虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

30 / 56
この場を借りてですが、X(旧Twitter)でアカウントを開設しました。
よければ見に来てください。
作品に関する質問の回答や教えてほしい裏設定とか、希望があれば公開します。


第29話:渋谷事変・その3

「え? 五条さんしくじったの? マジで?」

「悠香君に悪い冗談言ってるの? 悠仁君」

「二人共、マジだって!! メカ丸が言ってた!!」

 悠香と沙奈は悠仁の緊急連絡の内容に、思わず目を丸くした。

 夏油生存に関する情報は里桜高校の一件で掴めてたので、親友絡みの心理戦は問題ないと判断していた。だが、まさかそれを抜きで戦闘不能に陥ってしまうとは。

 その話を傍で聞いていた宿儺は「凡夫が…」と呆れ返り、裏梅はとうとう頭を抱えた。そしてその場に居合わせている日下部はとてつもなく帰りたくなった。

「裏目に出たという問題ではない。そもそも索敵した時点で止めを刺せばよかろうに」

「悠香君を困らせるなんて最低」

「現代最強は返還だ、何が特級呪術師だ下郎が」

 宿儺、沙奈、裏梅の順に辛辣な言葉が続く。

 しかし悠香は、この状況ならと逆に考えた。

「いや……これはもしかしたらチャンスかもしれない」

「なぜそう言い切れる?」

「五条さんをどう封印したかはともかく、あの人も規格外だ。万が一ということも起きる。その場合、一人分の戦力が割けてると思う」

 そう、何だかんだ言いつつも五条悟は現代最強の術師。国家転覆も可能な実力とパワーバランスを滅茶苦茶にしかねない影響力を有する超人だ。

 彼が自力で封印を解いてしまう可能性がある限り、呪詛師はそれを押さえるための戦力を配備するはずで、その戦力は間違いなく五条に迫るか匹敵する猛者――このテロの主犯である夏油だろう。

 とすれば、今の戦力で五条悟奪還を一旦無視してそれ以外の戦力の各個撃破に徹すれば、最後に残るのは夏油のみとなる。夏油一人になったところで袋叩きにすれば、呪術師による平定(ハッピーエンド)で終わることができる。

「とりあえず夏油傑が動けない内に、グルの連中を片付ける。そして最後に残った夏油傑には去年死ねなかったことを後悔させる」

「お前、何か恨みでもあるん?」

「今んトコ特別無いけど俺は祓って済ませるつもりはないよ、兄さん」

 悠仁のツッコミに、悠香は鋭い目つきでそう返す。

 というのも、彼は兄と合流する前に甚爾と顔を合わせ、尊敬する恩師の日置を目撃したと知ったのだ。日置は悠香にとっては父親同然の存在であり、その恩人を害そうとする輩に怒りを抱いて当然の話。相手が誰だろうと、たとえ命乞いや和睦を申し出ても容赦しないと決めている。

 悠香の選択肢に、捕縛や拘束はない。殲滅一つである。

「……兄さん、例の三兄弟は?」

「今、改造人間を征圧するって言ったから別れた! 俺はこれからナナミン達と合流する。パパ黒は……まあ大丈夫か?」

「そうだね。釘崎さんには万さん達が付いているから、内ゲバにならなきゃ死にやしない。……いや、もしかしたら片付けてるかもね。アレでも平安時代の実力者だし」

 その悠香の予想通り……。

「……で? 私と宿儺による愛と孤独が交錯する運命の綾なす軌跡の何が腐ったミカンみたいですって?」

「いや、だから俺はただ「ざまあないね」って……」

「どっちも同じでしょうが!!」

「このクズが!! 血祭りにあげてやる!!」

 弱い者イジメを好む卑劣な金髪サイドテール呪詛師・重面春太を釘崎と万が袋叩きにしていた。

 重面の術式は、日常生活で起こった小さな「奇跡」を重面の記憶から抹消しストックすることで、自身の命に関わる場面で放出される能力だ。ゆえに致命傷や即死級のダメージを耐えることができ、生存に繋げることが可能となる厄介な術式だ。これをフル活用すれば複数の術師を翻弄して必殺の一撃も狙えるのだが……女子を甚振る性格が仇となったのである。

 

 ――アンタ知ってるよ。夏油から聞いたよ、万って過去の術師なんだろ? 両面宿儺にずーっと袖にされてるんだって? ざまあないね!!

 

 この言葉に万の怒りが頂点に達し、全力で潰しに掛かれて痛い目に遭ってしまった。

 要するに、重面は万の地雷を踏んでしまったのだ。

「愛と孤独は表裏一体なのよ!!! それを腐ったミカン扱いなんて、万死よ万死!!! ちょっと小娘、こいつの脳味噌ポタージュにしてやんなさい!!!」

「わかってるわよ!! 一遍死んでこい、腐れ外道が!!」

「よ、万さん、ちょっと落ち着くッス!! っていうか釘崎さん、何で便乗してるんスか!?」

 万は容赦なく蹴りを入れ、釘崎は彼の頭部を金槌で何度も殴打。

 呪力を込めない暴力の末、重面はギャグマンガみたいなタンコブをこさえて気絶した。

「ようやく堕ちたわね」

「乙女の敵め……」

 まるで嘲笑うかのような冷たい視線と声音で、二人は吐き捨てた。

 するとそこへ、筋骨隆々な細マッチョが乱入してきた。甚爾だ。

「おう、ここにいたか津美紀モドキ」

「……禪院甚爾」

「伏黒だ、クソアマ」

 軽口を言い合いつつ、甚爾は要件を切り出した。

「お前、確か構築術式だよな? 社長の木刀だけじゃあ心細い」

「……呪具を作れと言いたいのね? なら条件があるわ」

 甚爾の要求に、万は条件付きとはいえ拒否を示さなかった。

 万は禪院真依と同じく、己の呪力を用いて無から物体を作る構築術式の使い手で、その練度は彼女自身が認識できる物質はほぼ全て再現可能な程だ。当然、特級呪具の複製も可能であり、その技術は相当なものである。

「……で、俺は何をすればいい?」

「簡単よ。宿儺に私が作った呪具を渡してきてほしいの」

 万の要求に、甚爾は目を点にして首を傾げる。

 そもそも宿儺は不完全体であるが、呪具抜きでもこの大事件を終結できる程の実力は有している。呪具を必要とするのか甚だ疑問だが、目の前の女は宿儺と同世代。それこそ熊をよく知るマタギの如く〝呪いの王〟という存在を熟知していることを考えると、一応は耳を傾けるべきだろう。

 そう判断し、甚爾はその呪具の正体について質した。

「……で? 何だその呪具ってのは」

「ふふ、それはね――」

 

 

           *

 

 

 その頃、この大規模テロに巻き込まれている日置はと言うと。

「ったく、どうなってるんだ……!?」

 街中で暴れる不気味な化け物達の目を掻い潜り、身を隠していた。

 およそこの世のものとは思えない異形の化け物共が、地下鉄の入り口から湧き出て地上へ侵攻している。それはまさに地獄絵図とも言うべき光景だ。

 この渋谷で何が起こっているのか、日置は現状を把握しようと周囲を見渡すが、迂闊に出れば狙われるのは明白。ゆえに、路地裏で身を潜ませるしかなかった。

 だが、いつまでもそれが続くとは限らない。いつこの化け物が自分を嗅ぎ付けて襲ってくるかもわからない状況。一刻も早くここから脱出しなければ……!

「ちっ、まるでバイオハザードだな……」

 日置はそう吐き捨てた。

 すると、そこへ一般人を蹂躙していた改造人間の数体が、日置が隠れていることに気づいて襲いかかってきた。

 改造人間は牙や爪が刃物の様に鋭利な上に、凄まじい怪力を持つ。肉弾戦では呪術師にも善戦できるので、一般人では到底勝ち目はない。

「クソ……いっちょやるか!?」

 日置は拳をつくり、腹を括って改造人間への迎撃を図ろうとした。

 その時、一人の少年が日置の前に降り立ち、木刀を振るって改造人間達をことごとく薙ぎ倒した。

「――悠香か!!」

「日置先生、下がってて」

 そう、現れたのは悠香だ。彼は日置の前に颯爽と降り立ち、改造人間を見据える。

 するとそこへ、二体の改造人間がさらに乱入してきた。だがその内の一体は、頭部に強烈な一撃を喰らって昏倒する。

 沙奈だ。彼女は路地裏で拾ったバールのようなものをぶん回して、改造人間を殴りつけたのだ。

「お、お前達……!」

 驚愕のあまり、日置は状況が飲み込めない。

 だが悠香と沙奈が……かつて受け持った問題児二人が自分を助けるために来てくれたことだけは理解した。

「日置先生、大丈夫?」

「あ…ああ、助かった」

 悠香達に助けられて安心したのか、日置は強張った表情から力を抜いて安堵の息を漏らす。

 それを皮切りに、残りの改造人間達が三人に襲い掛かったが、悠香は木刀で、沙奈もバールで応戦し、改造人間を次々に撃破していく。

 日置はただそれを見守ることしかできなかったが、それでも二人の戦いぶりに見入っていた。

(二人共……こんなに強くなっていたのか)

 片や〝凶犬〟と呼ばれる程に気性が荒く、同時に人一倍警戒心が強かった一匹狼。

 片や表面的には大人しい優等生だが、蓋を開ければ誰もがドン引きするような情念を秘めたモンスター。

 そんな二人を知っているからこそ、日置は二人の成長ぶりに驚かされた。

 だが、感動に浸っている場合じゃない。

「悠香、沙奈! 一体何が起こってるんだ!?」

「先生、実は……」

 悠香は日置にこれまでの経緯を説明する。

 すると、主犯である夏油のことに触れると日置は目を大きく見開いた。

「……そいつ、前に俺の家に来たぞ」

「「え!?」」

 日置の発言に、教え子二人は驚愕した。

「少し前だが、突然入り込んできてな。悠香の身内だと言い始めた。胡散臭すぎてすぐ追い払ったが」

「……日置先生、やっぱり狙われてたか…!」

 悠香は、夏油に命を狙われていた事実を知って歯噛みする。

 だが呪詛師に自宅に乗り込まれて五体満足なのは、本当に運が良かったとしか言えない。

「で、先生はこれからどうするの?」

「ここを出るさ。お前達も早く逃げろ」

「……そういうわけにもいかないんだ、先生」

 悠香は日置を逃がそうとし、沙奈と共に渋谷に残ることを告げる。

 だが日置は首を横に振った。

「ダメだ! お前達はまだ若い、命を張る必要はないんだ! ましてや悠香、お前は――」

「わかってるよ、そんぐらい!! ……でも、誰も守ってくれない。誰かが貧乏くじ引かなきゃなんないんです…!!」

 日置の言葉を遮るように、悠香はそう言った。

「俺は……戦わなきゃならないんです。終わらせなきゃならないんです」

「……そうか」

 もう何を言っても無駄だと悟り、日置は教え子達の意思を尊重することにした。

「わかった……だが約束しろ。絶対に生きて帰ってくると」

「……はい」

「日置先生こそ、くれぐれも早死にして悠香君を泣かせないでね」

 命を賭して戦う教え子に、日置はそう願うことしかできなかった。

 そんな彼に悠香は笑顔で頷き、沙奈もガンを飛ばしてから路地裏から出て行った。

「……さて、どうするか」

「悠香君、どうするの?」

「とりあえず…この修羅場をどうにかしないとね」

 悠香は改めて周りを見渡した。

 改造人間に囲まれ、二人は絶体絶命の状況だが、悠香は動揺するどころか落ち着き払っている。

「沙奈ちゃん、こいつらをどうにかしたら……」

「け…結婚する…?」

「それ死亡フラグ!! 絶対どっちか死ぬだろ!!」

 モジモジする沙奈にツッコむ悠香。

 だが悠香は沙奈の提案を「保留」と返した。

「今はそれどころじゃない。まずはこの渋谷をどうにかするのが先だよ」

「五条悟はどうするの? 全員救出に動くと思うけど…」

「いや…高専の皆が五条さんの奪還に動くことぐらい、連中は想定済みのはず。それを逆手に取って、五条さんの奪還ではなく元凶の首を取りに行く」

 悠香の狙いは、呪詛師・夏油傑の撃破だ。

 呪術師達が一斉に五条奪還に動けば、それを阻止せんと敵方の戦力が呪術師の殲滅の為に動く。そうなれば夏油の守りは手薄になり、彼の首を取る機会が生まれる。そのチャンスを逃さない為にも、悠香は敢えて五条奪還に向かわず、沙奈と共に主犯格の討伐に動くことに決めていた。

 問題なのは、このテロの首謀者がさっさとトンズラしないかだが……。

「じゃあ、悠香君は――」

「っ!!」

 刹那、悠香は振り返って木刀で沙奈の背後に現れた存在に平突きを放った。

 しかし手応えはなく、悠香はすぐさまバックステップで距離を取る。そして沙奈もバールを身構えた。

「あーあ、残念」

「……里桜高校の時以来だね」

 現れたのは、真人。悠香の魂に触れ、エラーに次ぐエラーを起こした張本人だ。

 彼は沙奈を舐めるように見ると、首を傾げて悠香に視線を移す。

「ねえ、こいつ誰? お前とどういう関係?」

「クラスメイト」

「悠香君は沙奈の神様なの」

「……」

 真人は沙奈の回答に、頬を引き攣らせて悠香に視線を戻す。

「お前……結構ヤバくない?」

「特級呪霊に言われたくないんだけど」

 真人の指摘に悠香は真顔で返しながら、木刀に呪力を込める。

 兄が最も嫌うタイプの性格をしてるだけあって、悠香は真人を嫌悪しているのだ。

「俺は祓って済ませるつもりはない。地獄に送ってやるから遺言くらい考えとくんだね」

「じゃあ、お前を改造人間にして虎杖悠仁に会わせてあげるよ!!」

 悠香の挑発に、真人は更なる改造人間を呼び出す。

 魂に干渉する呪霊と、魂にエラーを起こした少年の死闘が幕を開けようとしていた。




重面はこの話を以て渋谷事変は退場します。(笑)
オガミ婆は事変前に壊滅済み、裏梅も高専に寝返ってるので、残りはメロンパンと特級呪霊三体、そしてその他の有象無象
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。