虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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ようやくあの二人が満を持して登場!
……厳密に言うと三人かな?


第36話:雷神と天使

 呪術界の上層部が迷走状態であることなど露知らず、悠香は木刀を振るい鍛錬にのめり込んでいた。

 それは圧倒的強者である甚爾を相手にただひたすら組手を続けるという単純なもの。彼の基礎体力・集中力・持久力を養う基本的な自主鍛錬である。

 ちなみにこの鍛錬は()()()()()使()()()、甚爾の匙加減に合わせて打ち続けるのがルールである。

「はぁー、はぁーっ、はぁーっ……」

「うし、この辺で終いにするか」

「あ、りがとう、ござい、ました……っ!」

「おう。よく頑張ったな社長。今日はここまでだ」

 甚爾のOKサインが下り、悠香は玉のような汗を浮かべながらその場にへたり込む。

 当初こそ一方的にフルボッコにされていたが、今ではギリギリで食らいつける程に成長していた。もっとも、甚爾の方がフィジカル面は圧倒的に上であるが。

「……し、しんどい……」

「クク……やっぱりフィジカルは兄貴の方がまだ上か」

 へべれけになっている悠香に、甚爾は喉を鳴らして笑う。

 あの禪院家を恐怖のどん底に突き落とした暴君と打ち込み稽古をしているのだから、当然といえば当然だが。

「はぁ……疲れた……」

「ほう、随分と精が出るな」

 するとそこへ宿儺が来訪。

 鍛錬の様子を見て、感心するように言う。

「……何か御用で?」

「なに、少しお前の術式を磨いてやろうとな」

 ニヤリと口端を吊り上げる宿儺に、悠香はきょとんとした。

「えっ、宿儺さんが……?」

「そうだ。光栄に思え」

「……あ、はい……ありがとうございます」

 どこかよそよそしい悠香に、宿儺は「そう固くなるな」と気さくに声をかけるが、あの呪いの王が自分に術式を教えると言い出したのだ。緊張しないわけがない。

 しかし渋谷事変の際に覚醒した〝(カミノ)〟は、紛れもなく宿儺と同じ術式だと裏梅が断言している。それに悠香の場合はあまりの高火力で自分自身の身体も焼いてしまうため、精密な術式操作を会得しなければ使いこなせないどころか、敵も味方も巻き込んで全滅させかねないのだ。

 そういった事情を考えると、この話は受けた方がいいだろう。

「わかりました、ぜひ教えてください」

「無論だ。では場所を変えるぞ」

 

 

 一方、上層部がゴタついているのと羂索の動きが読めないことから各々訓練に励むよう言われた悠仁たちはと言うと。

「悠香君、どこ行ったの? ねぇ、お兄さんなら知ってるはずでしょ? 教えないと心の底から祟るよ?」

「いやいやいや!! 俺たちも探してるんだよ!! だからそんなに殺気立つなって!!」

「ちっ……役立たず」

「ちょっと待って、何で俺が責められるん?」

 悪態を吐きながら、まるでその辺の小石でも見るような目で睨む沙奈。

 自分の弟を一途に想うを通り越して神格視するモンスターに、悠仁はタジタジ。つるんでいた順平や伏黒、釘崎もその剣幕と狂気にドン引きして思わず後ずさる。

「奥村さん、気持ちはわかるけど、とりあえず落ち着こう……」

「そうよ。どうせブラブラほっつき歩いてるでしょ」

「それか親父に稽古つけてもらってるんだろ。校庭でよく訓練してるのを見かけるしな」

 ひとまず甚爾を探して質せばいいと判断し、校庭へ向かう。

 すると、五人は信じられない光景を目の当たりにした。

「あつっ……!!」

「それでは仕留め損ねた相手に隙を与えるだけだぞ。もっと出力を抑えろ」

「は、はい……!!」

 何と宿儺が悠香に術式の指導をしているのだ。

 悠香は焼けた身体を再生させつつ必死に呪力を制御しようと試みており、その近くで甚爾が煙草を吹かして見守る。

 五条よりも先生らしい仕事をする呪いの王に、一同は啞然としていた。

「な……何よあれ……」

「……わからねぇ、けど……」

「とうとう師弟関係に……」

 まさかの展開に硬直していると、宿儺と悠香は五人に気づくことなく会話を続けた。

「一度に込める呪力量が多すぎる。今まで呪力でゴリ押しする戦い方をし続けてた弊害だな」

「わ、わかりました。もう少し抑えてみます……〝(カミノ)〟〝(フーガ)〟」

 悠香は再び唱えて炎を顕現。

 着火時は呪力量が多すぎるからか激しく燃え上がり、悠香の腕や顔を焼いてしまうが、その痛みを堪えながら呪力を絞っていく。

 すると炎は少しずつ小さくなり、ついにはバスケットボール程度の大きさに落ち着いた。

「ど、どうですか……?」

「まぁよかろう。……裏梅」

「はっ!」

 宿儺が合図すると、どこからともなく裏梅が現れ、術式で氷塊を召喚する。

 その炎であの氷を消してみろ――そういうことだろう。

「フーッ……」

 深く深呼吸しながら炎を弓矢の形状にさせ、氷塊へと狙いを定める。

 肩の力を抜きつつ、それでいて神経を研ぎ澄ませる。

 そして放たれた炎は矢の如く一直線に飛んでいき、氷のど真ん中に着弾すると爆発。氷塊は蒸発して跡形もなくなり、地面を抉った。

『……』

 破格の威力に悠仁たちはおろか、見守っていた甚爾も絶句。

 その轟音を耳にしたのか、大勢の高専関係者が駆けつける。

「え、ちょ、ええ!?」

「何じゃこりゃあ!?」

「何したんだよお前ら!?」

 あまりの惨状に阿鼻叫喚の一同。

 そんな呪術師たちのことなど意に介さず、宿儺は悠香に声をかける。

「今はまだ粗削りだが、筋はいい。呪力制御を行えば術式もより洗練されるだろう。努々怠るな、五条悟に一泡吹かせるためにもな」

「……恐縮です……」

「ケヒッ……こうして見ると、お前も年相応だな」

 照れ臭そうに頬を掻く悠香に、宿儺はクツクツと笑いを漏らす。

 そのやり取りに、一同は目を点にした。

 あの呪いの王が悠香を弟子に取って、しかも褒めている。天変地異の前触れかと思うくらいには異様な光景であった。

(いや、宿儺さんが俺に構うのはいいんだよ。問題なのは……)

 悠香は恐る恐る振り向く。

 視線の先には、焼き焦がさんばかりの嫉妬の眼差しを向けてくる沙奈の姿が。

 ――何だかとてつもなく怖い!

「……」

「ひっ」

 無言でスタスタと歩み寄ってくる沙奈に、悠香は思わず宿儺の背後に隠れた。

「ケヒッ……この俺に嫉妬するか? 小娘」

「両面宿儺っ……!!」

 嘲る宿儺に、沙奈はドス黒い感情を剥き出しにして睨む。

 悠香を神格視する彼女にとって、自分にとっての神を掠め取った存在は全て敵だ。実兄の悠仁と恩師の日置は百歩譲っているが、それ以外は相手が誰だろうと関係ない。

 神を唆す悪魔は、等しく滅するべき存在なのだ。

「私の神様を汚すな、死にぞこない」

「貴様!!」

 ドスの利いた声色で放つ暴言に、裏梅が反応して殺気立つ。

 まさに一触即発。

 そんな空気の中、悠香はというと……。

(今の内に……)

 宿儺のもとを離れ、その場からの退散を図っていた。

 が、その逃亡は一瞬で沙奈に阻止されてしまう。

「悠香君♪」

「ぐげっ!?」

 後ろから服を掴まれ、首が絞まってカエルのような断末魔を上げる悠香。

 一方、沙奈は殺気立った雰囲気から一転し、ニッコニコの笑顔で悠香の顔を覗き込んでいる。当然その目は笑っておらず、それどころか瞳孔が完全に開き切っている。

「あんな奴に構わないで」

「……誰かが貧乏くじを引かなきゃいけないんだ。むしろこれは適材適所だよ、人外には化け物をぶつけるのが相場だ」

「悠香君がやることじゃないし、悠香君は化け物じゃない!!」

「――この身体を見れば、大体の人間は化け物扱いさ。多様性の尊重だと謳っても、そう簡単には変わらない」

 吐き捨てるように言う悠香に、沙奈は押し黙る。

 確かに今の悠香の外見は、人でありながら人ならざる者と言える。

 本来の双眸の下に増えた、新たな二つの眼。そして普通なら身体が自壊してもおかしくない程に膨れ上がった呪力量。身も心も魂も凌辱された少年が辿り着いた末路に、目を背けたくなる。

 だが、それでも……。

「……沙奈は、悠香君の味方だから。悠香君を否定する奴がいたら、私は許さない」

「そっか」

 沙奈なりの励ましに、悠香は少しだけ笑みを浮かべた。

 その時だった。

 

 ビー!! ビー!!

 

『!?』

 突如として鳴り響く警報のアラートに、全員がハッとなる。

 呪術高専内には、未登録の呪力が侵入すると警報が鳴るシステムがある。それは前の交流会でも発動しており、その際には特級呪霊や呪詛師が侵入し、戦闘となった。

 この警報が鳴っているということは……。

「侵入者!?」

「……このタイミングってなると……」

 ついに羂索が動き出したかと、一同は身構えた。

 その考えが当たっていれば、恐らく侵入者は……。

「おーおー、随分と賑やかじゃねぇか」

 軽い調子の声が、一同の耳朶を叩く。

 現れたのは、棒状の呪具を携えた、電気回路のコイルのような特徴的な髪型をした青年。

 バチバチと電気を纏う彼は、宿儺の姿を視認すると軽く目を見開き、獰猛な笑みを深める。

「あんたが両面宿儺か?」

「……何だ貴様は」

「俺は鹿紫雲一(かしもはじめ)だ。あんたと戦うために来た」

 鹿紫雲と名乗る青年に、宿儺は強者の気配を感じ取ったのか、不敵に笑った。

「俺に挑むか、呪術師。……いや、この場合は受肉体か」

「最強の呪術師だって羂索から聞いてたからな。――戦おうぜ」

 闘争心を剥き出しに鹿紫雲は棒を突きつける。

「……羂索の刺客、ってわけじゃなさそうだな」

「どの道あの呪力、特級クラスだぞ! 油断するなよ!」

「ったく、もう!!」

 悠仁たちも一斉に呪力を放ち、鹿紫雲を睨む。

 しかしそれは彼の戦闘欲を刺激させるばかりで、「まずは前菜から行くか」と狙いを宿儺から変えた。

 すると、また別の声が()()()響き渡った。

「やめて!! 私の()()()()を巻き込まないで!!」

『!?』

 続いて現れたのは、頭の上には輪っかがあり、背中には羽を生やした少女。

 年齢的には悠香たちと同じくらいだろうか。

「おい女、宿儺との勝負でもし俺が負けたらお前の出番って約束だろ」

「そのために周囲を巻き込むのも厭わないというなら話は別だ、鹿紫雲一」

 一気に機嫌が悪くなった鹿紫雲に、少女の頬に浮き出たもう一つの口が強い口調で諫めた。

 その声を聞き、宿儺だけでなく裏梅も顔を歪ませた。

「「〝天使〟……!!」」

「……もしかして、お知り合いで?」

「忌々しい塵だ」

 悠香に問われ、宿儺は吐き捨てるように答える。どうやら会いたくなかった人物らしい。

 すると、天使は悠香に気づくと、舞い降りてから顔を覗き込んだ。

「……何ですか」

「……君は、何なんだ? 堕天ではないが、堕天である……」

「ちょっと何言ってるかわからないんですが」

 急に変なことを言われて戸惑う悠香。

 その背後では目を血走らせた沙奈がガンを飛ばしている。

「……もしかして、運命の人って悠香君のこと? 沙奈の神様に手出ししたら――」

「沙奈ちゃん、色々ややこしくなるからタンマ」

 殺気立つ沙奈を、悠仁が宥める。

 この光景を鹿紫雲が面白そうに見ていたことなど露知らず、沙奈は未だに威嚇している。

 傍から見れば修羅場同然の光景だが、悠香は苦笑しながら天使を見やった。

「それで、あそこのエボルタはともかく、あなたの狙いは? 利害の一致だけではなさそうですけど」

「私は(くる)()(はな)…運命の人を助けに来たの。――私の恵を」

 まさかの名前に、鹿紫雲を除いたこの場にいる全員の視線が伏黒に集まる。

 当の本人は、思いっきり顔を背けている。ということは……。

「え? ウソでしょ?」

「まさかあんた、彼女いたの!?」

「伏黒って悠香と同じくらい隠し事多いんか!?」

「お前、俺が死んでる間に何があった」

 先輩や教員、同級生から父親まで。

 あらゆる方向から詰められ、伏黒は黙秘を続ける。

 

 呪術高専は、二人――厳密に言えば三人――の侵入者と共に巨大な嵐に巻き込まれようとしていた。




そろそろ鋼鉄の魔城を召喚させようと思います。
ちなみに死滅回遊は話が進む度にズレていき、最終的には……という流れです。
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