ダンジョン、地下4階。
単体の通常ゴブリン5連戦後は、やはり上の階と同じく複数体のゴブリンが出現する部屋が並んでいた。
最初にお出しされるモンスターの数が3体ではなく2体という違いこそあるが、2体、3体、2体、3体、と規則正しい出現数に関してもまた、上の階と同じである。
「いや、モンスターの数でカウントしたら、結構ランダムかもな」
秋水は魔素回収の魔法で部屋中に散らばった光の粒子、モンスターが死亡演出でまき散らした魔素を左手でぐんぐんと吸い込みながら、深呼吸とともに感想を漏らした。
6戦目以降からのゴブリンの出現数は、2体、3体、2体、3体、と交互であることは間違いない。
だが、モンスター、という括りとなると、話が別なのである。
「んー……角ウサギの出現法則が分かんねぇな。完全にランダムなのか?」
息を整えるように再び深呼吸をしつつ、秋水は首を捻った。
そう、この地下4階、ゴブリンのついでに角ウサギまでお出しされるという、秋水にとっては嬉しい仕様なのだ。普通に考えたら地獄なのだが、秋水にとっては戦える相手が増えてハッピーなのである。
その角ウサギ、ゴブリンの足として出てくる、というのは共通していた。
ゴブリンが角ウサギに跨がり、ライダー状態。馬代わりじゃねぇか。
だが、ゴブリン全員が騎乗状態かと言われたら、そうではない。
ゴブリンと角ウサギがセットであるパターンと、ゴブリンが単体でしか出てこないパターンがあるのだ。
最初に血祭りに上げたゴブリンランサーとゴブリンアーチャーの2体が、当然のように角ウサギに跨がっていたので、なるほど、ここからは角ウサギ・ドッキング・ゴブリンという感じで登場するんだなと勝手に想像していたのだが、次の部屋でその想像は容易く裏切られたのである。
ゴブリンランサーとゴブリンアーチャー、そして2体の角ウサギを鏖殺した次の部屋、ゴブリンは3体だった。
しかし、角ウサギは1体だけだったのだ。
槍を構えたゴブリンランサーが乗っていた角ウサギ、だけである。
身の丈より大きい盾を持ったゴブリンと、デカい籠を担いで紐状の投石器を持ったゴブリンは、角ウサギなしだったのだ。
なるほど、乗っていないパターンもあるのか、と秋水は部屋の入り口外で中の様子を観察してから、ライダーゴブリンの状態とそうではない状態に分かれるのか、と気がついて。
なんか、しれっと槍兵でもなければ弓兵でもないゴブリンがいる。
見た感じ木製の大きな板、と言うよりもほぼほぼ木製の玄関みたいな盾を構えたゴブリン。
そして紐製の投石器を持ったデカい籠を背負っているゴブリン。
盾兵と投石兵だ。
差し詰め、ゴブリンシールドとゴブリンスリンガー、と言ったところだろうか。
なるほど、槍兵と弓兵だけじゃない、ということらしい。
面白いじゃないの、と秋水は次の部屋へと足を踏み入れ、楽しい楽しい殺し合いを始めたのだった。
「角ウサギが出てくるかどうかも法則性分かんねぇけど、ゴブリンの組み合わせもランダムっぽいんだよなぁ……」
そして現在、部屋の中に漂った魔素を回収し終えた秋水は、部屋の入り口に置いていたリュックサックまで戻り、ヘルメットを脱いでタオルで顔を拭きながらため息交じりに零した。
今のところ確認できているゴブリンの職種は、7種類。
それぞれ特徴的なゴブリンだ。
それからポーションで疲れやダメージを回復しつつ、本日の収穫であるゴブリンの職種について振り返るのだった。
通常の奴を除外したならば、一番対処が楽なのは、間違いなくゴブリンアーチャー、弓兵だった。
「痛って……なにすんじゃワレェ!」
ちくちくちくちく矢で射られるのは確かに鬱陶しい。
狙ったところを外さない百発百中の腕前で、命中とともにこちらの集中力を確実に削り取ってくるというイヤらしさ。
近づいてぶん殴れば大体なんとかなるのだが、角ウサギに騎乗しているバージョンだと機動力が強化され、そのイヤらしさはさらに跳ね上がる。
しかしながら、ゴブリンアーチャーはあくまでも、鬱陶しい、という範疇からはみ出ていない以上、最も対峙しやすい相手であった。
そもそも、矢で射られて痛みと衝撃はあるが、ぶっちゃけそれだけなのだ。
ダメージは最小。
ライディングジャケットの表面すら破られない程度の威力。
致命傷にはほどほど遠い。
弓の攻撃力より、武装強化を施したバイク装備の方が圧倒的に高いのだ。
鬱陶しいが、脅威度はとにかく低いのである。
しかも、弓兵ならではの弱点もあった。
「はい10発目! お疲れさんまた来世!!」
矢が尽きれば弓で殴りかかってくる。
タイマンならば容赦なく殴り返してぶっ殺せる程度であった。
ゴブリンアーチャーが腰に下げている矢筒には、どれも10本しか矢はなかった。一律なのだろう。
その10本の矢が尽きれば、ゴブリンアーチャーは基本的にはザコなのだ。
通常のゴブリンに比べ、武器持ちのゴブリンはそれぞれステータスが強化されているのだが、その強化幅が一番小さく感じられるのがゴブリンアーチャーなので、より一層他の武器持ちのゴブリンに比べて弱く思える。いや、通常のゴブリンよりは強いのだろうけれど。
「これ、たぶん矢の命中率に関連する能力強化に割り振ってんだろうなぁ……」
ゴブリンアーチャーの頭をバールで叩き潰しながら、秋水はそんな考察をした。
しかし、命中率に関連する能力強化、か。
身体強化、特に部分強化の魔法ではフィジカルの筋力面ばかり強化しがちな秋水にとって、ゴブリンアーチャーの「命中させる」という方針の能力強化は、考えさせられるものがあった。
このゴブリンアーチャーが、危険度で言えば最下位であろう。
次に、短剣を持ったゴブリンが比較的楽に対処ができる。
短剣使いのゴブリン。
その小柄な体で近づいてきて、短剣で刺して、すぐ逃げる、という機動力を生かしたゴブリンだ。
ゴブリンスカーミッシャー、といったところか。
だが言おう、ぶっちゃけ弱い。
確かに、このゴブリンスカーミッシャーは素早い。
他の武器持ちゴブリンに比べれば、である。
「へぇい! 逃げるなよ! こっち来て遊ぼうぜぇ!!」
完全にヤバい奴の台詞を吐きながら地面を蹴って逃げるゴブリンスカーミッシャーを追ったならば、追いつけてしまうのだ。
もちろん、足への身体強化重ね掛けはなしで、である。
全身の身体強化の魔法、その60%の出力で走ったならば、秋水は普通にゴブリンスカーミッシャーよりも素早かったのである。素早さ特化のゴブリンスカーミッシャー涙目案件。
そして、持っている武器は短剣だ。
その短剣は、なんと言うか作りが悪い。
率直に言ってボロいのだ。
バールで受け止めたら、ボキリ、と折れるレベルだ。
これはたぶん、プロテクターで受けても折れそうだな、と思えるくらいだった。
また、短剣は短い。
当然ながら、巨大バールより短剣は短い。
それどころか、通常のバールよりもリーチが短く、何ならば剣鉈よりもさらに短いのだ。
短剣は確かに懐に入られれば怖い武器だが、その前にバールや剣鉈の間合いに捕まっているのである。
ならば、秋水の背後を取れるかといえば、そう、ゴブリンスカーミッシャーは秋水より遅い以上、そうそう簡単に秋水の背後を取ることもできない。
「んー、速いけど追えるし、懐に入られる前に叩けばいいだけなんだよなぁ」
首や防具の隙間など、刺される場所によっては普通に危ないので、ゴブリンアーチャーよりは危険度が1つ上、といった感じだ。
それでも対処が楽なのには変わりないのだが。
なお、このゴブリンスカーミッシャー、角ウサギに搭乗したら、短剣がそもそも秋水に届かなくなるというバグがある。やはり涙目案件だろう。
危険度に順位をつけ、5位に入れるならば、盾兵のゴブリンだろう。
ゴブリンシールドだ。
正確には危険度とか脅威度というよりは、とにもかくにも邪魔度が高い。
身の丈よりも大きい木製の盾を持ち、ひたすら秋水に向かってその盾を押し付けてくるという、角ウサギ並みのワンパターン戦術である。
「ぬあーっ! 邪魔だっつってんの! 離れろお前は!」
眼前に迫ってくる木の盾を殴ろうと蹴りを入れようと、それで姿勢を崩したところですぐに立ち直り突っ込んでくる。
そして盾が秋水に当たったならば、ぐいぐいとその盾で秋水を押してくる。
シールドバッシュみたいなものか。
力業で押し返すことはできるが、視界が塞がれるし、動きが制限されるし、何より邪魔で鬱陶しい。
殺傷能力は低いが、戦闘の面倒くささを跳ね上げてくるゴブリンである。
ちなみに、そのゴブリンの盾は、身体強化を重ね掛けにしてバールでぶん殴れば破壊できる程度の防御力であった。
それがまた、絶妙でイヤらしい。
「ブースト! 次いでブースト! さらにブースト! くそメンドクセェ! 最高かよお前は!?」
部分強化の魔法は、1つの行動をしたら勝手に解除される、という性質がある。
一撃に全力集中、というタイミングで身体強化の重ね掛けは行うので、今までは特にデメリットはないと思っていたが、ゴブリンシールド相手だと若干の問題が浮上してしまう。
盾は粉砕できる。
しかし、一撃で必ず粉砕できるとは限らない。
しかも、盾を粉砕したら、次はゴブリン自体をぶっ殺さなければいけない。
ゴブリンアーチャーが命中率関連の強化で、ゴブリンスカーミッシャーは脚力の強化ならば、このゴブリンシールドは耐久力が強化されたゴブリンだ。ゴブリン本体を殴り殺すとしても、ゴブリンシールドは他のゴブリンよりもとにかくしぶとい。
身体強化の重ね掛けを何度も連続で行うのは、魔力への色付けを行って連続で発動プロセスを踏むという以上、どうしても集中力が削がれる。
それがなんとも面倒。
そして、ゴブリンシールドを血祭りにあげるのをモタモタしていたら、後ろから矢が飛んできたり、はたまた弱いはずのゴブリンスカーミッシャーが背後に回り込もうとしてくるのだ。これを面倒と言わずなんと言うのか。
ゴブリンシールド自体には大した攻撃能力はなく、単体だと決め手がないのに、集団戦となると途端に敵全体の戦術レベルを一段上げてくる存在である。
危険というよりも、邪魔である。
真っ先に潰さざるを得ないゴブリンだ。
危険度4位、と言うか基準点は、棍棒兵のゴブリンだ。
ゴブリンブルートと呼称すべきだろう。
このゴブリンブルートは、正に武器持ちゴブリンたちの判断基準となるゴブリンである。
武器は身の丈ほどの棍棒で、能力的にはコボルトの劣化版、といった感じだ。
もちろん、通常のコボルトよりもスペックを強化されているのだが、この強化がなんとも平均的でそつがない。
全体的なスペック強化であり、長所もないが短所もなく、尖った感じがなくて普通に強いタイプなのである。
「いいねぇ! 殴り合いは大好物だぜ! これだよこれ!」
また、殴り合いで一番楽しいゴブリンでもある。
アーチャーのように威力不足はなく、スカーミッシャーのようにリーチ不足もなく、シールドのように攻撃力不足でもない。
棍棒の一撃はなかなか重く、プロテクターのないところを殴られれば普通に痛い。
ゴブリンシールドほどはタフではないが、アーチャーやスカーミッシャーよりは頑丈だから殴り甲斐がある。
しかも、同じ棍棒兵であるコボルトよりスペック的には少し弱いくらいだが、このゴブリンブルート、頭が良い。
他のゴブリンの職種に合わせ、戦闘スタイルを変えてくるのだ。
ゴブリンアーチャーと組んだなら、アーチャーに近づかせないよう防ぎつつ、矢の射線に重ならないよう立ち回る。
ゴブリンスカーミッシャーと組んだなら、スカーミッシャーが秋水の死角に潜り込めるように誘導しつつ立ち回る。
ゴブリンシールドと組んだなら、正面をシールドに任せながら秋水の側面に回り込むようにして立ち回る。
戦場の良いバランサーであり、コボルトのように近づいて殴るだけではない知性を感じさせる戦い方だ。
「だからこそ、正面からぶっ殺す!」
棍棒のリーチは十分。
攻撃力も十分。
スペックも安定している。
明確な弱点が少ない。
角ウサギに騎乗して機動力を上げたら順当に厄介。
しかし、正面から殴り合えば十分に勝てる。
故に、危険度ランクの基準点がゴブリンブルートである。
で、その基準点より上となると、間違いなく3体おり、順位もはっきりしていた。
危険度3位は、籠を背負って投石器を持った投石兵、ゴブリンスリンガーである。あれは本当に石だった。
ゴブリンアーチャーと同じく遠距離攻撃のゴブリンで、弓よりも原始的な攻撃手段ではあるが、アーチャーよりも明らかにゴブリンスリンガーの方が厄介極まりない職種である。
「ぐあっ! なんだこれ、普通に痛ぇ!?」
その投石の威力を体験したとき、秋水の感想がこれである。
弓より威力が高いのだ。
背中の籠から石を取り出し、投石器に包んでぶん回し、遠心力を乗せて石を投げ飛ばす。
それだけで威力はゴブリンブルートの棍棒を軽く上回っていたのである。
プロテクター部分で受けたならまだマシではあるが、投石を受けたライディングジャケットの表面は、擦れて軽く破れるくらいのダメージだ。
「なるほど、武装強化の魔法での補強を超えてきやがった……っ!」
その痛みとダメージは、秋水が思わず笑みを零してしまうくらいだった。
ゴブリンスリンガーの一撃は、確かな脅威だ。
しかも、ゴブリンアーチャーの矢筒のように、残弾数がよく見えない。少なくとも15発以上の石が入っている段階で、ゴブリンアーチャーよりも弾数が多いのは確定しているが、あと何発あるかが読み辛いというのは地味にストレスだ。
さらに言えば、ゴブリンスリンガーは環境も味方している。
「うわっ、うるせぇ!? オレん家の地下で騒音発生止めてくださいテメェ!?」
投石を避けると、その石が壁にぶつかる場合がある。
その音がよく響き、実に五月蠅くて集中力をゴリゴリと削いでくる。
しかも、投げた石はなくならないので、対処が遅くなればなるほど投石数が増え、地面に転がる石の数が増えてしまう。
地面に転がる石、地味に邪魔だ。
「うわもう、踏んづけかけたじゃねぇか!?」
踏み込もうとしたときに、転がった石に足を乗せかけたアクシデントがあったのには、少しヒヤッとした。
地面が石で荒らされ足元が悪くなると、どうしても足元を気にしなくてはならなくなる。何ともイヤらしい。
幸いにも投石器を使った投石の命中精度はゴブリンアーチャーよりも格段に低く、せいぜい3割くらいしか命中しない。
百発百中で当ててくるゴブリンアーチャーは異常だが、それでも威力と弾数と、そして戦闘環境を荒らしてくるという特性上、危険度はゴブリンアーチャーよりもずっと高いのだ。
そして、最初に対峙した武器持ちゴブリンである槍兵のゴブリン、ゴブリンランサーは、危険度2位である。
7種類の武器持ちゴブリンを比較すれば、間違いなくゴブリンランサーは強敵だったのだ。
しかも、角ウサギに騎乗している状態のゴブリンランサーは、下手をしたら一番厄介かもしれない。
とにかくもう、槍が強い。
危険な理由は、これに尽きる。
スペック的には腕力も耐久力もゴブリンブルートの一段下なのだが、そんなこと関係なく槍が強いのだ。
リーチが長い。
この1点があまりにも厄介。
「そういや、昔の合戦だと日本刀より槍が接近戦のメインなんだっけ!?」
手斧や剣鉈やバールよりも長いリーチを相手に、ゴブリンランサーの懐に潜り込むのも一苦労である。巨大バールの長さをフルに活用してリーチはトントン、といったくらいなのだ。
なるほど、スカーミッシャーとは逆の立場になった感じだ。
間合いで勝負を拒否できるのは、とにかく強い。
ゴブリンブルートよりもスペックは弱いはずなのに、槍の長さというのは、その弱さを補って余りあるものである。
横に逃げれば槍を振るわれ、前に出るには穂先が邪魔。
となれば、槍を防ぐか弾くしかない。
その一手を強制されるというのは、地味に戦闘の選択肢をごっそり減らされる。
しかも槍は刃物であり、当たれば棍棒のような打撲では済まない。
防具の隙間を狙われたら確実に傷を作られるだろうし、下手をしたら致命傷だ。
プロテクターならまだ防げるが、プロテクターなしの部分で槍を受ける気にはなれず、どうしても防御を優先せざるを得ない。
「勝てるけどさ……なるほど、雑には勝たせてくれないな!」
ゴブリンランサーは倒せるが、雑に踏み込むと怪我をする。
一歩間違えれば、秋水の攻撃が届く前に刺されてしまう。
故に、ゴブリンランサーは危険だ。
故に、最高の相手である。
危険であればあるほど、秋水の心は踊るのだ。
そして、そういう意味で秋水の心を最も躍らせるゴブリンがいた。
「松明兵……ファイアブランダーか?」
燃え盛る松明を持ったゴブリン、ファイアブランダーである。
トーチベアラーではなくファイアブランダーという呼称が真っ先に思い浮かんだのは、ぶっちゃけ古の放火魔にしか見えなかったからである。あるいは暴動を扇動するような絵画の、松明持っているやつ。
松明自体はゴブリンブルートの棍棒よりは少し細いが、燃えているのだ。
炎である。
明らかに攻撃属性が違う。
矢、短剣、盾、棍棒、石、槍。
他の6種のゴブリンは全て物理ダメージだけだったが、燃え盛る松明は明らかに熱エネルギーによる攻撃だ。
「うわっ! 思ってたよりも怖っ!? てか熱っ!? マジで燃えてるじゃねぇかっ!?」
ファイアブランダーの攻撃は、その燃え盛る松明を棍棒代わりに振るってくるものだった。
言ってしまえば、火が付いた棍棒を持ったゴブリンブルートである。
しかし、火が付いた、それだけで難易度は雲泥の差であった。
ゴブリンブルートの棍棒は、避ければ終わり、受ければ痛い、というシンプルなものだ。
だが、ファイアブランダーの松明は違う。
当たらなくても熱い。
近づくだけで本能的に嫌。
受ける選択肢がゴブリンランサーの槍以上に取りづらいのだ。
バールで受けても火の粉が散る。
ライディングジャケットに触れれば燃え移るかもしれない。
肌に近づけば焼かれる。
目の前で振られれば視界が潰れる。
燃え盛る松明は、それだけで秋水に普段通りの接近戦を許さなかった。
「これだよこれ! お前みたいなのを待ってたんだよなぁ!!」
今までとはまるで違う。
秋水としては、こういうモンスターを待っていたのだ。
地下4階は手早く攻略して、さっさと地下5階に進もうとか思ってゴメン。
燃えさかる炎。
それをどう攻略するか。
ファイアブランダーと交戦した秋水のテンションは、正に最高潮だった。
なお、ファイアブランダーの松明は、3分くらいで鎮火してしまうという最大の弱点を発見したとき、秋水は思いきりしょんぼりしていた。
「そんな思いきり全力で燃やさんでも、半分くらいの火力で持続時間伸ばすとかさぁ……」
他のゴブリンを相手にしてファイアブランダーを後回しにすると、文字通り火力が激減して面白くなくなってしまう性質上、ファイアブランダーを発見したら真っ先に交戦することを秋水は心に誓った。
「とりあえず、今のところ組み合わせとして最悪なのは、ファイアブランダーとシールドのコンビだな」
さらにゴリゴリと攻略を進め、秋水はダンジョンの通路でヘルメットやライディンググローブを脱ぎ、サラダチキンやらミックスナッツやら、そしてちょっと高級そうなチョコレートやらをもぐもぐ食べながら座って休憩していた。
脱いだヘルメットは塗装が少し溶けており、着ているライディングジャケットは擦り傷などが大量にあって、どの装備もわりとボロボロである。
まあまあの激戦。
武装強化の魔法がなければ、とっくにどの防具もぶっ壊れていたことであろう。
一口サイズのチョコレートを口の中に放り込んで、甘いなぁ、と思いつつ、秋水はポーションでそのチョコレートを流し込む。
チワワ系女子から貰ったチョコである。
「ファイアブランダーは最初に潰したいけど、シールドが邪魔で後回しにするしかねぇ。つうか、どの組み合わせでも、だいたいシールドがいるだけで面倒なんだよなぁ……」
ぷは、とペットボトルのポーションを飲み干してから、秋水は顎を撫でつつぶつぶつと独り言ちる。
考えているのはゴブリンの組み合わせについて。
ファイアブランダーは松明の炎が消える前に戦いたいが、時間稼ぎが専門のゴブリンシールドがいるとなかなかファイアブランダーとの交戦へと移行できなくなる。
今のところ、この組み合わせが秋水にとって最悪の組み合わせと言って良い。
秋水は全力状態のファイアブランダーと殺し合いたいのだ。足止めをしてくるタフなゴブリンシールドがいると、手間を掛けている間に松明の炎が消えてしまって勿体ない。
普通に考えたらファイアブランダーの攻撃力が激減するんだから良いじゃないか、と思うかもしれないが、秋水はとにかく燃えさかる松明と打ち合ってぶち殺したいのである。
「次に悪いのが、アーチャーとスカーミッシャーのコンビか」
サラダチキンの残りも口に放り込みつつ、さらに考える。
なお、考えているのは危険かどうかとか、脅威かどうか、という組み合わせではない。
面白いかどうか、というゴブリンの組み合わせだ。
火力の足りないアーチャーと、リーチの足りないスカーミッシャーは、軽く始末できるから面白みが一番ないな、という意味である。秋水はあくまでもダンジョンを満喫している。
さらに秋水は大きめのチョコレートをもぐもぐと食べ始める。
これは、律歌から頂いたチョコである。
甘さ控えめ、カカオが強め、といった風味。甘味をあまり得意としていない秋水でも食べやすい味付けだ。
「とりあえず、どのゴブリンが出るかはランダム、角ウサギに騎乗しているかどうかもランダム、てのは確定だと思っていいな。なんつったっけこれ、ガチャ要素、だったか?」
律歌からのチョコをもぐもぐと食べ、その包装用紙をくしゃくしゃと丸めながら、秋水はゆっくりと立ち上がる。
ただいま、午前4時。
ひたすらダンジョンアタックにのめり込み、昨日に引き続いて今日もまたジムに行かなかった。
「ま、今日は美寧さんと合同トレーニング予定だからな」
今日の予定を思い出し、秋水は軽く笑ってヘルメットを被り、ライディンググローブを装着する。
武器持ちのゴブリンの出現でテンション上がりまくって、ひたすら殺し合いに没頭してしまった。気分は晴れやかだが、やり過ぎたな感はある。
ボロボロになったバイク装備を交換しなきゃな、と思いつつ、秋水は振り返った。
視線の先には、重厚なる岩の扉。
「しばらく楽しんだら、挑戦しに来るぜ」
2月14日。
秋水は早々と、ボス部屋の前まで辿り着いているのだった。
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種類がたくさんいるゴブリンどもを一挙公開のお話。
……うん、それぞれ戦闘描写を書いて話に落とし込むと、たぶん10話くらい追加されるな、と思って緊急措置の割愛です(;´Д`)
書きたい話が多すぎて困る!!
さて、次話はどうでも良い閑話です。秋水くんにとっては、心底( ´-ω-)