虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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執筆してて、万の方が悠仁よりイジリ甲斐があると悟りました。(笑)


第13話:伏魔殿

 高専の1年教室で、今日の授業が全て終わった悠香は自前のノートパソコンを開いていた。

 真剣な顔で何やら作成しているお気に入りに、宿儺は気になって声を掛けた。

「悠香、何をしている?」

「ああ、宿儺さん。実は今住んでいる寮の工事の話に一枚噛んでまして……」

「ほう、詳しく聞かせろ」

 悠香は事情を説明する。

 両面宿儺、裏梅、万、伏黒甚爾……個人で国家戦力に匹敵しそうな猛者が立て続けに蘇り、東京校の教師陣は彼らの居住区をどうしようか悩んでいるという。一応校内の敷地はまだ空いているので、そこに新設しようという流れなのだが、彼らを監視する役割を担える人材がおらず、計画は止まっているらしい。

 その情報を聞きつけた悠香は、学寮を改装・増築して自分が宿儺と暮らすことを提案。宿儺が悠香を「唯一の好奇」として気に入っている以上、己の快・不快を生きる指針としている彼の暴走を結果的に抑えられるため、この申し出は割とあっさり受け入れられた。ただ、学寮は先輩達も使うので、寮を利用する全員の部屋割りを改めて決めることになったのだ。

「確かに、寮も空き部屋が結構あるわね」

「僕も、寮母さんの苦労も設備の維持費も大変だと思うんだ」

「まぁ……思うところがないわけじゃないな」

 釘崎、順平、伏黒の順に意見が飛び交う。

 四階建ての寮に対し、寮母が一人なのは管理に一苦労。ましてや呪いの王を御せる寮母などこの世にいるはずもなく、それだったら自分達で寮を管理した方がいいのではないかとさえ思えてくる。

「悠香はどう考えてるん?」

 悠仁は問いかけると、悠香は案自体はあると返した。

「俺が考えてるのは、メゾネットタイプのルームシェア。一階は共同スペース、二階は一部屋最大4人で暮らせる居室スペース。これなら寮の管理も楽になると思うし、戦争も防げると思うんだ」

「何だよ戦争って」

「これだけの強者が揃うんだ、一度喧嘩になったら寮が吹っ飛ぶでしょ? 常にストッパーが来れる状態にするには、個室よりルームシェアの方が()()()()()()

 恐れ多い事実を突きつけた悠香に、宿儺以外が遠い目をした。

 呪いの王と天与の暴君に加え、裏梅に万という途方もない力を持つ面々も控えている。しかも学生にも癖の強い者も混じってるので、揉めたら間違いなく戦争状態になる。それを阻止するために寮をルームシェアのスタイルにし、何でもいいので親交を深めて矛を収めやすくしようと目論んだのだ。悠香なりの優しさという訳である。

「それで宿儺様の生活を充実できるのか?」

「絶対にとは言いません。不平不満や課題、要求は後々出てくるもの……現実をよく知ってないと具体的な夢が見れないように、新生活を始めないと欲しい物は簡単に出てきませんよ」

 悠香の言葉に、裏梅は思わず唸った。

 すると、茶化すように宿儺が口を開いた。

「クク……この際だ、裏梅。氷室も大きく使いやすいのにしてもらえ。小僧のが小さくて敵わんと愚痴を溢してたではないか」

「す、宿儺様!」

(めっちゃ乙女!)

 ニヤニヤ笑う宿儺に、顔を赤くして狼狽えながらも悠香に目を配る裏梅。

 裏梅のコミカルな一面に一同が驚く中、悠香は淡々と返事をした。

「冷蔵庫……今時の氷室だけじゃなく、設備全体は向こうで金策して品質のいいヤツを用意してくれるので、その辺の心配は大丈夫ですよ」

「そ、そうか……それは助かる」

 裏梅はホッと胸を撫で下ろした。

 そんなこんなで着々と決定事項は決まっていき、悠香はパソコンでそれを元に資料を制作。高専の寮の今後についての話し合いは白熱し、二年生の先輩や万達も途中参加し、夕方頃にようやく完成したのだった。

 

 

           *

 

 

 それから三週間後。

 金にものを言わせた高専側は、突貫工事で新しい寮を完成させた。

「これからのお前達の寮だ。二階建ての純和風メゾネットタイプで、それぞれ個人が生活できる空間をちゃんと確保してある」

 夜蛾は新しい寮の案内を始める。

 まず案内したのは、一階の和風共同スペースだ。

「設備は全て最先端のものを用意した。LDKはこれくらいがちょうどいいだろう」

「禪院家の広間より居心地いいじゃねぇか」

「あれの居心地の悪さは面子のせいだろ、おっさん」

 顎に手を当てて呟く甚爾を、呪具使いの2年生・(ぜん)(いん)()()はジト目で睨んだ。

「台所はオープンキッチンにし、大型冷蔵庫を二台設置した。調理道具や冷蔵庫も全て最新のものになっているぞ」

「これはいい氷室だな……!」

「目の輝きが違うな……これも料理人の性か……?」

「おかか」

 最先端の大型冷蔵庫を開けて感心する裏梅。

 あまりの食いつきぶりに、人語を解す呪骸――人形に呪いを籠めた存在――のパンダはしみじみとボヤき、言葉に呪力を込めて放つ「呪言師」の末裔・(いぬ)(まき)(とげ)も彼に同意した。

 夜蛾は思わず苦笑し、続いて浴室の説明をしていく。

「ここが浴室だ」

『おおー……!』

「ほう……悪くはない」

 広い浴槽と洗い場を流し見た一同は感嘆し、宿儺も満足気に頷く。

 浴室に関しては宿儺の要望で大浴場となっており、浴槽も大きく寛ぎやすい設計だ。シャワー設備もバッチリである。

 ただ、なぜ宿儺が浴室にこだわったのかは全くの不明だが……。

「脱衣所は洗濯機と乾燥機を、トイレは各階に二箇所ずつ設置した」

「もうコレ学生寮じゃなくねぇか?」

 パンダの言葉に、一同は思わず頷いた。

 続いて二階に上がると、各部屋の扉を順番に開けていく。

「ここが居室になる。部屋はリクエスト通りに最大4人で泊まれる部屋を用意した」

 夜蛾は部屋の仕様を紹介する。

 床はフローリングと畳を組み合せた仕様で、壁紙は穏やかでやさしい色合いのベージュ。大型のテレビやエアコンも備わっており、畳のトランドルベッドとテーブルも配置されている。落ち着いた雰囲気と過ごしやすさが両立した、学生寮とは思えない出来栄えだ。

 一通りの説明が終わると、全員で一階に戻り、夜蛾は「あとはお前達に任せる」と告げて寮から去っていった。

「……という訳でして。今日からここが新しい魔界になります」

「魔界って言うな!」

 悠香の一言に真希がツッコむ。

 確かに宿儺が居座る学生寮など、誰がどう見ても魔界か悪魔の根城だろう。

 ともあれ、ここは高専内の敷地にある立派な学生寮。今日からここで生活していくのだ。

「さて……問題は部屋割りについてなんですが、自由に決めていこうかなと思います」

 悠香の宣言に、悠仁達は盛り上がった。

 これから仲良くしていくためにも、自由に面子を選んでいいというのは魅力的な提案である。

「ただし万さん、あなたと宿儺さんの相部屋だけはダメです」

「――ざっけんじゃないわよ!!」

 万だけ容赦なく選択肢を奪う悠香。

 それについて万は非難の声を上げた。

「虎杖悠香!! あんたに私の愛を邪魔する理由はないはずよ!!」

「先日も言ったじゃないですか、戦争を防ぎたいって。俺から見ればあなたが火種になる確率が高いんですよ、裏梅さんと対立する形で」

 万は悠香に猛烈に詰め寄るが、悠香も一歩も引かない。

 しかも悠香の理由は妙に説得力があり、思わず悠仁達も頷く始末で、裏梅はニヤニヤと嗤っており、宿儺に至っては鼻で笑っている。

 自分が四面楚歌だと気づき、愛に生きるストーカー術師は思わず膝から崩れ落ちた。日頃の行いは大事である。

「宿儺、いいのかよ?」

「ケヒッ……あいつのことは放っておけ小僧」

「……それで、どう振り分けるつもりだ社長」

「とりあえず茶でも飲んで話し合いましょう。そうすりゃすぐ決まりますって」

 

 

 その後、全員で茶を啜りながら話し合うこと数分。ようやく部屋割りが決まった。

 結果、釘崎・真希グループ、パンダ・棘グループ、吉野家、伏黒親子、虎杖兄弟&宿儺・裏梅、万・津美紀で分けられた。

 なお、宿儺との同室を心から望んでた万は、悠香の判断が満場一致したことにより魂が抜けたような状態になっている。その隣で裏梅が嬉しそうに微笑んでいた。この二人は相変わらずである。

 そんな万の面倒を津美紀が見ようというのだから、とんでもない大物である。

 

 

            *

 

 

 寮が生まれ変わり、それぞれが自由時間を過ごし始める中、悠香は一人で保険医の家入の下を訪ねていた。

「どうだ、最近は」

「うーん……時々ズキッてきます」

 悠香は家入の診察を受けていた。

 実は先日の真人との一戦で魂を長く触れられて以来、悠香は時折胸や頭に痛みが走ることがあるのだ。家入は反転術式で治せるものの、悠香の天与呪縛の都合上、痛み止めの処方などに頼らざるを得ないのだ。

「もし呪霊の術式の後遺症となると、あまり負担をかけられない。幸い、健康面には問題がないが、少しでも違和感を感じたらまた来てくれ」

「わかりました」

 悠香は診察を終えて医務室を出ようとした時だった。

 

 ゴンッ!

 

「ぶっ!!」

「おい」

 足をくじいてしまい、盛大にズッコケた。

 そしてそれを呆れたように見る家入。

「あででで……」

「何やってんだ、全く……今の絶対皮剥けただろ? 消毒するから腕を見せ――」

 見せろ、と言い切ろうとした家入は、悠香の手の甲を見て凍り付いた。

 転んだ拍子で皮が大きく剥けていたのに、あっという間に修復して元通りになったのだ。

 通常なら反転術式と思うが、家入は目の前の現象の異常性に冷や汗を流した。

(呪力の流れを感じない……!?)

 呪力操作による治癒をしていないのに、悠香の体は元通りになったのだ。

 絶対にあり得ない現象であるのに、彼の体はそれを行っている。治癒というよりも自己再生に近いものだ。

(おい……まさか……いや……そんなことがあり得るのか……!?)

 驚愕の事態に、家入は言葉を失っていた。

 悠香の無為転変の後遺症と思われる症状、そして先程の本人無自覚の再生能力。

 ――もしかするとこれは、呪術界どころか世界規模の事案につながるのではないか?

「……」

「家入先生? どうしました?」

「っ! い、いや……何でもない。運よく無傷で済んでたな。気をつけろよ……」

「どうもすいません……」

 我に返った家入は平静を装って誤魔化すと、悠香は苦笑いしながら医務室を出て行った。

「……」

 家入は悠香を見送ると、今しがた見たものについて考えを巡らせた。

 悠香の天与呪縛は未完成である。天与呪縛は魂の繋がりがある存在も同一人物としてカウントされるため、双子のうち片方が健常者、片方が天与呪縛を課せられている場合は得られる特典が半減するという性質を持つからだ。

 その上で、魂を触れて弄ぶ術式の後遺症らしき痛み、反転術式を施してないのに傷が元通りに治る現象が発覚した。もし、この二つがつながるとすれば……。

(……いや、考え過ぎか……?)

 家入は煙草を咥え、思考と一緒に煙を吐き出した。

 呪術高専に……いや、呪術界に巨大な嵐が吹こうとしていた。




次回は先に交流戦をやります。
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