織斑日記   作:青いカンテラ

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『得意料理は酢豚』

【4月◆◆日/曇りのち晴れ】

 

 部屋で明日の予習復習をしていたら、山田副担任が訪ねてきた。珍しい客も来たものだと思っていると、どうやら箒の部屋割り調整が出来たらしくて別の部屋に引っ越してもらうとのことだった。そうか、箒との二人部屋も今日で終わりかー。なんだか思ったより早かったような気がする。俺としては1か月か2か月くらいは続くと思ってたけど。

 

「ま、待ってください先生! それは今すぐでないといけませんか!?」

 

 引っ越し先でも達者にな・・・と頃の中でエールを送っていると、箒が山田副担任に食い下がっていた。確かに急なことだしな、箒の言うことももっともだ。それに短い間とはいえ寝起きを共にした部屋なのだ。色々と思うところもあるだろう。

 とはいえ、箒の口からそんな言葉が飛び出るとは意外だった。「男女七三にして同衾せず! 常識だ!」とか言っちゃう系の女子だから、てっきりすぐに移動の準備を始めるかと思ったんだが。山田副担任もそう思っていたのか、目をぱちくりさせていた。

 

「それは、まあ、そうです。いつまでも年頃の男女が同室で生活をするというのは問題がありますし、篠ノ之さんもくつろげないでしょう?」

「い、いや、私は―――」

 

 箒はどうか知らないが、俺は自制心を保つのが大変だったことが何度もある。子どもの頃ならいざ知らず、いまは15の男と女。互いに互いを異性として意識しだすお年頃であるのだ。それに・・・だ箒は見てくれ美少女だし、たわわに実った夢と希望もあるし。男として意識の外に追いやるのがどれだけ難しいか。煩悩退散煩悩退散である。

 

 

 

 なんやかんやあって箒さんは別の部屋に引っ越していった。まったく何の準備もしていない状態から、迅速な行動により箒は1時間と掛からずに荷物をまとめて出て行ったのである。

 

 短い間とはいえ二人で使っていたからか、急に一人になると元々広めに作られている部屋が余計に広く感じるな。じきに慣れていくんだろうけど。時計を見れば9時を少し回ったところ。就寝時間にはまだ早いものの、今日のところはもう盛ることにしよう。話す相手もいなくなったしな。

 

 シャワーは浴びた。歯磨きもした。寝巻き=部屋着。準備OK。寝る準備ヨシ!

 

 いざ夢の世界へとベッドイン。

 

 コンコン。

 

 ・・・。

 

 コンコン。

 

 もう布団に入っておやすみなサイ状態だというのに、一体誰だ。無視するのもあれなので仕方なく布団から出てドアに向かう。

 

「はい、どちらさまで―――」

「・・・」

 

 ドアを開けると、さっき出て行った箒が立っていた。なんだなんだ、忘れ物か? とりあえずコンコンダッシュじゃなかったのはよかったけど。・・・高校生にもなってコンコンダッシュするやつはいないか。

 

「・・・」

「・・・」

 

 無言の箒さんである。何もいわずにただ不機嫌そうな顔で立っている。何だというのだろうか。新手の睡眠妨害だとしたら即刻お帰り願うのだが。

 

「何か用か? ここで話せないことなら中に入れよ」

「いや、ここでいい」

「そうか」

「そうだ」

「・・・」

「・・・」

 

 再び沈黙。っておい。

 

「用が無いなら俺は寝るぞ」

「よ、用ならある!」

 

 こらこら、廊下で大声出したりしたら寮長に怒られるぞ。それに迷惑にもなりかねない。今の時間なら起きてる生徒もいるだろうけど、寝てる生徒がいないとも限らないんだし。

 

「さ、再来月! が、学年別タッグトーナメントがあるだろう?」

「あー、あるな」

 

 六月末に行われる学年別タッグトーナメントは、その名の通り二人一組で参加する学園行事の一つである。使用機体の制限も特に無く、クラス対抗戦とは違い自主参加。とはいえ学園の外から企業のスカウトマンやらがやってくるため、整備課志望以外の生徒はまず参加するって話だが。

 

 使用機体の制限がないということは専用機持ちも気がねなく戦えるという事で、特に専用機持ちをパートナーに選びたいと狙っている生徒は数多いそうだ。それ以外にもISの操縦に慣れている代表候補生も人気が高いらしい。

 

「その、タッグトーナメントでだな、わ、私が優勝したら・・・」

 

 頬を紅潮させ、箒は言葉を続ける。口を挟む理由も無いので黙って聞く俺。

 

「つ、つきあってもらう!」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/晴れ】

 

 転校生が来た。二組だけど。

 

 朝教室にいくと数人の女子が話しているのが聞こえてきて、どうやら中国からの転入らしい。

 IS学園の転入試験って筆記と実技両方あるんだっけか。しかも絶対正解させる気ないだろってレベルの超難問がバシバシ出題されるらしい。あくまで噂レベルなので本当かどうかは知らないが。

 

「織斑くんおはよー。二組に中国からの転校生がきたって噂、聞いた?」

「噂程度には聞いたけど、どんな子がくるんだ?」

「中国の代表候補生なんだって」

「あら、わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

『それはない』

「な、な、な!?」

 

 見事にハモッた相川さんと岸原さんは顔を真っ赤にしたセシリアさんに追い回されていた。仲いいな、あの三人。

 

 そういえば俺の知り合いにも中国の女の子が一人いたなーと思い出していると、教室のドアがバンッ! と勢いよく開いた。何事かとそちらを見ると、黒髪をツインテールにした女の子が仁王立ちしていた。あれ、なんか見覚えがあるぞ。

 

「一年二組、クラス代表凰音鈴! 一年一組クラス代表織斑一夏に宣戦布告しに来てあげたわよ! 今度のクラス対抗戦では覚悟することね!」

「クラス対抗戦は終わっちゃったよー?」

「・・・マジで?」

「うん」

「・・・ら」

「んぃ?」

「ら、来年! 来年のクラス対抗戦は覚悟しなさいって言おうとしたのよ文句あるかこらぁ!!」

『えー・・・』

 

 顔を真っ赤にして誰に対しての怒りなのか声を張り上げるツインテール娘。あ、間違いない。あいつだわ。と見当がついたところで予鈴のチャイムが鳴った。

 

 「逃げんじゃないわよ一夏!」と捨て台詞を残し、ダッシュして消えるツインテール娘。ま、間違いない。やつだ・・・手乗りドラゴンの鈴だ!! とりあえず二組の転校生はあいつらしいというのはわかったけど、何しに来たんだあいつ。

 

 

 

 【転校生 と 遭遇した!!】

 

 【一夏 は どうする?】

 【コマンド】

 攻撃

 防御

 アイテム

 →逃げる

 

 【しかし回り込まれてしまった!】

 

「人を見た瞬間に逃げようとしてんじゃないわよ!!」

「ひでぶ!」

 

 学食の入り口当たりで腕組みした手乗りドラゴンがいたら俺は逃げる。なんか怖いもん。スカートで飛び蹴りするなよパンツ見えるぞ、と言おうと思ったがスパッツだった。チィッ、ガードが固いな。

 ちなみに一緒に来ていたセシリアさんと箒はさっと体を引いていた。おまいら、少しは助けてくれてもいいんじゃないのか。クラスメイトだろ? 学友だろ? 一緒に特訓してる仲だろぅ? 最後は俺が教わる側ですね。でも助けてくれてもいいと思うの。

 

 手乗りタ・・・手乗りドラゴンこと凰鈴音(ファン リンイン)は小学生時代からの友人である。親友といってもいいし将来の妹候補といってもいい。というか妹にしたい女の子第一位である。第二位はいまのところいない。

 懐かしいなあ。モッピーと離れ離れになって、入れ替わりに鈴が来て、いつの間にか仲良くなってて、中学時代は弾と三人でよくバカ騒ぎをしたものだ。ゲーセンいったり映画いったり、青春の一ページだな。

 

 そんな鈴とも二年の終わり頃に別れて、時々は手紙のやり取りをやってたけど・・・まさかIS学園(ここ)で再会するとは思わなかった。しかも中国の代表候補生になった鈴とだものなあ。娘の成長を見守る父親っていうのは、こんな気持ちになるのだろうか。俺には娘なんていないけど。

 

「な、何よその顔。気持ち悪いわね」

「さすがにそれはひどくねえか!?」

 

 「娘の成長を見守る父親風」の眼差しをキモイとはこれいかに。ちょっと見ない間に口が悪くなったなあ。・・・いや、元からか。

 

 見ないといえば鈴の実家がやっていた中華料理店『凰』、店閉めてからもう一年になるのか。五反田食堂と並ぶ俺のお気に入り飯屋だっただけに、残念である。

 また食べたいなあ、あの店の八宝菜。具沢山の八宝菜を別注文のご飯の上に掛けて食べるのが密かな楽しみだった。思い出したら食いたくなってきた・・・定番の日替わり定食を食べているのに腹が減ってきたぞ。

 

 夕食は中華丼を絶対大盛りで食べよう。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「お帰りなさい、一夏。ご飯にする? 酢豚にする? それともアタシ?」

「裸エプロンで」

「ないわよそんなの!」

「あべし!」

 

 いつものように特訓を終えて部屋に帰るとエプロン姿の鈴が新妻風に待っていた。すまん、今日は酢豚より中華丼な気分なんだ。

 スカートでハイキックするとパンツ見えるぞ、と言おうと思ったが鉄壁のスパッツであった。べ、別に見たいわけやないで!! 下心なんてないんや! ほんまやって!

 

 話を聞いて見ると、昼食の時に部屋割りの関係で半月くらい箒と同じ部屋で寝食を共にしてたんだ。という話を「幼なじみなら同棲してもいいのね!」と明後日の方向に解釈したらしく、わざわざボストンバック片手にやってきたらしい。

 

 幼なじみなら同棲OKとかどんなエロゲシチュを謳歌してる野郎だよ。そんなやつは即刻爆発するべきだな。って俺か。可及的速やかに爆発しなければならない俺はどうやらここまでのようだ。次の一夏はうまくやるでしょう。

 

「ところで一夏、約束覚えてる?」

「約束? ああ、あの合宿で鈴がオネショしたのを墓場まで持っていくという血のry」

「いますぐ忘れろ!」

「ぐはっ!」

「そうじゃなくて、ほら、小学校六年生くらいの時にさ、したじゃない」

「え? ああ、そう言われるとなんか約束した覚えがあるな。えーと、鈴の料理の腕が上がったら―――」

「そう、それ!」

「―――毎日酢豚を奢ってくれる、だっけ?」

「はい?」

「ん、違うのか? 俺はそう記憶しているぞ」

「あ、はは・・・ちょっとでも期待したアタシがバカだった」

 

 がっくりと方を落としてたぱー、と涙を流す鈴。どうやら俺の回答はお気に召さなかったようだ。

 

「ま、いいわ。アタシもあれで通じるとは思ってないし。よいしょっと」

「なんだ帰るのか? 泊まっていってもいいのに」

「今日のところはやめておくわ。一夏の部屋で寝たって知れたら絶対質問攻撃がくるもん」

 

 「今日のところは」ってことは次もあるってことですね、わかります。まあ、元々二人部屋だから鈴の一人や二人転がり込んできても問題はないけどな。

 翌日どうなるかは・・お察しください。ただでさえ娯楽の少ない学園寮生活である。年頃の男と女が朝、一緒の部屋から出てくるとか飢えた獣の群れに新鮮な生肉を放り込むようなものである。恐ろしい。経験者はそれらしく語る、である。

 

「おやすみ、一夏」

「おやすみ、鈴」

 

 

 

 新妻風鈴が作って待っていた酢豚は夕飯として美味しく頂きました。中華丼はまた別の機会になりそうである。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/曇り】

 

 鈴ちゃんなう! 鈴ちゃんなう! 鈴ちゃん鈴ちゃん鈴ちゃんなう!

 って叫んだら「連呼すんな恥ずかしい!」と飛び蹴りくらいました。ありがとうございます!

 

 鈴ちゃんかわいいなマジ鈴ちゃんかわいい。

 昼食のお誘いに二組まで行っちゃうくらいにはかわいい。俺の未来の妹がこんなに可愛い。

 俺はいつものように日替わり定食、モッピーは和食Bセット、セシリアさんは洋食Cランチ、のほほんさんは月見うどん、鈴ちゃんは海鮮ラーメン。

 

 お昼時定番メンバーに鈴ちゃんが参加しました。

 

 ラーメン、いいよな。俺のお勧めはラーメンに半ライスと餃子がついたラーメンセット。麺を食べ終えた後のスープに半ライスを投入して頂くのが美味いのだ。もちろん麺をライスに乗せて一緒に食べるのもいい。・・・サッポ○一番を常備しようかな。たまにはインスタントもいいものだ。

 

 前に鈴ちゃんとそのことで口論になったことがあった。ラーメンにライスは是か否かでもめたのだ。ラーメンライス否定派の鈴とラーメンライス肯定派の俺で一週間もの間続いた戦いは、ためしに食べてみればわかる、という俺の言葉に鈴が「そんなにいうなら・・・」と食べたことで決着がついた。ラーメンライス肯定派一人増加の瞬間である。

 

 話は変わるが、食べ終わった後の鍋にご飯を入れて雑炊にすると美味いよな。どうしてこうスープとご飯というのは相性がいいのだろうか。素晴らしい。

 

 

 

 鈴ちゃん が 仲間に 加わったぞ!(テーレテッテレー)

 

 放課後の特訓に手乗りドラゴンこと鈴ちゃんが加わりました。イェァァァァァ!!

 習うより慣れろ、考えるな感じろ、が基本方針の鈴コーチはぶっちゃけアイリス先輩とどっこいだけど気にしない。未来の妹だからね。未来の兄としては温かく見守るのです。

 

 <●><●><イツデモミマモッテイルヨ

 

「一夏、完全に変質者にしか見えないんだけど」

「ぐはっ!」

 

 未来の兄として妹を温かく見つめていたら鈴ちゃんにひどいことを言われた。これはもう一生立ち直れねぇ!!

 

 

 

 久々に特訓に参加したアイリス先輩が「なんだ、ちんちくりんが一人増えてんじゃねぇカ」と火種を放り込んで危うく戦争になりかけた。ほぼなってた。そんなにカリカリするなよ鈴ちゃん。バンザイ体操もいつか効果が出るって。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/晴れ】

 

 更識妹が最近やる気になっているらしい。

 更識姉情報である。

 

 クラス対抗戦の後、簪さんが自身の専用機である「打鉄弐式をきちんと完成させたい」と意欲を示したのだとか。打鉄弐式は打鉄・雅をベースに高火力・高機動の両立を目指した機体で、第三世代兵装の開発が遅れに遅れて未完成のままなのだとか。

 

 開発に携わっていた簪さんもなんとか完成させたいと手伝っていたようなのだが、本職の人間が手こずっているものを一学生がなんとかできるわけも無く、半ば諦めていたらしい。

 いっそのこと第三世代兵装を取り外して打鉄・雅の専用カスタム機として調整してはどうか? という話も出ていたようだ。本人もその気になっていたらしいのだが、どうやらクラス対抗戦で自信を取り戻したらしく、ヤル気スイッチが入ったのだとか。

 

「まあ、弐式の開発が遅れてるのは一夏くんにも責任がなきにしもあらずなんだけどね」

「え、そうなんですか?」

「君の専用機、開発は倉持でしょ? 打鉄弐式の開発元も倉持なのよね」

「それはつまり、俺の専用機を開発するために弐式の開発に回ってた人間が減らされたって事ですか?」

「大体そんな感じらしいわ。第三世代兵装で行き詰ってるから気晴らしに別の機体でも弄ろうかなーって思ったのかもしれないわね」

 

 遠まわしに「妹が困ってるから責任取れ」と言われているような気がする。でも俺だってISを使える以外は普通の男子高校生。メカニックのことなんてちんぷんかんぷんである。ので本人と話しをしてみるのが一番かもしれないな。

 

 そんなわけで早速ケーキの透明なフィルムを舐めていたら姉の虚さんに拳骨食らって涙目ののほほんさんに簪さんがどんな人か聞いてみた。

 

「かんちゃんはー、いい人だよー。ちょーっと人見知りなところがあるけど。あ、あと、気難しいっていうか、あんまり喋らないかなー」

 

 人見知りで気難しくてあまり喋らないいい人、らしい。なるほどわからん。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

【4月◆◆日/晴れ】

 

 更識妹と第三種接近遭遇を果たした。あんまり会話が弾まなかった。俺、実は口下手なんよ・・・。鈴ちゃん連れて行けばよかったかもしれない。困った時の鈴ちゃん頼みである。コミュ力あるしな。

 

 会話の代わりに昔ながらのメカニカルキーボードの音だけが響いているとかファーストコンタクト完全に失敗ですほんとうにありがとうございます。こちらワンサマー。大佐、ミッションは失敗だ。

 話を振ってみても「そう」とか「うん」しか返ってこないんですよ。もっと会話のキャッチボールしようぜ。作業中のところにお邪魔したのが悪かったのかもしれないが・・・。

 

 親友の五反田に「寡黙なメガネっ娘ってどう攻略すればいい?」ってメールを送ったら「一夏ー、今度野球いこうぜー」と返ってきた。HAHAHA、絶対いかねぇ。

 

 

 

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