ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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236『ファンタジーを学んだ結果、SFで解釈する少年』

 スライムには、魔法が有効。

 

 紗綾音から借りたファンタジーの事典に、そのような記述があった。

 その文言に対して、秋水は疑問を感じてしまったのが、そもそもの始まりである。

 スライムは柔らかくゲル状の体をしている特性から、物理的な攻撃は効果が薄い。故に、魔法による攻撃が有効である。

 

「いや物理だろ」

 

 秋水は事典に対して真顔でツッコミを入れてしまった。

 魔法による攻撃の大部分は、最終的には物理攻撃である。

 魔法事典、というのを先に目を通した秋水は、そう思っていたのだ。

 いや、大前提として秋水は、魔法事典を読んだときに、魔法 『の』 攻撃というのはほとんどないのだな、という感想を抱いていた。

 

 例えば、火の魔法。

 魔法によって炎を生み出し、それを相手にぶつけるという、見栄えがある攻撃魔法、だとされていた。

 

「熱エネルギーだろ」

 

 炎によって相手を焼き殺す以上、それは熱エネルギーによるタンパク質の変性で殺しているに過ぎない。

 つまり物理だ。

 ならば、油をぶっかけて火をつけても同じはずである。

 

 例えば、風の魔法。

 魔法によって風の流れを生み出して、鋭い風の刃を作り出して相手を切り裂く、というのがあるらしい。

 

「高速の流体での切断だよな」

 

 切断できるレベルに速く、細く、圧縮された気流による切断であれば、それは結局のところ斬撃である。

 つまり物理だ。

 ならば、鉈で斬っても同じはずである。

 固体か気体かの問題であるならば、ドライアイスを食べさせたときになんらかの反応を示していたであろう。

 

 例えば、水の魔法。

 魔法によって水を生み出して、ウォーターカッターの原理で相手を切り裂いたり、大量の水で相手を押し潰したり、とのこと。

 

「圧力による衝撃ってことか」

 

 やっていることは、水を使って衝撃や圧力というエネルギーを伝達させた攻撃である。

 つまり物理だ。

 ならばバールで殴っても同じはずである。

 力の伝え方が違うだけで、やってることはエネルギーの押し付けだからだ

 

 魔法とは、エネルギー生成の手段だ。

 

 物質を生み出し、運動エネルギーを与え、相手にぶつける。

 それがいわゆる 『魔法攻撃』 と呼ばれるものの正体であり、結局のところ、ダメージそのものは物理現象が担当している。

 秋水はそう認識した。

 認識したが故に、スライムには魔法による攻撃が有効、という記述に対して首を捻ったのだった。

 物理じゃん。

 それ結局は物理現象による攻撃と区別できないじゃん。

 身体強化を施してぶん殴るダメージと、魔法で岩を生成して叩きつけるダメージは、最終的には物理現象じゃん。

 つまり、どういうことだ。

 秋水はファンタジー事典という文字通りファンタジーなふわふわした設定の資料を睨みながら、しばらく考えた。

 

「……いや、待てよ。物理攻撃と物理ダメージは、イコールじゃねぇな。分けて考えてみるか」

 

 少ししてから、思考が転換する。

 ナチュラルに物理攻撃と物理ダメージをごちゃごちゃに混ぜて考えていたが、攻撃は手段で、ダメージは結果だ。

 そうだ、攻撃というのは、あくまで手段に過ぎない。

 衝撃か、圧力か、熱エネルギーか。

 どういうエネルギーを、どう相手に伝えるか。

 それが攻撃手段である。

 そして、ダメージというのは、相手側に起こる結果だ。

 割れる、潰れる、変成する。

 エネルギーが加わることにより、どう相手が変化したのか。

 それがダメージである。

 なんらかのエネルギーを伝えるのが攻撃。

 それにより相手がなんらかの変化をするのがダメージ。

 

「物理攻撃とかいうのでダメージがないってことは、物理的なエネルギーをスライムに加えても、目立った変化が観測できない、って意味だよな」

 

 ふむ、と秋水は鼻を鳴らす。

 

「つまり、魔法による攻撃が有効なのは、物理的なエネルギー以外が関与してるってことで……そうか、魔法によって生成されたエネルギー、ってのが重要なのか」

 

 火炎放射器による炎と、魔法による炎。

 結果としては同じ炎だが、火炎放射器による炎ではダメージが与えられず、魔法による炎ではダメージが発生する。

 で、あるならば、魔法による炎の中には、火炎放射器で生み出した炎には含まれてない、なんらかのエネルギーが内包されているはずである。

 そのエネルギーがスライムに伝わり、なんらかの変化を起こす。

 だから、スライムには魔法による攻撃が有効、という理屈になるのだろう。

 では、火炎放射器の炎にはなくて、魔法による炎にはあるエネルギーとはなにか。

 

 

 

 決まっている。魔力だ。

 

 

 

 魔力を使って魔法を発動させ、それによって発生した炎の中には、魔力が内包されているのかもしれない。

 そして、その魔力をぶつけ、魔力のエネルギーをスライムの体に伝達させることにより、スライムにダメージが発生する。

 そう考えれば、物理的な攻撃は効果が薄く、魔法による攻撃が有効、というのは辻褄は合う。

 辻褄は合う、が。

 

「いや、効率悪いだろ……」

 

 別方向からのツッコミが湧いてきてしまう。

 なんでわざわざ魔法で炎を生み出す必要があるのか。

 魔力によるエネルギーが有効なら、熱エネルギーなんて物理的なエネルギーの塊である炎なんていうプラズマ体をいちいち作らなくても良いじゃないか。しかもスライムには効果が薄い物理的なエネルギーである。

 炎のエネルギーに変換せず、ダメージに直結する魔力エネルギーに直接変換した方が、エネルギー変換によるロスは少ないんじゃないだろうか。どれぐらいのロスがあるか分からないけれど。

 そんな現実的なツッコミを考えつつ、秋水は再度首を捻った。

 

「待て待て、魔力のエネルギーでスライムにダメージが発生するとしたら、スライムの 『なに』 に干渉してるんだ?」

 

 さらに深く考える。

 魔法によって生成された魔力のエネルギー。

 それによってダメージが発生するならば、魔力のエネルギーがスライムの中にあるなにかに干渉しなくてはいけない。

 魔力は目に見えない。

 その魔力で干渉ができるもの。

 秋水は辞典から、ちらり、と自分の左手に視線を落とした。

 それはつまり。

 

「……魔素か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エロイムエッサイム!」

 

 脊髄反射で変な呪文を叫びつつ、秋水はバールでボスコボルトに殴りかかる。

 結果としては、殴れなかった。

 しっかり秋水を見据えて防御の姿勢に入っていたボスコボルトは、手にしたデカい棍棒で秋水のバールをしっかりと防ぐ。

 重たく鈍い音。

 バールを握る秋水の手に、衝撃が伝わる。

 その衝撃は、軽い。

 棍棒で防がれたバールが跳ね返るが、それは秋水の腕力で十分に制御可能な程度の跳ね返り。

 一方、バールを防いだボスコボルトの棍棒は、明らかに質量ではバールに勝っているはずなのに、まるで棍棒以上の質量でぶん殴られたかのように大きく弾かれた。

 その威力に、ボスコボルトの姿勢が大きく揺らぐ。

 純粋な膂力では、きっと秋水よりもボスコボルトの方が上であろう。

 しかし、相性が悪かった。

 

「なるほど、その棍棒も魔素で作られてるってことか!」

 

 ボスコボルトの棍棒を大きく弾いた秋水は、にやぁ、と凶悪なる満面の笑みを浮かべる。

 魔素で構成されているなら、このバールは相性がさぞ悪かろう。

 

 いや、この魔法とは、相性が悪かろう。

 

 目には見えないが、バールの表面にはうっすらと魔素反発の魔法が施されている。

 魔素を弾く性質のある魔法。

 それはもう、魔素で構成されているであろうモンスターに対して、実に効果的な魔法であった。

 

「どっせいっ!」

 

 体勢を崩したボスコボルトに踏み込んでさらに肉薄。

 反対の手にも握られているバールで、ガラ空きの腹をぶん殴る。

 手応え。

 そして、その感じた手応え以上の威力で、ボスコボルトが吹っ飛んだ。

 

「そういや、こいつら悲鳴あげねぇな」

 

 自分よりも巨体であるボスコボルトを殴り飛ばしてから、秋水は即座に地面を蹴る。

 背後にはもう1体のボスコボルトの気配。

 目視はしてないが、恐らく、いる。

 すぐに走り、距離をとってから振り向けば、当然のようにボスコボルトが迫ってきていた。

 その手に棍棒は握られていない。

 徒手空拳だ。

 振り返ってから、走る方向も反転させる。

 迫り来るボスコボルトに、真っ正面から突っ込む。

 身体強化を施した脚力ならば、ものの数歩でバールの射程圏内。

 体格的にはボスコボルトの方が大きいが、バールを持つ分だけ秋水の方が攻撃のリーチは長い。

 

「そい――」

 

 突進したエネルギーも乗せ殴りつけようと、秋水はバールを振りかぶった。

 その一瞬前に、ボスコボルトが地面を大きく蹴る。

 跳んだ。

 

「っ!? うおっっと!?」

 

 跳んで、両足でのまさかのキック。

 これはあれか、ドロップキックというやつか。

 ジャンプして空中で体を倒し、突っ込んできた秋水に向けて放ったドロップキックは、タイミング的に避けられない。実にイヤラシイ瞬間を狙ってきやがったものだ。

 回避不能と判断し、反射的に振りかぶったのとは反対のバールを前に出してガードをしようとして。

 

「にぐふっ!?」

 

 右足はバールで防げた。

 左足が秋水の胸に叩き込まれた。

 その衝撃で秋水は堪らず後方へと蹴り出され、1歩、2歩、3歩。踏み止まる。

 体長2mの頭部を除いてほぼ人間であるボスコボルトが、カウンターで決めたドロップキックでも、秋水は倒れることなくたったの3歩で踏み止まってしまった。

 

 代わりに、ボスコボルトの方が弾かれ、地面を転がる羽目になる。

 

 片脚をバールで防がれただけだというのに、まるで突き飛ばされるかのようにコボルトは意図せぬ方向へと宙を舞う。

 別に秋水は殴り止めるよう防いではいない。

 ただ、体の前にバールを構えただけである。

 魔素反発の魔法が施されたバールを、構えただけだ。

 

「生意気じゃねぇか!」

 

 踏み止まった足で地面を蹴り、笑みを浮かばせながら再び秋水は走り出す。

 前進。

 ドロップキックなんぞカマしてくれた素敵なボスコボルトに向かい。

 

「ベンずっ!」

 

 バールで弾かれて地面を転がったボスコボルトに、秋水は思いきり跳び蹴りをブチかました。

 跳び蹴り、というよりも、うつ伏せで倒れたボスコボルトを踏みつけるようにして勢い良く飛び乗った、という方が正しいだろうか。

 安全靴で強かにボスコボルトの背中の上を踏みつけ、秋水は着地する。

 着地の衝撃を殺すように膝を曲げ、むしろ衝撃そのままに秋水はボスコボルトの上で膝をつくようにして腰を落としながら、右手に握ったバールを再度振り翳した。

 殴るようにではない。

 突き刺すように、平側の先端をボスコボルトに向け。

 

「解除からのブースト!」

 

 バールに施していた魔素反発の魔法を解除する。

 ただし、武装強化の魔法は継続して発動中。

 左手のバールを手放しながら両腕に部分強化の魔法を重ね掛け、そのバールを両手で持って構える。

 そして。

 

「オイラーずっ!!」

 

 気合い一発、バールを一息で突き下ろす。

 狙いは、首。

 頸椎周り。

 

 ずぶっ、と釘抜き部分が隠れる程度に突き刺さる。

 

 魔力の漏れ出し。

 確認。

 色付け。

 魔法発動。

 点火。

 

「コーティングッ!!!」

 

 

 

 バールを突き刺した首の部分を基点として、コボルトの上体が四散する。

 

 

 

 爆弾でも内側から起爆させたかのような破裂のしかた。

 もしくは花火玉かのような炸裂のしかた。

 汚ぇ花火だ。

 

「いや、悔しいことに綺麗な花火じゃねぇか」

 

 胸から上が爆散したコボルトは、ついでにキラキラ輝く魔素を大量に撒き散らし、実に綺麗な光景であった。

 突き刺した部分から爆発させたことにより、押し込む手応えのなくなったバールを、ぶんっ、と秋水は振るう。

 そのバールから弾かれるように、ぶわ、と周囲の魔素が広範囲に飛び散った。

 からん、と左手から離したバールが地面に落ちる音がした。

 

「さ、てと」

 

 握ったバールに施していた魔素反発の魔法と武装強化の魔法を解除して、秋水は大きく息を吐いてから、ぐるりと顔を横に向ける。

 残るボスコボルトは1体。

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまうじゃないか。寂しいね。

 そう思ってしまうのは、勝ちを確信した慢心かもしれない。

 殴って吹っ飛ばしていた最後のボスコボルトは、今頃ようやく立ち上がったところ。

 部屋の状況を確認する。

 ボスコボルト2体分の魔素が、辺り一面にキラキラと漂っていて若干視界が悪い。目がチカチカする感じだ。

 スライムの位置、巨大バールの位置、片手斧の位置。

 よし。

 

「いきますかっ!」

 

 息を吸って腹筋に力を入れる。

 そして、手にしていたバールを最後のボスコボルトに向けて全力投球。いや球じゃないが。

 ついでに落としたバールの方も流れるように右手で拾い上げ、振りかぶる。

 

「ブーストっ!」

 

 両腕の部分強化を、右腕だけに変更。

 ブーメランのようにバールをぶん投げる。

 ゴッ、と1投目のバールがボスコボルトの左脇にぶつかった。ダメージは少なそうだが、立ち上がり直後の体勢が若干ふらつき、2投目のバールに気がついて、それを避けようと無理矢理体を捻ろうとする。

 片手斧と違い、バールの投擲はダメージを最初から期待していない。

 目的は時間稼ぎ。

 秋水は地面を蹴る。

 ボスコボルトとは違う方向。

 早々に手を離して落としてしまった、巨大バールに向かって走る。

 少し距離があるが、大丈夫だ、間に合う。

 ボスコボルトが2投目のバールをギリギリで避けたのを横目で確認しつつ、足を止めないように秋水は体勢を低くして走り、巨大バールを拾い上げる。岩肌の地面を、ライディンググローブの指先がガリっと擦った。

 即座に巨大バールに魔力を供給。

 手応え的に、巨大バールには魔力がプールされっぱなしだったようだ。

 武装強化のために魔力を供給したものは、秋水自身から離れても自然に魔力は抜けないか、抜けたとしてもゆっくり抜けるか、のどちらかのようだ。これも実験しておかないといけないだろう。

 にっ、と口端で笑みを零しつつ、巨大バールに内包されていた魔力を擬似的に循環させ、色を落とす。

 

「武装強化!」

 

 巨大バールを強化する。

 強化倍率はどれくらいだろうか。計測のしかたが分からない。これも懸念材料だろう。要検討。

 楽しいなぁ。

 楽しいねぇ。

 巨大バールの中央辺りを持ち、なんちゃってバール棒術の構えを取りながら方向転換。目標はもちろん、最後のボスコボルトだ。

 しかし、その前に邪魔者。

 スライムだ。

 計算通り。

 

「コーティング!」

 

 巨大バールを後方へと引き絞りながら、魔素反発の魔法を施す。

 続いて右腕に重ね掛けていた部分強化を解除して、両腕に魔力を再分配。

 忙しいが、楽しすぎる。

 踏み込む。

 

「ブーストっときなっ!!」

 

 両腕に部分強化を重ね掛け、秋水は巨大バールを思いきり振り抜いた。

 殴るのは、スライム。

 キャッチしようと伸ばされる触手よりも速く、そのぷにぷに柔らかボディに巨大バールを叩き込む。

 手応え軽し。

 されど、ぷるんぷるんな衝撃吸収ボディにも拘わらず、殴られたスライムは自動車に轢かれたかのように弾き飛ばされた。吐き気。

 奥歯を噛んで振り抜いた巨大バールを引き戻して地面を蹴る。

 さすがにホームランとはいかず、ごろんごろん、ぶよんぽよん、と岩肌の上をスライムが盛大に転がっていく。

 その先には、ボスコボルト。

 2本目のバールを回避できたと思ったところに、おかわりでスライムを差し向けられたボスコボルトは、見るからに慌てて大袈裟に横へと跳び退く。

 そうだよな。

 イヤだよな。

 普通のコボルトは、スライムに捕まったら抵抗も許されずに引きずり込まれ、捕食されるからな。大きく回避行動をとった反応を見るに、それはボスコボルトも同じなのかもしれない。どんだけスライムは凶悪トラップなのか。

 右側へと跳んでスライムを避けたボスコボルトに向かって、秋水は一気に走って詰め寄った。

 

「よらさっ!」

 

 体勢を大きく崩しているボスコボルトの顔面に向かって、バール棒術の握りのままL字の先端を振り下ろす。

 負けじとボスコボルトも不利な姿勢のまま、手にしていた棍棒を振り、巨大バールの一撃を迎え撃って防ごうとして。

 重たく鈍い音が響いた。

 振り上げたボスコボルトの棍棒を、巨大バールが無理矢理叩き下ろす。

 

「さっきと同じだ! 学習大事だぜっ!」

 

 無理な体勢で無理に振るった棍棒を無理矢理弾かれ、ボスコボルトの巨体が膝を突くように崩れた。

 改めてその顔面を、今度は巨大バールの平側で叩き上げる。

 バール棒術は、巨大バールのような取り回しし辛そうな長物でも、コンパクトに回して素早い攻撃を連続でたたき込めるのが長所だ。

 代わりに一撃は軽くなる、が。

 

 まるでハンマーで思いきり殴られたかのように、ゴキ、とボスコボルトの首が大きく曲がった。

 

 秋水へ魔素を引き寄せるのが、魔素回収の魔法。

 秋水から魔素を遠ざけるのが、魔素反発の魔法。

 そして、モンスターは血飛沫の如く魔素を輩出することから、魔素の塊なのだと推測できた。

 よって、魔素反発の魔法を施した武器でモンスターを攻撃すれば、魔素を反発する魔法の力分だけ、モンスターへ叩き込まれる衝撃が上乗せされる。

 さらには、反作用として秋水に跳ね返ってくるはずの衝撃が、軽減される。

 モンスターへのダメージは増え、秋水への反動は減るのだ。

 まさにモンスター特効魔法。

 実に効果的だ。

 

「もういっちょい!」

 

 回して叩き上げた巨大バールを、秋水は自身の体ごとさらに1回転させ、再び平側の先で今度はボスコボルトの肩を殴り上げる。

 ボスコボルトの突いた膝が一瞬浮き上がるほどの威力。

 一撃を加えた平側の先端がボスコボルトの肩を抉り、血のように煌めく魔素を撒き散らす。

 さらに秋水は追加で1回転。

 膝が浮いた体勢から、無理矢理ボスコボルトが足裏を叩きつけるような蹴りを入れてきそうなのが見えた。

 ヤクザキックか。

 見覚えあるこうげきじゃないか。アンド、悪足掻きをするじゃないか。

 秋水はそのヤクザキックを防がず、わざと腹で受け止めた。

 

「ぐぶっ」

 

 変な声が出た。

 変な体勢で無理に繰り出した蹴りとは言えど、腹筋を固めていてもなかなかの衝撃。

 腹一杯の状態だったらゲロを吐いていただろうし、確実に青アザができるほどの威力は十分にあった。

 つまり、その程度である。

 

 武装強化を施したライディングジャケットの防御力は、並大抵ではないのだ。

 

 秋水は追加で殴ろうとしていた巨大バールから咄嗟に両手を離し、腹で受け止めたボスコボルトの足をむんずと捕まえた。

 腰を下げ、足を開き、力を入れて土台を作る。

 掴んだボスコボルトの足に指が食い込むくらいに握り締め、胸と頭を前に倒す。

 やってて良かったミリタリープレス。

 やってて良かったクリーン&ジャーク。

 唸りを上げろ筋肉よ。

 

「ぶんどりゃあああああああああああっ!!」

 

 足を掴んだボスコボルトを持ち上げ、秋水の頭上を通過するようにぶん回し、盛大に地面へ叩きつけた。

 力業の投げ技だ。

 

「っしゃいっ! 腹が痛ぇんだよこのヤロウ!!」

 

 ボスコボルトを投げ下ろし、秋水は腰ベルトからするりと剣鉈を引き抜いた。

 魔力は十分に籠められている。

 

「武装強化!」

 

 流れるように剣鉈を強化して、構えた。

 切っ先を倒れ伏したボスコボルトに向け、腰溜めに両手で剣鉈を固定する。

 そして踏み込み、重心をしっかりと剣鉈に乗せながら、ボスコボルトの上から剣鉈の先を突き刺し。

 ずぶ、と刃が分厚いボスコボルトの皮膚を突き破って、肉にねじ込まれるような感触。

 武器が刺さった。

 モンスターの体内に侵入した。

 ならば、ここからは一撃だ。

 秋水は獰猛な笑みを浮かべたまま舌舐めずりをして。

 

「コーティング!!!」

 

 魔法を発動する。

 魔素によって構成されているモンスターの体内から、魔素を外側に反発させる魔法だ。

 

 

 

 ねじ込んだ剣鉈を基点として、ボスコボルトが爆発した。

 

 

 

 決まりさえすれば、一撃必殺級の威力。

 爆散したボスコボルトは、大量の魔素を撒き散らした。

 キラキラ煌めく、光の粒子。

 それは間違いなく、ボスコボルトの死をお知らせするもので。

 

「っ――ふぅぅぅぅ……」

 

 ダンジョンの地下3階を攻略した、祝いの花火のようだった。

 

 

 





Q:ボスコボルトって3体いるけど、1体1体はちゃんと強いの?

A:1体だとボスウサギよりやや強いくらいなので、せいぜい野生のヒグマ(大人)2体くらいの戦闘力程度です。防御力やスタミナはともかく最高速度は角ウサギ以下なので、ボスウサギに勝てるなら、まあ勝てるでしょう。3体がかりですけど。

 ……え、秋水くんの戦闘力(。´・ω・)?
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