ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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258『新たなる厄介事』

「……やべぇ」

 

 ダンジョン、地下1階、セーフエリア。

 ライディング装備のまま秋水は座布団の上に座り、腕を組んで冷や汗を流していた。

 ヤバい。

 語彙力が急低下する程度に、秋水は悩み続けていた。

 今日は2月12日、ただいま午前4時。

 そろそろセーフエリア内で一眠りして、2時間睡眠ですっきり爽快6時起床をかまして、それから風呂に、ごはんに、身支度を調えなくてはならない。火曜日は平日、今日も学校が控えているのだ。

 だからそろそろ寝なくては。

 それくらい、秋水も頭では理解している。

 している、のだが。

 

「……いや、持って帰ってきちまったもんは仕方がねぇ。まずは休憩第一だ」

 

 再び考え込んでしまいそうになるのを強制的に切り替え、ぱんっ、と膝を叩いて秋水は座布団から立ち上がった。

 問題は逃げないが、登校時間は刻一刻と迫ってくるのだ。

 とりあえず寝よう。

 まずは寝よう。

 それから考えよう。

 現実逃避とも言う。

 秋水は硬い表情のまま、もそもそと寝間着代わりのルームウエアに着替え始めた。

 座布団の前には、キラリと光るアクセサリーが鎮座していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリンとの戦闘は、正直に言って歯応えがない。

 ヒリヒリした緊張感はなく、スリルの欠片も感じない。

 ただ、戦い方や魔法の使い方の練習台としては最適だよなぁ、と秋水は自分の中で納得することができた。

 

「4階はさくっと攻略して、5階に下りる感じかぁ」

 

 そんな暢気なことを呟いていたのは、はてさて午前1時過ぎくらいだっただろうか。

 とりあえず今回のダンジョンアタックは、ゴブリン1体相手に試してみたかった戦いを一通り繰り返す。

 そして、学校が終わってジムに行って、その次のダンジョンアタックで複数体のゴブリン戦をやってみるつもりだ。

 角ウサギとコボルトと同じであれば、複数戦は2体相手か3体相手か。

 正直、ゴブリンが3体相手でもなぁ、という気分ではある。

 なので、この地下4階はさくっとボス部屋に乗り込む感じになりそうだ。

 

「ま、こういう階層もあるってことか」

 

 秋水は自分を納得させるように呟きながら、巨大バールを握って部屋へと突っ込んだ。

 ゴブリンとのタイマン、12戦目である。

 部屋の中にはスライム6体にゴブリン1体だ。

 迷うことはない。

 ゴブリンをぶっ殺す。

 

「棒術の練習台よろしくっ!」

 

 

 

 そして、ゴブリンをボコボコにした後、ドロップアイテムが出てきたのである。

 

 

 

 12戦目にして、ようやくドロップアイテムが1つだ。

 角ウサギからのアンクレットが、大体8割くらいの確率。

 コボルトからのネックレスが、大体5割くらいの確率。

 その2つと比べてみれば、確率が下振れしたと考えても、排出率はかなり渋い。

 白銀のアンクレットとネックレスも、最初の頃はこれくらいのドロップ率だっただろうか。いや、もう少し上の確率だったはずだ。

 ゴブリンは弱い代わり、ドロップアイテムの排出率が低いのかもしれない。

 

 しかし、秋水にとって問題はそこではない。

 

 ドロップアイテムは売って金になるので大事と言えば大事だが、秋水の中ではあくまでもモンスターとの戦いでたまに出てくる「おまけ」程度の価値しかないのだ。

 その「おまけ」で日本政府が出てくるレベルの騒動になって、全然笑えないのだが。

 ともかく。

 秋水からすれば、ドロップアイテムの排出率が低くても特に問題はないのだ。

 ない、のだが。

 

「…………うわ」

 

 思わず秋水は嫌そうに呟いてしまう。

 なんちゃってバール棒術の練習台でぶち殺したゴブリンの魔素をしっかり吸収した後、そこに残ったドロップアイテムを渋い顔で見下ろす。

 

 指輪だった。

 

 ゴブリンからのドロップアイテムは、指輪のようだ。これは装飾品に疎い秋水でもハッキリ分かる。

 そこは、いい。

 種類が何か、というのは、どうでもいい。

 問題はそこではない。

 見るからに金属が違うのが、問題なのである。

 アンクレットも、ネックレスも、そしてサークレットだって、その金属は白銀だった。

 祈織曰く、微妙に違う、とのことなので、同じ白銀ではないのだろうけれど、見た目は同じ白銀であった。

 だが、この指輪は、明らかに違う。

 

 

 

 ブラックメタリック。

 

 

 

 まさに黒鉄。

 

 

 

 黒鉄の指輪である。

 

 

 

 秋水でもこれは分かる。

 地雷案件だ。

 どう考えたって地雷案件だ。

 白銀のアンクレットには、地球上には存在しなかった元素が含まれていた。

 白銀のネックレスは、祈織曰く別の合金だそうなので、また別の新元素が含まれている可能性がある。

 白銀のサークレットは、金属がどうのこうの以前の問題として、祈織の知らない宝石が埋め込まれていた。

 そして、この指輪は、明らかに白銀シリーズとは違う金属である。

 だってもう、色が違う。

 黒いんだもん。

 秋水はその黒鉄の指輪を拾い上げた。

 どうしよう。

 見ただけで、世に出したらまた厄介事の種になるな、というのが直感で分かる。分かってしまう。

 指輪の価値というのは気になるが、正直ドロップアイテムという名の厄介事は、アンクレットだけでいっぱいいっぱいだ。むしろ、ネックレスとサークレットというもののせいで、現段階でもはや許容オーバーだ。

 

「見なかったことにしようかなぁ」

 

 まじまじと指輪を見てから、秋水は天井を見上げた。光る岩が眩しい。

 ゴブリンからドロップアイテムなんてものは出なかった。

 そういうことにして、黒鉄の指輪を適当に部屋に放置しておけば、きっとスライムが食べてくれるはずだ。完全なる証拠隠滅である。

 そんな名案を思いついた秋水は、もう一度手元にある黒鉄の指輪を見下ろす。

 

「……もったいねぇ」

 

 そして何故か、勿体ない根性が湧いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「栗形さんに見せる……いや、わりとダンジョンの存在に掠ってくるから怖いんだよなぁ……じゃあ鎬姉さんに……いや、もっとダメだろ……」

 

 ルームウエアから制服に着替え、学校に向かいながらも秋水は腕を組んでお悩み継続中であった。

 当然、黒鉄の指輪のことである。

 もったいないなぁ、ということで、結局回収してしまった。

 しかし、持ってきたとて、じゃあどうするのか、という問題がある。

 見るからにして、世に出すのは危ない。

 とりあえず価値を査定してもらうために祈織に鑑定してもらおうかとも思ったが、ドロップアイテムを鑑定しただけで、祈織はダンジョンという存在にニアピンしてくるから正直怖いのだ。ダンジョン、知らないはずなのに。

 それにこの前、白銀のサークレットを鑑定してもらったら、他の鑑定所に持っていこうとしていた。

 うん、見せるのは、ちょっと怖い。

 では、鎬に相談するか。

 論外である。

 白銀のアンクレットの取り扱いについて一段落ついたばかりだというのに、さらに厄介事を押しつけるのは酷というものだろう。

 まあ、謎の凄腕職人である「ダン・ジョンさん」という存在に対し、鎬はすごく懐疑的な目を向けてくるので怖い、というのが本音だけれど。

 

「あ、そう言や、そろそろポーション切れるんじゃね?」

 

 そこでふと、秋水は思い出す。

 1月の頭頃、鎬に対して秋水はポーションを売りつけたのである。50万円で。ボロ儲けも良いところ。

 あのあと、祈織の質屋でバイトに入るとか、新元素が発見されたとか、仕事を辞めたとか、政府が名乗りを上げてきたとか、あれやこれやとあったものだから考えてなかったが、ちまちま消費をしていたとしても、そろそろ鎬に売ったポーションはなくなっている頃だろう。むしろ、とうに飲み尽くしている可能性も高い。

 

「……色々やってもらってるし、今日にでも差し入れるか」

 

 ついでに政府との交渉の結果についても詳しく知りたいし。

 学校へと辿り着いた秋水は、正門から校舎へと向かいながら、今日の午後の予定を頭の中で組み立てる。

 黒鉄の指輪については、やっぱり問題を先送りにすることにした。考えても仕方がない。

 校舎に入り、教室へと向かう。

 

「お、棟区、おはようさん」

 

 と、後ろから声が掛かった。

 最近は聞き馴染んできた、クラスメイトの声である。

 秋水は振り向けば、予想通りの姿。

 

「覚王山さん、おはようございます」

 

「おーう。相変わらずデカいな」

 

 クラスメイトの少年、覚王山 未来である。

 彼は小走りで走ってきて、ぱん、と秋水の肩を軽く叩く。

 ショルダープレスにフロント・サイド・リアのレイズにクリーン&ジャークにミリタリープレスに、諸々の筋トレで鍛え上げられた肩である。デカいは褒め言葉だ。

 

「ありがとうございます。それなりに鍛えてますから」

 

「それなり……?」

 

 素直に言葉を受け取ると、何故か覚王山は首を傾げる。どうしたのだろうか。

 それなりの基準が分かんねぇ、と呟きながら、覚王山は自然と秋水の隣を歩く。

 最近は、彼とよく喋るようになった。

 不思議だ。

 居心地が悪い。

 

「あー、俺もなんか筋トレした方が良いのかねー。部活引退してから運動不足な気がするんだよ」

 

「是非筋トレしましょう。ジムが良いですよ。宅トレもメリットはありますが、誘惑が多い分、気が散って長続きしません。筋トレは継続が一番大事ですから、ジムや公園といった集中して筋トレを行える環境に身を置くのが最も長続きをするコツです。野外の公園で行うのももちろんアリですが、やはり寒さや暑さや雨風といった自然の影響をモロに受けてしまうので、そのような環境を切り離して筋トレのみに集中できるジムがお勧めです。それに周りに筋トレをしている方々がいるというのは、それだけで励みになりますしモチベーションのアップに繋がります。筋トレの方法や器具の使い方が分からないといった場合でも、周りの筋トレをしている方々を観察すれば自然と分かりますし、動画サイトなどで指導用の動画が多くありますので、それを参考にすれば問題ありません。トレーナーのいるジムは会費がそれなりに掛かりますが、ライトに筋トレをするのであればトレーナーなしのコンビニジムを選択肢に入れておけます。コンビニジムの方が会費が安いですから。この近辺のジムでしたら、前に日比野さんが通われていた広いジムがありますし、私の通っているジムも近いですよ」

 

「いや急に喋るのなお前!?」

 

「筋トレ民は仲間が欲しいのです」

 

「花粉症患者かよ……」

 

 前言撤回。

 覚王山が同じ筋トレ民になるというのであれば話は別である。ジムの仲間は兄弟だ。クラスメイトの友達、などというクソの極みな枠組みとはもはや別のカテゴリーなのだ。

 平坦な声ながらもハキハキと早口で勧誘を始める秋水に、覚王山は困惑の表情である。

 筋トレは良いぞ。

 

「やっぱお前、筋トレ好きなのな」

 

「はい」

 

「そーだよなー、ろくでもない時間にジム行こうとして補導されるくらいだもんなー」

 

 呆れたような覚王山の台詞に、う、と秋水は言葉に詰まる。

 お巡りさんが勝手に誤解したのでそのままにしているが、実際のところは「ジムに行こうとして」補導されたのではなく、「ジムの帰りに」補導された、というのが正しい。

 嘘なんだよなぁ、と心の中で思いつつ、そうですね、と秋水は当たり障りのない言葉を返しておく。

 騙して申し訳ない。

 

「そういう意味では、24時間営業のジムというのも考えものですね」

 

「いや考えものじゃねぇだろ。普通は深夜にガキはジム行かねぇんだよ。素直に寝てる時間なんだよ普通は」

 

「交番でもそのように怒られました」

 

「棟区、お前本当に懲りてる?」

 

 懲りてません。

 とは口にできないので、とりあえず沈黙しておくことにした。雄弁が銀なら沈黙は金だ。

 そうして教室まで歩けば、当然ながら登校してきている他の生徒も廊下にはちらほらいる。

 いつものように、避けられている。

 遠巻きに、うわ、という怯えた視線。

 デカいし、人相悪いし、当然の反応だ。

 そんな男に平然と絡んでいる覚王山の方が、むしろ異常であり、周りから奇異の視線を向けられている。

 あまり一緒にいない方が良いのだが、と思っていると、また違う見知った後ろ姿が見える。

 

 クラスメイトの、女子。

 

 す、と秋水は足を止める。

 覚王山が一歩追い抜かしてから、吊られるように足を止めた。

 

「おん?」

 

 立ち止まった秋水を不思議そうに見上げてから、覚王山は再び前を向いて秋水の視線の先を確認した。

 クラスメイトの後ろ姿。

 クラスメイトという存在に対し、あまり興味がない秋水でも、彼女のことは後ろ姿だけでもなんとなく判別できた。

 それはまあ、そうだろう。

 評価とか好意とか、そういう軸で考えたならば、クラスメイトの中で最も好感度が高いのは間違いなく彼女である。

 あー、となにかを察したのか、覚王山が軽く声を上げた。

 それから覚王山は、たっ、と走り出した。廊下を走ってはいけません。

 

「おい、須々木、おはよう!」

 

「うわっ」

 

 そして、覚王山は秋水にしたのと同じく、その女子に駆け寄ってから、ぱん、と肩を叩いて挨拶をした。

 平然と女子の肩を叩くとか、とてもではないが秋水にはできない行為だ。

 コミュ力高くてビックリする。

 ついでに、挨拶をされたそのクラスメイトの女子もビックリして、文字通り跳び上がった。

 

 

 

 須々木 海霧(すすき かいむ)。

 

 

 

 ニックネームは、ジリちゃん。

 彼女のフルネームの中には「じ」も「り」も入っていないが、何故かジリちゃんだ。

 クラスメイトの中で、いや、この学校という生活空間の中で、秋水が最も高い評価をしている人である。

 

「ちょっと和尚、急に声かけられるとビックリ――――ひっ!?」

 

 覚王山の雑な挨拶に、む、と頬を膨らませながら不満そうに須々木は振り向いて、そして背後にいた秋水の存在に気がつき、思わず短い悲鳴を上げる。

 強ばる表情。

 さ、と青くなる顔色。

 明らかなる、怯え。

 

 須々木 海霧。

 

 クラスメイトの中ではもはや唯一と言って良い、秋水に対して明確なる拒絶の色を示す女子だ。

 

 軸がしっかりしていると言うか、安定感があると言うか。

 その対応のブレなさは、秋水にとってはむしろ安心材料に他ならない。

 なんて評価を口にしたら、きっと須々木は凄く嫌な顔をするであろう。

 

「誰が和尚だよ誰が。坊主でもないし仏教徒でもねぇよ俺」

 

「……………………」

 

 クラスメイトからは事ある毎に和尚呼びされている覚王山は、いつものようにツッコミを入れるものの、須々木の方は覚王山の方を見ることなく秋水の方へと目を向けている。

 安心して欲しい。

 近づくつもりはない。

 しかし、目を向けられているのに、ただ突っ立っているのは礼儀がなっていないだろう。

 おはようございます、と秋水も挨拶を口にしようとしたが、須々木とは物理的にちょっと距離がある。心理的な距離よりはずっと近いだろうが、挨拶を口にするにはそれなりに声を張らなければならないくらいの距離だ。それは、周りに迷惑だろう。自分は声まで悪いのだ。

 秋水は一瞬だけ状況を考えてから、ぺこりと頭を下げて須々木に会釈だけをした。

 ぎっ、と須々木の目尻が上がり、秋水を睨み付ける。

 怖がっているのに、怯えているのに、それに負けるかと言わんばかりに須々木は気合いを入れ直したようだ。

 

「おっと。おい須々木、顔が怖ぇよお前」

 

「バリカンで頭皮まで全部剃り上げてやろうか」

 

「顔どころか発言が怖ぇよお前!?」

 

 そこに覚王山がカットイン。

 須々木と秋水の間に割り込むかのように体を入れてきた覚王山だったが、切れ味鋭い須々木の言葉で斬り捨てられてしまったようだ。羊革のコートも本物のヤクザとディスられたし、須々木の言葉は火力が高い印象がある。

 

「なあ、あんま棟区に冷たくすんなよな」

 

 と、すぐに立ち直った覚王山が、少し声のトーンを落として須々木へと言葉を投げかける。

 忠告に近い。

 いらない忠告だ。

 その言葉に須々木は、今度は覚王山の方を睨み付けた。

 奥歯を噛んで、拳を握って。

 わずかな震えは、秋水に対しての怯えの色か、はたまた、内心の怒りを一生懸命に押し殺してくれているのか。

 対する覚王山は、睨んできた須々木をまっすぐに見返している。

 喧嘩になりそうな一触即発のピリリとした雰囲気が、須々木と覚王山の間に一瞬だけ流れた。

 

「……ヤだ」

 

 清々しいまでの拒絶。

 たった2文字に、秋水は内心でどこかほっとする。

 

「少しだけでも話してみろって。あいつ、見た目がアレってだけで、頭の中身はただの筋肉だぜ。いや、勉強できる筋肉か」

 

 それでも覚王山は静かに食い下がる。

 食い下がっているのか、それとも遠距離でディスられているのか、判断に迷う内容だ。

 しかし須々木は聞く耳を持つ気がないのか、睨み付けていた視線を、す、と横へと流す。

 

「悪い奴じゃねぇし、怖い奴でもねぇよ。もう少し仲良くさぁ――」

 

「――なんで、みんな……」

 

「あ?」

 

 腕を組んで、しなくてもいい説得を続けよとした覚王山の言葉が止まる。

 秋水の耳にほんの僅かに届くような、もしくはざわざわとした廊下の喧噪に紛れた幻聴で済まされそうな、小さな呟きが須々木の口から漏れ出た。

 目の前にいた覚王山には聞こえたかもしれないが、秋水は須々木がなにを呟いたのかが分からない。

 

「……ふんっ」

 

 そして、須々木はぷいっと踵を返し、教室へ向かってさっさと歩き出してしまった。

 

「あ、おい須々木!」

 

 無視されてしまった覚王山が須々木を呼ぶも、彼女はずかずかと去って行く。行き先は同じなのだが。

 須々木が遠ざかったことにより、秋水もようやく歩き出す。須々木にはあまり不用意に近づかない方がいい。

 

「……お前も、ちょっとは怒った方がいいぜ。あいつめっちゃ冷てぇし」

 

「そうは言われましても」

 

 覚王山の方に近づけば、どこか呆れたような言葉を投げかけられ、秋水は肩をすくめる。

 怒ったら、周りが怖がるだろう。

 また、怒る要素はどこにもない。

 須々木が秋水を拒絶することは極々自然な反応だ。

 だって、街中でライオンがいたら、怖がって避けるのは自然なことで、無邪気に抱き着いていく奴らが異常なのである。

 

 

 

 それに、去年までは、全員同じく秋水を避けていたわけで。

 

 

 

 ちょっと気が重てぇ、と須々木に冷たくあしらわれてげんなりしている覚王山を宥めつつ、秋水達は教室へと向かうことにした。

 今日もまた、秋水の心はひんやりとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう棟区くん! 明後日のバレンタイン、私に時間ちょうだい!」

 

「おはようございます紗綾音さん。いやです」

 

「バレンタインに棟区くんとデートしたいのー!」

 

「いやです」

 

「チョコ用意してるから付き合ってー!」

 

「竜泉寺さーん、おたくのチワワがとんでもないこと吠え散らかしてまーす」

 

 助けて。

 

 

 





 さて、そろそろ疾走するロードローラーが、地雷を起爆させるタイミングですね(ニッコリ)
 ちなみに一応補足しておくと、ジリちゃんはこの物語で唯一「白黒思考」というタイプの判断基準を持っているとデザインされた子です。

 次話は、『棟区 秋水という地雷』。
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