虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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悠香君の武器の木刀は、地元の剣道具店で購入した代物です。
要はただの木刀です。


第3話:あの娘お上り、鉄骨娘

 東京都原宿。

 流行りの最先端が生まれる若者の街で、悠香達は待ち合わせしていた。

「悠香、何でお前だけ制服違うん?」

「俺はブレザー派だから。昨日の夕飯前に申請した」

「ホント、悠香って昔から早いよな~」

「やらないで後悔するよりやって後悔した方が被害が少ないから」

 竹刀袋を背負ってクレープを頬張る悠香は、周囲に目を配る。

 今朝方、二人の元に高専の制服が支給された。悠仁は赤いパーカーの上に呪術高専の制服を着ており、悠香は灰色のパーカーの上に高専の制服と同じ素材のブレザーを着ている。

 ちなみに悠仁の制服は五条が勝手にカスタムしている。

「兄さんの制服はあの不審者モヤシの仕業だろうけど、変えたいなら申請すれば? 手順教えたげるから」

「いや、これでいいよ。ありがとな悠香。……それにしても、1年がたった四人って少なすぎねぇ?」

「それだけマイノリティなんでしょ、呪術師ってのは。……で、俺達兄弟抜きですでに二人決まってたようだけど、実際は?」

 悠香は伏黒に話を振ると、彼は無言で頷いた。やはり、入学はずいぶん前に決まってたらしい。

 すると、五条が暢気に手を振りながら現れた。

「お~、制服間に合ったんだね」

「おう、ぴったし!」

「先生、教職やる気あります?」

「何でいきなり言葉の刃を振るうかな? 遅刻したから? 遅刻したからかな!?」

 慈悲など無用と言わんばかりの悠香の鋭い言葉に、五条はちょっぴり泣きそうになった。

「それより、何で原宿集合なんですか?」

「本人がここがいいって」

「その本人って、彼女のことで?」

 悠香は徐に指を差した。

 その先には、黒い制服を着た少女がスーツを着た男性と対面し、自分をスカウトしないのかと話しかけていた。

 デザインが高専のそれと一致しているので、彼女が四人目なのだろう。

「俺達今からあれに話しかけんの? ちょっと恥ずかしいな~」

「その言葉、ブーメランで返ってくるよ兄さん」

 ハイカラな眼鏡をかけてポップコーンを手にする兄に、悠香はジト目でツッコミを炸裂させたのだった。

 

 

 ようやく一年が全員そろい、改めて顔合わせをする。

(くぎ)(さき)()()()。喜べ男子。紅一点よ」

 腰に手を当てて自信満々に言い放つ少女。

 中々の男前だなと思いつつ、悠香は兄達と自己紹介する。

「俺、虎杖悠仁。仙台から」

「伏黒恵」

「虎杖悠仁の弟の虎杖悠香って言います。これからよろしくお願いします」

「……はぁー……私ってつくづく環境に恵まれないよね」

 人の顔を見て溜め息を吐いた釘崎に「人の顔を見て溜め息吐かんでくださいや」と言いたかったが、それはあえて飲み込んだ。

 言ったら言ったで面倒臭くなると察したからだ。

(うーん……兄さんと伏黒君もウザそうに見てるな。ここは不審者モヤシを生贄に彼女を担いだ方がいいか)

 勝気な女子と揉めるのはよくないと判断し、悠香は五条に目を向けて口を開いた。

「でもBLTの五条先生も少し見直したよ。どの学年にも華は必要ですから」

「あら、そこの二人と違ってわかってんじゃないの」

 自分のことを華と呼ばれたのが嬉しいのか、釘崎の機嫌が少し良くなった。

 五条は五条で、警戒心と不信感が強めの悠香に褒められたのが嬉しいのか、満面の笑みでサムズアップした。

「そりゃあ僕はグッドルッキングガイだからね!! ちなみにBLTって?」

「バッドルッキングティーチャー」

「「「ブフォッ!」」」

 悠香の言葉に三人は吹き出した。

 普通の声色で言う分、余計に笑いを誘う。

「お、おい、五条先生に失礼すぎるだろ……!!」

「ちょ、あんた最高……!!」

「っ……!!」

 口元を押さえて必死に笑いを堪える三人に、五条は青筋を浮かべながらニッコリ笑顔で悠香に顔を向けた。

「ゆーうーがくーん?」

「文句あんなら日頃の行いを改めてくださいな。……それで、これからどこへ行くつもりで?」

 ごく自然な流れで話しを切り替える悠香。

 口八丁だなと思いつつ

「フフフッ……せっかく一年が四人揃ったんだ。しかもその内三人はお上りさんときてる。行くでしょ、東京観光」

「「東京観光!!」」

 一瞬でテンションが上がり、目を輝かせる悠仁と釘崎。

「TDL! TDL行きたい!」

「バーカ! TDLは千葉だろ! 中華街にしようぜ先生」

 行き先で揉め始める二人。

 その様子を悠香は冷めた目で見つめた。

「中華街だって横浜だろ!!」

「横浜は東京だろ!」

「ついに東京と神奈川の区別もつかなくなったか……」

「やめて悠香、そんな目でお兄ちゃんを見ないで!!」

 まるで別の生き物を見るような目で見つめてくる悠香に、悠仁は悲鳴に近い声を上げた。

 

 

           *

 

 

 五条が一行を案内したのは、都内でも指折りの一等地・六本木……ではなく、ボロい廃ビルの前だった。

「嘘つきーー!!」

「地方民を弄びやがって!!」

「六本木ヒルズこそ負のパワースポットで有名なのに、何でこんなトコ選んだのか理解に苦しむ」

「何で悠香だけダメ出し?」

 三者三様の反応――その内一人はダメ出し――を耳にしつつ、状況を説明する。

 曰く、この廃ビルの近くに霊園があり、それを起因として呪いが誕生したとのことだ。

「成程、顔合わせだけじゃなくテストのためか。お上りの三人がどこまで出来るのか知りたいから、釘崎さんと兄さんと俺で建物内の呪いを祓ってこいと」

「やっぱり弟君は勘も頭も冴えてるようだね。その通り!」

「……いくら宿儺さんの器とはいえ、兄さんは俺と違って場数を重ねてないんだけど?」

「は? 器?」

 眉をひそめる釘崎に、伏黒が悠仁の事情を説明する。

 するとドン引きした顔で「キッショ! あり得ない! 衛生観念どうなってんの!?」と後退った。

「さてと悠仁……君はもう半分呪いみたいなもんだから、身体には呪力が流れてる。でもま、呪力のコントロールは一朝一夕じゃいかないからこれを使いな」

 五条は悠仁に一振りの短刀を渡した。

「おお~」

「呪具〝()()()〟……呪力のこもった武器さ。これなら呪いにも効く」

「じゃあ、俺は愛刀で行きますんで」

 短刀を手にした兄に対し、悠香は竹刀袋から木刀を取り出した。

 何の変哲もない、本当に文字通りのただの木刀だ。

「そんなんで倒せっこないでしょ!?」

「これで化け物をボコってきたんだからいいでしょうに」

「一応、君の為の呪具もあるんだよ。こっちの方が扱いやすいんじゃない?」

「ハァ……」

 五条は背負っていた竹刀袋から日本刀の形状の呪具を取り出す。

 それを悠香に渡そうとした、次の瞬間だった。

 

 バチィッ!

 

「っ!」

 刀の柄に触れた途端、静電気を大音量にしたような音が鳴り、弾き飛ばされた。

 悠香はどこも傷を負ってないが、突然の事態に伏黒や釘崎、五条は驚きを隠せない。

「呪具が弾かれてんじゃないの!!」

「壊れたんですか!?」

「いや……違う。触れられないという方が近い」

 五条は刀の呪具を鞘から抜き、折れるどころか刃こぼれすらしていないのを確認した。

 呪力量に耐えきれなかった、という訳ではない。呪具が無傷であるのがその証拠だ。

「何で呪具持てないん?」

「兄さん、勾玉事件憶えてる? あれと同じだよ多分」

「ああ、あのじいちゃんがひっくり返ったヤツ!」

「悠仁、その事件詳しく教えてくれないかな?」

 五条は虎杖兄弟の身に起きた騒動について尋ねた。

 勾玉事件とは、通りすがりの占い師から魔除けの勾玉という代物を受け取り、二人分貰ったので悠香にも渡したところ、突然吹き飛んで祖父の顔面に直撃したというちょっとした騒動。祖父には「知らない人間から物を貰うな」と仲良く大目玉を食らったのは言うまでもない。

 なお、件の勾玉は燃えるごみと一緒に捨てられた。

「……今思うと、あの人ヤバかったんかね」

「そうなん!? めっちゃいい人だったのに」

「それは兄さんが人を疑わないだけ。そんな胡散臭いのをよく信じたもんだよ」

 兄に平然とした顔で辛辣な言葉を浴びせる弟に、釘崎は「確かにあんたの言う通りだわ」と賛同した。

 一方の五条は、悠仁の話からある一つの可能性を導き出した。

(……これは天与呪縛かもね……だけどフィジカルギフテッドじゃなさそうだ)

 天与呪縛。

 呪術師としてこの世に生まれた者達の中で、生まれながらにして強大な力を得る代わりに何かを強制的に犠牲にする〝縛り〟――自分または他者との間に締結し、何かを制限する代わりに何かを得る誓約――を持って生まれてくる者達のことで、強大な呪力を得る代わりに何かを持たずに生まれるというパターンが多い。

 悠香の場合、自分達が接触する以前から呪霊をサンドバッグ代わりにシバき回ってたというので、呪力があるのは確定。そうすると、強大な呪力と引き換えに呪具を使用できない……という線が濃厚になってくる。

 だが、もし天与呪縛だとすると疑問が出てくる。天与呪縛は呪術的なものであるため、非術師の間で生まれる人間には架せられないはずなのだ。

(もしかして、父か母のどちらかが呪術師だったりする?)

 未登録の呪術師は、少なからずいる。

 どちらかの親が呪力や生得術式――呪力を流して発動する特殊能力――を持ってれば、双子で片方は呪力がなくもう片方が呪力を持つというケースもある。

 虎杖家は一度、洗いざらい調べる必要があるのかもしれない。

「ま、何とかなるでしょ!!」

「自分の名前に「小五」が入ってるあたり、さすがのテキトーさですな。今時の小学五年生の方が立派だけど」

「悠香は言葉の暴力がスゴいね……」

 相変わらず塩対応される五条であった。

 

 

 五条に言われ、廃ビルの呪いを祓いに虎杖兄弟と釘崎は潜入する。

 廊下のド真ん中を歩く悠香に、悠仁は心配そうに声を掛けた。

「ゆ、悠香……大丈夫かよ?」

「都会の呪霊は狡賢いから、兄さんみたいにアホっぽくド真ん中を堂々と歩くのがいい。あからさまな理知は不要に警戒させ、面倒な手を使ってくる」

「また俺のことディスってる……」

「兄弟愛と家族愛ゆえにだから安心して」

 悠香は階段近くまで歩くと、悠仁と釘崎に三手で別れることを提案した。

 ここで一人ずつ分かれて行動し、呪霊をさらに誘き出しやすくするのだ。

「釘崎さんは上からワンフロアずつ、兄さんは下から。俺はとりあえず来た道を戻ってうろついてみる」

「おう!」

「そうね、さっさと終わらせてザギンでシースーよ」

 来た道を欠伸をしながら戻る悠香と、せっせと階段を昇る釘崎を見送り、悠仁は屠坐魔を構える。

 次の瞬間、真上から大きな爪のようなモノが襲い掛かったが、難なく躱して斬り落とす。

(出た、呪い!)

 悠仁は高い身体能力を発揮し、攻撃を躱しつつ足を斬り落として機動力を奪い、身動きが取れなくなったところで頭上から跳び上がり脳天を貫いた。

 呪霊は苦悶の表情で醜い声を上げながら沈黙した。

「うし! 結構動けんね、俺」

 呪術師としての初陣は、圧勝で幕を閉じた。

 すると右手の甲に宿儺の口が現れた。

「おい小僧」

「! 宿儺」

「早く虎杖悠香を追え。奴がつまらない奴か否かを見てみたい」

 宿儺の要求に、悠仁はわかってると返した。

 悠香が呪霊をどう祓うのか、確かに興味がある。

「……そんで、何で悠香に興味津々なん?」

「ケヒッ……あのとぼけた小僧は〝珍獣〟だからだ」

「?」

 宿儺の言い回しに首を傾げている頃、釘崎は窮地に陥っていた。

 先程マネキンに扮した呪いを容易に祓ったが、今度は全身が毛むくじゃらの一頭身呪霊に遊びに入ってたであろう小学生低学年程度の男児を人質に取られてしまったのだ。自らの弱さを自覚してるがゆえに、命の重さをかけた残酷な天秤を突き付けたのだ。

(落ち着け私……私が死んだらその後子供も死ぬ……子供が死んでも私は死なない……合理的に考えて。私だけでも助かった方がいいでしょ)

 釘崎はそう思いながらも、得物である手に持っていた釘と金槌を床に置いて丸腰となった。

 が、呪霊は依然子供を手放さない。それどころか醜悪な笑みを浮かべている。

(私のバカ! ほら! 逃がしてくんねぇじゃん)

 完全な失策。

 釘崎は心底後悔したが、そんな時に彼は現れた。

「何してんの?」

『!』 

 悠香が一通り建物を調べ尽くし、援護に来たのだ。

 呪霊は新手を視界に捉えると、釘崎と同じ命の天秤を突きつけた。お前も武器を捨てろ、と。

「人質ね……悪くない作戦だけど、俺には通じないよ」

 

 ドゴォ!!

 

 状況を把握した瞬間、悠香は何の躊躇いもなく木刀を投擲。

 濃密な呪力を帯びたそれは、呪霊の左手と胴体を的確に貫いた。

 まさか人質もお構いなしに武器を投げつけるとは思わなかったのか、呪霊はモロに食らってしまい、衝撃のあまり子供を手放してしまった。

「俺の呪力で強度と威力を爆上げしてる。まあ手放しちゃうと時間経過で込めた呪力が漏れて放出しちゃうけど……三下ぐらいにはよく効く。それと俺はお人好しじゃねぇ」

 苦しそうに喚く呪霊に近づくと、竹刀袋から取り出した二振り目の木刀に呪力を流し込み、思いっきり呪霊の脳天を叩きつけた。

 呪力を込めた両手持ちの一振りは強烈で、轟音と共に床が大きくひび割れる程の衝撃を与えた。

 想像以上に粗い祓い方をする悠香に、釘崎は「やり過ぎだって!」と男児を庇いながら叫ぶと、慌てて駆け付けた悠仁があんぐりと口を開けて立ち尽くしていた。

「間に合わなかった……」

「あらま」

 兄の一言で全てを察し、困ったように眉を下げるのだった。

 その後、無事呪いを祓い終えた一行は回転寿司を堪能するのだが、その道中で悠仁は「お前のせいで奴の戦いを見れなかった」と宿儺に怒られたとか。

 

 

           *

 

 

 その日の夜。

 入浴を終えてパジャマに着替えた悠仁は、険しい顔でアルバムとにらめっこする悠香を見かけた。

「悠香、どしたん?」

「兄さん……今とんでもないのに気づいちゃったんだよ」

 中を見るよう促され、悠仁はアルバムを流し見る。

 どれもこれも、兄弟の仲睦まじい写真や祖父・()(すけ)と三人で写った懐かしい写真だ。

「これのどこが変なん?」

「両親の写真が一枚もないんだよ」

 よくあるアルバムだろうと言いたかったが、その指摘に悠仁はハッとなり、慌ててよく見返した。

 確かに、アルバムには三人しか映ってない。父親と母親らしき人物が写っている写真は、一枚もない。

「おかしいと思わない? いくら早逝したとはいえ、家族全員写ってるのがなくとも夫婦で写る写真やどっちかが必ず写った写真は一枚くらい残るのに、一枚も残ってないんだよ。妊娠中の期間とか、結婚式とかも何もかも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 悠香の疑念は、回転寿司を堪能した帰り道に五条から聞かされた仮説から始まった。

 五条は悠香に天与呪縛の可能性を示唆し、ゆえに両親のどちらかが呪術師あるいは呪力を持っていたと推測しており、両親について知ってることを教えてほしいと言われた。残念ながら両親は自分達を産んでからしばらくして早逝しており、顔もロクに覚えてないので「ガキの時点で死んでるから知らない」と返したが、アルバムを故郷から持参したのを思い出し、念には念をと確認することにした。

 そして段ボールの奥底に眠るアルバムを見つけ、一枚一枚丁寧に見ていったところ、両親と思われる人物が一人も写ってないことに気づいたのだ。

「兄さん、どう思う? 俺は両親の顔全く憶えてないんだけど」

「……俺は父ちゃんの方はうーっすら記憶あんだけど……」

 二人の言い分から考えるに、どうも母が怪しい。

 世間ではよく、子供にとって父親は遠い存在だと言われ、子供は母親に懐きやすいと見なされる。言い方を変えれば、幼い頃の記憶は父親より母親と触れ合う機会の時が多いということでもある。

 だが、虎杖兄弟の場合、父の記憶は兄がぼんやりと、母の記憶はお互いに皆無という状況になっている。母が自分達を産んですぐ亡くなったのか、それともまた別の事情が絡んでいるのか……真相は闇に包まれたままだが、ある嫌な可能性も出てくる。

 

「兄さん……これさ、ワンチャン俺達の母さんって相当ヤバい奴なんじゃない?」

「……それ、俺もちょっと思った……」

 

 引き攣った表情で呟く悠香に、悠仁は嫌な汗を一筋流すのだった……。




五条先生は悠香君の天与呪縛を「強大な呪力と引き換えに呪具を使用できない」と考えていますが、実際はもっとヤバいです。真実は少年院で徐々に明らかになります。
野薔薇様には申し訳ないですが、共鳴りはまた今度。

順平親子はどうする?

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