虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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呪術廻戦、終了しましたね。
お疲れさまでした。


第32話:渋谷事変・その6

 真人に強烈な黒閃を叩き込んだ悠香。

 彼はそのまま木刀を振るい、全力で連撃を叩き込む。

 

 ドォン!! ドゴォオン!! ドゴン!! ドォン!!

 

 上半身を振りながらその遠心力と反動を利用し、起死回生の滅多打ちを叩き込む。

 遍殺即霊体の状態では「両肘のブレード以外は変型しない」という〝縛り〟で肉体の強度を底上げしているが、膨大な呪力を持つ悠香の最大出力の連撃は、真人の想像を遥かに超える威力を発揮した。

「ガア゛ア゛ァ゛……!?」

 原型の200%にまで高まったタフネスを有する身体を破壊され、真人は苦悶の声を上げながら、悠香の連撃に為す術なく打ちのめされていく。

 一撃一撃が黒閃を誘発する一歩手前という威力、しかも肉体の一部を原型に戻す暇どころか領域を展開する隙すら与えない速さのため、攻撃は全てクリーンヒット。

 文字通りの執念の猛攻だった。

(反撃する暇を与えるな、呪力を練る暇さえ与えるな!! もうチャンスは二度と来ない……ここで仕留められなければ皆死ぬ!!)

 満身創痍になりながらも、悠香は真人を追い詰めていく。

 もしこの場に宿儺がいれば、狂喜しそうな光景である。

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 悠香は渾身の突きを繰り出し、黒閃を誘発。

 真人を再び吹っ飛ばす。

「がは、ごほ……!!」

 改造人間のストックも尽きてしまい、絶体絶命に追い込まれた真人。

 しかし悠香も、驚異的な自己再生力が追いつかない程の過剰な負荷をかけたため、身体の至る所から流血して深刻なダメージを負っていた。

 だが、どちらが王手かと言われれば、間違いなく悠香であった。

「ハァ……ハァ……」

「ひっ…!!」

 ガリガリと音を立てながら木刀を引き摺り、血走ってギラついた眼を向けながら血塗れの悠香は歩み寄る。

 その特級呪霊顔負けの悍ましい光景に、真人は完全に怖じ気づき、恥も外聞もかなぐり捨てて逃走を謀った。

 が、数十メートル程離れた途端、視界がぐにゃりと歪んだ。

「な……!?」

 一瞬、何が起きたかわからなかったが、後ろを振り返ってすぐ理解した。

 悠香の血痕から、禍々しい呪力が煙のように立ち上っていたのだ。

「ば、化け物……!!」

 真人は自分の好奇心のせいで、悠香が人の姿をした怪物となったことをようやく把握した。

 無為転変の影響を受けた悠香の体質は、血液にまで大きな変異を起こし、人間だけでなく呪霊にも被害をもたらすようになった。現に先の交流戦において、彼の血痕から発し始めた呪力にあてられた呪霊たちが突然変異を起こし巨大化・狂暴化し、あの五条が交流会中止を誰よりも早く提言するという異常事態を引き起こした。

 人を散々おもちゃの様に弄んできたツケが、ついに回ってきたのだ。

「う、うああ……!」

 悠香の血液から発する呪力を浴びた影響で身体が思うように動かない真人は、とうとうその場にへたり込んで拾った小石を投擲するという悪足掻きを始めた。

 しかし、そんな虚仮威しが通じるはずもなく、悠香は木刀を引き摺りながらゆっくりと迫る。

「畜生!! 来るな、来るなぁ!!!」

 最早半狂乱になり、喚きながら小石を投擲する真人。

 土壇場で残った呪力を帯びたか、小石は悠香の頬の肉をゴッソリ抉ったが、ぐじゅぐじゅと生々しい嫌な音を立ててあっという間に再生する。

「ドブネズミ……死ね」

 悠香は呪力を帯びた木刀を振り上げた。

 呪力の一太刀が襲い掛かろうとしたその時だった。

 

 ぐにゃり

 

「は……?」

 突然、真人が悠香の目の前で紫色の光に包まれながら球体となったのだ。

 何が起きたかわからず呆然とする悠香だったが、目の前に立つ男に気づき、状況を瞬時に把握した。

「やあ、虎杖悠香」

「っ……夏油、傑……」

 真人を手にかけたのは、この大規模呪術テロの黒幕――呪詛師・夏油傑だった。

「随分と人間の部分が減ったようだね」

「……誰のせいだと」

 悠香は怒りを滲ませながら、血だらけの木刀を構える。

 対する夏油は、余裕綽々といった様子で球体にした真人を飲み込んだ。

「さて……君には散々煮え湯を飲まされたからね。ここで引導を渡すことにしよう」

「それはこっちのセリフだ…!」

 悠香は血塗れの木刀に呪力を込め、衝撃波を飛ばそうとした。

 刹那、腹部に強烈な衝撃と激痛を感じた。

「かはっ……!?」

 何が起きたのかわからず、思わず腹を押さえて膝をつく悠香。

 呪力を込めた木刀を振るおうとした瞬間、夏油が距離を詰めて腹を打ち抜いたのだ。

 あまりの衝撃で木刀を手放し、悠香は激痛に悶え苦しみながら顔を上げると……。

 

 ドゴォ!

 

「あがっ…!!」

 轟音と共に黒い稲妻が迸り、悠香の顔面を捉えて吹っ飛ばした。

 真人との死闘でダメージが蓄積していた悠香は、受け身も取れず地面に叩きつけられた。

「かはっ……うぁ……」

「おやおや、まだ生きているのか。しぶといね」

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 血反吐を吐いて悶絶する悠香を嘲笑う夏油に、沙奈は激高。

 鉄パイプに呪力を込めて殴りかかるも、夏油は難なく回避。彼女の頭を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。

「奥村さん!!」

「さて……これで邪魔者はいないな」

 夏油は悠香に向かって歩みを進め、その身を片手で持ち上げた。

「う……あ……」

「君は少し実験に付き合ってもらうよ。宿儺には申し訳ないが、今後の計画の為に役立ってもらうよ」

「が、あ……」

 血塗れの悠香を片手で持ち上げたまま、もう片方の手に呪力を集中させる。

 すると、手の中に紫色の光が集まり始めた。

「君を改造させてもらうよ。大丈夫、君ならすぐに順応できるだろう」

「ゆ、うが…く……!!」

「残念だけど、君の神様はこれで死んだよ、奥村家のお嬢さん」

 夏油は無慈悲にそう告げ、悠香を連れ去ってしまった。

 沙奈の顔が絶望に染まり、順平は何もできなかった自分を呪った、その時。

「くっ……今日は厄日だ…」

「「!?」」

 路地裏から、スーツを真っ赤な血に染めた男が現れた。

 今回のテロに巻き込まれた、悠香のかつての恩師――日置だ。

「……奥村!? 大丈夫か!!」

「せ、んせ……」

 かつての教え子の一人が血塗れの状態と知り、顔面蒼白になりながらも日置は駆けつける。

 沙奈はその姿を目にし、涙を流して伝えた。

「せん、せい……ゆ、うが君が……さらわれ…!!」

「何だと!?」

 日置は愕然とし、かつての教え子を無惨に傷つけられた怒りで身体を震わせた。

 ふと、視界に木刀が転がっているのが目に入り、日置はそれを拾い上げる。

 悠香が真人との死闘で振るっていた木刀だ。その柄には、血塗れになった悠香の手形が残っていた。

「……待ってろ、先生が片を付けてやる……!」

 未来を守るため、義憤に駆られた一人の教師が、特級呪詛師との決戦へと赴いた。

 

 

           *

 

 

 渋谷、スクランブル交差点。

 激戦に次ぐ激戦の末に壊滅的な被害を受けていたが、奇跡的に呪術師側の死者は出ず、非術師の犠牲も最小限に済んだ。

 この名所は、呪術師たちの合流地点として一時的な拠点として利用され、渋谷の惨状を目の当たりにした呪術師達は頭を抱えた。

「こりゃあ復旧に相当時間がかかるぞ……」

「贅沢言うな。こんだけの大規模テロで渋谷だけの被害で済んだんだぞ?」

「ジジイの言う通りだ、本来なら23区が壊滅してもおかしくねぇんだぞ」

「それはそうだがな……」

 高専の面々は、更地となった周囲を見て溜め息を吐く。

 しかし、今だに安否不明な存在が一人だけいた。

「悠香……どこ行ったんだよ……」

 そう、虎杖悠仁の弟の悠香だ。

 彼は宿儺達と高専の架け橋であり、宿儺を高専側に居続けさせる為の要。彼の身にもしもの事があれば、呪いの王の暴走を止められなくなる。

「心配するな、悠仁」

「そうよ、あいつに限って簡単に死ぬわけないわ」

「……おう」

 伏黒と釘崎に励まされ、悠香の生存を信じる事にしたが……。

「――役者は揃ったみたいだね」

『!?』

 現れたのは、首謀者にして黒幕である夏油だった。

 しかも、彼が俵担ぎしているのは悠香だ。

「悠香!!」

「あいつは……」

「五条先生を封印したクソ野郎ね」

「やあ、初めまして」

 悠香は意識を失い、ぐったりとしている。

「おい!! 悠香に何しやがった!!」

「そう怒鳴らないでくれ。ちょっとばかり実験に付き合ってもらっただけさ」

 夏油は微笑みながら悠香を放り投げ、余裕綽々と語り出す。

「私は呪霊のいない世界も牧歌的な平和も望んじゃいない。非術師、術師、呪霊…これらは全て可能性なんだ。そして、その可能性を更に拡大解釈させたのがこの子さ」

「悠香が……!?」

「さあ、見せておくれ。無限の可能性を秘めた私の福音よ」

 夏油は朗らかに笑いながら、パンッと手を打ち合わせる。

 すると、悠香の身体から黒い光が放たれ、ゆっくりと起き上がった。

「ゆう――」

 悠仁は弟に声をかけたが、その顔を見て愕然とした。

 悠香の両目尻の下に、今までなかった一対の小さな溝があり……。

 

 ――ドクン

 

 宿儺のように開眼したのだ。

 

「んなっ――」

 誰もが予想だにしなかった展開に、悠仁は一瞬たじろいだ。

 刹那、悠香の拳が鳩尾に深々とめり込んだ。

「ごはっ……!?」

「悠仁!!」

 悠香の拳は、桁外れのパワーで悠仁の身体を軽々と吹っ飛ばした。

 絵に描いたような最悪の事態に、呪術師たちは騒然とした。

「うわああああ!! 悠香が宿儺みたいになっちまったぁぁ!!!」

 パンダは頭を抱えて叫び、一同は身構えて悠香を警戒する。

 だが、その手は微かに震えていた。

 無理もない。あのエラーに次ぐエラーで怪物となった少年が、呪いの王に近い姿で敵となったのだから。

「あんた、悠香に何をしたの!?」

 釘崎は怒りを滲ませて質すと、夏油は平然と「言ったろう? 実験だって」と返した。

「真人の無為転変の試運転も兼ねて改造人間にしてみたんだけど……いやはや、まさかあんな異形じゃなくて宿儺に肉体の主導権を握られた悠仁みたいになるなんてね。我ながら驚きだよ。笑っちゃうよね」

 たはーっと笑い飛ばす夏油は、邪悪な眼差しで悠香に命令した。

「さあ、やっておしまい」

「くそっ!!」

「やるしかねぇか…!!」

 先手必勝とばかりに、真希を筆頭に呪術師たちが悠香を仕留めんと躍りかかる。

 もはや目の前の後輩は、呪霊以上の化け物。そう割り切るしかなかった。

 だが、無為転変で夏油の支配下に置かれた悠香は、想像を遥かに超える存在となっていた。

 

 ――ヴォオオオオオオッ!!

 

『!!?』

 悠香は〝呪力の咆哮〟を轟かせた。

 衝撃波として放たれたそれは、一斉に飛びかかる呪術師たちをまとめて吹っ飛ばしてしまった。

「くっ……!!」

「何て破壊力だ……!!」

 呪術師たちが戦慄する中、悠香は目を細めた。

 その眼光は、かつての面影が全くない程に禍々しく、邪悪に染まっていた。




やっぱり、こういう展開必要だと思いまして、悠香君は暴走してもらうことにしました。
ちなみに暴走状態になった悠香君が放った〝呪力の咆哮〟ですが、元ネタは「ONE PIECE」のトップマン・ウォーキュリー聖の〝覇王色の咆哮〟です。音源は「ゴジラ-1.0」のゴジラの咆哮をイメージしてます。

次回、ようやく渋谷事変が平定。お楽しみに。
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