ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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244『バイクで忘れがちな超重要装備』

 ボス部屋を蹴り開ければ、待ち構えていたのは昨日と同じくボスコボルトが3体。ついでにトラップ要員としてスライムが6体、いや7体いる。

 ボスコボルトの体長は大体2mくらい。

 握った棍棒は秋水の巨大バールと同じく、1mと50㎝といったところか。

 昨日と同じで、安心と言うべきか残念と言うべきか。これで倍ぐらいデカいヤツが棍棒二刀流して出迎えてくれていたら面白かったが、さすがにそこまでのサプライズはなかったようだ。

 

「トマホォォォクッ!」

 

 蹴り開けたその足で、ボス部屋に1歩踏み込んだ。

 踏み込んだ、と言うよりも、踏み込みを入れた。

 おまけに左腕を大きく振り上げ、投擲姿勢。

 

「ブゥゥゥメランッ!!」

 

 まずは挨拶が良い感じ、左手に握っていた片手斧を中央のボスコボルトに向かって全力投球。いや球じゃない。全力投斧した。

 それに応えるように、狙った中央のボスコボルトが秋水に向かって走り出す。

 横ではない。正面。

 手斧を避ける様子はなく、手にした棍棒を横へと構えている。

 そして、左右のボスコボルトがワンテンポ遅れ、そのままそれぞれ右へ左へと大きく広がるように走り出した。

 広いボス部屋を、広く使うつもりか。

 上等。

 秋水は斧を投げて崩した姿勢を、さらに1歩踏み込んで急ブレーキをかける。

 ガンッ、と投げた片手斧を、ボスコボルトが棍棒を振るって弾く。棍棒に刺さりもしなかった。残念。

 

「んで――こっち側にご用事だ!」

 

 そして左右に広がったボスコボルトを見比べ、秋水は即座に左側のボスコボルトに向かって地面を蹴った。

 広がり方はほぼ同じ。左側にした理由は特になく、直感だ。

 巨大バールをなんちゃって棒術の構えで持ち直し、走る。

 走りながら視線だけをボス部屋の中に巡らせ、スライムの位置を頭に叩き込みつつ、ボスコボルト3体の挙動を確認。

 

 

 

 やはり、“なんとなく察しているモンスターの位置” と、実際にモンスターがいる現在地はピタリと一致していた。

 

 

 

「人間ソナーかよ……いや空気中なら人間レーダーか!」

 

 走りながら思わずツッコミを入れる。

 なんとなく気配を察することができるようになったのは、反発の魔法を習得してからだ。

 そして、それ以前からうっすらと気配を感じることが度々あったが、それは魔素回収の魔法を習得した辺りからであった。

 なるほど、外部の魔素に干渉する魔法に関連しているのか。

 そんな予想を頭の片隅で立ててみれば、目標にしていたボスコボルトは目の前だ。

 気を散らしている場合ではない。

 目の前に迫ってきているボスコボルトは、棍棒を振り上げている。

 上段から頭狙いの振り下ろし。

 分かりやすい。

 分かりやす、過ぎるな。

 ボスコボルトが大きく踏み込んだ。

 

「先手はどうぞっ! コーティング!」

 

 まずは振り下ろされるであろう棍棒を防ぐため、魔素反発の魔法を巨大バールに施しながら、それを顔の前に上げる。

 頭狙いの棍棒。

 振り下ろし

 

 せずに、ボスコボルトがさらに踏み込む。

 

 1m半の棍棒が最大火力を出せるであろう射程距離から、ボスコボルトが自ら詰め寄った。

 追加で踏み込み、ボスコボルトが膝を前に出す。

 膝蹴り。

 頭上に振りかぶった棍棒を囮にして、体当たりでもするかのように超至近距離に潜り込み、ボスコボルトは秋水の腹へと突進してきた勢いを上乗せするように膝蹴りをぶちかましてきた。

 

「ぬぐっ!?」

 

 思い切り腹部に膝を叩き込まれ、秋水の体が軽く 『く』 の字に曲がる。

 一撃をもらう。

 

 だが、もろに、ではない。

 

 明らかに分かりやすすぎる棍棒の振り上げを見て、素直に振り下ろしてくると思うには、昨日の戦いでボスコボルトはフェイントを見せすぎだ。

 腹筋に力を入れ、どの攻撃が来てもいいように咄嗟に踏ん張りを入れていた秋水は、吹き飛ばされることなく踏み止まった。

 

「分かりやすいフェイントどうも! 約束通り先手は譲ったぞゴラ!!」

 

 そして腹に膝蹴りを受けながらも、秋水は顔の前まで上げていた巨大バールを突き出す。

 顔面狙い。

 膝蹴りが入るほどの至近距離からの突きに、ボスコボルトは犬の頭を傾けるように捻って紙一重で巨大バールの突きを躱す。

 残念。

 いや、残念でした。

 

「ね・て・ろっ!」

 

 手首を返すように巨大バールを捻る。

 突き出したのは、L字側だ。

 その釘抜き部分をボスコボルトの後方で回し、L字の隅部分を後ろ首に掛けて思い切り引っ張る。

 膝蹴りでバランスを欠いていたボスコボルトが、それに耐えられるわけがない。

 

「突くと殴るばっかりが棒術じゃないぜ!」

 

 なんて、棒術を習ってもいない素人の秋水が、ボスコボルトを無理矢理引っ張り倒してから得意気に言い放つ。

 転ばせたボスコボルトに追撃で1発ぶん殴りたいところだが、時間切れ、別のボスコボルトが近くまで走り寄ってきている。

 中央にいた、片手斧を棍棒で払い除けた個体だ。

 これはヒット&アウェイで戦った方が良さそうだな。

 図体がデカくて戦い方が上手いだけで、コボルトが3体、という点では通常の複数戦闘と変わらない。

 秋水はすぐに走ろうと地面を蹴る。

 いや、蹴ろうとした。

 

「ぬわっとっ!?」

 

 なにかに蹴躓くように秋水はバランスを崩してつんのめる。

 咄嗟に右足で踏み込んで、体を沈み込ませながらも転ぶのは避ける。

 左足が引っかかった。

 引っ掛かったと言うよりは。

 

「しつこいなこのクソチワワっ!」

 

 状況を目で見るよりも早く、秋水は巨大バールを上へと突き上げ、勢いよく振り返る。

 足下には、引っ張り倒され転がされたボスコボルト。

 そいつが、秋水の左足を握っていた。

 振り返ると同時に体を捻って、自分の足を掴んで物理的に足止めしてきやがったボスコボルトの、その腕を狙って巨大バールを突き下ろす。

 どんっ、と秋水の左足を掴んだボスコボルトの腕の上腕二頭筋に、巨大バールの先端を叩きつける。

 下腕を狙ったつもりだったが、咄嗟のことで突く位置がズレてしまった。

 しかし、魔素反発の魔法を施した巨大バールでの一撃に、ボスコボルトの腕が大きく弾かれる。

 勢いよく弾いたせいで、左足の拘束は解除できたものの、ボスコボルトの手が離れる最後の足掻きのようにさらに左足を引っ張られ、秋水は大きく姿勢を崩してしまう。

 往生際が悪いぞバカチチワが。

 なお、コボルトもボスコボルトも、その特徴的な頭部はチワワの犬種とは似ても似つかない。

 

「まあそりゃ狙いますよね俺だってそうするだろうしねクソがっ!?」

 

 転びこそしなかったものの、さらに左足を引っ張られて片膝立ちのような格好にさせられた秋水に、中央にいたボスコボルトが跳びかかってきた。

 文字通り、跳びかかり。

 頭上に大きく棍棒を振りかぶり、秋水に向けて大きくジャンプしての襲いかかり。

 潔いまでの真っ向唐竹割りだ。

 巨大バールは突き下ろしたせいで、すぐには頭上に戻せない。

 手を離して腰ベルトからバールを抜いて対応しようにも、タイミング的には抜いている段階で頭直撃といったところ。

 なるほど割るのは唐竹ではなくヘルメットのようだ。笑えない。

 いや。

 

「コーティングっ!」

 

 武装強化でヘルメット内に満たした魔力を漏れ出させ、即座に秋水は魔素反発の魔法をヘルメットに施して。

 ぶん殴られた。

 

「いっ!?」

 

 ガキャッ、と妙な音がヘルメット内に響く。

 ジャンプした体重と落下速度まで乗せ、全力で振り下ろした棍棒が正確に秋水のヘルメットを捉えたのだ。

 魔素反発の魔法で勢いは軽減され、武装強化の魔法でヘルメットの防御力は底上げされているが、それでも秋水よりも一回り大きい巨体から繰り出された全力の一撃は、絶大な威力だ。

 桃太郎が桃から生まれたシーンのようにヘルメットが割られはしなかったが、相殺しきれなかった衝撃で秋水の首が思い切り曲がる。

 ちょっと首筋から嫌な音がした。

 

 そして、その威力を物語るように、秋水は前面から思い切り地面に叩きつけられた。

 岩肌が眼前にドアップ。

 あって良かった、ジェットヘルメットのフェイスシールド。

 そして。

 

「あって良かったネックガード!」

 

 ヘルメット越しとは言えども顔面から地面に殴り落とされた秋水は、それに全く怯むことなく、むしろ実に楽しそうな野獣の笑みを浮かべる。

 地面に叩きつけられる直前に、巨大バールから離した両手を胸の横、腕立て伏せの要領で地面に手を着き、体が叩きつけられて跳ね上がるその反動をフルに利用しながら両腕を一気に伸ばして体を跳ね上げる。

 やってて良かったプッシュアップ。

 特にクラップ・プッシュアップは良いぞ。手叩き腕立て伏せと呼ばれるプッシュアップは、両手で床を押し、腕の力だけで体を跳ねさせる腕立て伏せである。

 思わずクラップ・プッシュアップの癖で跳ね上げた胸の前で手を叩きそうになりながらも、秋水は即座に軽く地面を足で蹴って下半身まで浮かせ、その浮いた短時間で一気に両足を折りたたむ。

 やってて良かったバービージャンプ。

 すぐに座り姿勢まで体を起こした秋水は、そのまま両足に力を入れて一息で立ち上がりながら振り向く。

 そして、振り向きながら右手を握りしめた拳を振るい。

 

「痛ぇな犬頭ちゃんがよっ!!」

 

 頭を殴ってきたボスコボルトへ、お返しとばかりに顔面を右ストレートで打ち抜いた。

 しまった、魔素反発の魔法を施すべきだった。

 殴ってから、勿体ないことをした、と若干後悔しつつ、秋水は即座に地面を蹴って2体のボスコボルトから離れるように走る。

 できればライディンググローブのプロテクターでボコボコにぶん殴りたいところなのだが、全く交戦していなかった右側のボスコボルトが迫ってきていたので断念した。

 目視はしていない。

 ただ、迫ってきている気配がした。

 

「いてて……ちょっとポーションターイム」

 

 走りながら胸ポケットより小瓶を取り出し、蓋を弾き飛ばしてから少しだけヘルメットのバイザーを上げ、ぐいっと飲み干す。

 飲むときに上を向くと、嫌な痛みが一瞬したものの、不思議なことにポーションを飲んだら、すぅ、と痛みが引いてしまう。相変わらず恐い性能である。

 ボスコボルトから距離をとるように走りながら飲んだせいで、ごほ、と少し咽せたものの、許容範囲内だ。

 ポーションの小瓶を投げ捨て、秋水は足を止めずに首をさする。

 痛みは消えた。

 全く、首が折れるかと思った。

 それから秋水はライディングジャケットの首回りに装着されたパーツを一撫でしてから、腰ベルトより両手でバールを2本引き抜いた。

 

 ネックガード。

 

 確か、律歌はネックブレースと言っていたか。

 バイク装備の1つで、首を守る防具だ。

 ヘルメットとライディングジャケットでは、どうしても中間部分の首が守れないので、そこの負傷を防ぐためだとかなんとか。

 律歌にバイクショップでお奨めされたときは、首に直撃食らうことはそうそうないと思うけどなぁ、とバカみたいに能天気なことを考えつつ、まあ律歌さんのお奨めだしな、と思って中間グレードのを適当に買ったが、なるほど。

 首へのダメージは、攻撃が直撃するよりも、頭をぶん殴られた衝撃で曲げられるときに発生しやすいのか。

 

「明日、一番良いのを買わせてもらうぜ律歌さん……っ!」

 

 これは律歌に助けられた。

 走りながらネックガードを激推ししてくれた律歌へ感謝の言葉を漏らすと、いいってことよー、と想像上の律歌が手を振っているのを幻視する。恐らく律歌はそんな江戸っ子みたいなことは言わないだろうけれど。

 ネックガードの最上位版のメカメカしいやつは、下手なライディングジャケットの倍以上の値段がしたような気がするのだが、四の五の言っていられない。買おう。今し方の一撃で、秋水の中ではネックガードが重要装備のトップランクに躍り出ている。

 首へのダメージはマズい。

 首を損傷すると、そこから下が全部動かなくなる可能性があるのだ。

 動けなくなるダメージ、ではない。

 動かなくなるダメージ、だ。

 ポーションは万能の回復役だが、かけたり飲んだりしなければその効果は発揮しない。

 つまり、半身不随は、マズい。

 ネックガードは明日にでも即行で最上位のを買わねばならないだろう。

 

「ま、明日が迎えられたら、な!」

 

 右足を着地。

 次の瞬間、秋水は急速反転。

 3体目のボスコボルトが、背後に迫っているのは気配で分かっていた。

 そして、予想通り、棍棒をぶん回すように横薙ぎに振るうタイミング。

 いや、振るのではない。

 投げる。

 

「棍棒投げも、昨日ばっちりはっきり見させてもらっちゃったんだぜ! コーティングッ!!」

 

 ボスコボルトが丁度棍棒を投げる瞬間に振り向いた秋水に、ボスコボルトの投擲モーションが一瞬固まったように見えた。

 しかし棍棒を投げるのを急停止させるのは間に合わず、そのまま秋水へ向かってそのデカい棍棒を投げつけてきた。

 あらら、自分で勢い殺しちゃったよ。

 秋水が反転したことで怯んでしまい、棍棒投げが随分と力ない投擲になってしまっていることに、秋水はニヤリと笑いながら、右手のバールに魔素反発の魔法を施す。

 まあ、身体強化で強化された感覚での話であり、それでも棍棒は平然と時速で140㎞かそこらのトンデモ速度なワケだが。

 プロ野球の剛速球並の速度で迫る大質量の棍棒を前に、秋水は反転の軸にしたのとは逆の足で大きく踏み込み。

 

「ブーストッ!」

 

 右腕に部分強化を重ね掛け、迫り来る棍棒へ真っ向勝負。

 全身の身体強化。

 右腕に部分強化。

 バールには武装強化に魔素反発の魔法。

 そのまま綺麗に打ち返してやるぜ。

 

「超絶特大ピッチャー返しだ――――ぉえ!?」

 

 ゴッ!

 鈍く低く大きな打撃音がボス部屋に響き渡る。

 手応えあり。

 投げられた棍棒を、秋水の右手のバールが正確に捉え、そのまま投げつけてきたボスコボルトに向かって叩き返してやろうとした。

 したところで、思わず秋水の口から気の抜けたような変な声が上がってしまう。

 棍棒が、弾き返せなかった。

 バールで迎え撃った、いや迎え打ったはずなのに、棍棒はピッチャー返しとならず。

 

 バールのL字先端が、棍棒に突き刺さっていた。

 

 あ、やべ。

 秋水は状況を理解した瞬間にそれだけ察したが、時間が足りなかった。

 

 

 

 次の瞬間、棍棒がバールの突き刺さった箇所を起点として、爆発した。

 

 

 

「ぬわぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!?」

 

 棍棒の爆発を至近距離でモロに食らった秋水は、情けない悲鳴とともに後方へと軽く吹っ飛ばされ、岩肌の地面をゴロゴロと転がる羽目になった。

 ちくしょう、手榴弾戦法だと姑息な真似を。間違えた。小癪な真似を。

 いや違う、魔素反発の魔法のせいだ。

 地面を転がった秋水は、転がり終わるより前に地面を叩いて無理矢理体を跳ね起こす。右腕の身体強化重ね掛けを継続していたおかげで、右腕のみで大ジャンプして秋水は身軽に宙を舞う。

 魔素反発の魔法は、名前の通り、魔素を押し返す力を加えていく魔法だ。魔素回収の魔法の逆バージョンである。

 モンスターの体内で魔素反発の魔法を発動させれば、それは昨日、ボスコボルトを3体葬った爆殺戦法になる。

 その魔素反発の魔法を施したバールが棍棒に突き刺さり、同じ理由で棍棒を爆破したのだろう。

 至近距離で棍棒が爆発すると、ほとんど手榴弾である。

 

「いやちょっと待て、なんで刺さった?」

 

 空中で体勢を立て直して着地した秋水は、ふと疑問が頭をよぎる。

 魔素反発の魔法は、魔素の塊であるモンスターを跳ね返す。

 故に、打撃武器とは相性が良いが、刃を当てて斬り裂く必要がある斬撃武器とは相性がすこぶる悪いのだ。

 武器が当たる前に、弾くからだ。

 それが今回は、弾く前に、バールの先端が棍棒に食い込んだ。

 

「弾く力以上に押し込めば、刺したり斬ったりできるってことか……いけね」

 

 魔素反発の魔法による爆殺戦法の新たなる可能性が思い浮かぶが、秋水はすぐに我に返って走り出す。

 棍棒を手放したボスコボルトが追撃を仕掛けに来ている。

 そして、最初に転ばせたのに人の足を物理的に引っ張りやがったボスコボルトも起き上がって、元気に秋水に向かって爆走中だ。

 囲まれちゃう囲まれちゃう。

 

「いやぁ、やっぱりボス戦はいっぱい気づきがあって最高だなド畜生めよぉっ!!」

 

 悪態をつきながらも走る秋水は、とても生き生きとした笑顔であった。

 2体のボスコボルトから走って逃げる。

 いや、棍棒を爆破してしまい、モタモタしている間に秋水を追いかけているボスコボルトは3体全員だ。

 

「モテモテで困っちゃうぜ……ああっ、バールどっかいった!?」

 

 軽口を零しながら秋水は右手を軽く振ってから、手に持っていたはずのバールがなくなっていることに今更気がつく。

 棍棒を爆破した方のバールだ。吹っ飛んだ拍子に手を離してしまったらしい。

 ボスコボルトから逃げ回りつつ、秋水はボス部屋をぐるりと見渡す。

 手斧はあそこ。

 巨大バールはあちら。

 そしてバールは。

 

 スライムにぶっ刺さっていた。

 

「うわぁい、もったいねぇっ!?」

 

 秋水は笑うように泣き言を漏らし、剣鉈をするりと引き抜いた。

 あのバールはたぶんもう駄目だ。

 消化されて終了だろう。

 ああ、もったいない。

 左足で着地。

 流れる衝撃に逆らわず、膝の力を抜いて体を浮かし、秋水は急速旋回。

 そして左の足に力を入れて地面を蹴る。

 

「はいはい、集まらないでバラけろお前ら! 散った散った!」

 

 一気に180度のUターンをして、秋水は3体のボスコボルトに向かって突撃した。

 右手に剣鉈。

 左手にバール。

 

「コーティング!」

 

 そして、左手のバールに魔素反発の魔法を施す。

 剣鉈の方はどうしようか。

 秋水は一瞬迷ったが、一番近いボスコボルトはもう目の前だ。

 

「ええい、ぶっつけ本番のコーティング!」

 

 剣鉈にも魔素反発の魔法を施し、目の前のボスコボルトを真っ正面に見据える。

 棍棒を紛失したボスコボルトだ。

 徒手空拳。

 ショートレンジ。

 ボスコボルトが拳を引き絞り、踏み込んだ。

 秋水も同じく剣鉈を横に構え、踏み込んだ。

 そして突っ込んできた勢いを乗せ、ボスコボルトが秋水の顔面を狙って右ストレートを打ち出し。

 

「ふっ!」

 

 踏み込んだ右足で後方に跳ぶように地面を蹴り、後ろの左足へ体重を乗せながら上体を後ろへと反らし、顔を引く。

 ぶんっ、と秋水の眼前に拳。

 ボスコボルトのパンチだ。

 それが、ギリギリで秋水の顔の前、いやジェットヘルメットのバイザー前で止まった。

 

「意外とできたっ!?」

 

 すんでのところで回避ができたことに、やった張本人が驚いた。

 そして、驚きながらも体重を乗せた左足に力を込める。

 反らした上半身を腹筋や大胸筋の力で引っ張り戻し、その力の流れに乗るようにして左足を蹴り出した。

 突き出されたボスコボルトの拳をすれすれで横切って、今度は逆にこちらが剣鉈を突き出す。

 

「おらよっと!!」

 

 鉈の切っ先が、ボスコボルトの胸を捉えた。

 手応え。

 弾くような感触。

 

「いや駄目だ刺さんねぇなオイ!?」

 

 タイミングがズレたカウンター気味に叩き込んだ突きで、ボスコボルトの体勢が崩れる。

 刺さっていない。

 先程、魔素反発の魔法を施したバールが棍棒に刺さったのだから、反発する力以上で押し込めば刺さるんじゃないかと思ったのだが、駄目である。何故だ。身体強化の重ね掛けをしなかったからだろか。

 秋水は若干悔しそうにしながら、すぐに地面を蹴った。

 ボスコボルトの拳を避けて、剣鉈で突く。それだけの間に、秋水の横に回り込もうとしているボスコボルトがいる。

 

 その動きが、気配で分かった。

 

 左に回り込もうとされる。

 だから右へ。

 ちら、と目で確認すれば、徒手空拳のボスコボルトの後ろから、左へとボスコボルトが跳び出すのが確認できた。

 気配探知、優秀だ。

 問題は、どうやってこのレーダーみたいな気配探知を行っているかが分からない、という点だろう。

 

「要・検証、ってな!」

 

 右へと跳んで追撃を躱し、ついでに3体目のボスコボルトに目をつける。

 頭をぶん殴ってくれたあんちくしょう。

 右足で着地し、膝の力を抜いて猫のように身体を沈ませながら方向を変える。

 そして、抜いた力を一気に戻し、爆発させるように3体目のボスコボルトに向かって跳ぶ。

 急に方向を変えて突っ込んできた秋水に、そのボスコボルトの反応が一瞬遅れる。

 

「ボサボサして気ぃ抜いてんじゃねぇよ!」

 

 秋水は笑いながら吠え、剣鉈を横へと構えた。

 狙いは首。

 反応こそ遅れたものの、ボスコボルトがそれを防ごうと棍棒を横に構え。

 

 逆側からバールで首をぶん殴る。

 

 首をひん曲げながら、魔素反発の魔法の効果も上乗せされて、ボスコボルトの上体が勢いよく弾かれる。

 左右の手にそれぞれ武器を持つと、こういうフェイントができるのだ。

 1撃叩き込んでから、着地、すぐに地面を蹴る。

 

「やっぱ首は痛いよな! ははっ、ネックガード買っとけよお前!」

 

 頭を殴られてあわや首が折れるところだった意趣返しをした秋水は、高らかに笑いながらダッシュでボスコボルトたちから離れていく。

 走れ走れ。

 逃げろ逃げろ。

 やはり、ヒット&アウェイは正解なようだ。

 秋水はスライムを避けるように、大きく弧を描きながら走る。

 息が上がる。

 しんどい。

 でも、おもしろい。

 ニヤニヤと笑みを垂れ流しながら、秋水は左手のバールを腰ベルトに差し戻し、ボス部屋を走った。

 

「よっ、と……よし突貫っ!」

 

 そして、走った延長線上に転がっていた、最初のご挨拶でぶん投げた手斧を空いた左手で拾い上げてから、秋水は走る足を止めることなく再び向きを変えた。

 ボスコボルトは3体とも、まだまだ健在。

 まだまだ、遊べる。

 

「次はどうすっかな!!」

 

 秋水はひたすら笑いながら、ボスコボルトたちに突っ込んだ。

 

 

 





 ネックガード、もっと流行って(`・ω・´)

 いつの間にかレーダー的な魔法も生えてきて、徐々に人間離れしていく秋水くん。
 え、最初からわりと人間離れした筋肉?
 それは、うん……( ´-ω-)
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