自称中堅冒険者のアフターライフ   作:ギル・B・ヤマト

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炎と炎の激突

 

 美しい。

 

 初めて見た時に我はそう思った。

 

 その赤い宝石の様ああ、何で麗しゅうものだ!この世の頂点に存在すべきお方だ宝石程度では生ぬるいこの美しいと言う言葉に何を詰め込めるべきかいいや言葉で表現する自体非礼だ我の言葉でかのお方を表現できるとは傲慢に極まれりこの詫びは一体どうすればああ、ああ、あるじゃないか簡単な方法が自害すれば──

 

「────ほざけぇぇぇ!!!」

 

 眼を見た時から感じた違和感。

 まるで目の前の敵を全て受け入れる事が幸せなのだと錯覚する体と脳を、上位種としての我がプライドで正気に戻す。いやこの言葉ではまだ足りない。

 

 くだらない洗脳をプライドでズタズタにした。

 

 そうだ目の前にいるのは断じて我の主人なのではない。

 遥か昔に生まれた吸血鬼であり、吸血鬼の理想を手に入れながら最も吸血鬼とはかけ離れた例外であり、当主を除いて神代から生きている神話。

 

 紅の魔女だ。

 

「……っと、久々にこの体になったからか気が速くなってしまった。すまんな吸血鬼よ、下らない死に方をさせる所だった」

「ハァ…………ハァ……………………!」

 

 目の前で薄ら笑いしている化け物が敵だ。

 一瞬の気の緩みも許されない。

 

「答えは分かっているが最低限の問答はしてやらねばな」

「……何だ」

「人間を襲う……はいいが、人の街を壊滅させる侵略行為をやめろ。後私の所に来ないか」

「断る」

 

 馬鹿げた提案を正面から叩き潰した。我が他人の下に下るだと? ふざけるのも大概にしろ。

 我は常に努力した。周りの腑抜けた奴らを見下して常に頂点を目指した。こんな蔑んだ眼をしている奴の仲間になるものか。

 

 そんな事するなら死んだ方がマシだ!

 

「そうか。なら勝負は手早く済ませるとしよう。あのツナやかな眼をしている冒険者は気に入っているのでな。死ぬ前に決着をつけたい」

「……どこまで我を侮辱すればっ!!!」

 

 我慢の限界だった。これだけコケにする奴を許せなかった我は声を荒げようとして、

 

「ゴタゴタ言わずに魔力を回せ」

 

 鋭い目線と共に放たれた言葉に呼吸を止めた。

 そこでようやく我は気付いたのだ。奴が『何か』を放とうとしている事に。

 

「──ッ!?」

 

 コンマ秒経って我の呼吸は再開した。

 同時に魔力の回転を始める。ここで全力を出さなければ死ぬのみだ。

 

 行うのは神代の魔法の再現。

 それもただの魔法では威力不足すぎる。

 

 ……そう、終末の光で使われた魔法をやるべきだ。

 神代に栄えていた大国を一晩で消したと言う魔法の完全再現。

 持てる全てを使ってやるしか無い。

 

「ここにある全ての魔法石よ、我に力を貸せぇ!!!」

 

 まずはこの数ヶ月で人間に気付かれないように蓄えた洞窟内の魔力。それをエネルギー源として我に流し、神話の完全再現を試みる。

 

 だがここまでしても足りない。

 

 外から得られる物は今で全部だ。

 なら次は内から取るしか無い。差し出すのは今ある己の魔力の九割と魔法における心臓『魔力核』。

 胸から抜き出された紫色に光る石。魔法石に似ているが更に上位に位置する生命エネルギーの塊を使う。

 

「……これを生贄にして最大の一撃を誕生させよう」

 

 抜けたと同時に力が急速に衰えるのを感じるが仕方が無い。

 お陰で伝説を成し遂げれたのだから。

 

 見える世界の色が変わる。

 最初は真っ赤な炎、次第に青に変わり……最後は漆黒の炎へと。

 

「来い」

 

 アツい、アツいアツいアツいアツいアツい……我でさえそう感じるほどの炎だ。

 ただでさえ魔法石の光が消えた洞窟が更に暗黒に満ちていく。さながら地獄のようで暗黒の中にいる者達は生きた心地がしないだろう。

 

『ガァァァァアアアアアア!!!!!』

 

 死が満ちた世界で一匹の神獣が産声を上げた。

 

 

 

 完全顕現

 

 

 

ケロベロス(神殺しの暗黒魔獣)

 

 先程使った魔法と同じ名前。だが生まれるのは二つの炎などでは無い。

 鋼を紙の様に斬る鉤爪、大地を踏み殺せるだろう立派な四つ脚に全長四十メートルの巨体……そして暗闇の中で光る四つの黄金の目。

 

 大陸を滅す厄災の誕生である。

 

 ケロベロスが放つのは死の瘴気。弱者が触れただけで死ぬ、周りを地獄そのものへと変える魔法だ。

 いかにも地獄に住む魔獣らしいが……我と同じで弱い奴には従いたくは無いそうだ。

 憎しみを持った黄金の目がこちらを射抜く。

 

「……我が先か」

 

 ドシン、ドシン、と神の光も届かない暗闇の中で足音が聞こえる。それはゆっくりとただし確実に我の方へ近づいている。 

 

 ケロベロスの目がこちらを見た。

 

 それが我の終わりだと悟った。

 全てが黒にに染まっていて景色すら見えないが、処刑人の目はよく見えた、

 

 ()()()()()()()

 それが我に見えた黄金の光だ。

 

「待て待て待て、私がそうしろと言ったが殺される相手まで変えろとは言ってないぞ? まさか完全顕現までするとは思わなかったが」

 

 死の濃度は濃くなる一方なのに先程と変わらない女の声が聞こえた。神の光が届かないこの世界で、彼女が発現させた光はこちらまで透き通る様に輝いていた。

 だがケロベロスにとっては違った様だ。地獄の世界でも嫌に輝く光が気に食わないらしい。奴はこちらから彼女へと標的を変えた。

 この辺りに漂う全ての死が奴へと喰らいつきに行く。

 

「とにかくその吸血鬼を殺すのは私だ。だから消えてくれないか……駄犬よ?」

 

 だが平然と受けながらも彼女はそう言った。それがケロベロスの本気の引き金を引いた瞬間だった。

 

『ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』

 

 ケロベロスは走る。

 目の前の化け物を狩るために。  

 

「……では、お前が成した偉業に敬意を持って、もう一つの伝説を最期に見せてやろう」

 

 紅の魔女はその光の何かを放つ準備に入った。

 人差し指の上で浮かんでいる小さな光の球体。見ているだけで眼を焼きつかれそうなそれは石ころ程度の大きさしか持っていなかった。

 

 だが我は死に際に知覚する。

 あれが彼女の言う伝説だろうと。

 

「これが終末の光の一つ。禁忌の力を使った終わりをもたらす伝説」

 

 ケロベロスは放った……漆黒のの炎を。

 

 それは一万年以上前から存在する、遥か深くにある地獄(地下)で永遠と燃え続ける死の炎。

 神を殺した死の炎だ。

 

「発現しろ──」

 

 それを紅の魔女は

 

太陽(ソル)

 

 一億年以上前から、遥か上にある宇宙(そら)で永遠と輝く命の神秘で消し去った。

 

 死すら存在しない無の空間。

 その中で数億年先まで届く光を前にすれば、神殺しの暗黒だろうが勝てるはずも無く……

 

(神を超える存在。神話を調べた時はよくある誇張だと思ったが……昔話にしては表現が的確すぎるでは無いか)

 

 暗黒の世界もケロベロスも我も、

 

(これが、紅の魔女)

 

 その炎によって終わりを迎えた。

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 「おっと、息はある様で良かった」

 

 久々にすごい奴と出会えて興奮してしまった私はハッチャケ過ぎた後に、結界の中で保護していた冒険者の安否を確認していた。

 

 死んでいたら面倒な事になったが瀕死までなら全然セーフ。

 

 「ごめんね、こんな事に巻き込んでしまって」

 

 彼女の髪を優しく触りながら魔法を複数同時に発動させる。

 無詠唱で行うと彼女の体が光だして怪我が治っていく。勿論骨折とか重い怪我の後遺症も無い。

 

 で、同時に彼女の意識にも暗示をかけ始める。

 内容は私を忘れる事。後体力が戻るまでの一日はここで休んで貰って、尚且つその一日の記憶を消したら今朝の様にエンミール町のギルドへ訪れる事。

 

 そして私の事を無意識に避ける事。

 

 暗示とは些細な事で解ける場合もある。

 それが大した事にならなければいいがこれは精神に直接干渉する魔法だ。

 相手を廃人にするなら気にする必要はないが、そうじゃないなら細心の注意を払うべきだ。

 最近の幸運の無さも吸血鬼の件と関係あるかもしれない。

 とりあえず思い出すキッカケにならない様に、後は私の不運に巻き込まれない様に、彼女と関わるのはやめるべきだ。

 

 今私が思い描いた事を彼女の意識の中に捩り込む。

 

「私が確認不足でヤバい奴をこの洞窟に残してしまった。こんなミスで人が死ぬのは良く無い。君も私の心情的にも」

 

 そう言いながら魔法を行使する。

 人間達の精神や意識はとてもデリケートだ。ガラスの物を丁寧に運ぶ様に魔法の工程を進める。

 

「な、んで……」

 

 すると驚く事に彼女が眼を覚ました。……いやずっと起きていたと言う方が正しいか。

 

「ビックリした。君は死に掛けていたんだから眠っていれば良かったのに。ケロベロスとの戦いなんて死ぬ程怖かっただろう?」

 

 割と私もビックリしていると思う。

 彼女は実力に見合わずすごい精神力を持っている様だ。あの地獄の世界で狂わず生きているのは奇跡としか言いようが無い。

 とにかく起こしていると変な後遺症が残るかもしれない。追加で睡眠の魔法もかけておく。

 

「まっ……て」

「悪いけどその願いは叶えられないよ。本当は君と冒険したいけど、私の名前がバレたらギルドに居られないから。まあ一日だけだし明日から新しい冒険ライフを楽しむがいい」

 

 その言葉を最後に彼女は眼を閉じた。

 しっかりと眠れた様である。

 

「……………………」

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 周りを見れば魔法石が光る綺麗な洞窟に戻っている。

 こっちの修復も問題なく終わった。

 

 古代文明の遺跡もしっかり残っていて神秘的な雰囲気を生み出している。いいね。

 

「じゃあね。君の自分探しの旅に幸運があります様に」

 

 そう言って魔法をかけ終えた私もギルドへと足を向けた。

 

 これで彼女との冒険も一切無くなるだろう。

 少し寂しい気持ちを胸にしまいながら、私は光へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

「えーと」

 

 翌朝になった。で当然彼女は来てないので普通にギルドに入り、入り口からは見えずらいテーブルで一人寂しく座っていた。

 

 のだが。

 

「……あのー」

「……………………なんだ」

 

 相方の空席に一人座りに来た。

 銀髪のショートで、動きやすい鎧を着ていて、中性的な顔をしていて……ツナやかな眼を持つ女性が。

 

「私達って、初めてだよね」

「そうだな()()()。お前がそうする様に仕向けたからな」

(なんで覚えてるんだろうこの子〜〜〜〜!?)

 

 うん。メチャクチャ覚えてる。

 なんでかメチャクチャ覚えてる。

 

 勘違いじゃない。心無しか目線も鋭くなってるし。

 

 可笑しいなあの魔法も神様相手に通じる奴だぞ。ちょっとした対魔力とか意味ないやつなのになんで……

 

「なんで覚えているだって顔してるな」

「うんそうだね」

 

 う、うーんマズイ。ここにいる人に暗示掛けたくないんだが。と言うか周りに掛けてもこの子が掛からないなら意味ないな。

 えーとギルドから追放されるのはゴメンなんだが。

 楽しい冒険者ライフは過ごしたいんだが。

 手荒い方法は面倒だからしたくはないのだが……!

 

「本当になんで覚えてるの?」

「……貴方に前話した事を覚えているか?」

「…………自分探しの事?」

 

 私の答えに彼女は丁寧に頷いてくれる。

 

「生まれた時から私は特別な存在だと自覚した」

「うん」

「私がどんな存在かも知った。そして倒す相手も」

「う、うん」

「でも倒す相手はそもそも存在してなかった。だから自分がこの世界に生まれた意味が分からなくなった」

 

 深刻そうに彼女は言う。

 側から見れば変な話だと思うだろう。ただ私は長い年月を生きているから嘘の話だとかは思えない。

 彼女の顔を見ればハッキリと言える。

 

 ただ倒す相手がいないとは……?

 

「この世界はとても平和だ。昔人間を襲っていた上位種達もみんな静かに過ごしているし、何よりも()()がいない……でもようやく分かったんだ。私がなんで生まれてきたのかを」

「……そうか、君は」

 

 魔王。今までの話した内容とその単語一つで私は一つの結論にたどり着いた。

 ……相変わらず長い間魔女になっていなかった私は平和ボケが抜けきれていないらしい。

 こんな重要な存在を思い出せなかったとは。

 

 彼女は言った。自分の名前と伝説上の名前を。

 

「僕の名前は勇者フィーネ。お前を倒す為に生まれてきた者だ」

 

 地上の王を殺せる可能性を持つ存在。

 勇者が私の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

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