虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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前半はパパ黒無双、後半は本作屈指のデスマッチです。


第31話:渋谷事変・その5

 その頃、悠仁たちはというと。

「クソ、このタコ手強いな……!!」

「壊相、血塗!! 悠仁たちと連携を取れ!! 今は奴の領域内だ!!」

「ちっ、これだけ頭数揃えてるってのに……!!」

 頭や口、鼻から血を流し、肩で息をする。

 その目の前にいるのは、人のような手足を持つ筋骨隆々のタコ頭の特級呪霊――陀艮。

 当初は文字通りのフードを被ったタコの化け物だったが、大量に人間を喰らったために戦闘中に脱皮・変貌し、「蕩蘊平線(たううんへいせん)」という領域展開の発動を許してしまったのだ。

 南国のビーチリゾートのような生得領域だが、魚の姿をした式神を際限なく出現させることができるため、強制的に消耗戦を強いられるという厄介な点がある。それを以てしても、呪術師は疲弊こそすれど一人として欠けることなく戦闘を続行しているが。

「おのれ、小賢しい奴らめ……!!」

 流暢な日本語で悪態を吐く。

 夏油から相手方が過剰戦力で来ると言われた通り、眼前の敵は中々しぶとい。特に身体能力が一際高い悠仁は、迷いなく突っ込んでくるのもあって、陀艮も陀艮で手を焼いていた。

 ならば、と。陀艮は領域内の海を割るかのように手を振り上げ、大量の式神たちを出現させた。

 古今東西、いかなる戦いでも物量の差は大きく影響する。ましてや、この領域内では式神は無限に生み出せる。いくら相手が強かろうが、数の力には敵わないだろう。

 あまりの数の多さに悠仁たちが目を見開く中、陀艮は勝利を確信した、その時――

 

 ドォン!!

 

 大きな音と共に、南国の空が割れた。

 いや、正しく言えば領域外から侵入者がやって来た。

「おう恵、まだ息あるか?」

「糞親父!?」

「パパ黒!!」

 現れたのは、中心の持ち手の両側に十字の球体が付いた五鈷杵のような形状の短剣を手にした甚爾だった。

 叔父と甥の関係である直毘人は、その登場に思わず「遅いわ、阿呆」と笑みを溢した。

「……あんた、その呪具は一体……?」

 真希は赤い三節棍の特級呪具・(ゆう)(うん)を構えながら、暴君が握る呪具に目を瞠った。

「あ? これか? 〝神武解(かむとけ)〟っつー名前だ。万って女が宿儺の旦那に渡してくれって。どうも昔使ってたらしい」

「……待ってください。それはつまり、その呪具は両面宿儺が使用してた武器ということでは?」

 悠仁たちと共闘していた七海は、冷や汗を滲ませながら尋ねた。

 生前の呪いの王が使用していた呪具――その事実だけで、その呪具がどれだけのチカラを秘めているのか、想像に難くないだろう。

 しかし、甚爾はそんな七海の心配など露知らずといった様子で答えた。

「まあ、丹精込めて作ったから品質は保証するってよ」

「そういう問題では……」

 七海は頭痛を堪えるように頭を押さえた。

 しかし、そんな彼らのやり取りなどお構いなしに、陀艮は憤怒の表情を浮かべていた。この領域内では、自分が絶対的強者であるはずなのに、それを打ち破られたことに対する怒りがそうさせているのだろう。

 同時に、宿儺の呪具と甚爾の威圧感に最大限の警戒を張り巡らせていた。

「……こんだけ雁首揃えてて、タコ一匹仕留めるのにどんだけ手間取ってんだ」

「じゃあ、あんたが一人でやんなさいよ!!」

「そうだそうだ、俺たちの苦労も知らねぇで!!」

「お前がもっと早く来れば悠仁たちはこんな目には……!!」

 甚爾の言葉に、呪胎九相図の三兄弟が非難する。

 すると、暴君が獰猛な笑みを浮かべて宣言した。

「いいぜ、俺が一対一(サシ)決着(ケリ)つけてやる」

『は?』

 そう言うや否や、甚爾が神武解を振るった。

 直後、強力な雷撃が陀艮の巨体を貫いた。

「ぐあああっ!?」

 その一撃で、陀艮は全身を痙攣させ、口から大量の血を吐き出した。

 あまりの威力に、一同は愕然とした。

「使い勝手が良いじゃねぇか、これ。あとで俺用に作ってもらうよう頼むか」

「がっ……お、のれぇ……!!」

「そう言えばタコ野郎、知ってるか?」

 刹那、陀艮の視界から甚爾が消えた。

 一体、どこへ消えた!? 陀艮は周囲を見回すも、どこにも彼の姿はなかった。

「――水は電気を通すんだぜ?」

「ぐはっ!?」

 背後から声がしたと思った次の瞬間、陀艮は海に思いっきり殴り飛ばされた。

 それと同時に、甚爾は神武解を振り回して雷撃を無数に放出。一気に畳みかけた。

 領域内とはいえ、自然の呪霊ゆえに自然の摂理が通じるのか、水を介しての雷電攻撃が陀艮に甚大なダメージを与えていた。

「がああああああっ!!」

「さっき見たぜ。随分と人を喰ったらしいじゃねぇの。そうだな、社長の言葉を借りるとすりゃあ……」

 

 ――ツケは払わなきゃなぁ!

 

 甚爾は神武解を投擲し、陀艮の眉間を貫いた。

 それと同時に紫の血飛沫が舞い、海は陀艮の血で染まっていき、ついには領域内が崩壊した。

「領域が…!」

「マジであのタコを一人で祓っちまった…!」

「だから言ったろ、俺一人で充分だってな」

 領域が崩壊したことに驚愕する一同に、甚爾は不敵な笑みで返した。

 すると、ボロボロの陀艮が最期の力を振り絞って襲い掛かってきた。

 しかし――

「ふんっ!!」

「ぐがっ……」

 悠仁の拳が顔面に減り込み、その巨体を吹き飛ばしてホームの壁に叩きつけた。

 それがトドメとなったのか、陀艮はついに消滅した。

「ふぅ……サンキュー、パパ黒!!」

「助かった、糞親父」

「お前ら二人、あとで口の利き方教えてやるから覚悟しとけ」

 甚爾は、二人からの感謝にぶっきらぼうな返事をした。

 しかし、その口元はどこか綻んでいた。

 

 

          *

 

 

 その頃、悠香と真人は壮絶な死闘を繰り広げていた。

「おおおおっ!!」

 木刀を振るい、次々と改造人間を薙ぎ倒して行く悠香。

 その勢いは凄まじく、改造人間を一太刀で叩きのめしていく様は、まるで鬼神の如きだった。

「このっ!!」

 真人が物量戦で改造人間を差し向けるも、彼は呪力を飛ばして吹き飛ばして肉薄。

 距離をどんどん詰めて、ついに真人の眼前まで迫った。

「ちっ!」

 真人が舌打ちしながら拳を振りかぶるも、悠香は下段からの斬り上げで彼の顎を穿った。

 木刀によるアッパーで真人の顎が砕け、そのまま彼は上空へと吹き飛んだ。

「ぐっ……クソッ!!」

「まだだぁっ!!」

 空中に放り出された相手を、悠香は呪力を飛ばして追撃する。

 真人は改造人間を盾にしながら着地。そのまま距離を詰め、鳩尾に拳をめり込ませた。

「黒閃!!」

「ごぼっ!?」

 黒い火花が散り、強烈な衝撃音が鳴る。

 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み――黒く光った呪力が稲妻の如く迸る「現象」が、悠香に牙を剥いた。

 平均で通常時の2.5乗の威力という驚異的な攻撃を叩き込むそれは、異常な自己再生能力を持つようになった悠香にも、絶大なダメージを刻み込んだ。

「がっ…あ……!」

 悠香は口から血を吐きながら白目を剥いた。

 しかし、それでも彼は諦めない。必死に意識を繋ぎとめ、零距離で〝威虎〟を放って真人を吹き飛ばした。

(クソッ、黒閃をモロに受けてもまだ動けるのかよ!? 出力高めだったってのに、ふざけやがってあの化け物め!!)

 真人は悠香の異常さに苛立ちを隠せない。

 しかし、彼は自身の勝利を決して疑わない。

(だがついに掴んだ。俺の魂の本質! 本当の形を!)

 真人は自らに無為転変を発動。

 人間に近い姿をしていた今までの姿から一変し、怪人のような姿に変貌した。

(へん)(せつ)(そく)(れい)(たい)。ハッピーバースデイってやつさ」

(今までの手段としての変形じゃない……進化か?)

 その禍々しい見た目に、悠香は警戒を強めた。

「黒閃を経て理解したんだ。俺の本当の剥き出しの魂を。でも仕上げはこれからだ。お前と虎杖を殺して俺は初めてこの世に生まれ堕ちる」

「……俺も虎杖だよ!!」

 悠香は地を蹴り、横薙ぎの一閃を繰り出す。

 真人の脇腹に命中したが、手応えの違いに目を見開いた。

(固い!! やっぱり全体的に強化されてる!!)

 呪霊として変身前とは別次元の存在に成っている……つまり、悠香の読みは的中していたのである。

 だが、それは自分がこの場から退く理由にはならない。悠香は歯を食いしばって木刀を振るうが……。

「食らえ!!」

 

 ドゴォン!!

 

「ぐばっ!!」

 真人が再び黒閃を、今度は顔面に叩き込んだ。

 悠香は血反吐を吐きながら吹き飛び、瓦礫の山に激突した。

「あ、がぁ……」

「クク……ハハハハ!! さぁ、これで終わりだ!!」

 肉体へのダメージが許容範囲を超えたのか、悠香は痙攣して動けずにいた。

 しかも魂の干渉も許してしまったらしく、その身に宿るもう一人の人格(たましい)――藤枝にもダメージが及び、完全な戦闘不能に陥ってしまっている。

 真人はそんな丸腰の悠香にトドメを刺すべく、拳を振るった。

 

 ――ドムッ!!

 

「!? こいつは…!!」

 妙な手応えに、真人は驚いた。

 なぜなら、殺そうと振るった呪いの拳が、大きなクラゲの式神に阻まれてしまったのだ。

 この式神は、確か……!!

「悠香君!!」

「順平…!?」

 真人はかつての遊び道具だった少年の乱入に驚愕した。

 そんな彼に、更なる驚きが待ち構えていた。

 

 ゴゥッ!

 

「――何っ!?」

 何と、痙攣して戦闘不能だったはずの悠香が、突然立ち上がったのだ!

(バカな、何で立ち上がれる!? しかも呪力が高まっている…いや、これは別の呪術師が奴を回復させたんだ!!)

 真人は悠香から感じる別の呪力を、必死に探った。

 すると、その呪力の源は悠香の真後ろ……およそ50メートル程後ろで座りながら両手を組む女子から発しているものと判明した。彼女は大量の脂汗を掻き吐血しながら、必死に呪力を悠香へと送り込んでいた。

 悠香を助けたのは、沙奈だった。彼女は悠香と別れた後、順平と運よく合流して援護に回っていたのだ。

「……沙奈の神様を…これ以上、傷付けさせないっ…!!」

 鬼気迫る表情で、沙奈は祈りながら真人を睨む。

 彼女の術式は「祈願」――特定の対象に祈りをささげ、代償を払う代わりに自らが与えたい効果を対象にもたらす呪術なのだ。その代償は自身の身体状態であり、一時的な体調不良から瀕死状態まで様々。今回のケースは、悠香の回復と強化と引き換えに、彼自身が負ったダメージを何割か肩代わりすることだった。

「この……クソアマぁ!!」

 真人は沙奈から先に仕留めようと、彼女に向かって駆けた。

 だが、気づいた時には鬼の形相の悠香が呪力を纏った木刀を構えていた。

「なっ――」

「「いけぇーーーーーっ!!」」

「がああああああっ!!」

 沙奈と順平が、魂の叫びを上げた。

 それに応えるように、悠香も吼えて渾身の一太刀をぶつけた。

 

 ドォン!!

 

 悠香が木刀を振るった瞬間、黒い火花が散り、真人の強化された肉体に強烈な衝撃を走らせた。

(木刀で黒閃……!?)

 真人は、悠香が黒閃を放ったことに唖然となった。

 黒閃は打撃によって生じる現象。そして木刀による攻撃は、斬撃ではなく打撃。

 悠香は木刀で黒閃を誘発させるという、呪術界史上初と言える前代未聞の離れ業をやってのけたのだ!!

「うおおおおおおおおお!!」

 黒閃をモロに食らった真人に、悠香は死力を尽くして最後の猛攻を仕掛ける。

 未曾有の呪術テロ・渋谷事変は、ついに最終局面へと突入しようとしていた。




というわけで、ようやく沙奈ちゃんの術式が判明しました。直接戦闘には不向きですが援護として絶大な効果を発揮する能力です。
悠香君と沙奈ちゃんのバディは、特級呪術師以上の脅威となるポテンシャルを秘めてます。

次回、渋谷事変はついに終幕へ向かいます。
そして本作の陰のMVP、日置先生が……!
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