ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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243『想定外の再会(なおナレ死)』

 質屋 『栗形』 から逃げ帰った秋水は、全速力で自転車をかっ飛ばし、早々と家に辿り着いた。

 ふぅ、と一息。

 祈織の店から家までの移動時間、最速記録である。

 身体強化などの魔法的な出力にばかり気をとられてしまっているが、ここ1ヶ月、秋水自身の身体能力の向上が著しい。

 成長期、というヤツだろうか。

 自転車全力疾走したわりにはあまり上がっていない息を整えつつ、秋水はそんな感想を抱いて自転車を家の前に駐める。

 まあ、ポーションを服用しながらバリバリに筋トレしていれば、素の身体能力が向上するのは当然のことだろう。まして、セーフエリアの睡眠時間短縮のおかげで、毎日のようにジム通いだ。伸びない方がおかしい。

 最近は戦うため、体全身の筋肉を連動させて大きく動かす多関節種目の筋トレを重点的に行っているし、コボルトと戦うようになってからは持久力向上にも力を入れ始めている。

 持久力側に体のスイッチが入ったのかもしれない。

 やはり筋トレは効果がある。

 秋水は独りでうんうんと頷きながら、庭のテントに入り、縦穴を下る。

 ダンジョン、セーフエリア。

 秋水が寝起きする、ほぼ家。

 違うか。

 きっと、上では落ち着けない、だけか。

 

「やれやれ……」

 

 秋水は軽くため息をこぼしながら、リュックサックを下ろしてコートを脱いだ。

 それにしても、どうしたものか。

 脱いだコートをハンガーに掛け、それを岩の扉へと掛ける。

 開けられっぱなしの岩の扉、その先は下りの階段。

 地下2階へと続く階段だ。

 

「どうしたもんかね」

 

 考えるのは、ドロップアイテムのこと。

 角ウサギを殺したら高確率で出てくる、白銀のアンクレット。

 コボルトを殺したらそれなりの確率で出てくる、白銀のネックレス。

 そして、あの白銀のサークレット。

 アンクレットからは、地球上では確認されたことのない元素が見つかった。

 サークレットはまだ調べられてないが、アンクレットとは違う配合の合金で、どんな成分が混じっているか分かったものではない。

 そしてサークレットに飾られた宝石は、祈織が知らない宝石だった。

 なんだろう、ドロップアイテムは新作を世に出すたびに、ヤベェ、という感想ばかりを抱いている気がする。

 3連続。

 もしかして自分は学習能力がないのだろうか。

 秋水は腕を組みながら、うーん、と考える。

 

 

 

 考えながら、階段を下った。

 

 

 

 私服のままである。

 ダンジョンアタック用のバイク装備は一切身にまとっておらず、巨大バールを握ることもなければ、バールや剣鉈を固定した腰ベルトもつけていない。

 ポーションすら持たず、秋水はその格好のままで階段を下る。

 地下2階。

 ショートカットコースの方へと曲がる。

 

「とりあえず、日本政府との話し合いが落ち着くまで、新しいドロップアイテムは拾わないようにしないとマズいか……」

 

 せっかく次のステージ、地下4階へ降りる階段が出現したというのにな、と秋水は残念そうにため息を吐き出す。

 ボスコボルトをぶっ殺し、次に続く階段とショートカットコースが開通したのだ。

 地下2階は角ウサギ、地下3階はコボルトとスライム。

 では、続く地下4階はどんな感じなのだろうか。

 新しいモンスターがいるのだろうか。

 どんなモンスターだろうか。

 どんな風に襲いかかってくるのだろうか。

 どんな戦いができるのだろうか。

 殺し合いが、楽しみだ。

 そんなワクワク感がいっぱいだというのに、ドロップアイテムの問題で冷や水をかけられたような気分である。

 なんだかなー、と秋水はぼやきつつ、ショートカットコースを抜け、地下3階へと続く階段を下る。

 私服のまま。

 武器なし。

 防具なし。

 まさに自分の家の庭でも歩くかのように気軽に、秋水は地下3階へと辿り着き、秋水のことなど気にせずぽよんぽよんとしているスライムを避けながら、こちらでもショートカットコースの方へと足を進めた。

 

「……いや、待てよ。別に新しいドロップアイテムが出てきたからって、絶対に栗形さんに渡す必要ないよな。ボス部屋とかに適当に貯めておきゃいいし……いや、3階のボス部屋って普通にスライムがいるし……あ、スライムに食わせて処理させればいいのか?」

 

 ブツブツ呟きつつ、秋水はショートカットコースを抜ける。

 分かれ道だ。

 地下4階へ続く階段と、ボス部屋へ続く通路に分かれている。

 ちらり、と秋水は階段の方を見てから、特に迷うことなく反対の通路を選ぶ。

 ボス部屋への通路だ。

 分かれ道からボス部屋までは近い。

 広い広いボス部屋に入れば、スライムが6体だけお出迎え。いや、秋水のことなど無視して、相変わらずお気楽そうにぽよんぽよんと柔らかそうに震えつつ、じわじわと動いている。

 

 

 

 このスライムたちの動きが実は素早いということを、秋水はよく知っていた。

 

 

 

「……まあ、政府とのお話し合いが終わるまで、ちょっと待っててな、うん」

 

 実に残念そうに、ため息とともに零しつつ、秋水はボス部屋を抜ける。

 普通のコボルトと戦う部屋と同じ数程度のスライムがいるものの、部屋が倍以上広いものだから、スライムの密度はすっかすかだ。躱す必要も特になく、簡単にスライムをスルーできてしまう。

 そして、ボス部屋を出て、近くの壁を見た。

 コンビニで買ったビニール袋が、置かれている。

 

 そのビニール袋の上には、岩の壁と全く同色の、押しボタン。

 

 リセットボタンだ。

 

「ま、今日はこっちで楽しくやるぜ」

 

 秋水は小さく笑いつつ、リセットボタンに手を伸ばす。

 そして、何のためらいもなく、ぽちり、とボタンを押した。

 

「待ってろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ここまで戻されるんかーい」

 

 リセットボタンを押した直後、周りを見渡した秋水は思わず虚空に向けてツッコミを入れるのだった。

 見覚えのある扉の前。

 見上げれば上りの階段。

 反対を見れば通路。

 通路の先には、部屋。

 リセットボタンを押したら、ボスコボルトをぶち殺した状況がリセットされ、ショートカットコースがなくなり、強制的に階段前へと戻されてしまう。

 それは地下2階でリセットボタンを押したときと全く同じだ。

 きっと階段まで戻される。

 秋水もそう予想していた。

 そして、予想通り、ショートカットコースはなくなり、秋水は階段までワープでもしたかのように瞬時に戻されてしまった。

 前回リセットボタンを押したときと、同じ状況だ。

 だが、同じすぎた。

 

 

 

 前回リセットボタンを押したときと、“全く” 同じ状況なのだ。

 

 

 

 階段まで戻された。

 正規のルートを通り、ボス部屋まで辿り着けば、再びボスと戦える状況なのだろう。

 前回と同じ状況だ。

 全く同じ状況だ。

 

「おいおい、マジか……」

 

 秋水は深く息を吐き出しながら、ぱしり、と額を叩く。

 秋水が戻されたのは、階段の目の前。

 

 そして、通路だ。

 

 地下3階は、階段を下りた先は直接部屋になっていた。

 コボルトはおらず、スライムだけが暢気にたむろしている部屋のはずだ。

 それが、通路に戻された。

 地下2階、ボスウサギの部屋の前でリセットボタンを押したときも、秋水は通路に戻された。

 それと全く同じ。

 

 つまり、ここは地下3階ではなく、地下2階だ。

 

 そして、ショートカットコースが閉鎖されてしまっている。

 ショートカットコースは、ボスウサギをぶち殺がしたら出現した不思議な通路である。

 それが閉鎖されているということは、なるほど。

 

 

 

 リセットボタンを押す毎に、全部のボスが復活するってことか。

 

 

 

「……最高かよ、オイ」

 

 全く想定していなかった事態に、秋水は思わず笑みを浮かべた。

 獰猛な、勇ましい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかマジか、ツいてるぜこれは」

 

 秋水はダッシュで階段を駆け上がり、セーフエリアへと戻った。

 地下3階のリセットボタンを早々に押す。

 それは昨日、ボスコボルトを爆殺大祭りをした直後には、すでに心に決めていた。

 だから秋水は装備を身につけるよりも先に、私服のままでダンジョンに潜り、リセットボタンを押したのだ。

 このリセットボタンを押せば、ボスコボルトが復活する。

 もう1度戦える。

 今度は反発の魔法による爆殺に頼らず戦いたい。

 殺し合いたい。

 身体強化の強化倍率も上がったし、恐らく武装強化の魔法の出力だって上がっているであろう。

 真っ正面から戦っても、きっと叩き潰せる、はずだ。

 楽しみだ。

 楽しみすぎる。

 そんな期待を胸にして、秋水はぽちりとリセットボタンを押したのだ。

 

 結果、地下2階のショートカットコースまで閉鎖された。

 

 それが意味することは、ボスウサギが復活したということだろう。

 ウソだろ。

 想定外だ。

 地下3階のリセットボタンで、地下2階のボスまで復活するのかよ。

 マジかよ。

 完全なる想定外。

 

 

 

「……ご褒美過ぎるだろ!」

 

 

 

 秋水は、笑いが止まらなかった。

 私服を脱いで、バイク装備に身を包む。

 防具、よし。

 腰ベルトを締め、バールと剣鉈を装備していく。

 武器、よし。

 ポーションやらタオルやら非常食やらを詰め込まれ、手斧を括り付けられているリュックサックを確認する。

 荷物、よし。

 そして地下2階への階段近くに立て掛けている巨大バールを手に取った。

 準備、早々とよし。

 

「まずは角ウサギで、次はボスウサギ……テンション上がってくるじゃねぇか」

 

 ニヤニヤしながら装備を調えた秋水は、気合いを入れるように巨大バールを振るう。

 恐らく、いや、きっと。

 今の秋水がボスウサギと戦っても、苦戦すらしないであろう。

 身体強化の強化倍率は今より低く、そして武装強化の魔法も魔素反発の魔法もない状態で、対等に戦っていたのだ。

 全力で当たれば、たぶん、通常のコボルトよりは苦戦するだろうな、程度でしかないだろう。

 だが、それでも嬉しいじゃないか。

 最高じゃないか。

 もう戦えないのだろうな、と思っていたボスウサギと、また戦える。ぶっ殺せる。

 半月程度しか経っていないのに、懐かしさすら覚えてしまうのは何故だろう。

 きっと最近、毎日が色濃いからじゃなかろうか。

 

「……よしっ!」

 

 ダンジョンアタックのフル装備で身を固めた秋水は、興奮隠せぬままに意気揚々とダンジョンへと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言おう。

 ボスウサギは、やはり楽勝であった。

 

「やったぜコノヤロウ……はぁ」

 

 地下2階のボス部屋、岩肌の地面に巨大バールを突き立て、軽く上がった息を整えながら秋水は零す。

 楽勝、はちょっと言い過ぎたかもしれない。

 そこそこ疲れた。

 だが、怪我らしい怪我もなく、バイク装備の破損もない。

 体力はポーションで回復できると考えたら、実質ノーダメージである。

 やはり楽勝だったと評してもいいかもしれない。

 

「クソ速ぇ突進は注意だけど、それが分かってりゃ簡単だな」

 

 ふぅ、と最後に息を静かに吐けば、秋水の呼吸はすっかり元通り。

 ボスウサギは、まあまあ手強い、程度の脅威に落ち着いてしまっていた。

 しかし、角ウサギやコボルトとはまた違った戦闘は、秋水を十分に満足させられるものでもあった。

 角ウサギの倍以上はある体格。

 質量は倍の3乗で8倍を超えているであろう。

 部屋に足を踏み入れたら、馬鹿の一つ覚えのように挨拶が如き角突きタックルをカマしてくる角ウサギとは違い、ボスウサギはフェイント混じりに仕掛けてくる。なんならば蹴ってくる。戦法が全然違うのだ。

 何と言うべきか。角ウサギと違う戦法のボスウサギと闘うのは、違う刺激になってリフレッシュできる。

 

「やっぱ、違う刺激が入ると、体が引き締まるな」

 

 筋トレでも、たまには違う種目を取り入れた方が筋肉には良い刺激になるもんな、と脳筋なことを秋水は考えながら大きく伸びをした。

 それから突き立てた巨大バールを構え直し、左手を上げる。

 左手の先は、倒れ伏している白いヤツ。

 殺したてのボスウサギだ。

 

「回収」

 

 死亡演出で魔素を吹き出しているボスウサギに向けて魔素回収の魔法を発動させれば、掃除機で吸い込むかのように部屋中にばら蒔かれていた魔素が、一気に秋水の左手へと集まっていった。

 魔素が美味い。

 美味しいという表現が適切かは分からないが、魔素を体の中に取り込んでいくのは、体の中の魔力が広がっていく感じがして気持ちがいいのだ。

 ストレッチをして筋肉をじっくりと伸ばしている心地よさに似ている、ような気がするような気がしないような。

 たっぷりと魔素を吹き出すボスウサギの死骸から、その魔素をじっくりと吸収する。

 もしかして、ボスコボルトと再戦する前に、また身体強化の強化倍率上がるんじゃねぇかな、と秋水はニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして順調。

 あまりに順調。

 ボスウサギをボコボコにして殺してから、地下2階のショートカットコースが復活しているのを横目で確認した秋水は、そのまま地下3階へと下りた。

 コボルトのいない最初の部屋には、やはり予想通り、ショートカットコースがなくなっている。

 ボスコボルトと再戦できる。

 ボスウサギを一方的に殴り殺し、ワクワク状態継続中の秋水は、急ぎ足で地下3階の攻略を再開した。

 コボルトが出てきた。

 殴り殺す。

 コボルトが出てきた。

 刺し殺す。

 コボルトが出てきた。

 斬り殺す。

 秋水はひたすらコボルトを殺し、そしてスライムをスルーして地下3階を突き進む。

 何故だろう、神経が研ぎ澄まされているような気がする。

 ボスウサギとの戦いが違う刺激となったのか、自分の戦い方にキレが増しているのを秋水は自覚していた。

 本当に筋トレと同じで、たまに違う刺激が入るとリフレッシュされ、体の動きが良くなるのだろうか。

 思わぬ発見である。

 笑いながら、秋水はボスコボルトを蹴り殺した。

 

「コンディション、絶好調ってか」

 

 犬頭をバールで突き刺し、その傷口から魔素を吹き出すコボルトの顔面を直接左手で鷲掴み、秋水は直接魔素を回収する。

 ここが地下3階、最後の部屋、最後のコボルト。

 いや、最後の部屋、ではないか。

 ボス部屋直前でコボルトを虐殺し終えた秋水は、体の調子を冷静に評価する。

 絶好調だ。

 間違いなく、絶好調である。

 疲労感はポーションのおかげで全く残らない。されど、筋肉は温まっている。

 胃袋にものが溜まっている感じはしない。しかし、腹が空いたとも思えない。

 テンションが上がっている。だが、一休みしようという冷静さも残っている。

 感覚は指の先までしっかり通っていて、思考と動きが完全にリンクしているようだ。

 ボスウサギと再戦、いや、再々戦できたのは、本当に思わぬ収穫だった。

 消えたコボルトを確認してから、ふ、と秋水は小さく笑う。

 

「まさにボス戦に丁度いいって感じゃねぇか……」

 

 戦いたくて仕方がない、というような、実に好戦的な笑みだった。

 しかし秋水は入り口に戻り、リュックサックからペットボトルを取り出してポーションを1口。

 それからサラダチキンとミックスナッツを取り出して、もぐもぐと食べ始める。

 ボスコボルトと今日も戦いたい。

 だが、休憩も大事である。

 筋トレにおいてセット間休憩の大切さを身に染みて知っている秋水は、ウズウズしたまま一休みを入れる。

 ベンチプレスを1セット行った後、早く次のセットをやりたいとセット間休憩を短くしたら、次のセットでフォームが崩れやすくなったり、そもそも重量が上げられなくなったりするのだ。

 休憩は大事だ。

 最近はポーションのせいでセット間休憩を大幅短縮してしまっているが、休憩の大切さは筋トレで身についているのである。

 サラダチキンとミックスナッツを食べ終わり、ポーションをもう1口飲んでから、2分待つ。

 2分、経つ。

 

「よし」

 

 ソワソワしたまま休憩を終えた秋水は、リュックサックを持ち上げる。

 部屋を通過。

 スライムは無視。

 そして通路を早足で通る。

 通路の向こうには、扉が見えた。

 ボス部屋だ。

 その扉は、閉まっている。

 

「連日ボス戦。最高だぜ」

 

 その感性はどうなんだろう、という言葉を漏らしながら、秋水はリュックサックをボス部屋の前に置く。

 ビニール袋が転がっていた。

 リセットボタンがある位置の目印として置いていたビニール袋だ。

 それを横目で確認してから、リュックサックより片手斧を取り外して握る。

 右手に巨大バール。

 左手に片手斧。

 腰ベルトの武装も問題なし。

 防具もよし。

 

「身体強化、60%」

 

 魔力を体の中で回し、色を落とす。

 

「武装強化」

 

 そして全身の武装にも魔力を満たし、循環させながら色を落とす。

 準備よし。

 さて。

 

「こんばんはだぜコノヤロウ! 昨日に引き続いて今日も遊ぼうぜーっ!!」

 

 秋水は元気よく、ボス部屋の扉を蹴り開けた。

 

 

 





 全部のボスが復活するとか、ゲームだったらどう考えてもダルいやつ(;´Д`)
 で、秋水くんは何でスライムが素早いのを知っているんだろうね。

 次回、バイク用のライディング装備で忘れられがちな超重要装備の話。バイク乗りは皆買って装着しろ( ̄□ ̄;)
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