まずはギャグパートっぽく行きます。
それから暫く時が流れ、悠香たち一年生は任務で埼玉県さいたま市に訪れていた。
「6月、盛岡で
車を運転しながらそう説明するのは、今回の補助監督を担当する
「自宅マンションのエントランスで呪霊による刺殺。しかも全員死ぬ数週間前から管理会社に同じ苦情をチクってる。オートロックの自動ドアが開きっぱなしだって、他の住民に心当たりはなかったっス」
「でも日付も場所もバラバラだ……」
伏黒はタブレットを操作しながら、被害者の経歴に目を通す。
「同じ呪霊にやられたの?」
「なぁなぁ、自動ドアって呪霊のせい? 呪霊ってセンサーとか引っかかんの? カメラとか映んねぇよな?」
「センサーじゃなくて、ドアオペレーターの方が呪霊の影響でやられたんじゃないかな」
釘崎と悠仁、順平は意見を出し合って考察すると、新田は難しい顔で口を開いた。
「同じ呪霊の仕業かって話っスけど、残穢だけだとちょっと断定はできなかったっス。そんで3人の共通点を調べたっス。3人とも同じ中学に2年間同籍してたっス」
説明を聞いた悠香は、一つの仮説を立てた。
「成程、昔3人が同じ呪いを受けて時が経ってそれが発動したってところで、今からその中学と3人の被害者の共通の知人に話を聞くので術師視点で色々と探って欲しいと」
『おおっ……!!』
悠香の洞察力の高さに、悠仁たちは思わず声を上げ、明は「さすがっすね」と笑った。
「あの怪物たちの手綱握ってるだけあります」
「まぁそれが祟ったのか、
淡々と言い放ったその言葉に、明の顔が一瞬で真っ青になる。
悠香は京都校に一度殺されており、しかもその現場に新田新も居合わせていた。彼女自身は別の仕事で当時不在だったが、事態の重さと彼の身に起こったおぞましい異変には言葉を失ったのは記憶に新しい。それが寄りにもよって当事者の口から皮肉みたいなノリで言われてしまうと、頭の中が真っ白になってしまう。
「悠香、その話題は勘弁してやれよ……」
「ごめん、でも俺は兄さんと違って
「は、はは……」
あまりにも平然と言う悠香に、引き攣った笑みを溢す明だった。
ところ変わって、さいたま市立浦見東中学校。
ここが被害者3人、いや、3人と共通の知人を含め、被害者4人の母校である。
彼は数日前に被害に遭ったようで、3人がマンションのエントランスで異常を覚えたのに対し、彼は実家暮らしだったため自宅の玄関前で違和感を覚えたらしい。
「ご両親も3人との関係はよく知らないって……あ~、唯一の手掛かりが~」
「ドンマイ! この中学に何かあるって!」
意気込んで任務に当たったものの、詰んでしまったことに明は気を落とした。
悠仁は励ますも、全く効果がない。
「じゃあ、缶コーヒー買ってくるね兄さん」
「おうっ! って、缶コーヒー買うために離れるん!?」
「自販機限定ものを飲みたいんだもん」
足早に遠くに見えた自販機へ向かう悠香。
一応中学の敷地内なのだが……。
「高校生にもなって「もん」とか語尾につけんなよ……」
「アハハ……」
伏黒のボヤきに、順平は苦笑い。
すると釘崎があるものを視界に入れ、楽しそうに輝かせた。
「おっ、わかりやすいのがいるわね。ぶん殴って更生させましょ!」
「何で!?」
釘崎は煙草を吸っているヤンキーを指差すと、それに気づいたのかこちらを睨んできた。
まさかの暴力沙汰かと順平は身構えたが、ヤンキーたちは「おっ、お疲れ様です!!」とキレイにお辞儀をしてきた。
突然の労いの言葉と態度に、釘崎と悠仁はカッコつけた。
「ふっ、何よ。
「オーラってやつは隠していても滲み出るもんだからな」
「卒業ぶりですね、
伏黒さん。
その言葉に目が点になった悠仁、釘崎、順平はゆっくりと振りかえる。視線の先にいた伏黒は、明らかに冷や汗を流している。
「俺、中学ここ……」
ここで何と、衝撃の事実が発覚。
何と伏黒の母校だったのだ!
「伏黒の母校だったん!? ここ」
「そこだけじゃねぇ!! お前中学で何したん!?」
「えっと……ごめん、伏黒君は一体何をしたの?」
「俺ら……っていうかこの辺の不良、半グレその他もろもろ、伏黒さんにボコられてますから」
順平が問い詰める悠仁と釘崎に代わって質問すると、さらなる爆弾が投下された。
伏黒は元ヤンだったのだ。まぁ、高専に属してるパパ黒こと甚爾の強さを考えると、不可能ではないだろうが……本当に何があったのだろうか。
そんな混沌の中に、悠香は戻ってきた。
「兄さん、何か進展は?」
「悠香、伏黒の後輩から今聞いてるとこ」
「あ、ここ母校だったんだね」
自販機限定の缶コーヒーをリュックに仕舞う悠香。
すると、ヤンキーたちは悠香の姿をとらえた途端に顔を青ざめて叫んだ。
「悠香!? まさかあの〝凶犬〟虎杖悠香か!?」
『は?』
全員が一斉に悠香を見た。
元ヤンは、まさかの二人だった。
「あの、噂の暴れん坊の……」
「つ、ついに仙台から解き放たれたのか!?」
「お前もじゃねぇか!!」
悠香絡みの斜め上の展開に、伏黒はキレのいいツッコミをかました。
しかも、ヤンキーたちの反応が尋常ではない。明らかにビビっている。
「ちょっと、こいつそんな有名?」
「有名も何も……虎杖悠香は、不良界隈じゃあ危険人物ですよ。一度キレると誰だろうと木刀で血祭りにあげるって」
「この辺で悪さしてた暴走族や半グレが、仙台に行ったら壊滅したって話もありますし」
「お前、俺と爺ちゃんの見ないところでそんなことしてたん!?」
弟の黒歴史にドン引きする悠仁。
それに対し、当の本人は現実逃避するかのように目を逸らして告げた。
「……日置先生にバレて怒られたから、呪霊オンリーにしてる……」
「何よ、その取って付けたかのような言い訳!?」
「ちょっと待て、まさかヤンキー狩りを怒られたから呪霊狩りに切り替えたのか!?」
「いや、呪霊狩りは小五からやってたから、それは関係ない……」
悠香の独白に、ついに悠仁たちは白目を剝いた。
ツッコミどころがありすぎて、どこからツッコめばいいかわからない。だが、これだけはハッキリと理解した。
――悠香は角を隠した鬼である、と。
*
その後、旧知である校務員の武田に会うことができ、事情を説明した。
「金田、島田、大和、そして森下か……亡くなったことも驚きだが、彼らが卒業してもう20年近く経つのか。昨日のことのように覚えているよ」
伏黒君ほどではないけど問題児だったからね、と笑いながら懐かしむ武田。
伏黒はそんな彼に問いかける。
「変な噂、黒い噂、悪い大人との付き合い、あとバチ当たりな話があればお聞かせください」
「黒い噂。問題児とはいえ並の中学生の域は出んよ。煙草を吸う、授業をサボる、カツアゲをする……いや、だが待て? バチ当たり……」
「アレじゃないですか、八十八橋のバンジー」
ヤンキーたち曰く。
この近辺に八十八橋という、自殺で有名な心霊スポットがあるという。そんなところで不良少年たちのやる事はただ一つ――度胸試しである。
ただ、この学校ではその一環でその橋でバンジージャンプをするのが流行ったという。一体どこの部族だろうか。
「死者とか出ていません?」
「紐どうすんだよ」
「俺たちはやんないっすよ。親世代の先輩たちが話していたのを聞いただけで」
事情をさらに深堀すると。
20年前のある日、被害者4人が無断欠席をしたそうだ。それ自体はそう珍しいことでもなく、教師やクラスメイトたちはまたあいつらか程度に思って深く考えなかったが、念のため自宅に連絡すれば何と昨晩から家に帰っていないという。
これにはさすがに嫌な予感がしたのか、行方不明ということで警察にも協力してもらって探した結果、彼らは八十八橋の下で倒れているのを発見されたという。なお、本人たちは何も覚えていないの一点張りだったという。
「当たりっスかね」
「そのようで……ちなみに伏黒君、心霊スポットも呪いが溜まりやすいんでしょう? 高専関係者の定期巡回とかは?」
「ある。俺も行ったことがあるが、そん時は何ともなかった」
伏黒の証言からして、心霊スポットとはいえど普通に使われてる橋のようだ。
「兄さん、これはちょっと……」
「うん」
悠香と悠仁は、互いに顔を見合わせた。
有名な心霊スポットである以上、被害に遭った4人よりも多く人が来ているはず。その上、現時点の調査で致死率は100パーセント。さらに死人が増える可能性もゼロではない。
これは早急な解決が求められるようだ。
「とはいえ、そのためには呪霊を誘き出さなきゃなぁ……兄さんをぐるぐる巻きにして橋から投げ込めば来てくれるかな?」
『鬼かお前!!』
悠香のボヤきに、全員がツッコんだのだった。
*
翌日、八十八橋付近のコンビニ。
「呪霊の呪の字も出なかったじゃないの!」
「またふりだしっスね……」
溜め息交じりにボヤく二人。
というのも、残穢も気配もまるで感じられず、試しに悠香が悠仁を紐でぐるぐる巻きにして放り投げても何も起きなかったからだ。
これは予想以上に厄介な案件かもな、とボヤきながら悠香は缶コーヒーを飲むと、自転車に乗っている若い男女がこちらに向かっていた。
伏黒の後輩の
「話せる限りで構いません。最近、家族に相談しづらいことは? 家族の中だけで自分だけ感じている違和感とか」
「私の家、地方のアンテナショップやってるんですけど、私が帰る時だけお店の自動ドアが開きっぱなしなんです……お父さんもお母さんも偶々だって言うんですけど……」
「ふむ……自動ドアの話はいつ頃から?」
「丁度1週間前から1日おきくらい……」
悠香は思考を巡らせる。
被害者4人とも、異常発覚から亡くなるまで最低でも2週間は空いてる。つまり、彼女にはまだ1週間の猶予があるので、今夜または明日祓えば問題はないだろう。
そう結論付け、悠香はなるべく恐怖を助長させないよう質問をやんわりと変えた。
「しっかし、そんなところを一人で行ったんですか? かなり肝据わってますね」
「いえ、肝試しに行ったのは部活の先輩2人と……あ、そうだ伏黒君、あの時津美紀さんも一緒にいたよ」
その名前を聞いた瞬間、悠仁たちは息を飲み込んだ。
もし津美紀も呪いの対象だと、彼女にも被害が及ぶ。
しかし、それだと腑に落ちない点もある。
(津美紀さんは万さんの受肉体……呪い殺せるような状態とは思えない)
そう、彼女は万が受肉したのだ。
現在は宿儺と同様、津美紀の肉体の一部を基にした分身体で落ち着いているが、平安の猛者である彼女も対象になる可能性もゼロではない。しかし平安生まれは呪術のプロだ、自力で呪いを祓っている可能性もある。
「こういう時は、本人に訊くのが一番だね」
悠香は携帯を取り出すと、スピーカーに設定してからある人物に連絡をした。
その相手は――
「もしもし、万さん?」
《悠香じゃない、どうしたの? 今忙しいんだけど》
(万って確か……)
(伏黒の姉ちゃんと瓜二つの……)
まさかの平安術師の一人、宿儺のストーカーである万だった。
それと同時に、衝撃の事実がちゃっかり明らかになっていた。
「ちょっと!! あいつまさか自分のスマホ持ってるの!?」
《何よ小娘!! 飛ばし携帯は違法行為でしょうが!! いつも津美紀の携帯パクるわけにもいかないのよ私も!!》
「スゴい正論言ってんね」
千年前の術師が現行の法律を遵守しながら現代文明を頼っていることに、一同は思わず天を仰いだ。
それ以前に、飛ばし携帯というものをなぜ知ってるのか。甚爾が裏社会にいたからだろうか。
「すいません、ちょっと任務で面倒な事実が発覚したので、確認をしたくて連絡を」
《面倒?》
悠香は一から事情を説明。
その後、万は携帯越しに返答した。
《……わかったわ、津美紀はこっちで見ておく》
「ご無理をお聞きくださって感謝してます」
《それとアンタの任務なんだけど……呪霊が襲うパターンじゃなく、マーキングした人間の内側から術式が発動するパターンね。今すぐ祓わないと大勢死ぬわよ?》
淡々と告げる万に、全員が目を見張る。
悠香は「ですよねー……」と顔を引き攣らせながら、さらに質問した。
「肝試しは夜の橋の下で行われましたけど、それでも何の異変もなかったんですよ」
《呪霊が結界内にいるんだから、ちゃんと手順を踏まないと祓えないのよ。それと橋の下に川があれば渡りなさい。川や境界を跨ぐというのは彼岸へ渡る行為……呪術的に大きな意味を持つの》
「そうか!! 夜の橋の下で川を跨げば、結界内の呪霊を祓えるってことか!!」
《ちょっと、まさかそんなことも教わってないの? それでよく呪術師やれるわね》
平安の術師の苦情に、思わず全員で目を逸らした。
ちょっぴり五条が恨めしく思ってしまったのは秘密だ。
「ありがとうございます。改めて津美紀さんをお願いします」
《わかったわよ! 全く……せっかく宿儺のための勝負下着――》
ブツッ
『……』
「……今のは聞かなかったことにしましょう。俺たちは何も聞いてない」
絶対聞いてはいけない内容を聞いてしまい、悠香は冷や汗をダラダラ流し、悠仁たちは顔面蒼白となるのだった。