 

 構えて視線を向けたその先には、本当に秋水に向かって突っ込んできているボスコボルトの姿。

 気配が分かった。

 第六感に目覚めたってか。

 そんな冗談を言っている場合ではない。

 突っ込んできているボスコボルトは、すでに秋水の目の前だった。

 

「まずっ!?」

 

 デカいのにスピードが半端じゃない。

 ボスウサギとまではいかないが、角ウサギの角突きタックルを思う浮かばせる弾丸の如き速度だ。

 3体が十分に離れて配置されていたと思ったが、なるほど残念射程圏内だったか。

 

 

 

 デカい棍棒で、ぶん殴られる。

 

 

 

「ぐっ!」

 

 突進の速度に合わせて横凪ぎに振るわれた棍棒を、巨大バールで受け止める。

 受け流す余裕はない。

 しかも、投擲された棍棒を片手斧で凌いで無理矢理着地させられたせいで体勢が整わず、踏ん張りが利かない。

 巨大バールで咄嗟に防御したものの、秋水よりもデカい体格のボスコボルトが、角ウサギの如き速度で突っ込んできて、防御に使った巨大バールと同等な長さをした、しかもぶっとい棍棒でぶん殴られる。

 速度の乗った、大質量。

 

 秋水の体が巨大バールごと吹っ飛ばされた。

 

 しかも真横。

 新幹線にでも轢かれたのだろうか。マンガのような弾き飛び。

 衝撃が強すぎて巨大バールが手から離れる。

 

「ずっ! ぬっ!?」

 

 軽く数mは吹っ飛ばされて、岩肌の地面に体が叩き付けられる。

 衝撃が完全に殺されずにバウンドする。

 人形のように秋水は錐揉み回転しながら跳ね、さらに地面に落ちて叩きつけられ。

 

「ブースト!」

 

 叩きつけられた瞬間に、その地面を思いきり両手で殴った。

 両腕に部分強化を重ね掛け、4倍以上に跳ね上がった筋力で地面をぶん殴った衝撃で、秋水の体が一気に跳ねる。

 高さ5mには届くだろう大ジャンプ。

 その直後。

 

 ゴッ、と別方向から突進してきた3体目のボスゴブリンが、秋水を叩き潰さんとばかりに棍棒を振り下ろして地面に叩きつけた。

 

 素直に転がっていたら、今頃ぺちゃんこか。

 ギリギリ、よりは多少の余裕をもって避けられた、というのは身体強化で思考速度が底上げされている秋水の感覚だ。普通に間一髪。

 腕で跳んだ秋水は、筋肉質のその巨体ながらにくるりと身軽に空中で身を捻って体勢を立て直しかけて。

 

「おいこらバカヤロウ」

 

 思わず素で暴言が口を突いて出る。

 着地箇所に、丁度スライム。

 ついでに秋水を殴り飛ばした2体目のボスコボルトが、棍棒を振りかぶって投擲姿勢。

 挟み撃ちかよ。

 秋水は即座に両腕の部分強化を解除。

 

 

 

 そして、武装強化の魔法を施した安全靴から、わざと魔力を 『漏れ出させる』。

 

 

 

「コーティングッ!」

 

 2体目のボスコボルトが棍棒をぶん投げる。

 1体目のボスコボルトが身を沈め、地面を蹴って走り出す体勢。

 余裕はない。

 漏れ出させた魔力に色を落とす。

 

 イメージは、膜。

 

 分厚く丈夫な、力場を形成。

 

 言わば障壁。

 

 言わば地球を守るオゾン層。

 

 言わば反発する磁場。

 

 

 

 至極単純な、バリアのようの魔法。

 

 

 

 ぶにっ、とスライムを踏んだ。

 バリアの魔法でコーティングされた安全靴で、降りかかってくる秋水を捕食してやろうとスライムから伸ばされた触手を真上から、踏みつける。

 スライムの触手に触れた安全靴は、スライムに飲み込まれることはない。

 

 むしろ、ほんの僅かだが、スライムから浮いている。

 

 スライムの触手と靴底の間に、魔法の障壁分だけ、うっすらと隙間があった。

 紙2枚か、ギリギリ3枚か、といったくらいの隙間だ。

 僅かに浮いている。

 触れていない。

 故に、スライムに飲み込まれない。

 

「にぶるへいむっ!!」

 

 伸ばされた触手の上に降り立った秋水は膝を曲げながら反動を殺し、すぐにその触手を蹴って跳ぶ。

 スライムの捕食は、長くは防げない。

 それ以前の問題として、2体目のボスコボルトが棍棒を投げつけてきていた。

 跳び上がった秋水に、投げつけられた棍棒がブーメランかのように高速回転しながら襲い掛かる。

 狙いはぴったり。

 これなら勢い良くジャンプせず、そのまま降りた方が避けられたかもしれない。

 それくらいは秋水も理解していた。

 投擲された棍棒の、直撃コースに秋水はわざと身を躍らせて。

 

「ばっちこい――ぐんっ!」

 

 胸に受け止めるように、体全体を使って空中で棍棒を直接キャッチ。

 もちろん、その程度で止められるはずもなく、秋水は棍棒と共に再び吹っ飛ばされた。

 位置は壁際。

 というか、すぐに壁。

 背中から叩きつけられる。

 かふ、と背中からの衝撃に秋水は息を吐く。

 吐いて、吸って、腹圧を即座に入れる。

 上等だ。

 棍棒を抱きかかえたまま、秋水はすぐに両足を振り上げた。

 叩きつけられた背中が、跳ね返った衝撃で前に出る。それに逆らうことなく秋水は頭を前に出す。

 顔を上げる。

 最初に棍棒をぶん投げてきやがった1体目のボスコボルトが、秋水に向かって走ってきている。

 速い。

 角ウサギが突っ込んでくるのと同程度の速度だ。

 犬の頭に見合うだけの、ナイスな走力。なんという脚力。

 凄いな。

 憧れるぜ。

 秋水は即座に靴裏のバリアを解除。

 同時に両脚に魔力を流し。

 

「ブーストして」

 

 脚部分強化を重ね掛け、振り上げていた足を一気に後ろへ伸ばす。

 壁に足を叩きつけた。

 

「用意がどんっ!!」

 

 向かい来るボスコボルトへ、真っ向から秋水は突っ込んだ。

 以前見たボスウサギの、壁を蹴った角突きタックル。

 イメージはそれだ。

 突き刺す角はないけれど、秋水は持っていた武器を引き絞って構える。

 両手に握るは長物の武器。

 目測1mと50㎝。

 立派な鈍器。

 

 秋水が受け止めた、ボスコボルトの棍棒だ。

 

 2m程の身長になったボスコボルトは、体格的には秋水に近い。

 故にその武器は、不思議と秋水の手によく馴染んだ。

 それを握り、構え、壁を蹴って突っ込む。

 重量のある棍棒は、空中では振りにくいが、それでも無理矢理。

 

「武装強化っ!!」

 

 強化を施し、顔面狙ってぶっ飛ばす。

 

 

 

 咄嗟に左腕でガードしたボスコボルトの、その左腕をへし折った。

 

 

 

「うおっと!?」

 

 予想以上の打撃力に殴った張本人である秋水の方が驚いてしまった。

 いやだって、ガードされるのは予想の1つにあったが、まさか腕を一撃でミンチにするとは思わないじゃないか。

 お互いに突進してぶつかり合い、そこに角ウサギで慣れ親しんだカウンターで叩き込んだ棍棒の威力は、腕を潰す程度では殺しきれず、ボスコボルトの巨体が衝撃を物語るように宙を舞った。

 嘘だろお前。

 見た目より体重軽いのだろうか。

 もしくは、この棍棒、ヤバい代物なのだろうか。

 

「あでっ!? うがっ!? あだだだだっ!?」

 

 呆気に取られたせいでタイミングが狂い、壁蹴りで突っ込んだ体勢のまま秋水は地面に激突。そのまま馬鹿みたいにゴロゴロと岩肌の上を転がった。

 完璧に着地を決める予定だったのに、くそぅ、気が散った。

 秋水は地面を転がり終えるのを待つことなく、棍棒を突き立てて無理矢理ブレーキを掛けつつ跳ね起きる。

 気配。

 上から。

 

「あらまあナイス連携ちゃん!」

 

 ボスコボルトが降ってきた。

 ついでに棍棒を振り下ろしてきた。

 棍棒持ってるってことは、たぶんコイツは3体目。

 顔を上げて確認するよりも早く、その気配に秋水は反射的に左へ回避しようとするが、残念、秋水の左側にはデカい水饅頭ことスライムがいる。

 わずかに反応が遅れた。

 目視確認よりも気配察知で先読みして得られた僅かな時間を浪費してしまう。

 いや、なら差し引きはゼロ。

 つまり間に合う。

 

「にんっ!」

 

 棍棒を真上から殴り下ろしながら降りかかってきたボスコボルトに顔を向け、秋水は体全体で捻るようにして両手で構えた棍棒を振り上げる。

 ガッ、と鈍く重い音が響き渡った。

 振り下ろされた棍棒を、振り上げた棍棒が捉えた。

 そして、ボスコボルトの手から棍棒を無理矢理弾いて飛ばし。

 

 違う。

 

 このヤロウ、わざと棍棒から手を離しやがった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 重たいが予想よりも遥かに軽い手応えと共に、ボスコボルトの棍棒をホームランした秋水に襲い掛かってきたのは、真上から降りかかってきたボスコボルト自身の重量であった。

 プレスだ。

 棍棒という武器に気を取られた。

 この3体目のボスコボルトは、最初から秋水を上から押さえる気で跳びかかってきていたようだ。

 迎撃で棍棒を振り上げ、手応えの軽さに体勢を崩しかけた秋水は避ける間もなくボスコボルトに押し倒される。

 跳びかかっての、のし掛かり。

 単純ながら厄介。

 押し倒されて後頭部を思いきり岩肌の地面にぶつける。

 ヘルメットで頭へのダメージはないが、むしろ衝撃が首にくる。

 衝撃が来るということは、エネルギーが伝達されている最中ということで。

 

「――の、やろうっ!」

 

 完全に組み敷かれる前に、秋水は咄嗟に右足の靴底をボスコボルトの腹に叩き込む。

 秋水としては馴染みのある、ヤクザキック。

 そのショートレンジ版。

 ボスコボルトに密着されないよう、体の間に右足を割り込ませる形でヤクザキックを腹に入れ、押し倒された衝撃をそのまま利用して秋水は背中で転がり、力尽くで叩き込んだ右足を一気に伸ばしてボスコボルトを撥ね飛ばす。

 偶然にも、それはほぼ柔道の巴投げに近い投げ技になった。

 なんか知らんが組み敷かれる前に処理できた、と秋水はすぐに転がって体勢を立て直そうとする。

 する、が。

 なるほど、その暇はないようだ。

 

「づっ!」

 

 脇腹を、蹴られた。

 蹴り飛ばされた。

 起き上がるどころか体勢を立て直す暇もなく、サッカーボールのように秋水は思いきり蹴り飛ばされ、次の瞬間には再び壁に叩きつけられてしまう。

 ただいま、お早いお戻りで、俺がな。

 

「かっ」

 

 軽口の代わりに短い息が漏れ出る。

 1体目のボスコボルトは左腕をへし折った。

 3体目のボスコボルトは巴投げで撥ね除けた。

 ということは、蹴り飛ばしてきやがったのは、棍棒をプレゼントしてくれた2体目のボスコボルトか。良い棍棒だね。ありがたく使わせてもらっているよ。

 

「ふっ!」

 

 息を吸う。

 目を見開く。

 腹圧を入れて体幹を制御する。

 いいね。

 最高だよ。

 これだよ。

 この感覚だよ。

 

 最高にヒリヒリする。

 

 秋水はすぐに壁を蹴った。

 蹴って、再び突進だ。

 そう、再び。

 

「もらいモンっ!!」

 

 1体目のボスコボルト、その首を狙い、棍棒をぶん回す。

 カウンターで左腕をへし折って撥ね飛ばし、体勢を立て直していたところに強襲した。

 壁蹴り突進で2連撃。

 いきなり襲い掛かられたボスコボルトは、すぐに防御しようとしたが残念無念、狙ったのは左側である。ミンチにしてやった腕と同じ方向だ。

 一瞬の遅れが命取り。

 ガードが間に合わなかったボスコボルトの首に武装強化の魔法が施された棍棒が、叩きつけられた。

 

 ボスコボルトの犬頭が、歪な角度で曲がった。

 

 直撃。

 そして、今度は撥ね飛ばしてホームランにはしない。

 地面に押し込むようにして、下向きに棍棒を振り抜く。

 妙な角度に首の曲がったボスコボルトが、そのまま地面に打ち付けられた。

 

「ブースト――」

 

 着地と共に、右腕に部分強化を重ね掛ける。

 全身の身体強化と合わせ、これで右腕は4倍以上の強化倍率。

 ぐるん、と着地の衝撃を逃がしながら秋水は半回転。

 棍棒から両手を離し、する、と腰ベルトから右手でバールを引き抜きつつ、さらに半回転。

 計1回転。

 

「武装強化――」

 

 すでに満ちているバールに魔力循環を開始すると同時に、その魔力へ色付けをした。

 バールを構えた右腕を後ろに引き絞る。

 持った部分はL字側。

 その反対側、バールの平側の先は、地面に叩きつけられ、その反動でバンドして跳ね上がったボスコボルトの、無防備な体。

 

「――コーティングっ!!」

 

 わざとバールから魔力を漏れ出させ、そこにも色を落とし、回転軸にした足で踏み出す。

 踏み込み。

 背筋によって左腕を後ろへ振る。

 大胸筋によって右腕を前に突き出す。

 踏み込みから流れた重心を、腰の捻りから肩へ、肩から肘へ、そしてバールへと途切れることなく伝え込み。

 

 ボスコボルトの右胸を、バールが穿つ。

 

 深々と、バールが突き刺さった。

 生々しい手応え。

 ないはずの肉にめり込む感触。

 さらに右腕を捻るようにして、捻り込む。

 ごぼ、と吐血するようにボスコボルトの口から煌めく魔素が吐き出され。

 

 

 

 さて、スライムとの接触を拒絶した、バリアのような魔法。

 その実態は、魔素を吸収する魔素回収の魔法とは全く逆方向の性質ももった魔法だ。

 魔素と反発する魔法、とでも言うべきか。

 魔力によって、魔力の原料である魔素を跳ね返して遠ざけようとする、そんな力場を発生させる魔法である。

 そして、モンスターは血の代わりに魔素を噴き出す。

 特に死亡演出時は大量の魔素を放出する。

 で、あるならば、モンスターというのは、『濃縮された魔素の塊』 なのであろう。推測だが。

 故にバリアのような魔法は、魔素が色濃いモンスターとは強く反発する。

 その性質により、スライムの触手の上で、接触せずに僅かに浮遊する、なんてリニアモーターカーみたいな芸当ができたのである。

 バリアのような魔法、と言うよりは、魔素反発の魔法、と表現すべきだろうか。

 魔素と反発するコーティングを施す魔法だ。

 では、問題。

 

 

 

 そんな魔素反発の魔法、魔素の塊であるモンスターの体内で発動したら、どうなる。

 

 

 

 答え、爆散する。

 

 

 

 胸に突き刺したバールを基点として、まるで爆弾でも起爆したかのように、ボスコボルトの上半身が弾け飛んだ。

 文字通り、肉が弾けて、バラバラに吹っ飛んだ。

 死亡演出を確認するまでもない。

 下半身だけになったボスコボルトから視線を外し、ぐるん、と秋水は2体のボスコボルトに向き直る。

 

「……ふー」

 

 ようやく、一息。

 殴られるは吹き飛ばされるは叩きつけられるは蹴られるはと、散々な目に遭った。

 しかしどうだ、ピンピンしてる。

 各種バイク装備に施した武装強化の魔法によって、防御力が跳ね上がっている証拠だ。ジェットヘルメットのシールドも全然無事である。ごめん嘘ついた。わりとシールドは細かく傷ついているが、割れてはいない。

 ボスコボルトを突き刺して爆散させたバールを構え直すように、秋水はゆっくりと肩を回す。

 ちょっとだけピンチっぽかったが、体は平気だ。動きに問題なし。

 蹴られたのは、さすがに痛かった。

 たぶん、肋骨にヒビが入っている。折れてはいないと思うが、どうだろう、アドレナリンひゃっはーで興奮状態なのでよく分からない。

 だが、逆に言えば、その程度で済んでいる。

 やはり防御力がちゃんと上昇しているようだ。

 にぃ、と笑いつつ、秋水は腰ベルトからバールをもう1本引き抜いて、二刀流で構えた。

 右は魔素反発の魔法を施したバール。

 左は魔力を満たしただけのバール。

 握った感覚が、すでに違う。

 それは右腕に身体強化を重ね掛けしているからもあるだろうが、それでもなんとなく、違うのだ。

 

 体を強くする身体強化の魔法。

 

 武器と防具を強くする武装強化の魔法。

 

 魔素を弾く魔素反発の魔法。

 

 よし。

 

「コーティングって言い方、いいな。鎧よりはしっくりくるぜ」

 

 この3つの魔法があれば、このボスコボルトとも対等以上に渡り合える。

 それを確信した秋水は、笑みを深めつつ、ゆっくりと舌舐めずりをした。

 獲物を狙う獣のよう表情だった。

 

 

 

 外ではできない、心の底を露わにした、表情だった。

 

 

 





 サブタイトルはツッコミ。忘れないであげて( ´-ω-)

 体を強化して、外側の装備も強化して、装備の外側もさらにコーティングした秋水くん。ヤバいですね。
 なお、プロローグ時点の秋水くんは、あと2つ以上の魔法を重ね掛けております((((;゚Д゚))))
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