虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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タイトル通りですが、ソフト系呪術廻戦の本作は強制的にギャグパートにさせていただきます。
ケヒッ。


第37話:現代最強復活

 呪術高専東京校の猛者が集う高専寮、通称「伏魔殿」の一階共同スペース。

 突如として現れた新客の対応に、悠香は追われていた。

「……というわけなので、どうか恵との婚約の許可を頂けないでしょうか」

「何で俺?」

 頭を下げる来栖に、悠香はジト目で問い返した。

「いや、津美紀さんと甚爾さんはわかるよ? 伏黒君の家族だし。でも俺は関係なくない?」

「恵のお父さんの上司と聞いたので」

「あれは色々事情があるんで、俺が雇用主なだけであって……」

「運命の人とお付き合いする以上、私も筋を通したいんです」

 来栖の曇りなき眼に、悠香は複雑な気持ちになる。

 現状、父親と義姉からはOKをもらっている。最後の砦がなぜか自分になっているが、正直なところ伏黒がどうなろうが知ったこっちゃない。

 なので……。

「……未成年の内は健全なお付き合いしましょうね」

「悠香、お前そんな考えてないだろ!?」

「だって関係ないじゃん俺。沙奈ちゃんと万さんで腹一杯だよ」

 もう少し向き合ってもいいだろうと語る悠仁に、悠香は面倒臭そうに答えた。

 同級生の切実な訴えに、一同は色々と察して沈黙する。

 しかし、そんな悠香に交渉を持ち掛ける者は彼女だけではなかった。

「私からも頼みたいことがある」

「天使!!」

「……保護者の方は日置先生か凪さんが対応すべきなんだけどなぁ」

 まーた面倒なのが…とボヤく悠香。

 来栖に受肉している天使は、およそ千年前の呪術師――いわゆる宿儺世代の人物だ。受肉した器である来栖と共生しており、()()()()()()()によって復活した者たちを個人的信条の都合で敵視している。この件に関しては厳密に言うと「受肉した際に器の自我を殺し沈めている者」であり、受肉した全ての者ではないが、いずれにしろ共生関係ではない受肉体の一掃を狙っている。

 中でも天使が敵視しているのは……。

「堕天を殺す許可を――」

「下すわけないでしょ。何で人殺しに加担しなきゃならんのですか」

 悠香はその申し出を一蹴した。

 天使の言う堕天は、はっきり言うと宿儺である。再開時の彼の忌々しそうな表情から、千年前に何かあったのだろうと薄々感じてはいたが、まさかここまでの執着だったとは。

 万も然り、裏梅も然り、千年前の術師は色々と個性が強すぎる。

「言っておくが、これは君の為でもあるぞ悠香」

「俺の為?」

 怪訝そうに聞き返す悠香に、天使は語り出す。

「君は堕天と……宿儺とわかり合えるつもりのようだが、奴はどこまで行っても〝呪い〟だ」

 天使の言葉に、誰もが耳をそばだてている。

 ある者は息を呑み、ある者は不機嫌そうに、ある者は心配そうに。

 場が緊張する中、天使は悠香に語り続ける。

「共生はできない。奴は価値が無くなるまで使い潰す。……君は堕天の為に命を削る必要はないんだぞ」

「そもそも生物としての格が違うんだ、まずまずの好待遇だと思いますが」

「……君は、本当にそれが正しい道だと思っているのか?」

 天使は悠香に問いかける。

 しかしそれに一切の悪意はない。ひとえに悠香の身を案じての言葉だ。

「堕天は私が葬る。堕天ではなく呪術師に心を許すべきだ」

「こんな身体になったのは、本来味方であるべき呪術師のせいなんだよ」

 悠香は苛立つように吐き捨て、感情的になって禍々しい呪力を放つ。

 その言葉に天使は唖然とし、来栖もまさかと思って伏黒を見た。

 伏黒は来栖から顔を背けた。いや、伏黒だけではない。呪術師の多くは気まずそうに視線を逸らし、宿儺に至っては「阿呆が」と呆れた表情で目を細めている。

 良かれと思って告げた言葉が、悠香にとっての失言だと理解した天使は、申し訳なさそうに口を開いた。

「…………すまない、配慮が欠けていた」

「もういいですよ。この身体は治せないから、死ぬまで付き合うしかない」

 人間としての双眸の下にできた、もう一つの双眸を指でなぞる悠香。

 その声色は冷静だが、表情はどこか諦念にも似た感情が見え隠れしている。

 これには来栖も居た堪れなくなったのか、思わず「ごめんなさい」と頭を下げた。

「……この話は俺が縛りで預かってるんです。詮索は無しで――」

「お、全員揃ってたか。来栖華はいるか?」

 そこへスーツを着こなした教員が現れる。

 悠香が唯一心を許す大人・日置だ。

 非術師である彼は現在、紆余曲折を経て本来の担任である五条に代わって1学年の担任をしている。

「私ですが……?」

「ああ。今日からお前は俺が担当する学年の生徒だ」

「えっ!?」

「学長からの指示でな。……まぁ、お前にとっては良い機会だろう」

 日置の言葉に、来栖はただただ驚くしかない。

 しかし、ここで頷けば伏黒と同じクラスで学校生活を暮らすことができる。

 判断は早かった。

「お願いします!! 席は恵の隣で!!」

「先生、不純異性交遊目論んでます」

「大丈夫だ。授業に集中できるよう、席は伏黒君から一番離れた場所だ」

 日置の宣告に来栖はガーン!! とショックを受ける。

 仲睦まじく生活するのは結構だが、未成年の内は風紀を乱す行為は禁止――それが日置の生徒指導である。事実、あの沙奈ですらストーカー行為こそしているが、学校内でも狂気の一面を覗かせるが過度なスキンシップはしていない。

「先生……」

「ダメだ、学生の本分は恋愛ではなく勉強だ」

「うぅ…」

 日置の釘差しに、来栖はがっくりと肩を落としたのだった……。

 

 

           *

 

 

 翌日。

 悠香は寮内の全員を緊急招集し、ある話を切り出した。

「仕方ないので五条さんを復活させようと思います」

『ようやくかよ!!!』

 嫌々告げる悠香に、全員が叫ぶ。

 しかし、獄門疆の封印を解くのは重罪だと総監部から通達されている以上、表立ったことはできない。さすがに東京校の全員を死刑対象とすれば保守派からも荒れている情勢から反感を買うので、そこまでには至らないだろうが、かなりのリスクは伴う。

 それについて悠仁は「どうやって封印解くん?」と尋ねると、悠香は不敵に笑いながら来栖に目を向けた。

「来栖さんの術式、あらゆる術式を消滅させる能力なんだって。しかも呪物にも有効」

『!!』

 全員が一斉に来栖を見る。

 来栖の術式なら、あの獄門疆の封印を解除できる。それは「かもしれない」という憶測ではなく、紛うことなき事実なのだ。

 五条の封印を解けば、羂索に対する十分すぎる対抗戦力となる。宿儺が羂索討伐に乗り気でない今、最後の希望と言える。

「そして上層部に用意した建前は、「五条さんが自力で解いたらしい」の一点張りです」

「全部五条先生に擦り付けてるじゃねぇか」

「五条さんならワンチャンやれそうじゃん、何となく」

(それは確かに……)

 悠香の何気ない一言に、思わず笑いが溢れる一同。

 何せ常日頃「僕最強だから」と言っているバカであり、それを周囲に無理強いしているほど。何の根拠もないが、やってのけそうだと思えてしまう。

「そういう訳なんで、天使さん。早速やりましょう」

「ああ。ただ一つ留意点がある。五条悟の精神状態だ」

 天使曰く。

 獄門疆の中では物理的時間は流れてないらしく、自死を選ばない限りは時間の経過が原因による餓死老衰はないという。ただし物理的な時間が流れていないので、一瞬のように感じるか100年以上待ちぼうけを喰らっている状態かもわからない。

 もしも五条が錯乱しているようなことがあれば……。

「それについては、俺に考えがあるよ」

「本当か?」

「もちのろん。五条さん相手に相応しい、とびっきりのね」

 

 

 所変わって、埼玉県。

 呪術高専第四修練場がある()()()鉱山で、五条復活の準備を整える。

 そして、肝心の悠香が考案した五条錯乱対策というのは……。

「持ってきたぞ社長」

「ったく、私を使ったからには対価出しなさいよ」

「甚爾さん、万さん。ありがとうございます。あとで渡しますね」

 軽トラに乗って駆け付けた甚爾と万は、荷台から次々と赤い器具を降ろしていく。

 それは、誰もが一度は目にしたことのある代物だ。

「しょ、消火器……?」

 まさかの消火器に、来栖は目が点になる。

 消火器と言えば、言わずと知れた消火設備だが……。

「五条さんが出てきたらこれを全部吹きかける」

「精神状態の有無は!?」

「いつも錯乱してるようなもんでしょ、兄さん」

 淡々と言い放つ悠香に、悠仁たちは絶句した。

 錯乱していようがいまいが、出てきた瞬間に消火器を噴射する。それが悠香の考案した五条の錯乱対策なのである。

 ……どっちかと言うと嫌がらせの類に聞こえるが。

「俺一人じゃアレだから、シノと沙奈ちゃん手伝って」

「え~……」

「シノ君、つべこべ言わない」

 ヘルメットをかぶり、日置の教え子三人組は消火器を手に取る。

 すると、準備が整ったのか来栖が翼を広げて上空へ舞い上がった。

「じゃあ、お願いしまーす」

 気だるげに悠香が準備が終わったことを伝える。

 直後、時が凍りついたような緊張感が生まれ漂う。

 誰もがドキドキとその口を閉ざして待ち続け、そして……。

「〝光よ 全てを浄化し給う光よ 罪・咎・憂いを消し去り 彼の者を導きたまえ〟」

 

 ――〝()()()梯子(はしご)〟!!

 

 突如、光の柱が立ち上り、天高くまで伸びた。

 あまりの眩さに誰もが目を伏せるが、光が消えたのを見計らって再び視線を戻すと、土煙の中から人影が見える。

 それは獄門疆から解放され、封印された時と変わらない、あの現代最強の……!

「みん――」

「消火っ!!」

 

 ブシュウゥゥゥゥ!!

 

「なああぁーーーー!?」

 軽率な声が聞こえたかと思えば、悠香と沙奈と秋篠が何の躊躇いもなく消火器の栓を抜いて放射。

 視界が煙で白一色に染まり、その煙の中から間抜けな悲鳴が木霊する。

 それを見ていた悠仁たちは顔を引き攣らせ、宿儺と裏梅、甚爾と万はゲラゲラと大爆笑。万が一怪我人が出た場合に備えて付いてきた家入も必死に笑いを堪えている。

 やがて煙が晴れると……そこには、消火剤まみれになった五条の姿が。

「うえっ、げほっげほっ……!! ちょっとゆう――」

「社長、余ってるから使うぞ」

 

 ブシュウゥゥゥゥ!!

 

「があぁぁーーーーー!?」

 何と甚爾が電撃参戦。

 消火器をさらに放射し、ただでさえ視界も頭も真っ白になった五条に更なる追撃を加えた。

「げほ、ごほごほっ!! ちょっといい加減に――」

「天丼はお笑いの基本だよね」

「沙奈もそう思う」

 

 ブシュウゥゥゥゥ!!

 

「しろおぉぉーーー!?」

 悠香と沙奈が悪ノリして甚爾を援護射撃。

 現代最強が消火器に苦しめられる様子に、とうとう悠仁たちも吹き出した。

 そして用意した消火器を全て放射し終え、悠香が五条に声をかける。

「久しぶりのシャバの空気は美味いですか、五条さん」

「ゆーうーがくーん…!? ちょっと説明してくれないかなぁ……!?」

「五条さんはサプライズが好きとおっしゃってたので」

「やる方が好きなの僕は!!」

 青筋を浮かべて五条は悠香に詰め寄る。

 しかし消火剤まみれのせいで全身が真っ白であり、傍から見てると笑いが込み上げてくる。

『……あははははは!!』

「ちょっとみんな、酷くない!?」

 こうして、全身が雪男より真っ白になった五条悟は帰還した。

 後に彼は復活までの間に起きた出来事を知り、頭がショートしそうになるのだが、この時はまだ知る由も無い。




ちなみにこの場には夜蛾学長やカッシーもいますが、反応はご想像にお任せします。
次回、ついにあの鋼鉄の魔城が誕生。死滅回遊がただのSA〇UKEに……!?
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