虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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まずは無限列車編です。
悠香だったらこう対処します。


鬼滅の刃×虎杖弟 第二章その1

「無限列車?」

「そうなんだ。今、杏寿郎が任務に向かったんだけど……君にも行ってほしいんだ」

 産屋敷邸に呼ばれた悠香は、耀哉に任務内容を説明されていた。

 柱合会議後の炎柱の任務先・無限列車では、短期間で乗客が40人以上も行方不明になっており、調査の為に送り込んだ鬼殺隊士も消息を絶っているという。この事件の犯人である鬼は生半可な敵ではなく、鬼の中でも一際強力な個体〝十二鬼月〟の関与が疑われている。その為、鬼殺隊最高位にして最強の剣士達の一人を派遣したという。

 また、この任務には応援として炭治郎・善逸・伊之助の三名も向かっており、禰豆子も同行しているとのことだ。

「その煉獄さんたちの、補佐を?」

「そう……君は他の鬼殺隊士とは実力や特異体質だけじゃなく、思考回路も一線を画している。君のその優れた観察眼や洞察力は、きっと未知の任務でも役に立ててくれると信じたい」

 耀哉からの説明を聞き、悠香は考える。

 

 列車という鬼にとっても潜める場所・隠れられる場所があまりに少ない閉鎖空間で、40人以上が乗車中に消息を絶っているという奇妙な事件。

 鬼は肉体操作で擬態ができるとのことなので、乗客や車掌に成りすましている可能性が高く、身も蓋もない事を言えば列車そのものが鬼である可能性すらある。そして鬼の血鬼術が人間の五感や意識を操作する、いわゆる「洗脳系」であれば、どう考えても運行中止レベルの大事件でありながら平常運転する違和感にも説明がつくし、鬼殺隊士があっけなく()られるのも納得がいく。

 しかし、同時に件の鬼はそこまで強くない可能性も浮上してきた。異能は相当厄介な効果を発揮する危険度の高いものだが、この手の類の敵は大抵フィジカルが案外大した事がなかったりする。言わば搦め手・嵌め手に特化したタイプであり、基礎戦闘力で言えば柱はおろか炭治郎にも敵わないだろう。

 

(もし列車と融合していれば、列車を破壊すればいいだろうけど……炭治郎君たちは躊躇うだろうなぁ)

 悠香の懸念事項は、そこだ。

 鬼から人を護るのが鬼殺隊だが、民間人を巻き込んででも鬼を殺すというやり方にはかなりの抵抗があると見ていい。悠香だったら列車を破壊するのは選択肢として十分に〝アリ〟だし、何ならそれが一番確実かつ合理的なら迷わずそれを選ぶ。しかし、彼ら彼女らはそういう訳にはいかないだろう。

 そこまで見越しているのか、それとも鬼と実際に戦わせて把握したいのか、はたまたその両方か――真意を問い質してもいいが、どの道利用する気だろうと思い気にしないことにした。

「わかりました。引き受けましょう」

「うん、よろしく頼むよ」

 悠香の返答を聞き、耀哉は満足げに微笑んだ。

 

 

「とは言ったものの……これは選択ミスったかなぁ」

 隊服姿になった悠香は、トボトボと線路脇の畦道を歩きながら独りごちる。

 夜の帳が降り、鬼が跋扈する時間だが、未だに一行と合流できてない。本来なら一緒に乗るのが筋だが、外部からの刺客の可能性や自身の四ツ目による騒動の処理の面倒臭さを鑑みて、あえて徒歩で向かうことにしたのだ。

 しかし、この判断は失敗だったかもしれないと、悠香は思い始めていた。このままでは合流できないまま任務が終わってしまう。

「仕方ない、これで行くか」

 悠香は来た道の反対方向に向くと、木刀を両手持ちで構え、呪力を込めて縦に振るい地面にぶつけた。

 直後、衝撃で凄まじい風圧が発生し、悠香の体は後方――向かうべき方角――へ大きく吹き飛んだ。呪力を地面にぶつけた際の衝撃を利用し、暴風を推進力にしたのである。

 そして着地の直前に再び呪力を地面にぶつけ、その圧でさらに大きく吹き飛ぶ。これを繰り返せば、走るより速く合流できる。ただし、真っ直ぐにしか行けないのだが。

「こんな事なら、本当に列車に乗るべきだった、なっ!!」

 そう愚痴りつつ、再び呪力を放って後方に跳躍した時。

 遠くから、汽車の走る音と微かだが人の声が聞こえた。ということは――

「あれか!」

 後ろを振り向くと数百メートル程先に、巨大な列車の影が見えた。

 悠香はさらに呪力を込め、爆発的な勢いで加速。そのまま列車の上を通ると、客車の屋根に立つ一人の鬼殺隊士と目が合った。

「悠香!?」

「炭治郎君!」

 なぜか後ろ向きで飛んでいる悠香を視界に捉え、炭治郎は驚いた表情を見せた。

「よっと! ……今どういう状況?」

 上手く屋根の上に着地した悠香は、炭治郎に現状を確認する。

 見かけない洋装だったのが見慣れた隊服姿になっている彼に戸惑いつつも、ハッとなって説明した。

「悠香!! この汽車全体が鬼になってるんだ!! この列車に安全なところはない、乗客が危ない!!」

「だろうね。――でも融合してるとはいい情報だ。()()()()()()()()()()()()()()ってことだから、頸の位置さえわかれば一網打尽にできる」

 悠香はチラリと先頭車両――炭水車の先にある列車の運転室に目を向けた。

 直後、今までただの屋根だった場所にボコボコと鬼の肉が浮かび上がってきた。見れば、列車の外部を分厚い肉が覆っている。

 肥大化した肉は数多の触手となって炭治郎に襲い掛かるが、悠香が呪力を込めた木刀を振るい、竜巻状に呪力を展開。衝撃波で触手は千切り飛ばされていった。

「凄い……たった一撃で、それも木刀なのに…!」

 あまりの威力に息を呑む炭治郎に、悠香は話しかけた。

「炭治郎君。車両に融合したなら、汽車の操縦という観点から読めば急所(くび)は高確率で先頭の機関部分だ。乗客はお仲間さんに任せて先手必勝だ」

「先頭…」

「判断はいつでも一瞬!!」

「っ! わかった!」

 一足早く屋根を飛び乗りながら運転室に向かう悠香の後を追い、炭治郎も風圧に負けじと駆け出す。

 一気に炭水車の石炭の上まで到達すると、悠香は呪力を纏った木刀を振り下ろして運転室の屋根を破壊。熱い室内に降り立つと、運転手が驚いた顔で喚いた。

「な、何だお前は!! 出ていけ!!」

 怯えながらも威嚇するように腕を前に突き出す運転手に、悠香は――

「運転手交代」

「――う、うわああああああ!?」

 ドンッ、と強く突き飛ばした。

 運転手はそのままバランスを崩し、運転室の入り口から落下。そのまま土手を転げ落ちて行った。

「今日は休め」

「悠香、何てことをするんだ!?」

「死ななきゃいいんだよ、死ななきゃ」

 悠香は唖然とする炭治郎を他所に、悠香はブレーキを弄ろうとするが、触手が突如伸びてきて妨害し始めた。

 思わず舌打ちしつつも、一度炭水車まで退き、炭治郎の隣で考える。

「今の反応だとビンゴだね」

「確かに鬼の匂いが強い……でも、後ろの客車が…!!」

「よし、プランBだ」

「え?」

 炭治郎がポカンとすると、悠香は思いっきり跳んで前方に三日月形の呪力の衝撃波を射出。数十メートル先の線路の一部を破壊した。

 このまま列車が進めばどうなるか。炭治郎は嫌な汗が噴き出してきた。まさかプランBの内容とは……!

「マズい!! 脱線する!!」

「それが目的だからね。列車を強制脱線させて鬼を動けなくする。衝撃に備えよう」

「そんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 悠香が冷静に言い放つと、炭治郎が絶叫した。

 そして無情にも列車は破損した線路を通り、轟音と共に激しく横転したのだった。

 

 

 悠香の奇策により、列車との融合が仇となって身動きが取れなくなった鬼――下弦の壱・厭夢は、その後横転した客車から脱出した伊之助の応援もあり、炭治郎の手によって首を一刀両断。そのまま灰と化していき消滅した。

 ひとまず任務は完了。あとは隠や応援の隊士が来てくれるのを待つだけなのだが――

「虎杖少年、君は滅茶苦茶すぎる!! 俺がいなかったら民間人どころか竈門少年たちも死んでるぞ!? それと鬼に与したとはいえ、運転手を走行中の列車から突き落とすとは何事か!!」

「仕方ないじゃないですか…あれ以外の選択肢が俺の頭になかったんですから。運転手もあのままいたら餌にされる未来しかないし」

 叱責する杏寿郎に、悠香は肩を竦めながら反論する。

 悠香が線路を破壊して強制脱線させた折、起きていた杏寿郎は技をいっぱい出して最小限の被害に留めるべく奮闘していた。その結果、幸い怪我人は多数出たが乗客二百人に死者は出なかった。

 とはいえ、いくら鬼の協力者でも一般人を走行中の列車から突き落としたり、鬼の身動きを封じる為に線路を破壊して列車を脱線させるのは明らかにやり過ぎだ。鬼を人一倍憎む実弥でも最低限の人道的配慮はするのに、悠香にはそれが一切見当たらない。むしろ目的を迅速かつ最小限の損害で達成する為なら、道に外れたマネを平然とやってのける。

 もっとも、それが呪術師と鬼殺隊の価値観の差と言えばそれまでだが。

「とにかく!! 今回のような危険極まりない作戦は二度としないことだ!! 君自身も破滅しかねないぞ!!」

「…知ったような口を」

 悠香が苦い顔をしたその時だった。

 

 ドンッ!

 

「「「!!」」」

 何かが降ってきて、地面が激しく揺れた。 

 もうもうとした土煙の向こうから覗くのは、一人の若い男。

 死人の様な肌に紅梅色の短髪、全身に浮かぶ藍色の線状の文様、鍛え上げられた筋肉質な体格、両目に刻まれた「上弦」と「参」の字。

(上弦の……参……!?)

 新手の鬼――〝上弦の参〟猗窩座の襲来に、炭治郎は瞠目した。

 猗窩座はニイッと笑うと、炭治郎の眼前に迫り――

 

 ドンッ!

 

『!?』

 炭治郎の頭を打ち抜こうとした拳を、悠香は木刀で下から上へと振るい軌道をずらした。

 そのまま悠香は木刀を逆手に持ち替え、柄の頭で猗窩座の鳩尾目掛けて思いっきり叩き込むが、素早く下がられて回避された。

「いい反応だ」

「まーたけったいな人のお出ましだな……」

 どこか意外そうな、どこか嬉しそうな笑みを浮かべる猗窩座に対し、悠香は強い警戒心を剥き出しにした。

 すると悠香の隣に日輪刀を抜いた杏寿郎が立ち、鋭い眼差しで睨みつけていた。

「なぜ竈門少年を狙った」

「話の邪魔になると思った。俺とお前たち二人の」

 猗窩座は笑いながら答えると、悠香は肩を竦めた。

「話があるならあるで声を掛ければいいじゃないですか……初期対応間違ってますよ。そんなマネしたら初対面で嫌われるってことくらい、三秒あれば誰でもわかると思うんですが」

「そうか……俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る」

「あの、人の話聞いてました? てめぇみてぇな手癖の悪いチンピラと話すことはこれっぽっちもねぇっつったんですけど」

「口が悪いな!!」

「そんな性格だったの!?」

 悠香の辛辣な物言いに、杏寿郎と炭治郎は目を丸くした。

 一方の猗窩座は、朗らかな口調と笑みで手招きした。

「では、素晴らしい提案をしよう。――鬼にならないか?」

「……俺は嫌ですけど、お二人は?」

「「ならないに決まってるだろう!!」」

 いきなり振られても即答する杏寿郎と炭治郎。

 すると猗窩座は、杏寿郎を指差しながら両目を細めて笑う。

「見れば解る。お前の強さ。柱だな。その闘気、練り上げられている。()()()()()()()()

「俺は炎柱。煉獄杏寿郎だ」

「俺は猗窩座だ」

 互いに己の名を名乗ると、猗窩座は指を差した。

「杏寿郎、お前がなぜ至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう」

 猗窩座は侮蔑に満ちた声色で告げた。

「人間だからだ。人間は弱く、老いていつか死ぬ。だが鬼は多少傷ついても死なない。百年でも二百年でも生きられる。強くなれる」

「……老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ」

 強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない――そう告げて、杏寿郎は「如何なる理由があろうとも鬼にはならない」と猗窩座の提案を一蹴した。

 すると畳みかけるように、悠香が言葉の追撃を始めた。

「猗窩座さんとやら……そういうあなたこそ、その至高の領域とやらに到達できたんですか?」

「……」

「できてないんですね? あなたの言うことが真実とすれば、至高の領域は時間が無限にあれば到達できるようなヤワなステージじゃないってことだ」

 悠香が淡々と述べると、猗窩座の纏う雰囲気が変わった。

 先ほどまでの朗らかな空気が嘘のように、鋭く重苦しい圧が辺り一面に漂い始めた。

「……何が言いたい」

「それくらい自分で考えたらどうです? ここにいる者は皆、あなたの目指す領域(せかい)に興味を持たない。…馬の耳に念仏ってことわざ、知ってます?」

 悠香は黒い笑みを浮かべ、煽りに煽った。

 それが琴線に触れてしまったのか、猗窩座は氷のように冷たい声色で「そうか」と応えると、右足を強く踏み込んだ。

「〝術式展開(じゅつしきてんかい) ()(かい)(さつ)()(しん)〟」

 腰を深く落として片腕を前に出して構えると、足元に氷花のような文様が浮かび上がった。

「――虎杖少年、竈門少年を頼む」

「上官命令ってヤツですか……臨機応変にやりますよ」

 杏寿郎の命令を承諾する悠香。

 猗窩座は嗤い、冷たく告げた。

「鬼にならないなら殺す」

 

 

           *

 

 

 炎柱と上弦の参の激闘は、凄まじいものだった。

 炭治郎も、急いで駆けつけた伊之助も、その場を動けずにいた。

(間合いに入れば、〝死〟しかない…)

(速すぎる…入れねぇ)

 助太刀が足手まといになる。

 両者の打ち合いは、それほどまでに異次元であった。

 そんな中……。

(何をしてるんだ…?)

 炭治郎は、悠香が両手で何か四角い物を持ち、それを戦っている両者に向けていた。

 何の意味のないマネではないだろうが、真意が読み取れない。

「悠香、何してるんだ……?」

「動画撮ってる」

「ど、動画……?」

「どこの世界でも情報は最大の武器なんだよ。そして情報漏洩は予測不能の危機を呼ぶ」

 そう告げる悠香の表情は、真剣そのものだ。

 一方、猗窩座と激しくぶつかり合っていた杏寿郎は、次第に追い詰められていた。

「ここで殺すには惜しい!! まだお前は肉体の全盛ではない!!」

「っ……!!」

 ここで猗窩座の拳が、杏寿郎の脇腹に入った。

 懸命に痛みを堪え、天へと昇る炎の如き斬撃を放つが、受け流されてしまう。直後に顔面に拳が繰り出され、どうにか刀で受け止める。

 鉛のように重い拳は日輪刀の刀身を押し抜け、そのまま左眼を潰さんと伸びるが……。

「!?」

 悠香が距離を詰めて飛び込み、攻撃を仕掛けた。

 新手の〝闘気〟に反応したのか、猗窩座はすぐさま杏寿郎から悠香に標的を変更して蹴りを見舞うが、木刀で防がれる。

 呪力で強度が日輪刀以上に底上げされたそれに、砕き割るつもりだった猗窩座は驚きを禁じ得ないが、即座に笑みを浮かべた。

「何だ!? お前も血鬼術のような異能を人間の身で使えるのか!? 面白い!! 名は何という!!」

「虎杖悠香。女っぽい名前とか言ったら二度と口利きません」

「そうか!! 悠香というのか!!」

 一旦距離を置き、猗窩座は加勢した悠香と対峙する。

 しかし、悠香は背を向けると杏寿郎に手を突き出した。

「止しましょう。これ以上応戦しても猗窩座討伐は不可能と見ました。一旦引きましょう。相手は柱をも容易く屠るであろう強豪…戦い続けるのは愚策だ」

「虎杖少年…しかし…」

「ここであなたに死なれては困るんです。この場に産屋敷さんがいたら、そう判断しますよ」

 そう言うと悠香は、今度は猗窩座に声を掛けた。

「猗窩座さんとやら。煉獄さんは先の戦いでそもそも万全を期しているとは言い難い。何より負傷している民間人が多い中での殺し合いは、敵に集中できず全力を出せない。それが鬼狩りという生き物です」

「!!」

「あなたが武の道を行く者と名乗るのなら、勝ったとしてもあなた自身の納得の行く勝利ではないはずです。ここはこれまでにし、日を改めるのがいいかと。どの道あとわずかで太陽も昇る。双方、引き際を見誤ると命取りですよ」

 悠香の提案に、猗窩座は徐に構えを解いた。

「いいだろう。お前の言っていることは正しい。次は邪魔者のいないところで殺し合おう。――杏寿郎、人間をやめたくなったらいつでも言ってくれ。いい答えを待ってるぞ。悠香もな」

「それはこちらのセリフです。十二鬼月やめたくなったらいつでも言ってください、俺は鬼殺隊の入隊歓迎しますよ。煉獄さんは知らないですけど」

 その言葉を最後に、猗窩座は森の中へと姿を消した。

(上弦の参を説き伏せた!?)

 猗窩座に提案を受け入れされた悠香の話術に、炭治郎たちは度肝を抜かれた。

 しかし、これで下弦の壱の討伐は成功し、二百人の乗客は誰も死なず、内臓こそ傷ついたが杏寿郎も生き延びた。十分な戦果と言える。

 だが、上弦の参を見逃す形となってしまった。鬼殺隊としてはかなりの痛手とも言えた。

 

 そして空は徐々に明るくなり、朝を迎えた。

 

 

           *

 

 

 産屋敷邸。

 負傷し疲弊した杏寿郎たちに代わり、悠香は一連の報告の為に緊急柱合会議に参加したのだが……。

「テメェ、どういうことだァ!? 上弦の参を見逃しただァァ!?」

「ふざけるな貴様、鬼を滅してこその鬼殺隊だぞ。新手が出ても頸を斬るのが筋だろう、死んでも殺すのが道理だ」

 大広間に風柱の怒号が響き、蛇柱が四ツ目の少年を非難する。

 それもそのはず、上弦の鬼はここ百年もの間討伐が叶わなかった強大な存在。それを易々と逃がしたとなれば、お咎めなしという訳には行かない。

 そんな二人を耀哉は宥めつつも悠香を質した。

「悠香、なぜ上弦の参を見逃したのかな? 君なら、そのまま足止めして日光で焼き殺す事もできたと思うのだけれど」

「簡単です。勝っちゃいけない戦いだったからです」

 悠香の口から出た予想外の言葉に、その場にいる全員が固まった。

 鬼に勝ってはいけない戦い。一体、どういう意味なのか。

「どういうこと、かな?」

「あそこで猗窩座さんを討ち取れば、鬼舞辻無惨が本気になります。消耗した柱に体力満タンの上弦が討ち取られれば、上弦の鬼単体では柱討伐は至難の業と考え始める。その果てに辿り着く答えは「柱一人に上弦複数」の戦略になりますよ?」

『!!』

 その言葉に、背筋と空気が凍る。

 上弦の共闘による柱の各個撃破――それこそが悠香が恐れる事態なのだ。

 もしそれが現実になれば、鬼殺隊殲滅は容易い。鬼の完全勝利となってしまう。

「そこで選ぶ選択肢は二つ。煉獄さんを犠牲にあてのない賭けに出るか、煉獄さんを生かすべく上弦の参を見逃すか。……皆さんならあの場にいた場合、どちらを選びますか? まァ、あらかじめ乗客全員を犠牲にしてでも勝てと産屋敷さんが命じていれば話は変わりますが」

「わ…私はできないわ! 柱としてやっちゃいけないかもしれないけど……見逃す方を選ぶわ!」

「上弦の参を倒す事でお前の言う()()()()()になる可能性が高まる……本当に上弦の共闘による柱の各個撃破が始まっちまったら、二度と鬼殺隊の立て直しが利かなくなる。組織の寿命が縮まる戦いは避けるべきだ」

「僕もその状況だったら、同じことを考えるかな……確実に勝てる方を選ぶべきだし」

「嗚呼……確かに鬼を見逃すのはれっきとした隊律違反……しかし勝ってはならない状況では、柱を欠けさせないこと・罪なき人々を一人として死なせないことが最優先にして最善だろう……」

 甘露寺と宇髄、時透と悲鳴嶼がそれぞれ擁護し始める。

 柱が柱を犠牲にして上弦の頸を斬るのは、同じ鬼に勝った結果だとしても、仲間を死なせることで得る勝利は決してあってはならない。それは悠香を叱責した実弥と伊黒も同じであり、反論できないでいた。

 すると悠香は、リュックの中からスマホを取り出し、起動してあるものを見せた。

「それは?」

「前に言いましたよね。スマホは写真を撮れるって。でもそれだけじゃない……映像も撮れるんですよ」

 悠香がスマホの画面をタッチすると――

《この素晴らしい剣技も失われてゆくのだ、杏寿郎! 悲しくはないのか!》

《誰もがそうだ! 人間なら!! 当然のことだ!!》

『!!?』

 スマホの画面に映ってたのは、猗窩座と杏寿郎の戦闘の映像。

 そう…悠香は上弦の参がどういう姿でどういう血鬼術(チカラ)を使う鬼なのかを、スマホの映像として記録していたのだ!

「こ、こいつァ…!!」

「俺は一度も「手ぶらで帰って来ました」とは言ってませんよ」

 言葉を失う一同に向けて悠香は悪い笑みを浮かべ、堂々と言い放つのであった。




悠香君は基本的に邪悪な存在とも高度なコミュニケーションが可能なので、性格と癖さえわかれば上弦や無惨ともいい関係を築けます。宿儺検定1級合格者を甘く見ちゃいけません。

ちなみに悠香君は新戸とかと違い、「誰も死なせないようにすればいい」ことを理由に被害拡大も厭わない姿勢なので、正直鬼よりも鬼です。
多分、遊郭とか刀鍛冶の里も、被害を抑えて修復するよりも一度更地にしてから金と時間をかけて作り直した方がいいと考えてるので……。
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