Archive of Coral   作:コーラルの色彩

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先生(彼女)もまた来訪者(ビジター)

 

“……我々は望む、七つの嘆きを。”

“……我々は覚えている、ジェリコの古則を。”

 

 

 

 

....

 

『シッテムの箱』にようこそ、先生。 

 

 何かの声に導かれるように意識が浮上する。目を開けると私はいつの間にか電車に乗っていたようで朝焼けのような陽が照らす車内には私と正面に座っている『一人の女の子』しか見当たらないという日常的な風景と非日常的な光景が目に映っている。

 

 私が現状の把握に手間取っていると女の子は唐突に語り始めた。

 

 『……私のミスでした。私の選択、そしてそれによって招かれたすべての状況。結局、この結果に辿り着いて初めて、貴女の方が正しかった事を悟るだなんて…』

 

 深刻な声色で語る彼女の言葉には確かな重みがある。私には身に覚えが無い筈なのだが。

 

 『図々しい話ですが、お願いします。先生…きっと私の話は忘れてしまいますがそれでも構いません。何も思い出せなくても、貴女は同じ状況で同じ選択をされるでしょうから。…ですから【大事なのは経験ではなく、選択】。先生にしか出来ない選択の数々』

 

 彼女の言葉を聞いていると私の脳裏には別の場所の風景と複数の少女たちが居る風景が浮かんできた。

 

補習授業部

風紀委員会

美食研究会

便利屋68

 

そして

 

対策委員会

 

 何故だろうか彼女たちの事を知らないのに次々と何か言葉が脳裏をよぎっていく。確かに知らない筈なのに私は彼女たちを知っている。

 

 見知らぬ彼女たちが私にとってとても大切な子たちであることを感じる。目の前の顔もハッキリとは見えない彼女にも同じく。

 

 『先生は私に責任を負うものについて話してくれた事がありましたよね。あの時の私にはそれが理解できませんでしたがこうなってしまって漸く理解出来ました。先生は大人としての【責任と義務】。そして、その延長線上にある選択を行っていたのだと』

 

 そうだ、私はその為に此処に居る筈だ。あの場所では多くの【生徒】が責任に押しつぶされそうになっている。だから、私がその一部でも背負うことで彼女たちを楽にできればと…。

 

 『ですから、先生…。私が信じている大人である貴女にならこの捻じれて歪んだ先の終着点とはまた別の結末を……そこへ辿り着く選択肢を見つけることが出来るはずです』

 

 まだ何も理解できていない筈でまだ何も始まっていない筈なので何故か自分のするべきことが分かった気がした。

 

 『だから、キヴォトスの皆をお願いしますね。【先生】』

 

 私は席を立つと少女に近づいて掌を頭に置いた。

 

 『先生……?』

 

 「またね、■■■。そんなに悲しそうな顔をしないできっとまた会えるから」

 

 台詞が自然と出てきた。きっとこれが彼女に送るべき私の言葉だ。彼女の表情は逆光でうまく見えないが先程よりも良くなっているのが分かった。

 

 『………やっぱり、貴女は優しいですね…ありがとうございました、先生…。よい、旅路を』

 

 【間もなく■■■■■、■■■■■です。折り返しとなりますので、お降りをお願いします。またお荷物のお忘れなど無い様にご確認ください。】

 

 私はアナウンスに慌てて降りる準備をする。開放された降車口の前に立ったところで彼女の方を向くと既に姿は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

「起きて下さい、先生」

 

 誰かが呼んでいる…誰だろう…。長い夢を見ていた気がする。内容も思い出せないけど覚えているべきという感情とは裏腹に覚醒していく意識と共に夢の内容は掌から零れ落ちる砂の様に崩れていく。

 

 「先生、起きて下さいましたね」

 

 「ごめんね、リンちゃん」

 

 目を開けるとそこに居たのは【七神リン】ちゃん。連邦生徒会というこの【学生都市キヴォトス】で多くの権利を持つ組織の幹部。

 

 私は彼女の元を訪ねた後に少し待っていて欲しいと告げられてこの部屋に通されたのだったが疲労が溜まっていたのか眠ってしまっていたようだ。

 

 「いえ、先生は遥々遠くからお越し下さったのに時間を空けることが出来ずにこの部屋に放置してしまったのは私たちの過失ですので。先生もお疲れの様でしたので致し方ありません」

 

 「わぁ…凄いね。キャリアウーマンみたいでカッコいいよ。私なんて大人なのにだらしなくてごめんね?」

 

 「いえ…そんな…カッコいいだなんて………コホン」

 

 リンちゃんは少し照れたが私と再度目が合うと背を伸ばして姿勢を正した。

 

 「それで私がここ(キヴォトス)に呼ばれた理由なんだけど…」

 

 「はい、それなのですが私も先程先生をお待ちさせている間に生徒会長の残した資料を再度確認し、先生について記載された資料を見つけ出しました。その説明をしながら移動を開始しましょうか、先生」

 

 リンちゃんが開けた扉から部屋を出て着いていくと前面がガラス張りのエレベーターに乗る…。

 

 「キヴォトスは数千もの学園が集まって出来ている巨大な学園都市です。これから先生が働く場所でもあります」

 

 恐らく前面に広がる景色を指しながらリンちゃんは説明してくれているのだが私にはあまり伝わっていない。何故なら…。

 

 「まだ慣れないことも多いでしょうが先生なら心配することは無い……。先生?どうかしましたか?」

 

 「ご、ごめんね?私、高い場所得意じゃないんだ…。こういうガラス張りのエレベーターも苦手でね?部屋とかから街を眺めるのは良いんだけど動く足元に高くなる景色ってのが駄目みたい…」

 

 「す、すみません、先生。でしたら私が正面に立ちますのでゆっくりと目を開いて下さい」

 

 ゆっくりと目を開けるとそこにはリンちゃんの胸元があった。成人女性としてあまり身長が高くない私の目の前にリンちゃんが立つと丁度胸元が来るのだった。

 

 「大丈夫ですか?先生」

 

 「精神的には大丈夫だけど、状況的に大丈夫じゃないかも…」

 

 「?」

 

 彼女は気づいていないが後数cm前に進めが生徒の豊満な胸に飛び込んでしまう状況に教職が居るというのが社会的立場を抹殺まっしぐらな状況である。

 

 【レセプションルームに到着しました】

 

 目的の階層に到着した様で私が背にしていた扉が開く。すると、当然だがリンちゃんの胸に当たらないようにと後ろに重心を傾けて扉にもたれかかっていた私は扉の向こうに転ぶようにして入っていく。

 

 「お、おわわ!!」

 

 「わ、わ!大丈夫ですか!?」

 

 このまま、後頭部から地面に激突するかと思ったがそんな私を背後から支えるようにして受け止めてくれた人が居た。

 

 「ありがとう!えっと貴女は…」

 

 「私、早瀬ユウカっていいます。ミレニアムサイエンススクールでセミナー…そこの生徒会に所属しています」

 

 「私は今日赴任した先生なんだ。特定の学校のではなくキヴォトス全体のってことになるのかな?もしかしたらユウカちゃんの学校にも見学させて貰いに行くかもしれないのでよろしくお願いね」

 

 「先生…はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

 「えっと、それでだけど何でこんなにも此処に色んな生徒が居るのかな?制服を見るに殆どが別の学校の生徒だよね?」

 

 その言葉にハッした彼女は私の背後に居たリンちゃんに視線を向けると私の横を通り過ぎて詰め寄っていった。

 

 「そうだ!リン代行!生徒会長を呼んできて!皆此処に居る理由くらいは察しているでしょう!?」

 

 「リン首席行政官、お待ちしていました。トリニティ近辺で矯正局を脱走した生徒が見かけられた件についてお話を」

 

 「連邦生徒会長に面会の許可をお願いします。風紀委員長が現状についての説明を要求されています」

 

 続々とリンちゃんに向かって部屋の中の生徒たちが詰め寄る。現在、キヴォトスは多くの混乱の最中であるとは聞いたがここまで多くの生徒が苦しんでいるとは想像していなかった。

 

 「…はぁ…面倒な人達に捕まりましたね…」

 

 「ちょっとぉ!何よその言い草!連邦生徒会なんでしょ!風力発電所の停止や警備システムの異常の発生原因はサンクトゥムタワーの稼働がちゃんと出来ていないって結論が出てるのよ!」

 

 「トリニティ周辺でヘルメット団やスケバンの様な生徒が出入りし、当学園の生徒が襲撃される時間が多発しています。正義実現委員会、自警団、ヴァルキューレが対応に当たっていますがあまりにも多い為対処が追い付いていません」

 

 「出所の不明の武器に戦車、ヘリコプター等の不法流通が3000%を超えたという情報も上がっています。最近は企業の型落ち【MT】がブラックマーケットを経由してそういった治安を乱す勢力に流れているとの情報もあり、実際私も目撃しました」

 

 彼女たちからの報告を聞く限りキヴォトスの混乱の原因は【サンクトゥムタワー】と呼ばれる場所が正常に稼働していないからのようだ。一概に全ての事柄の原因がそれとは言えないのだろうがまずそれが稼働しない限りは他の問題の対処にも移れないように感じた。

 

 「そもそも連邦生徒会長が何故、数週間も姿を見せていないのかしら?責任感の強い彼女が職務放棄するなんて思っていないけどこれだけの問題が起こっていると流石に責任を追及せざるを得ないわ」

 

 「………そうですね、先生も赴任されたのでもう隠す必要もありません。連邦生徒会長は現在行方不明です」

 

 「う、嘘…彼女が?」

 

 「あの噂はやはり…」

 

 リンちゃんの発言で周囲の生徒たちはザワザワとし始めた。中にはその情報を自身の学園に伝える為か通信機器で何処かに連絡している生徒たちも居る。

 

 「生徒会長が居なくなったことでサンクトゥムタワーの最終管理者を失い、連邦生徒会は行政制御権をも失っていました。認証を迂回出来る方法を探るために生徒会長の残した資料を確認し、先程ようやく【先生】をキヴォトスへ招くことが出来たのです」

 

 「え?私?」

 

 蚊帳の外で話を聞いていた気分だったのだが急に話題の中心が私になった。多くの生徒たちの視線が私に向けられる。

 

 「【連邦捜査部シャーレ】、先生はその特別な機関の顧問として生徒会長が指名した人です。シャーレは超法規的機関であり、連邦組織でもありますのでキヴォトスにある学園の生徒を無制限に所属させることをが可能。更には各学園の自治区で戦闘活動を行うことを許可されています」

 

 「失踪した連邦生徒会長が任命した人ってまたややこしい…。それに何よそのシャーレっていう無法な組織は…先生が信頼出来る出来ないの話じゃなくてあまりにも権限が強くないかしら」

 

 「ええ、私も何故ここまでの権限を持つ機関を連邦生徒会長を設立したのか疑問ですが今はそこが問題ではありません。このシャーレが多くの権限を持つことと其処の顧問に先生が任命されていることが重要なのです」

 

 そこまでの話を聞いて何となく私が此処に呼ばれたのか理解できた。

 

 「もしかすると私にサンクトゥムタワーの管理権限を取得する権限が付与されている?」

 

 「ええ、そのようです」

 

 「だったら、先生にお願いして直ぐにでもサンクトゥムタワーの復旧を…」

 

 「残念ながらそう簡単にはいきません。それを行うにはシャーレの部室に設置されている端末にアクセスしなければいけないようでこれから先生にはそこへモモカに手配して貰っているヘリで…」

 

 『あぁ…先輩ぃ…残念なお知らせだけどシャーレ部室周辺に矯正局を脱走した生徒が集結してシャーレの建物周囲を封鎖してるみたいだよ。ヴァルキューレが対応しているけどドンドンと周囲から集まってきてるのを見るに誰か意図的に妨害をしているみたい。流石にそんな危険な場所に先生を乗せたヘリを飛ばすのは無理だよぉ…』

 

 「次から次へと問題が…こんな時に手伝いを申し出てくれる生徒が何処かに…(ジー…)」

 

 ホログラムからピンク髪の少女が現れると目的地までのヘリを出動させることが難しいことを教えてくれた。それを聞いたリンちゃんがユウカたちの方をジッと見る。

 

 「はぁ…分かったわ。だったら、そこまで先生の護衛をするわよ。こっちもサンクトゥムタワーが正常化されるのだったら異議は無いもの」

 

 「私も同行します。先生はキヴォトスの外から来られたのですよね?でしたら、銃弾一つでも致命傷になりうるのですから護衛は多い方が良いかと」

 

 「でしたら、万が一の保険として医療班として私も着いていきます。風紀委員長にも報告をしなければいけませんし」

 

 「該当地区の抜け道は知ってます。先導するので出来るだけ戦闘を回避してシャーレに向かいましょう」

 

 「よろしくね、皆!」

 

 ミレニアムのユウカの他にゲヘナのチナツ、トリニティのハスミとスズミの三人が加わってシャーレ部室のある区画へ向かう事となった。

 

To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

■先生

 621と同じくキヴォトスの外から来た(ビジター)新任の先生で性別は女性。

 身長は成人女性としてはお世辞にも高いとは言えない。むしろ、キヴォトスの生徒たちは発育が良い為、服装次第では横に並ぶと先生の方が年下に見えてしまう。

 

 趣味は映画観賞に読書、インドア趣味ではあるがスポーツが出来ない訳ではない。一通りのスポーツをこなすことは可能だが人並みの域を出ない。

 

 時々、小さなミスをして自分では大人としてはまだまだだと評価を下している。だが、生徒たちからは決めるべき場所ではしっかりとしていて、その他の箇所で抜けている所がギャップ萌えだと好評。

 

■■■■

 先生の夢?に現れた少女。この先のキヴォトスに関わる事柄を知っていそうだったが先生が夢から覚める頃には記憶共に泡沫の如く消えていった。

 

■MT(Muscle Tracer)

 企業で使われなくなった型落ちがブラックマーケットに流れて格安で販売されている為、自治区の治安維持が出来ない学園地域の治安が更に悪化した。

 

 それを改善する為に学園側が正規のMTを購入するという状態になっている。

 

 元々、警備や自治区内の治安活動で活用するのは問題にはならないが非正規MTの購入もMTを使用した攻撃的な活動もキヴォトスの条例では禁止されている。

 

 流石にブラックマーケットに流れているのは元作業用二脚型で四脚MTなどは流入もしていないし不良学生たちでは購入出来る金額ではない。

 

■企業

 キヴォトスには沢山の企業が存在する。中には生徒や元生徒が設立したものからキヴォトス外から支社を置いている企業もある。

 

 ベイラム、アーキバスは数年前からキヴォトスにも支店を置いているがキヴォトス内でのACを使用した戦闘行為は連邦生徒会長認可の下でないと違法となる為、ACの生産は現在表向き行っていない。

 

 現在生産しているのは生徒向けの武器生産でベイラム製の武器はゲヘナの生徒が好んでいるようでアーキバス製の武器はミレニアムの生徒に好評である。 





一話で評価、感想を頂き大変嬉しいです。
今回も良ければ作者の執筆の励みになりますので
評価感想をお願いします。

モチベーションが上がれば真空状態のコーラルの如く頑張りたいと思います。

次回は621と先生の邂逅を書ければなと思っています。
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