三人目のオリキャラ追加です。
そして今回はいくつかの都市伝説を引用してます。
呪術高専学生寮、通称〝伏魔殿〟。
その一階の共同スペースで、悠香は宿儺達と共に夜蛾からある事情を聴いていた。
「内通者が一人発覚した」
「だろうなぁ」
「俺は京都側にいると最初っから思ってましたよ」
「右に同じく。東京校でスパイ活動は無理だしな」
夜蛾の一言に宿儺・悠香・甚爾がそう返すと、話を聞いていた万と裏梅、沙奈も頷いた。
彼曰く、交流戦の際に襲撃してきた呪詛師・呪霊達は内通者によるものと五条が指摘し、京都の連中が怪しいと見なした。東京校には五条だけでなく宿儺や裏梅といった猛者がいるため、現代最強と史上最強の目を掻い潜って工作活動は不可能と判断し、バックにいるであろう黒幕としてもリスクが大きすぎるからだ。
その話は京都校にも伝わり、歌姫が消去法で生徒の一人・究極メカ丸こと与幸吉の可能性があると通達。悠仁達の応援を要請し、彼がいる場所へと向かい拘束するという。
「…で、何が言いたいわけなのよ」
万の指摘に、夜蛾は静かに答える。
「……おそらく、近い内に敵は大きな事件を起こす。それを未然に防ぐため、協力してほしい」
「……分を弁えろ、呪術師」
夜蛾が協力を要請した瞬間、宿儺が目を細めて威圧した。
「俺がお前らのために動くとでも? 思い上がりも甚だしい」
「……悠香、君はどう考えてる」
宿儺の反発を予想していたかのように、夜蛾は悠香に話を振った。
それと共に宿儺と裏梅の視線が嫌なくらい突き刺さり、悠香は顔を引き攣らせた。
なぜ悠香を任務に行かせなかったのか――それは交渉する上で、王の機嫌を取るために必要だったからだ。悠香さえいれば、彼を気に入っている宿儺の機嫌はある程度良いまま保たれるという魂胆だろう。
(夜蛾校長……)
(すまん、頼む…!)
目線だけで会話する二人。
悠香は溜め息交じりに口を開いた。
「食った分は働かないとね…それに貧乏くじを引くのは俺の役目だし」
「クク…殊勝な心掛けだな、悠香。だがいいのか? 結局は使われるだけ使われて潰されるだけだぞ?」
「どの道、誰かがやらなきゃならないんです。まずは引いた貧乏くじを片付ける。話はそこからです」
「ククッ…俺を飽きさせないためにせいぜい頑張れ」
悠香の言葉に気を良くしたのか、上機嫌な表情で彼に笑いかける宿儺。
歪んではいるものの、信頼関係が成立しつつある二人を見て、夜蛾は安堵の息を漏らしていた。
「では悠香、早速ですまないが、情報収集に回ってほしい。相手が何を企んでいるのか、突き止めなければならない」
「……それは裏切り者を尋問すればいい話のはずでしょ?」
「相手が内通者を口封じで始末する可能性もあるってことだよ、沙奈ちゃん」
「そっか…さすが悠香君だね」
沙奈は悠香に微笑むと、夜蛾が言葉を続ける。
「内通者は上層部にもいる可能性があるが、それは後回しだ。今はとにかく、敵の目論見を防がなければならない…任せたぞ」
「……はい」
悠香は頷くが、状況としては頭を抱えたくなるような事態だ。
敵の目論見を暴き、それを防ぐ――言葉にすれば簡単でも、相手はかなりの策士だ。一歩先どころか三歩先を読めねば、逆にこちらがやられてしまうだろう。
そして、その策士が誰であるかは、既に悠香の頭の中で答えが出ていた。あの額に縫い目がある謎の男――夏油だ。
「……夏油と名乗るあの男は、特級呪霊とグルになってるところまでは俺もこの目で確認してます。ですが奴が何をしでかす気なのかは皆目見当つかない。夜蛾校長こそ、夏油という人物に心当たりは?」
「夏油は……夏油傑は、俺の元教え子で悟の親友だった男だ」
夜蛾は語り出す。
かつて、呪術高専の同期として出逢った二人。だがその関係に亀裂が入ったのは、ある村での任務…いや、それ以前の護衛任務からだったのかもしれない。
彼は「呪術は弱者を守るためにある」という思想を持っていたが、任務の度に疑念を抱き始め、自身を慕う後輩の死なども重なった末に高専から脱走。最悪の呪詛師として呪術界に仇なす存在となり、五条にトドメを刺された。
いや、刺されたはずだったというのが、現状では正しいだろう。なぜなら、彼は生きているのだから。
「――バカですね、そいつ」
「沙奈もそう思う」
「は……?」
悠香はあっけらかんと告げ、沙奈も同意した。
その一言に、ニヤける宿儺を除いた全ての者が面食らった。
「愚かさも醜さもひっくるめて人間…俺達は日置先生にそう教わりました。人間という生き物は二元論では語れない」
「悠香君の言う通りだよ。それを理解できてたら、そんな思想には至らないと沙奈は思う」
「日置があの二人の担任だったら、話は違ってたのだろうか……」
「たられば言っても仕方ないですよ」
悠香は淡々と返し、一つの提案をした。
「夜蛾校長……一人、協力を許可してほしい人間がいます」
「誰だ?」
「俺の中学時代のクラスメイトの一人で、ド級のオカルトマニアです」
悠香の言葉に、沙奈は目を見開いて驚いた。
「悠香君、まさか……!?」
「下手な呪術師よりも信用できる。あいつは嘘をつけないタイプだし」
確信を持ってそう言う悠香に、沙奈は苦笑いで頷いた。
一方の夜蛾は、盛大に溜め息をついていた。
気性の荒いスーパードライ、ストーカー気質な承認欲求モンスターの次は、筋金入りのオカルト好き。教師という立場なら絶対に受け持ちたくない人材に、よく日置は最後まで面倒を見れたものだ。
「……ともかく、その人間を呼べばいいんだな?」
「はい。あいつの協力があれば、黒幕の狙いがわかると思います」
「……わかった、許可しよう」
「ありがとうございます」
悠香が頭を下げると、沙奈もそれに倣ったのだった。
*
翌日、上野公園。
ベンチに座りながら、悠香は沙奈と裏梅の三人で待ち合わせしていた。
「これは本当に芋なのか……!?」
「安納芋は濃厚な甘味とネットリ食感が特徴ですからね」
衝撃を受けている裏梅を他所に、悠香は最後の一欠片を口に放り込む。
季節は10月半ば過ぎ…そろそろ秋も深まり、冬が近づいている。
「さて、そろそろ待ち合わせ時間だけど……あ、来た」
「おーい! 悠香くーん!」
悠香は目を細め、声がした方向を見る。
そこには、楽しそうに駆け足で駆け寄ってくるボサボサの黒髪が特徴的な男子がいた。
「久しぶり! 元気だった?」
「相変わらずホワホワしてるね、シノ」
親し気に呼ぶ悠香に、シノと呼ばれた男子は笑い、沙奈は嫉妬の眼差しを向ける。
彼の名は、
「まさか東京に転校してたなんてね」
「まぁ、家庭の事情ってヤツだよ…そっちこそ上手く行ってんの?」
「ボチボチかな。臨時休校とかあって大変だったけど……」
困ったように笑う秋篠だが、沙奈の姿を捉えた途端、真っ青な顔で後退った。
「さ、さささ沙奈ちゃん!? 何でいるの!? 悠香、まさか――」
「今回に限ってはガチの偶然だよ」
(今までは待ち伏せが多かったのか……?)
悠香の意味深な発言に、裏梅はそう思った。
すると、見慣れぬ相手にさすがに気づいたのか、秋篠は裏梅について尋ねた。
「それで…そこの人は?」
「裏梅だ」
「あー……よろしくお願いします…」
素っ気なく返す裏梅に、秋篠は苦笑いで返した。
「それで……シノを呼んだのには理由があるんだけど…まず昨日伝えたブツは?」
「ちゃんとリュックの中にあるよ」
「一緒に来てほしい。シノの知識が必要なんだ」
「俺でできることなら」
秋篠は笑顔で頷くと、三人に着いていくのだった。
「ここが俺の今の生活拠点」
「〝伏魔殿〟ってネーミングはちょっと…」
「中に入れば意味がわかるさ」
呪術高専に戻り、悠香は秋篠に寮の中へ入るよう促す。
そして、中に入った瞬間、彼は異様な気配を感じ取った。
それは、人の気配にしてはあまりにも禍々しい、近寄るのは危険だと思ってしまう程の、とてつもなく強いナニかだった。
「……ここ、事故物件だったりする…?」
「ある意味ね」
悠香がそう言うと、秋篠は恐る恐る靴を脱いで上がり、共同スペースに案内した。
すると、そこにいたのは……。
「何だ、その蛆虫が貴様の言う協力者か?」
着物姿で四つの眼を細める宿儺だった。
その圧倒的な存在感と人間離れした雰囲気に、秋篠は思わず後退って悠香の陰に隠れ、沙奈は彼にガンを飛ばした。
「……宿儺さん、あんまりガン飛ばさないでください。シノはきちんとビビるんです」
「ガンを飛ばしてるのはそっちの小娘だが?」
「シノは沙奈ちゃんの眼光には慣れてるんです」
悠香は苦笑する。
しかし彼の口から出た名に、秋篠はハッとなった。
「宿儺? 今、宿儺って……」
「ああ、この人は両面宿儺……史上最強の術師だよ」
「えぇ~~~~っ!? あ、あの鬼神・両面宿儺ぁ!?」
秋篠は飛び上がらんばかりの勢いで驚愕した。
彼はオカルトマニアゆえ、呪物や全国の都市伝説・民間伝承に精通している。当然、〝両面宿儺〟の伝承も当然の如く知っている。
まさか両面宿儺が実在したとは……曇りなき眼で感動しながら見つめてくる少年に、宿儺は心底ウザそうに眉を顰めた。
「……悠香、何だこの小僧は」
「健全な変態です」
「悠香君!?」
悠香の即答に、秋篠はショックを受ける。
健全な変態とは何だろうか。
「とにかく準備しよう、シノ、沙奈ちゃん。生臭坊主の腹を読めなきゃ大勢が死ぬから」
「うん」
「…………えっ? まさか俺、ヤバい案件に首突っ込んでる?」
秋篠は悠香の言葉から、事の重大さを認識し、顔を青ざめさせたのだった。
悠仁達が任務から帰ってきたところで、悠香は高専関係者全員を対象に説明会を始めた。
内容は無論、最悪の呪詛師・夏油の姿をした謎の人物の動向だ。
「俺とシノは、夜蛾先生の情報から奴さんが次に仕掛けるテロ行為を推測したんだ」
「っ……!」
その言葉に、五条と夜蛾の顔が強張る。
「ここから先は、俺の親友の秋篠裕也が説明します…シノ、お願い」
悠香がそう言うと、マイクを片手に秋篠が飛び出した。
「えーと、ここから先は俺が説明します。まずこれを見てください」
秋篠はプロジェクターを使い、東京の在来線の鉄道路線図を表示させた。
呪術的な資料だと思っていた一同は、あまりにも意外なものを見せられ面食らった。
「えーっと……君、鉄道オタク?」
「違います! ……これは近年非常に有名な都市伝説に大きな関係があるんです」
「ほう…太極図か」
宿儺の一言に、秋篠は頷く。
「そうです。山手線というのは、言うまでもなく丸くなった形をしていますが、これは皇居を悪い気から護ることを目的に作られた〝鉄の結界〟だという都市伝説があります。中央線で高尾山の気を、総武線で成田山の気を、筑波エクスプレスで筑波山の気を都心に運ぶんです」
「あ、それ知ってるかも! テレビで見たことあるわ」
釘崎の言葉に秋篠は頷き、説明を続けた。
「去年の呪術的テロ行為は新宿と聞きました。新宿は中央線が通ってるので、ここを征圧すれば高尾山の気を遮断し、鉄道自体も止まるので結界の効力そのものも弱められる。そうすれば悪い気が都心に集中しやすくなり、災いが誘発しやすくなる。つまりテロの主犯である夏油という男は、何も人が多いから新宿を選んだんじゃなく、呪術を用いた国家転覆を仕掛けるには最適の場所だったと考えられます」
「…………いや、傑はそこまで考えてないと思うよ…?」
秋篠の推測に、五条は思わずそう溢す。
それについては、夜蛾や家入、伊地知は無言で頷いた。
「話を戻しますが、結果的にテロは失敗してますよね? これも結界の力だと思います」
『?』
その言葉に、全員が首を傾げた。
呪術テロ〝百鬼夜行〟を敢行するに最適な場所で、結界の力で負けた――あまりにも矛盾している。ましてや、事態の対処に当たった2年生と五条は、秋篠の推測が根本から違うのではと疑念を抱いた。
「実は別の地図になりますが……これをご覧ください」
秋篠は画面に、グーグルマップから引用した東京の地図を表示させた。
「東京には数多の寺社仏閣があり、繋げると多くの結界が現れるんです」
秋篠は別の画像を見せる。
そこには、皇居を中心とした六芒星が描かれた地図が。
「御穂鹿嶋神社、浅草神社、東山藤稲荷神社、富岡八幡宮、上田端八幡神社、明治神宮……これらを線で結ぶと六芒星の結界が現れるんです。六芒星は日本では魔除けの効果がある「籠目」の文様…そしてこの結界の中には新宿の一部も入ります。鉄の結界の効力を弱めても、六芒星の結界の効力は健在なので、この魔除けの力に当てられて呪いの高まりは一時的なもので終わった」
「要は、その東京の古い結界のお陰で〝百鬼夜行〟は失敗したと?」
「そう考えてます。結界を先に破壊していれば、悪い気が高まって被害が拡大した可能性が高い。そういう意味では、新宿での呪術はどの道失敗したかと」
秋篠は説明を終えると、今度は悠香にバトンタッチした。
「シノの推測が正しければ、次のテロの標的も検討が付く。人が大勢集まり、結界を遮断しやすい新宿以外の場所…」
「つってもよ、東京ってスゲェ人集まるじゃんか。池袋とか原宿とかさ」
「兄さんの言う通り。でも一番早い決行日という条件を付けると、一箇所しかない」
――10月31日の渋谷だよ。
そう言い放った悠香に、高専教師と生徒が戦慄する。
渋谷は近年、ハロウィンの仮装で爆発的に人が集まる。そこに呪術を仕掛ければ、被害は甚大なものになる。物的証拠はないが、現実味を帯びてる仮説だし、むしろ考えれば考える程にそうとしか思えなくなる。
つまりは、悠香達の推理が正しければ……今年の10月31日が呪術界最大の危機に成り得る。
「学長……これ…」
「悟、すぐに会議を開くぞ!! 京都校にも連絡しろ、何かあってからでは遅い!! どうせなら杞憂で終わりたいが…今の悠香の推理はおそらく当たりだ!!!」
五条と夜蛾を筆頭に教師陣が慌ただしくなり、生徒達はポカンとする。
10月31日まで一週間を切った以上、悠香の推理が当たっている可能性が否定できない以上、事態は深刻だ。
間に合うかどうかは不明だが、何も対策を取らないよりはマシだろう。
「……悠香君、俺もしかしてヤバい事に首突っ込んだ?」
汗だくで問いかける秋篠に、悠香は肩にポンッと手を添えて一言だけ告げた。
「虎杖悠香の地獄旅にようこそ、シノ」
「全然嬉しくないなぁ…」
秋篠は引き攣った顔を浮かべ、ニンマリと微笑む悠香を見つめるのだった……。
今回登場したオリキャラ、秋篠裕也ことシノは、里桜高校に進学してます。
臨時休校はそういう意味です。ちなみにあの日は体調不良で休んでいたようです。
悠香とは長い付き合いなので、沙奈ちゃんからは物凄い嫉妬の眼差しを向けられてます……。(笑)
次回、ついに渋谷事変へ……!