沙奈ちゃんのモデルですが、「ミンナのウタ」の高谷さなちゃんです。彼女は最狂ホラークイーンですし、ミミナナも名前の由来がアレですし。
ちなみにストーカーな部分は「呪怨」の佐伯伽椰子をモチーフとしてます。
日置先生は「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の水木がモデルです。
表面上はクールでも内面は直情的だったりするところとか、結構参考にしてます。
悠香のキャラクター性は「悠仁とは正反対」を意識してますが、藤枝と悠香の関係性は「D.Gray-man」のアレンと14番目をモチーフとしてます。
あの虎杖悠香すら恐れる最狂女子・奥村沙奈が転入したことで、大荒れになると思われた呪術高専東京校。
しかし、そんな沙奈は意外にも模範的な優等生で、周囲ともすぐに馴染んでみせた。これには一年の担任である五条だけでなく、学長である夜峨も驚いていた。
ただし、やっぱり悠香絡みだと暴走する場面が見られ、現在進行形でドン引きされているのは言うまでもない。
「ハァァァァ……」
「悠香君、どうぞ」
授業が終わった教室内。
机に突っ伏して溜め息を吐く悠香に、ジャンパースカートを着た沙奈が缶コーヒーを渡す。
悠香はそれを「ありがと」と軽く礼を言いながら受け取り、プルタブを開けて飲む。
「カフェオレ、うまっ……」
口に含んだコーヒーの甘味とまろやかさに、悠香の表情が僅かに緩む。
今日は体育として体術の訓練をしたのだが、相手がまさかの甚爾であり、プロヒモ対1年生の地獄の特訓に身を投じたのである。いくら異常な再生能力を不本意で得た悠香でも、ボコボコにされた反動は凄まじかったようだ。
そんな疲れ切った状態で飲むカフェオレの缶コーヒーは、体に染みるというわけだ。
「あいつ、案外協調性あるのかしら?」
「……俺も、よくわかんねぇ」
悠香に微笑む沙奈に、伏黒と釘崎は驚きを隠せない。
どこぞの女術師のように欲望剥き出しかと思っていたが、沙奈は一定の節度を弁えているようにも思える。むしろ平時は落ち着いた雰囲気で物腰も柔らかく、気性の荒い悠香が到底恐れるようなタイプの人間とは思えない。
だからこそ、沙奈が恐ろしく思えるのだ。あの微笑みの裏に潜む狂気――人間の情念を先日知ってしまった以上は。
「奥村さん、気配り上手なんだね」
「悠香君は溜め息の長さで飲みたがる缶コーヒーの味が違うの」
「え!? 何それ初耳なんだけど!!」
「悠仁君、双子の兄さんなのに悠香君のこと知らないんだ……」
唖然とする悠仁に、沙奈はニッコリと微笑んだ。
伏黒と釘崎は、なぜか沙奈の微笑みが邪悪に感じ、背筋に悪寒が走りぶるりと震える。
すると、悠香が引き攣った笑みを浮かべて口を開いた
「……じゃあ、まだ続いてんの? 俺限定のデスノート……」
「うん、サナノートは今25冊目だよ」
「何それ!?」
悠仁のツッコミをスルーしながら、沙奈はスクールバッグからキャンパスノートを取り出し、悠香に渡した。
嫌な予感がしつつもノートを広げて見ると、そこには悠香のことが事細かにギッシリ書かれていた。
「うわぁ……」
悠香は顔を引き攣らせてノートのページを捲り、沙奈はそんな悠香をニコニコと見つめる。
中身が気になった悠仁たちもノートを覗くと、悠香のその日の行動、言動、自分の声掛けに対する反応などが事細かに書き連ねられており、まるで観察日記のようだった。これを毎日書き綴っているという沙奈に、悠仁たちはドン引きせずにはいられない。
「もうこれホラーじゃないの!!」
「卒業式に貰ったカセットテープの方がホラーだけどね」
「これ以上にヤバいのがあるの!?」
釘崎は思わず叫んだ。
こんなモンスターと2年間同じクラスで過ごすと考えたら、恐怖で夜も眠れなくなりそうだ。
「ちょっと悠仁!! 地元どうなってんのよ!?」
「知らねぇよ俺も!! クラスも違ったんだし!!」
胸倉を掴んで質問する釘崎に、悠仁も必至の形相で答える。
そんな中、悠香はノートを捲って気づいた。
「……このページから白紙になってる」
「そこはこれから書くところなの」
「……」
悠香は何とも言い難い表情になり、そっとノートを閉じて沙奈に返した。
そして残った缶コーヒーを飲み干し、あくびをしながら立ち上がる。
「兄さん、コーヒー捨ててくるから沙奈ちゃんに寮の案内しといて」
「え!? 先生たちが寮を案内してくれるんじゃないの!?」
「学生寮はガチの伏魔殿になってるんだ、補助監督さんたちは皆行くの怖がってるよ」
悠香の言葉に、釘崎と順平は目を遠くさせた。
何を隠そう、あの学生寮は呪いの王も同居している。完全体ではない上に悠香との縛りでむやみに人を殺すことをしないが、それでも平安の世に君臨した〝天災〟の威圧は健在である。むしろそんな魔界で普段通りの生活を送れている自分たちの方が、本来であればオカシイ部類なのだ。
そして畳みかけるように、悠香は沙奈に告げた。
「……それと沙奈ちゃん、今日の夕飯を兄さんと作ってくんない? こっち来たからにはこっちのルールを守ってもらうから」
「わ、わわ私の手料理を、悠香君が……!? ど、どうしよう……!!」
「よし、これで時間を稼げる……」
戸惑いと歓喜の表情を見せてモジモジする沙奈に、悠香はボソリと呟き教室を出た。
自分のストーカーを兄に押し付けることに成功したその強かさに、皆はもう声も出ない。
「……」
「じゃあ悠仁君、早速戻って作ろうよ。……悠香君のために」
「…………はい……」
先程とは打って変わり、鋭く睨みつけてくる沙奈に、悠仁は顔を引き攣らせ、成す術もなく応じるしかなかった。
教室を後にした悠香は、空き缶を捨てるために自販機に足を運んだ。
しかし、自販機の前に立っていた人物を見て足を止める。
「……宿儺さん?」
「……悠香か」
意外な人物に目を見開く悠香。
自販機で飲み物を買っていたのは、呪いの王・宿儺だった。
着物姿で俗世にハマってるのが、とてもシュールだ。
「……あの、もしかして疲れてます?」
「あの女にウンザリしてるだけだ」
「ああ……」
宿儺のボヤきに全てを察した悠香は、遠い目をしながら頷く。
悠香が沙奈にストーカーされてるように、宿儺も万にストーカーされているのだ。
「……あの小娘にウンザリしているか?」
「いえ、もう慣れましたよ」
あっさりと答える悠香に、宿儺は「そうか……」としみじみ呟いた。
悠香と沙奈の関係を最初は面白がっていた宿儺だが、沙奈の万を超えた危険な本性を知り、今ではすっかり不憫に思っていた。
すると、2人の間に気まずい沈黙が流れた。
「……お互い、変な女に目をつけられちゃいましたね」
「全くもってウザいな」
「宿儺さんは裏梅さんがいる分まだマシですよ。俺は一人で相手取んなきゃなんないんで……兄さんは多分沙奈ちゃんには敵わない」
思わず肩を竦める悠香に、宿儺は「せいぜい頑張ることだな」と告げた。
その声色にはいつもの傲慢さや嘲りは一切なく、むしろ労りの感情すら感じられる。
すると宿儺は、とんでもない言葉を口にした。
「あの小娘がお前に向けてる呪い……かなり厄介だぞ」
悠香は目を見開き、宿儺を見つめた。
「どういうことですか?」
「端的に言えば、小娘はお前を神格として捉えている」
宿儺の言葉に、悠香はただ息を吞んだ。
あらゆる呪いに精通しているであろう宿儺の言葉が、偽りであるはずがないのは明白。そして悠香にこの事実を伝えたということは、彼から見ても沙奈はヤバいということなのだろう。
「特定の個人を神格化する、信仰という形の呪いだ。この国では人間が神として祀られる風習があるのは俺も知っているが、それは怨霊と果てた者の霊を畏怖し鎮めるために過ぎん」
「御霊信仰ですね」
「そうだ。だがあの小娘は、先のある同い年の生者を神格として捉え、崇拝している。それはとても厄介な呪いだ。一切の邪心がないのなら猶更な」
「……」
悠香は宿儺の言わんとしていることを理解し、嫌な汗を流した。
宿儺はさらに、今の悠香と沙奈の関係は、見方を変えればとんでもない状態になっていると語る。
「悠香と小娘の関係は神と人身御供のそれで、小娘の呪力はお前に捧げられている。本来ならば人間の許容範囲を超えている」
悠香は顔面蒼白になって「それって、とんでもなくヤバいんじゃ……?」と声を震わせた。
この状況が続けば、自分が〝人ならざる者〟に成り果てる可能性を孕んでいるからだ。しかし、どうしても腑に落ちないところが一つある。
「俺の天与呪縛は、他人の呪力を受け付けないはずなんですけど……」
「おそらく、例の呪霊に長く魂を触れられたことで元の魂の形を失ったのが原因だろうな。お前に関しては未知の部分が多い……俺の想像を超える事態を引き起こす可能性を孕んでいる」
宿儺の言葉に、悠香は言葉を失った。
〝崇拝〟という形の沙奈の呪いが、魂の形が変異した悠香にどう影響するのか……それは呪いの王たる彼ですら予測つかない。なぜなら、悠香はエラーを起こしやすいからだ。
悠香は真人に魂を触れられた結果、天与呪縛ごと肉体と魂がエラーに次ぐエラーを起こし、正のエネルギーを生み出せなくなった代わりに怪物染みた再生能力を得た。そのような異常事態を引き起こしやすい以上、彼が崇拝という呪いを受け続けた末にどういう〝存在〟に成り果てるかもわからない。
人間以上の存在になるか、呪い以上の怪物となるか……どちらに転んでも、悠香は呪術界を震撼させる存在になるだろう。
「またいい貧乏くじを引いたではないか、悠香。……お前の成れの果てを楽しみにしてるぞ?」
「うわぁ、めっちゃいい笑顔……」
ニヤニヤと笑う宿儺に、悠香は顔を引き攣らせるのだった……。
*
その日の夜。
夕御飯を食べ終えた一同は、昼間の悠香の言葉を思い出した。
「なぁ、奥村が悠香に送りつけたカセットテープ聞いてみねぇ?」
悠仁の言葉に、全員が固まった。
あの悠香がサナノートという観察日記をも凌ぐホラーと称した、卒業記念のカセットテープ。口振りからして一度は聴いているようだが、その恐怖度は計り知れない。
「あの悠香がホラーっていうレベルだ。気になるわな」
「高菜っ」
「たかがカセットテープだろ? 呪物じゃねぇならビビることないだろ」
「そうっすよね!!」
怖いもの見たさならぬ、怖いもの聞きたさで賛同する先輩たち。
伏黒は反対し、順平も悠香に話を通すべきと意見を述べたが、結局多数決で賛成が多いため、一同はそのカセットテープを悠香の私物であるラジカセに挿入して再生した。
《――沙奈を認めてくれた虎杖悠香君へ》
「始まったな……」
《沙奈は悠香君に会うまでは、自分が生きていい人間かわかりませんでした……呪術師の旧家に生まれた沙奈は親兄弟に蔑ろにされ、自分に自信が持てなくて、あの日の放課後は「ここで死ねば楽になれるのかな」と思ってました》
沙奈の独白に、全員が息を呑む。
同時に、長い歴史のある呪術師の家系はクソだと思った。
《でも、そんな時に悠香君は「はぐれ者同士これから仲良くしよう」と言ってくれた。その一言で沙奈は、初めて自分の存在が認められたと感じました》
『……』
《それから、悠香君をもっと知りたくて追い始めました。悠香君みたいになりたくて……悠香君を形作ってるのが何か知りたくなって……悠香君の見ている世界はどんな光景なのか……沙奈も悠香君みたいになってみたいと思いました》
それは、一人の女子の内に秘めた想いの記録だった。
《沙奈が前を向いて生きれるようになったのは、悠香君のおかげです。悠香君は、沙奈にとって神様です。……だから、どうか、あなたのために祈ることを許してください》
カセットテープは、そこで途切れた。
どこがホラーなのだろうか、全く怖くない。
「……何て言うか、拍子抜けだな」
「どこにビビる要素あるんだよ」
期待外れと言わんばかりの反応をする伏黒と真希。
するとそこへ、和服姿の甚爾が欠伸をしながら姿を現した。
「おう、ガキども。何を集ってる」
「おっ! パパ黒じゃん」
「だから誰がパパ黒だ坊主……ん? カセットテープか、懐かしいモン掘り出したな」
そう言った甚爾は、珍しそうに目を向ける。
世代的に考えれば、ちょうど使ってた頃に当たるが、今となってはそうそうお目にかかれない代物だ。
「昔あったんだよな、逆再生すると怖い言葉が聞こえるなんて噂話がよ」
甚爾の言葉に、全員が目を見開き、自然とカセットテープに注目する。
――悠香の言うホラーとは、このカセットテープを逆再生して流れる音声のことではないか?
誰もがゴクリと唾を飲み込み、カセットテープの向きを変えて再生する。
《……いあさづけちするよをとくろにいねまとなたな》
「お、逆再生始まったな」
一同は、カセットテープを逆再生して流れる音声に耳を傾ける。
すると……。
《……ラナイ》
「え?」
《悠香君ハ……沙奈ノ……ベテ……》
逆再生で絶対に成り立つはずのない言葉が、流れ出した。
それは確かに沙奈の声だが、あまりにも禍々しく、どんな呪いの言葉よりも恐ろしく感じる。
《悠香君ハ……沙奈ノ神様……》
「おい、止めろ!!」
「いや、電源押してるけど止まんねぇんだよ!!」
これ以上聴くのは危険と判断し、再生を止めるよう叫ぶ伏黒。
しかし悠仁は、電源ボタンを何度も押しても止まらないカセットテープに焦った様子で叫び返す。
《モシ……悠香君ヲ傷ツケタラ……悠香君ニ何カアレバ……》
――沙奈ガ全テ奪イ取ッテヤル!!!
それを最後に、カセットテープの再生は終了した。
あまりにも恐ろしい怨嗟のような声に、全員の血の気が引き、その場から一歩も動けないでいる。
そんな中、このカセットテープの所有者が姿を現した。
「……聴いちゃったんだね、それ」
「悠香……」
「沙奈ちゃんはうっかりさんだからね。ついつい本音を漏らすんだよ」
悠香は飄々とした態度で、カセットテープをラジカセごと回収する。
そして何事もなかったかのように、自室へと運んでいく。
「……結局、俺じゃないとダメなんだよなぁ」
悠香は遠い目で天井を見つめるのだった。
その後、噂を聞きつけた五条が面白半分で聴いてみたいと悠香に申し出て、生徒たち全員で止めたのは言うまでもない。
〈近日公開予告〉
「この国の未来は明るいね、悟」
「その顔で語るんじゃねぇよ!!」
親友の皮を被った諸悪の根源に、五条は吠える。
「もうチャンスは二度と来ない……ここで仕留められなければ負ける……!!」
満身創痍になりながらも、悠香は最後まで抗うのをやめない。
「ケヒヒヒ……!! 貴様の言う世界は、悠香の寸劇の方と比べると〝味〟が足りんなぁ」
「なん、だと……!?」
呪いの王の言葉に、特級呪霊は絶句する。
「――あんた、つまんねぇな!!!」
黒幕の野望を知った日置は、木刀を振り上げる。
最後に笑うのは、人か呪いか。
みんな大好き「渋谷事変」 今年夏、投稿予定