ぼくのSubの二宮さんがあまりにもズルすぎる   作:熊々楠

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話し合い①

 

 昼休み。自分の机にだらんと力なくうつ伏せになる。柳瀬隊の今シーズンランク戦はすべて終わった柳瀬は達成感や疲労感やらで溶けていた。

 自分の隊を作ると決めてからの日々はあっという間で、いろいろなことが……本当に、色々なことがあった。しかしいざ時間が空いてしまえば何をすればいいのかわからなくなってしまったのだ。最終順位の確定までにはもう何日かあるが、ひとまず中位帯なのは確定している。初参加としては上々の結果と言えるだろう。

 近頃、なんとなく落ち着かない。食欲はなくはないけれど、人影がちかちかと目を刺激してあまり食事の気分にならない。眉を寄せながら目を閉じた。原因はわかっているが、どうにかしようとも思えない。

 

「たつき」

 

 が、親友の声に呼ばれてぱっと目を開ける。伸びをするように身体を起こし、背もたれに身体を預けた。彼は机の縁に手をかけて屈み、内緒話のようにひそひそ声で話かけてくる。なるべくいつも通りに見えるように顔を作り、彼の声がよく聞こえるよう耳を寄せた。

 

「こた、どした?」

「……さっき、一個上の先輩が声かけてきたんだけどさ。最近、たつきがプレイに誘ってものってくれないって」

 

 寄せた耳を、思わず逆側にのけぞらせた。巴とプレイの話をするのは久々も久々だった。けれどスルーするわけにも行かず口をもにょもにょと動かした後、同じくひそひそ声で返す。

 

「えっ……えっ? どういうこと? なんでこたに?」

「いや、普通にいつも一緒にいるからだと思うけど……。ボーダーが忙しいからじゃなかなって答えておいたけどさ、……あっ、でもその人も、言いふらしてたとかじゃないよ、普通に相談って感じだったし」

「ああ……そっか。うん、ありがと……」

 

 柳瀬と巴は、他の同級生がいて話の流れで、という場合を除き、互いにプレイの話をすることはなかった。特に致命的な何かがあったわけではないが、以前ちょっとしたケアを目的として、ノリでプレイする? という話になったことがある。実際にして、できたのだが、なんとなく気まずい雰囲気になってしまったのだ。どちらが悪いとかではなく、強いて言えばこれまでの彼らの関係性ではプレイという行為との相性があまりよくなかったのだろう。少なくとも自分たちはプレイをする仲ではないな、というのが明言せずとも共通認識となり、自然とお互いのパートナーの話も避けるようになっていた。

 巴もいくら相談されたとはいえ柳瀬に話をするのは気まずいのだろう、やはり柳瀬と同じように口をもにょもにょさせている。

 曖昧に頷き了承する。話というとそれだけのはずなのだが、巴は意を決したように柳瀬を見上げた。

 

「……あのさ、ボーダーが忙しいっていうのは、隊長なんだし、ランク戦があったし、本当だと思うけど。……でも、友達……というか、先輩とプレイする時間くらいはあるよね? ……何かあったんだよね」

 

 確信をもって巴は問うていた。その視線に柳瀬はひるんでしまい、その反応だけで巴には十分な答えとなる。

 

「い、やぁ……」

 

 何か言おうとしたが結局まごついてしまった。心配させているというより、心配ばかりさせている。申し訳なさが積もるが友人は、申し訳ないと思うくらいなら早く話しなよ、と言う目でみてくる。柳瀬はやはり迷って……それでも選択肢はない。おずおずと口を開いた。

 

 

 

「……えっ、無理矢理キスしたの。最低じゃん」

「うぅっ……」

 

 端的な言葉が胸に刺さるが、甘んじて受け入れるほかない。

 弁当を広げ、人があまり来ない場所を選んで一連の話をした。柳瀬は相手が誰かというのは伏せて、プレイするだけという話をしていた相手のことを好きになっていたこと、パートナーを解消するにあたり、最後のプレイでキスをしたこと、それによりセーフワードを使わせてしまったこと。諸々あって、今は誰であってもプレイをする気にはなれないことを話した。巴はSwitchなのでDom側の視点もSub側の視点も持っているが、そのどちら側から見ても、柳瀬のしたことはとても褒められる行為ではなかった。

 友人が何らかのトラブルに巻き込まれているのかと思ったら、その友人がトラブルを起こした側だった。それを知った巴の心境は複雑だったが、柳瀬が今にも倒れそうな顔をしているため、戸惑いつつも現状把握のために一つ尋ねる。

 

「……それ以来、相手とは会ったの?」

「……連絡は、来てたんだけど……っていうか、作戦室にも来てたんだけど……」

「……ボーダー隊員?」

「うっ……。う、うん……そうなんだけど、ただその……に、にげ、てて……」

「……たつきが?」

「……うん……」

「……」

 

 柳瀬のあんまりにもあんまりな行動に重い沈黙がうまれた。やっぱり昼食をとる気にもなれず、柳瀬は食べかけのパンを袋に戻した。

 

「……連絡来てるんだったらさ、向こうに顔も見たくないくらい嫌われてるってわけじゃないんでしょ? 謝りなよ」

「……うん……」

「メールしなよ」

「うん……」

「今」

「えっ、い、いま……?」

「いま!」

 

 急かされるままに端末を開き、わたわたと操作する。いくつもの不在着信と、未開封のまま放置されたメールが目に入りぐっと息がつまる。ひとまず新規作成画面だ、文面は……。

 

「……、」

「……送った?」

「……な、なんて送ればいい……?!」

 

 ふにゃふにゃと半泣きで困り果てていた。こんな友人を見るのは付き合いの長い巴も初めてでぎょっとする。落ち込んでいるのは、彼の以前所属していた隊が急に解散してしまったとき散々見たけれど。しかしいくら驚いたとしても、ここは彼を甘やかすべき所ではない。きゅっと唇を引き結んでもう! と少し怒ったように言う。

 

「それはたつきが考えないと意味ないでしょ!」

「は、はいぃ……」

 

 結局昼休みの時間いっぱいつかって考えたメッセージは『無視してごめんなさい、お話ししたいことがあります』という一文だった。

 

 

 

 *

 

 

 

 午後一のコマが終わり、新しくメールを受信していることに気が付いた。確認するとあれだけ待ちわびていた人物からのメールで、文面からはどうやら話し合いに応じてくれるらしいことがわかる。ノータイムで彼の番号に送信して……コールが続いても中々でないことに焦れ、応答無しの自動メッセージが流れはじめたところでようやく中学の時間割ではまだ授業中であることを思い出す。授業一コマの時間が大学と中学ではまるでちがうのだ。

 思わず舌打ちをして再びメール画面を開く。了解した旨を一言だけ返信して端末をしまった。今日は次のコマまで授業が入っている。授業に身が入る気はしないが、ここしばらくの二宮はそもそも身が入っているとは言いづらかった。それでも内容は漏らさず把握しているので元々の能力の高さがうかがえるのだが、それでも出ないわけにはいかない。

 次のコマが終わる時間と中学の終わる時間にあたりをつけ、何から話すべきかと、深呼吸のような深いため息をついた。

 

 

 返ってきたのは『了解』の一言のみだった。文字だけの文面では相手の感情を推測でも受け取ることが難しく、しかし同時に、メールの返信よりも先に入っていた不在着信にやはり心臓が跳ねる。

 

「返信来てた?」

「うん、了解って……」

 

 そう話しながらボーダーへの通路をくぐると、名前を呼ばれた。ひどく懐かしく感じて、聞くのが怖くて、けれどなによりも聞きたかった声。

 

「──柳瀬!」

「……に、のみや、さん……?」

 

 声は驚きに掠れていた。彼も大学からそのまま柳瀬の元へ来たのだろう、いつものスーツではなく普段着らしかった。すぐ側まで駆け寄った二宮は柳瀬の手を取り、やっと安心したようにまなじりを緩めた。その表情に柳瀬はより驚き固まる。

 ふ、と息をつき、隣で呆然としている巴に二宮は声をかけた。

 

「……巴、悪い。柳瀬を借りる」

「え、あ、はい……」

「っ、こた、ごめん、またね!」

 

 早足になりつつ巴を振り返り柳瀬は告げた。二人が去り、やっと我に帰った巴はぼんやりと呟く。

 

「……もしかして、たつきが話してた相手って……二宮さんだったの……?」

 

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