ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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291『美寧の手紙』

「シュースイくーん♡」

 

「竜泉寺さーん」

 

 午前中だけしかない授業が終わり、急いで帰ろうとした秋水の動きより早く、チワワが来襲してきた。ちくしょう、間に合わなかった。

 秋水は即座に、紗綾音の飼い主である沙夜へと助けを求めるように顔を向けるが、同じく全速力でこちらへ駆けつけようとしていた海霧にタックルを仕掛けているところであった。

 今日の沙夜は、海霧とじゃれ合ってばかりで助けてくれそうにない。

 なるほど、このチワワに独りで立ち向かえということか。

 秋水は絶望を胸に抱きながら、ゆっくりと紗綾音の方へと顔を向ける。

 なんかもう、目の前に立っていた。

 

「一緒に帰るんだよ!」

 

「いやです」

 

「ほら行こう! 早く早く!」

 

「聞こえてます?」

 

 もうすでに鞄を持って帰る気満々の紗綾音が、即座に拒否の意向を示した秋水の腕を掴んでグイグイと引っ張ってくる。聞きゃしない。

 振り払おうと思えば軽く振り払えるのだろうけれど、それで怪我でもさせたら大事だ。つまり抵抗できない。

 弱ったな、と腕を引かれながら秋水は天井を見上げる。今日は何回も見上げた天井だ。

 それから紗綾音の顔を見た。

 にぱっ、と明るく人懐っこい笑みを浮かべ、秋水の腕を引いている。

 何故だろう、犬の耳と尻尾が見えた。

 早く帰ろう、という言葉が、早く散歩に行こう、という言葉に脳内で変換されてしまう。

 戯れ付いてくる子犬というのは、こんな感じなのだろうか。だとしたら子犬は飼えそうもない。こうも纏わり付かれると、間違って踏み潰しそうで怖くなる。

 尻尾をぶんぶん振っている幻をどうしても重ねてしまいつつ、秋水は軽くため息を漏らした。

 

 今日の紗綾音は、チワワ度が増していた。

 

 授業という名のほぼほぼ自習時間は、午前中だけである。高校受験本番に向けた、最後の調整期間だ。

 その授業合間の休み時間、紗綾音はひたすら秋水に絡んできた。

 

「シュースイくーん♪」

 

 いつの間にか名前で呼ばれている。

 ただ、イントネーションがなにかおかしい。

 休み時間のたびに駆け寄ってくる、にこにこ顔のチワワ。

 逃げる間もなく突っ込んでくるし、力尽くで振り払うわけにもいかない以上、秋水に逃れる術はなかった。

 しかも何故か、今日は沙夜が全く助けてくれない。

 それどころか、助けに入ろうとしてくれるはずの海霧の動きを妨害してくる。

 何故だ。何故なんだ。

 逃すまいとべったり紗綾音に抱きつかれながら、秋水は絶望していた。

 

「シュースイくんって黒の無地が好きそうだよね。夏場とか熱中症にならない? え? 筋肉のせいで常に熱中症の危機? なんて生き辛そう……」

 

「食べ物とかなにが好きなの? 鶏肉とか? え? 栄養価が高いやつ? シナモン、生姜、モリンガ、抹茶、すりごま、イヌリン、大麦若葉、ウコン、きな粉、アマニ油、黒酢、プロテイン、全部入れた果物入ってないタイプの野菜ジュースミックス? 味覚大丈夫?」

 

「なんでシュースイくんって丸刈りちゃんなの? え? トータルコストが安い? お金が掛からないってこと? え? 時間と判断量と行動拘束? どゆこと?」

 

「筋トレしてるって言ってたけど、好きな筋トレってあるの? え? スクワットベンチプレスデッドリフト懸垂ディップスラットプルちょっと待って急に早口でビックリするんだよ」

 

「シュースイくんってお手手大きいよね。へーい、ちょっとハイターッチ。わ、すごい大きい……って言うか、めっちゃゴツゴツのおマメちゃんだよ。中指と薬指と小指のおマメちゃん目立つよね。え? 背中の筋トレしてたらそうなる? なんで?」

 

「香りって気にするタイプ? ぶっちゃけイメージ全然ないけど……え? ラベンダーとゼラニウムとイランイランとベルガモット? 配合したら石けんの香りになる? ガチじゃん……」

 

「そーいえばシュースイくん、工具売り場にいたりお姉ちゃんのそーいう話に興味津々だけど、DIYってやるの? え? この前お姉ちゃんと相談してた床を浮かせるDIYやるつもり? ヤバヤバのヤバじゃない?」

 

 そして本日の紗綾音は、質問攻めチワワであった。

 すごい詮索してくるじゃん。

 別に聞かれて困る内容ではないので、秋水は淡々と返しながら内心ではたじろいでしまう。

 紗綾音は、相手を直接的に詮索するタイプではなかった。

 普段の会話の中に潜んだ相手の趣味や嗜好といった細かな情報の断片を丁寧に拾い上げ、そして忘れない、という器用な立ち回りをするのが普段の紗綾音である。

 相手の顔と名前を一致させることすら苦労する、そんな秋水からすれば驚愕の記憶力だ。

 教えて教えて、と圧迫感を与えずに相手の個性を拾い集める強かさ。

 そして相手からすれば、細かいことを忘れていなくて嬉しい、という安心感。

 そういうところが、実にあざとい。

 そんな紗綾音が、今日はグイグイと秋水を詮索してくる。

 ただ、深い内容には踏み込まない。

 家族の話題や家庭の事情は、ちゃんと避けている。

 腫れ物を、ちゃんと腫れ物として扱っていた。

 配慮はある。

 ないのは遠慮だ。

 なんとも立ち回りが上手い。

 だけど、絡む距離が心理的にも物理的にも近すぎて、だいぶシンドイ。

 

「ほらー、放課後デートの時間なんだよー」

 

「違います」

 

 休み時間だけでも疲れたというのに、下校まで一緒とか。

 グイグイと紗綾音に腕を引かれていた秋水は、よろりと立ち上がる。

 今日はひたすら秋水に絡んできているが、他のクラスメイトと一緒に居ないのだろうか。いつもは教室でダラダラと喋っているというのに。

 これは逃げられないな、と観念した秋水の腕に、ぎゅ、と紗綾音が抱きついた。まさかの拘束。

 

「あの、逃げませんから」

 

「とーぜん。逃さないんだよ」

 

 にかっ、と笑った紗綾音の頭を、ぐりぐりと撫でておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 困ったことに、帰り道は紗綾音と2人になってしまった。

 お目付役の沙夜は、やはり海霧とじゃれ合っていて不参加であった。

 

「……悪い、今日は紗綾音の好きにさせてやって」

 

 と、沙夜に頭を下げられては、文句の言いようがない。

 海霧はなんとしても邪魔しにこようと藻掻いていたものの、最後まで沙夜の拘束からは逃れられなかった。沙夜の羽交い締めから逃れるには、筋肉が足りなかったようだ。是非とも筋トレをしよう。

 紗綾音にドナドナされる最中、近くにいた日比野 道が、うわぁ、みたいな目で同情するように秋水を見ていた。

 助けて、と秋水もまた目で訴えかけたのだが、面倒事には関わりたくないんだ、とでも言うように手を合わせて断られた。ちくしょう。

 散歩に行きたいチワワに引き摺られるようにして秋水は教室を後にした。

 

 教室からの視線は、興味津々といった目線が半分、怯えや戸惑いといった視線が半分、といったところだろうか。

 

 覚王山 未来は、やっぱあいつら付き合ってるんじゃ、みたいな目でこちらを見ていた。誤解が酷くて名誉毀損レベルである。

 その未来に背中をさすられて顔を真っ青にしていたのは、鶴舞 美々。秋水が近くにいるだけで、以前のようにすっかり怯えきっている。申し訳ない。

 そして、俯いて秋水の方を見ないようにしている、御器所 蜜柑。

 海霧のおかげで、クラスメイトの半分くらいは以前のような雰囲気に逆戻りした。

 平穏である。

 残りの半分近くも、興味ありそうに秋水を見てくるものの、沙夜や海霧、もしくは覚王山や日比野のように話しかけてくることはない。

 実に平穏である。

 怯えさせてしまうのは申し訳ないが、前よりも独りになれて、肩の荷が下りたような気分であった。

 

「えー、ちょっと寄り道しよーよー!」

 

 その下ろした肩の荷以上のお荷物さんが、秋水にのし掛かっていた。

 いや、乗っかっていた。物理的に。

 

「紗綾音さん、学校帰りに寄り道をしてはいけませんよ」

 

「この前、思いっきり祈織ちゃんの店に寄り道してたじゃんかー!」

 

 秋水はなるべく優しい声でチワワ、ではなく紗綾音を諭すものの、当の本人は秋水の腕の中でブーブーと元気に文句を言っていた。

 誤字ではない。

 

 秋水の腕の中、である。

 

 学校からの帰り道、秋水は何故か紗綾音を横抱き、いわゆるお姫様抱っこをしながら帰ることになった。

 不本意である。

 最初はなにを考えているのか、がばり、と紗綾音は秋水の背中に跳び乗ってきた。

 おんぶだ。

 クラスメイトの半分以上から再び避けられ、肩の荷が下りた秋水の肩に、物理的に荷物として紗綾音を背負わされてしまった。

 ただ、紗綾音を背負うとなると、問題となるのは体格差。

 紗綾音が秋水の背中にしがみ付くとなると、完全に紗綾音の足が宙に浮く。

 しかし、腕の力だけで紗綾音がしがみ付くとなれば、そのうち落ちてしまうだろうから危ない。

 さりとて、秋水が後ろに手を回して支えようとすれば、どうしたって尻を触ってしまい、秋水は社会的に死ぬ。

 そもそも紗綾音の制服はスカートなので、おんぶは絵面として色々とマズい。

 

 なので、お姫様抱っこ、という形に落ち着いた。

 

 なんでだよ。

 離れろよ。

 秋水は小型犬を抱き上げるように注意を払いつつ、遠い目をしたまま歩く。

 もそもそとよじ登ってきた紗綾音を両手で受け止めてしまった時点で、手を離して落とすこともできない秋水は詰んでいた。

 

「いえーい♡」

 

 カシャリ、と紗綾音は秋水の腕の中、ご機嫌な様子で自撮りなんぞをしてやがった。

 左手でスマホを構え、右手でフィンガーハートを作って笑顔で写真を何枚か撮影している紗綾音を、秋水はなんだコイツという目で見下ろす。

 というか、その自撮り写真、思いきり秋水まで映り込んでいる。

 

「お姉ちゃんに送っちゃおー」

 

 なんで律歌さんに送信してんだよ。

 紗綾音の写真はともかく、こんな凶悪面した写りの悪い野郎の写真なんて見たくないだろ。

 ぷらぷら足を揺らしつつ、鼻歌交じりでスマホを操作する紗綾音を見下ろしながら、秋水は軽くため息を1つ。

 

「はしたないですよ、紗綾音さん」

 

「シュースイくんに抱かれてると、なんかすっごい落ち着くんだよ!」

 

 言葉のチョイスよ。

 注意する秋水に、にぱっ、と紗綾音は笑顔を向けてくる。

 

「シュースイくんはさ――」

 

 そして秋水を見上げながら、紗綾音が口を開く。

 しかし、投げかけようとした言葉を、紗綾音は一度飲み込んだ。

 どうかしたのか。

 秋水は腕の中にいる紗綾音を確認するが、にこーっとした笑顔なのは変わらない。

 

「――ううん。私はね」

 

 一度首を横に振ってから、紗綾音は再びまっすぐ秋水を見上げる。

 

「シュースイくんのこと、笑顔にしたいなっ!」

 

「笑顔、ですか?」

 

「うん、そう! シュースイくんにも笑ってほしい!」

 

「そうですか」

 

 笑いながら、なんだかよく分からないことを口走る。

 笑う、と言われても。

 秋水は一瞬だけ戸惑う。

 

 笑っている、つもりなんだけどなぁ。

 

 ダンジョンを見つけてからというもの、自分はまた、よく笑うようになった。

 笑っている、よな?

 そんな疑問を覚えてから、秋水は首を捻る。

 しかし、笑顔か。

 とりあえずリクエストに応えるように、秋水は作り笑いを紗綾音に向けてみた。

 なお、完成度。

 全ての擬音に濁点がつきそうな作り笑いを浮かべた秋水を見上げ、ぱちり、と紗綾音は目を丸くして。

 

「そーゆーのじゃ、ないんだよ……」

 

 僅かに顔を青くしながら目を逸らした。

 酷くない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてついに、秋水はチワワから解放された。

 ただいまダンジョン。

 ただいまセーフエリア。

 分かれ道のところで、手を振りながら「また来週なんだよーっ!」とデカい声で別れを告げた紗綾音の声が、若干頭に残りながらもセーフエリアへと帰還できた秋水は、どかりと荷物を下ろしてから、座布団の上へと座り込む。

 疲れた。

 今日の学校は疲れた。

 ぶっちゃけ、紗綾音の対応に疲れた。

 クラスメイトは再び距離を置いてくれるようになったから気が楽になったと思ったら、紗綾音はそれ以上の負担を強いてきやがった。なんなのあのチワワ。

 

「ぬあー、飯食って風呂入ってセーフエリアの整備するぞー」

 

 ぐ、と秋水は座布団に座りながら伸びをする。

 セーフエリアの隅に下ろした荷物。

 ネット注文していた、単管パイプである。

 これで律歌に教えて貰った、岩肌の上に水平な畳スペースを作るDIYの材料が一通り揃った。

 単管パイプはだいぶ重いのだが、身体強化の魔法を使えば、ひょい、と持ち上げて簡単に持ち運べてしまった。魔法は便利だ。

 

「土日でなんとか形にしてぇなー、っと」

 

 一息ついてから秋水は立ち上がり、制服を脱いで地下2階へ続く階段の扉にハンガーで掛けていく。

 とりあえず今日は、今あるクッション材代わりの雑草を片付けるとしよう。畳も新しく樹脂畳を買ってあるので廃棄予定だ。どちらもスライムに食わせれば良い。便利だ。

 セーフエリアを整備している間、布団やらローテーブルやら座布団やらは。

 

「……ここでいいか」

 

 ちらり、と地下2階へ続く階段を見下ろす。

 持ち込んである私物たちは、一旦、ダンジョンの階段に移すことにしよう。

 

「とりあえず、飯食いに行くかー」

 

 秋水は私服に着替えてから、畳のところへと戻り、棚から外出用のリュックサックを取り出した。

 

「あ」

 

 と、その棚に、綺麗にラッピングされた小さな箱。

 ああ、そうだ。

 これもちゃんと食わなきゃな。

 そう頭の片隅で考えながら、秋水は箱を手に取った。

 中身はたぶん、チョコレート。

 

 美寧から貰った、チョコレートだ。

 

 そういえば今日は、夜に美寧の筋トレを見る約束である。

 昨日は何故か、このプレゼントを秋水に押しつけ、走って帰っていったが、今日は大丈夫なのだろうか。

 ふむ、と秋水は鼻を鳴らす。

 

 美寧は、あの事故を目撃していた。

 

 そして美寧も、交通事故により姉を亡くしている。

 

 なんか、色々聞いたな。

 というか、自分の不用意な発言のせいで、美寧にまで姉の事故死のことを思い出させてしまった。

 美寧を、泣かせてしまったし。

 変な自己開示なんて、するんじゃなかった。

 亡くしたという姉のことを思い出させたせいだろう。

 美寧が傷ついていたら、どうしようか。

 切腹ものだ。

 秋水は頭をポリポリ掻きながら、ラッピングされたチョコレートの箱を棚へと戻した。

 

「おん?」

 

 戻したところで、ラッピングの隙間に、なにか紙が挟まっていることに気がつく。

 手紙だろうか。

 美寧とは今日の夜に会うであろうから、読んでませんでした、は流石に失礼だよな。

 秋水はそう考えて、す、と箱から手紙を抜き取った。

 小さめの紙が2枚。

 開いてみれば、とても綺麗な文字が、みっちりと書かれていた。

 印刷物ではなく、直筆だ。

 

「…………」

 

 秋水はそれをじっくりと読む。

 丁寧に書かれた手紙は、明らかに時間と手間暇を掛けられている。

 だから秋水もまた、丁寧に目を通す。

 

「……ふ」

 

 しっかり読んでから、秋水の口の端には自然と笑みが浮かんでいた。

 なんだ、ほら。

 やっぱり自分は、笑っているじゃないか。

 浮かんだ笑みを解きほぐすように、ぐにぐにと口端を揉みながら、美寧からの手紙を棚へとそっと置いた。

 

 

 

『先生が、いてくれて、私は嬉しいよっ!!』

 

『私は、先生が、大好きですっ!!』

 

 

 

「ええ、私も筋トレの同志は、好きですよ」

 

 美寧からは、随分と教師役として慕ってくれているらしい。ありがたいことだ。

 口元から手を離してもなお、そこには笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓 棟区先生へ

 

 寒さの厳しい折、先生におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 日頃は真夜中のジムにおきまして、私の拙いトレーニングに根気強くお付き合いいただき、また温かいご指導を賜りまして、心より感謝申し上げます。

 

 本日は、日頃の溢れんばかりの感謝の気持ちをどうしても先生にお伝えしたく、不器用ながらこの手紙をしたためさせていただきました。

 

 もしもあの時、ジムで先生に出会えていなかったら、私は今頃どうなっていただろうかと考えることがあります。

 最初の頃の私は、ただがむしゃらに身の丈に合わない重さを扱い、フォームも滅茶苦茶で、自滅するような運動ばかりをしておりました。きっと先生が声をかけてくださらなければ、早々に身体を壊し、筋トレそのものも嫌になって辞めてしまっていたに違いありません。

 そればかりか、当時の私は物事をすべて後ろ向きに捉え、どこか投げやりな気持ちで、毎日の生活を灰色のように感じて過ごしておりました。今のように、毎日が色鮮やかに感じられる日が来るなんて、想像もしていませんでした。

 

 ですが、先生が私を優しく引き止め、正しい道を教えてくださったあの日から、私の世界は一変いたしました。

 先生が教えてくださった「競う相手は常に自分自身である」という言葉、そして「過去の自分を打ち破っていく」という筋トレのあり方は、私の心に深く突き刺さりました。そのおかげで、ただ苦しいだけだと思っていたトレーニングが、自分の成長を実感できる、本当に楽しい時間へと変わっていったのです。

 

 さらに、先生からいただいた、その絶対評価の考え方は、ジムの中だけでなく、私の生き方そのものを救ってくれました。

 他人と自分を比べては落ち込むのをやめ、昨日の自分より一歩でも前に進むことを意識できるようになってから、学校の勉強にも今まで以上の確かなモチベーションで臨むことができるようになりました。

 そして何より、その心のゆとりのおかげで、これまで目を背け、諦めかけていた家族との関係にも、ほんの少しずつですが向き合えるようになってまいりました。今、我が家が少しずつでも良い方向へと変わり始めているのは、間違いなく先生が私に前を向く強さをくださったおかげです。

 

 先生に出会えてからの私の毎日は、本当に楽しくて、驚くほど色鮮やかなものになりました。私を暗闇から救い出し、自分自身を認めるきっかけをくださった先生には、どれだけ感謝しても足りません。先生に出会えたことは、私の人生において一番の幸運です。

 

 このチョコレートは、そんな私の心からの「ありがとう」の気持ちを込めてお贈りするものです。お口に合うか少し不安ではございますが、日々のトレーニングの合間にでも召し上がっていただければ幸いです。

 

 これからも先生の背中を追いかけ、一歩ずつ、昨日の自分を打ち破っていけるよう、より一層の努力を重ねてまいります。どうかこれからも、不甲斐ない生徒ではございますが、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

 

 最後になりますが、まだまだ寒い日が続きますので、どうかお体に気をつけてお過ごしください。先生の毎日のトレーニングが、より素晴らしいものになりますよう、心から応援しております。

 

 敬具

 

 二月十四日

 錦地 美寧

 棟区 秋水 先生

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 そもそも秋水くん、質問の答えが全部斜め上だから余計にチワワが興味持っちゃってるんだよ……( ´-ω-)

 あと、秋水くんが妹をお姫様抱っこしている写真を送りつけられた律歌さんは、しれっと脳破壊されてるんだよ……( ´-ω-)

 ちなみに秋水くん、苦笑いを除いたら、美寧ちゃんの前でしか笑ってないです……( ´-ω-)

 

 次話は、闇堕ち電撃美寧ちゃん。ちょっと長くなります。

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