TS願望持ちの転生者は理想のロリに成りきります 作:暇じゃない暇人
大変長らく更新を止めてしまって申し訳ありません。もし見てくれる人がまだいるのなら、時間のある時にでも読んでもらえると嬉しいです。
「それで坊主。お前さんは一体どうするんだい?」
「え、あ~。そうですね……とりあえず街に着いたら冒険者に成ろうかと」
「ほー冒険者か。お前さん、見かけによらず命知らずじゃないか」
「やっぱりそう見えますか?」
「おう、とても冒険者になるようなやつには見えないぜ」
一台の馬車の中でそう言った会話が繰り広げられていた。
片方は御者をしている初老の男。気前のよさそうな雰囲気を醸し出し、よく日焼けをしていた。
もう一人は10台半ばほどに見える若者で、御者の男の操る馬車に同乗させてもらっている身だ。
「そうは見えないかもしれませんが、これでもそこそこ鍛えているので。ちょっとやそっとのことでは死なないですよ」
「だといいんだけどな~。昔、俺の知り合いが似たようなことを言ってゴブリンにやられたことがあってな。少し心配だぜ」
「そ、そうですか。ご愁傷さまです」
「いや、気にしなくていいぜ。もう何十年も前のことだからな」
そう言って御者の男はガハハと笑った。
若者の方はどういった顔をすればいいのか分からないといった感じで苦笑いを浮かべてる。
「まあお前さんが鍛えていることを疑っているわけじゃねえぞ。これでも人を見る目には自信があるからな」
そう言ってから続けて
「でも長いこと生きてると俺よりも若いのに功を急いて死んでいくやつを見る機会が結構あってな。お前にもそうなってほしいわけじゃねえから、まあ、年寄りからの忠告ってやつだよ」
とは言ってもあまり気にする必要もないがなと付け加えてから笑う。
「長生きするためのコツは危ないことに首をつっこまないことだと俺は思うぜ」
「……ご忠告ありがとうございます」
気のせいか、少しだけ若者の元気がなくなったようにも感じられた。
「おい、あまり深刻に受け止めすぎんじゃねえぞ。所詮は年寄りからの戯言でしかねえしな」
「冒険したいなら危機感を薄めねえといけねえ。でも生き残りたいなら冒険を諦めることが一番ってこった。……まあ行商人なんてやってると危うくヤベえことに巻き込まれそうになることもあるから、あんまり誰かに忠告できる身分じゃねえんだがな! いやー説得力のないったらありゃしない」
最後にガハハと笑って前を見た。
「……」
若者は何も言わない。ただ人生の先輩にあたる人物からの言葉を受け、これからどう生きるのが正しいのか考えるだけだった。
若者が旅に出ることになったのは自分の意思ではない。
突然母親から
「おい、お前旅に出ろ」
そう言われた。あまりにもいきなりのことで困惑していると、続けて
「旅に出てかわい子ちゃんをいっぱい捕まえてハーレムを作れ。あ、作ったら私のためにも何人かいい子を見繕っておけよ」
などとほざいたのちに指を一度パチンと鳴らし、気が付けば麓の村に立っていた。
恰好はいつの間にか旅装になっていて、いくらかの路銀と剣を持っている状態となっていた。
呆れと諦めに包まれる中、いつの間にかに握ってた手紙を開いて確認する。
困惑も疑問も尽きることのないようなものではあったが、とりあえず今の状況は理解できた。
今まで母親からさんざん振り回されてきたのだ。この程度で動揺はしない。
だが反抗するのは正しくない。それは今までの経験上分かっていることで、おとなしく言うことに従っておいた方がいい。
だから手紙に書かれている場所まで歩いていく。そこに行くと乗せてくれる馬車があると書かれているが、なぜ乗り合い場でもない場所で馬車に乗れるかなどは疑問に思わない。
あの母親にできないことはないと思った方が良いからだ(だったらなぜイイ感じの女の子を見繕っておけなどと言ってきたのか謎だが……どうせくだらない理由だろう)
書かれている場所に行ってみると、一台の馬車があり御者をしているのであろう商人の男性がいた。
その男性に乗せてほしい旨を伝えるとあっさりと了承されてしまい、彼の操る馬車に同行させてもらっているというわけだ。
見慣れぬ街道を馬車が進み時折、行商人のおじさんが若者に話を振りそれに応えるという時間が流れた。
若者は馬車に乗らせてもらう際に気のいいおじさんから、行先はここからほど近いところにある小国の王都であることを聞いており、そこに着いたら何をするべきか考えていた。
母親からもらった手紙に書かれていることは馬車に乗せてもらった後冒険者になるようにということまでしか書かれていなかった。
それに今持っている路銀も多いわけではなく、数日宿に寝泊まりしたらオケラになることは確実であり、早急に仕事を見つける必要があった。
すぐに仕事が必要なら冒険者になれば(完遂可能かはともかく)仕事に困ることなどそうはない。
そのため、王都に着いたら冒険者になることに異論を言うつもりはなかったが、御者のおじさんからの忠告を聞いて少しだけげんなりしてしまったのもまた事実だ。
とはいっても、母親からの指示に冒険者になることが含まれている時点でそれを無視することは出来ない。あの母親は紛れもない狂人だが、逆らうような行動を取ってもいいことになった経験などない(比喩でも誇張でもなく一回もない)
母親からの指示なら従うほかないので冒険者になった後に危ない依頼なんかは取らなければいいかと結論を出してから、思考を放棄する。明日のことは明日考えればいいか。そう思った結果である。
「おじさん。それで王都まではどれくらいかかるんですか?」
「おん? 王都までは大体一日くらいになるな。一日じゃ着かないから陽が沈み始めたところで野宿の準備を始めるって感じだぜ」
「なるほど、ありがとうございます」
「おうよ。でも手伝えよ」
「ええ、任せてください。これでも野外での宿泊準備は経験があるので」
「お、そうなのか。そりゃ頼もしいな」
ガハハと笑いながら男は言う。もちろん若者にすべて任せるのではなく彼もしっかりと準備はする。同乗者に任せきりにするのは彼のポリシーに反するからだ。
それからしばらく馬車を進めていると、”ドシュ”という音が聞こえてきた。
御者台にいた男性は振り向いて確認する。すると馬車に一本の矢が刺さっていた。
「な!?」
これはマズイと思い至った彼は馬車を急加速させようとしたが、ドシュ、ドシュ。連続する矢の着弾音がした後に”ガッ”という音と共に馬車が停車してしまう。
「なんだ!?」
慌てて何が起きたのか振り向いて確認する。見てみると矢が車輪の間に丁度挟まっていて、回転を阻害していた。
「クソッ!」
このまま強引に発車した場合、最悪車輪が壊れかねないが、このままでは襲撃者にどうされるか分からない。
だから御者の男性はそのまま馬者を発進させるために手綱を握って、
瞬間”シュッ”と風切り音ととともに矢が飛来する。
「!?」
そのことに気づいた彼は、しかしどうすることもできない。身を伏せようにも気づいた段階が遅すぎた。
思わず目を閉じて、痛みに備えるが
……………………………………?
いつまで経っても痛みが襲ってくることはなかった。なぜなら馬車の幌から伸びた剣が盾の役割を果たし、矢を防いだからである。
「おじさん! 幌の中に入って!」
「お、おう! 分かった!」
剣を出して矢を防いだ仕立て人。言わずもがな同行していた若者である。
若者はすかさず御者の男性に馬車の中にいるように言い放ち、自分は馬車から下りて襲撃犯を警戒する。
このあたりはちらほらと岩がある荒野で、隠れられる馬車はいくつかある。
だが別に無数に岩があるわけではなく、人が隠れられそうな場所自体はそう多くない。
そのため若者が警戒するべきは矢が飛んできた方向であり、その方角にある岩を注視しておけばいい。
すると、二つの岩から計3人の男が現れた。
砂漠を行くような格好とでも言えばいいのか。頭を覆い隠せそうなターバンのようなものを各々が巻いていて、その手には剣、鉈、弓とそれぞれ違う武器が握られていた。
若者は敵の出現に思わず剣を握る手に力が篭る。今までモンスター相手に戦ったことはあっても、実戦で武器を持つ相手と戦った経験はないからだ。
だがもちろん襲撃犯たちにとってそのような事情は知ったことではない。
まず攻撃を始めたの弓を持つ男であった。
弓を構え、シュッという音と共に矢が飛んでくる。
それを若者は右に跳んで避け、男たちに向かって一息に突撃。
弓を持つ男を最初に潰そうともくろむが、流石にそれを見逃すほどほかの男たちも甘くない。
若者の目の前に剣をもった男が躍り出て、フッという呼吸音と共に剣を叩きつけてくる。
若者はその攻撃を剣で受けから、すかさず蹴りをお見舞いした。
「グホッ! 足癖の悪いやつだな!」
蹴りを受けた男はそう叫び、怯んだ体勢から即座に斬りかかって来た。
ガン、ギン。と剣と剣が火花を散らす音が響く中、鍔迫り合いをする場面が起こったらそこを見逃さずに矢が飛んで来て、慌てて若者は回避する。
しかし、剣をもつ男は即座に距離を詰めてきて首めがけて剣を振るう。
!? と驚くがそれに反応して間に剣を挟む若者。しかし忘れてはいけない。襲撃犯は何も2人だけではないということを。
ブン! という音と共に致命打を防いだばかりの若者に向かって鉈が襲い掛かる。
「なッ!」
剣を防ぎ、少しだけ体勢が崩れたところに襲い掛かる凶器。慌てて体をひねり、ぎりぎりのところで回避する。
そのまま回転の勢いを利用して鉈を振るってきた男に剣を振る。
ガンッ! と甲高い音を鳴らしたが、鉈を持つ男に剣の刃は届かない。若者が先程剣の一撃を防いだように、鉈を持つ男も若者の一撃を防いだからだ。
休む暇もなく再び剣を持つ男が若者に襲い来る。
ギン、ガンと再度始まる剣戟。しかし襲い来るのは剣だけではない。
シュッ! と合間を狙って飛んでくる矢!
「クッ!」
回避には成功するが思わず苦悶の声が漏れ出る。しかしそれだけでは終わらない。無理をして避けた代償に体勢が崩れ、その瞬間を狙いすましたかのように鉈が若者の首を刎ね飛ばそうとしてくるのだ。
若者は体勢を立て直すのを諦め、地面を転がるような形で回避する。
即座に立ち上がり、飛んでくる矢を剣で防ぐ。
劣勢。明らかなほどの劣勢。
盗賊とはここまでしっかりしたコンビネーションを持っているモノなのかと、若者は疑問に思うが口に出すことはない。
質問を飛ばして一瞬でも気が抜けたりしようものなら、次の瞬間には首が飛びかねない。
ジリジリと、若者との距離が縮まっていく男たち。
じわじわと馬車との間が狭まってきたことに焦りが湧いてきた若者は、思わず天を仰ぎそうになったが、意地でその思いを押さえつける。
かつてないほどのピンチだが、こう思ってみたら少しはましだ。
と、そう思う。
気を紛らわすことくらいしかできないが、少しだけ勇気が湧いてくる。あの母親に比べたら目の前にいる存在など文字通りアリにも劣る存在でしかないのだ。
”絶対に諦めない”そう瞳に闘志を滾らせる若者は、たとえ勝ち目が薄くとも最後まで戦い続ける決意をして、
「グアアアアアア!!」
何処からか悲鳴が響き渡った。
!? と思わず驚く若者は声を上げた存在を探す。
少なくとも若者ではないし、目の前にいる3人の男たちではない。それどころか、3人の男たちも叫び声を聞いて動揺しているように見えた。
一瞬、まさか御者のおじさんじゃ……と思うも、やはりそうではないだろう。一緒に居た時間は長くないが明らかに声質が違った。
今響いた声はどちらかというともっと若いような……。などと思ったときに答えはあっさりと目の前に飛び出てきた。
「はっはッはッ!!」
思い切り息を荒げながら一人の男が若者や襲撃者たちがいる馬車の右側へと飛び込んできた。
恰好が襲撃犯たちと似ていることからその男も目の前にいる男たちの仲間なのだろう。
襲撃犯は3人だといつの間にか思っていたが、どうやらもう一人いたらしい。
片側から先に襲い掛かり、注意を惹いたところでがら空きの背中を狙う。そう言った手筈だったのだろう。
では、一体なぜ悲鳴を上げながら飛び出てきたのか?
その理由もまた、すぐに分かる。
逃げてきた男を狙いすまし、キラリと光るものが飛んで来る。
狙い違わずその物体は男の足に命中。ガアアアアア!! と悲鳴を上げるもう一人の襲撃犯。
何が飛んできたのか見てみると、それは半ばから折れた剣であった。
スタ、スタ、と足音が聞こえてくる。若者からは馬車が邪魔して見えないが、襲撃犯たちには見えるのだろう。
若者のことなど眼中にないように足音を出す存在を見ている。若者も思わず一体何がいるのか気になり、馬車の角を見つめてしまう。一体何が出てくるのか興味が惹かれるのも仕方がないことではあった。
「──はあ、……まだ3人もいたんですか」
その声は聞こえる限りとても若かった。それこそ若者よりも断然年若いと断言できるほどに。
スタ、スタと声の主は歩み続け、ついに馬車の角から姿を現した。
「え」
そう声が漏れるのも仕方ない。いくら声質からかなり若いことが予測できても実際に見ると受ける衝撃というものはとても大きいものだ。
声の主。
横顔から推測できる年齢は10歳になるかどうかといったところで、髪色は根元が黒、しかし先へ進むほどオレンジ色へと変じている。
目の色は赤。その色は若者がかつて一度だけ見た名前も知らない宝石のようだった。
その幼い少女は、美しい容姿に似合わないよく言えばシンプル。悪く言えば全く彼女という素材を生かそうとしない旅装を着ていて若者が言えた義理はないが、思わずもったいないと思ってしまった。
可愛い服も綺麗な服も。少女らしい服も大人っぽい服も、頭に浮かぶ大抵の服は彼女に似合っていて、たったの一瞬しか見ていないのに、あの幼い少女に視線が釘付けになってしまっていた。
「面倒ですが……さっさと終わらせますか…………ん?」
流石にガン見しすぎたのだろう。彼女は若者の方へ視線を寄越す。
情けないことに、彼女の赤い瞳に
「──とりあえず、あなたはそこを動かないでください」
その言葉を受けて、やっと言葉を紡ぐことが出来た。自分も戦う、と
しかしその言葉を受けても彼女は全く動じずに、
「この程度。私一人で十分です」
そう言って
「ですので、あなたはそこで待っていてください。あなたにも、後ろの馬車にも、一切の被害を出さないことを約束しましょう」
顔を向けてからそう続けた。
その時初めて少女の髪の一部が銀色であることに若者は気づいた。
「な、なめるな! このガキが!!」
そう言って斬りかかっていったのは剣を持つ男。
手に持つ剣を斜めに振り、少女の体を切り裂こうとする。
しかし
「グボッ!」
結果はうめき声を出させられただけだった。
彼女がしたことは単純で、男が剣を振り下ろしてきたところで片手の拳で肘を打ち上げる。
剣の軌道が上に逸れたところで腕をくぐるようにして攻撃を避ける。
腕の下を通る際に男の懐に潜り込んで、肘でみぞおちを深くえぐり、男が吹き飛ぶ瞬間に手から剣をかすめと取る。
これをほんのひと呼吸。一瞬の間に済ませたのだ。
「動かないでくださいね。下手に避けると致命傷を負いかねませんから……」
まるで敵を心配するような言葉だが、その言葉の真意はただ早く終わらせたいというだけであることなど分かり切っている。
その証拠として、残る男たちは彼女へと一斉に攻撃を開始した。
飛んでくる矢はその場から一歩も動かずに剣で弾き、ブンッと風切り音を出して迫る鉈は半歩動いて避ける。
鉈を振り切ってがら空きになった腹に膝蹴りを少女はお見舞いする。
「グオッ!」
「フッ!」
うめき声を上げる男の顎にすかさず掌底を叩き込む。
意識が昏倒して倒れ込む男。
その瞬間、矢が少女の顔めがけて飛んでくる。
しかし、少女は視線を矢に向けることもなく、顔をクイッと傾けて回避し、矢は明後日の方向に向かって飛んでいった。
「ひっ」
ギロ。と少女から向けられた眼光に怯む弓を持つ男。
一歩後ずさったかと思ったら、そのまま脱兎の如く駆けだした。
これは勝てない。そう判断したのだろうがあまりも遅い。
少女は逃げる男を追うような真似はせず馬車の方へ、さらに言うと馬車の車輪に近付いた。
若者が一体何をするのか疑問に思ったのもどこ吹く風に、少女は車輪の間に刺さっている矢を手に取り、グッと力を込めて抜き取った。
少女はそのままくるっと反転。抜き取った矢を握り、まるでやり投げでもするかのようなポーズを取る。
弓を持った男は既にある程度の距離離れている。だが、少女との間に遮蔽物はなく一直線に線が結ばれるような立ち位置になっていた。
腕を振り絞る、瞬間。
上から押さえつけたバネを開放するかのように、握られた矢がミサイルの如く逃げる襲撃犯に向かって猛スピードで飛翔する。
矢はズドッ! という音を立てて
肩の肉をえぐるように命中し、その痛みで気絶したのかそれから動きはなかった。
「はー。……一直線に逃げるなんて。あれ、本当に弓兵?」
少女は思わずといった感じでそう溢す。
若者は何も行動を起こせない。
先ほどまで自身の命を脅かして者たちを一方的に、まるで子供と遊ぶかのように。あっという間に制圧してしまった少女に対して呆然としてしまったのだ。
「それで、怪我はありませんか?」
いきなり少女がそう問いかける。もちろんボケっとした顔をさらしている若者に向けてだ。
「あ、あ、うん。大丈夫」
かろうじてそう返すことは出来た。……本当にかろうじていった感じだが。
「助かったよ。君が助けてくれなかったらどうなっていたことか」
「気にすることはありません。そんなことより負傷者はいますか。いるのなら直ちに手当をしますが……」
若者の感謝の言葉もそこそこに、少女は要救護者の有無を確認する。
それは馬車の幌から御者をしていたおじさんが降り立ち、その様子から怪我をしていないことが分かることから確認できた。
おじさんは突如現れた自分たちを救った少女を確認し、その見た目に驚くような仕草をしたがすぐに持ち直して、感謝の言葉を投げかけた。
「助かったぜ嬢ちゃん。嬢ちゃんが来てくれなかったら今頃、俺たちはハゲタカの餌になっていたところだった」
本当に感謝していることが分かる声でそう言った。
それに対して少女は
「そう。助けになったのならよかった」
そう言った後に
「それで、よかったらだけど乗せてもらってもいい? 出来れば水と、少しでいいから食料も分けてくれるとありがたい」
そう続けた。
その言葉を聞いたおじさんは、なんだ、そんなことでいいのか。といった反応を返し、快く承諾した。
車輪に挟まっている矢を抜いてから御者台に戻るおじさん。
それを尻目に少女は倒れている襲撃犯たちへと歩み寄る。
「な、なにをするの?」
「……回収」
「なんで?」
「こいつらは恐らく逃亡兵。街で突き出せば謝礼金くらいは貰える」
無表情でそう言い放つ少女に対して若者は
「手伝うよ」
そう言うことが限界だった。
カラカラと車輪の回る音をBGMにして、一行を乗せた馬車は道を進む。
御者台におじさんが座り、幌の中に少女と若者の2人。
ついでとばかりに襲撃犯たちもいるがスペースはほとんど取っていない。なぜなら少女が襲撃者たちを折り畳んで(人を折り畳むとか意味が分からないが確かに折り畳んだのだ)トーテムポールみたいに縦に重ねたのである。
若者は少女と向かい合うように座っていて、どことなく緊張しているのが分かる。有り体に言えば
若者とは反対側に座ってる少女は今、御者のおじさんから分けてもらった水と食料の一つである干し肉を齧っていた。喉が渇いたのか時折、水差しから水を直接ごくごくと飲んでいる。正直な感想を言わせてもらうと非常に可愛らしかった。
「ゴクゴク……ガブ」
「……」
「ガブ、ブチッ」
「……」
「モグモグ……ゴク」
「……」
「……、何か?」
「えあ、いや、何でもないよ?」
「……」
流石に見すぎである。どれだけ可愛かろうと食事の最中をガン見するのは礼儀がなっていないと言われても致し方がない。
「えっと、その~」
「ゴクゴク……」
何かを言おうとしても言葉が出ない。まるで好きな子を前にした男子小学生みたいな態度を取っていしまっている若者。
そんな相手を無視することに決めたのか。少女は何食わぬ顔で食事を再開する。その様は非常に愛らしかった。
どうすればいいのか、判断に困っている若者はちらちらと少女の顔を見る。
黒からオレンジへと変色していて、一部分だけが銀の見たことのない髪色。
まるで赤い宝石かのような美しい瞳。
その
しかし、若者の乏しい語彙からは美しいくらいの言葉しか見つからない彼女の表情は、馬車が跳ねた時わずかに歪んだ。
何か石を踏んだのだろうが、そんなことはどうでもいい。今重要なのは彼女のことだ。
もしかしたら先ほどの戦闘で見えないところを怪我しているのかもしれない。
「ねえ、もしかして怪我してる?」
「……」
少女は何も言わない。肯定もしなければ否定もしない。
「ごめん。少しだけ診せて」
そう言って若者は少女の近くに来てから上の服を捲る。
出会って少ししか経っていないことを鑑みるに非常識と言わざるを得ないような行動だが、以外にも少女は暴れたり、抵抗したりすることもなかった。
若者に悪意がないことを見抜いているのだろう。これが単なる治療を目的としたことでしかないことも。
少女の服の下を見た若者は、その惨状に絶句した。
上半身は包帯が巻かれていないところを探す方が難しいレベルで包帯だらけで、目に見える範囲のほとんどから血が滲んでいる。あまりにも痛々しかった。
このような大ケガをしていてあのような大立ち回りをしたというのか。にわかには信じられない。
足にもよく見たら包帯があり、全身怪我だらけなのだろう。下半身は流石に見えないが無傷であるとは思えない。
それになぜ今まで気づかなかったのか疑問なほどに、服は斬られた痕のようなものでボロボロだ。
それを見て若者は
「光よ。傷を癒せ」
そう短く唱える。
少女の身体が僅かに光り、痛みが引いていく。
「これは」
「わた、……僕の特技みたいなもので。流石に本職には劣るから完治まではいかないけど」
光が収まった後。少女の体に残っていたダメージはかなり減っていた。もちろん完全に治ったわけではないが問題ない。一日寝ただけで傷の大部分は治るという回復力を持っているので、ここまで治ったらあと2,3日は完治までかかった傷が明日には治っていることだろう。
「……」
手をグッパ。グッパとして自身の身体の様子を確認し終えた少女は、傷の治療をした目の前の存在をしっかりと見据える。
少女の瞳に見据えられて、顔が真っ赤になり居心地悪そうにしながらもどこか嬉しそうにしている若者。
若者をしばしの間見つめ、少女は一言
「あなた。
と聞いた。
は? と思わず頭の中で疑問符が飛び交い、何を考えて少女は若者に向かってそう問いかけたのか考えようとしたところで、
「いえ、何でもありません。おかしなことを聞いて申し訳ありませんでした」
そう言って話を終わらせた。
若者は考える。
なんでそんな恰好をと問われた意図を。まさか
思考が空回りしそうになったかが、ようやく自分がするべきことに思い至る。
初めて会った人とはまずそうするのが正しいというのに、今の今まで気づけなかったのは対人経験の少なさが原因だろう。
「わ、……僕の名前はユーシ、……ユリウスっていうんだ。よろしく」
そう言って握手のために手を伸ばす。
しかし少女はその手を取らず、
「………私の名前は、……知らなくても問題ありません。知る必要もないはずでしょう?」
取り付く島もなかった。
燃え尽きたぜ。真っ白にな。という言葉が似合うようになってしまった若者もといユリウス。
だが続けてこうも言った。
「ですが、……今度縁があれば。その時に改めて教えます」
どうやら神は無慈悲ではないようだ。
目に分かるくらい浮かれた表情を浮かべるユリウス。しかし少女はそんな相手には目もくれずに目を閉じ眠ってしまった。眠るさまも非常に愛らしい。
クー、クーと寝息を立てて完全に寝入ってしまった少女を尻目にユリウスは浮かれる。どうやら完全に脈が一切ないというわけではないことを確認できたからだ。…………縁があれば教えるということは、もう一回会う気は実質のところないわけで、言い放った後にすぐさま寝入ったフリではなく本当に寝たことから、客観的に見て脈があるとはとても見えないが。それは言わぬが華というものだろう。
「坊主。浮かれてんな~」
御者台から幌の中の様子を窺がっていたのであろうおじさんは若者に向かってそう言った。
ギョッ! といった感じで首から先だけを幌の中に出すおじさんを見るユリウス。それを気にせずおじさんは、
「がんばれよ坊主。ちなみにこれは俺の勘なんだが…………多分その嬢ちゃんめっちゃ競争率高いぜ。だから狙うなら頑張れよ。応援してるぜ~坊主」
ニヤニヤした顔でそう言ってから首を引っ込め、ガハハと笑う。
それに対して若者は、そんなんじゃないし。などと否定の言葉を言うが聞いている様子はない。
暫く否定の言葉を投げかけてから、諦めたのであろう若者は嘆息して、マナー違反であることを承知しながらも少女の寝顔を盗み見ることにした。
自分が彼女のことを好き? ありえないだろう。そのようなことを若者は思う。
若者が母親から貰った手紙にはこの様な事が書かれていた
『ユーシア。あなたは冒険中
『あと、一応言っておくけど集めるハーレムメンバーは全員女よ。もしも男を連れてきてみようものならあなたを毛虫に変えて山の中に放り込むから。間違えないように』
といったことが書かれていた。あまりにも傍若無人な母親である。
つまり。ユリウスの本名はユーシアであり、性別は男ではなく女である。
このことから若者もといユリウスもといユーシアは目の前の少女を好きになるなんてことはありえないと判じたのだ。なぜなら性別は同じなのだから。
まあ、そのような考えをどこまで保てるのか疑問だが。温かい目で見守るとしよう。
そんなこんなで馬車は進む。まだ見ぬ王都へ向けてカラカラと。
気のいい御者のおじさんと男装少女とTSロリ(笑)と折り畳まれた気絶済み兵士崩れの賊(トーテムポール)を乗せて。
さて、少年(少女)と少女(TS娘)の行く先はどうなるのか。
それはまだ、誰にも分からない。
あまり引っ張るようなことではないので読者の皆さんにだけお教えしよう。
ユーシアの持つギフトは勇者であり、数百年ぶりに現れた勇者その人である。
今は勇者の卵とでも形容するのが正しい存在だが、これから世界でも有数の実力者になる。
だが、それは別にどうということはない。
既にこの世界に迫る危機は彼女ではない別の
彼女が勇者として動き出すのがもう少し早ければ。
あるいは世界を救った英雄が存在しなければ、彼女こそが主人公に成れたことだろう。
だがそれは既に後の祭り。
この世界は勇者の力を借りずに危機を乗り越えてしまった。
そう。
既に勇者である彼女が倒すべき敵は存在しない。
だからこれは、物語として語るのなら単なる蛇足なのだろう。
勇者が主人公ではない。世界を救うわけでもなければ人々を救済するわけでもない。
ただ一人の
きっとこれは、
きっとこれは、
とはいっても、既に始まったお話は(作者が足を洗うことを除き)止まらない。
ああ、願わくば。どうか。この話が完結することを祈ろう。
そして、主人公に成れたであろうユーシアは、自身が
気づくことはついぞなかった。
アンケートのR18の方はもう少しお待ちください。
ソッチの方を出したらしばらく本編を書き溜めて、それから更新再開するつもりです。
ですのでまたしばらく更新しません。もしよろしければ気長に待っていただけると幸いです。