助けて旧神様!(旧題クラインの壺ナウ)   作:VISP

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感想欄で募集した内容を抜粋しました。

1、ショゴス時のシュリュズベリィ教授の助手風景 1票
2、西博士&エルザとの交流  2票
3、マスターテリオンとの戦闘  3票

何かリクエストがある時は活動報告の方にお願いします。


番外編1 あの時を詳しく見てみた

 

1、ショゴス時のダンディ教授の助手(ショゴスver)風景 1票

 

 「ハイータ、こっちの資料も整理してくれ。」

 「てけり・り。」(はーい。)

 

 「てけり・り。」(この資料はどうします?)

 「ふむ、それは後で纏めて燃やすとしよう。一般人の目に触れたら危ないからな。」

 

 「てけり・り。」(屋敷の掃除終わりましたよ。)

 「あぁ、ありがとう。ではそろそろ一息入れようか。」

 「てけり・り。」(じゃぁコーヒー淹れますね。)

「チョコクッキーとホットミルクもね。」

「てけり・り。」(解ってますよ。)

 

 此処はアーカムシティ郊外にあるラバン・シュリュズべリィ教授の邸宅だ。

 此処には現在1人と一冊と一体が生活を共にしている。

 

 「おや、豆を変えたのか?」

 「てけり・り。」(いえ、淹れ方を変えてみただけです。お口に合いませんでしたか?)

 「いや、私はこちらの方が良いな。今後もこれで頼むよ。」

 「てけり・り?」(おかわりは如何ですか?)

 「もらおう。」

 「私も。」

 「てけり・り。」(ちょっと待っててくださいね。)

 

 何時もの邪神奉仕種族の根拠地を核兵器と鬼械神で殲滅する系のお仕事を終え、久しぶりに帰ってきた家には随分と埃が積もっていた。

 今回は大仕事になるため、ハイータと名付けた南極で拾ったショゴスも同行しており、割とヤバい資料が大量にあるこの屋敷も何十年かぶりに大掃除する事になったのだった。

 

 「ちょっと疲れた…。」

 「レディ、はしたないぞ。」

 「てけり・り。」(お嬢さん、寝るならベッドでお願いします。)

 

 その量たるや、既に大きなゴミ袋が5袋も埋まっており、更に全体の半分以下しか終わっていないのだ。

 小さな身体で頑張ったせいか、魔道書の精霊である葉月もうんざりした様にハイータの上に乗ってだらけている。

 その様子に著者にして主であり、父でもあるシュリュズべリィと助手扱いのハイータが咎めるが、知ったこっちゃないと寛ぎ続ける。

 

 「ハイータって…冷たくて…肌触りが良くて…柔らかいから…お昼寝に最て、き…。」

 「てけり・り。」(教授、助けてください。)

 「やれやれ、働かせ過ぎてしまったかな?」

 

 よっこらせ、と教授が立ち上がり、ハイータから葉月を受け取って、そっと寝室へと運んでいく。

 その姿は何処ぞのロリコン貧乏探偵と違って、極めて紳士的であり、父性に満ち溢れていた。

 …これで葉月が「好きな人ができたの」とか言った日にはどうなるかちょっと考えたくないと思ったハイータだった。

 

 結局この後、疲れが溜まっていたシュリュズべリィも休ませつつ、ハイータが12体に分裂し、午前中を超える猛スピードで作業を消化していった。

 そして時刻は夜、夕飯の時間へと移る。

 

 「おぉ、今日は豪勢だな。」

 「すごい。これ皆ハイータが作ったの?」

 「てけり・り!」(頑張りました!)

 

 その日の夕食は豪華だった。

 焼き立てのパンにサラダ、肉汁が香るハンバーグ、コーンスープに飲み物はコーヒーとミルク。

 どれもこれも彩まで意識して盛りつけられたプロの一品と言っても通じるだろう。

 

 「ハイータ、アルコールは無いのかね?」

 「てけり・り。」(普段から蜂蜜酒を飲んでるんだから、今日位アルコール断ちしましょうね。)

 「ダディ、飲み過ぎは良くないよ。」

 「ぬぅ…そう言われると弱いなぁ。」

 

 暖かくて、少し騒がしく、それでいて何処までも寛げる。

 そんな夜の出来事だった。

 

 

 ……………

 

 

 ギチリと、損傷し、回復もままならない身体で状況を確認する。

 どうやらダメージにより意識が飛んでいたらしい。

 今のが走馬灯と言う奴だろうか?

 連戦に次ぐ連戦により、遂に限界を迎えたシュリュズべリィは倒れ、葉月は敵の手に落ちた。

 自分も既に満身創痍で回復する事も出来ない。

 先程辛うじてこちらの状況を知らせるために分体を逃がしたが、それとてちゃんち辿りつくかは解らない。

 それでも、只このまま死に逝く事だけは間違っていると、霞み始めた思考が告げる。

 

 「ギャッはハハはははは!おいおいおいおい!もう終わりかよ老いぼれ!」

 

 その手にセラエノ断章を持ち、シュリュズべリィの死体を蹴りながら、少年の姿をした魔導師が嘲笑する。

 ブラックロッジのアンチクロスが1人、クラウディウス。

 邪神ハスターの奴隷として暴虐の限りを尽くす外道の1人だ。

 

 「お?まーだくたばってないのかよ?良いぜ良いぜ、老いぼれを痛めつけるのなんざ面白くも糞もねぇ。もうちょっと遊んだって良いよなぁ!」

 

 笑いながら風が吹き荒れ、自分をボロ布の様に吹き飛ばし、周囲のものへとぶつけていく。

 馬鹿が。

 あの人ならそんな雑な風なんか扱わない。

 お前如き三下じゃ、本来のあの人の足元にも及ばないんだ。

 人間なら激しく歯ぎしりしているだろうが、今の自分には歯も顎も無い。

 だから、別の形で意趣返しと行こう。

 

 「おいおいおい?まさかもうくたばっちまったのか?爺より早いなんて情けねぇと思わねぇのかよ?」

 

 クラウディウスが無防備に近づいていく。

 聴覚と熱源探知により視覚に頼らず、精密にその感覚をキャッチしながら、最高のタイミングを待つ。

 肉体の殆どを生体炸薬へと変化させ、何時でも爆破出来る様にセットする。

 

 「んじゃ、お前もあの爺の所に逝きな。」

 「てけり・り。」(あぁ、だがそれは葉月ちゃんも一緒だよ。)

 「あ?」

 

 瞬間、光が弾けた。

 その直後、半径100mが跡形も無く消滅する程の大爆発が起こった。

 

 

 

2、西博士&エルザとの交流(「月の子」計画の落とし子時代)  2票

 

 ここはアーカムシティの封印された13区画「焼野」。

 その地下に眠る夢幻心母の一画。

 此処は夢幻心母内で最も安全で、同時に最もスリリングな場所でもある。

 

 「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!漸く完成したである、我輩のスペシャルウェポンが!その名もスーパーウェスト無敵ドリル13號~貫け奴よりも早く~!これを使えば、あのにっくきメタトロンとデモンベインも一撃に違いないのであ~る!更に更に!今回は特別にオマケして、何とこの30mm6連装チェインガンをおまけにつブギャオゥッ!?」

 『本命がオマケでどうする!』

 「お~、博士の顔がまるでミンチの様だロボ。」

 

 ゼルエルの激しい突っ込みにより、ドクター・ウェストは吹き飛びながら錐揉み回転し、派手に床へと激突、血飛沫と肉片を周辺へと撒き散らした。

 しかし、ここは既にギャグ空間。

 R-21G状態だった顔が普段のR-15G程度へと瞬く間に修復され、ドクターは絶対死んでる死体から死にかけの肉塊へと驚異的な回復を遂げていた。

 

 『ふむ、本命のチェーンガンの仕上がりは上々だな。この辺りは流石と言うべきか…。』

 「博士は確かにゴキブリも裸足で逃げ出す超有害的存在だけど、その技術力と知性に関しては人類でも最高峰ロボ!」

 『褒めるのか貶すのかどちらかにしろと言うに…。まぁ良いさ、ちと一暴れして試し撃ちでもするとしよう。』

 「まだ今日はエルザ達は何もしてないロボよ?」

 『直に起きるさ。そんな予感がするんだ。』

 

 ゼルエルが3m近い巨躯を生かし、これまた到底人間では携行できそうもない全長4m近い6連装チェインガンと大型弾装を肩に担ぎ、研究室を出る。

 彼女はウェスパシアヌスが中心となって行われた「ムーンチャイルド」計画において、ブラックロッジの魔道技術の粋を集めて構築された。

 同型機たるサンダルフォン、メタトロンに比べ、初期型である彼女は既に人間の姿に戻る事も叶わず、全身を分厚い装甲と武器に覆われている上に、人間離れした巨躯と力強い尾を持っている。

 その力はサンダルフォン同様、ブラックロッジの誇る魔導師達と勝るとも劣らない程の戦力を誇る。

 また、数少ない対抗可能戦力であるメタトロンと覇道の持つデモンベインを相手にしても、その常に有利に立ち回る程の戦上手でも知られている。

 

 『行くのか?』

 『サンダルフォン、お前もか?』

 『あぁ、メタトンの相手はオレがする。』

 『任せた。露払いはこちらで行う。』

 

 研究室の出入り口近くの通路で待っていたサンダルフォンが声をかける。

 是が非でも付いていく。

 そんな気配を滲ませる弟分にゼルエルは仮面の奥で嘆息を一つ吐き、彼の望み通りの言葉を口にする。

 そうでもしないとこのシスコンが大人しくならない事を今までの経験から骨身にしみて解っているからだった。

 

 『今日こそ討ち取る。』

 『あぁ…。』

 

 そう言って、2人並んで夢幻心母から出撃した。

 

 

 …………………

 

 

 『ん……?』

 「具合はどうロボ?」

 『……あぁ、負けたのか。』

 

 気付けば、またドクターの研究室だった。

 

 「おおゼルエル、気付いたのであーるか?」

 『あぁ、手間をかけたなドクター。』

 

 視界を動かせば、バラバラになった自分の身体が見える。

 右腕は肘から先が消失、左腕は手首から先が潰れ、下半身は胴体から千切れていた。

 元々実験を終えて寿命の殆どと人間としてのまともな機能を喪失した自分だったが、自前の魔術とドクターからの技術提供により、半ばサイボーグとして辛うじて生き永らえている。

 

 「もう限界であるな。これ以上は幾ら我輩が大天才☆ドクタァァァァウェェェェェェストゥッ!!であっても、これ以上は延命が関の山であ~る。生ゴミにどんなドレッシングをかけても生ゴミでしかない「女の子を生ゴミ扱いとはふてぇ野郎だロボ!」

 「げぺるにっちッ!?」

 

 その2人の元気過ぎる様子を見て、ゼルエルはバイザーの奥でほんの少しだけ目元を緩ませた。

 この二人や大十次九郎とアル=アジフらのやり取りは、この世界で摩耗していくばかりの自分にとっては僅かばかりの清涼剤と感じられる。

 昔も昔、大昔の自分なら、この2人のやり取り見て大爆笑だったのだろうが、今や僅かに表情が動くだけ。

 

 「ゼルエルはもう出撃しちゃダメロボ!元々ボロボロだったのに、無理無茶無謀過ぎロボ!」

 『すまないな、それは出来ないんだ。』

 

 一刻も早く、一秒でも早く、この無限の螺旋から抜け出すために。

ブラックロッジに所属するゼルエルは少しでもデモンベインの、魔を断つ剣達の成長を促さなければならない。

 それを止めたら…恐らく、壊れるだろう。

 今まで得た知識と力を、ただただ衝動のままに振るう単なる怪物と成り果てるだろう。

 それだけは嫌だ。それだけは御免だ。

 そんなものになる位なら、今この瞬間にでも戦って死んだ方がマシだ。

 邪神に歯向かって滅ぼされた方がマシだ。ずっとずっとマシだ。

 

 『私が私で在り続けるためにも、戦うしかないんだ。』

 「ロボ~…。」

 

 エルザがもの言いたげな様子でゼルエルを見つめる。

 しかし、下手な人間よりも人間らしい彼女でも、ゼルエルにかける言葉は見つからなかった。

 未だ生まれてから20年も経っていない彼女の人工知性に記録された人生?経験では、ゼルエルにかけるべき言葉は見当たらなかった。

 とは言え、戦闘を重ねる毎に破損を続け、徐々に機械部分が増えていくゼルエルの身体では、そう遠くない内に死ぬ事になるのは簡単に予想が付いた。

 

 (今回は此処までか。だが…。)

 

 『修復を頼む。私は少し眠る。』

 「ま、任されたのであ~る…。ピカピカにしてやるから、それまでゆっくり休むのであ~る。」

 『あぁ、お休み…。』

 

 それきり、ゼルエルの目から光が消える。

 完全に意識を消えた彼女は暫しの間、安息の時間を得る事となった。

 

 (頼んだぞ…九郎、アル=アジフ、デモンベイン…。)

 

 

 ……………………………

 

 

 覇道邸の地下、そこに広がる格納庫の中で、デモンベインが目を覚ました。

 その視線の先は焼野。

そこから確かに「彼」は自身への切なる祈りを感じていた。

 だが、「彼」はゆっくりと目を閉じて、再び眠りにつく。

 今はまだその時ではない。

 何時の日か、邪悪を打ち破る時を待ちながら、「彼」は次なる戦いのためにその身を休めた。

 

 

 

 3、マスターテリオンとの戦闘(人間でアイオーン・リペア搭乗時)  3票

 

 今回、「彼或いは彼女」は自身の全霊を賭して、ある賭けに出た。

 この無限螺旋というシステムの要たる存在、マスターテリオンを滅ぼす。

 標的が使用する術式、鬼械神の性能、そして何よりマスターテリオン本人と魔道書たるナコト写本。

 それらを最悪の最悪まで想定し、今まで自ら見聞したその力の更に数倍を想定して、出来得る限りの準備をした後に、「彼或いは彼女」は覇道財閥に身を寄せ、そのサポートを受けながら、遂に背徳の獣の眼前に降り立った。

 

 ………………………

 

 振り向けば、背後には覇道鋼造とネクロノミコン:機械言語訳の乗るデモンベインが倒れている。

 既に満身創痍、破損していない場所を見つける事も出来ない。

 その中にいる魔術師と魔道書もまた、今にも力尽きかけていた。

 

 『…………。』

 

 降り立った黒い鬼械神アイオーン・リペアは眼前の深紅の鬼械神リベルレギスを見つめる。

 本来、アイオーンは魔を断つ剣の前身である、人の身には強力過ぎる鬼械神の筈だった。

 しかし、断片化した記述から修復されたアイオーン・リペアは本来肩から展開されるシャンタクが背面から展開し、無骨さの中に曲線のあった優美なデザインはより太く厚く、無骨さを全面に押し出したものへと変貌している。

 それは奇しくも悪しき竜と竜退治に向かう武者の様ですらあった。

 

 『ほう…。』

 

 負の極地たる黒の王、大導師、背徳の獣、マスターテリオン。

 その当の本人は、触れただけで死ぬ程の殺意を浴びながら、まるで出来の良い絵画でも見たかの様な声を上げた。

 

 『許す。先手はそちらに譲ろう。』

 

 途端、空間が爆砕した。

 

 『マスタァァァァァァァァァテリオォォォォォォォォォンッ!!』

 

 この世のありとあらゆる負の想念を詰め込んだかの様な叫びと共に、アイオーン・リペアは踏み込みと共に音速を超過、更に加速しながらリベルレギスへと肉迫し、その拳を突きだした。

 

 『ははははははッ!!良い!心地好い憎悪だぞ!』

 

 それをリベルレギスは苦も無く掌でそれを止める。

 だが、拳は一つだけではない。

 連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打…!

 防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御…!

 一分にも満たない時間で、千に届こうかと言う拳の全てを捌き切る。

 

 『そら、こちらからも仕掛けるぞ!』

 『ガァァァァァァァァァァッ!!』

 

 そして、リベルレギスもまた拳を放つ。

 アイオーンよりも強く、重く、速い拳の連打を、しかしアイオーンは更にラッシュを加速させ、己の拳をぶつける事で防ぎ、同時に攻撃を加速させる。

 連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打ッ!!

 相手の拳を己が拳で塗り潰す。

 相手の攻撃を己が攻撃で防ぐ。

 相手の殺意に己の殺意をぶつけ合う。

 

 『シィァッ!!』

 

 鋭い呼気と共に、アイオーンが均衡を崩した。

 上体を沈み込ませながら、足を払う形で鋭い蹴りが放たれる。

 

 『温いな。』

 

 だが、リベルレギスはアイオーンの足の分だけ浮かぶという最低限の動作でそれを回避する。

 そして隙だらけとなったアイオーンへと右の踵を振り下ろす。

 

 『舐めるな!』

 

 アイオーンは敢えて肩で戦斧の如く振り下ろされる踵を受け止め、次いで動きの止まったリベルレギスの足を圧し折るために横向きから拳を叩きつけ様と拳を振るう。

 だが、リベルレギスはそれよりも早く左の足をアイオーンの頭部へと叩き付けた。

 

 『温いと言ったぞ?』

 『がぁッ!?』

 

 余りの衝撃に頭部装甲がひび割れ、水銀の血液が飛び散った。

 が、その手はリベルレギスの足を手放す事は無く、次撃が来る前にアイオーンの拳がリベルレギスの膝に渾身の力で横殴り叩きつけられる。

 

 『ぐぅッ!』

 

 その拳の余りの威力に、リベルレギスの右膝が叩き壊れ、同時にアイオーンの拳も砕け散る。

 脚部が解放された事により、自由となったリベルレギスは脚部の修復を開始しながら宙へと飛び上がり、アイオーンもまた損傷個所を修復しながら再び立ち上がり、背面のシャンタクを広げる。

 

 『ヴーアの無敵の印において、力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよッ!』

 『死に雷の洗礼を。』

 

 アイオーンがその手に灼熱を纏う偃月刀を召喚せんとし、リベルレギスがその手に死の雷を呼び出すのはほぼ同時。

 

 『ABRAHADABRA!』

 『バルザイの偃月刀、過剰召喚!』

 

 リベルレギスより放たれた死の雷光は、しかし召喚された100本ものバルザイの偃月刀が宙を舞い、円盤の如く回転しながら殺到し、吹き散らされた。

 

 『超攻性防御結界!』

 

 次いで、それら全てがリベルレギスを串刺しにせんと猛禽の如く飛翔する。

 

 『ははははは!楽しませてくれる!』

 

 だが、リベルレギスの召喚した十字型の黄金の宝剣が眼にも映らぬ速さを以て、その全てを切り払った。

 

 『種は割れた。その術式、嘗て余が覇道を相手に使ったものだな?』

 

 マスターテリオンが上空からアイオーンを見下ろす。

 その声は実に愉快げであり、まるで幼子が新しい玩具を見つけた様な明るさと無邪気さを孕んでいた。

 嘗て、どれ程過去の事であったか既に定かではないが、リベルレギスの心臓部である魔術機関エンジンの主要部「マナウス神像」が覇道鋼造に奪取され、デモンベインに搭載された事があった。

 その際に心臓部を欠いたリベルレギスはこの反転術式を用いて、二つの心臓を持つデモンベインから自らの魔力を奪い返していたのだ。

 結果的に、その回は当時のマスター・オブ・ネクロノミコンとマスターテリオンによる千日手となり、邪神が無かった事にしてしまったのだが…それを覚えている者は少数だが存在する。

 一つ目は管理者たる邪神。

 二つ目は黒の王とその魔道書。

 三つ目は魔を断つ剣そのもの。

 そして四つ目、外側からそれを観測し得た「彼或いは彼女」。

 

 『それに、この改訂は妖蛆の秘密のそれに近い。成る程、余の術式を基礎に魔力の反転と暴食を行えば、確かにその鬼械神でも余に太刀打ちできよう。成る程、悪くない。奴が言っていた存在がここまで成長するとは。だがな…』

 

 リベルレギスの手に、黄金の弓が召喚される。

 

 『これはどうだ?』

 

 黄金の宝剣が矢として放たれる。

 それは狙い違わずアイオーンの額へと突き進み、しかし、それよりも前に主の危機を察した偃月刀が殺到、幾重もの防壁を形成する。

 だが、黄金の矢はそれら全てを貫通し、アイオーンの額を貫かんとしたが、僅かに減速したためにアイオーンが首を傾けて回避に成功し、薄く装甲を削るに留まった。

 

 『今のは余の魔力のみで構成かれたもの。故に貴公の術式は意味を成さぬ。』

 『ごちゃごちゃと、随分お喋りが好きだな。』

 『ん?』

 

 アイオーンの手元に、割れて砕けた偃月刀の全てが集う。

 それらは圧縮し、凝縮し、統合され、一本の偃月刀へと変じる。

 しかし、その威圧感と大きさたるや先程の数打の比ではなく、アイオーンの全長に匹敵する斬馬刀と化していた。

 

 『御託は良い。』

 

 アイオーンが大偃月刀を肩に担ぐ形で天を仰ぐ。

 その姿からは絶望も、恐怖も、諦観も感じられない。

 ただただ眼前の邪悪を屠らんとする意志のみが感じれる。

 

 『掛かって来い化け物!Hurry、Hurry!』

 『は』

 

 瞬間、リベルレギスから魔力が噴出した。

 

 『ははははハハははははははははははハはははははッ!!!』

 

 狂気、狂喜、驚喜。

 触れればそれだけで狂死する程の魔力。

 あらゆる負の感情が綯い交ぜになった、マスターテリオンただ一人による魔力が全方位へと放たれていた。

 

 『まだ、まだいたか!貴公の様な者がまだいたのか!ク、ははハハははははハハはははッ!!』

 

 噴き出す魔力が一点に収束し、再度リベルレギスの手に黄金の宝剣が出現する。

 

 『ならば見事この首を獲って魅せよ、人間ッ!!』

 『おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 両雄が空を、地を蹴り、その中間点で衝突した。

 

 『EYAYAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』

 『があああああああああああああああ!』

 

 空を駆けながら、斬撃に次ぐ斬撃が放たれる。

 既に剣速は音を超え、その衝突により、周辺の大気も雲も、気体は残らず吹き散らされ、真空に限り無く近くなり、音すらも途絶える。

 斬撃を通し、不可視の魔力が相手に飛び散り、斬撃となって襲い掛かる。

 互いが互いに斬撃の余波だけで傷だらけになりながら、しかし、決定打となる事は無い。

 火花ではなく爆発を合図として、互いが互いを蹴り合い、一瞬だけ距離が開く。

 

 『シィッ!』

 『ぜぇあ!』

 

 互いが武器を召喚する間すら惜しみ、手元の武器を投擲する。

 そして、それらが砕け散る寸前、既に手元には新たな武器が握られていた。

 

 『天狼星の弓よ!』

 『呪法螺旋、神銃形態!』

 

 次いで、核弾頭すら超える大爆発が中間点で発生し、両雄を包んだ。

 

 

 ………………………

 

 

 意識が現世に復帰する。

 即座に周辺状況の確認を開始。

 

 ≪魔力量…残47%

  機体状況…装甲51%破損。性能低下32%

  身体状況…大丈夫大丈夫まだ逝ける逝ける≫ 

 

 何もかもが消えた荒野の中で、瓦礫に埋もれていたアイオーン・リペアが再び立ち上がる。

 その姿は前身ボロボロであり、最早満身創痍と言える。

 

 『修復術式を起動。索敵開始。』

 

 言葉と共に、機体の中心から末端にまで波紋の様に魔力が走り、損傷部分から装甲が螺子が歯車がシリンダーがワイヤーが生え出し、元々そうであったかの様に機体を形作っていく。

 アイオーンが立つのはもう何も無い筈の荒野。

 だが、その中で「彼」には確かに悪意が、殺意が募っていくのが解っていた。

 

 『そこぉッ!!』

 

 抜き打ちの如く召喚されたマシンガンが、虚空を貫く。否、砕く。

 

 『ン=カイの闇よ!』

 

 虚空を砕きながら現れたリベルレギスが、漆黒の重力球を周辺に漂わせながら突撃する。

 重力球もリベルレギスも、共に無視するには危険度が高過ぎる上、既に回避は不可能だ。

 だから

 

 『ぶっ飛べ!』

 

 マシンガンの構成が掻き消され、6連装チェインガン2基が姿を現す。

 毎分1万発のイブン・ガズィの粉薬を採用した特製弾丸が吹き荒れた。

 

 『EYAYAAYAYAAaaaaaaaaaaッ!!』

 

 圧倒的物量により重力球は掻き消されるが、リベルレギスは全身に銃弾を受けながら、しかし、その度に驚異的な回復をしながら突撃を続行、その両の爪を以てアイオーンへ襲い掛かる。

 

 『ッ!』

 

 咄嗟にガトリング砲を身代わりにする。

 切り裂かれ、飛び散る部品に構わず、今度はアイオーンが突っかけた。

 

 『破ぁ!』

 『シャァ!』

 

 至近距離で拳と拳、蹴りと蹴り、頭突きと頭突き、体当たりと体当たりが繰り返される。

 元より互いが長期戦が出来ない現状、一撃でも致命打を与えた方が勝ちとなる。

 これ以上消耗すれば、互いに続行は出来ない。

 それが解っているからこそ、熾烈な攻撃の応酬となる。

 十、五十、百、千、万…。

 打撃が打撃を呼び、時折カウンターや受け、反らしが混じる中、幾星霜と死闘は続いていき…互いの右拳が正面から衝突し、莫大な衝撃が空間を走ると共に、片方の拳が砕け散った。

 

 『がはぁッ!?』

 『があああッ!!』

 

 先に膝を突いたのは、満身創痍のアイオーン・リペアだった。

 

 『ぐ、ぎぃ、…ッ!』

 

 元より術者殺しの異名を持つアイオーンの系譜。

 一度実力が同等かそれ以上の相手と根競べとなってしまっては、魂喰らいの主機関アルハザードのランプでは持久力に乏しい。

 そして、その相手が彼の背徳の獣では、短時間に攻め切れなかった時点で敗北は決していた。

 

 『は、はははははは…。これが、これが痛み…闘争か!ははは、随分と久しいものだ!あはははははははははははははははッ!』

 

 眼前で満身創痍で膝を突くアイオーンを前に、マスターテリオンが高らかに嗤う。

 

 『マスター…テリオン…ッ!』

 

 砕けた右腕もそのままに、なおも立ち上がろうとするアイオーン。

 しかし、その動きは弱弱しく、最早まともに動く事すら出来なかった。

 

 『貴公はよく戦った。余に、このマスターテリオンを相手に一歩も引かずに戦い、此処まで追い込んだのだ。』

 

 その言葉通り、リベルレギスもまた満身創痍だった。

 竜の翼は片側が引き千切れ、全身の装甲は削られ、抉られ、罅割れ、最後の一撃を見舞った右腕は歪み、装甲が弾け飛んで内部構造が剥き出しになっていた。

 

 『故にこのリベルレギスの最大奥義を以て、貴公との戦いを幕とするとしよう。』

 

 大破寸前のリベルレギスの右腕へ、まるで闇黒の太陽を思わせるかの様な負の無限熱量が集っていく。

 右の手刀が抜き手の構えを取り、弓の弦の様に引き絞られる。

 それは絶対零度の手刀、デモンベインのレムリア・インパクトと対を成す必滅の一撃。

 

 『ハイパーボリアァァ…!』

 『ミードセット、再起動完了。』

 

 いざ止めという瞬間、再起動を知らせる合成音声と共にアイオーンの身体に再び力が戻った。

 

 (動けて30秒、その前に…!)

 

 アイオーンが特攻する。

 目指すのはリベルレギス、その心臓部。

 マスターテリオンがいるコクピット。

 

 『ゼロドライブッ!!』

 

 だが、必滅の一撃は止まらない。

 微塵の動揺も見せずに、絶対零度の手刀がアイオーンを貫かんと迫る。

 

 『全装甲強制排除、防御結界始動!』

 

 アイオーンの全ての装甲が排除され、その構成を後先考えず防御のためだけのものへと変質させる。

 それは眼前に迫る滅びを防ぐ事は出来なかったが、その勢いを減じさせ、アイオーンが踏み込むだけの刹那を稼いだ。

 だが悲しいかな、その刹那は遅れて到達した手刀がアイオーンの腹部に突き込まれた事で無為となった

 

 『まだだぁッ!!』

 

 筈だった。

 アイオーンの頭部が滅びゆく胴体から分離し、山犬の如くリベルレギスの胸部へと喰らいついた。

 

 『貴様ぁッ!?』

 

 破損した装甲では、如何にリベルレギスと言えど耐える事は出来ず、コクピットが完全に露出した。

 

 『マスタァァァァァァァァァァテリオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!』

 

 そして、奇襲はまだ終わらない。

 アイオーンの頭部が維持出来ずに消滅し、次いで残された魔導師がバルザイの偃月刀を握り、咆哮と共に死力を尽くしてマスターテリオンへと特攻する。

 

 「マスター!」

 

 エセルドレーダが瞬時に反応し、主を守るべく防御陣を展開する。

 敵を寄せ付けぬ強固な守りは、しかし、振り下ろされた偃月刀に甲高い音と共に叩き割られる。

 そして、遂に刃がマスターテリオンへと到達した。

 

 「見事だ。」

 

 だが、それだけだった。

 「彼」にはそこまでが限界だった。

 全身の穴という穴から血を流し、黒かった筈の瞳と髪は老人の如く白く濁り、青年故の張りがあったその肌は砂漠よりもなお潤いを無くしていた。

 彼の振るった最後の刃は防御陣を切り裂き、マスターテリオンの肩口に食い込んだ。

 だが、そこまでだった。

 彼の命を奪うべく、最後まで振り抜くための力は、もう残されていなかった。

 彼は、既に死んでいた。

 

 「マスター、直ぐに治療を。」

 「良い。」

 

 マスターテリオンはゆっくりとした動作で肩に食い込んだ偃月刀に触れた。

 たったそれだけで偃月刀は砕けて消え、刃を失った傷口からは鮮血が吹き出た。

 

 「マスター!?」

 「良い。構わぬ。」

 

 微生物すら存在しない荒野の中、マスターテリオンはただ見つめていた。

 2人の血に塗れた敵の亡き骸。

 それにはもう既に魂は無く、単なる死体に過ぎない。

 それでも、初めて己の喉元へと迫った敵に、マスターテリオンは奇妙な感情を抱いていた。

 

 「此度は余が勝った。故に、次もまた余が勝つ。貴公の挑戦を待っているぞ。」

 

 それは彼が、七頭十角の獣が、背徳の獣が、666の獣が、初めて誰かに誓った事だった。

 

 一方的なものだったが、それは確かに「約束」だった。

 

 

 

 

 




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 わっつはぷん?

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