虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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お兄ちゃんはまた今度合流します。


第22話:負の遺産

 万のアドバイスを聞き、峡谷の下の川岸に一行は降りた。

「ここを跨げば、敵がいるってわけか」

「上等じゃない」

「うっし! いっちょやるぞ!」

 悠仁は拳を鳴らして意気込むが……。

「兄さんたちで行って。俺は残る」

 悠香は四人と共に行くのを拒否した。

 その申し出に、思わず振り返った。

「ちょっと、何で来ないのよ!」

「敵がもし待ち伏せしてたらどうすんの? 呪霊を秒で祓えればいいけど、消耗したトコを叩かれたら全滅しかねない。だったら、一人を領域外に待機させて奇襲強襲に警戒させるのがベタでしょ」

 その言葉に、釘崎はぐうの音も出ない。

 実際問題、こちらは敵の数も能力もわからず、ぶっつけ本番で祓いに行く状態。有力な情報を得ていない以上、戦うには危険が伴う。新手や第三者の介入の可能性を考えると、悠香の意見は最もだ。

「……まぁ、僕もそうするかな」

 悠香の意見に、順平は納得する。

 

 つまり、作戦はこうだ。

 悠香は待機して奇襲や増援が来ないか監視し、悠仁たち四人は領域内に入り、呪霊を祓う。新手や第三者が介入してきた場合、呪霊を祓い終えるまでは悠香が食い止め、祓い次第合流して対処する。

 

「……今の戦力で考えられる策は、これが最適解だよ」

 悠香の言葉に、伏黒と釘崎、順平は複雑な表情を浮かべる。

 確かに不測の事態に陥る可能性も考え、各々呪力を温存しなくてはならない。だが、彼は領域外に一人で待機する以上、敵の集中砲火を浴びることになる。悠香の負担があまりにも重い。

 いくら異常な再生能力を持つ肉体になったとはいえ、もしかしたらという不安は拭いきれない。

「悠香……お前、そんなに俺が役に立たんの?」

「……何か不満でもあんの? 兄さん」

 どこかイラついた様子の悠仁に、三人はギョッとした。

 悠香は相変わらず淡々とした様子だが、その目はギラついているように見え、声色も低めだ。

「俺はお前と違って頭悪いけどよ……兄貴として手ぐらい差し伸べられるんだよ!」

 悠仁は悠香の胸倉を掴み、泣きそうな顔で引き寄せた。

「もっと頼ってくれよ……家族なんだからよ……!!」

 涙目で訴える悠仁に、悠香は胸倉を掴んでいる手を払いのけた。

「……わかってるよ、そんぐらい」

「じゃあ、何でだよ!」

 そう迫る兄の言葉に、振り絞るように答える。

「……俺は……ただの弟じゃなくなってんだよ」

 悠香の抱える闇を悟り、一同は黙り込んだ。

 

 

 川を渡って呪霊の領域に入った悠仁たちを見届けると、悠香は木刀に呪力を帯びさせる。

「……出てきなよ。いるんでしょ?」

 悠香が森を睨むと、そこから一人の男が現れた。

 髪型はモヒカン、筋肉質な裸体の上に蝶ネクタイと女性物のボディハーネス、Tバックを着用した奇抜な格好。肌の色は褐色で、目は紫色で白目の部分が黒くなっており、人間のそれとはかなり異なっている。

 男の正体は、史上最悪の呪術師である()()(のり)(とし)が人体実験によって生み出した特級呪物「(じゅ)(たい)()(そう)()」の次男・()(そう)である。

「勘が鋭いようですね、呪術師」

「次の貧乏くじはイロモノかぁ……」

 悠香は盛大に溜め息をついた。

 予想通り、新手が尾行していたようだ。恐らく、先刻の作戦会議の時点では既に森に潜んでいたのだろう。

「我々兄弟に課せられた()()()、その中に呪術師殺しは含まれていない。退けば見逃しますよ、お坊ちゃん」

「お遣い?」

「ん? てっきり同じお遣いかと」

「……あー、そういうことね」

 壊相の言い回しに、悠香はすぐさま察した。

 おそらく目の前の相手は、宿儺の指を探しに来たのだ。そして、悠香たちもその回収を命令されたと思っており、指を渡せば見逃すというわけだ。

(俺の作戦で正解だったってわけか……けど指を取り込んだ呪霊となれば、苦戦は必須。()り合って勝ったとしても無傷で済むかどうか……)

「失言、私が話したことは忘れてください」

「忘れたいところだけど、そうしたら怒られるからヤだね」

 悠香は木刀を構えると、ピクリと反応した壊相も構えた。

 相手の実力は未知数で、どんな技や能力を使うか想像がつかない。だが、ここで退くわけにもいかないのだ。

 しかし、ふと考える。

(待てよ、話し合い自体はできるぞ? これはもしかしたら引き抜けるかも……)

 悠香は木刀の切っ先をゆっくり下ろし、構えを解く。

 突然の行動に、壊相は訝しむ。

「俺は呪術高専1年の虎杖悠香です。あなたは?」

「……壊相」

「壊相さん。俺はこの近辺で起きてる呪殺事件の対処が任務で、あなたを倒すこと自体は命令されてない。そしてあなたと話が通じる以上、俺は戦闘は不要と思ってます」

 悠香の言葉に、壊相は考え込んだ。

 高専の生徒であれば呪詛師を始末することもあり得る。しかし、目の前の少年はそうはせず、あくまで話し合いを求めている。だが、虎杖悠香は呪術師の中でも極めて特異な人間で、同盟を結んでる相手からも厄介な存在と認識されている。

 このまま彼の話に乗ってもいいのかどうか? 壊相は判断しあぐねる。

「俺たち呪術高専につけば、最低限の身の安全と生活は保証できる。……悪い話じゃないはずだ、互いにメリットがある」

 悠香の言葉に、壊相は眉をひそめた。

 まるで、自分たちの内情を知っているかのように話す悠香に不快感を覚える。が、胡散臭さで言えばあの夏油とか言う呪詛師より間違いなく悠香の方がずっとまともだ。

 それに、自分たちが行動を起こす前に自身の気配を察知して先手を打つあたり、見かけによらず勘も鋭い。何より、兄弟たちの身の安全が第一である以上、無用な殺し合いなどデメリットでしかない。

 そこまで考え、壊相もまた構えを解いた。

「……お仲間に伝えなきゃならんので、それまで待ってましょう」

「……そうですね、そうしましょう」

 腕を組む壊相の返答に、悠香はほくそ笑んだ。

 

 

「呪胎九相図……随分と因果な生まれなんですね」

「あなたも大概だと思うけどね。……それにしてもおいしいじゃない」

「現代飯を甘く見ちゃいけません」

 二人でコンビニのおにぎりを頬張りながら、岩に腰かけ仲間の帰りを待つ。

 非道な所業の産物・呪胎九相図と意外すぎる出会いではあったが、スキンシップ自体は上手くいっていた。人間・呪術師に対して基本的には悪意や敵意はなく、兄弟と共に穏やかに暮らせればそれでいいという悠香と似た願いの持ち主だったのが幸いした。

「……ウチは母親がヤバい可能性があるので、そういう母親に生まれてよかったじゃないですか」

「私たちは父親が……()()(のり)(とし)が大嫌いです。兄さんはあの男を「母を弄んだ憎むべき存在」と呼んでいる」

「難儀だよなぁ……子は親を選べないから。生き方を選べられるだけ救いはある方かな?」

 悠香の呟きに、壊相は複雑な表情を浮かべる。

「……ご兄弟の件、俺が口利いときましょうか?」

「!!」

「あなた方がこちらさえ来てくれればの話ですが、五条さんの権力でどうにかできるかもしれません。いくら過去の人物と言えど、父親が加茂家の人間である以上あなた方は不都合な存在……臭い物に蓋をするでしょう」

 悠香は話を進める。

「あなた方が有益な戦力として認められれば、色々と融通が利き易くなります。ご兄弟の立場も生活も安定し、多少の制限はあれど自由に動けるでしょう。これでも最近、実力主義な禪院家次期当主とパイプができてますし。――血統主義の腐敗した世界に潰される前に、一緒にのし上がりませんか?」

 その申し出に、壊相は言葉を失った。

 呪術師が自分のような存在を即戦力としてスカウトするなど、前代未聞だ。

 徹底した損得勘定で動く悠香だからこそ、この申し出が出てくるのである。

「どうでしょう? 後ろ盾のある方を選ぶのが利口かと思いますが」

 そう話す悠香に、壊相は微笑する。利害の一致が成った瞬間だった。

 それと同時に、急に現れた大きな気配を二人は感じ取った。

「今の気配は……」

「宿儺の指が結界から出たようですね。もし指の寄主を祓ったのが術師だとしたら、中々できるようで」

「まぁ、可能性あるのは伏黒君かな……」

 どっこいせ、と立ち上がる悠香と壊相。

 気配が徐々に近づいてくるのがわかる。そして、こちらに向かってくる人影が視界に入る。

「ご苦労さんなことで」

「本当に悠香君の言う通り、新手が来てたね……」

「にしては仲良さげね……!」

 疲労困憊で現れた順平が伏黒を抱え、隣にいた釘崎が額に青筋を浮かべる。

 しかし、かつての少年院のように帳や領域から弾かれる体質ゆえ、どの道悠香は参戦はできなかっただろう。

 それよりも、目の前の情報過多な見た目の男性が嫌でも視界に入る。

「ところで兄さんは?」

「何か変な喋るデカいカエル追ってったわよ」

「ちょっと何言ってるかわかんない」

「何でわかんないのよ!!」

 思わずツッコむ釘崎。

 すると、森の中から悠仁と一緒に文字通りの変なデカいカエルみたいなのが現れた。呪胎九相図の三男・血塗(けちず)だ。

「あ、兄者」

「血塗、ちょうどいいところで来ましたね」

 壊相は血塗と合流し、悠香とのやり取りを説明し出す。

 それを聞いた悠仁たちは、口をあんぐりと開けた。

「またスカウトしたん!?」

「いいじゃん、中途採用ぐらい。150年ぐらい前の人たちだけど」

「えっ、まさか明治生まれ!?」

「あー、もう!! 高専の寮が本当に伏魔殿になっちゃうじゃない!!」

 釘崎はついに「ガッデム!!」と頭を抱えながら叫んだ。

 

 その後、悠香はすぐさま五条と交渉。

 血塗も壊相の説得に戸惑いつつも承諾し、そのまま高専へと足を踏み入れ、呪胎九相図の血塗と壊相は東京校預かりとなった。 

 

 

           *

 

 

 翌日の高専寮で、悠香は任務の話題を特級の猛者二人に語っていた。

「ほう、呪霊と人間の混血か」

「あーあー、黒幕が可哀そうだな。奪ったモンがこんな形で取り返されるとはよ」

 呪いの王とプロヒモは、事情を知って嘲笑する。

 彼らは間違いなく受肉体だが、それを裏でやっていたのは間違いなく例の呪詛師。しかしよりにもよって裏切りという形で手元から離れ、呪術高専に保護されている。

 なお、件の二人は悠仁たちと外で遊んでいる。たまに壊相の背中のことで揉めてるようだが。

「御三家の汚点・加茂憲倫の負の遺産……加茂家の黒歴史をこちらで預かれば、借りができます。直哉さんの件も含めれば、悪くない感じに御三家に付け込めたところです」

 悠香は語る。

 今回の件は想定外な事案であったが、これで次代の御三家と通じることができた。弱者や若者から搾取し続ける老害たちを一人残らず一掃すれば、呪術界は確実に一変する。仮に老害たちを一掃できなくとも、一気に事を進めれば付いてこれなくなり、結果的に弱体化する。

 もっとも、実現にはまだまだ時間がかかるし、それまでの道のりが険しいことも変わりないが。

「俺は皆さんに世話になってるばかりで、申し訳ありません。頑張って見返りは常に用意しますので、何卒ご容赦を」

「よいよい、有象無象を鏖殺するよりもお前の寸劇の方が余程面白味がある。もっと俺を楽しませてみせろ」

「まぁ、こっちも食わせてもらってるしな……食った分は働くよ」

 宿儺と甚爾は、悠香の陰謀に乗ることを示唆するのだった……。




というわけで、九相図兄弟は長男以外回収しました。(笑)
次回合流させますが、ソフト系呪術廻戦をテーマにしてるのでシリアルにやります。

そして近日、新たなオリキャラが参戦予定。
日置先生が聖人だとしたら、今度登場するオリキャラは……。
ちなみに女子です。
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