虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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もう早速二話目投稿。鬼滅の刃恐るべし。


鬼滅の刃×虎杖弟 第一章その2

「俺は呪術高専一年、虎杖悠香。――呪いと戦う者です」

 ある単独任務で呪詛師の最期の呪いにより、人喰い鬼が闇夜にのさばる並行世界の大正時代に飛ばされた悠香。

 その人喰い鬼を狩る力を有した剣士、そしてその剣士を支える者たちが集まった政府非公認の組織「鬼殺隊」に保護――状況的には連行――され、彼は当主・産屋敷耀哉と鬼殺隊最高戦力の柱たちを前に、自らの正体を明かした。

「呪術高専……? 聞いた事のない名前だ」

「でしょうね……何せ俺はおよそ100年後の未来から来た人間、それも別世界の日本ですから」

 耀哉の呟きに悠香はそう答え、一同は驚きを隠せない。

「俺は恨みや後悔、恥辱など、人間の身体から流れた負の感情が具現し意思をもった〝呪霊〟という異形のバケモノと戦ってるので……ある意味あなた方と似てるかもしれません」

「その〝呪霊〟なる異形……呪いが具現化した存在を倒す力が、君にあると?」

「ええ。その力のことを呪力といい、俺は昔から膨大な量を持ってます。それを駆使して術式という様々な「異能」を発揮します」

「鬼でいう血鬼術に値するようだね。その異能は君も持ってるのかな?」

「ええ。しかも嬉しいことに対人戦闘でも有効なので、人喰い鬼との戦いでも死人よりは役に立つでしょう」

 悠香はそう説明し、耀哉の目を真っ直ぐ見て言う。

 俄かに信じ難いが、この場においてわざわざ妄言を言う必要はないし、妄言にしてはあまりに理路整然で具体的すぎる。何よりも彼は、通常の双眸の下に常人にはない両眼がある。

 本当に別世界の日本から来たと、そう捉えざるを得ない。

「信じられん、信じられん。そんな御伽噺のような出来事があるか」

「俺は信じてほしいなんて一言も言ってませんよ」

「小芭内、あまり困らせるものではないよ」

 耀哉にやんわりと窘められ、伊黒は「御意……」と返答する。

「それで…一体どうやってここに?」

「それは詰めが甘かったとしか言えないなぁ。呪術師の敵…呪詛師の息の根をちゃんと止めなかったせいで、最後っ屁食らっちゃったんです」

「……呪詛師とは、人なのかい?」

「ええ。人殺しも仕事の内って解釈でいいです」

 あくまで他人事のように話すが、その内容に柱たちは眉をひそめた。

 目の前の少年は、人を殺した経験があるというのだ。それもおそらく一度ではなく。

 人を護り続ける鬼殺隊と違い、呪術師は呪詛師という人間を殺すのが日常なのだろうか?

「じゃあ…君は人を殺してるんだね?」

「何でもかんでもじゃないですよ。呪いを使って非術師――一般人に危害を加えたり、それで犯罪活動をやってるのが呪詛師なので、そいつら限定です。……少し前までは権力と保身の為に、総監部が若い芽を摘みに来てましたけど」

「総監部?」

「呪術師の中でも高い地位にある、自分の都合が悪いことがあればすぐ誰か処刑する腐ったミカンです。あいつらのせいで兄さんは悪いことしてないのに執行猶予付きの死刑囚になり、俺に至っては肉親だからって理由で同じ死刑囚になった上に一回殺されましたよ。……まぁ、俺が色んな人たちの手を借りて、反乱起こして軒並み一掃しましたけどね」

 それにしてもアレは痛快だったと笑う悠香だが、一同は彼への疑念が哀れみへ変わった。

 あの異様な警戒心の強さは、強欲で性根が腐った大人たちのせいで平穏に送りたかった人生を狂わされた影響なのか。そう思うと、とても責める気になれない。

「……報告に挙がっていた君の四ツ目も、異常な再生能力も、呪いのせいかな?」

「ええ。俺たちの世界では、魂の輪郭を歪められると肉体が異形になるようで……俺は人間の姿を維持できましたが、結果的には人間やめてますね。母親としては願ったり叶ったりだったようですけど」

「……君の母親が…?」

「あのゴミクズにとって、元々産む気も育てる気もない偶然できた命が俺です。潜在能力がわかって以降、好奇心で俺を呪術でこんな風にさせて呪いの兵器として進化させようとした……結果的に失敗しましたけどね。それがこっちでいう今から半年程前。それまでは目が二つの普通の人間でした」

 余りにも壮絶な身の上話に、誰もが絶句している。

 無償の愛を注いでくれるはずの母が、自分の人生を狂わせた張本人で、しかも自分本位な理由で息子を兵器に変えようとしていたなんて。

 身内が人喰い鬼になるよりもはるかに残酷で非道な仕打ちに、誰もが激しい憤りを感じた。

「そうかい……辛い過去を思い出してしまったね」

「今となってはどうでもいいことですよ。あいつはもう死んだ……この新しくできた双眸も治らない以上、最期まで付き合うだけですから」

「悠香君……」

 今の姿を享受してるのか、悠香の顔には怒りや悲しみなどの表情は全く見られない。

 それがむしろ彼の心の傷は二度と癒えないと証明しており、その空虚さに炭治郎は胸が苦しくなりそうだった。

「現状、俺が元の世界に戻れる兆候がないところを考えるに、何かきっかけが必要と思われます。おそらくは――」

「鬼舞辻無惨を倒すこと、かもしれないんだね?」

「……どうしますか? 産屋敷耀哉さん。あなたには俺をここで始末するという選択肢もありますが……その時は俺も死に物狂いで抵抗するんで、あなたの大事な剣士(こども)たちを何人犠牲にするか考えといた方がいいと思いますよ? 俺はこの場では自分の命以外失うモノがないので」

 悪い笑みを浮かべる悠香に、緊迫感が走る。

 しかし耀哉は微笑みを崩さず、穏やかにこう言った。

「そんなことはしないよ。君が君なりの善性を持ち、決して悪ではないことは炭治郎とのやり取りで感じられたからね。むしろ私の方から、隊士(こども)たちに手を貸して鬼の討伐に加わってほしいんだけれども……」

「俺の()()()()()()()()()()()()を保障するなら構いません。互いに利のある関係の方がいいに決まってる」

 悠香の返答に、我が意を知ったと言わんばかりに耀哉は頷いた。

「皆、聞いての通りだ。徒に排除しようとするのはこちらが不幸になる。それにこうも考えられるんじゃないかな。彼がもし我々と共に戦ってくれるなら……上弦の鬼が相手でも十分に対抗できる戦力となると」

 鬼でないのにもかかわらず、鬼に匹敵する異常な再生能力を持つ少年。

 鬼と対等な領域で真っ向から戦える、唯一無二の存在。

 彼を味方に引き入れるか、敵と見なして対峙するか――どちらが鬼殺隊に有益かなど明らかだった。

「…しのぶ。君の報告では、カナヲの不意打ちを完全に見切り、木刀で振り払って弾き飛ばしたそうだね」

「ええ。本人も彼の実力は自分よりもはるかに上だと認めています」

「胡蝶の継子が……」

 二人の言葉に、宇髄は目を見開く。

 継子とは、次期柱として直々に育てられる若輩の隊士のこと。相当才能があって優秀でないと選ばれないため、一般隊士と比べると実力はかなり高いとされている。

 その継子であるカナヲですら、実力差を認めるとは。少しばかり期待値が上がってくる。

「……まあ、彼女ぐらいだったら俺が元いた世界にわんさかいるんで、造作もないですね」

「そこまで言うなら、テメェの実力見せてみなァ」

 その言葉と共に実弥は立ち上がり、悠香を見る。

「実弥」

「お館様、お許しください」

 刹那、実弥は一気に距離を詰めて殴りかかった。

 悠香はそれを難なく躱すが、続けざまに回し蹴りが飛んでくる。寸でのところで腕を盾にして防ぎ、連打を的確に捌いていく。

 明らかな戦闘慣れ、それも柱の中でも上位の実力を持つ実弥の猛攻に全て対応できていることに、驚愕が広がる。

「不死川さんの攻撃を見切ってるなんて……」

「うむ! 見かけによらず相当な場数を重ねているようだ!」

 中性的な顔立ちで腰に届く程の髪を伸ばした霞柱・時透無一郎と、炎を思わせる焔色の髪と眼力のある瞳が特徴の炎柱・煉獄杏寿郎は感心する。

 防御に徹してるとはいえ、悠香の実力は明らかに一般隊士と比較しても群を抜いている。これで鬼に匹敵する再生能力の持ち主な上、まだ奥の手を持ってる様子なのだから恐ろしい。

「おい、どうしたァ!? やり返してこいやァ!」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 ――ゾクッ!

 

「!?」

 不意に、悠香の纏う空気がガラリと変わる。

 まるで首筋に刃物を当てられているような錯覚さえ覚え、背筋が凍る。

 それが悠香の殺気だと気づいた時には、彼の姿は実弥の視界から消えていた。

 

 ドンッ!

 

「がっ!?」

 直後、実弥の顔面に衝撃が走った。悠香が姿勢を低くしながら足元へと移動し、その勢いを利用して強烈な蹴りを放ったのだ。

 悠香はすぐさま起き上がると、よろめく実弥の鳩尾に拳を叩き込み、さらに隊服を掴んで巴投げを繰り出した。

 攻撃に転じてから僅か10秒足らずで一本取った悠香に、一同は唖然とし、仕掛けてきた実弥は仰向けのまま固まっていた。

「スゴいわ、あの不死川さんをあんな簡単に…!」

「あの身のこなしに体の使い方、それに技の仕掛け方……ただの喧嘩殺法ではないな。きちんと訓練を受けた上で経験も積んでいる。確かに今の隊士たちに比べれば余程使えるな」

「彼の言葉通りだと、呼吸の適性はないかもしれませんが、それでも十分戦力として機能しますね」

(そりゃあ、宿儺さんと甚爾さんに扱かれてるからね)

 甘露寺と伊黒、しのぶの会話を聞きながら、悠香は内心そう零す。

 生物としての格が違う圧倒的強者二人に師事しているのだ、当然と言えば当然の結果だろう。

「実弥」

「…申し訳ありません、熱くなり過ぎてしまいました」

「構わないよ。むしろこれで彼の強さが垣間見れた」

「勿体ないお言葉……」

 頭を下げる実弥に、耀哉は穏やかに微笑むと悠香に向き直った。

「ちなみにだけど…君はその術式という異能を持ってるのかい?」

「ええ、炎を操る能力です。ただこの場では披露できません。()()()()()()()俺自身の肉体も焼いちゃうので」

(諸刃の剣、ということか。柱に匹敵する身体能力、炎を操る異能、鬼に匹敵する再生能力……やはり彼を鬼舞辻に渡すわけにはいかない)

 耀哉は内心そう判断し、改めて悠香を見据えた。

「悠香、君としてもこの状況は好ましくないかもしれない。でも鬼舞辻を倒せば、元の世界に戻れるかもしれない。協力してくれるかい?」

「ええ。俺も炭治郎君と禰豆子さんに約束した身。食った分は働きますよ。――ほら、解いたよ」

「あ、ありがとうございます……」

 炭治郎を縛っていた縄を解きながら、悠香は静かに告げた。

「悠香、ありがとう。恩に着るよ。……そして炭治郎」

「は、はいっ!」

「まだ禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。……十二鬼月を倒しておいで。そうしたら皆に認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」

「俺は…俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!! 俺と禰豆子が、必ず悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!! ――どうですか!?」

「何で俺見るの?」

 振り返る炭治郎に困惑しつつも、悠香は笑った。

「うん…いいんじゃない? 多分その言葉を嗤う奴から先に死んでいくだろうし、心がけとしても上等でしょ」

「ふふ……人の心を掴むのも長けてるようだね。計り知れないな、悠香は。それと炭治郎…柱たちは当然抜きん出た才能があり、血を吐くような鍛錬で自らを鍛え上げて死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。だから口の利き方には気をつけるように」

「は…はい!」

「初対面で笑いながら斬首しようとする人、生まれていたこと自体が可哀想とか言う人、他人の体をぶっ刺しといて詫びを入れない人を尊敬しろ………中々の難題を突き付けますね」

「お前、勘弁してやれよそろそろ」

 悠香にジト目でツッコミを入れる宇髄。

 わざわざ敬愛するお館様の前で言うあたり、悪人ではないが性格が善人とは言い難い。伊黒の嫌味がかわいく思えてしまう。

「悠香、揉めた時の仕返しはやめてね。そこはお互いに律するべきだし、私たちの判断も必要な時がある。何より君の仕返しは、本当に身も心も潰しに掛かってるからね」

「善処します」

「うん…じゃあ炭治郎の話はこれで終わり。下がっていいよ。悠香、君はどうする?」

「宿なし無一文なんで、お借りできれば。野宿でもいいですけど、それはそれで迷惑でしょう?」

「でしたら私の屋敷でお預かり致しましょう。連れて行ってくださーい!」

 しのぶの言葉と共に、隠たちが颯爽と現れ、炭治郎や禰豆子が入った箱を背負って運んでいく。

 そして悠香にも近づき、彼を背負おうとするが……。

「自分の足で歩けますけど」

「いや、ちょっとこれには結構大事な訳が……」

「……まぁ、いいや。それと念の為、お庭はキレイにしといてくださいね。俺の血、ちょっと毒性あるんで」

『!?』

 その言葉に、柱たちのみならず隠たちもギョッとする。

 一方の悠香は涼しい顔をしており、冗談を言っているようには到底見えない。

「おい、それどういうことだ!?」

「この身体になったせいで、俺の血は呪力を発し、直に浴びたり近寄ると体調不良に陥ります。まぁ放っといても自然消滅しますし、呪霊のいない世界なので浴びても休めば治るかと。誰も体調不良者がいないあたり、もう消滅してますね」

「それを最初から教えとけやァァ!!!」

「炭治郎君と禰豆子さんの処遇の方を優先せず、俺が何者なのかを先に根掘り葉掘り尋ねてれば答えましたよ」

 悠香はそう返すと、大人しく隠の背に身を委ねる。

「それではお邪魔しました。黒子さん、どうぞよろしく」

「すいません、失礼します!! お前マジでふざけんなよ!?」

 隠の一人にブチ切れられながら、悠香はしのぶの屋敷――鬼殺隊専用の医療施設「蝶屋敷」へと連行される。

 そして残された柱たちは、ただただ呆然としながら彼らの背中を見送っていた。

「……さて、じゃあ柱合会議を始めよう。それと今夜、悠香をまた私の元へ連れてきてね。さっきの場で聞けなかったことがある」

 

 

           *

 

 

 常に沢山の蝶が舞う蝶屋敷。

 鬼殺隊専用の病院にして薬局として機能するこの館で、悠香はひとまず一泊することになった。

「随分と広い土地だ。甚爾さんの実家ぐらいデカいね」

「とうじさん…? 誰ですか?」

 初耳の名前に、炭治郎は尋ねる。

「伏黒甚爾…俺の師匠その2だよ。鬼殺隊を余裕で壊滅できるぐらい強いんじゃないかな? 婿入りする前に一回実家で暴れた時、居合わせた全員の心に恐怖植え付けたっつってたし」

「それ人間ですか!?」

「そんな人に体術とか教わってりゃあ、そりゃ強いわな……」

 悠香の師匠のヤバさに炭治郎と隠たちがドン引きしていると、ツインテールで蝶の髪飾りを付けた割烹着姿の女性隊士と鉢合わせした。

 蝶屋敷の看護師の一人である神崎アオイだ。

「隠の方ですか? 怪我人ですね、こちらへどうぞ」

(……俺の顔見た割には、随分と平気そうだな)

 悠香は頬に手を伸ばして触れながら、内心そう零しながら付いて行く。

 屋敷に上がって入院用の病室へ向かうと、汚い高音が響いた。

「五回!? 五回飲むの!? 一日に!? 三ヶ月間飲み続けるのこの薬!? これ飲んだら飯食えないよ!! すげぇ苦いんだけど、辛いんだけど!! ていうか薬飲むだけで俺の腕と足治るわけ!? ホント!? 説明して!!」

 部屋の中では黄色いタンポポみたいな隊士が喚き散らし、看病をしていると思われるおかっぱ頭の少女が酷く困惑していた。

 炭治郎の同期である我妻善逸と、看護師の寺内きよだ。

「まだ騒いでるの、あの人」

 アオイが苛立ったように呟くと、悠香は無言でスタスタと部屋に入っていく。

 突然現れた四ツ目の少年に気づいた二人がビクつくが、悠香は構わず歩いていき……。

 

 ガシッ

 

「ヒッ!?」

「よし、今から「はい」と3回答えろカス野郎。なぜならそれが俺の求める答えだからだ。1つ目は「看護師の指示に従わないなら早く死んでベッド空けろ」、2つ目は「病院で騒ぐなら二度と呼吸ができなくしてやる」、3つ目は「わかったらとっとと飲め」だ」

 胸倉を掴んで脅迫する悠香の圧に、善逸は今にも失禁しそうな雰囲気でガタガタ震えだす。

 四つの眼を見開いてるのもあり、凄まじい迫力と威圧感だ。

「……で、答えは?」

「…ワ…ワカリ…マシタァ…」

「はいを3回言えっつったんだけど…まぁいいか」

 善逸の返答に肩を竦めながら頷くと、そのまま手を離した。

 解放された瞬間、善逸は全身の力が抜けたようにベッドに沈み込んだ。

 すると悠香は膝を折ってきよに視線を合わせると、優しく声を掛けた。

「ごめんね、怖かったかな。訳ありとはいえ、こんなナリじゃあびっくりするだろう」

「あっ、いえ……」

「俺は虎杖悠香。しばらくここでお世話になる15歳だ。何か手伝えることあったら言ってね」

 穏やかに年相応の笑みを浮かべる悠香に、きよも安心したのか笑顔を見せた。

 柱合裁判での振る舞いとは丸っきり正反対の態度に、炭治郎と隠たちは目を丸くさせる。

「すみません虎杖さん、ご迷惑を……」

「別にいいさ。身の丈知らずにはこれぐらいやらないと」

 悠香はベッドの近くの丸椅子に腰かけ、善逸を見る。

 なぜだろうか、異様に体格が小さく思える。

「善逸…何かちっちゃくないか?」

「あああ! 炭治郎~! 聞いてくれよ~! 臭い蜘蛛に刺されるし毒ですごい痛かったんだよぉ! 蜘蛛になりかけたからさ、俺今すごい手足が短いのぉ!」

「そうなのか…でも無事でよかった。伊之助は? 村田さんは見かけなかったか?」

「村田って人は知らんけど伊之助なら隣にいるよ」

 善逸は指さした方向には、猪の被り物をした隊士がぐったりしていた。

 こちらも炭治郎と同じく、悠香の同期であり友人である嘴平伊之助だ。

「伊之助、無事で良かった!! ごめんな、助けに行けなくて!!」

「……イイヨ、気ニシナイデ」

「声が…伊之助…か?」

 凄まじく掠れた声に、炭治郎は思わず困惑した。

 善逸曰く、喉が潰れてるとのことで、鬼に首を思いっきり鷲掴みにされた際に大声出したのが原因らしい。

「ゴメンネ、弱クッテ」

「色々あったみたいだね。まぁ命あっての物種だ。生きて帰って来ただけで大儲けさ」

「そうだ! 生きててくれて俺は嬉しいんだ!」

「お前はよくやったって! すげーよ!」

 炭治郎と善逸からの労りの言葉に、伊之助はガラガラ声で返事をした。

 そんな三人の仲睦まじい光景を見つつ、悠香はアオイに目を向けて話しかけた。

「えっと……お名前は」

「神崎アオイです」

「アオイさん、厨房は? 三人の為に少し粥を作ろうと思うんだ。こう見えて自炊できるからさ。俺も腹が減ったし」

「…わかりました、案内致します」

「どうも。それじゃあ三人共、食い物用意するからゆっくり休んで」

 悠香はそう言うと、アオイと共に台所へ向かった。

 その後ろ姿を見ながら、隠の後藤は複雑そうな顔で呟いた。

「あの野郎、ブッ飛んでるけど意外といい奴なんだな…」

 

 

 蝶屋敷の厨房で、悠香は粥を作る準備を始めた。

 土鍋を借り、水を入れて火にかけると、研いでおいた米を投入していく。

「ホントなら昆布が欲しいけど、最低三時間は必要だし……とりあえず梅干しをトッピングかな。アオイさん、梅干しの在庫は?」

「ま、まだありますけど」

「よかった。炭水化物だけじゃ栄養が偏るからね」

 聞き慣れない言葉を交える四ツ目の少年は、手際良く粥を作っていく。

 単に慣れてるだけではなく、知識も豊富のようだ。

「お上手ですね。お母さんから教わったりしたんですか?」

「独学だよ…自分で勉強して習得した。自分の息子を好奇心で呪いを振り撒く兵器にしようとした母親からは、何も教わっちゃいない」

「っ! ……ごめんなさい…私、何てことを…」

「謝らなくていいよ、あいつ死んだし」

 あまりにも冷めきった声音で、悠香は平然と告げる。

 生い立ちに対する諦念が滲む背中に、どんな言葉をかければいいかわからない。

「ロクな稼業じゃない俺に比べりゃあ、アオイさんの方が立派ですよ。病院勤務は楽じゃない」

「……私はあなたが思うような人じゃありません」

 アオイは自嘲するように語り出した。

 自分も鬼の出現によって孤児となったこと。鬼殺隊への入隊試験・最終選別に合格はしたものの、鬼との戦いが恐ろしくて前線に出られなくなってしまったこと。そして後方支援に務めるがゆえの引け目を、ずっと抱え続けていること。

 俯きながら語る彼女に、悠香は静かに耳を傾ける。

「カナヲですら圧倒する強さを持つあなたと比べると……とんだ腰抜けです」

「それはお門違いじゃないかな。アオイさんにはアオイさんの〝戦場〟があるじゃんか」

 悠香の一言に、アオイは大きく目を見開いた。

「医療現場は100年先でも過酷なのは変わらない。殺す技術と治す技術とでは、治す技術の方が圧倒的に難しいし責任も重大だ。命を救うには相応の危険も伴う。それこそ鬼を殺すより大変だと思うよ」

「っ!」

「命を奪う前線と命を救う医療現場……定義は違えど戦いは戦いだ。もっと胸張ってもいいんじゃない?」

 悠香の四ツ目が、アオイを射抜くように見つめる。

 人間とはかけ離れた、傍から見れば恐ろしいはずなのに……どこか優しさを感じる眼差しに、不思議と心が温かくなるのを覚えた。

「……おっ、そろそろ粥が完成かな。アオイさん、梅干し刻んどいてもらっていい?」

「は、はいっ!」

 アオイはハッとすると、慌てて棚から梅干しを取り出し、包丁で細かく刻んでいく。

 そして出来上がった粥をお椀に注ぎ、アオイが刻んだ梅干しを乗せると、出来立ての粥を盆に乗せて運んで行った。

 

 

           *

 

 

 その日の夜。

 産屋敷邸に呼ばれた悠香は、広間に招かれた。広間は柱合会議がちょうど終わったばかりなのか、まだ柱たちが座していた。

 そして目の前には、悠香が単独任務の際に持参するリュックサックと竹刀袋が。

「やあ、来てくれたかい。呼び出して申し訳ないね、君の手荷物について詳しく聞きたくてね」

「別に構いませんが、その為に?」

「君が未来の日本から来たのだろう? 私たちの子孫がこれから生きる世界を知れる貴重な機会だからね」

「ああ…成程。一応言っておきますけど、文明レベルと倫理観は今の時代と結構ズレてるのでご理解を」

 悠香は呼び出された理由が手荷物の紹介と知り、腰を下ろしてリュックサックを開ける。

 一応、万が一を想定して色々な備品も常備してはあるが、せっかくなので彼ら彼女らの好奇心をくすぐるべく、現代の道具をいくつか出すことにした。

「まずはこれにしよっか」

 悠香が最初に取り出したのは、スマートフォンだった。

「それは?」

「炭治郎君から今は大正時代と聞いたので、電話機自体はありますよね? 大正時代は確かまだ東京と横浜の間だった気がしますけど……100年後は小型化し、誰でも持てるようになるんですよ」

「電話機って、あの!?」

 甘露寺は思わず叫ぶ。

 大正時代には電話はすでに普及し始めているが、利用層は官公庁や大企業が中心で一般家庭にはまだ浸透していない。利用料金も高額で、一戸建ての住宅が建つほどの金額だ。

 まさかその電話機が、100年後には掌くらいの大きさにまで小型化され、子どもでも持ち歩けるようになるとは!

「正確にはスマートフォン……多機能携帯電話という代物です。電話だけじゃなく、写真を取ったり財布代わりにもなったりします。この世界では使えないですけどね」

「これで遠くにいる人間と会話ができるということか! 何とも便利なものだな!」

「いいねぇ、100年後! ド派手じゃねぇか!」

 実物を見て驚く煉獄と宇髄に、悠香は苦笑する。

 科学技術の進化に感謝しつつ、改めて時代の違いを実感した。

「次はこいつら」

「それは筆記具……ですか?」

 しのぶが興味深そうに首を傾げる。

 悠香が出したのはシャープペンシルとボールペン、そしてノート。それぞれ構造や使用方法を説明すると、興味津々といった様子で眺めている。

「書くのに墨が必要なくなるとは……」

「開発にはきっと途方もない費用と時間がかかったでしょうね」

 シャープペンシルとボールペンの精巧な作りに関心を示す伊黒としのぶ。

 すると悠香はノートの空白ページを開くと、一式をしのぶの前に置いた。

「よければ書いてください」

「よろしいのですか?」

「俺は今、元の世界では単独任務中の扱い。報告書を出すんで、証拠が必要なんです。それにあなたのお屋敷で厄介になる身……宿代の代わりです」

「では、お言葉に甘えて私の名前を」

 しのぶは礼を述べると、早速ボールペンを使って書き始める。

 和紙とは違う紙の滑りの良さ、筆とは違う手軽さ、墨汁を使わなくても書ける事実。どれも大正時代ではあり得ないことだ。

 未来の筆記用具を実際に使えることに、しのぶは感動を覚えた。

「…何だか、不思議な気分です。この国の未来をこの場で体験できるなんて」

「胡蝶! あとで俺にも書かせてくれ!」

「僕もいいかな?」

 杏寿郎と無一郎の要望に、しのぶは了承する。

 そして他の柱たちにも、シャープペンシルとボールペンを回していった。

「悠香、他にも面白いものはあるかい?」

「いや、あとはもう……仕方ない」

 リュックサックの中を漁る悠香は、ある袋を取り出した。

 そこには大きな文字で「干し芋」と書いてあり、中身は茶色い芋を薄く延ばして乾燥させたものが見える。

「これは全部俺が自分への褒美用に食う予定なんだけど……」

 悠香はジト目で柱たちを見る。

 何というか、圧が凄い。特に炎柱と恋柱。

 悠香は盛大な溜息をつくと、干し芋の袋を開封。広間の全員に振る舞うことにした。

「ハァー……どうぞ。100年後の未来から持ってきた食べ物です」

『いただきます』

 全員が同時に干し芋を口に含み、咀嚼する。

 砂糖菓子のような甘味ではなく、さつまいも本来の優しい甘さが凝縮されており、口の中にじんわりと広がっていく。噛む度に強く濃い甘みが広がり、ねっとりとした食感が舌を包み込む。

 正直に言うと――

「うまい!」

「美味しい~♡」

「……」

「冨岡さん、何か感想を一つ言ったらどうですか? 悠香君の善意による提供なんですから」

「言っとくけど状況的には圧力が正しいからねこれ」

 しのぶの小言を悠香は半目でツッコんだ。

 すると義勇が、とうとう口を開いた。

「……いつもか」

「いえ、たまたま今回が干し芋を食べたい気分だっただけです。いつもは別のもの買いますよ」

「……いいか?」

「または無いですね、そもそも品種が存在しないので。でも似たようなものは材料あれば作れますよ。茹でたら皮を剥いて切って天日干しすればいいんで」

 二人のやり取りに、柱たちはギョッとなった。

 あまりにも口が足らない義勇と、ちゃんとした意思疎通が取れているではないか!

「テメェよく冨岡と会話できるなァ…こいつ「俺はお前たちとは違う」とか言ってんだぞォ」

「色んな人間と関わってますから、そこは経験値で。それと無表情でそういうこと言ってたら、思ってたのと逆の意味の可能性が高いですよ。表情と言葉は大体意味が一致するんで。たとえば……自分は皆と違ってずっと未熟者だって意味とか」

『!!』

 悠香の解釈に、柱たちは衝撃を受けた。

 義勇の今までの態度や言動が、もし自分たちが受け取った意味とは丸っきり逆ならば……。

「ウソだろ、冨岡お前そういう意味で言ってたのか!?」

「……悠香は俺の心が読めるのか?」

「言ったでしょう、そこは経験値だって。それと皆さん、顔合わせて一日二日の俺が気づいて何年も付き合ってるあなた方が気づかない方がヤバくないですか?」

「耳が痛いね……」

 悠香の鋭い指摘に、耀哉は苦笑しながらこめかみを押さえたのだった。




現時点の小ネタ及び描写にない裏話

・悠香君は鬼殺隊が実力主義の組織であると瞬時に理解したため、あえて喧嘩っ早い不死川さんを刺激するような言葉を使いました。要するにわざとお館様の前で戦い、自分の戦力としての価値を見せつけてます。
・根明にクズ、プロヒモに唯我独尊など幅広いジャンルの人間とコミュニケーションを取ってきた悠香君にとって、冨岡さんの口下手は理解するのが滅茶苦茶簡単だそうです。
・悠香君のリュックサックにはペットボトルや充電器、懐中電灯、市販薬なども入ってます。再生能力があるので、絆創膏などは携帯してません。
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