虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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ついに呪術廻戦にまで手を出してしまった……。
原作よりもソフトに仕上がってるせいか、キャラ改変ともいえる描写も多いですが、よろしくお願いします。


出発
第1話:器の弟


 ――何で俺がこんな目に。

 

 少年――(ふじ)(えだ)(はる)()の最後はそう言いたくなるようなモノだった。

 別に両親がクズだったとか、学校で壮絶なイジメに遭ったとか、そういうことはなかった。平々凡々、いたって普通、何の変哲もない在り来たり――身の丈に合った生き方をしているつもりだった。

 しかし、世の中の理不尽はそんなもんお構いなしだ。慈悲など無用と言わんばかりに襲い掛かる。

 

 一人ぶらりと趣味の食べ歩きをしていた最中、通り魔に襲われた。

 何の兆候もなく、突然腹を刺され、胸を刺され、首を刺された。

 自分を()ったのは同級生だった。支離滅裂なことを言いながら、しつこく自分を刺し続けた。クスリでも決めてたんだろう、同級生は日頃から素行が悪かったから。

 

 何はともあれ、藤枝少年は失血でその場で死んだ。そして気づけば見知らぬ祖父と兄と暮らしていた。

 感覚が身内であると告げているので、自分は生まれ変わったのだとすぐに気づいた。そこから先は順応が早く、前世の親不孝が心残りだったが何の不自由なく暮らし、パチンコに行く兄に小言を言いながらも平和な日々を送った。

 

 だが、どうしても気になることがあった。化け物がその辺をうろついていることだ。

 初めて見た時は死を覚えたが、気づかないフリをしているとそのまま無視された。どうやら目を合わせず無視を決め込めば、とりあえず回避はできるそうだ。試しに兄と祖父に言ったところ、反応は微妙。兄は「別にどうでもよくね?」と完全に他人事だが、祖父は考える素振りを見せた後で「とりあえず関わんな」とアドバイスしてくれた。

 とはいえ、ずーっと視界に何かしらの異形が映り込むのは目障りと言えば目障りだ。成長と共に心も変わるもので、段々ムカつくことも増えてきたので、木刀片手に化け物共に喧嘩を売ることにした。化け物は嬉々として襲い掛かったが、ミルコ・クロコップの生まれ変わりと称された兄と兄弟喧嘩――しかもガチの殴り合い――で渡り合ったこともあり、普通にボコボコにできた。

 常人には見えない化け物をボコボコにできたことでスッキリした少年は味を占め、イライラした時は人知れず化け物を木刀でフルボッコにすることでストレスを発散した。あまりにストレスが溜まった時はうっかり殺してしまうところまでやったが、そもそも一般人に見えない存在である上、たとえ誰かに見られても素振りの練習だと言い逃れできるのでモーマンタイ。

 

 こうして少年――虎杖(いたどり)(ゆう)()は、食べ歩きと化物をサンドバッグ代わりにボコボコにすることを趣味とする、ごくごく普通の高校生と成った。

 

 

           *

 

 

 2018年6月、宮城県仙台市内、虎杖家にて。

「兄さん、拾い食いする犬か何かで?」

「いえ、健全な男子高校生です……」

 静かに呆れ返った声を放つ弟に、兄の虎杖(いたどり)(ゆう)()は、目隠しをした不審者に見守られながら正座で縮こまった。

 人当たりのよさそうな、根明な善人の兄に半ギレするが、これは当然の反応といえる。

 というのも、兄は昨日から行方不明になったからだ。

 祖父の死を看取り、夕飯の準備をすると先に病院を出て家に戻ったが、いつまで経っても帰って来ない。オカルト研究部の先輩方とお泊りしてるんだろうと思いつつ、ひとまず朝を迎えると、見知らぬ男を連れて戻ってきて、「俺、死刑になった」と言ってのけたのだ。

 なぜそうなったのかは、隣に立つ呪術師なる人物五条悟(ごじょうさとる)から聞いた。

 

 母校で顔見知りの先輩が呪物の封印を解き、呪霊という化け物に襲われたこと。

 それを倒すため、兄がその呪物――両面宿儺(りょうめんすくな)の指を取り込んだこと。

 そして両面宿儺が受肉して死刑対象になったが、「どうせ殺すなら、全ての宿儺を取り込ませてから殺せばいい」と提案し、執行猶予がついたこと。

 さらに兄が「弟には手を出すな」と言ったせいで「弟も器となる可能性がある」として死刑対象になり、五条が「ウチで監視する」と提案して了承したこと。

 

 全てをありのまま聞いた悠香は、呆れた声で説教を始めた。

「兄さん、俺ずーっと言ってたよね? 身の丈に合った生き方をしてって。身の丈以上に無理したら絶対あとで痛い目に遭うって。いくら弟の小言にうんざりでも、今回ばかりはダメでしょ。何してくれるんだって話じゃん。しかも喪中だし」

「はい……」

「そしたら俺も死刑ってどういうこと? 俺その場にいない人間だよね? 何でそんなに話が飛躍すんの? 兄さんのせいで俺も死ぬハメになったんだけど、どう落とし前つけるの?」

「申し訳ございませんでした!!」

 悠香(おとうと)のガチ説教に悠仁(あに)は静かに素早く土下座したが、「謝って済むなら警察は要らないんだよ、アホンダラ」と容赦なく言葉のナイフを振るわれ、止めを刺された。

 そして悠香の怒りの矛先は、五条悟に変更した。

「そんで……生徒の命より喜久福を優先したゴミクズが、俺達の先生になると」

「うわ、キレッキレだね」

 剣呑な眼差しで五条を見据える悠香。

 滅茶苦茶怒ってる――悠仁は久しく見ぬ弟の激怒に、息を呑んだ。

「五条先生、一つ確認してもいいですか」

「勿論!」

 ニカッと歯を見せて笑いながらサムズアップする五条。

 それを皮切りに、悠香は彼を問い詰めていった。

「俺と兄さんは最初から()()()の人間じゃない。確かに俺はそこら辺の化物……アンタらの言う呪霊をストレス発散がてらサンドバッグにしてはいたけど、別に誰かさんを呪い殺したり街中でテロ攻撃を仕掛けたわけでもない。ましてやおたくらに戦争吹っ掛けたわけでもない。なのに呪術規定なんつー初耳の単語で俺達をぶっ殺そうとしてる。ここまではOKで?」

「……うん」

「両面宿儺の指を取り込んだ兄さんは、まあ罰当たりもいいところです。でも本来、そういう危険物は誰が責任もって管理するんですか? 普通はあなた達ですよね? まさか俺達が管理するなんてことじゃないですよね?」

「……はい……」

 怒鳴らない分、逃げ場を奪うように追い詰めていく悠香。

 先程までの明るさは一変し、悠香がなにか言う度に項垂れていき、ついには悠仁の隣で正座した。

「そもそも喜久福買ってないで駆けつけたらこうはなんなかったろ。両面宿儺の受肉は指の管理を怠った呪術界の過失で、当然五条先生にも責任あるよな?」

「……」

「無言は肯定と受け取ります」

 段々口調が荒くなる悠香。

 一呼吸置いてから、殺意と憎悪を滲ませながら五条を睨みつけた。

 

「この()()()()()()が。人を何の関係もない理屈で勝手に犯罪者扱いして、死刑を延期しただけで恩を売ろうとしやがって。自分(てめぇ)のクソついた尻を俺と兄さんに拭かせるつもりかよ、ええ?」

 

「悠香、ストーーーーーップ!!」

 何だかこのまま息の根止めそうな雰囲気を醸し出した弟に、兄は必死に止めた。

 ――悠香の言うことはごもっともだが、これ以上は五条先生の精神が死んじゃう!

 どうにか悠香を説得すると、盛大な溜め息を吐いて折れてくれた。

「……まあ、俺如きがギャーギャー喚いたところでもう手遅れっぽいから、大人しく着いていくよ。地獄旅行。ちょっと待ってて、準備するから」

 頭を掻きながら自室へと向かう悠香。

 五条はその背中を見つめながら、悠仁に言った。

「ねえ、悠仁」

「ん?」

「何か……ごめんね」

 

 

           *

 

 

 新幹線から電車に乗り換え、さらにバスを使い、虎杖兄弟は五条達の活動拠点である「東京都立呪術高等専門学校」へと辿り着いた。

 多くの呪術師が卒業後も活動拠点としており、教育のみならず任務の斡旋やサポートも行っている呪術界の要であるこの地に、快活な兄と内気な弟が殴り込むのである。

「とりあえず、悠仁と悠香はこれから学長と面談ね」

「学長?」

「下手打つと入学拒否られるから気張ってね」

「ええっ!?」

 しれっと言い放った言葉に、悠仁は虚を突いたような顔を五条に向けた。

 悠香も驚いており、目を大きく見開いている。

「え? 違うの? 俺はてっきり実力主義だと思ってたんだけど……」

「ああ、全くだ。力以外の序列はつまらんな」

 刹那、悠仁の左頬に口が現れた。両面宿儺だ。

 悠仁は頬に向かって平手打ちをするが、平手打ちした手の甲に同じように口が現れた。

「悪い先生、たまに出てくるんだ」

「愉快な身体になったね~」

「こら、兄さん!」

 ゴンッ!! と拳骨が落ちた。

 割と本気だったので、悠仁は脳天にできたタンコブを押さえながら悶絶した。

 突然の暴挙に五条もギョッとする中、悠香は兄の手の甲に現れた口に声を掛けた。

「両面宿儺さん、ですね?」

「小僧の弟か」

「はい。虎杖悠香と申します。……宿儺さん、兄が無礼を働いたこと、心からお詫び申し上げます。兄は頭が鈍いので、どうかご理解を」

「「!?」」

 丁寧な口調で宿儺に詫びる悠香。

 キレた時の口調の粗さも知ってる分、悠仁と五条はあんぐりと口を開けた。

 一方の宿儺は、不機嫌そうに問う。

「命乞いのつもりか?」

 その言葉に、悠香は即答した。

「許す許さないは別として、相手に無礼を働いた以上はきちんと謝る……それが筋だと思っただけです」

「おい悠香、こいつに謝るなよ」

「いや、話してる最中にいきなり口をビンタされたら頭に来るでしょ普通。……すいませんね宿儺さん、ウチの(バカ)が」

「え? これ俺が悪いん?」

 虎杖兄弟の漫才のような掛け合いの中、宿儺は愉快そうに笑い始めた。

 文字通りの口だけの状態なので、その目線や表情は読み取れない。だが、声色からして嘲りを込めた笑いとは違うのだけはわかった。

「この小僧とそこの呪術師と違い、分を弁えているようだな」

「恐れ入ります」

「ケヒヒッ! とぼけた小僧だ……そうだな、そこの呪術師には借りがある。小僧の体をモノにしたら真っ先に殺してやるが、お前は最後に殺してやろう」

「じゃあ、それまでのお付き合いですね。短いか長いかよくわかりませんが、よろしくお願いいたします」

 物騒な言葉を並べる宿儺を、見事なまでに捌いていく悠香。

 内気とはいえ、コミュニケーション能力の高さは兄と同様らしい。

「――ところで腐ったミカンの五条先生。一つ気になることが」

「その呼び方どうにかして。ホントごめんって」

「両面宿儺と言えば、仁徳天皇の時代に飛騨に現れたとされる鬼神の名で、皇命に逆らう凶賊である一方、在地伝承では毒龍退治や寺院の開基となった豪族でもあったはず。呪術界ではどういう立ち位置で?」

 悠香の疑問に、五条は答えた。

 

 悠仁の身に宿った両面宿儺は、確かに腕が四本、顔が二つある仮想の鬼神だが、千年以上前に実在した人間である。

 呪術全盛とされる平安の時代、当時の呪術師達が総力を挙げて挑んだが、終ぞ誰も勝てなかったという。宿儺の名を冠し、死後呪物として時代を渡る死蝋さえ、五条達は消し去ることができなかった。

 文字通り意志を持った天災――それが「呪いの王」両面宿儺だ。

 

「……なるほど、最強の呪術師さんだったんですね」

「ちょっとちょっと、最強はこの僕だよ」

「あくまでも宿儺さん抜きの話でしょ、腐ったミカン」

 ズバズバと日本刀のようにキレのある返しをする悠香。

 完全に腐ったミカンが定着したのもあり、五条は少し心が折れそうになった。

 すると悠仁は「先生とどっちが強い?」と尋ねた。受肉直後の一件で、五条の強さを垣間見たからだ。

「う~ん……そうだね~、力の全て取り戻した宿儺ならちょっとしんどいかなぁ」

「負けちゃう?」

「勝つさ」

 不敵に笑う五条に、悠香は目を細めつつ、宿儺に声を掛けた。

「宿儺さん」

「何だ小僧」

「小僧呼ばわりされる奴が二人いると後々ややこしくなるんで、差し支えなければ名前呼びしてくれるとありがたいんですが」

 ――宿儺に名前呼びを要求したよ、この子!!

 ちゃっかり宿儺にリクエストする悠香の図太さに、五条は脱帽した。

 呪いの王はというと、悠香に興味でもあるのか「いいだろう、俺は今気分がいい」とちゃんと応じた。

「じゃあ、俺は悠香、兄さんは小僧で」

「何で!?」

「宿儺さんから見てイジり甲斐あるのは兄さんでしょ」

「ケヒヒヒ! よいよい、この俺が許そう」

 弟に振り回される悠仁を、宿儺は上機嫌に嗤った。

 一方、そのやり取りを眺めていた五条は、一つの希望を見た。

(これはますます手放せないね)

 虎杖悠仁が「宿儺の器」なら、虎杖悠香は「宿儺と悠仁の取り持ち」だ。

 おそらく悠仁は、呪術界に関われば関わる程に宿儺との関係を悪化させるだろう。だが宿儺の悠香に対する扱いが器である兄よりもほんの少し優しいし、悠香も悠香で順応性が異様に高い。強さを絶対的な基準と見なしている宿儺にとって、戦いぶりを垣間見たことがない分、未知数とも見なしているのだろう。

 悠香が宿儺にとってつまらない存在ならそれまでだが、もし興味を持つ、あわよくば気に入れば、宿儺の抑止を可能としてくれるかもしれない。

(弟君のおかげで、もっと楽しい地獄になりそうだ)

 虎杖兄弟は、今後の呪術界に変革をもたらす存在になる。

 五条は二人の若人に期待しながら、学長の元へ案内した。




新連載は呪術廻戦。
主人公は虎杖悠香君。前世は藤枝晴登少年で、平成5年生まれ平成30年没の呪術廻戦ド素人です。

名前は悠仁の仁が父親・虎杖仁なので、母親兼メロンパンの虎杖香織の香をつけて虎杖悠香となりました。「ゆうか」ではなく「ゆうが」なので、子供の頃はよく間違われたそうです。

座右の銘は「身の丈に合った幸と不幸を噛み締める」で、前世から変わりません。
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