虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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すいません、プロヒモの前にストーカーをどうにかします。


第11話:千年前から愛を込めて

 悠香が起こした大混乱から一週間が経過した。

 人間というのは慣れる生き物である。だが伝説の呪いの王とその側近が高専の敷地をほっつき歩くのは恐怖でしかないのか、多くの関係者が見かける度にさっと離れていく。当の宿儺はそんな有象無象を蹂躙するより、真正面から向き合う悠香と交流した方が気分がいいので、全く相手にしないのだが。

「いかがでしょう、鎌倉半月」

「口当たりのよさがちょうどいい。抹茶が気に入った」

「絶妙な火加減で焼き上げた香ばしい生地、上品なまでの甘み……非術師も油断ならないな……」

「さすがに料理人の感想は違うね」

 パリッと小倉クリームを挟んだ鎌倉半月を頬張りながら、悠香は悠仁と共に二人の感想に耳を傾ける。

 娯楽が少なかった平安出身の呪術師にとって、平成の世の食文化の多様性はとても気に召しているようだ。

 するとここで、悠香が宿儺と裏梅の今後について話し合った。

「宿儺さん、裏梅さん。一応お二人はフリーでの所属で、五条先生と夜蛾校長が裏で手を回してくれたおかげで任務は任意参加って扱いですけど、どうします?」

「そうだな……貴様の任務に付いて行ってやるのも、暇潰しにはなりそうだ」

「裏梅さんは? 一応任務やるなら給料出ますよ。金が集まれば料理の幅も広がるかと」

「……」

 悠香の言葉に裏梅は悩みだす。

 年季だけは一丁前の総監部に使われたくないプライドと、資金があれば材料や器具を買い揃えることができて宿儺を喜ばせられるという想いに、ジレンマを抱えているようだ。その気持ちを察した悠香も、複雑な表情になった。

 その時、伏黒が四人の下に近づいた。

「悠香……ちょっといいか。頼みたいことがある」

「?」

 伏黒が面と向かって悠香に頼み事。

 何事なのかと問うと、それは彼の義理の姉・伏黒津美紀が呪いによって倒れ、一年も目を覚ましていないという案件だった。

(もしかすれば、宿儺を動かしてくれるかもしれない)

 伏黒は一縷の望みにかけていた。

 呪いの王である宿儺なら、津美紀を襲った呪いを祓えるだろうが、自分一人では耳を貸さないかもしれないので、悠香を介することでこの件を引き受けてもらおうという魂胆だった。

 しかし、その望みは呆気なく砕かれた。

「成程、俺にその呪いを祓ってもらおうという腹積もりか」

(やっぱり、見抜かれてるか……)

 宿儺は伏黒の思惑を容易く見破り、自嘲気味に笑った。

 これで望みは絶たれ、あとは自力でどうにかするしかないかと思った時。

「……伏黒君、相応の見返りは用意してる?」

「!」

「宿儺さんだってそこら辺の筋は通してるし……頼むからには()()はしないと。ご利用は計画的にってよく言うでしょ」

「……見返り、か……」

 伏黒はしばらく考えてから、口を開いた。

()()()()()()()()()()()()()を献上する代わりに、姉貴を助けてほしい」

「うわ、結構な博打したね!?」

 頭を下げながら命を懸ける伏黒に、さすがの悠香も驚愕した。

 家族愛に感動するべきか、躊躇いなく自己犠牲をする精神に呆れるべきか、迷ってしまう。

 それを見た宿儺は「大きく出たな」と告げながら了承した。

 

 

 都内、高専関係者がよく利用する病院。

 悠香一行は津美紀に取り憑いた呪いを祓うべく訪れていた。

 伏黒が顔見知りの看護師と雑談しているのを眺めていると、宿儺と裏梅が露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

「お二方、どうかしました?」

「……おい、裏梅」

「全く、面倒なことになりましたね……」

 呆れたようにボヤく二人に、悠香は察した。

 津美紀に取り憑いた呪いの正体を、二人は知っていた。そしてその呪いがとんでもなく面倒なモノだとも。

 しばらくして、看護師との話を終えた伏黒が悠香たちの方へ戻ってきたため、全員で津美紀の病室へ向かう。

「兄さん、これ思ったより面倒かも」

「マジで?」

「マジ。多分、宿儺さんと裏梅さんの知り合い。それも五条先生並みにウザいパターン」

「うわぁ……」

 ジト目で告げる弟の言葉に、思わず顔を引き攣らせる悠仁。

 あの宿儺がそこまで嫌がる呪いとは、一体何なのか。気になって仕方がない。

 そんな会話をしている内に病室に辿り着き、伏黒が慣れた手つきでノックしてドアを引く。

「おじゃまします」

「どうもっす……」

 返事はしないと理解しつつも、軽く挨拶して入室する。

 視線の先には、額に何らかの印が刻まれた女性――伏黒津美紀がベッドの上で横たわっていた。

「……皆、一回出よう」

「「ハァ!?」」

「見て、宿儺さんと裏梅さんの顔、物凄いことになってるから」

 バッと振り向いた悠仁と伏黒は、言葉を失った。

 宿儺と裏梅が、心の底から嫌そうな顔を浮かべていたのだ。間違いなく、原因は津美紀に憑いた呪いだ。

「とりあえずさ、出よう」

 これは出直す必要があると悠香が説得した、その時。

 ムクッと、ごく自然に昏睡状態のはずの津美紀が起きたのだ。

「「「……!?」」」

 突然の出来事にギョッとする三人。

 津美紀の視線は、ゆっくりと宿儺に向けられ……。

「――宿儺……!? 宿儺!! 宿儺じゃないの!! もしかしてだけど私を迎えに来てくれたの!? やだ、最っ高!! テンション上がってきた!!」

「ハァ~……」

 ベッドから飛び出て今にも踊り出しそうな雰囲気の津美紀。

 あまりの異様な光景に度肝を抜かれたが、ここで悠香は重大な事実に気づいた。

「裏梅さん、これまさか受肉ってます?」

「……ああ、してる」

「じゃあ()()()って、もしかして腐れ縁ですか?」

「……そういうことだ……」

 悠香の言葉に、裏梅は頭が痛いと言わんばかりに顔を手で覆った。

 嫌な予感は薄々してたが、この展開は予想してなかったのだろう。珍しく裏梅が動揺している。

 そんな中、伏黒は裏梅以上に動揺しながら尋ねた。

「お前……誰だ……!?」

「誰だ、ですって……? あなたのお姉さんよ!! 伏黒恵!!」

「ド直球の嘘ついてきたよ、中の人」

 堂々と名乗る津美紀もとい受肉体に、悠香は真顔で呟いた。

 まさか同期の身内まで受肉しているとは思わなかったが、これはまたとない好機ともとらえていた。中の人に恩を売れば、自分たちの味方になって総監部や呪詛師を牽制できると考えたからだ。

 そう判断した悠香は、すぐさま行動に移した。まず最初に行うべきことは……。

「とりあえず、退院手続き取りましょうか」

 

 

           *

 

 

 津美紀に受肉したのは、およそ千年前の術師・(よろず)

 宿儺や裏梅と同じ、呪術全盛の平安時代を生きた強者だった。

「……ところで宿儺、そこのガキは何なの?」

 ギロッと悠香を睨む万。

 あ、これ修羅場かも――悠香は面倒臭そうな表情を浮かべるが、すぐに切り替えて無難な挨拶する。

「呪術高専1年、虎杖悠香です」

「悠香は中々面白い小僧でなぁ……()()()()()()()()()()。今は小間使いとして傍に置いているのだ」

「あっ」

 悠香の肩に手を伸ばし、不敵に笑いながら抱き寄せる仕草をする宿儺。

 それがわざとであると察した時には、全て手遅れだった。

「ざっけんじゃないわよーーーっ!!!」

 万が涙を流して絶叫した。

「何でそんなガキが宿儺に気に入られるわけ!? しかも下の名前で呼ばれてるし!! おかしいわよ、こんな世界!! 私が一体何をしたの!?」

「宿儺さん、ちょっと誇張しすぎですよ……これ絶対拗れるじゃないですか」

()()()()()()()()()()()というのは本心だぞ? 悠香」

「おーい、コラー!! 宿儺コラー!!」

 怒る万をさらに煽る宿儺は完全に楽しんでおり、裏梅も全力で嘲笑している始末。

 だがそんな二人に目もくれず、万は悠香に詰め寄った。

「ちょっとアンタ!! どうしてそんなにも宿儺を満たしてるの!? 宿儺を理解できるのは私だけで、宿儺は私に愛されるべきなの!!!」

「知らんがな。そもそもこんな昼ドラみたいな展開を望むわきゃないでしょ」

「むきーっ!!」

 伏黒の姉の体で喚く万。

 完全に子供の癇癪だ。この状態の彼女を鎮めるのは中々難しそうだ。

()()()()、津美紀さんをどうにかしてくださいよ」

「それよりって言うなーっ!! 私の宿儺への愛を何だと思ってるの!?」

 万は泣きじゃくりながら、ビシッと指を突きつけて言い放った。

「私は両面宿儺の〝正妻〟なの!! あんたみたいなガキが私より優れているなんて許せない!!」

「はいはい、わかりました。それで津美紀さんを助ける手立ては?」

「とうとう無視し始めたわね!!」

 冷静に捌く悠香との舌戦に疲れてたのか、万は状況を説明した。

「知らないわよ、そんなの。受肉体の自我は押し殺すものよ?」

 つまり、今の津美紀は死んだも同然の状態だ。

 その事実に愕然とする伏黒に対し、悠香は少し考えた後、「じゃあゼロじゃないな」と呟いた。

「悠香、それどういう――」

「津美紀さんを助けられる方法……やってみなきゃわからないですけど、試す価値はある」

 悠香が思いついた方法は、宿儺にとっては覚えがあり、伏黒にとっては寝耳に水の内容だった。

「津美紀の心臓を核に、新たな器を作る……!?」

「自由と解放を両立させるにはこれしかない。この問題は誰も傷つけずに解決はできない」

「そんなの……納得できねぇだろ!!」

 悠香の提案を、伏黒は承諾できなかった。

 身内の肉体を生け贄にするも同然の方法だ。そんなことをするぐらいなら、今すぐに万を殺してやりたいくらいだ。

 だが、ここで悠香の提案を蹴るのは、器である義理の姉を殺すのと同義でもある。他の方法が思いつかない以上、実践するしかない。

「まあ、一番は津美紀さんに訊くのが手っ取り早い……ってなわけで万さん、早く見つけてください。宿儺さんの正妻を名乗るからには、それぐらいやってもらわないとラブレターも受け取ってもらえませんよ?」

「アンタ、結構いい性格してるわね……!!」

 悪い笑顔で煽る悠香に万がイライラしながらも、意識を集中させる。

 そして、ついに見つけ出した。

「見つけたわよ、この器の自我」

「さすが平安の術師。仕事が早い」

 感心する悠香に、万は「少しだけよ」と答えた。

 そして、雰囲気が変わった。

「……っ……め、恵?」

「津美紀……!」

 津美紀の自我が生きていたことに、安堵する伏黒。

 しかし、事が事なので悠香がすかさず割り込んだ。

「はじめまして。俺は伏黒君の同級生の虎杖悠香と言います」

「……恵の、同級生……?」

「津美紀さん、どうか落ち着いて聞いてください。今の状況を説明します」

 悠香は一から丁寧に説明する。

 津美紀はその言葉に一切反論せず、黙って聞いていた。

「――というわけなんで、万さんの為にも……」

「ええ、わかったわ」

 あっさり了承した津美紀に、悠香は思わず「へ?」と素っ頓狂な声を上げた。

 当然、伏黒も驚きを隠せず、悠仁は暢気に「伏黒の姉ちゃん、めっちゃ大物じゃん」と呟いた。

「恵も万さんも解放されるなら、私はそれが正しいと思う」

「ぜ、善意という名の暴力……」

 悠香のしみじみとした呟きに、悠仁は苦笑いした。

「とはいえ……ここはちゃんとした等価交換をしないと筋が通らない」

 悠香はスマホを取り出し、五条に連絡した。

「あー、五条先生ですか? 津美紀さんの件でお話があるんですけど」

《悠香が僕に連絡するなんて珍しいじゃん。しかも恵のお姉さんの件なんて》

「津美紀さん受肉っちゃってるんです。しかも中の人が宿儺さんの腐れ縁」

《マジで!? しかも宿儺の!?》

 驚く五条に、悠香はこれまでの経緯を端的に説明した。

《成程ね……》

「それでお願いがあるんです。事態収拾の為に宿儺さんの指を用意してくれませんか?」

《指? 何に使うのさ?》

「実は……」

 悠香は、自分が考えた作戦を五条に説明した。

 聞き終えた五条は「相変わらずブッ飛んでんね……」と軽い若干引いているような感じで言った後、少し間をあけてから了承した。

《このまま放置するのも危険だし、かと言って恵のことを考えると、それが案外最適解かもね。ただし一本だけだよ? 僕、宿儺にあまり借り作りたくないし》

「ありがとうございます。今から高専に戻りますので、よろしくお願いします」

 悠香はスマホを切り、一息吐いた。

 これで後は、高専に戻って五条が指を持ち出すのを待つだけだ。

「宿儺さん、これでどうでしょうか? 伏黒君の肩代わりも込めてですが」

「っ!」

「……いいだろう、今回はそれで手を打ってやる」

「ご無理をお聞きくださり感謝します。もっとも、あなたにも考えがあってのことでしょう?」

 その言葉に、全員の視線が悠香に集まった。

「術式の研鑽と拡張をするためには、信頼できる実力のある人間と組手する方が合理的ですから」

「――随分な買い被りだな」

「事実を言ったまでです。俺はあなたの強さを肌で感じたんですよ?」

「クク……お前が俺に抗う姿は絶景だからな。また今度楽しませてもらう」

 ニヤニヤと笑う宿儺に、悠香はジト目で「褒め言葉と受け取ります」と短く返す。

 そのやり取りを津美紀の中から見ていた万は、物凄い怨嗟の言葉をボソボソと呟き続けていた……。

 

 

           *

 

 

「……で、()()アンタやらかしたわけね」

「失礼な。伏黒一家のゴタゴタを解決させただけだよ」

 後日、教室内で「魁!!男塾」の重版を読む悠香は、釘崎にそう返答した。

 かつて宿儺が再臨した時と同じ手口で万も分身を得て、晴れて自由になった。とはいえ、さすがに平安の猛者を3人も野放しにするのはよろしくないとして、縛りを科した上で高専の配属となった。

 同時に自由となった津美紀も、今回のような件がまた起こるかもしれないとして、高専の特別生徒として転校した。伏黒恵の急所となるがゆえの措置とも言えた。

「アンタ、もしかしてああいう奴らに好かれやすい?」

「いやいや、俺はただ敵対したくないだけ。善悪問わず愛を貫く人間は総じて手強いもんだし」

「……それも自己保身か? 悠香」

「そうですね。ツケを踏み倒そうとする連中の為に死ぬなんて、あまりにもバカバカしいじゃないですか」

 愉快そうに笑う宿儺に、悠香がそう告げた時だった。

「このクソガキィーーーーーー!!!」

 バァン! と豪快に扉を開けて、ズカズカと肩を怒らせながら万が殴り込んできた。

 すでに津美紀の肉の一部で再構築した器を得てる彼女だが、なぜか元の黒髪ワンレンロングと磨呂眉ではなく津美紀の顔で髪型を弄った姿である。

 そんな彼女が、悠香に怒りを向けていたのだ。

「ちょっと、どういうことよ!?  何で平安の時より人は増えてるのに、村は人が少ない上に爺と婆しかいないの!? 美男なんかほとんど見かけなかったわよ!?」

「宿儺の前で浮気宣言するん?」

「んなわけないでしょ!!」

「だから言ったじゃないですか、万さん。平成の社会問題を甘く見ちゃダメですって」

 呆れた表情の悠香に、万はピキっと額に青筋を立てた。

 その後ろでは、宿儺と裏梅が失笑している。

「え? もしかしてあの女、少子高齢化とか過疎化とか知らないの?」

「このご時世、若者は大多数が都会に出てしまうからな……」

「大体の村は放っとくだけで廃村になるか、隣の市町に吸収合併されるのがオチだもんね……」

「そ、そんな……婚儀で滅ぼす村は自然消滅の一方、余興で干首にするための美男はそもそも数を減らしていくなんて……これが千年の時の流れなの……!?」

 釘崎、伏黒、順平の順に現実を突きつけられ、がっくりと膝を落とす万。

 そんな彼女に、悠香は彼女の肩にそっと手を置いた。

「まあ……〝時代のうねり〟ってヤツです、諦めてください」

「こんなクソみたいな時代、滅んでしまえっ!!」

 血涙と共に呪詛を吐く万。

 ただ、津美紀の顔のままのリアクションなので、伏黒は少し目を背けたくなったのだった。




宿儺は悪ふざけにも全力投球な気がしたので、万を煽る時はあんな描写にしました。(笑)
これから受肉組は世俗に染めるつもりですので、原作で勝ち誇ってるメロンパンはさらにビックリするでしょうね。

今後の予定は
・パパ黒、悠香に雇われる
・学寮の魔改造と鋼鉄の魔城の出現
・交流会での非常事態
などをします。
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