自称中堅冒険者のアフターライフ   作:ギル・B・ヤマト

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魔王

 

「えぇと……『セレナは、フィーネに対して悪事を働いたり悪意を持って危険な目に合わせる事を禁止する。ただし稽古など、怪我を負う事があってもそれがフィーネにとって後に良い結果がもたらされる善意の元で行う場合は無効』」

 

 フィーネは契約書に書かれた文字を確認していた。フィーネは書いた物をわざわざ確認しなくても良いとセレナに伝えたが、内容確認は大事だと言われて何故かフィーネが読み上げることになった。

 

「それで僕に課せられる条件は『セレナが先程の条件を守っている場合、フィーネはセレナと共に旅に出る事を強制する。あ、別にフィーネが私に攻撃する事は禁止にしないから安心して、まぁ今の君じゃ私に傷をつけるなんて無理だろうけど──』って何書いてんだお前」

「何となく書きたくなっちゃった」

「テヘペロしても騙されんぞ」

 

 さてさてセレナが後半に付け加えた物は無視するとして、二人はこの条件で合意して契約魔法を発動している。

 書いた内容は見ての通りフィーネにとって都合のいい契約内容となっている。何でセレナはメリットの無い条件を飲んだか、と言うより結ぶ事を強制させたのかは分からないが今は一旦置いておこう。

 

「それより魔王を倒してほしいと言っていたが、それは本当か?」

 

 勇者であるフィーネにとって今知りたいのは魔王の事だ。

 

「ん、契約魔法が発動するかは見なくていいのか?」

「それは散々さっき見た。もうあんな事をするのはやめろ! 私はスプラッターなんて得意じゃないんだよ……!!」

 

 実は契約魔法を発動させた後、セレナは効果確認と言って、フィーネを殺すつもりでいろんな方法で攻撃していた。

 

『これ、本当に効いてるの──』

『はいキック』

『うわぁ! 音速で頭を狙うなって……ほんとだ魔法で体が制限……いや完全に動きを止められているな』

『ほーれ、この通りこの魔法は強力だししっかり報復もグフゥ!!!!』

『だー!?!? 目の前で爆散した!? ってセレナは──』

『ほ、ほら大丈夫。これでフィーネは安全だよ』

『いや喋るな!? 口から滝の様に血が出てるからしゃべるな!?!? ってか何で首だけで喋ってる!?!?』

 

 とまあ苦しそうに喋るセレナ(しっかり体は復元されました)。その後も洗脳魔法を掛けようとして逆にセレナの脳が爆発したりと、R18G判定が付きそうな光景が続いたそうな……

 

「いや話を戻すぞ」

 

 思い返しただけで吐きそうだと思ったフィーネは本題に入る。

 フィーネが旅をしていた本来の理由。

 それは人類を脅やかす強大な敵を倒す事だ。

 

 だが生まれて来てからこの方、色んな場所を巡っても魔王は大昔に倒されて長い間居ないと聞いた。

 かといって人類を脅やかす敵がいるかと言えば今の世界は平和そのもの。

 

 一応だが目の前にいる紅の魔女も人類を滅ぼせる力の持ち主だ。しかし悪事を働く様子はない。

 

「魔王と言ったが、全然そんな話は聞いていない。というよりどこに居るんだ?」

「恐らくだけどまだ産まれていないんだろうね」

 

 話によると勇者は魔王が暴れる前に誕生するそうだ。

 この世界のルールに基づいて、魔族を含めた生物にとって癌でしかない魔王は、出来るだけ速く処理される様に抑止力が働いているそう。

 

「まあ私の経験上、勇者がいる時は世界に危機が迫っている時だ。クソジジ……ゲフンゲフン。抑止力擬きに運命力を与えられた君は物語や神話の様にドラマティックに強くなれるわけだ」

「つまり、僕は自然と強くなれる様に運命が決まっているって事か……なんか嫌だな。で、紅の魔女と出会ったって事は」

「そう言う事。今回の勇者は紅の魔女と出会って強くなるストーリーらしい」

 

 飲み込みが早いね、と満足そうにするセレナとは対象にフィーネの表情はあまりよろしくない。

 まるで自分の人生が他人によって強制されている事に不快感はあるフィーネ。ただ本人が勇者寄りの性格をしている事もあって、それで人を助けられるならそれでもいいと納得する彼女だった。

 

「まあ運命とか物語とか大層な言葉を使ったけど、少し幸運な程度で思っていた方がいいよ」

 

 セレナは淡々としている。

 歴代の勇者と出会い時に旅をした彼女からすれば、勇者に能力を説明するなんて慣れた物だ。絵本で描かれた冒険、つまり非日常を飽きるほど体験したからこそ元人間だろうが当たり前の様に話せるのだろう。

 それこそ非日常をさも日常の世間話として話す程には。

 

 

「運命力に頼りっぱなしだと普通に死ぬからね」

 

 

 ただその言葉の重みは他とは違った。

 

「……それはそうだな。実力が足りないのは昨日の件で嫌と言うほど分かった」

 

 何も出来なかった自分。

 蹂躙されるしかなかった弱者。

 かつて自分を救ってくれた恩人を守る事が出来なかった彼女は、セレナという強者が居なければ二度も同じ事が繰り返されていた事実に、拳を強く握っていた。

 

 

「セレナ頼みがある。僕を……魔王を倒せるぐらいに強くしてくれ」

「……元よりそのつもりだ」

 

 

 セレナは薄らと笑う。

 永い時を過ごした吸血鬼としての勘と、幾千振りに起動する心の鼓動がセレナを交戦的な笑みにさせる。

 これからアニメに出来るような心踊る冒険譚が始まるのだと。

 じゃあここからもドラマチックに話を進めていこうと、口を動かす。

 

「じゃあここからはアニメ……いやこの世界観で言うなら神話らしく覚悟を問うとするか」

 

 

 

 パチン。

 

 

 

 セレナが指を鳴らせば、世界が変わった。

 いや変わったと言う表現は間違っている。現在進行形で変わり続けている。

 

「っ、今のは──」

 

 フィーネは続きの言葉を言えなかった。

 

 突如動き始めた周りの景色に圧倒されて。

 

 さっきまで緑の光によって照らされていた洞窟は消えている。

 見えるのは入れ替わる冒険者と太陽と月と草と水と、丘と魔物と動物と、枯れては生える草木と……変化し続ける光景だった。

 

 これをフィーネは勇者としての勘と己の経験、そして目の前にいる何でもありな化け物の事を考慮して一つの結論に辿り着いた。

 

(変わってるのは僕達の場所じゃない。時間か!)

 

 超高速で動く生き物や自然。1秒足らずで近くに来て遠くへ離れる動物や冒険者達。上空を横断して忙しく空を黒と白に切り替えさせる太陽と月。

 ピンクから緑に茜、白とパラパラ漫画の様に変わる四季。

 

 超常現象。そんな言葉が生ぬるく感じるほどの異常をフィーネは体験している。

 

 昨日の死にかけながら観た地獄の光景の方がまだ安心できる。それ程に理解不能の神技。

 死ならフィーネでも理解できる。死とは自然の掟であり、誰もが心の奥底から本能で感じ取れる恐怖の領域だ。怖くても理解は出来る。

 

 だがこれは何だ。

 

 時間を巻き戻す? 冒険者ギルドで見た物とは比べ物にならない程の異常だ。自然の掟なんぞ粉々に砕くほどの異次元な行為だ。生き物が理解していい領域ではない。いや理解しようとすれば理性が吹っ飛ぶ狂気の沙汰だ。

 

 

 何がその道のプロには劣るだ。世界を自分好みに変える所業、まさに神に等しい行為だ。

 

 

 ただ勇者とは、その神を殺す為に生まれた存在である。ならフィーネは圧倒されるままなのか。

 当然そんな訳が無かった。

 

「何で二つも魔法を使った?」

 

 フィーネに危害を加える気が無いのは契約魔法で分かる。同時に理解した。時間逆行に混じる僅かな異物の正体を。

 

「時間だけじゃなくてもう一つの魔法を()()()()()()()? その魔法も洗脳系統に近い物ぐらいしか分からないが」

「流石は勇者。()()()()()()()()()()と言ったところかな? 今のフィーネは洗脳系統の耐性どころか、その情報まで知覚できる様になっているんだね」

 

 周りの光景を懐かしむ様に見ていたセレナがフィーネを見る。

 

「理由は二つあって一つは実物を見てもらう為。あぁ本物じゃないよ。私の記憶で再現した奴だ。本物とあったら殺されかねないし、タイムパラドックスとかめんどくさい話もあるから」

「……魔王か」

「そう。で、もう一つなんだけどそれは君が今から何をやろうとしているのか、ハッキリ理解してもらうためだ」

「理解してもらう……? セレナの事だ。今から会う魔王だって、ほぼ100パーセント再現した奴なんだろ? どれだけの強敵か理解するなら魔王に会うだけでいい。わざわざそんな事言うのは……」

 

 そこまで理解できるか。

 そう思ったセレナはまたまた口角が上がった瞬間に、周りの景色が白の光に包まれる。

 擬似的な時間旅行は終点を迎えたようだ。

 

「フィーネ。君はこう思ってない? セレナは魔王より強いって」

 

 無言で佇む意味はセレナの質問に対する肯定だった。フィーネは圧倒的な強さを見てから疑問に思っていた事が一つある。セレナは魔王より強いのか。

 

「実は言うとね、私は魔王と何度も戦っている。色んな時代で色んな魔王と戦ってきた。()()()()

 

 いやフィーネは薄らと確信していた。

 セレナは魔王より強い。

 魔王と戦った発言も嘘では無い。

 しかし神話では魔王は勇者によって倒されたと語られている。

 紅の魔女ではなく勇者によって。

 

 この歪な結末に辿り着いていた理由もすぐに分かるはず。

 

「──来たな」

 

 ポツリと呟くと光景がまた変わった。

 ありえない超常現象は終わり時の流れは部分的に正常へと戻る。

 だが見えた景色は洞窟の中でも大昔の自然に囲まれたジャングルでもなく……

 

「……セレナ。お前は魔王と戦ったんだよな。戦ってもこんな光景になるのか?」

「ああ。もし魔王が本格的に暴れたら、全世界がこんな光景になる。私が居ても居なくてもね」

 

 死体だった。

 見渡す限りの死体の山。大半が燃え尽きて黒に染まった死体ばかり。

 火の匂いと死臭の匂いが混じり合って彼女達の鼻に刺激する。勇者は顔を顰め、吸血鬼は眉ひとつ表情を変化させる事なくそれを受け入れる。

 

 ここにあるのは死。と同時に魔力のエネルギーだった。

 

「さて……私が言いたい事は分かったかな?」

「僕が頑張らないと、この光景がまた起きるかもしれない」

「その通り。魔王は人間からしたら意思を持った災害に等しい。強さだけで言えば私より弱いが、故あってアイツを倒す事はできないんだ」

 

 勇者が誕生したと言う事は魔王が誕生すると言う意味でもある。  

 そして魔王が誕生する事は人類の危機であり、今の様にどこまでも真っ黒な呪いが地面を犯している。勇者でも触れたら即死の呪い。それが世界に解き放たれると思うと……

 

ソル(太陽)

 

 横からセレナの声が聞こえた。

 太陽の光が、目を瞑りたくなるほどの輝きがフィーネ達の近くで生まれる。

 

 フィーネが忘れるはずのない吸血鬼を瞬殺した魔法だ。目の前にセレナが居るのに間違いなく横からセレナの声が聞こえたのは驚きだっただろう。

 だが咄嗟に横を見たフィーネはそれ以上の衝撃を受ける事になる。

 

「何だよあれ」

 

 見えたのは黒の瘴気。見ているだけで心が凍りそうな程の死の具現化、死の塊そのもの。

 

 フィーネは理解した。

 

 あれが私の宿敵(魔王)だと。

 

 足がすくみそうになる。黒の塊から生まれている黒の池、黒の巨大なツタ。あれに触ってはダメだと危険ブザーが大音量で鳴っている。

 魔王が()()()()()()()()殺気を放っているから昨日以上に恐怖で心を掴まれた感覚になっている。

 

 しかし。

 殺気の量こそ魔王には劣っていても、その黒を上乗りする輝きが目の前にある。

 

(あれは吸血鬼を倒した……いやそれより何倍も……!?)

 

 目が焼けそうになるほどの輝きは地獄の番犬を仕留めた光と同じモノ。

 だが同じサイズの玉に入っている密度が圧倒的に違う。炎の量だとかそんなもので比較できる話では無く、それこそ名前通り太陽が二つ、三つ増えている様な出鱈目さを感じ取れた。

 実力が乖離していようと勇者だから分かってしまう質。天井が見えない山が目の前に広がっているこの感覚は嫌なものだと何度も彼女は感じる。

 

 だが……同時に勇者は知覚した。

 死を受けたはずの魔王に対する違和感を。

 

(あの魔法、いや技を受けたなら誰だって死ぬはずだ。だけど……もしかして)

 

 違和感に辿り着く直前。

 

 

 目に見える全ての光景が白に染まった──

 

 

「何がどうなってる。あんなのを受けて生き残れるはずがないだろ……!」

 

 

 全てを埋め尽くした光が消える。

 

 

 

 白一面の光景に色が戻り真っ先に見えたのは紅と黒。

 

 

 

 傷一つ付いていない瘴気だった。

 

 セレナは微動だにしていない様で顔の表情は僅かに変わっている。少しすれば何かに気付いたのかゆっくりと腕を下げて不機嫌そうに呟いた。

 

『そういう事か……面倒だ』

 

 目を少し細めれば魔王の周りが結界によって固定される。何重にも重ねられていて、魔王より何倍も大きい、それこそフィーネ達が初めて出会った冒険者ギルドが簡単に埋まる程の大きさを持つ結界が魔王を囲う。

 

 しかし結界は、魔王が触れた瞬間にガラスの様に粉々になってしまった。

 素人目でも分かるほどに複雑で高度なそれで作られた結界を呆気なく。指らしきもので触れた瞬間に破壊された。

 強度の話ではない。魔力も力も入っていない指に触れられただけで、魔術も空気も時間すらも通さない結界が崩壊した。

 

 

「セレナ、気のせいか? お前の攻撃が魔王に全く通用してないが」

「うーん。メチャクチャ悔しい事に事実だね」

 

 究極的に相性が悪い。

 

 魔王の動きが変わる。奴も気付いたのだ。紅の魔女に勝つことは出来なくても負けることも絶対にないことを。

 弱火になっていた黒の瘴気も燃え上がれば周りの空気が変わる。

 

『jejd9@¥&:nenlaVff&:@1hwO01&¥3¥!!?!!!??!!』

 

 声にならない声を上げれば魔王の上空から黒い輪っかが広がっていった。音速を超える速さで近くの山まで辿り着けば地震が起こる。

 空気は軋み、大地は割れる。

 魔王と紅の魔女は地震如きで倒れる程ひ弱ではないが、自然は違った。

 

『jdjwbsk92@Be@&2&92((!!!!!!!!』

 

 巨大な岩が浮いた。山頂一キロメートルの山が魔王の叫びに呪われて空を飛ぶ巨大な岩へと堕ちたのだ。

 広大な景色を誇っていた自然が見るも無惨な姿に。

 美しさを失った山は紅の魔女を殺す為に迫る。

 

 それが四つ。

 東西南北の4方向から襲いかかり、フィーネ達の視界を奪う。岩なんて表現が生温い。隕石の雨によって視界が茶色一色になった。

 

 映像はここで打ち止めだと、そこでプツンと景色が黒くなった。

 

 

 

 

 

 

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