ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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256『錦地さん家は歪な感じで回り始めた(崩壊してるのは変わらない)』

 ぱちり、と錦地 美寧(にしきじ みねい)が目を開けたとき、彼女の表情はなんとも緩みに緩みまくっただらしのないものであった。

 

「……あへ?」

 

 気の抜けた妙な声が美寧の口から漏れ出てくる。

 もそり、と体を起こしたならば、掛けていた布団がばさりとベッドから落ちた。

 見慣れた部屋。

 自分の部屋。

 時計を見れば、朝の5時。外はまだ暗い。

 昨日は22時の時点で、ベッドの上でくたばった記憶が最後だ。

 なるほど、よく寝た。

 美寧はベッドの上に座り込んだまま、ゆっくりと部屋を見渡してから、自分の格好を確認する。

 パジャマである。

 まかり間違ってもウエディングドレスではない。

 天井を見上げる。

 部屋には美寧独りである。

 まかり間違ってもタキシードを着た筋肉質の大男はいない。

 つまり、なんだ。

 

「――なんで夢のクライマックスで起きるの私の馬鹿ぁぁぁぁぁっ!!」

 

 美寧はベッドに突っ伏して泣き出した。

 本日も絶好調に情緒不安定である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと泣いたらすっきりした。

 でも、惜しいことをした。

 たっぷり10分後、美寧はもそもそベッドから這いずり出た後、超絶巨大なため息を吐き出す。

 良い夢を見た。

 すごく良い夢を見た。

 だが、一番良いタイミングで起きてしまった。

 残念が過ぎる。

 美寧はもう一度だけため息をついてから、よいしょ、とベッドから立ち上がる。

 どんな夢を見て、どんなタイミングで起きてしまったのかは、美寧の名誉のために伏せておく。

 

「あとちょっとでキスできたじゃんね……いや、初夜だって夢じゃなかった……夢だったじゃんねクソぅ……」

 

 伏せた意味はなかったのかもしれない。

 ブツブツと恨み言を漏らしつつ、美寧はふと姿見の鏡を見た。

 寝起きのぼやっとした表情、よれたパジャマ、寝癖のついた髪。

 そして、見慣れたブサイク。

 でも。

 

「よし、今日も可愛いぞ美寧ちゃん」

 

 姿見の前で、にっ、と美寧は笑顔を作って自分を褒める。

 自画自賛。

 良いじゃないか、自画自賛。

 それは大事なことなのだと、彼が言っていたのだから。

 

 彼。

 

 棟区 秋水。

 

「――そうだっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん! 筋肉ムキムキ見た目ガテン系でも喋り方が超絶丁寧ホストみたいな推定30歳くらいの男の人が好きそうなチョコってどんなの!?」

 

「……え、そんな上物が美寧の獲物なの?」

 

「そう!」

 

 パジャマを着替えるどころか寝癖を直すこともなく、リビングに転がり込むようにして美寧が突入したならば、コーヒーなんぞ飲んでまったりしていた母親が、思わず真顔になって美寧を見てきた。

 今日は母親が珍しくお泊まりではない。

 でも、この母親の出勤時間は早いので、6時になったらほぼアウトなのだ。だから昨日は早く寝たのである。

 美寧の早口をしっかり聞き取った母親が、ふむ、と顎に手を当てて考え込む。

 

「……そうね。まず、丁寧ホスト系に向いているのは、たぶん大人の香り系よね。ウイスキーとかブランデー入り。香りで格を出す感じが良いわ」

 

「なるほど大人系! 了解!」

 

 美寧が即座にスマホのメモに入力する。

 バレンタインデーのチョコレートを、本日放課後、買いに行く予定だ。

 なにせ昨日は、特別にお小遣い貰っちゃったわけだし。

 快くお小遣いを送金してくれてありがとう財布。そのお金は娘のバレンタインデー大作戦で全額使う予定なので、またご入り用の予定があればよろしく。

 なお、美寧がリビングに転がり込んだ瞬間、ついでにその場にいた財布がびくりと震えて青くなっているのだが、美寧は特に気にしていなかった。

 とにもかくにも、今の美寧が気にしていることは1つである。

 

「え、ウイスキーボンボンとかって高校生が買えるかな……」

 

 ウイスキーやブランデーが入って香り高いチョコレートが良いとか言うが、それってつまりアルコール入りである。

 未成年が買えないんじゃないか問題。

 美寧はスマホに入力し終わってから、眉を顰めて顔を上げた。

 母、何故か得意気な笑み。おいムカつくなその顔。

 

「待ちなさい。それはハイリスクよ」

 

「じゃあ勧めないでよ!?」

 

「筋肉ムキムキってことは、ストイックの可能性がある。禁酒してるタイプもいる。アルコールで筋分解を気にしてるとか。あと単純に体質で弱い人もいる。相手の弱点を踏み抜くチョコは、本命には向かないわ」

 

「ダメじゃん!? あっぶな!?」

 

 即時メモ帳を白紙に戻しながら美寧は母親に噛みついた。

 なんでハイリスクなチョコレートをお勧めするんだ。娘の恋愛事情に火薬を投入するんじゃないよふざけんな。

 

「そこで第2案。塩キャラメルとナッツの組み合わせね」

 

 しかし、吠える美寧に動じることなく、母親はぴっと人差し指を立てながら続けた。

 どや顔である。

 うわムカつく。

 

「甘さはある。でも塩で締まる。ナッツで食べ応え。ガテンのエネルギー需要と、丁寧ホストの繊細さ、どっちも拾えるわ」

 

 ムカつくが、恋愛経験はやはり母親の方が上である。

 ふむふむ、と美寧は頷きながら白紙にしたスマホのメモ帳に、塩キャラメルナッツ、と入力する。

 

「塩とナッツ……よし、分かった!」

 

「ただ、激甘で砂糖の暴力みたいなチョコはダメよ」

 

「えぇ!? チョコって甘いのが正義じゃないの!?」

 

「正義じゃない。事故るわ馬鹿娘。釘を刺して大正解ね」

 

 母親が呆れた様子でため息をつく。

 いや、だって、チョコレートって甘いものでしょ。

 美寧が不思議そうな顔で母親を見る。美寧の中では高カカオチョコレートというのは選択肢の中にないものだった。

 

「雑な甘さとかじゃなくて、塩とか触感で上品さがあるやつが良いわ。とにかく成分表示を見なさい。砂糖が最初に来るやつは避ける。あと油脂が多いのも外す」

 

「あー、確かに先生、栄養素に拘りそう……」

 

 筋トレに対してストイックなイメージがある秋水は、食事や休息に関しても拘っていそうである。と言うか、絶対拘ってる。なにせお風呂1つ取ってもあれだけ知識があるのだ。栄養学に精通していても全然不思議じゃない。

 なるほどなー、と感心した声を漏らす美寧を、先生ってなによ、と母親は胡乱なものを見る目を向ける。胡乱ではなく娘である。

 なお、震えていたお財布も、先生って誰だよ、という顔になっている。

 

「拘るついでだけれど、美寧はとにかく“渡し方”に拘りなさい」

 

 そして、チョコレートの話しか出ない娘に対し、母親は別方向から釘を刺した。

 美寧が、きょとん、とした表情になる。

 その顔を見た瞬間に、母親は悟った。

 あ、ダメだこいつ。

 

「渡し方?」

 

「変な告白文は添えない。重いから。読む側が困るのよ」

 

 人差し指を立てながら注意喚起。

 こいつ、気合いを入れまくって絶対ラブレターとか入れるタイプだ。我が娘ながら馬鹿じゃないのか。母親は大きくため息を1つ。

 

「チョコは丁寧に渡して、そして丁寧に逃げるの」

 

「逃げるの!?」

 

「俺も逃げたい……」

 

 母親の言葉に驚く美寧に、リビングの端からお財布がひっそりと呟く。

 

「ごめん忙しいから浮気野郎は金だけ出してちょっと黙って」

 

「はい……」

 

 娘からの冷たい言葉を浴び、お財布は小さい返事をしながら小さくなった。素直でよろしい。

 

「逃げるの。渡した直後に居座ると、相手に返答を迫ってる圧が出るから」

 

 なるほど。

 美寧は大きく頷きながら、素早くメモ帳に追加入力をする。

 チョコレートを渡して颯爽と去るとするならば、帰り際に渡すのがベストタイミングということだろう。危ない。そもそも渡すタイミングなんて考えてもいなかった。

 親としてはクソだけど、やはり恋愛の先輩としては役に立つじゃないか。

 

「母さんはそうやって男を誑かしたの?」

 

「え?」

 

「そうよ。そもそもそれ、私の明後日のプランよ」

 

「え?」

 

 メモ帳に入力しながら顔も上げず、美寧が軽く尋ねれば、母親も何一つ悪びれた様子もなく頷いて返す。

 何故かお財布が驚きの表情で見てくるが、女2人揃ってガン無視である。

 

「そうそう。あと美寧、渡すときは照れなさい」

 

「照れろ!? ワザと!? ムリ!?」

 

 続けてアドバイスを飛ばしてきた母親に対し、美寧は思わず顔を上げて驚愕する。

 チョコレートをプレゼントフォーユーの時点で演技までしろと言うのか。

 なるほど。

 無理。

 美寧は今まで秋水の前で繰り広げた失態を瞬時に思い返す。

 マジで失態しか思い返せない。

 首吊って来世から出直そうかな。いや来世に秋水はいない。今世が常に最高値。秋水がいなければ出直す意味など微塵にもありはしないのだ。

 ではなく。

 美寧は今まで意気込むだけ意気込んで、そして秋水の前ではその意気込みだけがものの見事に空回りし、常に面舵取り舵いっぱいいっぱいのあっぷあっぷな臨界点で対応せざるを得ないという醜態しか晒せなかった。醜態過ぎて死にたい。いや生きる。

 そんな状態で、バレンタインデーに、しかも本命チョコを渡すのだ。

 照れる演技、なんて取り繕う余裕などあるはずがない。

 絶対に失敗する。

 身の丈以上の無茶だ。

 美寧はベンチプレス40㎏大失敗の教訓と、秋水の教えを胸に刻んでいるのである。

 

 あのとき落ちてきたバーベルをキャッチして助けに来てくれた先生は本当に格好良かったというか颯爽と現れる白馬の王子様的なのを素で体現しているのが流石先生じゃんねというか超絶至近距離で目の前に現れた先生は今思い出しただけでも胸が高鳴るというかドキドキするというかムラムラするというか寝そべっている私の上に先生がきてたから構図的には完全に押し倒されている感じだったなとか考えたらもう最高にオカズじゃなかった妄想のシチュエーション過ぎて最高で捗ったんだけどもうその後の先生の上半身裸事件が組み合わさったらオカズではなく妄想シチュエーションの脳内補完の組み合わせがエグくて上半身裸の先生に押し倒されてる妄想できるようになっちゃったから私の夢がどれだけドピンクに汚染されたか先生には是非ともその素敵な肉体にわからせてやる必要があるじゃんねとなると私がリードする側になるんだけどなにそれ私が先生をベッドの上でリードするとか考えただけでも涎が止まらないんですけどジムでは教えてくれる先生だけどベッドの上では私が教える側になっちゃうぞ的な感じで先生を快楽の沼に沈めで私にズブズブに依存させてやるとかよーしこれは先生大攻略作戦のプランの1つに組み込んでもいいじゃんねって言っても私あんまりそういうの興味なかったからあんまりテクニックとか知らないじゃんねいや待ったヤる側については母さんいるしヤられる側については父さんいるし2人は是非とも夜のムフフな手練手管のテクニックを聞き出さなきゃいけないじゃんねっ!!

 

 そうじゃなかった。

 今はバレンタインデー大作戦だ。

 なんだっけ。

 チョコレートを渡すときは照れる演技をするんだっけ。

 

「……やっぱムリっ!」

 

「無理でもなんでも照れなさい。目を逸らして、声を少し小さくして、手渡しの時間を短くする。相手に『あ、これ本命だな』『自分に気があるな』って理解させるの。渡し方に拘るってそういう意味よ」

 

 両手で大きくバツをつくって主張するが、母親は無情にも却下してきた。

 目を逸らす。

 声を小さくする。

 手短に渡す。

 秋水の前でそんな自分をコントロールできるなら、今頃はもうちょっと関係が進展してるわ馬鹿野郎。間違えた。今頃ベッドインまで辿り着いてるわ馬鹿親。

 ぬぅ、と美寧は小さく唸りつつ、じとりと母を睨む。

 

「いや、でも……たぶん渡すだけで精いっぱい……」

 

「なら、照れるのが上手くいかなくても、渡した直後に一回だけ笑顔を見せなさい。嬉しそうな顔は、だいたいの男に効くわ」

 

 母親はすぐに事案を出してきた。

 流石は恋愛的に女の先輩。頼りになる。

 

「が、がんばる……っ!!」

 

 笑顔だったらいけるかもしれない。

 というか、笑顔すら秋水の前で見せられなかったら、色んな意味で終わりである。

 美寧は拳を握って気合いを入れ直した。

 笑顔、笑顔、と美寧が自己暗示のように何度か呟くのを、母親は呆れたような目で見ているが、そこで今まで黙っていたお財布が恐る恐るという感じで口を開く。

 

「……なあ、美寧」

 

「あ、父さんおはよう。昨日はお小遣いありがとね。あのお金でチョコ買うから」

 

 お財布、もとい、父親である。

 スーツ姿の優男は、1ヶ月前なら怖くて息が詰まるような印象しか抱けなかったはずなのに、今では不思議となにも感じない。不潔だとか、最低だとか、汚いとか、嫌いだとか、そんな感情すらも湧いてこない。

 父親に対して現在美寧が抱く感情は、びっくりするほどフラットで、なにもない。

 秋水以下の身長、秋水以下の筋肉、秋水以下の渋さ、秋水以下のイケメン差、秋水以下の男の色気。秋水以上な点を上げるとしたら、精々声の高さくらいじゃなかろうか。

 そんな男に対して、何の感情を抱けというのか。

 全部が全部、どうでも良い。

 今の美寧はそれどころじゃないのだ。

 まあ、いや、でも、お小遣いをくれたことには素直に感謝である。

 昨日は父親が帰ってきてから、ちょっとお喋りしただけだというのに、気前よく父親はお小遣いを出してくれたのだ。

 

 今の若い女とどこまでヤったの? 会社は知ってるの? 母さんには報告してるの? どんな感じで出会ったの? 最初は会社でヤったの? ホテルにイったの? どこでヤったの? どういうプレイなの? どっちが誘ったの? 外泊多いけど旅行とかしたの? そもそも浮気相手って1人なの? 2人以上いるならバレないようにどういう工夫してるの? どういうところが気に入ったの? 思い出のエピソード教えろ? 連絡先教えろ? 先輩として参考にするか早くスマホ出せ? 震えてちゃ分からないだろ? 会社にチクられたくないだろ? 早くスマホ出せよ? あと私、最近金欠で困ってるんだよね? ん?

 

 最近はトレーニングウエアとか化粧品とか、色々な物を買ったせいで金欠気味だったので助かった。

 うん。フラットな感情というのは言い過ぎた。ごめん。役に立つお財布だなんて、十分に褒め言葉じゃないか。

 美寧は頭の中で父親の存在評価を少しだけ上方修正することにした。

 母親が恋愛相談で役に立つなら、父親は資金面で役に立つ。

 もしかして自分、結構いい感じの両親に恵まれているんじゃなかろうか。

 

「いや、あの、あの金で買うのがチョコなのか……? じゃなくて、え、美寧は今、好きな男がいるのか?」

 

 ダブル不倫真っ最中だろうと秋水との恋愛に役に立つなら上等な存在、と美寧が両親に対しての考えを改めている中、父親が戸惑った声で聞いてきた。

 なにを今更。

 美寧はきょとんとした顔をする。

 あ、そうか。父親の方には恋愛相談してなかったか。

 美寧はすぐに思い直す。

 

「うん」

 

「……その筋肉ホストおじさんのことか?」

 

「筋肉ムキムキ見た目ガテン系でも喋り方が超絶丁寧ホストみたいな推定30歳くらいの男の人」

 

「情報が強い……」

 

「次、略したら殺すじゃんね」

 

「こわ……」

 

「こわ……」

 

 父親に対して睨み付けながら太めの釘を刺したところ、母親まで若干引いてしまった。何故だ。

 そこでふと、美寧はリビングに両親が揃っているという珍しい状況に気がついた。

 姉が死んでから、互いに家庭の外に愛人を持って以降、互い違いに外泊だの帰りが遅くなるだのを繰り返しまくっている両親は、なかなか揃う機会がないのである。

 まして、朝に2人がリビングで顔を突き合わせているとか。

 

「そう言えば朝から2人揃ってるのって、姉さん死んでからめっちゃ久しぶりだけど、どうしたの? 離婚すんの? 協議中?」

 

「なんか美寧が昨日からおかしいぞ!?」

 

「そいつ先々週からおかしいわよ。自分の娘のなに見てんのよあんた……」

 

 美寧の方を指さして母親の方に向かって暴言を吐く父親と、それをさらに暴言で叩き返す母親。

 純粋なる娘の疑問だというのに、両親の反応が中々に酷すぎる。

 

「いやいや、母さんだって死んだ姉さんか浮気相手しか見てなくて、私のこと大して見る気なかったんだから特大ブーメランじゃんね」

 

「は? 浮気相手?」

 

「あなたと同じよ」

 

「やーい、ダブルふりーん。って、そんなことはどうでもいいじゃんね。で、実際どうなの父さん、女の嬉しそうな顔ってのは、やっぱ効果あるの?」

 

 まるで母親の方の不倫を今初めて知ったかのような父親の反応だが、んなことはどうでもいい。

 両親揃って好きなだけ外で若い子とイチャイチャチュッチュしてればいいさ。

 だが今大事なのは自分だ。

 娘のことだ。

 娘の恋愛相談だ。

 お前らのダブル不倫なんて知るか。

 美寧は即座に頭を切り替え、ぐいっと父親に詰め寄った。

 チョコレートを渡すとき、できれば照れながら渡す、最低でも笑顔を見せる。

 母親はそうアドバイスをしたのだが、それは受け取る男の視点から正解なのだろうか。

 閑話休題だとばかりに話を戻して勢いよく父親に尋ねれば、なに言ってんだこいつ、とでも言いたげな顔を父親は一度浮かべてから、えーっと、と少しだけ考え込んだ。

 

「……まあ、そりゃ効くだろ。というか、嬉しそうにされると、こっちも嬉しくなる」

 

「男って単純で馬鹿よね」

 

「お前が言うな」

 

「なによ?」

 

「なんだよ?」

 

「喧嘩は後。今は娘の作戦会議。はい母さんは作戦を復唱」

 

 急に両親の間にピリッとした空気が流れるが、そんなノイズはどうでも良い、余所でやれ、今は娘が恋愛相談してるだろうが。

 甘さの欠片もなく見つめ合った両親に対して、ぱんっ、と美寧は力強く両手を叩いて鳴らした。

 父親は渋い顔。

 母親は、なんなのこいつ、とでも言いたげな顔。

 

「……チョコは中身よりもシチュエーションよ。わざとらしく照れなさい。できないなら笑顔を見せなさい。やれるなら照れ笑いよ。そして渡したら丁寧に逃げる」

 

「俺も逃げたい……」

 

「財布は黙って」

 

 母親のアドバイスと自分の入力したメモ帳の内容に食い違いがないかを確認する美寧は、切実なお財布の呟きをバッサリ切って捨てた。

 はい、とお財布が小さくなる。

 錦地家の家庭環境が、大きく変わるような朝だった。

 

 

 

 美寧のバレンタインデー大作戦決行日、その2日前。

 

 2月12日、火曜日のことだった。

 

 

 





 今一度確認します。
 美寧ちゃん家は、ヒビ割れた極悪の家庭環境なのは間違いないし、両親が良い親へと心を入れ替えることはないし、修復される関係性ではありません。
 家族としてのリスタートは無理です。

 でも、新たな関係で始めることは可能です。
 女子高生と、大人の女と、大人の男。
 同じ家で暮らしているだけの3人で、歪な関係がスタートです。

 ま、最低な両親なのは変わりませんけどね(無慈悲)
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