家族が死ぬって、どういう感じなんだろう。
そんな不謹慎な疑問が、渡巻 紗綾音の頭にこびりつく。
秋水のご両親と妹ちゃんが、すでにこの世を去っている。
しかも、その原因の交通事故からは、まだ2ヶ月も経っていない。
そんな事実を打ち明けられた紗綾音は、今まで秋水に投げかけていた言葉の暴力を思い出し、そして彼の心の傷に全く気がつけなかったことに、ただただ自己嫌悪に沈んでしまった。
ああ、ダメだ。
思考が沈む。
沼に沈む。
秋水の重たい事情を、長い間ひとりで抱え込んでいた親友の沙夜の、その心の負担を心配するべきなのに。
今まで一人で秘密を抱えさせてごめんね、と言うべきなのに。
大変だったのは、ずっと秋水を気遣っていた沙夜なのに。
考えが内側へと沈んで抜け出せない。
今は、沙夜を労う場面のはずだ。
それは頭では分かっているのに、行動へと移せない。
むしろ逆に、沙夜に心配そうな顔をさせてしまっている。
「早く伝えられなくて、ごめん……」
そんなことは、ない。
10分か、1時間か、感覚は全然分からなくなっていたけれど、長い間傍に居て、背中を撫でてくれた沙夜が謝る。
謝るべきは、自分だ。
秋水のことを、なにも分かっていなかった。
沙夜のことを、なにも分かっていなかった。
知らないより怖いことはない。
ほら見ろ、怖いじゃないか。
なにも察せられなかった自分に、ほとほと呆れてしまう。
だから、沙夜が謝るべきことじゃない。
ごめんねは、私だよ。
そう言おうと息を吸う。
吸った息が震えてしまって、抱えていた膝にぎゅっと顔を押しつけ、無言で首を横に振る。
喋ると、泣いてしまいそうだ。
ここで涙なんか流したら、沙夜がもっと心配する。
この親友は優しいから、きっと気に病んでしまう。
それは、イヤだった。
「ごめんな……」
再び沙夜が謝る。
紗綾音は首を横に振る。
しばらく沙夜は傍にいてくれた。
棟区家の事故の話を聞かされて、ショックと混乱と自己嫌悪に飲まれていた紗綾音の背中を、優しく撫で続けてくれた。
親友が優しすぎて、良い人すぎて、逆にもっと泣けてくる。
紗綾音はしばらく無言で混乱に耐えていると、次第に思考が鈍い音をたてながら回転し始める。
「棟区くん……お父さんも、お母さんも、妹ちゃんも……いなくなっちゃってたんだね……」
震える声で、ぽつり、と紗綾音は言葉を漏らした。
言葉以外の雫が目から零れそうになり、ぐ、と奥歯を噛み締める。
抱えている膝から顔は、まだ上げられそうにもない。
「ん、そうだな……」
背中を撫でてくれつつ、沙夜は小さい声で返してくれる。
家族が死んじゃうって、どれくらい悲しいんだろう。
ふと、紗綾音の頭に、そんな不謹慎な考えが浮かぶ。
浮かんでしまって、ぎゅ、と両手の拳を強く握り締める。
少し考えただけで、胸が潰れそうだ。
考えたくない。
こんなに悲しくなりそうなことは、考えちゃダメだ。
でも、秋水のことを考えると。
「……紗綾音、そろそろ私、帰るよ」
そこで沙夜が優しく声をかけてきた。
まるで、自己嫌悪の沼から紗綾音が這い上がってくるのを待っていたかのようだった。
「仁さんも椿さんも帰ってきてるから……ほら、立てるか?」
ぽんぽん、と優しく背中を叩かれた。
すごく心配されてる。
とても気を遣われている。
泣きそうなところをギリギリで踏み止まっている状態の紗綾音は、反射的に首を横に振ろうとしたのを堪える。
ここで首を横に振れば、優しい親友はきっと、まだ自分の傍に居てくれるだろう。
沙夜だって辛いのに。
ずっと辛かったのに。
それを考えたら、ここで沙夜の足を止めさせるのは、ダメだ。
「――ん」
短い返事とともに、紗綾音は小さく頷く。
ほ、と沙夜が安堵の息を漏らしたのが分かった。
ほら、と差し出された幼馴染みの手を取って、のろのろと立ち上がる。
俯いたまま手を引かれ、よたよたと部屋を出て、とぼとぼと階段を下りる。
そして、リビングルームまで通された。
「こんばんは、沙夜ちゃん」
「おじゃましてます、椿さん」
リビングには、母が居た。
すでに部屋着で、ソファーに座っている。
その母の近くまで、沙夜はゆっくりと優しく手を引いてくれた。
「すみません、お願いします」
「ええ」
そして手を離されたら、母は目の前だった。
おっとりしているけれど、変な行動力があって、天然ボケをカマしてくる、紗綾音の母だ。
紗綾音の、大好きな、母である。
秋水には、居ない。
「ぅ」
思わず涙がこみ上げる。
この母が死んだら。
この世から居なくなってしまったら。
きっと自分は、耐えられない。
どれだけ泣き喚くか、分からない。
泣き喚いたところで自分は立ち直れるだろうか。分からない。
けれど秋水の母親は、交通事故で、理不尽に、いきなり、この世を去った。
母親だけじゃない。
秋水の父親も、そして妹ちゃんも。
そう考えたら。
考えただけで。
「いらっしゃい、紗綾音」
母が両手を広げる。
理由は聞いていないはずなのに、まるで待っていたと言わんばかりに。
だけど紗綾音は深く考えることなく、ふらり、と母に近づく。
「…………」
そして、ぎゅ、と無言で抱きついた。
ぎゅ、と母も抱き返してくれる。
母の胸に顔を埋めれば、心臓の音が聞こえた。生きている証拠の音だ。
「お願いします」
「頭なんて下げなくていいのよ。紗綾音は私の、大事な娘なんだから」
それから母と沙夜が少しだけ言葉を交わし、沙夜の足音が遠のいていくのが分かった。
でも、紗綾音はずっと母に抱きついたまま、顔を上げない。
上げられない。
お母さんが死ぬって、どんな気持ちになるんだろう。
お父さんが死ぬって、どれくらい悲しいんだろう。
妹は、私に妹はいないけど、お姉ちゃんが死んじゃうって思ったら。
嫌な考えが次々と浮かぶ。
想像しただけで、胸が潰れそう。
でも、秋水の家族が亡くなったのは、想像じゃない。現実のことだ。
秋水は、どんな気持ちなんだろう。
どれほどの悲しみの中にいるんだろう。
今までずっと、どんな状態で学校に来ていたんだろう。
どんな気分で、私の相手をしてくれていたんだろう。
ぎゅ、と母を強く抱き締める。
腕力が強くなってきたわねー、と軽口のように漏らしながら、母は髪を優しく撫でてくれた。
秋水の雑だけど温かみのある撫で方とは違う、母の撫で方。
母の温もりを感じれば感じるほどに、秋水にはそれがもう無いんだ、と思ってしまい、さらに悲しくなってくる。
泣きそうになるのを我慢しながら、紗綾音は無言のまま母に縋り付くように抱きついた。
「紗綾音っ!」
そこに、姉が転がり込んできた。
焦った声だ。
おかえり、と母が言う。自分も言うべきだったのに、言葉が出ない。
代わりに、ぎゅう、とさらに強く母を抱き締めた。
「紗綾音、ただいま」
隣に姉が座ったのが分かる。
そして、沙夜がやってくれたみたいに、姉もまた、優しく背中を撫でてくれた。
「紗綾音、大丈夫……?」
心配そうな、姉の声。
大好きな、姉の声。
秋水もまた、妹ちゃんが大好きだった、はずだ。
背中を撫でてくれるお姉ちゃん。
秋水の妹ちゃんはもういない。
気遣うように声をかけてくれるお姉ちゃん。
秋水の妹ちゃんはもういない。
心配してくれるお姉ちゃん。
秋水の妹ちゃんはもういない。
大好きなお姉ちゃん。
でも、秋水には。
「…………お姉ちゃん」
母の胸から顔を上げ、姉へと振り返る。
涙で視界が滲んで、よく見えない。
姉の姿が、ゆらゆらしている。
でも、姉がとても心配そうに紗綾音を見上げているのは、雰囲気で分かった。
「沙夜ちゃんに会ったけど、なにか――」
「ぅ」
沙夜の名前を聞いたのが、もはやトリガーになってしまった。
秋水の家族は交通事故で亡くなっている。
そう打ち明けてくれた沙夜。
交通事故で家族が亡くなるって、どれくらい悲しいんだろう。
悲しいなんてものじゃ、ないだろう。
だって、もしも姉が、死んだらと、想像、した、だけで。
「うあああああああああああああああああああああっ!!」
「ぷきゅ」
耐えられない。
姉が死んだら、なんて想像しただけで、紗綾音は1秒だって耐えられなかった。
もはや限界。
紗綾音は恥も外聞もなく、思いきり泣いた。泣き叫んだ。
姉が死ぬ。
母が死ぬ。
父が死ぬ。
そんなのイヤだ。
耐えられない。
考えたくない。
想像だってしたくない。
朝起きても、誰も家にいない。
食卓には自分が独りぼっち。
帰っても誰もいない。
誰一人として帰ってこない。
広い家の中で、独りぼっち。
誰にもおやすみなさいと言うことなく、布団に潜る。
寂しくて、冷たくて、寒くて、ただただ孤独な 『ウチ』。
イヤだ。
イヤだ。イヤだ。
イヤだ。イヤだ。イヤだ。
そんなのイヤだ。
耐えられない。
なにをしても、どんな状況でも、大好きな家族が誰もいなくて。
それなのに、ふとした瞬間に、『独りぼっち』 という現実が容赦なく目の前に叩きつけられる。
そんなの紗綾音は、きっと耐えられない。
一日も経たず、心が壊れる。
母が好きだ。でも居ない。
父が好きだ。でも居ない。
姉が好きだ。でも居ない。
がらんどうとした、ただの 『ウチ』。
いいや、もう、大好きな家族が居ないのならば、そんなの 『ウチ』 じゃない。
ただの空間でしかない。
そんなのイヤだ。
悲しすぎる。
辛すぎる。
みんなが死ぬとか、イヤだ。
交通事故でいきなり奪われるとか、酷すぎる。
想像すらしたくない。
けれど、秋水にとっては、家族が居ないことが、現実。
「お姉ちゃん死んじゃヤだあああああああああああああっ!!!」
姉に抱きついて、思いきり叫んだ。
堪えることも放棄して、ボロボロ涙を流して姉を抱き締める。
この小さくて可愛い姉が居なくなるとか、イヤだ。
死んじゃイヤだ。
そんなの理不尽だ。
交通事故なんて理不尽だ。
それで命を奪われるとか理不尽だ。
なんで秋水ばっかり、そんな理不尽な目に遭わなきゃいけないんだ。
うわああ、と大声で泣く。
泣き喚く。
涙が止まらない。
ついでに鼻水まで出てきた。
「むーっ! むーっ!」
なんか姉がジタバタしているが、紗綾音は力一杯姉を抱き締め、大好きなその存在を確かめる。
「お姉ちゃあああんっ! 死んじゃダメだよおおおっ! いなくならないでええええぇっ!!」
「もがっ! むーっ! むむむーっ!?」
ベチベチと背中を叩かれる。
そんなのお構いなしに紗綾音は姉を抱き締める。
小さい姉。
秋水の妹ちゃんはどうだろう。きっとあの秋水と比べたら、だいたいは小さいだろう。
紗綾音の姉はこうやって抱き締められる。
けれど、秋水はもう2度と、こんな感じに妹ちゃんを抱き締めることはできないのだ。
だからこれは、とても贅沢な、愛情表現なんだろう。
「お姉ちゃんはずっと一緒にいるのーっ! 死んだらダメなのーっ! うわあああああんっ!!」
「……っ! ……っ!!」
「律歌だけじゃないわ、紗綾音もよ。2人とも、お母さんより長生きしてね。先立たれたら、なんて考えたら、お母さんも、泣きそう……っ」
「――っ!?!?!?」
ぎゅ、と母が紗綾音と姉をまとめて抱き締めてきた。
ああ、そうだ。
母もだ。
母も死んだらイヤだ。
父も死んだらイヤだ。
大好きな家族なんだから、いなくなったら、イヤだ。
悲しすぎる。
悲しすぎる状況に秋水はいるのだと思ったら、より一層悲しくなってしまう。
姉と一緒に母に抱き締められ、紗綾音はより一層ボロボロと涙を流して咽び泣く。
何故か暴れていた姉が平手ではなく拳を握り締め、ぽこぽこと母の脇腹をか弱い力で殴っていた。
「うあああんっ! お姉ちゃんっ! お母さんっ!」
「大丈夫よ紗綾音、お母さんは、ちゃんとここにいるわ……」
「もが……もご……」
姉はここにいる。
母もここにいる。
紗綾音はそれを強く確かめながら、それでもただただ涙を流して泣いてしまう。
秋水はもう、こうやって家族を確かめることが出来ないのだ。
姉と母の存在を強く感じれば感じるほど、相対的に秋水の地獄がより鮮明に分かってしまう。
それが、あまりにも悲しい。
悲しく思えてしまう。
そんな孤独という絶望に佇んでいた彼のことを、なんで自分は分かってあげられなかったんだろう。
悔しい。
悲しい。
寂しい。
万感の思いのままに、紗綾音はただただ、泣きじゃくることしかできなかった。
「助けて……助けて……」
「すまん律歌……出遅れてしまった上に、この状況、なんか男親が割って入って行きづらい……っ!」
そして、たっぷり30分は泣き喚き。
「――完全復活なんだよっ!!」
「わー、さすがは私の娘、立ち直りが爆速ー」
思いきり泣いた紗綾音は、早々と復活していた。
まだちょっと涙目な母が、ぱちぱち、と隣で手を叩いている。
泣くときはしっかり泣く。
悲しみは涙とともに吐き出すものだ。
立ち直るのはそれからである。
泣いて事態が好転するなら泣き伏せ延長戦突入も止むなしだが、泣いていたってどうにもならない。そうであるなら、いつまでもメソメソ泣いちゃいられない。
涙は女の武器なんて大嘘だ。
女の涙は、前を向くための燃料だ。
秋水の家族が交通事故で亡くなっている。
そして今まで、自分は秋水に酷い言葉を投げかけ続けていた。
ならば紗綾音はどうするべきか。
謝る。
もちろんそう。
でも、もっと大事なことは。
「過去は変えられなくても、明日は私が変えられるんだよっ!!」
紗綾音はソファーの上でお行儀悪く仁王立ちをしたまま、拳を強く握り締めていた。
「ひゅー……ひゅー……けほっ、こほっ……ひゅー……」
「律歌ー! 死ぬなー! 帰ってこーいっ!」
何故か顔を青くしてぐったりしている姉が、父に介抱されていた。
「ぐすっ――ひっく――うっ――」
そして別の家。
ここにも涙に暮れる少女がいた。
錦地 美寧。
命を賭けたバレンタイン大作戦で、とんでもない失言を吐いてしまい、見るも無惨なほどに作戦が大失敗した哀れな敗北者である。
「――うっ――ううっ――ううううううう――っ!!」
美寧はベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めてひたすら泣いていた。
今日は、母は帰ってこない。どうせ不倫相手のところだ。
父も帰ってこない。どうせ不倫相手のところだ。
だから今日は、この家で美寧は独りぼっちである。
大声で泣いたって、構わないはずだ。
誰もいないのだから。
美寧しかいないのだから。
だけれども、美寧はずっと、声を押し殺して泣いていた。
それは一種の、癖のようなものである。
スポーツで誰かに負けたとき。
テストで満点を逃したとき。
姉に負けたという結果が、突き付けられたとき。
美寧はいつも泣いていた。
けれど、姉には気がつかれないように、静かに泣いていた。
だって泣いていることに気がつかれたら、鬼の首を取ったかのように、姉が絡んでくるからだ。
『どうしたの美寧? なにかあった?』
『お姉ちゃんに相談してみて』
『お姉ちゃんがなんでも解決してあげちゃうよ。私は美寧のお姉ちゃんなんだから!』
じゃあなんだ、お前を消す方法、と相談すれば良いのか。
美寧が落ち込んだり泣いたりすれば、自分の能力を誇示でもしたいのか、馴れ馴れしく姉が纏わり付いてくるのが嫌だった。
お前に負けたのが原因だよ。どうせ分かっているんだろう。
私が味噌っカスなのが原因だよ。どうせ分かっているんだろう。
その現実をわざわざ見せつけにくる姉がとにかく大嫌いで、吐き気がした。
だから美寧は、家の中で静かに泣くのだ。
声を押し殺し。
ただただ静かに。
姉に気がつかれないように泣く。
それが癖になっていた。
「ひぐっ――ふっ――」
枕に顔を押しつけて、ただただ泣き続ける。
秋水に酷いことを言ってしまった。
なにも考えずに交通事故の話題を軽く振ったら、その被害者遺族が秋水だった。
被害が3人だけで良かったじゃんね。
なにも良くねぇよ馬鹿が。
その3人が、彼の家族だったんだよ。
知らなかった。
興味がなかった。
事故を目の前で見たにも拘わらず、誰が死んだかなんてどうでもよくて、大変だなぁ、くらいにしか感じていなかった。
なんて馬鹿なんだ。
きっと秋水に嫌われてしまった。
家族の死を軽く扱う女なんて、秋水はきっとお断りに決まっている。
最悪だ。
最低だ。
知ってた。
自分はどうせ、下水底のヘドロみたいな根性の女でしかない。
そんなのは、そう簡単に変わるわけがないのだ。
だから嫌われる。
秋水に嫌われた。
自分を救ってくれた秋水に、嫌われた。
死にたい。
短絡的な考えが、一瞬だけ頭を過る。
しかし。
『美寧はさ、そんなに頑張り続けなくてもいいとお姉ちゃん思うなー。たまには休んでさ、手を抜いてもいいんじゃない?』
その直後に、姉の言葉が蘇る。
ふ。
ざ。
け。
ん。
な。
がばり、と美寧は枕から顔を上げる。
それはいつだったか、テストで満点を逃したとき。
また姉に負けた、と表情を歪めた美寧に、姉がかけてきた侮辱の言葉。
頑張り続けなくてもいいだと?
たまには休めだと?
手を抜けだと?
冗談ではない。
藻掻き続けるしか能のないゴミに、天才様は足を止めろと巫山戯たことを吐いてきた。
ふざけるな。
敗北程度で、心が折れて、堪るものか。
『そ、そっかー……あー、お姉ちゃんも、もっと頑張んなきゃなー……』
結果として、変わらず勉学に励み続けた美寧を見て、姉はなにか呆れたように呟いていた気がする。どうせ無能な妹を笑っていたに違いない。
だが、姉のことなんぞ今はどうでもいい。
秋水だ。
今は秋水のことだ。
余計なことを口走り、秋水にはきっと、嫌われてしまった。
なら、諦めるか?
冗談ではない。
舐めるな。
1回や2回、嫌われた程度で、心が折れて、堪るものか。
錦地 美寧は、藻掻き続けるしか能のないゴミなのだ。
ならばゴミらしく、嫌われようとも、好かれるように足掻き続けるしかない。
「先生――っ!」
ぐしぐしと涙を乱暴に拭き取る。
無神経なことを秋水に言ってしまった。
きっと彼を傷つけてしまった。
嫌われた。
だけれども。
私は、諦めが悪いのだ。
「――絶対、堕としてやるっ」
美寧の目は、どこか暗く、濁っていた。
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友人や家族の支えがあって、爆速で立ち上がるチワワ。
独りぼっちだけど死んだ姉からの煽り文句(本人のその意図なし)で勝手に立ち上がる美寧ちゃん。
天才というレッテルを貼られた姉を持つ同じ妹属性の2人なのに、なんでこうも方向性が違うの( ´-ω-)
次話は、ちょっぴり科学のお話。