助けて旧神様!(旧題クラインの壺ナウ)   作:VISP

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今回は急展開につき、色々と注意。



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……………ちょっと縄と程良い高さの枝を探してきます。



第五話 遂に終盤

 10億回位?

 

 最近、デモンベインが漸く完成した。

 いやね、原作の最後の回ですら、武装面の術式が未整理だったからさ。

 どうせならちゃんと完成させようかと思って、久しぶりにエイダ夫人の所で頑張ってきたんだよ。

 既にハード部分は完全に完成し、術式部分も自分がアイオーンを参考に手を入れて、更に地味に素材を最新のものへと換装して、完成度110%程度にまで引き上げた。

 

 今後の改修プランとして、自分が対マスターテリオン戦でやった様に、黄金の蜂蜜酒を使用した燃料式魔力機関とアルハザードのランプ(リミッター付き)を搭載する予定だ。

 シミュレーションでは、重量はやや増すものの、出力が跳ね上がる見通しだ。

 元々銀鍵守護神機関で安定して大出力を出せるのに手を加えたので、嘗て存在したマナウス神像内蔵式程ではないものの、かなり強化される。

 主に主機関が停止又は出力が上がらない場合を始めとした緊急時に作動する様にされており、全てを併用した場合、出力が180%まで高まるし、平時でも出力の安定性が跳ね上がる。

 とは言え、リミッター付きとは言えアイオーン(術者殺し)とアンブロシウス(燃料切れ)それぞれの欠点も引き継いでいるので、痛し痒しだが。

 また、出力伝達系が焼き切れる可能性も出てきたので、こちらも素材開発を促進して、順次交換していく必要があるだろう。

 

 さて、自分の方はと言うと、漸く完成した魔道書「泥神礼賛」の精霊たるアーリと共にブラックロッジと覇道財閥を生き来している。

 転生する時代にもよるが、必ずどちらかに味方して、鬼械神による戦闘を幾度も経験している。

 時折ミスカトニックの陰秘学科に所属し、シュリュズべリィと行動を共にし、邪神眷属の住処を不毛の土地にする事もあるが、概ねそんな日々を過ごしている。

 これは鬼械神の稼働データを収集し、それを反映してはまた稼働データを集める事を繰り返すためのもので、既に成長が頭打ちである自分としては、自分を除いた周囲のものを強化していくしか強くなる事はできない。

 

 実際、ワダツミの成長は順調で、既にほぼ全身に渡って改造が行われている。 

 現在、デザインがクシャトリヤから、何故かアイオーン臭がする盾4枚のクイン・マンサになった。

 なお、サイズはネームレスワンとほぼ同じ=約300mである。

 更にキュ○レイ式ファ○ネルコンテナには大量のスターヴァンパイアを召喚するための呪文が刻印されており、100本の触手と合わせ、数十の不可視の攻撃が相手に襲い掛かる事になる。

 主機関はネームレスワン同様魔術機関エンジンとアイオーン・リペアの複合式を採用しているが、その他にもスターヴァンパイアによる吸血を通した魔力吸収、妖蛆の秘密の記述による周辺からの暴食による回復も可能であり、継戦能力は最も高い鬼械神と言える。

 …なんでそこまで継戦能力高いのかと言うと、アイオーンのアルハザードのランプがトラウマになっているからである。

 もーあんなギャリギャリ削り取られるのはマジで勘弁なのだ。

 なお、同型機というか兄弟機に当たるネームレスワンに対し、攻撃力と最大出力は譲るがそれ以外の面、先程言及した継戦能力と手数、防御力と機動性に関しては上回っている。

 

 ちなみに、これを見たマスターテリオンが「気に入った。戯れようか。」と言って、いきなりリベルレギス召喚からのガチバトルが始まったのはつい数回程前の事。

 夢幻心母所か、アーカムシティまで灰燼に帰する程の機神大戦に、更にデモンベインも参戦。

 「あ、これはあかん」となった所でニャルさんが巻き戻して無かった事にした。

 「暴れるなら他に迷惑のかからない場所にしなさい」と何か禍々しい石碑を抱きながらの説教に全私が泣いた。

 なお、大導師は「これが石抱きというものか」とか言って楽しんでた。化け物め。

 エセルドレーダはおろおろして、我が魔道書はゲラゲラ笑ってやがった。後で同じ目に合わせてやった。

 ザマァwww

 

 

 

 もう数えなくて良いんじゃない?回

 

 

 流石に、飽きてきた…。

 が、何とかデモンベインの改修プランを完遂する事が出来た。

 ドクターを積極的に覇道に亡命させ続けた甲斐があった。

 …おかげで、デモンベインの右腕に結界を角錐状に展開、回転させる事で威力を増すドリルパンチ的なものが追加されてしまったのはどうしようか…?

 その威力たるや、貫通力だけならレムリア・インパクトを超え、完全復活状態のダゴンの甲殻を一撃で貫通した程だった。

 この一件については、流石のニャルも僅かな間だが絶句していた。

 流石ドクター、邪神すら絶句させる程のキ○○イっぷりに痺れるけど憧れないぜ!

 

 なお、マスターテリオンは新武装の威力にちょっと満足げでした。

 

 あ、ネロとアーリは爆笑してました。

 

 

 

 前回から大体4億回位の回

 

 いかん、そろそろ限界かもしれん。

 うっかり邪神相手に同衾しても悦ぶだけで怒らないとか……摩耗がかなり限界まで来ている証拠だ。

 元々生粋の魔人たるマスターテリオンとネロ、そして精神構造の異なる魔道書組と比べると、自分の精神はそう頑丈なものではない。

 否、はっきり言って脆弱だ。

 あっちこっちに転生して、常に未体験の刺激に囲まれていたからこそ、ここまで持ったのだ。

 しかし、現在はネロの姉(先行試作型)か人間(男女)の3パターンのみで、嘗ての様な刺激は随分と少なくなってしまった。

 

 最早是非も無し。

 記憶を消そう。

 

 幸いにも既にアーリという魔道書がいるので、もしもの時のバックアップはそちらに取っておける。

 必要な時はそちらから記憶を取り戻し、肉体も魔力で構成された疑似的なものだけでなく、異相空間にクローンボディを用意しておけば、もしもの時でも全力で戦える。

 以前からプランとして温めておいたが、邪神からしても呆れる位遠くの出来事なんて、今のままでは絶対に到達できない。

 どうせだから魂のレベルにもリミッターを設けて、以前の様にあちこち色々な種族として転生するとしよう。

 幸い、クローンボディの作成自体はウェスパシアヌスから盗み見ているので、施設さえあれば直ぐに作成に入れる。

 バックアップに関しても、検閲を免れるために普段から魔道書に取っておいたから大丈夫だろう。

 

 では、こっちにいるネロにちょっと挨拶してから逝くとしようか。

 

 

 

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 桁を数えるのが面倒な回

 

 久々に記憶が戻った。

 今回はなんとシスター・ライカの保護する4人目の孤児として教会で暮らしていた。

 元気一杯のジョージとコリン、控えめなアリスン、そして無表情不思議系のリーア。

 これがこの回での孤児達のメンバーだった。

 

 今回は特に何かする訳でもなかったのだが、うっかり猫を追ってネクロノミコンの断片の一つであるロイガー&ツアールに見つかって襲われてしまい、それに対処するために記憶が戻ったらしい。

 なお、既にロイガー&ツアールは撃破され、ページに戻っていた。

 

 「別に起こさなくても貴方で対処できた。」

 「そーは言ってもね、こっちは暇で暇で。のんびりボケボケやってる御主人様にちょっとした刺激をと思ったんだ。」

 「余計なお世話。とっとと戻「リーア、大丈夫か!?」

 

 貧乏探偵&ロリババァ魔道書が到着してしまった。Oh…。

 さらば、のんびりな孤児生活。

 こんにちは、びっくりどっきりな魔導師生活。

 

 その後、この回では孤児としての生活の傍ら、表向き?には九郎とアル=アジフ、アーリに魔術を師事する事となった。

 魔道書との契約はアーリに「以前から狙ってたら、絶好のタイミングを発見したので契約した」という事にした。

 あ、アル=アジフが冷や汗流しながら目を反らしてる。

 九郎の時間のある時は、本人の訓練と共に座学中心で3人から習うのだが、意外と九郎が教えるのが上手い。

 流石は元インテリ枠である。

 

 なお、この回はライカルートであったらしく、2人は何時の間にか恋人関係だったのだが、自分とアーリ、アル=アジフに囲まれているのを見て、九郎が真性のロリコンではないかと疑惑の視線を向けていた。

 

 最後、街を襲うダゴン相手に術衣形態で無双するも、最終的にリベルレギスを駆るサンダルフォンに討ち取られた。

 まぁ外見似てるから、発狂状態じゃ同型と考えるのは仕方ないわな。

 

 

 

 実はカウントされてて現在「京」=10の12乗目回

 

 

 今回は特に危険の無い覇道財閥所属の警備員(男)だったのだが、アーリが無理矢理起こした。

 本人が爆笑していて答えられないのでちょっと「眼」を凝らして見ると……ふぁッ!?

 

 なんと、大十字九郎がハーレム作ってた。

 

 これは何気にびっくりの結果だった。

 あの男は回毎に別の人と付き合う事はあっても、二股かけられるだけの甲斐性も器用さも無いので、こんな事は無いと思っていたのに…。

 どうも、アル=アジフ、ライカ、瑠璃の女性陣が自分の気持ちを打ち明けた後、誰も傷つかない方法として、瑠璃が「ハーレム宣言」をかました。

 無論、九郎は抵抗したが、3人がかりのハニートラップに流された。

結果、九郎はあちこちに国籍を持つ様になり、それぞれ別の国籍で別の女性と結婚していた。

 何気にアル=アジフを除いた2人が妊娠していたので超絶ビックリだった。

 

 

 

 遂に垓=10の20乗回に突入

 

 

 今回も爆笑するアーリを見て、思い出す。

 今回はアーカム在住の一般市民だが。何があったん何と思って探したら、直ぐに解った。

 

 何と、登場人物全員が 性転換 していた。

 

 もしやと思って夢幻心母に突撃したら、マスターテリオンとエセルドレーダ、ネロはそのままだった。

 ナイアは何処かと思ったが、クラインの壺の点検に出たそうな。

 後、マスターテリオンが「ちょっと大十字九郎もとい九清(女)と【交尾】してきた。」とか言ってきたので、ついつい過激な突っ込みをしてしまった。

 夢幻心母を揺れて、ドクターの研究室が崩落したが、まぁ大丈夫だろう。

 

 「何故そんな事をした!言え!」

 「別に特別な事ではない。恋人や親しい者を殺すか、身体を凌辱すると、大十字九郎はより奮起するからな。この方が都合が良いのだ。ちなみに処女だったぞ。」

 「そんな情報いらねぇ!?んで後ろ!後ろでエセルドレーダが血涙流してるだろ!もうちょい気遣ってやれよ!」

 「ふむ、ではエセルドレーダよ。余の膝の上に座れ。」

 「そ、そんな!?畏れ多いですマスター!」

 「よい、許す。」

 「…では、その、失礼して…。」

 

 「あれ?私、久しぶりに会ったのに空気?」

 「マスター、深く考えてると禿げるよ。」

 「そーそー、気にしない気にしない。んじゃ久しぶりにネロと遊ぼーよー。」

 「アーリ、お前が禿げろ。エンネアはありがとう、スマ○ラで良い?」

 

 取り敢えず、カオス過ぎる回でした、うん。

 

 私は見なかったんだ…。

 責任取れー!とか涙目で叫ぶマスター・オブ・ネクロノミコンとか、欲するのならば余を奪ってみせよ!とかのたまう獣とか、マスターは渡さない!とか吠える最古の魔道書とか、そんな荒唐無稽な痴話喧嘩なんて見なかったんだ、うん。

 

 

 

 桁?そんなの関係ねぇ!な回

 

 

 今回も爆笑するアーリに起こされた。

 今回の自分はエルザ女史の歳の離れた妹であり、身寄りが無い所をドクターが拾ったという経緯でブラックロッジに身を寄せていた。

 此処までは何度かあった事なので重要ではない。

 で、何が起こったかと言うと…

 

 破壊ロボの性能が上位鬼械神に迫る程にまで向上していた。

 その性能たるや、タイマンでレガシー・オブ・ゴールドを撃破しかねなかった。

 

 え、マジ何が起こったん?

 詳しく思い出してみると、魔術に適性がある事を知り、独学で研究していた自分がドクターの下に引き取られてからというもの、魔術を科学的に解明できないか色々と試行錯誤したらしい。

 そうして生まれた相当数のオーパーツ染みた各種技術が開発され、破壊ロボに組み込んでは撃破され、開発して組み込んでは撃破され……そんな日々が続いた。

 この当時生まれた技術として、モース硬度13の装甲材とか、完全ジェットエンジンとか、レールガンだとか、量子演算CPUの基礎理論だとか、極めつけが7体合体!最終無敵破壊ロボの図面だとかがあり、カオスの産物が日夜生み出されていた。

 結果、そんな日々の中で無意識の内に自分の持つ鬼械神改修の知識を引き出してしまったらしく、妖蛆の秘密の魔力収奪刻印が刻まれた破壊ロボが完成した。

 既に単純な工業製品としての性能においてはデモンベインに比肩し得る破壊ロボが、遂に魔への抵抗力と攻撃力を備えた結果、ちょっとヤバい位のジョグレス進化を起こしたのだった。

 更に、数度のデモンベインとの戦闘で改良点がはっきりした事で、既に次なる改修が始まっているとか…。

 

 「…今回、大丈夫かな?」

 「良いんでない?どうせマスターテリオンには敵わないんだし。」

 

 最終的にはデモンベインの修復費が平均の倍程度かかっただけで済んだ。

 ……頑張れ覇道財閥!世界の命運は君達にかかっている!(目反らし

 

 

 

 おかしいな?桁の終わりが見えない…回

 

 

 そろそろ終わりが見えてきた。

 今回、デモンベインは本当のギリギリの所まで、リベルレギスを追い込んだ。

 何気に左腕部に内蔵された対装甲破壊兵器「シールドピアース」が大活躍で驚いた。

 また、地力で未だに勝るマスターテリオン相手に、全機関を最大稼働して一時的とは言え圧倒するだけの技量も身に付いていた。

 しかし、後一歩と言う所で、2機は大気圏に突入し、アル=アジフは死んで紀元前へ、大破したデモンベインと大十次九郎は19世紀へとそれぞれ飛ばされた。

 恐らく、遅くてもう10回、速くてもう1回で、この無限螺旋は終わる。

 その時、本当に白の王が、魔を断つ剣が勝てるのか…それはまだ、解らない。

 

 ……………………………

 

 「この劇も間も無く幕引きか…。」

 「本当に長かったよ、ボク達からしてもね。」

 「名残惜しかったりする?」

 「そうだね。でも、終わった後の事を考えると凄くゾクゾクするよ。」

 

 生物が存在しえない筈の宇宙空間で、ニ体の存在が地球を見下ろしている。

 片や無限の螺旋に捕らわれた者、彼或いは彼女、物語の傍観者。

 片や無限の螺旋の管理者、燃える三眼、這い寄る混沌。

 共に女子供の形をしていても、既にその存在は人類の叡智を以てしても計り知れないモノだった。

 

 「さて、偶にはお茶でもどうかなお嬢さん?」

 「どういう風の吹きまわし?」

 「ふふふ、それも含めて色々話そうよ。」

 「…落ち着ける場所でね。」

 「お任せあれ♪」

 

 パチン、と混沌が指を鳴らすと同時、周囲の空間は鬱蒼と生い茂る森の中に設置されたお茶会の会場へと変化していた。

 

 「アリスのお茶会。皮肉のつもり?」

 「私らにとっちゃ、これ程合うお茶会も無いんじゃないでしょうかねぇ?」

 

 アリスのお茶会。またの名をマッドネス・ティーパーティー。

 不思議に国のアリスに登場する、三月ウサギ、帽子屋、眠りネズミが開いている終わらないお茶会の事で、狂気の代名詞としても用いられる。

 何時の間にか、混沌の姿が褐色肌の侍女のそれへと変化し、見事な手つきで紅茶を2人分淹れていた。

 

 「それで、話とは?」

 「君がこの私の壺へ入り、随分と時が経った。そして、最初とは見違える程に君は成長した。」

 

 次に混沌が変化したのは褐色肌の神父。

 地球皇帝アウグスティウス、否、ナイ神父だ。

 

 「白の王、黒の王…人類の正と負の極地が成長する傍らで、君もまた人類の極地の一つとして成長した。言うなれば灰の王、中庸の、混沌の極地として。」

 「そんな自覚は無かったけど…それに、私は振り切れていないからこそ、あの2人には勝てない。」

 「それは相性の様なものだ。それに、あの二人に決して負けぬという点では、君もまた同じ場所に立っていると言えよう。」

 「………………。」

 

 紅茶を飲みながら、思考を加速させていく。

 灰の王、人類の中庸の極地。

 そこから導き出される、この混沌が考えそうな最悪のパターンを導き出そうとする。

 

 「褒めちぎるだけが用?」

 「いや。大事な用があるとも。」

 

 神父の顔が突如湧き出た闇黒へと飲み込まれる。

 そこから炎と共に三つの目が浮かび上がる。

 闇黒の中で燃える三眼。

 見る者全てが畏怖し、恐怖し、絶望する無貌の邪神。

 

 「私は求めていた。このままでは他の私同様、この私も敗れると。最も新しき旧き神の手は、私の予想を遥かに超えていた。次で終わるであろうこの無限螺旋においてもそれは同様。だからこそ、私は奴らの策を潰すため、ある仕掛けを用意した。」

 

 闇が広がる。一切の光を通さぬ闇が、視界全てを覆い尽くしていく。

 鬱蒼と生い茂っていた森からこちらを見つめていた不気味な生物達は残らず逃げ去り、尋常ならざる存在達の気配が濃厚に香り、夜鷹の喧しい声が夜の静寂を引き裂いていく。

 

 「神を殺すのは何時も人間である。それがために私は白の王と黒の王を作り上げた…。だが、それは奴らにとっても同じ。奴らを倒すのは私ではない。人間でなくてはならない。」

 

 余りにも圧倒的な瘴気に、森に住まう全ての生き物が逃げ出していく。

 だが、瞬間的に広まった瘴気に、多くの者は逃げ出す事も敵わず、その場で絶命した。

 

 「私では無理なら、他の誰かに任せれば良い。私は極簡単な結論と共に、君が育つのを今の今まで見守ってきた。」

 「待て。」

 

 その言葉が示す内容に、全身が総毛立った。

 視界が歪み、体温が消失し、地面の感触が消え失せる。

 それは、それはつまり

 

 「そう、君もまた私と同じ。千の無貌たる我の分霊、その落とし仔なのだよ。」

 「出鱈目を言うなッ!!」

 

 魔力が吹き荒れ、無意識に編まれた暴食の魔術が空間を駆け廻る。

 

 「おかしいと思わなかったかね?」

 

 闇黒がまるで幼子を諭すかの様に囁きかける。

 聞いてはいけない聞いてはいけない聞いてはいけない!

 これを聞いてしまっては戻れなくなる!

 そんな本能の警鐘は、しかし、意志から離れた身体によって阻止されてしまう。

 

 「普通の魂では己と全く異なる存在への転生など耐え切れん。でなければ白の王を大十次九郎に限定する必要すらなかった。全く異なる時代と地域で、あちらこちらに転生させても良かったのではないかね?」

 

 「魔術に対しても、自分の予想以上に馴染んだとは思わないかね?しかも、途中で巻き込まれた筈の君が、大十次九郎よりも先に成長限界に至ったのは何故だ?」

 

 「マスターテリオンに、暴君ネロに親しみを感じていたのは何故だ?君と同じ、邪神の血族である彼らに同族意識を抱いていたのではないかね?」

 

 「そして、君がただの人間だった頃。常日頃から父親に会いたいと願っていたのではないかね?母親よりも自らに近く、偉大なる存在である父に。」

 

 まるで猛毒の様に、言葉が染み込んでくる。

 その声が耳朶に届くだけで、脳髄が痺れ、機能を果たさなくなる。

 

 「理解したか? さぁ、我が子よ。父の下へ来るのだ。」

 

 足が独りでに動き出す。

 闇の中の闇へ、黒の中の黒へ、闇黒の中の闇黒へ。

 その深奥で燃え盛る三眼の下へと。

 

 「今こそ、お前の枷を解き放とう。さすれば、お前は人間としての性を持ちながら、しかし、背徳の獣に並ぶ半神として新たに生を受けるのだ。」

 

 ゆっくりと、身体が深奥へと飲み込まれていく。

 何処か暖かに感じる、夜の暗闇に似た所へ。

 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと…。

 

 やがて、脳裏に過去の風景が蘇っていく。

 

 目茶苦茶強くなった破壊ロボ。

 TSした大十次九郎。

 ハーレム作った大十次九郎。

 マリカーどころかマリパー全部を新記録で塗り固めたマスターテリオン。

 山盛りのホットケーキを喰い尽くさんとするエンネア。

 

 記憶が更に遡る。

 

 深海を夢幻の様に彷徨いながら生きるダゴン。

 暗い地底で仲間達と肌を暖め合いながら暮らす大地の妖蛆。

 南極の狂気山脈に潜む不定形生命体ショゴス。

 潮臭い海辺で、一心不乱に祈りを捧げる深き者共。

 

 更に更に更に遡る。

 

 そこは平和な場所だった。

 自分が始まった場所だった。

 父はおらず、母と二人っきりの家庭。

 苦労は多かったが、それでも暖かだった。

 

 どれも本当だ。

 本当の自分だ。

 本当に?

 混沌の性を持つボクらは、一度それに変ずればそれの性を得る。

 本当に、これらは真実の君だったのかい?

 

 更に更に更に更に更に更に更に更に更にさらにさらにさらにSARANISARANIsarannnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn…

 

 そこは七つの太陽があった。

 そこには宮殿があった。

 そこには黄ばんだ粘体があった。

 粘体は一度たりとも同じ形を取らず、常に何かへと変形しながら、触れた物体を無機有機問わずに腐食させながら、何処かへと分裂した個体を送りだしている。

 その一つが星の海を渡り、遠き果ての太陽系の地球へと至り、あるヒトの女の胎へと宿った。

 

 『理解したか?では始めよう。』

 「断る。」

 「イア・クトゥグア!」

 

 暗闇の中で、炎が灯る。

 それは怒りの炎だった。

 怒りの炎が獣の形を取り、闇へと躍りかかった。

 

 『な、にぃぃぃぃッ!?』

 

 混沌が叫ぶ。

 驚愕と憤怒、憎悪を込めて、名状し難き叫びを上げる。

 

 『何故だ!確かに解放は成った!貴様は我が眷属へと堕ちる筈だ!!』

 「幾星霜と放置しておいて、今更父親面をされても困るんだよ。」

 

 混沌の叫びへの返事は、そんなものだった。

 極当たり前の、疎遠な親子の会話。

 

 「それに、昔から決めていたんだ。」

 

 親指の腹を噛みちぎり、その血を大地へと垂らす。

 

 「母さんを苦労させた馬鹿親父を、何時か必ずぶん殴るってなぁッ!イア・ツァトゥグア!!」

 

 信者の呼び声に、地の邪神がその力を貸し与える。

 大地が隆起し、巨大な獣の姿となって、闇黒へと突っ込んでいく。

 

 『は、はハハはハハははははハハはははは!!』

 

 だが、闇黒から出現した膨大な水が津波となって巨獣をただの土くれの如く押し流す。

 

 『貴様もか。貴様も我が思惑を超えていくか。』

 「親は子に超えられるもの。常識だ。」

 『あぁ、そうだとも。だがまだまだ甘い。これでは落第だ。』

 

 途端、リーアの視界が揺れた。

 

 「な、に、を…!」

 『何時ぞやだったか。摩耗したとは言え、私と臥所を共にする等、些か以上に無防備であったのではないかね?』

 

 それが意味する事に、顔から血の気が引いていった。

 

 「ま、さか…!?」

 『君の胎には、既に次なる我が仔が宿っている。君を無くすのは惜しいが、代わりは既にいる。さらばだ、我が仔よ。次はより強く、より従順で、より邪悪な仔が生れよう。』

 

 ボン、と腹が急激に膨張した。

 本来1年近くかけて膨らむ筈が、一瞬でなった事により、腹の皮膚が一気に裂け、鮮血が飛び散る。

 

 「が、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?!!!??!!!」

 

 絶叫が響き渡る。

 みちみちみちみちみちみちみちみちみち、と音を立てて腹が裂けていく。

 

 『はハハははははハハはハハはははは!!さぁ生まれ出でよ我が子よ!その生誕を祝い、その命を愛そうではないか!はははハハはハハはははは!』

 

 冒涜的なまでに白い手が2本、腹から突き出てきた。

 その手は外気に触れたためか、一瞬だけ戦慄いた後に、突き破った腹を左右に広げた。

 広げられた腹は当たり前の様に引き裂かれた。

 裂け目は腹だけでなく、頭から股下まで達し、母体を一瞬で肉塊へと変貌させた。

 物理法則を超越する形で生まれたのは、未だ幼い少年だった。

 銀の髪に銀の瞳、白磁の肌、そして血に塗れてなお霞まぬ、母親に似た少女と見紛う程の妖艶な美貌。

 ただ人間と異なるのは、その背にそれぞれ一本ずつ猛禽が如き翼と竜が如き翼を備えている事だ。

 

 『さぁ、我が子よ。父の下へ来るのだ。』

 

 何も知らない無垢な幼子は、父を名乗る闇黒へと一歩踏み出す。

 何に抗うべきかを知らぬ無垢なる赤子では、邪神の誘惑を振り切る事は出来ない。

 だから

 

 「させるかよ、このDV親父。」

 

 幼子には必ず保護者が付いている。

 血塗れの赤子の回りを宙から現れた魔道書がページへと解けて舞う。

 やがてページの紙吹雪が一つとなり、少女の姿へと結実する。

 

 「この子の親権は私達が主張する。長年育児放棄した挙句に養育費も払わず、嫁さんを放置したテメェに親たる資格は無い。」

 『ハハはハハ、ならばどうするのかね?』

 「取り敢えずこうする。」

 

 魔道書「泥神礼賛」の精霊、アーリが空間を叩き割る。

 まるで硝子細工の様に砕けた空間の隙間から、1人の少女が降り立つ。

 

 「はい、お母さんですよ。」

 

 予備の身体を用いて、彼女は今一度我が子の前へと降り立った。

 

 「お   ぁ   ん」

 「うん、お母さんだよ。後でたくさんお話しようね。」

 

 身長差も、外見的な年齢の差も殆どない。

 片や血濡れの幼子で、片や全裸の少女であった。

 それでも、確かに2人の間には目に見えぬ絆があった。

 

 『馬鹿な!そんなモノを愛するというのか!?人として生まれた貴様が、母を殺し、魔として生まれ堕ちた者をぉッ!?!』

 「そう言う言葉が出る時点で、貴方に親たる資格は無いんだよ、ナイアルラトホテップ。」

 「そう言う事。んじゃ、そろそろ退散しますか。」

 

 アーリの姿がページへと戻り、今度は親子を包み込む。

 全てのページが結実した時、そこには力と戦の天使の名を持つ戦士の姿と、その腕に抱かれる幼子の姿だった。

 だが、恐ろしき力を持つ父母を前にしても、幼子の母へと伸ばす手には小揺るぎもしなかった。

 

 『この子は渡さない!嘗て母がしてくれた様に、この子は私が育てる!』

 『肩部装甲展開!第一級消滅術式起動!安全リミッタ全解放!』

 『消し飛べ!ガンマ・レイッ!!』

 

 両肩を覆い尽くす程の装甲に隠された砲口から、極太の魔力砲が放たれた。

 

 『愚かな!忌々しき旧神に汚染されたかぁッ!!』

 

 だが、闇黒たる混沌には届かない。

 地上の太陽を思わせる一撃も、邪神の前には無為に散らされる。

 

 『無論、承知している。』

 

 戦士の手には一冊の魔道書が握られていた。

 ネクロノミコン機械言語訳。

 嘗てのループで手にした、精霊化し、しかし力及ばず死した魔道書。

 これを呼び水に、ある存在を呼び寄せる。

 

 『本来閉鎖した筈のクラインの壺だが、管理者権限を持つ者ならそれをある程度無視できる。』

 『させんッ!!』

 

 無論、本来の管理者権限を持つ混沌が名伏し難き声と共に、ゼルエルの権利行使を妨げる。

 だが、ゼルエルが目的を果たすためには、ほんの僅かな時間で十分だった。

 

 『憎悪の空より来たりて、

  正しき怒りを胸に、

  我らは魔を断つ剣を執る!

 

  汝、無垢なる刃 デモンベイン!!』

 

 轟音と共に、ゼルエルのすぐ脇の空間が砕け散った。

 そこから突き出たのは巨大な銃口だ。

 燃える闘志を凝縮したかの様な、黒金に真紅の装飾が刻まれた自動式拳銃クトゥグア

 暴君ネロから九郎へと渡された魔術兵装の一つだが、此処にあるのは彼女達の記憶にあるものより強大で、偉大で、勇猛であった。

 

 『イア・クトゥグア!』

 

 砕け散った空間から、若い男の声が響く。

 同時、クトゥグアの銃口から巨大な銃弾が放たれる。

 炎を纏ったそれは、一瞬で怒れる炎の旧支配者へと姿を変じ、闇黒へと躍りかかった。

 

 『おぉぉぉぉぉのれぇぇぇぇぇぇぇぇい!!最も新しき旧き神、エルダァァァァァァァァァゴッドォォォォォォォォォォォォッ!!』

 『さらばだ混沌!』

 『あーばよとっつぁーん!』

 

 こうして、辛くも母子と魔道書は邪神の魔手から逃れたのだった。

 

 

 

 

 

 「しかし、偉く準備が良かったな。」

 「そりゃね。マスターが何か孕んでるのは気付いてたし。」

 「え?」

 「え?」

 「………。」

 「もしかして、気付いてなかった?」

 「………。」

 「もしかして、さっきのはテンションのまま喋ってた?」

 「………。」

 「この子どうする?」

 「育てる。」

 「まぁそこだけはっきりしてるなら問題ないか。」

 

 

 

 

 




月の子の役割=クトゥルー使役のための巫女。
ネロの役割=↑とマスターテリオンの転生のための母胎

これらの要素から、主人公が月の子に転生する時点で今回の話はプロット立てていた。


昨晩投下する筈が最後で寝落ちしてたので今投稿しました。

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