織斑日記   作:青いカンテラ

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『白い夢、白い少女』

【6月◆日/雨】

 

 シャルルが女の子だった。

 

 マジかよちくしょう! 男の娘だと思ってたのに! 幸村並みにショックだよ!! ちくしょう、騙された!!

 

 ラッキースケベ的にシャルルの裸見ちゃったとか男の娘じゃなかったことにくらべれば些細なことだ! すいません嘘つきました最高でしたガン見でしたおっぱいそこそこありましたねヒャッホーウ。

 

 んで、なんかシャルルくん改めシャルルちゃんの過去話とか聞かされた。正直人様の家庭事情とかどうでもいいのだけど俺なんかに話してすっきりしてくれるのならいくらでも聞いてやる(ただし可愛い女の子と男の娘に限る)。

 

「シャルル、俺の妹にならないか」

「え?」

「俺、シャルルとなら楽しく家族になれると思う」

「か、家族?」

「鈴ちゃんとラウラちゃんと家族になるんだ。みんな妹な。お嫁さんはまだ決めてないから」

「前から思ってたけど・・・一夏はロリな人なの?」

「失敬な。俺はロリじゃなくてロリもいけるのだ」

「同じだと思うけど」

「かたなしくんをバカにするでないわ!」

「誰!?」

 

 ごめんシャルル。俺シリアスとかできない人なんだ。シリアスっぽい空気とか出せない人だから。真面目にやると蕁麻疹でちゃう体質なんで。

 

「もう、一夏のせいでなんかどうでもよくなってきちゃったじゃないか」

 

 どこか吹っ切れたような表情で笑うシャルル。うん、君はそっちの方が似合ってるよ。

 

「僕が妹になったら、一夏はデュノア社の次期社長だね」

「ビッグな会社のドンになるよりは細々と家族団らんで過ごしたい」

「顔ぶれ的に無理だよ。というか一夏的に無理だよ」

「デスヨネー」

「うん。僕決めたよ。僕は僕としてここにいようと思う。せっかくIS学園にきてみんなと出会えたんだもん。ここで帰ったりしたら勿体無いよね。卒業までの三年間、僕なりにどうするか考えてみる。その時は一夏、また聞いてくれる?」

「もちのロンですとも。可愛い女の子の話しならコーヒー一杯で何時間でも聞けちゃう」

『一夏さん、いらっしゃいます?』

 

 空気嫁やセッシィィィ! 鍵掛けてないからこのままだと入られる。いまここでシャルルの秘密を知られるのはヤバい。セッシーって口軽そうだし。クローゼット・・・は見つかった時に言い訳しにくいし不自然すぎる。ベッドの下・・・ってそれこそ怪しさ爆発だよ! 布団布団!

 

「一夏さん? 入りますわよ?」

「お、おー。セシリアさん。どうしたん?」

「ええ。夕飯がまだならご一緒にと思いまして・・・あら、シャルルさんはどうしましたの?」

「今夜が峠です」

「えぇ!?」

「こほこほ、ちょっと風邪気味っぽいだけだから。気にしなくていいよ」

「そ、そうでしたの。お体にはお気をつけてくださいな」

「うん。ありがとう」

 

 シャルルと俺の三文芝居に騙されてくれるセッシーマジチョロイ。よし、貴様には特別にデザートを選択する権利をやろう。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 夢を見た。

 どこまでも続く水平線。

 どこともしれない砂浜。

 

 俺は一人、そこを歩いている。

 青い空は遠く海の向こう側まで続き、白い砂浜は見渡す限り存在している。

 しばらく歩くと、一人の少女が楽しそうに打ち寄せる波と戯れている。

 

 白い髪を靡かせて、少女は歌い波と遊ぶ。白いワンピースの少女は俺に気づいているのかいないのか、無邪気な子どものように笑っている。

 俺は声を掛けることはせず、近くにあった流木へと腰を下ろす。白と青で彩られた世界の中にあって、その流木もまた真っ白になっていた。

 

 ざざぁぁぁん・・・

 ざざぁぁぁん・・・

 

 波の音が心地いい。じりじりと照りつける太陽は肌を焼くが、不快に感じるほどではない。時折吹く風も涼やかで、いつまでもここにいたいと思ってしまう。

 初めて来るはずなのに、初めて見るはずなのに、なぜか懐かしい気持ちになる。俺はこの場所を知っているのだろうか。目の前で歌う少女も初対面のはずなのに、俺は彼女を知っているように思える。

 白髪の、小柄な少女である。白いワンピースがよく似合う、小鳥のように歌う少女。精緻な磁器人形に似た美しい少女。誰だろう。知らないはずなのに知っている。見た事があるのなら、会った事があるのなら思い出せるはずだ。

 

「・・・まあ、いいか」

 

 思い出そうとしてしかし靄が掛かったように思い出せない記憶の発掘を諦める。常ならば数秒と掛からずに引き出せるだろう情報を、いまは思い出さなくてもいいと思えてしまう。それよりも少女を見つめていたいと思えてしまう。

 

 『君は誰?』

 

 その問いすら、いまは必要ない。少女は踊る躍る踊る。波と戯れ風と歌い、白いワンピースを翻して。時間を忘れて、俺は流木に腰掛けたままその光景を眺める。二度と忘れないように、しっかりと目に焼き付けるように。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 どれくらい時間が経っただろう。少女はいつの間にか歌うのを止めていた。俺に背を向けて、水平線の向こうをじっと見つめている。

 

「・・・どうしたんだ?」

 

 俺の声に、少女がゆっくりと振り返る。

 

「くる」

 

 一言だけ呟く。さぁぁぁぁ! と強い風が吹き、俺は思わず目を閉じた。目を開けたときには少女の姿は既になく、押しては返す波の音が聞こえるだけ。座っていた木から立ち上がり、俺は周囲を見回す。変わらない。白い砂浜にどこまでも続く空と海。白い少女が消え、俺だけが残された以外は変わらない。

 

「くるよ。きっとくる」

「うぉっ!?」

 

 背後から聞こえた声に振り向くと、さっきの白い少女が顔を伏せて立っていた。彼女と俺との身長差は結構ある。俯く彼女の表情を俺が知ることはできない。

 

「大きな戦いの渦に巻き込まれるときが、きっとくる」

「えっ?」

 

 いつの間に背後に回っていたのか、今度は俺の顔をじっと見つめて立っている少女。気配なんて微塵も感じなかったんだが……なんと恐ろしい少女だ。

 

「あなたは、なんのためにがんばるの?」

「何のため?」

「あなたは力を手にした。あなたはその力をどうしたいの?」

「・・・」

 

 力。ISという途方もなく大きな力。俺みたいな人間が手にしていいのか、いまだに迷う。ISは、力だ。たかだか十年やそこらで世界を変えてしまうくらいには強い力だ。純粋な兵器として投入されれば果てしない闘争の坩堝が出来上がるほどに恐ろしい力だ。

 

 俺はその一端を手にしている。近接ブレードのみというとても限定された力ながら、それでも個人が好きに振るっていいはずのない力を与えられた。

 

 その力をどうしたいか。俺はISという力とどう向き合うか。決まっている。俺はいまも昔もこうして生きてきたのだから。

 

「あえて言わせてもらおう。愚問であると。俺は俺のために力を振るう。それだけさ」

「自分のためだけに?」

「それが俺にできる精一杯だからね。手を伸ばせる範囲にも限りがあるし、手に持てるモノにも限度がある。俺は弱いから、欲張ると色んなものをすぐに落っことしてしまう。だからこそ、この手にできる最低限のものくらいは守りたいと思う。例えば家族だったり、友人だったり。俺は俺のために俺が守りたいものを守るためにこの力を使うさ」

「・・・」

「不満かな?」

「それがあなたの答えだというのなら、ぼくに否定する権利はない。織斑一夏、やっぱり君は、ぼくの主たるに相応しいね。とても興味深くて面白い」

 

 『主』? ああ、そうか。やっぱり君は・・・。

 屈託なく笑う白い少女。どこかで見たと思ったら、そうか、君は。そうだったのか。……まったく、あの人にも困ったものだ。こんなものを持ち出してくるなんて。

 

「言っておくけど、ぼくは君の心象でしかない。つまり、ぼくがこの姿を取っているということは・・・」

「言わんでいい。わかってるから。どこまでも意地悪な人だよまったく」

 

 あの一人アリスインワンダーランドめ。今度会ったら文句を言ってやんよ。まあ、その時には忘れているだろうけど。

 まったく、それにしても。こうして見てみると中々にかわいらしいと思えてしまうのだから自分というものにほとほと呆れてしまう。そんな自分が大好きー! でもあるのだけれどね。

 

「君、俺の妹にならないか?」

「ふふ、ぼくでよければ喜んで」

「頼りにしてるぜ、相棒」

「あいさー、主様(あるじさま)♪」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 目覚めは唐突に。時刻は朝の六時半を少し回ったところ。いつもどおりの起床時間。となりのベッドではルームメイトのシャルル・デュノア・・・改めシャルロット・デュノア嬢がすやすやと寝息を立てている。まるで眠り姫だ。抱きしめたいな、シャルロット!! たっぷり五分ほど現在のルームメイトにして未来の妹の寝顔を堪能した後は顔を洗って寝巻きを着替えて朝食の準備に取り掛かる。

 

 愛用のマイエプロンを装着。右手におたまを、左手にフライパンを。さーて、今日の朝ごはんはどうしようか。買い置きのパンがあるからサンドウィッチでも作ってみるか。タマゴサンドとハムチーズサンドでいいだろう。サラダとスープとコーヒーも忘れずに。

 

 夢を見た。妙にリアルで妙に記憶に残る夢。

 俺はそこで誰かと出会ったような気がする。誰かは思い出せないが。それが夢というやつなので特に気にしない。

 それにしても変な夢だった。細部は思い出せないが、確か海にいたと思う。そこで白いワンピースの女の子と出会った。何かを話していたような気がする。なんだっただろう。ま、いっか。夢の中でまた会える・・・そんな確信があるのだから。

 

「・・・一夏? もう朝?」

「おー、起きたか眠り姫。朝飯はもうちょっとだから顔洗ってきなさい」

「・・・ふぁーい」

 

 あくびをかみ殺しつつの返事に「シャルロットはかわいいなー」と感想など添えつつ、シャルロットの分と俺の分のサンドウィッチを皿に盛り付ける。サラダとコーンスープ、濃い目のコーヒーも忘れずに。シャルロットはミルクと砂糖たっぷり派だったな。俺はブラックだからシャルロットのコーヒーにだけミルクと砂糖を足して、と。よし完成。我ながらおいしそうな朝食が出来上がった。学食で済ませるのもいいけど、せっかくルームメイトがいるのだからたまにはこうして作らないとなー。

 

「おまたせー。いつもごめんね一夏。僕、朝は苦手で」

「俺もその気持ちはよーくわかるぞ。まどろむ中での二度寝とか最高だものな」

「そうそう。それで遅刻しちゃったりね」

「あるある」

 

 そんな会話を挟みつつ、俺とシャルロットは朝食を食べる。ミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーを一口飲んだシャルロットが「ふぃー、目が覚めるー」と言うのも見慣れた朝の一コマだ。ただ一つ違うとすれば、

 

「あれ、一夏。白式の待機形態変わった?」

「ん? ああ、そうみたいだ。朝起きたらこうなってた」

「そうなんだ。不思議なこともあるものだね」

 

 白式ちゃんの待機形態が変わったこと。白いガントレットから白い金属製のリストバンドへとその姿を変えている。待機形態は一度決定するとまず変わらないらしいから、不思議なこともあったものである。十字架と茨のレリーフが施された白いリストバンド。今朝方見た夢と関係あるんだろうなあ。

 

 

 

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