Archive of Coral 作:コーラルの色彩
『シャーレ部室の奪還完了です。私も準備が整いましたので先生、地下に目的のデバイスがあります。地下室にて合流しましょう』
「分かったよ、ごめんだけどユウカたちは入り口とか建物周辺の警戒をお願い。もしかしたら不良学生たちがもう一度仕掛けてくるかもしれないからね」
「分かったわ、先生」
「了解しました」
謎の少女と別れてから私たちは程なくしてシャーレの部室がある建物に辿り着いた。先程戦闘した場所からシャーレへ続く道は戦闘した形跡はあるものの既に不良生徒たちも撤収していて妨害に会うこともなく着くことが出来た。
シャーレの地下室に目的のデバイスはあるという事で地下に続く入り口を探すと地下に続く階段の扉が開かれている。私は警戒をしながら忍び足で扉に近づいた。
「ふーむ…ここに噂の品があるという事なのですが…一体どれなのでしょうか…これでは壊そうにも…」
地下室の先客は黒の和服に狐を模したであろうお面を被った生徒だった。彼女の手にはタブレット端末のような物が握られていて恐らくそれが私の求めているサンクトゥムタワーを復旧する為のデバイスだと分かった。
「(えっ!壊すって言った!?それはマズい!)ちょっと待ってッ!!」
「はい?…あっ…」
私は彼女の発言を聞いて飛び出すとデバイスへ手を伸ばす。彼女は完全に意識外から現れた私に呆けたような声を出して立ち尽くしている。
呆然としている彼女の手からデバイスを取るとそのまま通り過ぎて少し離れる。通り過ぎる際に肩がぶつかり、彼女の被っていたお面が拍子で外れてしまった。
「あっ、ごめんね。はい、お面。でもね、これを壊されると困るんだ。それで貴女は誰なのかな?私は此処連邦捜査局シャーレっていう部活の顧問の先生だよ」
落としてしまったお面を彼女に手渡す。何故、シャーレの建物内に居るのか。何故、このデバイスを壊そうとしたのか。様々な疑問があるが恐らく生徒であろう彼女を前に自己紹介をすることにした。
「…………えっと…その…ご、ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!!」
「あ、あれぇ…何か悪いことしちゃったかな?」
彼女は私からお面を受け取ると顔を真っ赤にして走り去ってしまった。彼女が全力で駆け上がっていった階段を見ていると入れ替わるようにしてリンちゃんが降りてきた。
「先生、目的のデバイスを見つけたのですね。……どうかされましたか?」
「…何でもないよ、それよりこれをどうすればいいの?」
改めて手に持っているデバイスを確認する。まだ起動もしていないが外見はキヴォトスの外でもよく見た普通のタブレット端末のように見える。
「それは外見だけでしたら通常のタブレット端末と同じようなものですが製造元も入っているOSもシステム構造も何もかもが不明なのです。私や連邦生徒会のメンバーも試しましたが起動すら出来ませんでした」
「壊れてる…ってわけじゃないよね?」
「連邦生徒会長は『先生ならこれを扱うことが出来る』と仰ってました。何かパスワードのような物があるのかもしれませんね…」
「そうは言ってもパスワード何て私は…うーん…」
「……私は少し席を外しますね。パスワードを盗み見してもいけませんし。上の階にある自動販売機で飲み物でも買ってきます」
「私、リンゴジュースでお願い!」
「分かりました、先生」
リンちゃんは私から離れると階段を登って行った。その間もパスワードについて考えてみたが思い浮かばない。
「悩んでいても仕方ないよね、そもそも起動出来るのかな…?あっ、起動した」
接続パスワードを入力してください。
「やっぱり、パスワードが要るよねぇ…でも、そんなの知らな…」
私の脳裏に何故か浮かんだワードがあった。
「……もしかして、これ?」
聞き覚えも書き覚えもない筈の文字の羅列を私の指がまるで他人が操作する如くスラスラと入力していく。
“……我々は覚えている、ジェリコの古則を。”
接続パスワード承認。接続者の情報取得完了しました。
『シッテムの箱』にようこそ、先生。
生体認証及び認証書作成の為
メインOS「A.R.O.N.A」に変換します。
「……此処は…?」
「すぅ…むにゃむにゃ…えへへ…」
先程まで私はあのデバイスを触っていた筈なのだがいつの間にか見知らぬ空間に居た。
目の前には盛大に壁が破壊されている教室とその先に広がる大きな海。そして、そんな崩壊した教室でスヤスヤと寝息を立てている少女は一人。
「チョココロネの頭ってどっちなんですかぁ…?私はたい焼きを尻尾から食べますぅ…」
机に突っ伏して寝ている少女は支離滅裂な寝言を話しながら未だに夢の世界をさ迷っている。もう少し幸福な夢を見させてあげたいのだけど現状を知るには彼女を起こすしかなさそうだ。
「もしもーし、朝ですよぉ」
「…朝食はホットケーキにメープルシロップ増し増しがいいですぅ…」
「か、可愛い…」
もう少し、もう少しだけと私の中で悪戯心が芽生えてくる。彼女の頬を指でつつくとプニプニとした気持ちいい弾力が返ってきた。
「うーん…起きないなぁ…(ぷにぷにぷにぷにぷにぷに)」
「あぅあぅ…『アロナ』は美味しくないですよぉ…」
こうして頬を突いていても起きる気配はない。しかし、彼女の名前が【アロナ】という名前なのではないかという情報は得た。後は、どの様に起こすかなのだけど。
「アロナちゃんっていうのかな?…そうだ!【アロナさん、授業を始めますよ!起立!】」
「うぇぇえぇ!!!は、はい!アロナです!居眠りなんてしていませんよぉ!!!」
「おはようございます、アロナちゃんでいいのかな?」
「えっと、はい、アロナです………え?え?え?」
涎を垂らしてそうなほどに夢の世界に入り浸っていた彼女が瞬時に立ち上がった。やはり、生徒を起こすならこれが一番かもしれない。
「この空間に居るということは先生ですか!?」
「そうだよ、さっきシャーレの地下室でタブレット端末型のデバイスを操作していたら此処に居たんだ」
「ちゃんと【シッテムの箱】を起動させることが出来たのですね。それでは改めて自己紹介させていただきます」
彼女はコホンと息を整えると私の目をしっかりと見据えて話を始めた。
「私はアロナ。このシッテムの箱のシステム管理者であり、メインOSでもあります。そして、これからシッテムの箱を通じて先生をサポートする秘書でもあります」
「私も新米の教師で頼りないところがあると思うけどよろしくね!」
「はい!よろしくお願いします。……あ、そうだ。形式的でありますが生体認証を行いたいのですがいいですか?」
「生体認証…血液とか必要?注射苦手なんでよねぇ…」
「いえ、そういったものでなく。指紋で大丈夫ですので…恥ずかしいですが…先生。私の指に指を重ねて下さい」
「えっと…こうかな?」
アロナの傍まで近づいて彼女の人差し指に私の人差し指を重ねる。
「まるで指切りしてるみたいですね」
「指切り…そっか…私は昔に見た自転車に宇宙人を乗せて夜空を飛ぶ映画を思い出してたよ…」
「あはは……。はい、先生の指紋の取得は出来ました。後はこれを確認するだけです。これでも視力には自信があるんですよ!」
「(え?スキャンとかじゃなく目視確認なの?)」
「ふーむ…(あれ…ちょっと良く分からないかも…)」
アロナは数十秒ウンウン唸りながら指紋のデータと睨めっこしていると「よし、まあいいでしょう」といって確認を終えた。
「生体認証は完了しました。先生、それでは何から始めましょうか」
「それなんだけどね、実はサンクトゥムタワーを復旧させたいんだけど管理者権限を持っている生徒会長が居なくなったんだ。実はシッテムの箱を起動出来ればサンクトゥムタワーの管理権限を取得することが出来るって聞いたんだけど本当?」
「なるほどぉ…そういうことでしたらアロナにお任せあれ!その程度でしたらちょちょいのちょいです!先生も元の場所へお戻りください」
「お願いするねアロナ!」
目を開くと崩壊した壁の先に海原の広がる教室ではなくシャーレの地下室に一人で立ち尽くしていた。薄暗い地下室で少し待っていると周辺の機械が起動する音が聞こえ始め、地下室の明かりが点灯した。
『…サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了。先生、サンクトゥムタワーアロナの統制下にあります。これでキヴォトスは先生の思うが儘ですね!』
「いやいや、私そんな悪役みたいなことしないから!アロナ、サンクトゥムタワーの制御権限を連邦生徒会に移管してくれるかな」
『はい、分かりました。………移管完了しました』
「ありがとうね、アロナ」
その後、地下室にジュースを片手に戻ってきたリンちゃんにサンクトゥムタワーの制御権限を連邦生徒会へ移したことを報告した。シャーレの部室にある施設を一通り説明し終えるとリンちゃんはお礼を言って次の仕事があるからと足早に去っていった。
「それじゃ、先生お疲れでした。ミレニアムに立ち寄った際にはセミナーにも来てくださいね。お茶くらいでしたら出しますので」
「うん、ユウカも気を付けてね!」
ハスミ、スズミ、チナツ、ユウカを見送ってシャーレの部室へ戻るともう一度【シッテムの箱】を立ち上げた。
『皆さん、お帰りになられたんですね』
「皆、復旧作業とか各学園でやることが沢山あるだろうしあまり私の都合で引き留めても悪いからね」
『各学園で復旧作業が開始されているようですね。凄いですよ、先生!Momotterで【シャーレの先生】がトレンド一位です!各学園で先生がサンクトゥムタワーの復旧を行ったことが広まっているようで関心が集まっているようです』
「うわぁ…本当だ。若い子の情報伝達速度は凄いねぇ…。あっ、ユウカが呟いてる」
そういえば、弾薬費の立て替えについてユウカ達に伝えるのを忘れていたなとモモッターのアカウントを作成し、ユウカの投稿へ返信をしたのだが本人か疑われてしまった。
モモトークでユウカからこのアカウントは本物かを確認する連絡が来たので本人だよと伝えると明らかさまな偽物のような本物は混乱しますと言われてしまった。
「いったい何がいけないんだ…」
『ついさっき作られたアカウントで(公式)はより偽物っぽさを際立てると思いますよ、先生…。自撮りの一つでも上げれば直ぐに本物だって分かって貰えたんじゃないでしょうか?』
「自撮りなんてしたことないなぁ…。シャーレを背景にして投稿してみるかな?」
シャーレのオフィスの椅子に座ってピースしながら自撮りをする。それを幾つかのハッシュタグと共にモモッターに投稿する。
「これでヨシ!今日はオフィスの掃除かなぁ…デスク周りに私物も起きたいからね」
『お疲れ様です、先生。何かある場合は私に聞いて下さいね』
「ありがとう、アロナ!」
こうして私の激動の赴任一日目は終わりを迎えた。サンクトゥムタワーの復旧は出来たけどまだまだ問題や謎は沢山ある。
混乱したキヴォトスで多発している犯罪や不良学生による争い。消えた連邦生徒会の行方。そして、あのMTとの闘いで助けてくれた少女。
このキヴォトスは外から来た私には身に迫る危険がとても多い。だけど、多くの生徒がきっと声も上げれずに助けを求めている。
私はそんな生徒たちの傍に居てあげたい。先生とは大人とは何かというものを彼女たちに指し示していかなければいけない。
私の歩くこの道が様々な困難や災厄を通る道だとしても生徒がそこで悲しんでいるのなら歩みを止める訳にはいかないから。
■ワカモ
一応、今回の騒動で不良たちを纏め上げていた黒幕の一人。ただ、誰かに指示されたとかではなく連邦生徒会に対する復讐の一環だった。
地下室にて先生に一目惚れというか運命のようなものを感じて今後ちょくちょくとシャーレに訪れる。
登録して数分の誰も知らない筈の先生のモモッターアカウント最初のフォロワー。
■アロナ
『シッテムの箱』のメインOS。科学技術の発展しているキヴォトスでも解析が不可能なオーパーツのシステム管理者だが所々機能が古臭い(可愛い)。
本気を出せばキヴォトスのあらゆるシステムに侵入、制圧が可能なのでポンコツというわけではない。ネットワークに接続してしまえば最強なのでハッキング可能であればMTも動かせる。
先生が画面を見ていない時に大好きなお菓子やジュースを飲み食いしている。
■先生
普段はゆるふわ系だが生徒の危機などの場面では自分の身の危険も厭わない覚悟ガンギマリ系でもある。
苦いのが苦手なので徹夜のお供はコーヒーよりもエナジードリンク派。ただ、コーヒー牛乳は好き。
モモッターのアカウントがあの後に凄い勢いでフォローや返信が来て通知が鳴り止まず少し恐怖した。