織斑日記   作:青いカンテラ

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『プリン・・・それは人の心を惑わせる魔性の食べ物』

【4月◆日/晴れ】

 

 自己紹介長かったですねオルコットさん! いい加減普通に呼んでくださいます!?

 

 との勝負当日なう。なう。なうってもう古いか。

 

 ISスーツに着替えた俺は第三アリーナのピットで箒と一緒に待っていた。

 

 何をって? 俺の専用機。何か手違いがあったらしく、俺の専用機なるISはいまだにその姿を現していない。試合回予定時刻はとうに過ぎている。既にISを展開して準備完了しているオルコットさんはアリーナの上空にずっと待機したままだ。

 

 隣でイライラしている箒に「俺の専用機、いつ来るんだろうな?」って聞いたら「知らん」と返された。箒さんや、カルシウム足りてる? 牛乳に相談すれば?

 

 試合開始前どころか試合開始時刻を過ぎてもこないとか・・・どういうことなの。このままだと訓練機で出ろとか言われそうだなあ。専用機とやらが間に合わないのならそれもやむなしだけども。

 

 とか考えてたら山田副担任が俺の名前を連呼しながら走ってきた。そんなに連呼されると恥ずかしい。とりあえずここで切っておくとするか。結果はまた後で。

 

 

 

 はい、負けました。

 

 後一歩のところまで追い詰めた・・・気がするんだが、負けてしまった。何かいきなり俺のISのエネルギー残量がゼロになったんだよな。

 

 姉さん曰く俺の専用機『白式』に搭載されている武器の特性らしい。白式に搭載されている唯一の武器・・・『雪片弐型』のエネルギー無効化攻撃は自分のエネルギーをも消費するらしい。

 

 かつて姉さんもこの能力を持ったISのおかげで世界最強の座に上り詰めたのだとか。対IS戦においては絶大な攻撃力を持つが、使えば使うほど自分もピンチになっていく・・・なんという諸刃の剣。

 

 さて、専用機である白式を貰った俺は『専用機持ち』の仲間入りを果たしたわけだが・・・その専用機に関する別途事項の決まりというものがあるらしく、IS起動におけるルールブックとやらを貰った。

 

 どこからどうみても『アナタの街の電話帳』です。ほんとうにありがたくないです。手にずしっと感じる重さはどう考えても本のそれだとは思えなかった。鉄の塊だとか言われた方がまだ頷ける。

 

 何ページあるのか想像するのも恐ろしい。しかもこれを一週間かけて暗記しろと言うのだ。覚える前に俺の脳みそが熱暴走する。電脳化していればデータをインストールするだけで済んだのかもしれないが、残念ながら技術はそこまで進んでいない。

 

 寮への帰り道で箒が「負け犬」呼ばわりしてきた。もうやめて! 俺のライフはもうゼロよ! 何勘違いしてるんだ、私のバトルフェイズは終了していないぞ! ドロー! モンスターカード! 仮にも幼なじみ相手に非情なる追加攻撃をかますとは箒さん鬼か悪魔である。

 

 まったく、箒が楽しみにしていた焼きプリンをこっそり食べてしまったのがそんなに腹立たしいのだろうか。俺を半殺しにしてお花畑を見せておいてまだ足りないと申すのか。箒はドSだな。

 

 いや、まあ俺も某有名菓子店の焼きプリン勝手に食べられたらマウント取ってるけどな。君が、泣くまで、殴るのを、やめない! のである。怒りの一夏である。しかもその犯人が親友だった日には容赦なく追加攻撃をかましているところだ。

 

 ちなみに、一度だけ妹君のプリンを食べてしまった事があって、その時はさすがに死を覚悟した。いつだって原因はプリンなのである。プリンは俺たちの心を惑わせる魔性の食べ物なのだ。

 

 

 

 寮に帰ったらアイリス先輩に絡まれた。

 

 付け焼き刃もいいところだったとはいえ、代表候補生相手に善戦したご褒美を持ってきてくれたらしい。やだ、アイリス先輩めちょ優しい・・・。ちなみにご褒美は一個300円くらいするプリンだった。ここでもプリンか。世界はプリンを中心に回っているのかもしれない。

 

 しかし、貰いっぱなしと言うのもあれなので、アイリス先輩を部屋に招待してマッサージをしてあげた。プリンくれたし、特訓にも付き合ってくれたしな! そしたら「オマエ、結構テクニシャンだったんダナ」と言われた。なんですかその誤解を招きそうな言い方は。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆日/曇り】

 

 俺のマッサージがいつの間にか評判になっていた!!

 

 あの後寮に戻ったアイリス先輩が同室の先輩に俺のマッサージのことを話し、その先輩が他の生徒に話し、そのまた他の・・・という具合でたった一晩で学園中の女子が知るところとなった。

 

 どうしてこうなった・・・。オルコットさんがクラス代表を辞退して俺がクラス代表になってしまったことよりもこっちの方が問題に思う。休み時間となれば「うまいと評判のマッサージをして欲しい!」とお嬢さん方に迫られるんだぜ・・・? 選り取り見取りとはこのことだぜ。箒がずっと俺に殺意の波動を送り続けてくるんだぜ。姉さんが「また面倒なことをしてくれたな愚弟」って目で見てくるんだぜ。なぜかオルコットさんが睨んでくるんだぜ。怖い。

 

 「おりむーは大変だねー」といつも眠そうにしているのほほんさんこと布仏本音さんだけが俺の癒しさ。彼女と話しながらのんびりしている時だけは日々の勉強やら補習やら特訓やら稽古やらで荒んだ俺の心が癒されるんだ。癒しオーラ全開なのほほんさんを人は歩くマイナスイオン発生娘という! 主に俺が言ってるんだけどな。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/曇りのち雨】

 

 生徒会に呼び出されました。

 

 しかも生徒会長直々の名指しで、である。もちろん俺には生徒会に呼び出されるようなことをした覚えはない。

 もしかしたら俺は自分でも知らないうちに生徒会長に名指しで呼び出されるようなことをしてしまったのしれない! と恐々としながら生徒会室に向かった。

 

 待っていたのは三人の少女。うち一人は顔見知りだった。というかクラスメイトだった。布仏本音、通称のほほんさん。彼女はなんと、IS学園生徒会会計だったのだ。

 

 ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?

 

 とネタを挟んだところで、俺が生徒会に呼び出されたのは俺が入る部活動を決めていないからだった。初日に入りたい部活を書いてくれって紙渡されたっけ・・・すっかり忘れてた。

 

 IS学園はISの専門高だが、普通の高校と同じく様々な部活動が存在している。部によっては全国大会に出場することもあるらしい。剣道部や吹奏楽部を初めとして、柔道、ボクシング、陸上、美術、料理、新聞、茶道・・・他にもかなりの数の部があるようで、IS学園の生徒は必ずどこかに入部しないと校則違反になってしまうのだとか。

 

 部活、部活かあ。入学してからこっち、オルコットさんと勝負するために勉強と特訓と補習と稽古の毎日だったから、どこも見れてないんだよな。剣道部だけは箒に稽古を付けてもらうときに道具を貸してもらったりとかしたけど。

 

 それに、IS学園で一人しかいない男子生徒の俺が入っても問題なさそうな部活って限られるだろうし。・・・昔やってたから剣道? 料理の腕を高めるために料理部? それとも新入部員募集中の新聞部? 茶道部の顧問って姉さんだっけ。いいかもしれない。

 

 とか考えてたら生徒会長さん(薄い青髪の美人なお姉さん系)が「副会長の席が空いてるから生徒会に入れば?」と言ってくれた。なんでも生徒会のメンバーは定員数まで生徒会長が好きに選べるそうで、生徒会会計をのほほんさん、生徒会書記をのほほんさんのお姉さんである布仏(うつほ)さんが勤めているものの、副会長は現在空席なのだとか。生徒会も部活動の一つとして数えられるので、所属していれば校則に引っかかることもない。

 

 スタイル抜群な生徒会会長・更識楯無、クール系メガネ美人な生徒会書記・布仏虚、癒し系マイペース少女生徒会会計・布仏本音・・・美少女三人と交流が持てる上にお菓子まで出ると聞いては飛びつかざるをえない。男は狼なのだ。

 

 呼び出しがある時以外は自由にしていいと言われたので週一で顔を出す以外は山田副担任の補習、箒の稽古、IS実機を使った特訓、と俺の放課後ライフはしばらく忙しいことになりそうだ。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/晴れ】

 

 クラス対抗戦を来週末に控え、俺は補習と特訓と勉強と稽古に明け暮れていた。

 

 箒と一緒に剣道部の朝練に参加していると、剣道部の部長さんに「一夏君はマッサージが得意なんだってね? アイリスから聞いたよ?」と言われた。アイリス先輩のルームメイトってこの人だったのか。腰まで伸ばした黒髪に、起きているのか寝ているのか判別し難い糸目の剣道部副部長さんは今日も何を考えているのか分からない笑みを浮かべていた。

 

「アイリスが言ってたんだよ? 一夏君はテクニシャンだってね?」

「ちょっry」

「よくよく聞いてみたらマッサージが上手いっていうじゃない? 一夏君、習ってたりとかしたの?」

「い、いえ、ほぼ独学です。最初は姉の助けになればないいな、くらいでしたから」

「君はお姉さん想いなんだね? 私も君みたいな弟が欲しかったよ?」

 

 ・・・なんでこの人常に疑問系なのか。謎である。

 

 

 

 放課後 の 特訓に セシリアさん が 参戦したぞ!

 

 美少女が三人に増えたんですか!? やったー! アイリス先輩は来週末のクラス対抗戦に備えるから今日までなんですか!? やだー!

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/曇り】

 

 『織斑一夏クラス代表就任パーティー』を一年一組の女子たちが企画していたらしく、それに付き合わされた。みんなの顔は晴れ晴れだが、俺の心はどんよりである。

 「男がクラス代表など、恥ですわ!」とまで言ってのけたセシリアさんがどんな風の吹き回しか俺にクラス代表の座を譲ったため、俺がクラス代表として一年を過ごすことに決定したのだ。当然抗議したのだが、血も涙もない民主主義の前には無力だった。

 

 生徒会の会議への出席は生徒会に所属しているからどっちにしても顔を出さないといけないし、各委員会への顔出しも生徒会のメンバーである以上は当然である。・・・もしかして会長さんはそれも分かってて俺を生徒会に招きいれたのかもしれない。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

「ほんとほんと」

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

「ほんとほんと。・・・ところで、私も一組に入れてくれない?」

「それはダメ」

 

 などと盛り上がっている女子ズから離れて、俺は隅っこの方でちびちびとジュースを飲んでいた。どうにもこういう集まりは苦手だ。大勢で集まって騒ぐよりは数人で静かな時間を共有したい派なのだ。

 カラオケとかなら大歓迎だけどな。無理にテンション上げる必要もないし。中学時代、友人たちと集まってカラオケ店に繰り出したものである。十八番が「残酷な天使のテーゼ」のやつが一人いて、無茶苦茶うまかったのを覚えている。

 

 過去に思いを馳せていると箒が寄ってきて「人気者だな、一夏」と言ってきた。うん、そうだね。人気者だね。いまの俺は利益を生み出す金の卵らしいからね。俺聞いたもん。俺の情報を他のクラスに売ればお金になるって。クラスの女子数人が話してるの聞いちゃったもん。

 

「ちわ~、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューしにきましたー」

『おー』←一同驚きの声

「君が織斑一夏君だね? あの織斑千冬先生の弟くんだとか」

「はあ、そうですけど」

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくー。はいこれ名刺ね。新聞部の部長やってまーす」

 

 なんともフランクなノリで登場したのは艶やかな黒髪を短めなポニテ風に纏めたメガネ美人。首から提げたカメラがなんとも似合っている黛薫子先輩は「あややややや」とか言いそうな感じだった。・・・どうやら俺は憑かれているようだ。もとい疲れているようだ。

 

 クラス代表になった俺や英国の代表候補生らしいセシリアさんにコメント頂戴といっておきながら「適当に捏造しておく」と言うあたり、あながち間違いでもないのかもしれない。特ダネの臭いを嗅ぎつけたらどこからともなくネタ帳片手に現れそうだなあ。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/曇り】

 

 約2週間ぶりに自宅に帰ってみたら魔窟と化していた。

 

 な、なにをいってるのかわからねぇと思うが、俺も何があったのかわからなかった。

 家事技能が壊滅的だとかゴミ捨ての日にはちゃんとゴミ出せよとか本気でお手伝いさんとか雇った方がいいかもしれないとかそんなちゃちなものじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を垣間見たぜ・・・俺の家族がこんなにずぼらなわけがない。

 

 やばい、侮っていた軽く見ていた少しくらい家を空けても大丈夫だろうと高を括っていた!!

 

 ゴミの分別くらいはしていたようだが、それを溜め込んだら意味ないじゃないか。ダメ人間コースまっしぐらだよ。どういうことなの。

 

 妹と姉が手を組むと人の居住空間だとは思えないゴミ集積場が出来上がるようです。何これ怖い。

 

 姉妹揃って外ではキリッとしてるのになあ・・・プライベートになるとてんでダメダメなんだものなあ。これでは女性という存在への幻想を抱くにも抱けない。まずはその幻想をぶち壊す! 親友は女は神話生物だとか言ってたな。本性見たらSANチェックものだとかなんだとか。確かにな?

 

 いいかげん脱いだ衣服を散らかすのやめてほしい。姉か妹かわからんけど、生地が痛んで怒られるのは俺なんだから。・・・なんで俺が怒られるのかよくわからないが俺が怒られるのだ。マジ理不尽。この家のカーストでは俺が一番下なのだ。マジで理不尽。

 

 休日ということで妹は家にいたが、唯一被害を受けていないソファに寝転がってポテチをつまんでいた。「見てないで手伝えよ」といいたいところだが、織斑姉妹に掃除をやらせると結果的に俺の仕事が増えるので放置。

 

 午前中一杯を使ってもまだ片付かなかったので親友に応援を頼んだらその妹が来た。また妹である。だがしかし、親友の妹は織斑さん家の妹と違って優秀なのだ。家事万能なのである。来てくれて助かるよ、ありがとうと感謝を口にしたら「お、お役に立てて光栄の極みでしゅ!」と顔を赤くしていた。そうだね、人の前で噛むと恥ずかしいよね。ちなみに俺の妹はソファに寝転がって昼寝していた。もう何も言うまい。

 

 

 

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