虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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最強?
最凶?
最恐?
それとも、最狂?


第23話:原点にしてサイキョウ

 都内のラーメン店。

 呪胎九相図の壊相と血塗を丸め込んだ悠香は、残る長男・脹相(ちょうそう)の懐柔について、兄と順平と共に醬油ラーメンを啜りながら考えていた。

「あの二人はどう? 兄さん」

「思ったより仲良くなれた。でも肝心の脹相兄ちゃん? だっけ。何も知らねぇから誤解してそうだよな」

「うーん……連絡手段がわからないし、黒幕の動きも読めなくなってきたからなぁ。あの生臭坊主に使い潰される前に丸め込みたい」

「紛いなりにも特級なんだから、相当強いはずだよね……」

 どうしたものかと三人で悩んでいると、不意に着信音が鳴った。

 画面を見ると、そこには「パパ黒」の文字が。甚爾からの連絡のようだ。

「もしもし」

《おう、社長。ちょっと変な野郎に絡まれてな。引き取りに来てくれねぇか》

「変な野郎?」

 悠香は思わず首を傾げる。

 甚爾曰く、彼は新宿の廃ビルで遭遇して戦闘となり、ボコボコに伸したという。ただ厄介なことに、その男は加茂家相伝の術式である赤血操術の使い手であり、倒したはいいものの話がややこしくなるのが確定なので悠香に連絡したという次第らしい。

 要は悠香に後始末を頼んでいるのである。

「……名前とか、名乗ってました?」

《おう、確かチョーソーとか言ってたな。弟を二人攫われたとかほざいてた》

 悠香は目を見開いた。

 間違いなく呪胎九相図の脹相だ。まさかこんな形で出会うことになるとは。

「――甚爾さん、その人を高専まで運んでくれませんか? 輸送料はきっちり払いますんで」

《太っ腹だな。そういうところ気に入ってるぜ》

「ありがとうございます。それじゃ、失礼しますね」

 通話を切ると、悠香は二人に向き直る。

「噂をすれば影が差すとは、このことだね。どうやら長男坊が見つかったらしい」

「パパ黒にボコられてたっぽくね?」

「仕方ないよ、あの人強いから。……さて、と」

 悠香は立ち上がり、店を出る支度をする。

 いい風が吹いている。流れは自分に来ている。後は、自身がその流れに乗るだけだ。

 そう思った悠香は、思わずクスリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

「兄者、しっかりしろ! 兄者ぁぁぁ!」

「何て惨い……!」

 呪術高専に戻った三人は、カオスな光景に顔を引き攣らせた。

 白目を剥き変わり果てた姿を晒す、独特な厚着の着物とヘアスタイル、目の下に横一文字に走る黒い痣が特徴的な青年。おそらく彼が呪胎九相図の長男・脹相だろう。

 その痛々しく横たわる長兄に、必死に声をかける壊相と血塗。

 頭を掻いてそっぽを向く甚爾と、それをジト目で睨む伏黒を筆頭とした高専関係者一同。

 混沌とした有様に、悠香は思わず額を押さえた。

「甚爾さん……」

「悪い、向こうも殺す気だったんでな」

「判断は咎めませんけど……やりすぎじゃないですかね?」

 悠香は脹相を見る。

 完全に意識を失ってる以上、起きるまで待つしかないだろうが、ここでふと気づく。

「……甚爾さん、まさか丸腰で勝ったんですか?」

「いや、こいつを借りた」

 甚爾は悠香にある物を投げ渡した。

 それは、自分が愛用する木刀だった。思わず目を丸くする悠香に、甚爾は笑って告げる。

「こいつは中々使い勝手がいい。本当に市販の木刀か?」

「ええ、そうですけど……」

 悠香は不思議に思う。

 呪力を帯びさせることで強度と破壊力を高めているが、木刀そのものは市販の量産品であり、本来は呪具ではない。ましてや呪力を持たない甚爾が持てば、ただの木刀と変わりないはずだ。

 それでも、術式を扱う者と戦ってヒビ一つ入らないどころか1ミリも変形すらしていないということは、つまり――

(俺の呪力が、木刀に染み込んでいる?)

 悠香は驚きに目を見開く。

 しかし、そう考えると辻褄が合う。フィジカルギフテッドのパワーに耐えられている事実がある以上、悠香の呪力が宿っていると考える方が自然だ。

「……で、どうすんだこれ」

「ひとまず硝子に任せよう。反転術式でパパ黒の傷を癒すのが先決だ」

「だからパパ黒言うんじゃねぇ。お前が言うと余計気色悪いんだよ、坊」

 因縁ある五条と甚爾は、バチバチと火花を散らす。

 悠香はそんな二人を「反面教師だなこれ……」とボヤいたのだった。

 

 

           *

 

 

 悠香が呪術高専に入学して、4ヶ月が経とうとしている。

 兄のとばっちりで巻き込まれた彼は、呪術界から己の身を守るため、盛大に引っ掻き回した。

 呪いの王・両面宿儺の懐に入り込み、オモチャとしての地位を確立させて身を固めた。降霊術で復活した伏黒甚爾、伏黒津美紀に受肉していた万、本来は敵の立場である裏梅を次々とスカウトするように丸め込み、呪胎九相図すらも戦力に引き込んだ。自身も紆余曲折を経てエラーに次ぐエラーの末、化け物じみた体質を覚醒させた。

 正直、少年漫画の主人公に匹敵する実績である。

 しかし、世の中は因果応報。好きにやったからにはその分のツケは払わねばならない。

 禍福は糾える縄の如し……悠香はこの日、自身の貧乏くじ列伝の原点と言える〝バケモノ〟と再会を果たすことになる。

 

 

 それは、悠仁が釘崎らによってかつての同級生・()(ざわ)(ゆう)()と再会したファミレスでの出来事。

「虎杖君、弟君は元気?」

「悠香か? 超元気!」

「むしろやりたい放題やってるわね」

 悠仁と釘崎の言葉に、小沢は「じゃあ連絡しなきゃ」と電話を取り出した。

「小沢、誰に連絡するん?」

(おく)(むら)さんに。卒業してから悠香君に一度も会えてないって言ってたし、ちょうど東京で暮らしてるし」

「ああ、あのミドルボブの!」

「ちょっと、そこを詳しく!!」

 小沢の言葉に虎杖は手を打つと、釘崎が体を前のめりにした。

 あの警戒心が強くドライすぎる性格の悠香にもガールフレンドがいたことに、伏黒と順平も食いついた。

「小沢さん、奥村さんってどんな子なんですか?」

「ミドルボブの黒髪で、落ち着いた感じの女の子なんです。ある日を境に悠香君のことスゴい好きになって、猛アタックして付き合い出したんですよ」

「あいつ……全然話さなかったぞ」

 小沢の証言に、伏黒は眉をひそめる。

 悠香は自分の口から過去を言うことはないので、そんなことがあったとは初耳だった。

「優子!! 奥村ってのをすぐ召喚しなさい!! 虎杖、あんたもよ!!」

「は、はい!」

「お、おう!」

 小沢は奥村に、悠仁は悠香に電話をかける。

 しばらくすると、一人の女子生徒が姿を現した。

「初めまして。(おく)(むら)()()です」

 柔らかく微笑む彼女に、一同は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

 黒髪をミドルボブにカットした、間違いなく清楚系の佇まい。その瞳には確かな知性の光が宿っており、どこか大人びた雰囲気も漂わせていた。

 ドライで疑り深くて気性の荒い悠香と、よく付きあえたものだ。それほど芯が強いタイプなのだろう。

「奥村、久しぶりじゃん」

「悠仁君! 久しぶり。悠仁君がいるってことは……悠香君は?」

「これから来るとこ。もうそろそろ着くかも」

 その言葉に、一瞬きょとんとした顔をする沙奈。

 しかし次の瞬間には、目を輝かせて笑顔を浮かべた。先程までの大人びた雰囲気は霧散し、年相応の少女の顔になる……が、どこか違和感も感じた。

 まるで仮面を被っているかのような……そんな感覚だ。

(何だこの女……?)

 伏黒は、本能的に警戒心を強めた。

 すると、どこか気だるげな様子で悠香が姿を現した。

「釘崎さん、何の用で? 俺も任務終わりで疲れて……」

 悠香の言葉は、最後まで続かなかった。

 沙奈の顔を見た途端、顔を青ざめ始めたのだ。その瞳には、動揺と困惑、そして怯えの色がはっきりと見える。

 予想外の反応に、一同は悠香を見つめた。

「さ……沙奈ちゃん……!?」

「悠香君……! やっと会えた……!」

「っ……!!」

 微笑む沙奈に対し、悠香はその場から逃走しようと目論む。

 しかし、彼女は悠香が動くよりも早く距離を詰め、無理やり腕を組む。悠香は逃れようと力を入れるがビクともしない。

 あまりの速さに、伏黒たちは驚きを隠せない。

「ねぇ悠香君、今までどこにいたの? 沙奈はずっとずっとずーっと探して、何度も何度も何度も連絡したのに」

「い、いや……ちゃんと返そうとは思ったけど、色々あってさ……」

 汗だくで必死に弁明する悠香のただならぬ様子に、一同は疑念を強めた。

 呪いの王や天与の暴君を相手にしても怯まなかったあの悠香が、ここまで動揺を露にするのは只事ではない。しかもこの雰囲気、妙に既視感がある。

 そんな異様な空気を切り裂くように、釘崎はハッとなった。

「ちょ、ちょっと待って! 悠香、まさか奥村って……」

 冷や汗を流す釘崎の言葉に、悠香は顔を引き攣らせながら答えた。

 

「うん……俺の……人生最初の貧乏くじ」

「運命の人でしょ? 悠香君」

 

 顔を青ざめさせた悠香に、沙奈は満面の笑みを浮かべる。

 しかしその笑顔からは、底知れない不気味さを感じさせた……。




パパ黒にボコられたお兄ちゃんは、しばらく療養です。
まあ、パパ黒なら当然の結果ですかね。

そして遅れて登場、本作のヒロイン・奥村沙奈。
悠香君がぶっ飛んだキャラの扱いに長けるようになったのは、沙奈ちゃんというモンスターがいたからです。
次回はそんなドライ主人公と最狂ヒロインの出会いについて触れます。
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