うわあ、地球、怨念に塗れすぎぃ! 作:スカウトマニア
いつかどこかの世界。
本来なら交わるはずのない世界が幾重にも交差し、戦いと平和の道が何十にも重なり合ったスーパーロボット世界。
時と場合によっては宇宙規模の災害が、並行世界の壁を超えた争いが起きる、そんな地獄のクロスオーバー次元。
そんな場所に生まれたとは露知らぬ生き物が一匹、ふよふよと真空の宇宙をあてどもなく旅をしていた。
番うべき同族を持たず、これといった確たる目的もなく、物質的な肉体から卒業した高次元生命の領域に達したソレは、三次元においては巨大な亀のような姿を持っていた。
見る者が見れば、さる貪欲な魔獣エンデかはたまた怪獣ガメラを想起するようなその姿は深い緑色の甲羅を背負っていたが、頭は鋭い甲殻に包まれていて、さながら竜の頭部を模した兜のよう。
この亀モドキ、どこかで出会った文明に与えられたエルダーシャという名前を気に入り、それ以来、自らの名前として用いている。
そんな彼の生きる糧は知的生命体の発する感情、その中でも怒りや憎しみ、嫉妬、絶望、恐怖などなど、負の感情とまとめられがちなソレである。
この主食に加え体内に備える生体対消滅エンジンの二種が、主だったエネルギー源だ。
寿命らしい寿命もなく宇宙が寿命を迎えても、その先まで生きていておかしくない彼は、無軌道に宇宙を旅する中で、ふと美味しそうな気配につられて、天の川銀河の太陽系第三惑星『地球』を目指した。
そこに彼の数少ない行動原理である、より美味な食事がたくさんあると感じられたから。
高次元へと浮上してから三次元へと潜航する、という手法でワープを行って数百万光年を跳躍した彼は、青く輝く美しい地球と傍らに佇む月、そしてラグランジュポイントに浮かぶ、人造の巨大円筒を見つける。
彼の感じた美味しそうな気配はその円筒──スペースコロニーから、強く発せられている。それは一年戦争と呼ばれる人類史上最大最悪の戦争で、スペースノイドの独立開放を謳うジオン公国により、壊滅させられたスペースノイド達の墓標である。
地球連邦駐留艦隊との戦いの影響を受けて破壊されたスペースコロニー周辺には、無慈悲にも毒ガスによって脱出もままならぬまま殺された人々の無念が、怨念が、憎悪が、今もなお濃密に渦巻いていた。
『うん、これは美味しそうだ』
人間に変換したら中性的なのんびりとした声で、エルダーシャは怖気の走る怨霊達の声なき叫びを聴きながら、そう呟いた。
*
コズミック・センチュリー(C.C.)87年、地球連邦政府とジオン公国による一年戦争から七年、地球圏は再び戦火に包まれていた。
ジオン残党の占拠する宇宙要塞アクシズの地球圏への接近、地球連邦軍精鋭部隊ティターンズの専横とソレに反発するエゥーゴの衝突、悪の科学者ドクターヘルによる世界征服宣言、古代の地球を支配していた恐竜帝国の復活、更にネオジャパンコロニーで開発されたアルティメットガンダムの暴走。
地球以外では異世界バイストン・ウェルから出現したオーラバトラーの軍勢、ゼントラーディと呼ばれる巨人種族の接近、その他、銀河に存在する多くの侵略者が示し合わせたかのように地球を狙っていたからだ。
その中で新たに一つ、地球人類に対する敵対的勢力の出現の報せが、またかよ、といううんざり感と共に、地球圏の各組織に齎される。
およそ二十メートル前後のMSに似た生体兵器が多数出現し、ジオン共和国に向けて何の宣言もなしに攻撃を開始。
ハイザックを中核とする共和国軍の必死の抵抗により、かろうじてコロニー群への被害は免れたが、共和国軍は大きな損害を受け、恥も外聞もない救援要請を地球連邦政府へ送ることとなる。
これに地球連邦軍は民間からの善意の協力者を含む独立部隊の派遣を決定した。
ラー・カイラム、ネェル・アーガマ、アルビオン、ヒリュウ改で構成された独立部隊ロンド・ベルは、サイド3近海に再集結しつつあった生体兵器達を駆除するべく、行動を開始する。
地球にマジンガーZやゲッターロボ、協力者となったオーラバトラー隊、ハガネ隊を残してきたとはいえ、ロンド・ベル宇宙艦隊には一年戦争の英雄アムロ・レイを筆頭とするエースパイロットに複数のガンダムタイプ、ヒリュウ改の艦載機であるグルンガスト零式、アルトアイゼン、ヴァイスリッター、グルンガスト弐式、ヒュッケバインMk-Ⅱといった強力な機体が所属している。
たとえ侵略者が相手でも倍程度の戦力差なら、簡単にひっくり返せるラインナップだ。
そんな彼らだったが、ニュータイプであるアムロ、クワトロ、カミーユ、ジュドー達を筆頭に、念動力者であるクスハ、ブリットら、そして精霊王と契約した魔装機神サイバスターの操者マサキは、目の前の敵達に本能的な恐怖を感じていた。
「これはなんだ、憎悪と恐怖、それに怒りか!?」
パーフェクトガンダムを駆るアムロは目の前のザクⅡをモチーフとしたかのような緑色の巨人型生物が、尋常な生物ではないのを察し、パイロットスーツの下の肌を粟立たせていた。
ザクモドキのザクマシンガンやバズーカからはオリジナルのザクとは異なり、ビームが発射され、手に斧も高熱で刃を熱するものではなく、ビームの刃を発振するビームホークに変わっている。
生物の甲羅を思わせる装甲も、エンジンの出力も、なにもかもが最新鋭のMSやPTと同等かそれ以上だ。
その性能と全ての機体から発せられる圧倒的な負の感情にさらされて、ロンド・ベル隊の誇る異能のパイロット達は、フルパフォーマンスを発揮できずにいる。
「こんな、こんなに暗くて冷たい……!」
根が優しすぎるクスハなどはザクモドキの発する奈落の底のような重圧に、精神を大きく疲弊されて、グルンガスト弐式の動きを大きく鈍らせている。
かろうじて動いているグルンガスト弐式を同じく不調のブリットが乗るヒュッケバインMk-Ⅱ、タスクのジガンスクード、レオナのガーリオンがカバーしている。
パーフェクトジオングのクワトロも動きを鈍らせ、ZZガンダムのジュドーはまだマシだが、Zガンダムのカミーユなどは特に深刻な様子で、幼馴染のファが乗るメタスにつきっきりでサポートされていた。
「こいつらは生きた人間の感情じゃねえ。いやな空気だ。死霊装兵やデモンゴーレムのタイプか!?」
「地上にも魔術が存在するのかニャ!?」
「でも魔術の痕跡は見つからニャいわよ!」
サイバスターのコックピットではマサキの猫型ファミリアのシロとクロが、マサキの考えを否定する。地底世界ラ・ギアスでは地上とは異なる環境と歴史を歩み、現在も魔術や錬金術が当たり前に存在している。
その中には死霊を利用するものも存在しており、それとの類似性を目の前の旧世代兵器風の化け物達から見出したのだが……
ザクモドキだけでなくジオンのムサイ級や地球連邦軍のセイバーフィッシュ、サラミス級、マゼラン級を模した生体兵器が自分達の邪魔をするロンド・ベル隊に猛烈な攻撃を加える中、奮戦しているのは非異能組だ。
アルビオンのバニング、コウ、キース、ヒリュウ改のゼンガー、キョウスケ、エクセレン、カチーナ、ラッセル、アーガマのロベルト、アポリーらである。
パイロット達の多くが不調を訴えるという想定外のアクシデントに見舞われながら、数多の侵略者達を叩きのめしてきたロンド・ベル隊は、かろうじて生体兵器群の撃退に成功する。
敵機を全滅させて、新たな敵性反応の出現がないのを確かめ、精神的な不調を訴えたパイロットを最優先して回収しようとする中で、事態は動いた。
それまで亜空間に潜んでいたエルダーシャが三次元に出現したのだ。スペースコロニーに倍近い巨体と測定できない膨大なエネルギーを持った巨大生命体の出現に、部隊に緊張が走る。
不幸中の幸いはエルダーシャの出現によって、不調に陥っていたアムロやタスクらの精神が平常に戻った点だ。これまで戦場を満たしていた怨念が消え去り、彼らのセンシティブな感性を苛んでいた重圧も消えたのである。
突如として出現したエルダーシャを前にして、ロンド・ベル隊は緊張を強いられる。
宇宙に移民した時代にあってなおSFの話だった異星人の侵略が現実になった世界だが、それでもアーガマ級の二百四十倍前後の未知の生物はインパクト絶大だ。
パニックになって攻撃を加える者が居てもおかしくないシチュエーションだが、双方にとって不幸な事態は避けられた。
クスハやクワトロ達がエルダーシャからの敵意や殺意を微塵も感じなかったのもあるが、エルダーシャの方から人間用に調整した上でテレパシーが届けられたから。
『やあ、彼らは皆、逝ったか。同じ人間の手で逝けたのなら、彼らにもいくばくかの慰めとなっただろう』
憐れみと慈愛を感じさせる思念にクスハやカミーユ達が困惑する中、エルダーシャは地球圏の如何なるセンサーも凌駕する各種知覚器官でロンド・ベル隊の面々を観察する。
『ふうむ、強き念を持つ個体に宇宙環境への適応を始めた個体か。それに種族の集合的無意識から生まれた存在と接続した仮初の神体と個体。君達地球人類は、ちょっと珍しい歴史を歩んでいるのだね』
どこかゼンガー達を置いてけぼりにする呑気な発言に対し、勇敢にも問いかけたのはマサキであった。地底世界にサイバスターの操者パイロット候補として召喚された、というファンタジーな経験をしている彼の方が、こういった非現実的な状況に対する耐性は高い。
「アンタがあのモビルスーツのゾンビみてえな連中の親玉か!」
『親玉……ううん、少し違うが彼らに対して仮初の肉体を与え、物質世界に干渉する術を与えたのは私で間違いないよ。ああ、それと私はエルダーシャと呼んでくれるかい? 地球人類の声帯でも発声は難しくないだろう』
「なんであんなものを作り出した? サイド3を襲わせたのは、何が理由だ!!」
思いのほかエルダーシャが穏当な反応を見せる一方で、マサキの言葉は激しいものだった。
ラ・ギアスで死霊を悪用する外道共と戦い、その行いに怒りを覚えていた彼にとって、エルダーシャの行いは同列のものと感じられたからである。
『サイド3を襲ったのは全て彼らの意志だよ。私が命じたものではない。そうだね、話は長くなるが、聞いてもらえるかな?』
「言ってみな」
エルダーシャが話し合いを提案したことと、戦闘で消耗した推進剤や弾薬の補充、また休息が必要なパイロットを母艦に収容する時間稼ぎの為にも、ロンド・ベル隊はエルダーシャの話に耳を傾けることを選んだ。
『私は知的生命体の発する憎しみや怒り、恨み、絶望に恐怖なんかを主食としていてね。少し前にこの地球で大量の負の念が発生したのを感じ取って、訪れたんだ。そこで見つけたのが破壊されたコロニーとそこに渦巻く死者の念だ』
「じゃあ、てめえは俺達人間の感情を食う為に!?」
『そうだね。ただ、勘違いしないでほしいが私が食べているのは君達の発した後の感情だ。君達の精神や魂そのものを食べているわけではない。そうだなぁ、君達の吐き出した息を吸ったとして、君達が死ぬわけじゃないだろう? そんな感じかな』
「それなら先刻の連中は!? どうしてあんな機動兵器や戦艦みたいな連中を作り出したんだ! 戦火を拡大して地球を自分のえさ場にでもするつもりか」
『ははは、まさか! わざわざ不幸の種をまいて育ててまで、美味しい食事を摂ろうとは思わないよ。私の食事のせいで不幸になる誰かを見ながらでは、美味しいものも美味しくなくなる。それにこの星系は私が何をしなくても憎悪や恐怖に満ちているからね』
なんとも不名誉な地球の評価に、流石にマサキも閉口して二の句が継げなくなる。確かに今の地球圏の情勢は人類史上最大の戦争を更新中なのだから。
『そして君達が戦った存在だが、あれは、君達風にいうならばレギオンとでも呼べばいいか。大勢なるが故に、彼ら悉く悪霊なるが故に。
彼らの正体はね、もはや殺戮でしか鎮魂が叶わないほどに穢れ、堕ち切った人間の魂だよ。
どれだけ時が流れても、もはや救われるすべのない哀れな存在だ。君達はまだ科学的に解明できていないけれど、魂と呼ぶべきものは確かに存在している。
立場は違っても同じスペースノイドによって、一方的に殺戮された恨み辛みが彼らの魂そのものを汚していた。このまま放置すればどこかの魂を食らうタイプの存在の餌食か、悪霊化してしまうから、それを防ぐ為に私の力で彼らに仮初の肉体と力を与えた』
「それがさっきの……!」
『そうだよ。君達の知っている兵器の姿をしたのは、レギオンとなった彼らにとってそれが自分達を殺した忌むべき敵であり、また自分達を守ろうとして守り切れなかった者達の姿だから、真似たのだね。
ここまで言えば、彼らがサイド3を襲った理由も分かるだろう? 彼らは自分達の仇を討ちに行ったのさ』
あまりに衝撃的な内容だった。それは、つまり、一年戦争序盤のジオン公国によって殺害された十億単位のスペースノイド達の怨念が形を得て、復讐を果たそうとしているのを意味しているのだから!
それでもと異を唱えたのはクスハだった。再び周囲に満ちつつある死者達の念を感じて、顔色を青くしながら、それでも懸命に勇気を振り絞る。
「でも、それでも、コロニーを襲うなんて、そんな事をしてしまったら、自分達を殺した人と同じなってしまいます。本当にそんなことで救われるんですか?」
『血まみれの殺戮でしか慰めにならぬほど、彼らは荒み、穢れ、堕ちている。でも他にも彼らを救う術はある。
君達がそうしたように仮初の肉体を破壊することだ。死者の念を触媒に形を与えたものであるから、それを破壊すれば死者の霊魂に纏わりつく負念を祓うことにつながる。
サイド3の人々を殺戮の嵐から守りたいのなら、レギオンとなった死者達を最後の一人まで悉く破壊しつくすことだね』
「……それで、亡くなられた方々は本当に救われるんですか?」
『このまま冷たい宇宙と破壊された故郷を墓標に、宇宙の終焉に至るまで恨み続けるよりはずっと救いがある。私はそう思う』
どこか他人事めいた語り口のエルダーシャだったが、彼自身もレギオンとなった死者達が自分達の復讐を果たすよりは、誰かの手によって討たれ、怨念を祓われる方がまだ救いがあると信じているようではあった。
『あまりにも酷いので見過ごせなかったから、レギオンを作り出してしまったが、私自身に地球人類に敵対する意思はない。信憑性がないのは百も承知だけれどね』
「確かに、貴方に悪意がないのは分かります。でも貴方の意図しないところで、私達に危害を加える可能性はあると思います。レギオンを作り出したのなら、貴方がレギオンを抑えることはできないのですか?」
『彼らの自由意思を束縛しているわけではないからねえ。サイド3やアクシズ、暗礁宙域、ティターンズを襲っているのは彼ら自身の意志であるから』
ちょっと待て、とロンド・ベル隊の面々は聞き捨てならない単語を聴いてしまった。
グルンガスト零式のコックピットの中で、油断なく零式斬艦刀を機体に構えさせているゼンガーが巌のように厳しい言葉で問う。
「待て。死者達が襲ったのはサイド3だけではなかったのか?」
『ああ、襲っ『た』のはサイド3だろう? 過去形だね。今、襲っているのはアクシズと暗礁宙域に居るジオン残党、それにコンペイトウとかいう要塞やグリプスというコロニーなどに居るティターンズさ。
今もジオン公国の敗北を認めない連中相手なのだから、レギオンも殺意を漲らせているよ。ティターンズを襲ったのは、サイド1の30バンチでティターンズの毒ガスで殺された人々さ。ジオンに比べれば少ないとはいえ、恨みを募らせるのには十分ではないかな?
それにしても短期間で随分と地球人類同士で殺したものだ。スペースコロニーばかりじゃなく、地球のあちこちでも怨念に穢れ尽くした死霊が、怨嗟の声をあげているよ。
随分多くの星々を回ったけれど、ここまで同族殺しに躊躇のない生命体は、宇宙広しといえどもそうはいないよ。君達、すごいねえ』
カオスレギオンをご存じの方はどれだけいらっしゃることでしょうか。
小説版のヒロインの一人から主人公の名前を拝借しました。
人類に敵対的ではありませんが、地獄への道は善意で舗装されているともいいますのでね。彼の善意が巡り巡ってプレイヤー部隊にとって災いとなり、時に助けともなるくらいのイメージです。
アクシズとデラーズ・フリートとティターンズの戦力が削れるのは確定ですしね!
シュウ・シラカワにとりついているヴォルクルスの負念なんかも大好物です。
追記
エルダーシュ → エルダーシャ に修正いたしました。ご報告ありがとうございます。