虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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タイトルは不穏ですが、本作はソフト系呪術廻戦なので重く考えないでください。


第42話:悠香、倒れる

 呪術高専の空中要塞への挑戦が終わり、主催者の悠香は悠仁と共に五条から羂索を倒したことを聞いていた。

「そうですか。さすがのメロンパンもレイド戦には耐えきれなかったんですね」

「先生、ありがとね」

「うん……今までの苦労って何だったんだろうって思ったけどね…」

 五条はそう言って遠い目をした。

 彼をはじめ、呪術界は極めて狡猾な羂索の策謀にまんまとハマってきた。時には思わぬ形で彼に有利に働く時もあった。虎杖悠香が呪術界に足を踏み入れるまでは。

 悠香が呪術高専に来たことで、諸悪の根源たる羂索の計画は崩れるように破綻していった。史上最強の術師・両面宿儺の寵愛を受け、天与の暴君・伏黒甚爾や平安の術師・万と契約を結び、呪胎九相図と宿儺の側近・裏梅を味方につけ、圧倒的戦力差で羂索の策を木っ端微塵にした。

 もし彼がいなければ、この世界は羂索の思うがままになっていたかもしれない。

「……ちなみに、その後どうしました?」

「〝(きょ)(しき)(むらさき)」〟で粉微塵にしたよ」

「それは何より。悪党に墓標は要らない」

 あくどい笑みを浮かべる悠香に、悠仁は「ブラックさが増してんね…」と遠い目になった。

 そして悠香はその他大勢に目を向けた。

「……残念でしたね。庭園は制しても要塞は無理だったようで」

『フザけんな!!!』

 と、ブチギレる一同。

 一方の悠香は、この程度のステージもクリアできないのかと言わんばかりに肩を竦めた。

「非術師にできて呪術師にできないとは……誰かを呪うことしか能が無いなんて、不憫ですね」

「てめぇ喧嘩売ってんのか」

「どこの馬の骨とも知れないガキが偉そうに言うんじゃないわよ!!」

「俺の言葉をせっかく逆手に取っておきながら、そのチャンスを棒に振った人々に言われたくありませんね」

 悠香は過去の術師たちの非難をバッサリ切り捨てる。

 しかし、今回の惨憺たる状況には思うところがあったのか、悠香は顎に手を当て、少し考えてから口を開いた。

「まぁ、もう一度チャンスを与えてもいいです。本家のルールに則って来年開催しますが……自分で自作コースを作って練習するくらいなら良しとします」

「本当か? 二言は無いな!?」

「あなた方が今の世界に反旗を翻すつもりがなければの話です。あ、でも呪術界の上層部を滅茶苦茶にしたいなら特別に許可します。多分グルでしょうし。御三家も直哉さんと真希先輩と真依先輩さえ生きてれば他は死んでいいです。宿儺さんも御三家の宗家限定で鏖殺解禁(ガスぬき)しようかな…」

「ちょっと待って悠香何考えてるの!?」

 恐ろしいことをサラッと言った悠香に、さしもの五条も焦った。

 しかし悠香は、そんな五条に反論した。

「五条さん、いいですか? 呪術界は民主主義じゃないんです。なので全部ぶっ壊して一から創り直す方が手っ取り早い」

「悠香って本当にあの悠仁の弟なんだよね!?」

「何で手口がそんなに過激なの!?」

 五条と乙骨にそうツッコまれた悠香は、どこか呆れた様子で大きく溜息をついた。

「ハァ……あなたたち、何年人間やってるんですか? 封建主義に限りなく近い呪術界をぶっ壊すには武力が一番でしょう。それによく言うじゃないですか、赤信号みんなで渡れば怖くないって」

「それマジでダメなパターンじゃん!! もしかして悠香ってブレーキ踏むところでアクセル踏むの!?」

「……こいつが一番呪詛師みたいじゃないの」

 烏鷺の呟きに、全員が大きく頷いたのだった。

 

 

 羂索討伐から月日は流れ、12月も中頃。

 栃木県の某所で、色々あって停学処分を受けていた高専三年生の秤金次(はかりきんじ)は、同級生の(ほし)綺羅羅(きらら)と共に久しぶりに会った五条からある事情を聞かされ、顔を青ざめていた。

「……俺が、新しい総監部の人間に……?」

「やってくれるよね?」

「いやいやいやいやいや!! ありえねぇって!! 何でそんな飛躍した話になってんだよ!?」

「悠香がやりたい放題し始めたからね…超ウケる」

 五条は軽い調子で引き攣った笑みを浮かべる。

 と言うのも、あの空中要塞計画を終えた後、()()()呪術界に反旗を翻したのだ。

 まず手始めに、高専の地下にて隠遁していた天元が羂索討伐に感謝の意を示すために姿を現したところを沙奈と共に奇襲。悪ノリした宿儺と共に天元を人質にとるという暴挙に出て、総監部に対して「全員退陣しなければ天元を殺す」と脅迫…ではなく交渉を申し出た。御家騒動が終わって当主が禪院扇になった禪院家をはじめ、五条家を除いた保守派が猛反発して東京校に攻め寄せたが、今までの鬱憤を晴らさんと甚爾がたった一人で迎撃。「社長命令」だからと殺しはしなかったが、壊滅的打撃を与えた。ちなみに過去の術師たちは、甚爾の強さより現代の術師の弱さに愕然としたとか。

 続いて、悠香との交渉に応じなかった総監部に、報復と言わんばかりに鹿紫雲を投下。喚き散らす老人たちを鹿紫雲が棒術で全員フルボッコにして病院送りにし、機能不全に陥らせた。なお、この時だけ五条は自分がやりたかったと駄々を捏ねたが、悠香に「余計なことするからダメ」と一刀両断された。

 最後に、総監部のメンバーを五条・九十九・七海・楽巌寺・夜蛾・直哉・日下部に限定させ、顧問として来栖と日車を据えることで旧家の徹底排除を完了。事実上の追放に成功した。なお、総監部任命の流れに日下部は「何で俺がこんな役回りを……」と嘆いていたとか。

 そういうわけで、呪術界は新体制になったのだが……。

「あの……本当に金ちゃんじゃなきゃダメなんですか?」

「っていうか、悠香が頭下げて頼んだんだよ。「非常事態に栃木に引き籠ってたパチンカスに慈悲は無いので」って」

「それ恨んでる言い方じゃね!?」

 明らかに不参加のツケを払わせようとする悠香に、秤は顔を引きつらせた。

 ――アレ? 後輩って、先輩を慕ってるもんだよね? 完全に落とし前をつけさせようとしてない?

 秤はそう思ったが、口には出さなかった。

「……まぁ、これで上層部の腐ったミカンはみーんな一掃しちゃったし!! 給料もいいから秤やりなよ!!」

「丁重にお断りさせていただきます」

「ダーメ♪」

 両手を交差して拒否した秤だったが、五条は問答無用で却下した。

 

 

           *

 

 

 それからさらに三日後。

 世間は冬を迎え、呪術界が大変革を迎える中、高専はいつもの日常を送っている。

 だが、今日に限っては敷地内で事件が起きていた。

「ハァ……ハァ……」

 授業が始まる前、廊下を歩く悠香は熱った体で荒い息を漏らしていた。

 明らかに苦しそうであり、顔色は悪く、足取りがおぼつかない。しかも本来の双眸の下にある小さな双眸も焦点が合っておらず、全身からは湯気のように呪力が漏れている。

 昨日まで元気だったというのに、突然の変調に彼自身も混乱していた。

「ハァ……ハァ……うっ…」

 悠香は壁に手をつくと、ついにその場に崩れ落ちた。

「――悠香君!?」

 そこへ偶然、トイレ休憩を終えた順平が通りがかった。

 彼は慌てて悠香に駆け寄り、彼の体を仰向けにして上を向かせる。

「悠香君!! しっかりして!!」

「う……ぁ……」

 順平の呼びかけに、悠香はか細い声で応えた。

 彼の目は虚ろで呼吸も浅く、何よりも熱が尋常じゃない。

 明らかに普通ではない――そう思った時には、悠香は気を失ってしまった。

「っ…悠仁!! 皆!! 誰でもいいから来て!! 悠香君が倒れた!!!」

 

 

 突如として意識不明の状態に陥った悠香は、すぐさま保健室に運ばれ、家入がすぐさま診断した。

「体温が41.8度…!? これ以上上がると脳に影響が出て命にかかわるぞ」

「そんな……悠香君……」

「何でいきなり……まさか呪詛師の呪いとか!?」

「いや…これは心因性の発熱だ」

 家入曰く。

 悠香はその警戒心の強さからストレスを受けやすいタイプであり、呪術界に足を踏み入れてからは唯一の家族や尊敬する恩師を守るために奔走し、さらにいつ爆発するかわからない宿儺たちの気配りもしていたため、本来は体を休めるべき時すらも気を張ってしまっていた。それが旧体制の崩壊によって緊張の糸が切れ、心身のバランスが一気に崩れたのだ。

 そして呪力が漏れた件は、心身のバランスが崩れたことで身に宿る呪力が一時的にコントロール不能に陥ったとのことで、今は落ち着きを取り戻してるが、影響面を考えると油断はできない。彼の呪力が周囲にどのような影響を与えるのかは、交流戦で証明されているのだから。

「悠香……」

「しかも悠香は魂を二度も弄られている。肉体的なダメージはあの再生能力でどうにでもなるが、それ以外のダメージは別だし、私の専門外だ……今はただ、様子を見ることしかできない」

 家入は悠仁たちにそう言った。

 全員が悠香の容体を心配していると、ガラッと扉が開く。日置だ。

「悠香は!?」

「今は落ち着いてるが、熱発が酷い。心因性だから様子を見るしかない」

「そうですか……」

 日置は悠香が眠るベッドの傍にイスを持って腰かけ、彼の寝顔を見つめる。

「……無茶しすぎなのも変わらないな、お前は」

 日置はそう呟き、静かに目を伏せた。

 が、ふと気づいた。

(そういえば、彼は一体……)

 

 

 所変わって、ここは宿儺の生得領域。

 かの呪いの王は、目の前で胎児のように丸くなる少年を見下ろし微笑んでいた。

「全く、貴様の図太さには呆れてものも言えんな」

 目の前にいる悠香は、相当深い眠りに落ちているのか、宿儺の問いかけに対しても何の返事もしなかった。

 周囲には図太く強かに毅然と振る舞っていたが、やはり呪術界に巻き込まれたのは非常に堪えたようで、身も心も擦り減っていた。それほどまでに、悠香は人一倍気負っていたのだ。現代の術師の誰よりも。

 ゆえに彼の身に起きていることは、その重圧から解放された「反動」なのだ。味方である呪術師に狙われず、不条理な上層部に大切な者の命が脅かされることのない、最も望む平穏な暮らしを手に入れることができた安心感から、一時的に魂が沈んでいるのだ。

「……ケヒッ」

 宿儺は笑った。

 今頃呪術師どもは、悠香が意識不明の状態に陥ったことで慌てふためいているところだろう。呪術的な影響ではなく自身の精神面が原因なので、きっともどかしくて仕方がないはず。何もできない悠仁たちの顔は、さぞ愉快だろう。

 それに彼の魂は、よりにもよって宿儺の生得領域に来ている。その気になれば叩き起こして追い出し、強制的に意識を覚醒させることもできるが……久しぶりに来たからには、少しばかり遊んでやろうかと、宿儺は悠香が起きた後を考える。

 だが、まずは一つ言っておかねばならない。

「――悠香よ、大儀であった。今はゆっくりと休め、五条悟や小僧にはうまく言っておいてやる」

 それは呪いの王からの、唯一の労いであった。




ヤバい、次回でもしかしたらマジで最終話かも……。
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