織斑日記   作:青いカンテラ

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『セシリアの飯がマズイ』

【4月◆◆日/晴れ】

 

 ・一夏さん、クラス対抗戦で使う機体はもう決めてありますの?

 

 ・え、専用機持ちは専用機で出るんじゃないのか?

 

 と素で返したら呆れられた。なんだよー、知らないことを知らないって言って何が悪いんだよー。日本には「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」って言葉もあるんだぞ。

 

 セシリアさんが言うにはクラス対抗戦は専用機持ちといえどIS学園の訓練機を使わなければならないらしい。生徒の実力を見るために、機体の性能差が大きく出ないようにという方針なのだとか。なるほどー、そうなのかー。

 

 IS学園の訓練機は日米仏三ヶ国の量産型ISなんだが、それぞれ日本製第二世代型の打鉄、同じく日本製第二世代型で高機動仕様の打鉄・雅、フランス製第二世代型のラファール・リヴァイヴ、アメリカ製第二世代型のイーグル、とバリエーションが豊富だ。

 

 打鉄は防御重視で堅牢な装甲と初心者にも扱いやすい簡易な操縦性がウリ。

 打鉄・雅は高機動仕様ということで防御能力は劣るものの操縦のしやすさは変わらず。

 ラファールはその扱いやすさと選択装備の豊富さ、そして何より総合性能の高さから人気が高い。

 イーグルは癖のある操縦性と極端な機動性能からやや上級生向けだ。

 

 この中でどれか選べと言われたら、俺は断然、打鉄・雅を選ぶ。特訓でずっと使っていたというのもあるけど、何より使いやすい。姉さんがかつて使っていたIS『暮桜』の簡易量産型だっていうのも理由ではあるけどな。

 

 

 

 ラファールがきませんように! ラファールがきませんように! みんな打鉄選びますように!

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/晴れ】

 

 クラス対抗戦が今週末にあるので打鉄・雅の使用申請を貰って軽く動かしてみた。ハイパーセンサーの最適化は専用機がある場合自動で行ってくれるのでこういう時に楽だ。

 

 箒と模擬戦を何回かやってみたけど、やっぱり白式とは機体性能に開きがあるからか打鉄・雅は遅く感じてしまう。反応速度も追従性能も、どうしてもワンテンポずれるのだ。白式でコツを掴んできた『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』もスラスターに負担が掛かるからあまり使うなって言われたし。

 

 一番の問題は俺が『接近戦しかできない』ことである。銃なんて撃ったことないし、撃ってもあたらないだろう。それに、いまから撃つ練習をするにも時間がなさ過ぎる。それなら少しでも接近戦での技量を高めておく方が有意義だろう。打鉄・雅にも慣れないといけないしな。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/曇り】

 

 一夏知ってるよ。セシリアさんの料理は最終兵器(リーサルウェポン)だって。

 

 英国代表候補生の飯が不味い。

 

 洒落にならないレベルで。

 

 事件は今日の昼ごろに起こった。いつものように学食で昼食を取ろうと思っていた俺は、珍しく弁当を作ってきたという箒とセシリアさんに連れられ屋上で昼食を頂くことにしたのだ。

 

 箒の料理の腕前は6年前の時点でそれなりだったし、箒のお母さんの手料理をご馳走になったことも何回かある。俺が料理スキルを磨こうと思ったのは箒のお母さんの手料理を食べたからである。そうでなければ織斑家の食卓はインスタントで占められていたはずだ。食は人を救う。

 

 箒が作ってきた弁当は鮭の塩焼きに鶏肉のから揚げ、こんにゃくとゴボウの唐辛子炒めもほうれん草の胡麻和えにわかめの炊き込みご飯とバランスが取れていてかつ美味しそうな献立の数々だった。実際美味かった。幼なじみは偉大である。箒の評価を上昇傾向にしておかなければなるまい。胃袋を掴めば男はイチコロなのだ。

 

 で、問題のセシリアさんの方なのだが。

 

 見た目は・・・普通。普通にサンドイッチだった。見た目だけは。妙に甘い匂いのするタマゴサンドからして嫌な予感はしていた。そして最悪なことにこういう時の嫌な予感は的中するもので・・・

 

 

 

 俺と箒はあまりの不味さに悶えました。タマゴサンドなのに甘辛渋酸っぱいとはどういうことか何なんだこの味覚の世界大戦は。どういうことだよおい。あまりの凄まじさに思わずセシリアさんの口にサンドイッチを捻じ込んで差し上げた。するとセシリアさんも悶えてました。味見していなかったらしい、この英国淑女。

 

 セシリアさんの実家は英国でも指折りの名家らしくて、歴史もそれなりにあり、大きなお屋敷には使用人が何百人単位で働いている・・・というのだから食事ももちろんお抱えのシェフが作っていたりするのだろう。それなら包丁を握ったことも食材を選んだこともなかっただろうさ。でもだからって調味料を適当にぶちまけるのはやめてください俺の味覚が破壊されてしまいます。

 

 ちなみに見た目が異常にいいのは本人曰く「本と同じなら問題ないのでは?」とのこと。ダメだこの英国淑女・・・早く何とかしないと・・・将来彼女が想い人に手料理を振舞おうと思って料理を作ったとして、こんな味覚破壊兵器が出された日には百年の恋も冷めようというものだ。間違いない。

 

 だが、早々に発覚したのは幸いだったと言えるのではなかろうか。そしてその被害を受けたのが俺たちでよかったと言えるのではなかろうか。巻き添えを食らった箒には申し訳ないが。

 

 人は過ちを犯す生き物である。誰にだって失敗はある。だが、人は過去を振り返り学習し次の糧とする事ができる生き物だ。某大佐も言っていた「過ちを気に病むことはない。ただ認めて、次の糧にすればいい。それが大人の特権だ」と。俺たちはまだ子どもだけどな。

 

 未来の惨劇を回避するため、かつてあったかもしれない悲劇を回避するため、俺と箒は立ち上がるのだった。人間は学習する生き物だけど繰り返す生き物でもあるからな。ここらで矯正しておかないとまた味覚の核戦争が起こりそうな予感がびんびんしているのだ。こういう時の予感に限って当たるのだからたちが悪い。そんなことを続けていたら味覚が壊れて悪食になってしまう。

 

 そんなわけで不定期ながらセシリアさんのお料理教室をやろうと思う。箒も「なぜ私が」とか言いつつ了承してくれたし。根はいいやつなんだよな、箒は。ちょっと人付き合いが苦手でムスっとしていてよく人を睨むだけで。・・・あれ、これダメでは?

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/晴れ】

 

 クラス対抗戦が開始される少し前、アリーナの片隅で黒い笑みを浮かべている女子生徒が二人いた。リボンの色は両方とも黄色で、二人は二年生のようだった。

 

「今年の対抗戦の目玉は断、然、織斑一夏くん! あの千冬様の弟である彼の試合を観たいと願う生徒は数多・・・けれどアリーナの席数は限られている上に試合前予約で既に満員状態」

「そこでこの座席券ですな?」

 

 と、ツーサイドアップテールの二年生がポケットからチケットの束を取り出す。そこには『クラス対抗戦第二アリーナ/座席予約券』と書かれていた。ざっと見ても十枚くらいはあるだろうか。チケットの束を見たもう一人の二年生がふっふっふっと笑う。

 

「そーゆーこと。事前に何人かの生徒から買い上げておいたこれを希望者に売りつけようってわけよ。織斑一夏くんの試合を観たいって生徒はたくさんいるわ。一枚一万円でも売れるわよ」

「ほほぉ、主も悪よのぉ」

「いえいえ、お代官様ほどでは」

 

 なぜか時代劇風の悪役風に忍び笑いをする二人。そんな二人の頭の中では大金を手にして山分けする自分達の姿が思い描かれているのだろう。だが、夢想は現実にはなりえない。なぜなら・・・

 

「ほう・・・その話、私にも是非聞かせてもらおうか」

 

 件の人物、織斑一夏の姉にしてIS学園の教師、織斑千冬に発見されてしまったからである。

 

「お、おおお織斑先生!?」

「ナズェココニ!?」

「去年も似たような事があったのでな。その見回りだ。・・・しかし、驚いた。去年に引き続き今年もお前たちとはな。前回は初犯だったから温情もあったが、今回はキツイお灸をすえてやらないといけないらしい」

「「ひ、ひぇぇぇ!!」」

 

 第二アリーナの片隅で上がった女子生徒二名の悲鳴は残念ながら誰の耳にも届くことはなく、哀れ二人は仲良く『特別指導室』行きとなった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 クラス対抗戦当日。噂の新入生織斑一夏の試合があると聞いて、試合会場となる第二アリーナはすでに満員御礼。席を確保できなかった人は立ち見するか、別室でリアルタイムモニター越しに試合を観戦するらしい。

 

 学年別に使用するアリーナは違っているので第三アリーナでは二年生、第四アリーナでは三年生の試合が行われる予定だ。アイリス先輩の試合を観戦しにいけないのは残念だが、俺はいまできることを精一杯やることにしよう。

 

「一夏、やるからには優勝あるのみだ」

「学食フリーパス・・・」

「一夏さん、日頃の成果を見せる時ですわよ」

「がんばれおりむー」

 

 とみんなの声援と期待を一身に受けたのだ。これで勝てなければ男が廃るというものだ。ラファールがいませんように。ラファールがいませんように。ラファールは全部上級生が使っていますように!!

 

 ふう・・・これだけ祈っておけば問題ないだろう。たぶん。第一試合、俺の対戦相手は・・・三組の橘さんか。使用機体は・・・お、打鉄か。橘さんには悪いが、第一試合いただきだぜ。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 何がいただきじゃんがりあんだよ。思いっきり強敵だったよ。IS実機の授業開始されてから4日の動きとは思えなかったわ。地上戦に持ち込んだのがいけなかったのか、単に武器の相性の悪さゆえか、三組の橘さん、しっかりと記憶しておくぜ。

 

 それにしても、鎖鎌なんてIS武器にあったんだな。驚いたぜ。それをチョイスした橘さんにも驚いたが、それを見事に使いこなす腕前にも感心した。聞けば実家が代々続く武闘派らしくて彼女も幼少期から祖父の手ほどきを受けて育ったとか。

 ・・・孫に鎖鎌の使い方教え込むとかその祖父ちゃんパワフルすぎるだろ。護身術にしても物騒だわ。セーラー服と鎖鎌・・・なんか烈○の炎で出てきそうだな。

 

 念のため小太刀を追加しておいたからいいものの、大太刀だけだったら武器を奪われた時点で徒手空拳確定だったな。危ない危ない。射撃武器が天敵だと思っていたが、思わぬところで伏兵がいたぜ。鎖鎌がIS武器としてあるなんて普通思わないものな。あったとしてもそれを女子高生が振り回すなんて思わないものな。IS学園、まだまだ奥が深そうだぜ・・・。

 

 えーと、二時間の休憩を挟んだ後に決勝戦を行う? ということは決勝戦は午後からだな。腹が減っては戦はできぬ。とりあえず昼食を取りにいこう。

 

 っと、その前に決勝戦で戦う相手の名前を確認しておくとするか。えーと、何々・・・更識簪? 更識・・・簪。更識・・・はて、どこかで聞いた事があるような?

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 もぐもぐ。鯖の味噌煮定食という名の日替わり定食ウメー。IS学園万歳。俺、将来この学園の教師になる。そうすれば毎日美味い定食が食えるもんな。え、教員免許? ・・・きっと超絶難しいんだぜ。

 

 時刻は12時を少し回ったところ。午後からの試合に備えて腹ごしらえをしている。それにしてもIS学園の学食は美味い。日替わり以外に食べたこと無いけど・・・。アサリの味噌汁が染み渡る。

 

「一夏、食事中に試合映像を見るな。行儀が悪いぞ」

「そうですわ一夏さん。最低限のマナーでしてよ」

「おお、すまん」

 

 俺が決勝戦で戦う相手・・・更識簪さんの試合映像・・・ではなく、アイリス先輩の試合映像を見ていたら箒とセシリアさんのコンビに注意されてしまった。これは失敗。

 

 二人の昼食は箒がきつねうどん、セシリアさんが洋風ランチAセット。二人とも好きだねえ、それ。たまには別のを頼めばいいのに。と言いつつも毎日日替わりを頼んでいる俺である。人のこと言えないね。

 

「決勝戦の相手は更識簪さん・・・でしたわね。橘さん以上に気を引き締めて掛からないといけませんわよ」

「ん、そうなのか?」

「更識簪は日本の代表候補生だ。知らないのか?」

「今知った」

 

 素直に言ったら箒とセシリアさんに呆れ顔された。なんだよー、知らないことを知らないっていって何が悪いry

 うーん、何かが引っかかるなー。更識、最近聞いた事のある名前だ。どこだっけなー(チラッチラッ)。

 

「更識と言えば・・・」

「知っているのか箒!」

「変わった苗字だな」

「・・・」

「な、何だその目は」

「いや、別に」

 

 幼なじみ知らなかった。いい加減引っ張るのもアレなのでここまでにしておこう。更識、という名前を俺は知っている。最近、同じ苗字の先輩と知り合いになったからな。

 更識楯無・・・二年生にしてIS学園生徒会長を務める少女。モデル顔負けのナイスバディと山田副担任にも負けず劣らずな夢と希望の持ち主。埋もれたい。それでいて『学園最強』を名乗る彼女は教師陣からの信頼も厚いらしい。

 

 その更識先輩と同じ苗字を持っているということは、恐らく身内か何かだろう。『更識』なんて苗字他に聞いたことないし。プロフィールの顔写真も更識先輩にどこか似ていた。癖のある水色の髪とか。姉妹・・・だろうなあ。たぶん。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 二時間のインターバルが終わり、打鉄・雅を纏った俺は再び第二アリーナのピットに来ていた。箒とセシリアさんは一年一組応援団と一緒に試合を観るといって客席に戻ったため、いまは俺一人である。

 

 少し前屈みになって装甲を開いている打鉄・雅は、仮初めの主と共に戦場(いくさば)で剣舞を踊る時をいまかいまかと待ち望んでいるようにも思える。試合開始まではまだ時間がある。打鉄・雅の装甲にそっと手を触れる。冷たい鋼鉄の感触が心地いい。息を深く吸って、浅く長く吐く。よし、いける。

 

「勝つぞ、雅」

 

 ―――リン

 

 と、澄んだ鈴の音が聞こえたのは果たして幻聴だったのだろうか。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「かんちゃーん、ステータスチェック、終わったよー」

「・・・ありがとう、本音」

 

 第二アリーナ、第二ピット。一夏がいる第一ピットとは正反対に位置するそこで、一夏と決勝戦で戦う少女・・・更識簪は自身が今回乗機として選んだ打鉄・雅の調整を完了していた。

 織斑一夏・・・世界で唯一ISを使えるという男。彼に対して思うところがないわけではない。彼の姿を見るたびに、彼の名前を聞くたびに、自分の心の奥底に暗い『何か』が湧き出るのがわかる。だが、それに身を任せるつもりはない。あまりにも非効率的で、そして無意味だと知っているから。彼が悪いわけではない。誰かが悪いわけでもない。ただ、不幸が重なっただけだ。それでも、彼に一言言わないことには気が済まなかった。

 

 だからわざわざ苦手な人前に出ることの多いクラス代表という役職を引き受けたのだ。男性が苦手な簪が、織斑一夏にただ一言言うためだけに。

 

「・・・よかったの? 本音は一組なのに四組の私に手を貸したりして」

「私はー、一組の布仏本音の前にかんちゃんの親友兼メイドさんだからねー。問題ナッシンだよー」

 

 いつものように本音はにへら、と笑ってみせる。この笑顔に何度助けられてきただろう。今回も、甘えてしまっている。悪い癖だ。

 

「本音」

「なにかな、かんちゃん」

「悪いけど、勝ってくるから」

「ん、りょーかーい」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「負けちゃったぜ☆」

 

 てへぺろ☆

 

『・・・』

 

 あれ、みなさん笑顔だけど笑顔じゃないですよ? いったいどうし・・・アーッ!!

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦 決勝戦 一組代表 織斑一夏 四組代表更識簪

 

 結果 両者制限時間切れ。シールドエネルギー残量が1ポイント上回った更識簪を勝者とする。

 

 

 

 

 

 

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