ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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286『熱の伝わり方』

 ふぅ、と質屋 『栗形』 のバックヤードにて、棟区 鎬は小さくため息を漏らす。

 とっぷりと夜が更けた。

 営業はすでに終わってしばらく時間が経っているのだが、今日も楽しく残業である。

 残業と言っても、残っている業務量自体は多くない。送られてきたメールを捌くだけだ。

 正確には、AIが自動で選別しているメールのチェックと、抽出されたデータが合っているかのチェックである。

 結局内容を確認するのであれば、わざわざAIが選別やデータの抽出をしなくても良いんじゃないか、と言われたりもするが、自分でメールの内容を全てチェックしてデータを1つずつ抽出するのと、AIが行った内容が正しいかどうかのチェックをするのでは、その労力は天と地ほどの差があるのだ。

 というのを以前、祈織に説明してみたが、可愛らしく小首を傾げていた様子から察するに、いまいち理解できていないのだろう。

 まあ、良い。

 鎬は再びパソコンのモニターに目を落とし、内容を確認していく。

 

 白銀のアンクレットの注文。

 

 選別に問題なし。

 注文の個数と金額、そしてそれぞれが提示している寄付金が一致しているかを確認していく。

 1件だけ、いやに寄付金の提示額が多い、それこそ桁を1つ間違えているレベルで寄付金を出そうとしている箇所があったが、メールをチェックすれば本当にその金額で間違いはなかった。

 

「――注意リストね」

 

 鎬は即座にそのメールの差出人をブラックリストに追加する。

 受注拒否はしない。

 しかし、寄付金の金額は訂正してから返信する。

 金払いの良い客は好きだが、過度に金を払おうとする客は注意が必要だ。特に、金を手綱だと勘違いしているタイプは。

 

 出所の追及。

 

 無視だ。

 選別されたメールの、その差出人を抽出して、リスト化する。

 同じ質問をひたすら繰り返すだけの思考停止しているアホが可視化されていく。質問したら必ず相手が正解を答えてくれる、と本気で思っているのだろうか。尋ねるにしても、方向性や手段を変える程度の多様性くらい見せたらどうだろう。

 

 会って話がしたい。

 

 自分で足を運んでみたらどうだ。

 これ系統のメールも軽くスルーする。

 

 白銀のネックレスの注文。

 

 来月からです、という内容の文章を一斉返信。

 日本語で入力している文章だが、メール相手の言語に合わせて翻訳された文章にAIが変換してくれている。便利だ。

 

 融資の申し出。

 

 いらない。

 新しい店を出店する気もなければ、手元に資金が必要な事業を展開する予定もない。

 こちらには融資を受けるメリットはほとんどなく、向こうは出資したからと大きな顔をする理由になる。

 無意味が過ぎる。

 

 研究調査の協力依頼。

 

 峰岸弁護士事務所を通してください、という内容の文章を叩き返す。

 あの弁護士にはとても助けられている。ありがたいことだ。

 AIにより選別されているメールを、そのジャンル毎に一気に読み、鎬は片っ端から対応を決めていく。

 片田舎で細々と営業している個人経営の質屋にしては、あまりにも多いメールの数である。

 

「早めにフリーメールから切り替えてもらって正解だったわね……あら?」

 

 ECサイト立ち上げとともに、企業向けのメールアドレスに変更してもらって良かった、と思っていると、ふと毛色の違う内容のメールが目に入る。

 AIによる自動選別としては、その他、という振り分け。

 そのメールの件名を見て、鎬は内容を確認する。

 

 信用調査。

 

 データバンク、信用調査会社として有名な会社から送られてきた、正式な文面である。

 信用調査を行いたいので、日程調整をして欲しい、という打診であった。

 随分と丁寧にしたためられたメールの内容を一読してから、ほう、と鎬は感心したように鼻を鳴らした。

 

「予想よりだいぶ早いわね……」

 

 鎬は呟きながら顎を撫でる。

 企業信用調査だ。

 この会社と取引して大丈夫だろうか、というのを調べることだ。

 本当に実在する会社なのだろうか。

 ちゃんと商売をしているのだろうか。

 お金には困っていないだろうか。

 支払いを踏み倒す危険はないだろうか。

 怪しい組織と繋がってないだろうか。

 この会社に商品を渡して、後払いにしても大丈夫だろうか。

 倒産リスクはどれくらいだろうか。

 そういう内容を、第三者の調査会社が調べるのが、信用調査である。

 この打診が来るということは、つまり。

 

 タイミングを考えれば、どこかの企業や研究所が、この質屋との直接取引を検討していると見るのが自然だ。

 

 今までみたいに、研究者や一部職員が個人的に買い付けを行う、というケースではない。

 企業なり研究所なりが、その組織の名前を使って正々堂々と正面から買い付けや取引を行いたい、ということだ。

 組織が能動的にコンタクトを取ろうと動き始めている、その前触れ。

 新元素の発表が大々的に行われた後から本格的になると予想していたが、だいぶ早い。

 フットワークが軽い組織は、どこにでもいる、ということだろう。

 

「峰岸先生に依頼しましょう」

 

 線の細い中年男性の顔を思い浮かべながら、鎬は一言添えてメールを転送した。

 胃を痛めている弁護士の姿が容易に想像できるのだが、仕事である、諦めてもらうとしよう。

 一通りメールをチェックして対応し終わり、ぐっ、と鎬は背中を伸ばす。

 

「――さて」

 

 本日の業務は、これでだいたい終了である。

 あとは帰って、独り寂しく晩酌でもして寝るくらいだろう。

 しかし、残業をしても、疲労はあまり感じていない。

 むしろ、体調は好調なくらいだ。

 

「ま、どう考えても、あの怪しい湧き水のおかげでしょうけれど」

 

 呟きながら鎬はソファーから立ち上がる。

 秋水の差し入れる、謎の天然水。

 『ダン・ジョンさん』 とかいう怪しさ満点の職人集団さんの家から汲んできた、という不思議な湧き水。

 少し飲めば、疲労感は見事に消し飛ぶ謎の液体。

 それを毎日、少しずつ飲んでいる鎬は、疲労などとは無縁で毎日が絶好調なのだ。

 あまりに現実離れした効能である。

 まあ、もっとも、現代科学では、自然環境下で安定した状態で存在している未確認の元素、などという、あまりにも非現実的な代物を取り扱っているので、今更ではある。

 なお、その新元素を含んだ物質を取り扱っているのもまた、『ダン・ジョンさん』 という奇天烈職人集団である。

 

「秋水は、一体なにに首を突っ込んでいるのかしらね」

 

 当然ながら、鎬は 『ダン・ジョンさん』 などという職人集団が存在しているとは微塵にも思っていない。

 十中八九、秋水が苦し紛れに絞り出した嘘なのだろう、どうせ。

 顔を強張らせて冷や汗を流して目線をキョロキョロさせながら説明する内容など、どう考えても真実なわけないだろう。

 変なことに首を突っ込み、そこから報酬かなにかとして持ち帰っている、という感じじゃなかろうか、たぶん。

 そもそも名前からしておかしい。

 ダン・ジョンさん。

 小学生か。

 自分の甥のネーミングセンスが壊滅的なことに、鎬は頭を抱えるしかない。

 犬を飼ったら『イヌ』、猫を飼ったら 『ネコ』 と命名しそうで怖い。

 しかし、ダンジョン。

 直訳すれば地下牢のことだ。

 現代のサブカルチャー的に訳すれば、不思議な迷宮、とでもなるだろうか。迷宮はラビリンスだけれども。

 ダンジョン、という言葉が、何を意味しているのか興味はある。

 しかし、鎬としては未知の新元素にしろ謎の天然水にしろ、その出所を探る気はない。

 秋水が元気でいてくれるなら、生きていてくれるなら、どうでもいいのだ。

 鎬はただ、秋水の居場所を守れれば、それでいい。

 最愛の兄の、大事な大事な忘れ形見である甥のことを考えつつ、鎬はバックヤードに設置されている冷蔵庫へと足を進めた。

 

「問題は、こっちね」

 

 冷蔵庫の前に立ち、冷凍庫側のドアを開く。

 中にはアイス菓子が、ごちゃ、と入れられている。

 この質屋の店長、祈織のものだ。

 真冬で寒いというのに、アイスを食べるのか。

 しかも半分はチョコミント。

 歯磨き粉の味よね、と全国のチョコミン党が怒りの反論を叩きつけてくるであろう暴言を頭の片隅で呟きつつ、冷凍庫の中に入れておいた細い鎖を取り出した。

 来月から販売を開始する新商品、白銀のネックレスである。

 鎬は何故か、その白銀のネックレスを1本だけ、冷凍庫の中に入れていたのだ。

 

「……ふむ」

 

 素手で白銀のネックレスを摘まみ上げ、鎬は軽く鼻を鳴らす。

 

 

 

 あまり、冷たくない。

 

 

 

 プラスチックのようだ。

 いや、普通のプラスチックでも、ここまで熱の伝わり方は鈍くないだろう。どちらかと言えば木材に近いかもしれない。

 冷たくない、というわけではないが、鎬の手の平で感じられる冷たさは、あまりに鈍い。

 

 少なくとも、金属の冷たさでは、ない。

 

 なら、この白銀のネックレスは金属ではないのかと問われたら、たぶん違う、としか言えない。

 見た目は金属の鎖なのである。

 メッキ加工、という線も一瞬考えたのだが、だとしたら祈織の鑑定はなんなのか、という話になる。

 加工技術が凄い、と興奮している祈織の様子から察するに、内容は不明だとしても分類上、この白銀のネックレスは金属なのであろう。

 

「…………」

 

 冷凍庫のドアを無言で閉め、鎬は振り返ってまた歩き出す。

 金属を触って冷たさを感じるのは、金属が手の熱をものすごい速さで奪っているからである。

 20℃の部屋に置いていれば、金属も、プラスチックも、木材も、基本的には20℃で安定する。

 しかし、それらを触って金属だけ冷たく感じるのは、熱伝導率が高いからである。

 金属は熱をよく通すので、触れた瞬間に皮膚表面の熱をグイグイと勢いよく奪い取り、金属内部へと逃がしてしまう。すると皮膚の温度が急激に下がるため、冷たい、と皮膚の熱センサーが検知するのだ。

 逆に言えば、熱伝導率が極端に低い金属であれば、触っても冷たさは然程感じないはずである。

 この白銀のネックレスが、そういう熱伝導率が低い性質の金属で作られているのであれば、話は単純なのだ。

 しかし。

 

「そういう性質の金属、というわけでもないわよね」

 

 小声で漏らしながら、鎬は暖簾をくぐった。

 バックヤードから店内へ。

 その区切りとして使われている暖簾である。

 質屋の店内は煌々と明かりが灯され、まだ明るい。

 

「うー……うーん……」

 

 その明るい店内のカウンター前で、幼女が、もとい店長の栗形 祈織が頭を抱えていた。

 カウンターの上には数枚のプリント用紙。

 それと睨めっこをしながら唸っている。祈織の頭から、ぷすぷすと煙が上がっているように幻視してしまう。

 宿題を前にして悩み苦しんでいる子どものようだ。

 そんなことを言ったら祈織はまた怒ってしまうだろう。可愛いものだ。

 

「だいたいの価値がこんなもんでしょー……で、売り上げがー……あー、違う、混ざっちゃった……」

 

 なお、祈織が悪戦苦闘を繰り広げているプリント用紙は、本当に宿題であった。

 損益計算書。

 キャッシュフロー計算書。

 そしてバランスシート。またの名を貸借対照表。

 いわゆる財務三表と呼ばれる、代表的な財務諸表である。

 去年1年分の財務三表を、大まかにでも作成すること。それが本日の祈織に与えられた宿題だった。

 足音を忍ばせながら、そっと鎬は後ろから進行具合を盗み見る。

 まあ、悪くない。

 現在取りかかっているのはバランスシートで、見た瞬間に間違いを一カ所発見してしまったが、それ以外はミスらしいミスは見当たらない。

 ざっくりとは言えど、この短期間で財務諸表の作成ができるとは、祈織の成長には正直なところ驚かされている。

 ちゃんと教えれば、祈織はしっかり伸びる。

 良い子だ。

 思わず祈織の頭を後ろから撫でようとするが、鎬はすぐに手を引っ込めた。

 そして代わりに、ぷらん、と白銀のネックレスを垂らす。

 そのままゆっくりと、祈織の首筋へ垂らしたネックレスを近づけて。

 

 ぴとり。

 

「うひゃいわっと!?」

 

 祈織の口から奇妙な鳴き声が上がった。

 見事なロリボイス。なんというか、鎬の中にある加虐心をくすぐってくる魅惑の悲鳴だ。

 

「おっどろいたっ!? 急になんなの鎬さん!?」

 

 ばっ、と振り向いて、まるで子猫が威嚇してくるように祈織が吠える。

 微笑ましい反応だ。

 しかし、鎬の視線は白銀のネックレスに固定されたままである。

 

「精が出るわね店長。頑張っていて偉いわ」

 

「いやこれ、鎬さんが出してきた宿題なんだけど……」

 

「財務三表を理解できない経営者は、目隠しをしたまま街中を自転車で走っているようなものよ。店長も慣れ親しみましょうね」

 

「うへー……いやちょっと鎬さん、冷たいんだけどこのネックレス」

 

 ネックレスの方をじっと見ながら、いつものように祈織に声をかける。

 白銀のネックレスは、祈織の首筋に触れたままだ。

 冷たいと文句を言いながら、祈織はネックレスをおもちゃに戯れ付く子猫のようにぺちぺちと叩いており、揺れたネックレスは何度も祈織の首筋を撫でている。

 鎬は僅かに目を細めた。

 

 リアクションが、小さい。

 

 祈織は確かに冷たいと訴えている。

 しかし、冷凍庫から取り出したばかりの金属を首に当てられたにしては、反応が薄い。

 バックヤードから持ってくる間に、白銀のネックレスが暖まってしまったのだろうか。

 いや、鎬の手で感じられるネックレスの温度は、あまり変わっていない。

 ずっと、鈍い冷たさを訴えている。

 

 祈織が現在感じている冷たさも、この鈍い冷たさ、なのだろうか。

 

 鎬と祈織では、白銀のネックレスの冷たさは、感じ方が違っていたはずなのに。

 

 祈織の薄いリアクションは、ある意味では想定内だ。

 悪い方の想定、ではあるが。

 

「ねえ店長」

 

「なにー? ネックレス冷たいから止めれー」

 

「このネックレス、来月から予約を受けるじゃない?」

 

「まあ、そうだね。いやー、どれくらいの値段で売れるか楽しみだなー」

 

「8000ドルから1万ドルよ」

 

「へ?」

 

 猫じゃらしのように垂らしたネックレスをぷらぷらさせて祈織の首を撫でつつ、鎬はしれっと伝える。

 別にオークション形式での販売ではない。

 売値は9000ドル前後。

 そして、寄付金は別。

 それは決定事項である。

 

「い、い、いちまん、どる?」

 

「上値は、ね」

 

「い、いやー……流石にちょっと吹っ掛けすぎじゃない? アンクレットのお値段5倍だよ?」

 

「アンクレットは販売経路拡大のための特価品よ。ブランド価値のある装飾品としては適正レンジだし、店長の言うように価値のある芸術品としてのアクセサリーなら、むしろこれでも大安売りの価格設定よ」

 

「それは、ブランドとして信頼されてる前提じゃない?」

 

「安心しなさい。これはもう、ブランドよ」

 

 そのための政府交渉で、そのためにスパイを泳がせていたのだから。

 鎬は多くを語ることなく口の端だけに笑みを浮かべつつ、祈織の背後から白銀のネックレスを両手に持ち、そっと祈織のその首に掛けた。

 祈織は、自分にはネックレスなんて似合わない、なんて言う。

 しかし、そんなことはない、と鎬は思っている。

 よく似合っている。

 可愛いじゃないか。

 背伸びしてお洒落した女の子みたいで。

 別に馬鹿にしているわけではなく、素直に賞賛として鎬はそう感じる。

 美しい、という方向性の鎬にとって、可愛らしい、というのは自分にはない魅力を褒める言葉としてあるのだ。

 

「そ、そっかなー? ブランドかー……ブランド名は 『ダン・ジョンさん』 だね」

 

「ダサいわね」

 

「ねえ? それって 『ダン・ジョンさん』 って名前のこと? それとも問答無用でネックレス着けられた私へのディス?」

 

「祈織は可愛いわ。小学生みたいよ」

 

「喧嘩売ってんなら買うぞー?」

 

 ふしゃー、と子猫のように威嚇する祈織。微笑ましい反応だ。

 背後を振り返った姿勢の祈織の首には、鎬が掛けた白銀のネックレス。

 冷凍庫で冷やしていたはずの、白銀のネックレス。

 祈織と会話を交わしながらも、鎬はそのネックレスだけを凝視し続けていた。

 白銀のネックレスは、未だに鎬が触れている。

 触れ続けている。

 

「あら怖い」

 

「あのね鎬さん、私と鎬さんは同年代なんだからね。小学生扱いしたら普通に怒るよ?」

 

「店長は可愛らしいということを伝えたいだけなのに……」

 

「付け加えた一言が余計だっていう話をしてんだけ――」

 

 

 

 白銀のネックレスから、手を離した。

 

 

 

「ど――っ!?!?!?!?!?」

 

 瞬間、祈織の目が思いきり見開かれた。

 ついでに、マンガのように椅子から跳び上がった。

 さらに、カウンターの裏に膝を打ち付けた。

 

「つめたぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 オマケに可愛らしい悲鳴まで上げてくれた。

 ナイスリアクションである。

 

「ちょっ!? なにこれっ!? 急に冷たくなったんだけどちょっとっ!? 鎬さんっ!? 鎬さんっ!?」

 

 す、と鎬の目が細まる。

 

 

 

 急に冷たくなった。

 

 

 

 鎬が白銀のネックレスから手を離した途端、熱伝導の性質が変わった。

 

 

 

 冷えた金属が首に張り付き、慌ててネックレスを外そうとジタバタしている祈織を、鎬は真顔で見下ろす。

 秋水が白銀のネックレスを質屋に運び込んだ後、鎬と祈織で冷えたネックレスに対する冷たさの感じ方が違うことに首を傾げた。

 鎬が触ると、熱伝導率が極端に低い金属のように感じた。

 しかし、祈織が言う限り、白銀のネックレスは通常の金属類と同じような冷たさを感じると言う。

 感覚がズレている。

 ほんの僅かな疑問だったが、答えが、出た。

 出てしまった。

 冷たさの感じ方が違うのは、個人の感覚の問題、ではない。

 鎬が触れている間だけ、このネックレスの熱の伝わり方そのものが変わっている。

 

 鎬が触れなければ、熱の伝わり方は普通の金属と同程度。

 

 しかし、鎬が触れれば、熱の伝わり方が極端に下がる。

 

 熱伝導率が変化しているのか、あるいは表面での熱交換が変化したのか、それとも未知の別現象なのか。

 そこまでは分からない。

 鎬はゆっくりと息を吸い、ため息のように吐く。

 なるほど。

 

 

 

 鎬の予想の中では、間違いなく 『最悪』 のケースだ。

 

 

 

「ちょっと鎬さん外してっ!? 冷たい冷たいっ!? なにこれマジックっ!? ドライアイスでも出したのこれっ!? てか何してくれんの鎬さんっ! 低温火傷しちゃうでしょうがコラーっ!!」

 

 それは低温火傷ではなく、ただの凍傷ではないのだろうか。

 元気に藻掻く祈織を見下ろしつつ、その暴れっぷりを鎬は真顔のままスマホで撮影した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

祈織「人体実験すんなコラーっ!!!」

秋水(鎬姉さんでポーションの人体実験したことは黙っておこう……)

 

 科学知識のある人へ。

 細かいツッコミとネタバレは止めてね♡

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