姉の精神的ダメージは、翌朝までガッツリ残っていた。
「ふふ……うふふ……」
左手の人差し指にキラリと光る、ブラックメタリックな指輪。
姉は昨日から、その指輪を見て、撫でて、とてもとても幸せそうに笑みを零している。
モヤモヤ。
モヤモヤモヤ。
モヤモヤモヤモヤ。
幸せそうな姉とは対照的に、何故か紗綾音の心には言い表せない不満が募り、ご機嫌はマントル突き抜け大暴落中である。
姉が幸せそうなのに、何故か喜べない。
これは、あれだ。
えっと。
ほら、あれだよ、あれ。
嫉妬だ。
姉がぶっ壊れている原因である友達の顔を思い浮かべ、む、と紗綾音は口をへの字に曲げてしまう。
そりゃあ、姉の初恋が実るのならば、嬉しいさ。
彼は良い奴だ。
姉の恋人になるのに、何ら不満はない超優良物件であることは間違いない。
ないけど。
だけれども。
大好きな姉が、あの男に夢中なのを見ると、なんか、なんだか。
「うー……」
渡巻 紗綾音。
なんか、全力で、面白くない気分である。
「なんてことヤラカシてくれちゃったんだよ棟区くーんっ!」
「はぁっ!? ちょっと棟区! あんた私の紗綾音になにしたっていうのっ!? やっぱり昨日は無理矢理でもついて行けば良かったっ!!」
「竜泉寺さん、早く、早く登校してきてください……」
そして教室。
登校した彼、棟区 秋水の顔を見た瞬間に紗綾音は駆け出し、怒りと不満とモヤモヤした気分を乗せて勢いよく秋水にタックルをかました。
すると即座に海霧からの援護射撃である。頼もしい。
頼もしいけど、昨日に引き続き海霧のテンションが高い。どうしちゃったのだろうか。
タックルついでにがばりと筋肉質な秋水に抱きつくと、相も変わらず腕が回らぬ巨木のようなその体。抱き心地がすごく良い。
ぬあああっ!? と海霧が悲鳴を上げながら秋水をぽこぽこ叩くが、秋水はどこか遠い目をしながら天井を見上げるだけでダメージらしいダメージを受けていないご様子。耐久力が高すぎて笑える。さては防御重視。
「残念だけどサヨチは年下彼氏くんと仲良く一緒にご登校だから、今日はちょっと遅くなるんだよ!」
「ちょっと棟区! 紗綾音に抱きつかれて喜んでないでちゃんと引き剥がしなさいよ! 羨ましすぎるでしょこの地獄の釜に手足が生えた悪人面!」
「終わった……」
抱きつきながらどや顔で教えたら、秋水は絶望したように諦めの言葉をぽつりと漏らす。
そう、今日は紗綾音の親友、竜泉寺 沙夜は朝っぱらから年下の彼氏くんとイチャイチャ登校デートなのである。
実際は彼氏くんがゴリ押しして、しかたないなぁ、と沙夜が渋々と一緒に登校する感じらしいのだが。
本当に付き合ってるのだろうか、あの二人。
ドライすぎて彼氏くんが可哀想なんだけど。
どうも年下彼氏くんに対して愛情を向ける気がまるでない沙夜に、彼氏くんの方が心折れないか心配である。
「うわーん! 離れて! 離れて! 私の紗綾音になにする気!?」
「私ではなく紗綾音さんを引き剥がした方がよろしいのでは……」
「下の名前で紗綾音を呼ばないでよ天然ヒールマスクレスラー!」
「はい……」
なお、海霧は早々と涙目になって、必死に秋水を紗綾音から引き剥がそうとしている。
紗綾音を秋水から、ではない。
昨日に引き続き今日も絶好調だなー、と内心で思いつつ、むっ、紗綾音はわざとらしく唇を尖らせる。
「ジリちゃん、あんまり棟区くんに悪口言うと、私は悲しいんだよ」
「うぎっ!?」
「あと、別に棟区くんが名前で呼んできても全然OKだからね」
「ぎぎ……うぎぎ……っ!」
今まで隠して抑圧していた反動だろうか、どうも昨日から秋水に対して当たりがめちゃくちゃ強くなってしまっている海霧に対して、唇を尖らせたまま紗綾音は釘を刺した。
無理矢理仲良くして、とは言わないけれど、あんまり正面から喧嘩を売るようなのは、よろしくない。
反りが合わない部分を、無理に合わせる必要はない。
無理をすれば、余計な摩擦が起きるから。
今はまだ秋水を受け入れられなくても、いつか噛み合う部分を見つけて、少しずつ距離を縮めてくれたら紗綾音は嬉しいのだ。
だから、合う反りを見つける前に、ギスギスした関係で固定したら、悲しい。
そんな気持ちで優しく海霧に注意をすると、海霧が渾身の顔芸を披露した。
え、いきなり海霧の新しい特技を発見したんだけど。
まるで苦いものを噛んだかのように、もしくは心底悔しがるように、はたまた行き場のない怒りを飲み込むように、あるいは絶望を一身に背負ったかのように。
なんとも言えぬ混沌とした顔芸を披露して、海霧はギリギリと歯ぎしりをした後、じろり、と秋水を一度睨みつけ。
「……紗綾音が言うなら、そうするねっ!」
まるで最初から変顔なんてしていませんというかのように、ぱっと明るい笑顔を紗綾音に向けながら、朗らかに海霧が言う。
変わり身の早さよ。
しかし、その明るい笑顔を紗綾音に向けたまま、海霧はぐいぐいと秋水を押して紗綾音から引き剥がそうと必死である。
うーん、海霧の秋水嫌いは根深い。
「ね、棟区? 分かってるよね? ね? 分かってるよね? 分かってるよね? ね? ねぇ?」
「……あの、須々木さん、紗綾音さんを遠ざけていただけるのでしたら、私ではなく紗綾音さんを押した方がよろしいのでは?」
「はぁ!? 紗綾音が抱きついてるんなら、好きにさせるべきでしょ! 私は紗綾音の行動を否定したいわけじゃないの! あんたを退かしたいの!」
「えぇ……」
「て言うか、紗綾音を押すとなると、紗綾音に抱きつかなきゃいけないじゃん……それはその、恥ずかしいというか、畏れ多いというか、心臓が持たないというか、純白の女神に触るならまずちゃんと手洗いしなきゃ……はっ、もしかして棟区! あんた私を心停止させて亡き者にする気!? 卑怯者!」
「ええぇ……」
秋水が戸惑いながら海霧と交渉に入るものの、ばっさりと拒否られて戸惑いの声を漏らす。
なんか、すっかり海霧は楽しいキャラになってしまった。
元気なのは良いことだ。
だけど、その元気なまま秋水に突っ掛かるのはいかがなものか。
せめて秋水に突っ掛かるのを止めてくれたら良いのだけど、と思いつつ、紗綾音は唇を尖らせたまま秋水を見上げた。
「そして棟区くん! あれからお姉ちゃんがバグったままなんだけど、どうやって責任取るのかな!?」
「え?」
話を戻し、紗綾音が追及を再開させると、秋水は何故か不思議そうな顔をする。
「律歌さん、どうかされたのですか?」
「もう昨日は8割くらいはお姉ちゃんどうかしちゃった状態で上の空だったよねぇ!?」
秋水のボケた発言に、があっ、と吠えながら紗綾音は秋水の体をガタガタと揺すろうとする。
ビクともしない。大木かな。
どんな体幹をしているのか。紗綾音から引き剥がそうとする海霧との協力プレイなはずなのに。
「お姉ちゃん、ずっと指輪見てニヤニヤニヤニヤしてて、ちょっと怖いんだよ!?」
「ああ、気に入ってくださいましたか。それは良かった」
「そうじゃないんじゃないかな!?」
揺らしてダメなので、パンパン、と秋水のお腹をタップする。
すごい硬い。鉄かな。
ではなく。
ブラックメタリックな指輪とかいうプロポーズみたいなプレゼントを姉に贈り、恋愛初心者である姉の情緒を大爆発させておきながら、秋水に悪びれた様子はまるでない。
嘘でしょ。
無自覚とでも言う気か。
「……棟区くんってさ、お姉ちゃんのこと好きなの?」
ふと、気になった。
気になった疑問を直接口にして、ずきり、と胸が痛む。
「?」
「?」
「……?」
一瞬だけ胸が痛んで、力一杯秋水に抱きついていた腕が思わず緩み、紗綾音は不思議そうな顔になる。
紗綾音の質問に対してか、はたまた紗綾音の拘束が緩んだのが気になったのか、秋水も不思議そうな顔をする。
そして、紗綾音と秋水が黙ったことに、遅れて海霧も不思議そうな顔になった。
「律歌さんのことは、尊敬していますよ」
「……そうじゃなくてさぁ」
一拍遅れて、ぽん、と紗綾音の頭に手を置きながら、苦笑するように秋水は答える。
そうじゃなくて。
そうじゃなくてさぁ。
何かよく分からないモヤモヤした気分のまま、むぎゅり、と改めて秋水に抱きつくと、ぐりぐり、といつものように秋水が頭を撫でてくれた。
秋水は、実は姉のことが好きなんじゃなかろうか。
もちろん、恋愛的な意味で。
だから指輪をプレゼントしたんじゃないだろうか。
だとしたら、両想いである。
姉と秋水。めでたく恋人同士。
良いことだ。
おめでとうだ。
なのに何故か、モヤモヤする。
頭を撫でられるのは嬉しいはずなのに、胸がずっとモヤモヤする感じ。
「……うー、お姉ちゃんが盗られるぅ」
「盗りませんよ。律歌さんは、いつまでも紗綾音さんのお姉さんですよ」
「そーじゃなくてさぁ……」
姉のことは大好きだけど、そうなんだけど、正直、姉にずっと構われたい。愛されたい。
別に姉が秋水とお付き合いを開始したところで、自分が姉に嫌われる、なんて思っていないけれど、それでもなんだか、なんだかな、という気分である。
姉が秋水に夢中になったら、姉とイチャイチャする時間が減るのが、ちょっとヤだ。
だいぶヤだ。
なんて言ったら、わがままだというのは、分かってる。
紗綾音は秋水の胸に顔を埋めるようにして、むぎゅ、と思いきり抱きつく。
ざわり、と周りがどよめいた気がしたが、無視。すっかり去年までと同じような空気に戻っている教室で、異質なことをやってる自覚くらいはある。
ぎゃー、と海霧から黒い悲鳴がした気もしたが、無視。どうやら昨日からジリちゃんは、こういう芸風になったんだろう、たぶん。
とにかく今日は、ひたすらモヤモヤするから、秋水に抱きつきたい気分なのだ。
なんでモヤモヤしたら抱きつきたくなるかは、分からないけれど。
「うー……お義兄ちゃーん……」
「――――」
愚痴のように秋水を呼ぶ。
呼んでから、そうだよな、と何故かふと心が軽くなる。
そうだよね。
お義兄ちゃんだ。
姉と秋水が結婚したら、秋水はめでたくお義兄ちゃんである。
秋水がお義兄ちゃんか。
それは良いかもしれない。
秋水のお兄ちゃんパワーは、きっと妹ちゃんで鍛えられている。
そんなお兄ちゃんパワーの高い秋水が、名実共にお義兄ちゃんになるのは、素敵なことなんじゃなかろうか。
ふむ。
アリだね。
「お義兄ちゃんは実の妹ちゃんと同じくらい、将来の妹も可愛がってくれるよねー?」
秋水の胸から顔を上げ、努めて明るく、そして揶揄うように聞いてみた。
秋水には本当の妹がいる。
3つ年下、らしい。
見たことはないが、たぶん秋水が可愛がっている妹ちゃんだ。
もしも秋水が姉と結婚したら、その妹ちゃんと自分を同列として扱ってくれるかな。
そうだったら良いな。
だったら姉と秋水、お姉ちゃんとお義兄ちゃんのダブルで甘えられるじゃないか。
その場合、秋水の妹ちゃんとは是非とも仲良くならなくては。
可愛い妹が2人になって、きっと秋水も嬉しかろう。
そう思いながら顔を上げて。
「――――」
あ、この話、止めよう。
直感だった。
紗綾音は秋水の顔を見上げた瞬間、本能的にそう判断した。
理屈はない。
秋水の表情はいつもと変わらないのに、そのはずなのに、今の話題は止めるべきだと、紗綾音の嗅覚は鋭く感じ取る。
ぐりぐり、と紗綾音の頭を撫でながら、秋水はいつもの真顔。無表情。
ただ、目線が、遠い。
なんだか、背筋がぞわりとする感覚。
秋水は家族の話題がNGだが、これくらいの触れ方でもアウトということか。
紗綾音は一瞬だけ息を飲んでから、にぱ、と即座に表情を切り替える。
「ちなみに、お姉ちゃんへのあのプレゼントって、アイ・ラブ・ユー的な感じなのかな?」
「……違いますよ」
話題を方向転換。
あの指輪の件だ。
あれは愛の告白だのプロポーズだの、そういう意味があるのかという追及が途中だった。
ぐり、と秋水は少しだけ乱暴に紗綾音の頭を撫でる。
なんだろう、それはまるで、秋水の動揺であったような気がしてならない。
彼の心の、柔らかい部分に触れたようにも思える。
「あれは珍しい金属を加工して作られているものなので、律歌さんなら喜ぶかと思いまして」
「そんなこったろうとは思ってたけど、なんてことしやがったんだよー!」
寝言みたいなフザケタ理由を口走る秋水を、抱きついたまま左右に揺さぶるようにガタガタしてみたが、やはりビクともせず。電柱だこれ。
しかし、なんと言うか。
予想していたとはいえど、やはり秋水は大したことをなにも考えていなかった。
なにも考えずに姉に指輪をプレゼントしやがった。
そりゃ確かに、珍しい金属、なんて普通なら姉が大喜びだろう。
なんだろうけどもさ。
指輪だぞ。
馬鹿なんだろうか。
学年首席の馬鹿なんだろうか。
おかげで姉の頭は春真っ盛りになっちゃったじゃないか。
プレゼントされた指輪を愛でて、うっとりし続けているんだぞ。好きな人から指輪なんてロマンチックな塊をプレゼントされちゃった、きゃー、なんて状態なんだぞ。大変なんだぞ。
ぶー、と言いつつ、もふりと秋水の胸に再び顔を埋める。
唇を尖らせて不満そうな表情を作ろうとしたのだが、不思議とそれができない。
何故だろう、口の端に、笑みが浮かんでしまう。
そうか、姉に指輪を贈った件、秋水には他意はないのか。
そっか。
ふーん。
なんでか、ホッとしてしまう。
いや。
いやいや。
姉の片想いが継続中で、秋水からの矢印は意味不明、という状況のままなのに。
二人が両想いという最高の結果じゃなかったのに、なにをホッとしているのか。
なんでだろう。
不思議な気分である。
「棟区って、妹いるの?」
と、紗綾音の会話の邪魔にならないようにしばらく無言で、しかし秋水をぐいぐいと押し続けていた海霧が、ふとそんな疑問を口にした。
話題がUターン。
マズい。
「……ええ」
「へー。似てるの?」
「いいえ。私とは似ていないので、安心しています」
「それは良かった。あんたに似てたら、妹さんが悲惨だもんね」
秋水が触れられたくなさそうな家族の話題。妹ちゃんの話題。
海霧を止めた方が良いかな、と紗綾音は顔を上げる。
下から、見上げる。
秋水はどこか、困ったような笑みを、うっすらと浮かべていた。
「そう言えば前に、あんたの家族って冷たいよね、みたいなこと言ったじゃん」
「……ありましたね。コートを買ったときでしたか」
「そうそう。あのガチヤクザコート」
「ガチヤクザコート……」
なんの話だろうか。
紗綾音の知らない共通言語だが、秋水の方はどうしたのだろうか、困った笑みから一転して、実に悲しそうに目を伏せた。
目を伏せたから、ばっちり紗綾音と目が合ってしまう。
表情はあまり変わっていないけれど、悲しそうな目である。
「ガチヤクザコート?」
「紗綾音さん、追加で精神ダメージを与えるのは止めてください」
「あ、これ棟区くんのトラウマっぽいね。ごめんね」
二人の間の共通言語が分からないので、オウム返しに首を傾げて尋ねてみれば、秋水は悲しげな目のまま顔を逸らした。
何かよく分からないが、表情変化の乏しい、と言うよりも、周囲の人に配慮して感情を表に出さぬように自分を律している秋水が分かりやすくショックを受けているような表情をしているので、なにか本当にガッツリとメンタルを傷つけられた出来事みたいだ。あまり触れない方がいい話題っぽい。
何があったんだ、この2人。
「こいつ、黒いレザーコート買ってるんだよ」
「……あー」
しかし、あっさりと海霧がバラしてしまった。
秋水に黒いレザーコート。
紗綾音はまじまじと逸らしている秋水の顔を見上げながら、この巨漢に黒い革のコートを着せたらどうなるかを想像してみる。
うん、似合ってる、悪い意味で。
想像ついてしまった紗綾音が言い淀んでしまったせいで、秋水はさらに悲しそうな目をした。
あ、これは、自分のファッションセンスを否定されて、ガチでヘコんでるやつだ。
「で、そう、あんたの家、冷たいねって話」
「……はい」
恐らくレザーコートをダメ出しされて傷ついている秋水の心情をガン無視して、海霧は話を戻す。
「あれは、ちょっと言い過ぎたかもしれない。それはごめん」
「…………」
ぐー、と秋水を押して紗綾音から引き剥がそうとするのは止めないまま、海霧は一度だけ頭を下げた。
対して、秋水は一瞬だけ無言になる。
あれだろうか、謝罪を承りました、といういつもの返しをするのだろうか。
承っただけで、許していない、いつもの言葉。
許す気がないのか、許す必要がある不当な扱いを受けた認識がないのかは、分からないけれど。
少しだけ黙ってから、秋水はゆっくりと首を横に振る。
「いえ、須々木さんの意見は正しいですよ」
そして、少しだけ寂しそうに、秋水は小さく零す。
まるで苦笑のような、零し方。
海霧はそれを受け止めて、ふーん、と鼻を鳴らした。
「じゃあ、あんたの家族って、お昼ご飯も用意してくれないの? 買い食いは校則で禁止されてるのに?」
「今は、そうですね」
「へー」
もにょもにょと海霧がなにか言葉を口の中で押し殺した。
秋水の両親を非難するような言葉でも出そうとしたのか。それは陰口になるな、と思い止まったのか。
と言うか、海霧は秋水の家族について言及しているが、良いのだろうか。
話題にして欲しくないんじゃなかろうか。
気になる。
すごく、とても、かなり、気になる。
海霧は秋水の家族のことについて、なにか知っているみたいだ。
お昼ご飯も用意してくれない。
それはどういう意味なんだろう。
なんで海霧はそのことを知っているんだろう。
知りたい。
知りたいのだけど、あまり秋水は話題に出して欲しくない様子。
なんでもかんでも聞いて良いわけじゃないことくらい、紗綾音だって分かっている。
責任が取れなきゃ秘密を暴いてはいけない、と言ったのは、確か質屋の小さな店長ちゃん、祈織の言葉だったか。
んー、と喉を鳴らしながら、紗綾音はじっと秋水を見上げる。
「ねえ、棟区くん」
「はい」
呼べば、秋水は紗綾音の方へと顔を向けてくれる。
彼はちゃんと、人の目を見てお喋りしてくれる人なのだ。
家族のことは聞いちゃいけない。
妹ちゃんのことは話題に上げちゃいけない。
でも、秋水のパーソナルな事柄はとてもとても気になる。
秋水はどんな人なんだろう。
悪い人じゃないと思いたいから、この人のことをもっと知りたい。
姉の想い人だし。
将来のお義兄ちゃんになるかもしれない人だし。
そして、紗綾音自身の、友達なのだから。
秋水の目をまっすぐ見返しながら、紗綾音は口を開いた。
「今度、棟区くんのお家に行ってみたいな!」
「――――」
家族のことを聞くのは駄目でも、秋水本人に会いに行くのなら問題ないだろう。
家に遊びに行くなんて、友達なら、『普通』 のことなのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――
Q:なんで沙夜に彼氏がいる設定なの?
A:秋水くんの地雷をチワワが踏んでいるとき、フォローしてくれる沙夜が傍に居ると面白くないじゃないですか(邪悪)
ジリちゃんが家族のことを話題に上げる心理的ダメージ < チワワが妹のことを話題に上げる心理的ダメージ < ガチヤクザコートと言われた心理的ダメージ
一撃で秋水くんをふて寝させるまで追い詰めたジリちゃんの暴言は、しっかり心の傷になっている秋水くん。美寧ちゃんのフォローがなければ死んでいたかもしれん( ´-ω-)