ぼくのSubの二宮さんがあまりにもズルすぎる   作:熊々楠

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柿崎隊と

 柿崎隊作戦室の前でうろうろし始めてそろそろ五分が経過しそうだった。柳瀬が所属していた隊が解散したことに伴い、落ち込んでいた柳瀬へのフォローで絶大なる心配と多大なる迷惑をかけた。柳瀬を元々ボーダーへ誘ったのが巴であり、その関係で紹介された柿崎隊の面々も柳瀬と深く面識を持っていた。

 それが急に連絡を絶ったのだから、隊の解散という事情はボーダー内で共有されているにしてもあんまりな態度だ。

 謝りたいけれど、もしもう愛想を尽かされていたらどうしよう。今更謝っても遅いと思われていたら。優しく接してくれた彼らがそんな風に思うはずないというのは何より柳瀬が一番わかっていたが、決心して作戦室の扉を開こうとするたびに隊の解散を告げられたことを思い出して最後の一歩が止まってしまう。

 そうしてまたぐるぐると考え始めたとき、背後からかけられた声に柳瀬は飛び上がった。

 

「あら、たつきくん来てたの。どうぞ入って?」

「てっ、照屋先輩」

 

 何を言われるかびくびくしていた。いやそれよりも早く謝らなければ、詰まって転びそうになる舌を懸命に動かそうとするが、それよりも照屋が微笑みかけて入室を勧める方が早かった。

 

「ちょうど今日、美味しい紅茶を持ってきたところなの。真登花先輩が持ってきてくれたクッキーもまだ残ってたはずだし……お茶にしましょう?」

 

 照屋はいつも通りの態度だ。常の柳瀬であれば間髪入れずに勢い良くうなずくのだが、今日は事情が違う。暗い表情でうつむく柳瀬を、照屋はやはりいつも通りに部屋へ案内した。中には柿崎と宇井がいた。笑顔で「いらっしゃい」とあいさつした彼らは、まるで柳瀬が来ることをわかっていたみたいだ。

 いれたてのルビー色の紅茶にきつね色のクッキー。美味しそうとは思うけれど、無邪気に手を付ける気にはなれなかった。きょろと室内を見回して、数時間前まで一緒に授業を受けていた親友の姿を探す。

 

「……ええと、こたは、まだ来てないんですね……..?」

「虎太郎はランク戦に行ったよ。さっき向かったばかりだから、まだしばらくかかるんじゃないかな」

「ああ、そうなんですね…….」

 

 巴と柳瀬はすでに学校で顔を合わせており、昼の間に一連のことを謝っていた。彼は柳瀬がまた学校に来るようになったことをクラスメイトの誰よりも喜び励ましてくれた。そんな彼とタイミングが合わなかったことは残念なような、まだ少し気まずいからよかったような。

 背筋を伸ばし、腰に置いた手を握りしめる。深々と頭を下げた。

 

「……柿崎さん、宇井先輩、照屋先輩。……ごめんなさい、たくさん、ご迷惑とご心配をおかけしました」

 

 視界には触れたらやけどしそうな温度の紅茶しかみえないが、布のこすれる音で彼らが顔を見合わせているのがわかる。一拍おいて柑崎がかけた。

 

「……たつき、顔を上げてくれ」

 

 一度ぎゅっと目を瞑り、それから恐る恐る顔を上げると三人とも安心させるように微笑んでいた。柳瀬の心臓はなお早鐘を打ち続けている。

 

「俺たちは誰も、たつきが悪いだとかは思ってない。……ああ、学校を無断でサボってたっていうのは……少し悪いかもしれないが」

「どうどう? 先生に怒られたりした?」

「……、ちょっと怒られました」

 

 やや冗談めかして言った柿崎に続いて宇井がゆるく首を傾げた。柳瀬の返答に軽く笑った宇井の表情は穏やかで、その中に心配の色がにじんでいるのに気が付いてッキリと胸が痛む。

 

「また私たちの作戦室を訪れてくれたことが嬉しいわ。同じ三門市を守る仲間なんだから」

 

 照屋の言葉に返事をしようとして。ひどく声が震えてしまいそうな気がして、うなずくことしかできなかった。

 ほどよくぬるくなった紅茶とクッキーに舌鼓を打ち、すっかり感じなれた居心地の良さの中に、そわそわとした落ち着かなさが生じた。

 

「……あ、あの。学校でも会ったんですけど。やっぱりこたに会ってきます」

 

 そう告げると彼らはいってらっしゃいと快く見送った。ついでに久々にランク戦もやってきたらどうだ、とは結崎の提案だ。

 さらに浮足立った気分の柳瀬は改めて礼をいい作戦室を後にする。足取り軽やかに、友人の元へまっすぐに向かっていった。

 

 

 

 作戦室に残る彼らはカップを片付けつつ、照屋が柿崎に問いかけた。

 

「……やっぱり、解散の理由は伝えない方向ですか?」

「……ああ。たつきには知る権利があると思って調べたが……あんまりだろう。たつきのサイドエフェクトを当てにして、思っていたものと違ったことがきっかけで仲違いだなんて」

 

 柿崎はとあるメモを机から取り出した。柳瀬に渡すか渡すまいかを最後まで悩み、結局渡すことはなかった。そのままシュレッダーにかける様子を見て宇井は腕を組む。

 

「……う〜ん、でも……本人もどこかで気付いてるような気がするけどねえ。サイドエフェクト目的で隊に誘っておいて、その話をしないなんてことないだろうし……」

 

 柳瀬にはサイドエフェクトがあった。公にしていたわけではなくとも、噂はどこからか広がるものだ。B級ランク戦で順位が伸び悩んでいた隊がその噂を聞きつけ、柳瀬を隊へ誘った。しかし柳瀬の持つサイドエフェクトは彼らの考えていたほど便利なものでもなく、こんなはずではなかったと内輪で揉めて解散、一部脱退の結末となった。

 そもそもボーダーの本髄はランク戦ではなく市の防衛であり、そんなことに巻き込むなんてと理由が判明した当初照屋は憤慨していた。ショックを受けているのは柳瀬だけではない。巴が柳瀬をボーダーに誘ったのは彼の特殊な体質を聞き、もしかしたらサイドエフェクトかもしれないと思い至った経緯にあるというし、今は彼らのメンタル面が優先だ。

 

「虎太郎もたつきも大丈夫だとは思うが……今は俺たちが支えてやるべき時だ、二人とも頼んだぞ」

 

 柿崎の言葉に、彼らはうなずきあった。

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