柳瀬と柿崎、影浦が話している間に、二宮は東とも連絡を付けていたらしい。柿崎たちと別れたあとすぐに別の場所へ向かう二宮から次に会いにいく人物の名前を聞き、柳瀬は素っ頓狂な声を上げた。
たしかに東とはここ半年ほどで話す機会が増えたとは思っていたが、まさか二宮から話が伝わっているとは少しも知らなかった。しきりに二人の顔を見比べる柳瀬に、東は「悪いな」といつも通りの朗らかな笑みを浮かべる。二宮の言葉から察するに柳瀬をずっと見守ってくれていたという話だろうから、別に悪いことはないのだけれど、というかむしろ柳瀬は感謝するべきところなのだろうが。何か壮大なドッキリでもしかけられていたような心地がした。
「大まかな話は二宮から聞いたよ。ひとまずおめでとう」
「あ……ありがとうございます……?」
これまで見てきた反応とはまた違う言葉を贈られ、一瞬戸惑う。首を傾げられたのでそのまま伝えると、やはり東は柔和な笑みを浮かべたままだ。
「まぁ……別の言葉は、それこそ他でいくらでも言われてるだろう。それに、なんとなくこういう風になるんだろうなっていうのは二宮から話を聞いてて思ってたからな」
そう東が考えていたのは二宮も初耳だったようだ。動揺したようにどういうことですかと尋ねている。
「何年の付き合いだと思ってるんだ」
やはり東は笑って返していたが、二宮としては複雑だ。事情をある程度話していたとはいえそこまで把握していたとは。もしかすると二宮が自身の感情にはっきりと気付く前から、東には勘付かれていたのではとすら思わされる。
微妙な顔をしている二宮に微笑みを返しつつ、東は口を開いた。
「教授とのセッションはどうする? パートナーが確定したならもう頼まなくてもいいのか? それとも別か?」
「ああ……、そうですね。せっかくですが……。俺の方から改めて、またご挨拶に伺おうかと」
「えっ、あっ、そ、それって二宮さんの、新しく見つかったプレイできる相手……ですよね。でも二宮さん、体質的にも何かあったときのために連絡はすぐ取れるようにしておいた方が……。というか、めちゃくちゃ大変なのはわかるんですけど、三人目、とかも……探した方がいいんじゃない、ですか」
二人は意外そうに瞬いた。探し出すまで二宮の負担が大きいのはともかく、有事の際を考えれば柳瀬の意見は正しい。欲求を解消できないことは下手すれば生命にも関わる問題だからだ。
「……柳瀬は、恋人である二宮が別なパートナーを持っていても平気なのか?」
「……正直まだ、プレイは友達としかしたことないし、友達にいて平気だった別のパートナーの存在も、もしかしたら平気じゃないのかも……ですけど、でも、それで二宮さんに何かあった方がいやなので。……二宮さんとその人が、どういうプレイをしてても……」
「……柳瀬」
二宮を案じる言葉は健気だが、その言い方に東は内心で首を傾げた。二宮はさして不思議に思っていない様子だが、話題を少し変えるふりをして念のために確認を取る。
「そうか。……二宮、教授とのプレイって、病院でするようなのと同じ感じだよな? 基本コマンドの中からいくつか選ぶ形式の……」
「そうですね。俺のNGコマンドを避けて、それ以外のComeやStay、Look……本当に初歩的なものだけです」
「……」
それを聞いた柳瀬はぽかんとして、段々気まずい表情を浮かべた。かと思えばじわじわと赤くさせていき、ついには顔を覆い項垂れてしまった。
その様子を見て確信した。きっと、二宮が受けているプレイの内容を深くは聞いていなかったのだろう。その中で徐々に二宮への想いを自覚したとして、ついにはパートナー解消の危機に陥ってしまった。その過程であらぬ妄想を膨らませていたとしても、まあ、さして不思議ではない。
(う〜〜ん……さすがは中学生だ)
項垂れて復活できないままの柳瀬と、そんな彼に心配そうに声をかける二宮を眺めながら東はにっこりと頷いた。思春期特有……と言っていいのかはともかく、それでもなお彼の体質を心配し、別なパートナーになり得る人物を探した方がと提案できる。彼はまだ少年と言うに相応しい年齢だが、なるほど中々にいい関係ではないか。
流石にいま彼らに伝えてやるのは、二宮にも柳瀬にも毒になり得てしまうから言わないけれど。何年か後に思い出話として語ってやってもいいだろう。
それまで彼らが、仲良くやれていればいいと願う。
*
後日の話ではあるが、柳瀬は巴にもしっかりと二宮との関係を他言無用であることも含め伝えた。巴から二宮への印象は、ここ半年で柳瀬からやたらと話を聞くようになったり、以前一度だけ勉強を見てもらったことのある現B級部隊の隊長だ。
「……それで、結局仲直りできたってこと?」
「うん! ちょっと遅くなっちゃったけど、二宮さんの誕生日も祝ったんだ。……それで今度、一緒に買い物に出かけるつもり! ……これってさぁ、もしかしなくても、……デートだよね」
ひそひそと声を潜めて柳瀬は巴に尋ねた。状況を整理し、巴もこくりと頷く。
「付き合ってる人と二人でお出かけは……デートだね。間違いなく」
「やっぱり〜?!」
はしゃぐ様子からはあの情けない顔を想像することもできない。すっかり調子は戻ったようで、その影響か授業も爛々とした目で受けているのを横目で見ていた。二宮との関係は、柳瀬にとっていい刺激になっているらしい。
色々考えは浮かんだが結局、「もう無理矢理キスなんてしちゃだめだよ」とよくよく言い含めて。丸く収まったのであればそれ以上のことはないと、巴は彼らの関係を応援することにした。
柳瀬が友達のプレイ相手は全員解消すると決めた影響で再び相談を受け、またもにょもにょと口をまごつかせながら柳瀬に伝えるのはまた別の話だ。